D.Force The Third Chapter
Force-19
帰途
広く、青い湖には薄い霧がかかっていた。そこに弱い朝日が射し込み、幻想的な風景を作り出している。
さえずり始めた鳥たちの歌声が耳にとても心地よい。じっとしていれば震えるほど冷え切った朝だが、ちょっと体を動かして体を温めてやれば冷たい澄んだ空気も気持ち良い。
そんなクリスタルレイクの畔を走る影があった。
「はあっはあっ」
規則正しく息を吐き、走る速度を変えぬまま、その影は町へ抜ける道へと進路を変更した。
静かなリスタルの町にはその走る足音が響く。そして、昨夜泊まった家が見えてこようかという時だった。
「あー、やっぱりディクスだー」
向こうから見慣れた人影がこちらを認めると、小走りにやってきた。声を掛けられ、ディクスは立ち止まった。
ナチもディクスと同じだ。持参してきたのか、ランニング用の服を身に纏い、首にタオルを掛けている。
「もう湖に行って来たの?」
「ああ」
息を整え、短く答える。
「ディクス、昔は朝のランニングときどきやってたもんね」
「お前も走るのか?」
「うん。まだ走りたてだからちょっと寒いけど」
そういうと両腕をさすり、苦笑した。
「じゃあ、わたし行くねー。あ、それからリーンおねえちゃんが皆支度が出来たら家に来てだって。皆揃ったら朝ごはんにするからって」
そしてナチはディクスが走ってきた道を逆に走り始めた。ディクスはタオルに手を掛け、その姿を見つめる。
その後姿が薄い霧に隠れ、見えなくなろうとしたときだ。
家に向かって走りだろうとしたディクスは、おもむろに方向を転換するとナチの後を追って走り始めた。
「うん?」
自分のすぐ後ろで人の気配を感じ、ナチは走りながらも振り返ったときだった。
「うひゃあ!」
無表情なディクスがぴったりと後をついて走っているのを見、ナチは声を上げた。こけそうになり、たたらを踏む。
「そんなに驚くことないだろ・・・」
少しスピードを上げ、ナチの横に着く。
「だ、だって、家に帰ったんじゃなかったの?」
「まだ走り足りなくてな」
驚いて訊いたナチにディクスは短く答えた。ナチのほうを見ず、進行方向を真っ直ぐ見据えている。
「ふーん・・・なんだ、老化してると思ってたんだけど」
今度はディクスがこけそうになった。ナチはそれを予想していたかのように何の反応も見せずディクスを残して走り続けた。
「だっ、誰が老化だ!」
「だって、成長期過ぎると年齢と体力の低下は比例するでしょ?」
「俺はまだそこまで年取ってねえよ!馬鹿にするな!」
ディクスは悔しそうに叫ぶと、先を行くナチを追い越そうとして・・・いきなりナチの腰をがしっとつかむとそのまま抱き上げた!
