D.Force The Last Chapter
Force-3
疑義と疑懼(ぎく)
「どうやら、私の推測どおりね」
ウィンテルが持つ、フォースが強い光を放った。同時に感じた強い波動。
「ディオールの竜神の気質と同じだった・・・」
「時々似たような波動を感じてはいたけれど、これではっきりしたわ。ディオールの竜神の力を継ぐ者は存在している。しかも、この近くに」
レジェンの言葉にウィンテルの視線が鋭くなる。
「そして、ディオライトも」
「けれど、力が不安定すぎる。さっきの波動もすぐに消えた。力を継ぐ器だとしても、今は十分じゃない」
「継ぐべき器となった時、それが完全な状態―――――― 」
「フォースを全てそろえたところで、進展はあるのかどうか・・・」
「でも、揃える事が先決よ。何かが起きる一番の可能性なのだから」
"ディクスの完全な状態"
ネルディアスの竜神がディクスに言った言葉をウィンテルたちも知っていた。
だが、何が完全な状態なのかまでは分からない。ディクスとの接触後、ネルディアスの竜神は再び深い眠りに着き、子竜の呼びかけにも反応を示さなくなったのだ。
「本人には悪いけれど、ネルディアス大陸の事も、ディオール大陸の事も肩にかかっているのだから、我慢してもらわないと」
「人間を守る立場の俺達が、それを虐げるなんてな」
ウィンテルが自嘲気味に笑う。
「一人の犠牲で皆が助かるのよ。仕方ないわ・・・彼は選ばれたのだから」
「・・・・・・」
「行きましょう。ディオールの子竜からフォースを奪取し、一刻も早く彼の元へ」
そして、二人はディオールの子竜―――――― ライアたちのいる宮殿へ向かい始めた。
「さてと」
宮殿を目の前にし、ウィンテルはフォースを握り締めた。
「分かっているとは思うけど、威嚇だけにして。絶対に危害を加えたら駄目よ」
フォースの力を解放し、竜化しようとしているウィンテルにレジェンが注意を促す。
「大丈夫だ。ディオールの子竜をおびき寄せるには、竜になるのが手っ取り早い」
ウィンテルは意識を集中し、フォースに力を注ぎ込んだ。
その時だった。
『!!』
黒い翼が二人の視界を遮った。突然の事に驚くことしか出来なかった二人の目の前に、一人の男がいた。
数メートル先でこちらを見ているその男。
異様な空気がなにから来るのか・・・二人は嫌でも感づいた。
「ディオライト・・・!?」
二人に襲い掛かる恐怖。反撃もできずに凍り付いている。
「ディオール大陸の子竜どもでは話にならないのでね」
笑みを浮かべ、エルディストは告げた。
「お前だけの復活はなんとしても阻止する!我ら竜の命にかけて・・・!」
敵の来訪に、恐怖に耐えつつウィンテルは声を荒げた。
「子竜ごときに何が出来る?」
「例え私たちが散ろうと、竜神の力を継ぐ者がお前を貫く!」
ウィンテル、そしてレジェンの言葉にエルディストは首を振った。
「竜神の力を継ぐ?それは、違うな・・・」
眉をひそめた二人に、エルディストは静かに言った。
「お前達にとって有益な情報を与えよう。そのために私はわざわざ出向いたのだ」
ただエルディストを見ることしか出来ない二人に勝手に話を続ける。
「察しがついている事だろう。ディオール大陸の竜神の存在を」
「竜神の・・・存在・・・!?」
その言葉に二人は瞠目した。
「だが、フォースを収集するだけでは竜神は復活しない。だから、鍵を使って復活を促せ」
「鍵?」
「そして、お前達の持つフォースを鍵に渡せ。そうすれば、フォースはおのずとあるべき場所に戻る」
「何故、フォースの事を!?」
「お前達が持つフォースは最後のフォース。それが手に渡れば、全てのフォースがあるべき場所に戻るのだ」
自分達が持つフォースが最後の一つ――――――?
