D.Force The First Chapter
Force-30
決意を胸に

「あー、やっぱり見てよかった!ほんとすごかったよね」
エンドレスからやってきた飛空挺ブルーフォースの離着陸を目の当たりにしたナチはまだ興奮が冷めないらしい。昨日からその話題ばかりだ。
一方の運転席でエレカーと格闘しているディクスは「そうだな」と、飽きれたように繰り返していた。
二人はディスティールへ続く道・・・いや、道があった跡といったほうが適切かもしれない。その道なき道をエレカーで疾走していた。今は無き町にわざわざ馬車などが通っているはずもない。とすれば自分達で足を見つけるほかなかった。
神殿を後にしたディクスは中心街で見つけたエレカーのレンタルをしている店で借りてきたのだった。
「早く一般にも開放されると良いのにね。そのときは乗ろうね」
「ああ、そうだな」
気のない返事をする。それでもナチは気にしていないようだった。エルダスからディスティールは南西に位置していた。出発してから約四時間。かなりの高速度で飛ばしているエレカーは、すでに半分以上の距離を移動していた。
「ちょっと休憩するか」
慣れない運転で疲れているのか、休憩を取ることにした。目が疲れたのか、ディクスはさっきから目の辺りをもんでいる。
「大丈夫?」
そんなディクスを見てナチが声をかける。やわらかい笑みを浮かべる。
「・・・ああ、大丈夫だ。死ぬときは一緒だろ?」
「やめとく」
真面目な顔ではっきり言われ脳の活動が一時停止する。
「その時は一人で逝ってね。わたしディクスの分まで生きるから」
「・・・・」
「あ、そうだそうだ!エレカーの充電しないといけないのよね。わたしがやるねー」
白くなっているディクスをよそにナチはエレカーに寄ると、トランクを開けコードを引っ張り出した。
・・・俺って一体・・・・?
まだ固まっているディクスにナチがコードを持たせた。
「・・・何だ?」
「はい、充電がんばってね!わたしあんまり電気系の扱い上手くないの。だからディクスやって」
にっこり笑ってさも当然というように言う。
俺は充電器じゃな――――― いっ!!
「・・・」
怒りの矛先をナチに向ければ黒焦げになるのは自分であるのはよくわかっている。
――――― 怒りを電気に変えてエレカーに充電する他なかった。
「っくあああああああ――――――― っっ!!俺は充電器じゃないからなぁぁぁぁ――――― !!」
説得力のないことを叫びながら術でエレカーに電気を送り込む。いまやディクスは誰から見ても立派な充電器だった。
怒りによって著しく増大した精神力がエレカーの糧となって蓄積していく。
運転席のメーターを見ていたナチがしばらくして合図を送った。
「オッケー!もういいよー!」
その言葉を聞くと同時に体から一気に気が抜ける。
「お疲れ~」
走ってきたナチがディクスからコードをもぎ取ると再びトランクの中にしまった。
その様子を目で追い、疲れたようにため息をつくとエレカーにもたれかかってそのまま地面に座った。
「はぁ・・・・疲れた・・・眠い・・・だるい・・・・」
ディクスの疲労の三定理を口にすると目を閉じた。
「寝たら後が続かないよ」
「ニャ―――― ッ!!」
突然、頬を冷たい何かが触ったのに驚き、ディクスは悲鳴を上げた。
「あれ?・・・ディクスってイヌ派じゃなかったっけ?」
目の前には缶ジュースを持ったナチがいた。冷たい何かの正体はどうやらそれらしい。
「お、お前・・・確かに俺はイヌ派だけど、叫ぶときはネコ派なのっ!覚えとけ!」
わけのわからないことをわめくとナチから缶を受け取る。
「それに叫び声がイヌの声じゃ叫びにくいだろ」
何かこだわりがあるのか憤慨しながら缶のふたを開けて言う。
・・・どうでもいいじゃない、そんなこと
心の中で突っ込んでからディクスの隣に同じように腰をかけた。
「後どれくらいで着きそう?」
「ん・・・ああ、あと三時間も走れば着くんじゃないか」
冷たいジュースをのどに流し込む。思わずリラックスして深い息をつく。
「ディスティールまでわたしが運転してあげようか!」
「まだ逝きたくないから俺がやる」
名案だというようなナチにディクスが即座に断る。
「死ぬときは一緒でしょ?」
「死にたくない」
即行で答える。ナチは面白くないと言いたげな顔をして缶ジュースをあおった。
