2002 SUMMER FINAL

スイカなんていらねぇよ 夏



「はぁー、もう夏も終わりですね」
「・・・」
僕、ジョージと死傷(師匠)は夕暮れの海岸にいた。
残暑とはいえまだまだ厳しい暑さだ。涼しくなるころを見計らって僕らはここにやってきたのだ。
「夕暮れも秋らしくなって」
「・・・」
このまえまでは夜が来るのがあんなに遅かったのに・・・やっぱ秋は確実に近づいてきているのだと確信する。
「ひゃにほひょんひゃひひゃひょひゃひぇしぇひひゅんひゃ?」
「『なにをそんなにたそがれているのじゃ?』って?残り短い夏を満喫してるんですよ。今年はどこにもいきませんでしたからね」
「ひゅふゅひーびょにょひぇひひゃっ!」
死傷は大きなスイカにかぶつきながら何事かいっている。
「『スクイードせいじゃっ!』ですか・・・そうですけど」
どっかのだれかさんのせいでロクに仕事ももらえず死傷と仲良く夏のバカンスを過ごすことになってしまった。死傷は毎日オーバーヒートして冷やすのが大変だった。
冷蔵庫で寝た日なんかもあったくらいだ。おかげで代わりに取り出した食材がパーになってしまった。
隣にいる死傷を横目で見る。
大きなスイカに囲まれて三日月にきったスイカを美味しそうに食べている。種を出さないでむしゃぶりついているところを見るとどうやらほっぺたの奥に器用にも溜めているらしかった。
ぼくの視線に気付いたのか死傷がふりむく。相変わらずスイカにしゃぶりついたままだ。
「スイカおいしいですか?」
僕があきれたように訊いた。すると死傷はスイカから口を離し・・・溜め込んでいた種をあろうことか僕に向かって飛ばしてきた!
「いててててててっ!!」
結構な勢いで飛ばしてきたせいか、スイカの種とはいえ痛かった。
「どうじゃ?【スイカの種砲】じゃ!」
痛がってる僕を見て死傷はすごく嬉しそうだった。そして僕の返事も待たずにまたスイカを食べ始めた。
「痛いじゃないですか!全く何やって・・・」
そういいかけてはっと止まる。・・・なんかおかしい。
さっきは横目で見ていたせいで気がつかなかったのだろうか?それとも、スイカがたくさんあったからそれと認識し間違えて・・・??
「なんじゃ常時(じょーじ)、我輩のこのダンディーさにようやく気付きおったのか?」
僕の緊張にも気付かず、死傷は全く理解できないことを言い続けている。
「やっぱ夏はスイカじゃ!この水みずしさがたまらんわい!常時、おぬしも少しは我輩を見習ってスイカ食べたらどうじゃ?カキ氷なんていつでも食べられるじゃろ」
・・・そうか、そういえば死傷はこの夏スイカしか食べてなかったんだ。去年庭に蒔いた・・・というか、吐き出したスイカの種が今年になって見事な実をつけたのだ。