考え、二人に緊張が走った。
「二つのフォースを持つディオール大陸の子竜は私が始末した」
「まさか・・・!?」
「敵対する仲なのであろう?驚くことも無い」
他愛の無い事だとでも言うようなエルディストに、二人は戦慄した。ディオール大陸の子竜が始末されたとはにわかに信じられないのだ。
二人の動揺を気にする事も無く、エルディストは言葉を続ける。
「復活の鍵は―――――― 」
ディクスが目を覚ました時、太陽は高いところまで上っていた。
痛みは消えたが、だるさの感じる体をゆっくりとおこし、ため息をついた。
「あぁ・・・歳なのか・・・?」
体のだるさに思わず言ってしまう。次の瞬間、ディクスは慌てて首を振り、言葉を打ち消した。
「いや、超元気だし!」
とんとんと軽快に跳ぶ。
だが、やはり体はだるかった。
「病は気から!」
転がっていた買い物袋を拾い上げ、ディクスはようやく歩き始めた。
早足が駆け足に変わり、やがて見慣れた館に帰り着いた。服が汚れていないのを確認すると、いつもの調子で扉を開けた。
昨日からずっと部屋にいたナチは、まだ自室にいた。ようやく起きたスティングも同じだった。ナチの部屋に二人でいた。
その二人が何かを凝視している。
「光が止みましたね」
「・・・うん」
ナチは泣きはらした顔でうなずく。その表情に悲しみこそ無かったが、今度は神妙な顔つきだった。
二人とも会話少なく、それを凝視していた。
「ディクスから貰った石・・・でしたよね」
「エルディストとの戦いでこれが欠けてしまって、本体はセフィーロの怪我を治すときに砕けたんだけど・・・」
ナチの手の中にあったのは、ナチが大事にしていた青い石の欠片だった。セフィーロが見つけ出してくれたものだ。
「いつから光ってたんですか?」
「わからないの・・・。ずっと枕に顔を埋めてたから。気付いたらすごく光ってて、びっくりして」
悲しみが吹き飛ぶほど驚き、声を上げたのだろう。その声に反応したスティングが慌ててやってきたらしい。
「今までにこんな事は?」
「セフィーロを治療する時に一度だけ光ったわ。でも、どうして光ったのかはわからなくて」
不安そうに口にする。
「ナチの感情が流れ込んで反応したのでしょうか。もしかしたら、この石は感応石かもしれませよ」
「・・・でも、どうしてだろう・・・怖い」
今までに無い奇妙な感覚にナチは戸惑っていた。欠片を自分の手から離す。それをスティングが受け取る。
「大丈夫ですよ。これはナチを守ってくれるお守りじゃないですか。エルディストと戦った時だって、この石が身代わりになってくれたのかもしれませんし、セフィーロを助ける時だって力になってくれたんでしょう?」
安心させるようにスティングが微笑みかけるが、ナチはこわばった表情を崩さない。
「そうだけど、違うの。何かが起きそうな気がして・・・」
「大丈夫ですよ、はい」
言い、スティングはナチの手の平に欠片を返した。
「・・・・・・」
その石をじっと見つめるナチ。さっき、光っていたのが嘘のように、ただの石に戻っている。
・・・・・・精神が不安定になっているだけよね
ふと思いなおし、ナチがほんの少しだけ表情が緩んだ。欠片を入れていた銀のバスケットに入れようとした時だった。
「ただいまー!」
ディクスがナチの部屋の扉を開けて入ってきた。ずかずかと入り込み元気に声を張り上げる。
「おっ、ナチ、元気か?スティングー、お前やっと起きたのか」
笑いながら二人の方に歩み寄る。そんなディクスを驚いた表情で見ているナチとスティング。
「んー、どうした?そんなに驚いた顔して。俺がかっこいいのは今さらじゃないだろ?」
わけの分からない事を言うディクスを、相変わらず二人は凝視している。
「・・・ん?」
二人の様子にさすがのディクスも首をかしげた。ナチとスティングは一度顔を見合わせると、もう一度ディクスに目を向けた。
「ディクス」
「どうした?」
かすれた声のナチに、ディクスは顔を近づけた。ナチの顔を見て笑いかける。
「顔色は大分よくなったようだな。食材買って来たから、今からうまいもん作ってや・・・」
ナチがディクスの髪に触れた。そして、その指先をすべらせ、ディクスの頬に当てた。
「ナチ?」
「ディクスッ!!」
ぐいっと、ナチは指に力をいれ、ディクスの下まぶたを引っ張った。
「いたたたたたっ!!!」
悲鳴を上げるディクスにお構いなしに、ナチはディクスの目を無理やりこじ開けて覗き込んだ。
「目が!!髪が!!」
悲鳴に近い声でナチが叫ぶ。
「ディクス、どうしたんですか・・・!?」
スティングも触発されたように声を上げた。ナチと同じようにディクスの顔を覗きこむ。
「な、なんだよ・・・」
「髪が真っ白に・・・目が赤い!」
言うナチに、ディクスに緊張が走った。目を見開いて、固まった。
ディクスの目の前には眉をひそめたナチとスティング。瞬きも少なく、ディクスを見ている。
―――――― 嘘だろ・・・?