「このままだと到着は三時くらいか。夜にはまたエルダスに戻ってこれるか・・・微妙だな」
腕時計を見ながらつぶやく。
「十一時過ぎ・・・ね。じゃあ、お昼はディープブルーで食べよう?湖は健在なんでしょう?」
ディスティールは荒野の巨大な湖、ディープブルーの西南五十Kmの位置にあった。
湖の岸にそってディスティールに行くつもりだったディクスはすぐに了解した。
「じゃあ昼飯はもう少し我慢な!」
最後の一口を飲み干すと弾みをつけて立ち上がる。ナチもつられて立ち上がる。


時はすでに三時。予定通り昼食をディープブルーで済ませた二人は快速でディスティールを目指した。
そして今ここにいる。
「何にも・・・残ってないね」
ナチの呟きが頭に響く。
――――― 予想はしていたけどな。
目の前にはだだっぴろい平原。町の跡などまるでない。
「でもほら。レンガの破片」
ナチがかがんで手に取ったのはレンガの破片だった。家の壁だったのか、塀だったのかはわからない。
・・・破壊された町は綺麗に撤去されたとは聞いていたが、まさかこんなに綺麗になってるとはな
破壊された町の瓦礫は、被害の少なかった町への再建の緊急資源となっていた。生存者のいないと思われていたディスティールはその残骸を他の町で再利用されたのだろう。
「ねえ!わたしたちの家ってどこらへんだった?」
だいぶ離れたナチがその場にたったままのディクスに叫ぶ。訊かれ、視線をめぐらす。
「えーっと・・・」
しかし全くわからなかった。検討もつかない。
「そこらへん・・・かな?」
適当のその辺りを指す。全く確信はない。
「本当に?」
「さあ・・・?」
笑ってごまかす。しかしナチはとがめなかった。
「石碑があるんでしょう?探そう!」
言われ、ようやくその場を動く。どこを歩いても同じ光景。
ナチは先頭を切って探し回っていた。
――――― ディスティールってこんなに大きな町だったんだ
まだ幼かったから確かな記憶はなかった。けれど今目の前にある小さな川。町から少し外れたところでよく遊んでいた記憶がわずかに残っている。
そして十三年前、ここで遊んでいたから助かった。ディクスと二人だけの生存者。
「ナチュラル!」
遠くから呼ぶ声が聞こえた。はっとして振り返る。
「・・・ここ、覚えてたのか?」
走ってきたディクスがナチの横に立ち、川を見下ろす。
「ん・・・まあね」
曖昧な返事をする。
「川は残ってたんだよな。被害を受けたのは住居区だけ」
「竜神は・・・・どうしてディオールの竜神は町を破壊したんだろうね。あれは・・・あのときの竜神は・・・竜神様じゃないって・・・そう信じてもいいんだよね」
つぶやくようにいう。
ナチは町を破壊されても竜神の仕業ではないと言っていた。本人にもその根拠はどこから来るのか分からないという。けれど、十三年の時を経、故郷に帰ってきてその思いは揺らいだのか。
ディクスに同意を求めるようにそう口にした。
「セルディアが精神干渉がどうとか言ってたしな。大丈夫、竜神は裏切ったりしないさ」
勇気付けるようにいう。
「行こう、石碑はあっちだ」
ナチュラルの背中を押し、石碑の場所に向かった。
――――― 竜神の力受けたものよ
              またディスティールの地に戻らんことを―――――
石碑に刻まれているその一言を口に出す。
「戻って来るわけないのにね。
 ――――― 良かった。もし町のみんなの名前が刻まれてたら、わたしのもあるんじゃないかってちょっと心配しちゃった」
苦笑して石碑をなぞる。
「お父さんも、お母さんも・・・皆この大地に眠ってるんだよね。皆一緒なんだよね」
振り向かないナチにディクスは無言でうなずく。
「ディオール大陸の竜神がやったんじゃないって・・・皆にも証明してあげないとね」
そう言って立ち上がった。
「ディクス、わたし絶対に突き止めてみせる。十三年前の真実――――― 死の行進の発端となった元凶を見つけてみせる!」
「ナチ・・・」
「大丈夫、ディクスと一緒に能力の事とフォースの事探してたらきっとぶつかると思う。その時はまたここに来よう?ディオールの竜神のせいじゃないよ・・・って」
止めても聞かないだろう。それにフォースを求める旅を続けるなら、フォースの力を行使できる能力の謎を追い求めるなら、いずれぶつかるであろう問題。
