D.Force The Last Chapter
Force-2
集う力
密かに決意を固めたディクスの視界に不意に入ってきた光景があった。
「すー・・・」
寝息を立てて眠り込んでいるスティングだ。
廊下の壁にもたれ、苦しそうな態勢で寝ている。
時折うめいたり、頭が不安定に揺れたりと、悪夢にうなされているようにも見える。
「起こすのも可哀想だから、このまま放っておいてやろう」
ディクスの間違った優しさから、スティングはこのまま廊下に放置されてしまった。
ホールに下りると、ディクスは厨房に入った。
「・・・・・・無い」
冷蔵庫を開けた瞬間、ディクスは口を開いた。
「本当に何も無いな・・・」
冷蔵庫に頭を突っ込んで奥まで覗くが、使えそうな食材はまるでない。生鮮食品は買出しに行かなければならないようだ。
仕方なく、ディクスは買い物に行くことにした。
久しぶりのデルタの街はいつも通りだった。
朝早くから開いているお気に入りの店に立ち寄り、食材を買い求めていく。
「こんなもんだろ」
三つになった大きな袋を手に、早々にディクスは家路に着いた。
行き交う人を横目に、ディクスは見慣れた街を歩き・・・ふと足を止めた。
「・・・・・・」
立ち止まり、見渡す。見慣れた風景、いつもの光景。
だが、ディクスは何かを探すように周囲に目を向けている。
おかしい・・・・・・この道は・・・
あたりに注意深く目をやり、ディクスはゆっくりとした足取りで歩き始める。
誰ともすれ違わない街の光景は変わらない。歩いても歩いても変わらない。
まるで道が永遠ループしているかのように、ディクスは一向に宮殿にたどり着けない。
「はまったか・・・」
悔しそうにディクスは舌打ちした。
幻術・・・なのかは分からないが、ディクスは異変にようやく気付いた。
もちろん、これは自然に起きるものではない。ディクスを狙った、人為的なもの。
歩くのを止め、ディクスはもう一度顔をめぐらせた。時計回りに視線を移していく。
まずは古びた飲み屋、ディクスが歩いてきた街道、飲み屋の真向かいにある小さな服屋。
そして、再び正面に――――――
「!」
ディクスの前に立ちはだかるように男がいた。
・・・・・・誰?
眉をひそめているディクスをじっと見ている。
かなりの確率で、こいつが犯人・・・
そう思い、ディクスが問い詰めようとした時だった。
「昨日、私の娘が死にました」
まだ冷たい空気に白い息を吐きながらその男は短く言った。
途端、ディクスの頭の中に記憶が巡る。
「お前は・・・」
朝焼けにたたずむ人影。だが、初対面となるその顔に、ディクスはそれが誰であるのかすぐに把握した。
「エルディスト!」
ナチやスティングを襲ったガイスター国の王だ。
「あの娘なら、殺ってくれるかと思ったのですが、なかなか思い通りには行かないものです。ディオライトの力を与えたにもかかわらず、情に流されて。人間とは弱い生き物ですね」
バイオレットが死んだ事を悲しむ様子も無く、むしろ憤慨した様子でエルディストは肩をすくめた。
冷淡なエルディストにディクスは吐き気がする思いがした。無言でエルディストを睨みつける。
「ですが、私が直接手を下せば済む事です。それに・・・貴方にも会いたいと思っていました」
薄い笑みを浮かべたエルディストに、ディクスは眉をひそめた。
「貴方にネルディアスの竜神が接触したそうですね」
「何故それを・・・!?」
ネルディアスの竜神という言葉を聞き、ディクスが驚愕する。
「私の中にはディオライトが巣食っています。竜族どもが、秘密裏に行動を起こそうとも、ディオライトは全てお見通しですから。ですから、私には大体の"見当"がついているのです」
「何が見当だよ・・・!」
エルディストが何を言っているのか分からず、ディクスは苛立ったように声を荒げた。
「私がエンドレスの末裔によって腕を切り落とされる直前。私の頭の中に不思議な声が響きました」
その様子を懐かしむかのように、エルディストは虚空を見上げた。
「それが誰に声であったのか、その時の私には推し量れませんでした。けれども、私の憎悪が最高潮に達し、ディオライトに見初められた時。その声の主がわかりました」