ディクスは恐る恐る首を回した。壁に掛けてある大きな鏡。
そこに写る、銀色の髪で緋色の瞳の自分・・・。
冷水を浴びせられたように体が縮み上がるのが分かる。
「ディクス」
心配そうに声を掛けるナチ。だが、その表情は強張っている。
「俺・・・・・・」
震える声でディクスはもう一度二人に目を向けた。
「白い・・・ううん、違う。銀色の・・・赤い・・・」
立ち上がるナチ。ただそれだけに、ディクスは必要以上に驚き、体をびくつかせる。
ナチは無表情でディクスの髪に触れた。
その瞬間だった。
『!』
ディクスとナチの目が同時に見開かれる。
部屋の様子が急変する。赤い炎に包まれた瓦礫の山。黒い煙が立ち上り、空を焦がす惨状。
だが、周囲の様子に目もくれず、ディクスとナチは見詰め合う。
ディクスの目の前には金髪の幼い少女が。
そして、ナチの目の前には銀髪の青年が。
それぞれに、そう見えていた。眠っていた記憶の一部がディクスとナチを襲い、二人に混乱を招く。
二人に何がおきているのか分からないスティングは、ただ心配そうに様子を窺っている。スティングからすれば、二人は見詰め合ったまま固まっているようにしか見えない。
「ディクス、ナチ!!」
スティングの言葉に呼び戻されるように、二人は我に帰る。
「ディクス・・・?」
「俺は―――――― 」
この姿をナチに見せるわけに行かないと思っていた。心配を掛けたくないし、こんな姿を見られるなんて・・・
それに。
「わたし、知ってる。この、銀色の髪と、赤い瞳。ずっと、ずっと昔から」
その言葉がディクスを縮み上がらせる。
「スティングと・・・勘違いしてるんだろ?」
「違う。絶対に知ってる。・・・思い出せないけど、絶対に」
確信したナチは無表情でディクスを見つめている。その様子に耐えかねたディクスはナチの手を思い切り払った。
「違う・・・俺じゃない・・・俺は」
一歩後ずさる。
「俺は・・・違う!そうじゃない!!」
叫び、ディクスはナチの部屋から走り出た。
ディクスを引きとめようとして伸ばしたナチの手が虚空をつかむ。
「ディクス!」
ナチとスティングは急いで後を追うが、ディクスは館から出て行ってしまった。
玄関外まで追いかけるが、ディクスの姿は既に無かった。
二人でまぶしそうに太陽を見上げる。目がくらみ、ナチの白くなった視界にディクスの姿が浮かぶ。
初めて見るはずの、目と髪色の変わったディクス。だが、ナチの中に生まれた既視感。それも、確信的なもの。
「どうしてだろう、どうしてわたしは知ってるの?」
自問は答えなく、ナチの胸にずしりと重みを残した。
「ディクス、帰ってこないね」
「大丈夫ですよ。美味しい夕飯を作るために帰ってきますよ」
薄い毛布に包まり、身を縮めるようにして応接間のソファに座るナチにスティングは明るく答えた。
「寒いですか?」
「ううん。寒くないわ。でも、なんとなく。こうしてると落ち着くから」
膝を折り、膝に乗せた腕にあごを乗せ、テーブルの上をぼんやりと眺める。
―――――― ディクスは何処かに行ってしまったし、バイオレットさんの事もあるし・・・大丈夫かな・・・
心配事はあるが、ストレートに訊く事も出来ず、少しやきもきした様子でスティングはナチを見ていた。
すっかり泣き止んだナチだったが、何処か遠くを見つめる視線で口数も少ない。
「もう、夕方ですね」
強すぎる夕日の光を遮断するように、スティングはカーテンを閉めた。
「スティング」
「なんでしょう?」
話しかけられ、振り返る。
「スティングの銀色の髪と、赤い瞳は竜神に通じるものなんだよね」
「ええ、そうですけど」
どうしてそんな事を訊くのかと、少し疑問に思いながらも答える。
「それで、ディクスはフォースを行使できるんだよね」
「え・・・?」
繋がらない二言目に、スティングは首をかしげた。
「フォース。十三年前に砕けて結晶化した竜神の力。人間には扱えないはずの」
「ナチ?」
ナチは何処か視線を宙に漂わせ、つぶやくように話す。
「さらに言うと、竜神様はディスティールで姿を消したんだよね?わたしたちが住んでいたところ。わたしとディクスだけが生存できた町」