・・・どっちにしても避けられないな
「そうだな。そのときは胸を張って伝えに来ような」
「もちろんよ!」
張り切って答えた。
河原に咲いていた花を摘み、石碑に手向ける。
「また来るね、お父さん、お母さん」
そういい残してナチはディクスの元に駆け寄った。
石碑の長い影が夜の帳を予感させる。
エレカーの走り去る音と共に、再びディスティールには誰もいなくなった。



――― そうですか」
翌日、ディスティールから戻ってきた二人はディオールの神殿にいた。今度はエクセルも交えて四人で会話を交わしている。
「別に何かを求めていったわけじゃないから全然構わないんだけどな」
笑いながらいうディクス。
「もし、そのときが来たら、クロードさん、あなた方にフォースをお貸ししましょう」
「そのとき・・・?」
エクセルの言葉に訊き返す。
「ネルディアスの竜神がクロードさんの完全な状態を欲していると言っていましたね。恐らくフォースが全て集まったときにそれは起こるのでしょう。我々も調査を続けます。残りのフォースが見つかったとき、再びここへ来てください」
その言葉にうなずく。
「それでディクス、これからどうする?どう探そうか」
ナチが心配そうに訊く。痛いところを衝かれたディクスはしばし黙る。
――――― エルダスにこれ以上いても他に手がかりはなさそうだし、ディスティールはもっとなさそうだし・・・荒野にはフォースはないって言われたし・・・・
頭をフル回転させる。しかし答えは見つからない。
「守護神と一番かかわりのある国へ行ってはどうですか?」
セルディアが助け舟を出す。
「え、そんな国あるんですか?」
ナチの声にセルディアがうなずく。
「大国エンドレスです」


「エンドレス・・・・」
ディクスはかなり困惑している。
「・・・また戻る・・・?」
ナチも困ったように訊く。二人は中心街の喫茶店でうなっていた。
「でもなぁ・・・数ヶ月かけて目指してきて、滞在六日目にしてエンドレスに戻ろうなんて・・・なんか惜しくないか?このためにわざわざリスタルの家も引き払ってきたってのに」
「家を引き渡してリスタルを出たのは半年前だもんね。エンドレスから大体四ヶ月・・・またもどるの痛い出費だし」
はぁー・・・
二人とも深いため息をつく。
「スティングのやつにちゃんと突っ込んで聞いておけばよかった」
手近なところに重要な情報源がいたことを思い出し、後悔する。
「でも、王立図書館は見て回ったもんね。後は宮殿内の重要な資料だけ」
「そんなの見れるわけ無いよな」
ナチが相槌を打つ。
「なあ、ナチ。エルダスとエンドレス、どっちがいい?」
「どっちがいいって・・・そんなのエンドレスに決まってるじゃない。住み慣れた環境なんだから」
「そうだよな」
・・・このままエルダスにいても出費が重なるだけだし・・・デルタなら何か仕事見つかるだろうか。
―――― よーっし!俺、学術院に行って、マスターの称号貰ってくる!」
突然そんなことを言い出したディクスにナチが驚く。
「ええっ!?マスターの称号って・・・それめちゃくちゃ難しいんじゃないの!?」
「だからだよ。マスターの称号得るために王宮支援の学術院にいく術者には制限つきだが宮内の資料が見れるんだ。そしてマスターの称号を得れば・・・もう、うはうはだしな!」
意気込んでいう。
「そりゃあ、うはうはかもしれないけど・・・けど、時間かかるよ?三年いたって別に全然おかしいことじゃないし、それに修行を積んだ年取った人が多いじゃない。ディクスの優秀さは認めるけど、短期間の取得は無理だわ」
無理だと言い張るナチ。
「だからぴちぴちの俺が行くんだろ?ただでさえエンドレスは術者不足で術普及にいそしんでいる。術のためなら支援は惜しまないだろう。絶好のチャンスじゃないか。運がよければスティングのやつに会えるかもしれないしな」
ぴちぴちって・・・ディクス・・・・
「じゃあ、そうだとして、わたしはどうなるの?」
突っ込みたい気持ちを必死で抑え、忘れられている自分の存在を問う。
「何言ってんだ。お前もだよ、ナチ」
「うえええええっ!?」
さも当然というディクスにナチが素っ頓狂な声を上げる。周囲を気にしてあわてて口に手を当てる。
「た、確かにわたし術の研究とか好きだけどそんな部屋に閉じこもっての研究なんて嫌よ!」
まだ若いのに~!!