「きゃあああっ!何するのよ、変態ぃ~っ!」
「耳元で叫ぶな!うるさい!」
ディクスはナチを抱えたまま湖に通じる道を爆走する。
「やだああああ―――っっ!!」
「俺はまだ老化してねぇぇぇっ!」
二人の絶叫が湖に届くほどの距離までいよいよやってきた。ディクスは相変わらずスピードを緩めず、走っている。
なんとか降りようとナチがもがくが、ディクスががっちりとつかんで放さない。
そして湖畔にやってきたとき、ようやくディクスは停止した。ナチは慌ててディクスから離れると疲れたように四つんばいになって荒く息をついた。ディクスも同じだ、へたり込んだように地面に両手をつけ、ぜえぜえと息をしている。
「何するのよ!馬鹿兄貴!」
「誰が馬鹿だ!俺はまだ年取ってない!」
「何それ、答えになってないじゃない!いきなり人を抱きかかえて・・・」
「だーかーらー、俺はまだ人を抱えて走れるほど体力があるって言ってんだ!」
顔を真っ赤にしてディクスが講義する。しかし、そのときの体力の消耗は相当だったようで息遣いはまだ荒い。
そんなディクスをナチはジト目で見た。
「馬っ鹿じゃないの?ほんとに・・・」
「馬鹿と天才は紙一重ってな・・・」
精一杯言い返す。
ナチはため息をつくと、ひざについた土を払い、立ち上がった。
「ランニングするより疲れちゃった・・・」
一つ深呼吸する。
「腰が痛い・・・」
ディクスも負けじと立ち上がるが、自然と手が腰に行ってしまう。そんなディクスを哀れんだ目で見ているナチに気づき、ディクスは咳払いをした。
「スティングと戦った時の後遺症がな」
「わたしがちゃんと治したじゃない」
「だってお前思ったよりも重かったんだもん。昔はあんなに軽々抱き上げられたんだけど」
ぽりぽりと頭をかき、ディクスは考え込むようにそう言った。
「軽々っていつの時代の話よ。わたしだって成長したんだから重くなるのは当たり前でしょ!変わらないものなんてないんだから」
ナチは腰に手を当て、ため息をつきつつ答えた。
「まあ、そうだけど」
ディクスは地面に座り込むと、湖に向けて足を投げ出した。
「今日何時に出発するって?」
「はっきりとは聞いてないけど、夕方に迎えが来るってさ」
「ふーん・・・やっぱり一日って短いね。もーちょっといたかったなぁ」
「でも正直すること無いだろ?リスタルには術を試用できるような場所もないし。家も無い。確かにここは好きだけど、俺はデルタに帰って料理作ってるほうがいいな。レクサスもいるし」
「あ~、そうだ。リーンおねえちゃんがね、レクサスのこと話したら驚いてたよ。あのディクス君がなでなでするなんてって」
「ペットみたいなもんだからおかしくないだろ、別に。あいつのほうがでかいけど」
「まあ・・・ね」
確かにリーンにレクサスのことは話したがそれがドラゴンだとまでは告げていない。レクサスが人間だと勘違いされているディクスを見てナチは一人おかしくなった。
そんなナチをディクスは不思議そうな目で見た。
「エリオスさん大丈夫だったかなぁ。こういうところって多分初めてでしょう?体調崩してないと良いけど」
「大丈夫だろ?体弱いわけでもないし。それに昨夜はスティングと酒飲みまくって散々言い争ってたぞ~。後半戦は形勢逆転されてスティングにめちゃくちゃ怒られてしゅんとしていたのが印象的だったな」
「やっぱりお酒飲んでたんだ。しかもエリオスさんってお酒弱いんじゃなかったっけ?」
「だから酒乱気味だったんだろ?最後はスティングの術で酔いは醒めていたらしいが、気分悪かったらしくてな。それでスティングの説教に大人しかったんだと思うが」
「ディクスはジョージお兄ちゃんと何話したの?」
「オトナの話し。二人で号泣したなぁ・・・」
一体どこが大人の話しなのかは分からないが、ディクスは感慨深げにうなずいた。
そんなディクスを今度はナチが不思議そうな目で返した。
「ここしばらくお酒飲んでなかったしね。今回は見逃すわ。だけど、飲みすぎないでよね。周囲に迷惑かかっちゃうんだから」
「はいはい。分かってますよ」
あくびをしながら生返事をした。伸びをすると、勢いをつけて立ち上がる。
「そろそろ帰るか?リーンも朝飯作って待ってるんだろ?」
再びタオルを首にかけ、ディクスは再び走る体勢を整える。
「うん、そうだね。スティングたちにも伝えなきゃ」
「よっし、じゃあ帰るか!帰りは自分で走れよ」
先に走り出したディクスの背中にナチは精一杯叫んだ。
「あったり前でしょ!そのうちわたしがディクスをかかえて走ってやるんだから!」
「ナチュラル、おはよう」