「・・・・・・」
「ディオール大陸の竜神」
「!」
ディクスに衝撃が走る。ディオール大陸の竜神は十三年前に死んだはずだった。たとえ死んでいなかったとしても、行方の知れぬ存在だ。
それが、エルディストに語りかけたというのか。
「"我が大地を脅かす者よ、去れ"・・・その言葉は私の胸に深く刻まれました。ですが、この言葉は私が・・・ディオライトがそっくり竜神に返す番です。ディオール大陸は私が支配します」
「伝説上のディオライトが、竜神に負けた雪辱を果たすためか・・・!」
恨みたっぷりに言うディクスに、エルディストは怪訝そうな顔をする。
「加えて、エンドレスに負けた小国の恨みもか?」
「不愉快ですね、あなた。今すぐにでも殺したいところなのですが・・・」
「だったら殺せばいいだろう?すぐに返り討ちにしてやるがな!」
「いえ、それも困ります。貴方にはしてもらわねばならないことがあるのですから」
言うと、エルディストは手に平に何かを置いた。その置いた小さな物体は淡い光を放ち、宙に浮いた。
「それは・・・」
その小さな発光体にディクスは目を剥いた。
見覚えのあるそれ。緊張が走る。
「喉から手が出るほど欲しいでしょう?このフォース」
「どうしてお前が持っている!?」
「私も貴方と同じくフォースを行使できます。私はディオライトなのですから。ですが、私にはこのフォースは必要ありません。天敵の力を借りるなど言語道断ですから」
焦るディクスを楽しむかのように、エルディストは笑う。
ディクスは歯軋りをし、拳を握った。
「もし、貴方に資格があるのなら、このフォースをお渡ししましょう」
「資格?」
「私と戦ってください。フォースを行使した貴方の力を見せてください。私が認めれば、貴方にこれを"お返し"します」
朗々と告げたエルディストにディクスは鼻で笑った。
「別にいらないんだけど」
エルディストの表情がわずかにゆがむ。
「やめたんだ、フォースを追うのを。だからもう、フォースは必要ない。もし、あんたが必要なら俺が持っているフォースを渡しても良い。条件は、金輪際俺達に干渉しないことだ」
平然とディクスは言った。
「それは・・・無理でしょう」
「どうして?恨みがあるのはエンドレスだろう?俺達はエンドレスとは関係のない一般市民だ。恨み言があるならお門違いだ」
「私には、引き換えにあなたの妹を殺さねばならない程の理由があるのです」
「馬鹿な!!」
「ただ、このフォースを受け取ってくれれば、手出しはしません。簡単でしょう?」
エルディストの意図が分からず、ディクスは眉をひそめている。
「ですから、あなたがフォースを持つものにふさわしいかどうか・・・私に見せていただけないでしょうか?もし、拒めば――――――」
にやついているエルディストにディクスは歯軋りした。
「どういう"料理"がお好みですか?じっくり焼いたウェルダン?血の滴るレア?ああ、ひき肉にするのもいいですね。骨まで粉々に」
エルディストの一言一言に怒りが増す。もう縁を切るとついさっき決めたフォースに手が伸びる。
フォースは使わない、使えない!俺は、俺は――――――!!
どさっ
ディクスが持っていた買い物袋が地面に落ちる。
「くっそぉぉぉぉっ!!」
苦しそうに叫び、ディクスはフォースを手に取った。
手の中の複数の小さな硬いものに意識を集中させた。
「ナチに指一本触れさせたりはしない!!」
ディクスが所有する三つのフォースが強い光を放つ。
その様子に、エルディストは満足そうな笑みを浮かべた。
「俺の力が見たいなら、存分に見せてやるよ!!」
ディクスもいまだに試した事が無い、三つのフォースを同時に行使する。
体を駆け巡る大きすぎる力。普段感じる恐怖も無く、エルディストを討たんとするディクスの強い意志だけが全てだった。
フォースの強い力がデルタを、そしてディオール大陸を波動となって広がる。その中心で、ディクスはフォースをコントロールしようと必死だった。
―――――― ナチ、お前のカタキを取るからな・・・!