最初は僕も嬉しくて、一週間ほどスイカを食べ続けてはいたものの、やはり飽きてしまい、結局今までずっと一人で、死傷は食べ続けていたのだ。
「死傷・・・頭」
まだ気付かない死傷に、僕はようやく声をしぼりだす。
「ん?我輩の頭がどうかしたのか?」
死傷はスイカの汁でべたべたになった手で自分の頭をこんこん叩いているが、異変に気付いていないらしい。
「いえ・・・なんでもないです」
僕は真実を言うのをやめた。知らぬが仏って言われるように、死傷もこの事実を知らないほうがきっと幸せなんだ。
死傷から伏せるように目を離し、浜辺を見た。
浜辺には7人くらいの家族がいる。ここでバーベキューでもするつもりなのか、火を起こしていた。
「死傷、今度メロンをひと夏食べ続けてくださいね。あ、ドリアンでも構わないですけど」
僕はメロン、ドリアンを食べ続けた場合の死傷を想像してみる。
どっちもいやだなぁ。痛そうだし。
「我輩はメロンは嫌いじゃ!ドリアンはくさいから嫌じゃ!」
そう言い切ると食べ終わったスイカの皮を投げ捨て、次のスイカに移った。
僕は融けかけたカキ氷をスプーンですくった。ちなみに僕はイチゴしか食べないし、練乳なんて物をかけるなんて持っての他だと考えている。
スプーンを口に運び、冷たさを楽しむ。カキ氷のほうが美味しいのに・・・
スプーンを口にくわえたまま師匠をチラッと見る。
青筋を浮かべてスイカにくらいついている。スイカ早食い大会なんてものがあったら間違いなく死傷の圧勝だろう。
そのまえに死傷の風体で大会に出場できるかどうかが問題だが。スイカがスイカにかぶりつくのは共食いにしか見えないし。
「ふはぁー!美味かったじゃ!・・・まだこんなにスイカが残っておるの。満足じゃ!明日もスイカと過ごすんじゃ〜」
今日の分を食べ終えた死傷が残りのスイカをぽんぽんたたきながら満足そうに言う。
「じゃあもう行きますか?」
僕が訊くや否や死傷は海辺へ走って行ってしまった。
「まーだーじゃー!!」
僕に向かって大きな声で答えるとわき目も振らず駆けていった。
死傷の食べあとを片付けようとして、死傷に注意しないといけないことを思い出した。それを伝えるべく砂遊びを始めた師匠の元に足を運ぶ。
「死傷!言い忘れてましたけど」
死傷がこっちを向く。
あーあ・・・スイカの汁でべとべとになった死傷のひげに砂がべっとりついている。しかし、本人はお構いなしのようだ。
「できるだけ人がいないところで活動してくださいね。ほら、そこの家族の近くで遊ぼうとかもってのほかですよ」
僕が言ったことに死傷は不思議そうな顔をしたが「わかったじゃ」とそう短く答えると再び砂遊びに興じ始めた。
本当にわかってるのかなぁ・・・??