リーンの家に再び戻ってきて最初に顔を合わせたのはエリオスだった。エリオスもスティングもすでにリーンの家に来ていたらしい。
「おはようございます!」
元気よく挨拶をする。そんな朝の会話が耳に届いたのか、スティングもやってきた。
「ナチ、おはようございます。――――――もしかして、ランニングしてきたんですか?」
ナチの格好をみてスティングが感心したように言う。
「うん。久々に走ってみようかなって。火照った体に湖の透き通った冷たい空気が気持ち良いんだよ。ディクスも途中で合流したんだけどね」
「じゃあ、もしかしてクロードさんが朝見当たらなかったのは一緒にランニングしてたからなのか?」
「一緒にっていうか、勝手に着いてきたんですけど、そういうことになりますね」
"勝手に着いてきた"を強調してナチは苦笑して言う。
「あの、わたし先に着替えてきますね!」
そういってナチは奥の部屋へと消えてしまった。
そして入れ替わるようにディクスが戻ってきた。
「やっぱりこっちだったか。ジョージもいないし、家に鍵かかってたからもしかしてとは思っていたけど」
「おはようございます、ディクス。一度あっちの家に戻ったんですね?実はリーンさんがジョージさんの家まで迎えに来てくれたんですよ。ディクスがすでにいなかったので待とうとも思ったんですけど、ジョージさんがディクスならわかるって」
「ナチ、帰って来ただろ?」
「ええ、ランニングしてきたと。ディクスが勝手に着いて来たって言ってましたよ」
苦笑したスティングにディクスはため息をついた。
「ったく・・・。じゃあ、俺もう一度顔洗ってくるから」
そしてディクスも奥の部屋へと消えてしまった。
「・・・・・・ナチュラルとクロードさんは仲が良いのか悪いのか・・・」
言われっぱなしのディクスを哀れむようにエリオスは思わず口にした。
「仲が良いんだよ。二人とも素直じゃないから。仲が良いほど喧嘩するって言うだろう?」
「私とお前の関係の逆のようなものか」
当たり前のように言うと、エリオスはどこかに行ってしまった。
「それって、喧嘩はしないけど、仲は悪いって事?」
エリオスの去り行く背中を見送りつつ、スティングはつぶやいた。
「昨夜あんなに喧嘩しててそれは無いだろう、エリオス・・・」
呆然と続ける。
「一番素直じゃないのはエリオスなんだろうな・・・」
相当な意地っ張りのエリオスに、スティングは深いため息をついたのだった。
大きなダンボールが積まれている。その一つ一つにはたくさんの野菜が詰め込まれていた。
それを見て目を輝かせているのはディクスだ。
「これならしばらくは困らないでしょ?」
「さすがだ、リーン!お前ならやってくれると思った!」
胸を張って自慢するリーンにディクスは一人感涙にふけっている。
「今の季節でも取れる野菜は結構あるからあるだけ詰めておいたわ。デルタの野菜が新鮮じゃないって言ってるわけじゃないけど、やっぱりうちのが一番だから」
「そうなんだよな~。デルタの野菜はたまに古いのが入ってるからな。小ぶりで高いし・・・でも、お前んちの野菜がこれだけあれば大丈夫だ!」
「喜んでもらえて光栄だわ」
「ああ、料理がたくさん出来る・・・!」
号泣しながらディクスは段ボール箱の野菜たちにすりすりしていた。
「ナチュラル、大変だとは思うけど、ディクスの面倒よろしくね」
ディクスの野菜への溺愛振りを遠い目で見ながらジョージが言う。
「――――― あんまり自信ないけど、一応頑張る」
と、ナチも、ディクスに哀れむような目を向けつつそう答えた。
「たまには手紙くれよ。今住んでいるところあるんだろう?もし、また旅が出来るような暇が出来たら遊びに行くからさ。リーンとリルと一緒に」
「うん、わかった!わたしもまたリスタルに遊びに来るね」
「遊びにじゃなくて、帰ってくるだろう?恋しくなったらいつでも帰っておいで。僕たちが歓迎するから」
優しく言うジョージにナチは嬉しそうにうなずいた。
「有難う・・・ジョージお兄ちゃん。・・・・・・ジョージお兄ちゃんみたいな人がお兄ちゃんだったら良かったんだけどなぁ~。優しくて」
「ディクスも十分優しいだろう?特にナチュラルにはね。確かに色々口うるさいかもしれないけど、それもディクスにとっては愛情の一つなんだよ。・・・・・・ナチュラルにとっては良い迷惑なんだろうけど・・・。たまには、ディクスに"大好き"とか言ってごらん。泣いて喜ぶよ」
笑ったジョージにナチも満面の笑みを浮かべ、こう答えた。
「ううん、絶対嫌」
「ははっ、そうだよね」
即答したナチにジョージは苦笑した。