「フォースを行使できるのは本当だったのですね。見てください、貴方のフォースに、こちらのフォースも呼応しています」
嬉しそうなエルディストの手にある黒いフォース。ディクスが持っているフォースと同じように真っ白い光を放っていた。
ディクスがフォースに更なる力を込める。ディクスを襲う巨大すぎる力。
そして、変化するディクスの髪と瞳の色。白い光に染まるように、銀色の髪に変わり、意志を込めた青い瞳が真紅となった。
ディクスの変化に、エルディストは目を細めた。
「やはり・・・そうですか・・・」
一人、確信するようにうなずく。
「実に素晴らしい力ですね。ちょっと気を緩めれば、私でも消し飛んでしまいそうですよ」
「だったら・・・その通りに消し飛ばしてやるよ!!」
ディクスに宿った巨大な力を右手に集中させ、力任せに術を放つ。
ゴオッ!!
真っ白い光がエルディストに突き進む。
「素晴らしい力ですが、完全には程遠いですね」
意味ありげなセリフを吐き、エルディストは両手を突き出した。
同時に、ディクスの放った術は四散した。光の帯が周囲に散る。
「ふっ!!」
いつの間にか、生み出した銀の刃を手に、ディクスはエルディストのすぐ目の前に躍り出た。
「もう、結構ですよ」
再び満足そうな笑みを浮かべ、エルディストはディクスの剣を片手で受け止めた。
ディクスがぎりぎりと剣を押すが、エルディストは笑みを崩さない。
「確かめるまでも無かったですね。あなたは、やはり―――――― 」
「覚えておけ、俺はディクス・クロードだ!お前を・・・ディオライトを倒すっ!!」
奮い立たせるように大声でエルディストの言葉を遮る。
「ええ、その意気です」
「てめぇっ・・・!」
逆なでするような態度に、ディクスが更なる術を発動しようとしたその時だった。
「っ!!」
ディクスが急に崩れ落ちた。エルディストの足元で膝を着き、喘いだ。術で作り上げた銀の刃が一瞬にして気化する。
手に握られていた三つのフォースの全てが急速に光を失い、ただの石と化した。
「っはぁっ・・・!」
押しつぶされそうな強烈な圧迫感と、いつもの恐怖感がディクスを襲う。
チクショウ・・・!フォースを同時に行使できないってのか・・・!?
肝心な時に力を発揮できないフォース。自分自身に強い憤りを感じつつ、ディクスは苦痛に顔をゆがめた。
「・・・全てを取り戻さない限り、貴方にフォースを行使できる本当の力は戻らないでしょう」
苦しむディクスを哀れむようにエルディストは言った。
「さあ、どうぞ。貴方のフォースです」
屈み、エルディストは黒いフォースを差し出した。さらにもう二つ。合計三つのフォースが現われた。
「人間がフォースを行使できる・・・それを確認しただけで十分です」
差し出されたフォースに手を出さないディクスに言うと、エルディストはフォースを地面に置いた。
「さあ、全てを取り戻してください。そして、私と戦ってください」
「お前・・・は・・・。俺とフォースの・・・関係を知っているのか・・・?」
苦しさを堪え、見上げながらディクスは問う。
「無論。私もネルディアスの竜神と同じく、貴方が完全な状態になることを望みます。その上で貴方と戦いたいのです」
エルディストは立ち上がり、ディクスに背を向けた。
「待て・・・!話はまだ・・・」
「貴方がフォースを行使できる理由は、貴方が一番知っているはず。私が教えなくとも、まもなく貴方は全ての真実に直面する事でしょう。それが貴方にとって幸か不幸か・・・私には分かりませんがね」
振り向かず、エルディストは言うと、それを最後に姿を消した。
同時に、ディクスの周囲が一変する。
街の外れに立ち並ぶ、廃墟が広がった。
ディクスはため息をつき、横顔を地面につけた。
目を開けると、残されたフォースがディクスの目に留まった。
ぼやけたディクスの目には黒い染みのように見える。
求めていた最後のフォース。それに手を伸ばそうとして、ディクスの手が力なく地面に落ちた。
「俺が一番・・・知っているだって・・・?」
フォースを行使できる理由を?