死傷(師匠)を信じてさっきの場所に戻った。
そしてスイカの皮を拾い始める。スイカ一個を8等分にした皮が全部で24枚・・・夕方一人で3個食べた計算になる。
これで夜中に死傷を起こしてトイレに連れていかなければならないという仕事が一つ増えた。
「一人でよくこんなに・・・」
あきれてつぶやく。
大量の皮を抱えてくずかごに捨てたそのときだった。
「ああーー!お兄ちゃん、スイカがいるよー!」
「ほんと?あっ、ほんとだ!」
あれ、なんか子供のはしゃぐ声が聞こえたような。
「ねえねえ、スイカ割しようよ。ほら、これ棒!」
「うん。じゃあ、ぼくが・・・」
スイカ割りかぁ。僕も小さいころやったなぁ。スイカ割り・・・
スイカ割り!?
僕が振り返るその刹那、
ボグッ!
「ほぎゃああああああーーーっ!」
スイカを割るような鈍い音と、恐らく頭をかち割られた死傷の悲鳴のコラボレーションが夕焼けの海岸に響いた!!
「ああああっ!スイカが
逃げたよ!」
「追いかけよう!」
なんと、スイカに間違われた師匠は子供2人によって頭を殴られたらしい。
死傷が近づかなくてもあっちから近づいてきたのか・・・
亀裂の入った頭をかばう余裕も無いのか、死傷は砂浜を一心不乱に逃げ回る。しかしその足取りは不安定で何度も転んでしまう。
2人の子供との距離がだんだん縮まっていく。
「どうしよう!?」
僕は何か得策はないかと辺りを見回す。
そして僕の目に留まったもの・・・死傷が今日たべなかったスイカだ。
「よしっ!」
僕は一個のスイカを手に取るとぽんぽんと叩いてみた。
うん、いい音だ。きっと甘いはず。これなら死傷も・・・
そう思い、僕は甲子園のピッチャーよろしく、スイカを逃げ回る死傷に向かって投げた!
「死傷!新しい顔よ!(誰?)」
僕の投げたスイカは死傷の横顔に直撃し・・・だるま落としのごとく、ご自慢のちょんまげはそのままに、顔の部分だけ上手い具合に入れ替わった!
はじき出された死傷の顔は浜辺に転がった。
僕は上手くいった。これなら死傷も無事に逃げられると思った・・・が、大きな誤算があったのだ。
死傷は相変わらず走り続けているが・・・何故か直線上にしか走らない。しかも、視界に入るはずの流木に何度も足を取られている。
はて・・・?
しばし考える。
「あっ!しまった!」
僕はもう一個のスイカをかかえて、死傷の古い顔の元にあわててかけていった。
白いペンキを取り出し、持ってきたスイカに円をかいて塗りつぶす。そして、古い顔からクリスマス鼻眼鏡(ひげつき)をはずし、描いた白い円の中心にとりつけた。
これならもう大丈夫だ!
「しーしょーぉー!いきますよ!新しい顔第二弾!!いけー!」
今度はさっきと違ってちゃんと鼻眼鏡をつけたからちゃんと前も見えるだろう。
死傷の顔めがけて放った死傷の顔第二弾はさっきと同じように上手くヒットした。
「ぷはーっ!やっと息ができたじゃー!」
死傷は嬉しそうに言った。そして走るペースを一気に上げ、防波堤に飛び乗った。
「我輩の頭をよくもかち割ってくれたなっ!おしおきじゃ〜!」
死傷は背中の後ろにかけてある【七星剣(バンダイ製)】をひきぬく。
薄暗くなった浜辺に、点滅する剣はとても目立った。
「行くぞ!GF召喚!【スクイード】っ!
剣を勢いよく振り上げるとGF(逆輸入ファイティングスピリット)【スクイード】を召喚した。
追いついた2人の子供の前にまばゆい光の塊が出現した。
「なにこれー!?」
「うわあああっ!」
2人とも驚いて悲鳴を上げる。
光が急激に力を失い、スクイードの形を明らかにした。
「どうじゃ?GF【スクイード】はっ!」
死傷はとても得意げだった・・・が、子供たちは目を点にしている。
そしてスクイードを
棒でつつき始めた。
「なにこれ?イカ?」
「うん、そうだね。イカだ」
GF【スクイード】は僕らが唯一召喚できる逆輸入ファイティングスピリット(略してGF)で、その力は計り知れないほど小さい。
見た目も普通の大きさのイカ・・・いや、普通のイカ以下だ。
「・・・・(困惑)」
つつかれている白いナマモノスクイードは困惑した様子だ。
身をくねらせてなすがまま。
まるっきり役に立たない。
「さあ、死傷、帰りますよ」
防波堤に登った死傷をうながし、僕らは家に帰った。


何で我輩は叩かれたんじゃろう?
頭を2回も変えられながらも気付いていないようだ。
・・・もう、隠さなくてもいいか。
僕は大きめの鏡を取り出す。そして無言で死傷の前に置いた。
「みて下さい。死傷、スイカの食べすぎでこんなになっちゃったんですよ。これで海にいたら頭かち割られるのは必至ですよ」
死傷は鏡の中を自分を見たままかたまっている。
・・・やはりショックなんだろうか?
「死傷?」
「ダンディーじゃ・・・すばらしいじゃ!かっこいいじゃ!噂の迷彩色じゃあああっ!」
ダンディー??迷彩色!?
ぼくの驚きにも気付かず、死傷は鏡の前でポーズをとったりしている。
スイカを食べるのをやめさせない限り死傷が元に戻ることは無いだろう。死傷が寝ている間でも庭のスイカを全部引っこ抜かないと。
はあ、スイカのせいでとんでもない目にあった。


後日、GF【スクイード】の存在を思い出し、海岸へと向かった。
そこにいたのは干からびて【スルメ】になったGF【スクイード】だった。

ほんと、
スイカなんていらねぇよ!
                             By ジョージ

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