エレカーのメンテナンスをしているのはフルトだ。今日も快速のためにエレカーの調子をチェックしている。
「調子はどう?」
一人作業をしているフルトにスティングが尋ねる。
「はい、大丈夫です。充電しなくても帰りは十分です」
「フルト、そのエレカーと言うのは免許が必要なのか?」
あまりエレカーに慣れないエリオスは、珍しそうに銀色の車体を眺めている。当然だが、一般家庭にエレカーなどは存在しない。今でも移動には馬を駆ることが多いエンドレスでこのエレカーは非常に稀有なのだ。
「リディア大陸では免許を取るのは厳しいらしいのですけど、私達の場合は簡単な講習だけであとは自由に乗ることが出来ます。そのためにも、操作は極力簡略化されています」
「実は僕もエレカーの・・・・・・」
話しに参加しようとしたスティングだが、自分で何かを言おうとして慌てて言いやめた。
「エレカーがなんなんだ?」
エリオスが不審そうな目で見ている。
実は僕もエレカーの免許持ってるんだ―――――― そう、口にしようとしていたのだ。
いつの間にどこで取ったのかと訊かれたらアウトである。まさか、正直にお忍びの旅で南の島のラグーンで免許とりましたなどとは口が裂けてもいえない。
「――――― え、エレカーの運転席には乗ったことあるんだ。運転はしてないけど」
苦し紛れにそう答えた。当然ながらエリオスの不審の目は強くなる。不審ついでに、話しに割ってはいるな!という眼差しも込められていたりする。
「フルト、時間は?」
「もうそろそろ出発しても良い時間でしょう。もう、出発されますか?」
スティングを無視してエリオスがフルトに訊く。フルトは時計を確認し、エリオスに出発の是非を尋ねた。
「そうだな。ブルーフォースに遅れてはデルタにも帰れない。少し早くても出発したほうがいいだろう」
「じゃあ、僕、ディクスたちに言ってくるよ」
スティングはその場を離れ、ディクスとナチの元に向かった。
「あ、スティング。フルトさん出発あとどれ位だって?」
「ええ、もう行くそうですよ。僕、それを伝えに来たんですけど」
スティングの答えにナチは少し寂しげな表情を見せた。
「そっか。時間だもんね。お迎えもあるし・・・リーンお姉ちゃん!ジョージお姉ちゃん!」
ディクスと話していた二人に声をかける。
「あのね、もう時間だから・・・」
「そっか、もういっちゃうんだ。ナチュラルちゃん、今度はもっとゆっくりしていってね。ここはあなたのうちなんだから」
「病気だけはしないようにね。あと、マスターの称号頑張って!」
二人に元気付けられ、ナチは笑顔を見せた。そして力強くうなずく。
「なんだか、二年前、二人が旅を始めた時とよく似ているわね。確かこの辺りでこうやってお別れ・・・ううん、出発を見送って」
「あの時は寂しかったなぁ。ディクス、ナチュラル。また近いうちに帰って来いよ」
「―――― ああ、わかってる」
「うん、今度は称号を貰って帰ってくるね」
四人とも楽しげに会話はするものの、その表情にはやはりどこか陰りがあった。
たった一日の帰還だったが、リスタルでの生活の懐かしさを思い出すには十分だったらしい。
「ジョージさん、リーンさん。お世話になりました」
スティングが深々と頭を下げる。
「本当にお世話になりました。もしデルタにおいでになりましたら是非、お立ち寄りください」
いつの間にかエリオスも後ろにいた。フルトも頭を下げている。
「そんな・・・私達のほうこそ久々に大勢で楽しかったです。スティングさんもエリオスさんもフルトさんも、またリスタルに来てくださいね。いつでも待っています」
丁寧すぎる対応に少々戸惑いながらもリーンは笑顔で答えた。
「それでは時間ですので・・・」
フルトが言うと、スティングとエリオスはもう一度二人に軽く会釈し、先にエレカーに戻った。
「じゃあ・・・・・・ジョージお兄ちゃん、リーンお姉ちゃん・・・」
いよいよ最後。ナチは懸命の笑顔を作る。
「また・・・帰ってくるね。――――― さようなら、お兄ちゃん」
「おい、こら」
そしてエレカーに向かおうとしたナチの手をディクスがつかんだ。
「なんだその、"さよなら、お兄ちゃん"って!」
「えっ、お兄ちゃんはここに残らないの?」
驚きの表情のナチにディクスはわめいた。その後ろでリーンとジョージが笑っている。
「俺も帰るんだよ!お前じゃエレカーも運転できんだろうが!」
「あっ、そっか!じゃあ、一緒に帰ろう!」
手をぽんっと一つ叩くと、ナチはひらめいたようにそう言った。
なあ、ナチよ・・・俺はお前のアッシーなのか・・・!?