どんなに血眼になっても探し出す事の出来なかった理由が?
「俺は・・・」
視界が急に眩む。
俺は知らない・・・何も知らない。何も――――――
地に伏したディクスは、恐怖感と脱力感に耐えかね、ついに意識を失い・・・
「こんなところでくたばってたまるかっ・・・!」
緩みかけた拳に再び力が宿る。引きずり上げるように身を起こし、息を切らせて空を仰いだ。
本当なら、今は拒否したいところだが、地面に散らばったフォースを拾い上げ、目もくれずにポケットにつっこんだ。
「あと一つ・・・」
"フォースはあるべき場所に戻る"
セルディアが、そしてグレースが言っていた言葉が不意に頭をよぎる。
"あるべき場所"とは?
場所がどこかという意味ではない。いかなる理由でそこがあるべき場所なのか・・・
セルディアもグレースも、ディクスがフォースのあるべき場所だと言っていた。それが本当なのだとしたら、何故?
単にフォースを行使できるから?
その前に何故フォースを行使できるのか。
考えれば考えるほど深みにはまっていく。
「俺は・・・・・・」
うなだれて目を閉じた。
途端、頭にフラッシュバックする光景。
赤い炎に包まれた瓦礫の山。その中にたたずむ自分は自ら命を絶とうとしていた。
手に力を集中させ、術を発動し――――――
「違うっ!!」
体を一度大きく痙攣させ、ディクスは目を見開いて顔を上げた。そして、慌てて"手の中の術"の発動をやめた。
夢の中で見たものと、現実が混同しているようだった。
「違う・・・俺じゃない・・・違う・・・!」
わずかな震えを押さえるように両腕を抱いた。
「俺はディクスだ。俺は、俺だ」
ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。立ち直りの早いディクスはすぐに顔を上げた。
「疲れた・・・」
別に術力を使い果たしたわけではない。だが、ディクスは激しい疲労に襲われていた。全身が筋肉痛を起こしているのではないかと思えるほど、体中が痛い。
「俺って繊細」
肩をもみながら臆面もなくつぶやく。首を回し、もう一度ため息をついて空を見上げた。
朝に白い光景が広がっていた。
・・・ナチは部屋にいるだろうし、スティングはまだ寝てるだろうし・・・
不意にあくびが出る。かみ締めもせず、大きく口をあけ、目の端にたまった涙をぬぐう。
少しくらい寝てもいいよな。
痛む体を大きく伸ばす。三度のため息をつくと、崩れた壁に背中を預け、ディクスは寝てしまった。
エンドレスより遥か遠いエルダスで、エクセルの心はざわついていた。
「まさか・・・」
冷静なエクセルの唇がかすかに震えている。
「そのような事が・・・?本当に――― 」
それは、全ての子竜が期待し、望んでいる事。
明け方に感じた、胸を打つような波動。物理的な衝撃ではないが、胸にずしりと来たあの感じは酷く懐かしいものだった。
不意に、ある言葉が思い出された。
"その時は近い。おぬし達子竜が一番の願い――――――― あの方の目覚めの時は時間の問題だ"
エンドレスが所有している鉱脈内部に建っていた神殿。そこに縛られていた竜の魂が遺した言葉。
"すべてを握る鍵がある。それを見つけ出し、正しき方向へ導けば全てはおぬし達の願いは成就されるだろう"
死を望んだ竜はそう言っていた。
エクセルだけが耳にしたその話は、いまだ他の子竜に明かされること無く、胸の中に閉まってあった。
「あの方が・・・」
十三年前に自らの手で失くしたものが蘇ったとでも言うのだろうか。しかし、何故今になって?いや、そんなはずは無い。蘇るはずが・・・
エクセルの中で様々な考えが右往左往する。しかし、どんなに考えても答えは見つからない。
緊張感と焦りが胸を苦しめる。
「エクセル様、やはり・・・ディクス・クロードでしょうか・・・」
ジュライが控えめに言う。
「そうだな。・・・フォースを行使し、なおかつ、あの方と同じ気を発するのは彼だけだ」
静かに、だが、重い口調でエクセルは告げた。
「こちらにもフォースがあればライアたちと連絡が取れるのですが・・・」