「・・・・・・!」
ナチが何を言おうとしているのか・・・スティングは予想した自分の考えを打ち消した。
「ネルディアスの竜神がディクスに助けを求めるのもおかしいよね。だって、竜神だよ?人間に助けを求めるなんておかしいと思わない?」
「・・・」
考えを否定するスティングとは逆に、ナチはさらに紐付けし、結果を導き出すかのように言葉を並べ立てる。
「ディクスは―――――― 」
言いかけたナチの口が閉じる。そして、笑んだ。
「でも、ディクスはディクスだよね」
椅子から立ち上がり、閉めたカーテンを開ける。
「わたしのお兄ちゃんだし。髪の色とか変わったって、ディクスはディクスに変わりないわけだし」
振り返り、スティングに向き直る。
「だよね?」
同意を求めるナチに、スティングはうなずいた。
「ええ、ディクスはディクスです。料理好きで、掃除好きで・・・どこにもいない、立派な主夫ですよ」
言うと、ナチは嬉しそうに笑った。
「有り難う。その言葉が聞きたかったの」
そう、ナチは返した。
長い時間同じ体勢で過ごしていたナチだ。転びそうな不安定さが危なっかしい。
「ここでディクスを待ってたら夜になっちゃうよ。わたしは大丈夫だから、スティングは帰っていいよ。大変でしょ?」
毛布をたたみながら言うナチにスティングは首を振った。
「僕は好きでここにいますから。気にしないでください」
「でも、わたし、ディクスみたいに美味しい料理作れないよ?」
「僕は美味しい料理だけの為にここにいるんじゃないですよ」
本気で心配しているナチに笑う。
「今夜は僕が作りますよ。厨房に立つのは久しぶりですけど、腕は落ちてないはずですから」
「そんな。いくらなんでも悪いわ」
「いいですってば。ここに座っててください」
立ち上がり、厨房に行こうとするスティングを制止しようとしたナチを押さえ、応接間から出て行ってしまった。
「別に・・・ここにいなくてもいいのに」
ぽつりと本音を言ってしまう。
ものすごく冷たいことを言った自分に気付き、ナチは首を振った。
「違うでしょ。何言ってるのよ、わたし。スティングはわたしを心配してくれてるのに」
でも、今ここにいて欲しいのはスティングではない。
いて欲しくない時はすぐそばにいるのに、肝心な時にはどこかに行ってしまう兄の姿が思い浮かぶ。
「どこに行ったんだろう・・・」
結局、スティングは夜を越してから宮殿へと帰っていった。
ナチの気分をほぐそうとしたのだろう。様々な話題を投げかけては、ナチの機嫌を取ろうと必死だった。
分かっていたのに、ナチは今までに無い冷たい態度でスティングに接していた。
それを今、激しく後悔している。
「馬鹿じゃないの?わたし――― 」
いろんなことがあって鬱な気分になっていたのは確かだ。だが、それをスティングに八つ当たりするなど最悪の行為だ。それでもスティングはナチをとがめず、最後まで心配をして帰った。
「謝りに行こう。わたしは元気だって、スティングに伝えなきゃ」
本当は大丈夫ではないような気もしたが、立ち直りが早い事は自分の徳である事を思い出し、半ば強引に押し付けた。
元気を取り戻すように、腕を大きく振って宮殿を目指す。
澄み切った空の下、そろそろ宮殿が見えてきた頃だった。
「・・・ん・・・?」
思わず立ち止まる。向こうからやってくる人影。それは一度だけ見たことのある顔だった。
―――――― 確か、ウィンテルさんにナンパされてた・・・
ウィンテルが女に声をかけ、二人でどこかに行ってしまったあのシーンを思い出す。ウィンテルの餌食になってしまったと、妙な印象を残していたのだが。
「こんにちは」
思いかけず、女――― レジェンはナチに声を掛けた。
ナチの距離を置いて立ち止まり、優しい笑みを投げかけた。
「こんにちは」
驚き、声のトーンを高めに返した。
「ナチュラルさんですよね」
いきなり名前を言い当てられ、ナチは目を見開いた。何故、名前を知っているのかと、いぶかしげにレジェンを見つめる。
「セルディアさんからお伺いしたのです。貴方がナチュラル・クロードである事を」
「そ、そうだったんですね」
ほっとしたように表情を緩めた。