ナチの冗談にディクスは一人真に受けていた。
「さあさあ、ディクス君!お家で待ってるレクサスさんのことも考えて、早く家に帰ってあげなさい」
立ち往生しているディクスの背中を両手で押す。
「レクサスさん?何言ってんだ、リーン。レクサスはドラゴ・・・・・」
「お兄ちゃん!早く!」
ディクスの手を引っ張ってナチが急かす。
ばたんっばたんっ
ようやく二人がエレカーに乗り込む。運転席のディクスはエンジンを掛けた。
「じゃあね!気をつけて!」
「ぼくたちのこと忘れるなよ!」
二人の声も今はエレカーのエンジン音に阻まれてよく聞こえない。
先にフルトのエレカーがスタートする。ディクスは挨拶代わりに軽く手を上げ、そしてアクセルを踏んだ。
ナチは窓を開け、後ろを振り向くと、かろうじて視界に入るジョージとリーンに懸命に腕を振った。
――――――― 二人がやがて、見えなくなってしまっても、ずっと・・・・・・
ブルーフォースは先に到着していた。エレカーのまま機体に入り、そしてエレカーから降りて間もなく、機体は上昇を始めた。時間が無いのか、発進は早かった。
ナチは慌てたようにビューフロアへ向かった。そして、リスタルが見えるガラス窓へ急ぐ。
眼下にはやはり、いつもと同じ色鮮やかな常緑樹。そして、美しい湖。
その風景を目に焼き付けるように、ナチは無機質な冷たいガラス窓に額を押し付けた。
ブルーフォースの勢いは止まらない。広大な緑の大地はやがて雲にさえぎられ、見えなくなってしまった。
わずかな雲の隙間からリスタルの湖が見えたような気がした。目を見開いて、確認しようとしたが、見えるのは雲海のみ。
たまらない寂しさがこみ上げる。それでも必死にそれを受け止めようと歯を食いしばる。
「また、帰ってくるね・・・」
ようやくそれだけを告げる。
「もっと・・・もっと成長して、リスタルに戻ってくるから―――――― 」
かすれた声のナチの肩に誰かが触れるのを感じ、顔を上げた。
「俺たちの故郷だもんな」
窓の外を眺めるディクスに、ナチは無言でうなずいた。
「セフィーロが待ってるぞ。主人がいないって、きっと寂しがってるぞ。あいつらは俺たちのデルタの家族だからな」
「うん・・・そうだね。待っててくれてるもんね!」
「行こう、スティングたちはもう、席に着いてるぞ。エリオスさんにも、もう一度礼を言わなきゃな」
ナチの背中を押して、その場を後にする。
ビューフロアから見える外は相変わらずの雲の海だった。
その海の下には、すでにリスタルからは離れ、見慣れぬ風景が広がっているが、やがてその風景は見慣れたもの変わる。
雲を破り、機体が姿を現したその場所。
ナチの、もう一つの家族が待つデルタへと―――――――