エルダスのエクセルたちでも強い波動を感じたのだ。ライアたちはさらに強く感じているはず。その事を報告してもらいたいが、通信手段が無い。
その事を少し気にしたようにジュライが口にする。
「何もないといいが・・・」
ジュライの言葉に感化されたのか、少し心配げにエクセルが答える。
すると、ジュライは笑いながら手を振った。
「大丈夫ですよ。セルディアとクォートはともかく、ライアが着いていますから。ライアは武竜のブレイズロンドです。心配は要りませんよ」
気分をほぐすように言うジュライだが、エクセルは表情を晴らさないまま考え込んでしまった。
子竜が拠点としている神殿を守るために、エクセルは十数年もの間エルダスに留まっていた。だが、今回ばかりは動かないわけには行かないようだ。
「ジュライ、デルタに向かおう」
嫌な悪寒がエクセルを襲う。何も起きていない事を願いつつ、エクセルはそう言った。
「ええ、いますぐに」
神妙な顔でジュライがうなずいた。
一方、フォースを奪われ、意識を失ったライアたち三人はクォートの寮にいた。
ソファとベッドでそれぞれ横たえているセルディアとクォートを見遣り、ライアは目を細めた。
「精神汚染・・・」
まだ消えぬ寒気にライアは眉をひそめた。
昨日、ディオライトを宿した人間が現われ、彼らからフォースを奪った・・・。
その時、三人は強い術力によって恐怖を与えられ、耐える事が出来なかったのだった。程なくしてライアはどうにか意識を取り戻したものの、セルディアとクォートはいまだに目覚めない。
それほど強すぎる術だった。
太陽が大分昇ってから、二人を何とかここまで運んできたライアだったが、ついさっき宮殿に戻った時は大変だった。
スティングはいなかったが、レイルの質問攻めにあったのだ。
昨夜、休憩時間から姿を消し、それ以後何の報告も無かったのだ。もしかして、ライアの身に何かあったのではないかとレイルは心配していたらしい。
「良かった。もしかして、体調を崩したのかと」
安心したようにレイルはそう言っていた。だが、ライアに起きた事態はそれ以上だった。
笑みを返しつつも、ライアの中にまだ残る恐怖感に緊張は耐えなかった。
「ご心配をおかけしました」
頭を下げ、その場を収めた。
これからどうなるか予想がつかない。ライアは眠っている二人を介抱する為にも、しばらくは公務を控える事にした。レイルには適当な理由を告げ、その許可を貰っている。機を見てスティングにもその旨を伝えなければならない。
「ふぅ・・・」
エクセルにも連絡を入れねばならない。だが、通常はフォースを使い本来の姿に戻り、竜同士の意思疎通によって連絡を行う。伝達相手が遠距離なほど術力を消耗するため、長時間は不可能だが、早く情報を伝えるには一番有効な手段だった。
だが、肝心のフォースは手元にない。
だとすれば、手紙なのだが、デルタからエルダスに届くまでに一週間は掛かる。
例の電話は竜神の神殿自体に電話が存在しないため、こちらから連絡を入れることが出来ない。
「とりあえず、手紙は書いておかないと・・・」
ペンを取り、事態を文章にしようとする。
途端、頭の中が撹乱されているかのようにぼんやりとする。対策を考えようとすると、思考がぼやけて収拾がつかない。
術を発動しようと意識を集中した時も同じだった。ひとつの事に意識を向けようとすると、頭が重くなり、それ以上進められない状態だった。
まだ目覚めてからさして時間は経っていない。放っておけば直に良くなるだろうと、ペンを置いた。
苦痛の表情で眠っている二人に目をやる。
風を司るエアロガイド、治癒を司るシルバーヒール。
竜としての戦闘能力は他よりも秀でている。だが、子竜の中では戦力は低い。
今、ここで戦えるのは武竜のブレイズロンドの自分だけ――――――
「私が戦わなければ・・・」
冷静にありたいと思う反面、煮えたぎる思いがライアを襲う。
「ディオール大陸を汚させはしない・・・!」
子竜としての思いはセルディアと同様。
口にした言葉に、底知れぬ強い怒りが秘められていた。