「そして、"あの"ディクス・クロードの妹である事も」
「・・・そうですか」
竜神の神殿の神官だからと、ディクスはセルディアに自分の苦い秘密を打ち明けた。それを他人に話したのだろうかと、セルディアに対する疑惑が生まれる。
「安心してください。私とセルディアさんは"同種族"ですから。機密情報を悪用したり、他人に話したりなどは決してしません」
不審がっているナチを安心させるように、レジェンは声を和らげて言う。
「同種族・・・?」
だが、ナチの表情は晴れない。目の前の女が何が言いたいのかが分からず、警戒を崩さない。
「私はレジェンです」
名を告げ、一歩歩み寄る。
「そして――――――、ネルディアス大陸を守護する子竜の一人です」
ナチに軽い衝撃が走る。
まさか、本当なはずが無い。それに、目の前の女はどう見たって竜ではない。嘘だと確信し、ナチは苦笑した。
「冗談はやめて下さいよ。子竜だなんて・・・あなたは立派な人間じゃないですか。セルディアさんだって人間ですよ」
言うナチに、レジェンは相互を崩さない。むしろ、ナチの反応を予想していたかのようにうなずいた。
「少し前、金色の竜を介抱しましたよね?あれは私の同胞なのです。彼は、金髪の少女と、幼体のエアロガイドに助けられたと言っていました。彼は貴方に金色の小さな球体を渡しませんでしたか?」
あのときの状況を知っているのはほんのわずか。セフィーロもその場にいたことを話したのは、ディクスとスティングくらいだ。それなのに、レジェンは知っている。
しかも、同胞とは――――――
"それは契約の石だよ。それを渡した者は、きっと君を守ってくれるだろう。そういう意味合いを持つ石だ"
不意にその言葉が蘇る。
"俺たちの風習だから、もしやと思って"
初めて会った時、彼はそう言っていた。ナチが首にかけていた金の球体を見て、知ったような口を利いていた。
「その竜の名前をウィンテルと言います」
ナチが考えを集結させようとしたタイミングで、レジェンが名前を明かす。
「で、でも・・・」
はっきりと否定する事が出来ず、口ごもる。相手はどう見たって人間だ。だから、子竜であるはずが無いと断定できるはずなのに、ナチはそれが出来ないでいた。
ぞくりとした嫌な感じが体を巡る。
―――――― ど、どうして・・・?どうして、子竜が・・・わたしに?
「貴方にやって頂きたいことがあるからです」
ナチの思考を読み取るように、レジェンは言う。
「十三年前、ディオール大陸の竜神は大陸を破壊しました。そして、彼が使役する子竜によって破壊は食い止められた」
「それで竜神は死んだんじゃ・・・」
レジェンはゆっくりと首を振って否定した。
「その竜神が今、大陸のために必要とされています」
「どうして・・・?」
「ディオライトの復活・・・。これを阻止するために、竜神の力が必要なのです」
ディオライト?ディオライトは伝説の鳥のはず。それが何故現世に?竜神の力が必要って?
分からないことばかりのナチの頭の中に、さらに分からない事が押し込まれ、混乱を招く。
「竜神の力を引き出すために、"鍵"無しでは完全な復活は期待できません。そこで、ナチュラルさん。貴方の力が必要なのです」
じりっと、レジェンの足が少し近づく。
「最近妙な夢を見ませんでしたか?特に、幼少期の夢を・・・」
言われ、ナチはすぐに思い当たった。
「それに、あなたの周囲で何か不思議なことは起きませんでしたか?」
不思議な事と、一まとめに言われても分からない。・・・と、言いたいところだが、青い石の件と良い、不思議だらけだ。
「どうです?」
「知らないわ!」
激しく言う。
「鍵も、何もかも知らない!」
「何も知らないのが当然なのです。あなたは偽りの中で生きてきたのですから」
一体この女は何を言っているのか。
勝手な事を言い続けるレジェンに、怒りがふつふつと湧き上がる。
「貴方は唯一の"復活の鍵"なのです。"彼"を導いてください」
「知らない!わたしにそんな力は無い!」
叫び、ナチはレジェンを通り越して走り去った。
「でも、あなたが拒んでも、私たちは―――――― 」
哀れみを込めた視線で、去っていくナチの背中を見つめた。