必死に抵抗する。
「別に部屋の中だけじゃないぞ。確か修行のための旅だって認められてるし・・・なによりエンドレスが全面バックアップだぞ。一石二鳥どころか一石三鳥じゃないか」
―――― 術の研究だけじゃない、フォースのことも何かわかるかもしれない・・・何より全面バックアップ付きなら問題ないじゃないか!
ディクスは一人納得している。
「っていうことで、決まりな」
ええ―――― っ!!でも、マスターの称号って・・・嘘でしょ~!?
勝手に燃えているディクスをよそにナチは一人で絶叫していた。もうここまで来たディクスを止める術は誰も知らないのだ。
「でも、どうやってエンドレスに帰るの?また徒歩で??」
今まで散々歩いてきてやっと着いた町をすぐに離れるのはやや不本意だった。もう歩きたくないらしい。
「んー・・・船・・・だな。ここから東にある港から一気にエンドレスまで。二週間くらい船に乗りっぱなしだろうけど、まあ、歩いて数ヶ月よりかはマシだろ?」
「船・・・かぁ・・・」
ナチはつぶやいてテーブルに突っ伏す。
その背中には哀愁が漂っていた。


それから数日経った出発の日。
「ディクスさん、ナチュラルさん。ご健闘をお祈りしています」
エルダスのターミナルまで見送りに来てくれたセルディア。
「フォースが集まったらまた会いましょう」
ディクスと握手を交わすエクセル。
「守護神の加護があらんことを・・・」
その言葉を胸に、ディクスとナチの二人は再びエンドレスへと旅立って行ったのだった。
「あ~あ・・・まだエンドレスに逆戻りかぁ・・・」
甲板でナチがだるそうにつぶやく。
「エンドレス好きだろ?そんなこと言ってるとスティングが泣くぞ」
「好きだけど・・・」
――――― マスターの称号が・・・
それが気にかかってしょうがなかった。
取れるわけないのに・・・・
一人涙ぐむ。
「マスターの称号取れたら宮内で働けるもんな。いいこと尽くしじゃないか。なのに術者は減る一方だもんな。もったいないったらないよ」
「だってリディアの技術便利だもん」
ナチが突っ込む。
「とにかく!目指すはエンドレス!取得すべきはマスターの称号!!がんばろうな、ナチ!」
――――― フォースと能力の事は・・・・?
目指すべき道をそれそうになっているディクスを危なげな目で見る。
「わかったわ・・・ここまで来たら付き合ってあげようじゃない!!負けないからね!」
残りの青春を術に費やすことを決意したナチは負けじと声を上げる。
「待ってろよ、スティング!!」
絶対目的間違ってる・・・
「お~っ」
そう思いつつもあえて付き合ってあげる兄思いの(?)ナチだった。
水平線に夕日が沈む。
しかし一人盛り上がるディクスはナチを振り回す。ナチはそんなディクスを見て困惑した表情を見せながらも着いていくことを改めて決心したのだった。
―――――― 腐ってもディクスだからね
エンドレスへと続く大海原。
フォースの、そしてディクスの完全な状態――――― 全てを握る十三年前の真実は一刻一刻とその全容を明らかにしようとしていた。