D.Force The Last Chapter
Force-9
大切な人
「おい、スティング。この書類だが・・・」
書類を手に持ち、エリオスがナチとスティングがいる部屋に入ってきた。
「お前の承認が必要のようだ。ここにサインを―――――― 」
スティングの目の前に書類を置きながら、何気なくナチに目をやった。
「!?」
エリオスは目を見開いた。
「ああ、エリオス」
ようやくエリオスの存在に気付いたのか、スティングは少し驚いたように返した。
「書類がどうかし・・・」
エリオスはナチに釘付けになっている。スティングは、そんなエリオスとナチを見比べた。
そして、
「ああ、よく分からないけど。涙が止まらないんだって」
涙が止まらないナチの代弁をする。
「お前、まさか何かやったのか!?」
「だーかーらー、ナチ本人も分からないんだってば。僕だって驚いたよ。突然涙を流したから」
ナチはというと、目をこすったり、頬に流れる涙をぬぐったりと、かなり忙しそうだ。
悲しい・・・という表情は見受けられないが。
「ナチュラル、大丈夫なのか?」
エリオスが心配そうに訊くと、ナチは黙ってうなずいた。
「で、エリオス、この書類がなんだって?」
差し出された書類に軽く目を通し、スティングが話を戻す。
「ん?あ、ああ・・・、この書類にサインが必要なんだ」
指を差してスティングに説明するが、ナチの事が気になるらしい。ナチの様子を窺っている。
「ん?ああ、ここだね・・・」
エリオスが指している場所にサインをする。
「オーケー、出来たよ」
「ん、ありが・・・、!!」
スティングがサインした場所を見て、エリオスの形相が変わった。
「馬鹿っ!!誰がここにサインをしろといった!!お前のサインする場所はここだ!」
かなり慌てた様子でエリオスが捲し立てる。
「は?だって、エリオスここを指差してたじゃないか!」
「ちゃんと見れば分かるだろう!?そこは私がサインをする場所だ!」
「ちゃんと見ればって・・・エリオスがよそ見して違う場所を指すのが悪いんじゃないか?」
「はぁ・・・またこの書面を書かないといけないのか・・・」
心底落胆したようにエリオスは肩を落とした。
「残念だったね」
「誰のおかげだと思ってるんだ・・・!」
怒りを抑えるエリオスに、スティングは涼しい顔だ。
「さて、僕も次の仕事に移ろうかな」
右手を巻いている包帯をはずし、また巻き直しながらスティングは立ち上がった。
「スティングお兄ちゃん」
こすったせいで、赤くなった目を向けながら、ナチが不思議そうな顔をしている。
「どうかしました?」
「右手・・・どうして包帯巻いてるの?」
包帯に巻かれているスティングの右手を指差した。
「ああ、これは・・・。ちょっと怪我をしてしまって」
「術で治さないの?」
「ええ。本当は、治してもらったんですけど」
ナチによって傷ついた右手は、ナチの術によって治された。ところが、思っていた以上に傷は深く、スティングは術で完治させないまま、包帯を巻いていたのだった。
「じゃあ、その人がちゃんと治せなかったんだ?」
その治せなかった人物というのが、ナチ本人だったりするのだが、記憶が退行している状態でそんな事が分かるはずも無い。
「そう言う訳じゃないんですけど。でも、彼女のおかげで僕は気付く事が出来たんです。その感覚を忘れないために、こうして傷を治さないでいるんですけどね」
「ふーん。わたしなら、痛くてすぐに治して貰うんだけどなぁ」
「本当はそうした方が良いんでしょうけどね。これは特別です」
だが、ナチはあまり納得が行かないという表情を崩さない。
スティングの右手をじっと見ている。
「大丈夫。すぐに治りますから」
「うん・・・」
何処か不満そうなナチ。
ところが、その表情が突然変わった。
「そうだ!」
ナチはポケットの中を探ると、何かを取り出した。
「何かあるんですか?」
すると、ナチはにんまりと笑った。
「これ、貸してあげる!」
手の甲を上にしたまま、ナチはスティングの手の平にそれを乗せた。
スティングはそれを受け取ると、手の平を見つめた。
その乗せたものを見て、スティングは息を飲んだ。
「ナチ、この石は・・・・・・」
「いつの間にか持ってたの。綺麗だから大事に取ってたんだけど」
煌く石に、スティングは動揺を隠せなかった。
間違いない、この石は――――――
「フォース・・・」
スティングがわずかに漏らした言葉を、エリオスは聞き逃さなかった。
「何だって?」
「フォースだ。しかも、これは・・・」
ディクスたち三人で、危険モンスターを駆除に行ったときだ。ゴールドドラゴンらしき竜に、フォースを奪われたのだ。
そのフォースと酷似・・・いや、その物がナチの手にある。
「戻ってきたんだ・・・」
「フォースがあるべき場所に戻るという事か」
エリオスの言葉にうなずいた。
「でも、あの時確かに失くした物なのに、どうしてナチが」
もう一度このフォースの出所を聞きたいところだが、こちらを見ているナチの視線は無垢そのもの。
最初に言ったとおり、何も分からないだろう。
「昨日の夜ね、これを握ったまま寝たんだけど、とても落ち着くの。なんだか温かい感じがして」
驚いているスティングたちが面白いのか、ナチは満面の笑みだ。
「だから、これ、貸してあげる!」
「フォースを"感じ取る"事が出来るんですか?」
驚いたようにスティングが訊く。
「よく分からないけど、なんとなくそう感じるの」
「・・・幼いナチだけが感じ取れる何かがフォースにあると言う事か」
「うん。ナチが幼児退行した理由と何か関わりがあるのかもしれないし」
フォースを目の前にし、なにやら真剣に話し合っている二人に、ナチは何処か得意げだ。
「ナチ」
スティングはナチの手を取った。
「これはナチに返します」
「?どうして?」
再び手に戻ってきたフォースに、ナチは首を傾げた。
「それは、ナチにとってとても大事なものだからです」
「大事なもの?」
「ナチは、その石を大切な人に渡さなければなりません。ですから、これはナチが持っている必要があるんです」
「大切な人って・・・?お母さん?」
「いえ、きっとそれ以上に。そして、その人も、ナチがこの石を渡してくれるのをきっと待っていますよ」
「本当に?」
問われ、スティングはうなずいた。
「その人にはいつ会える?」
「きっと、すぐに」
ナチは一度フォースをじっと見つめ、そして、スティングに視線を戻した。
「わたし、その人を探しに行きたい」
まっすぐな瞳。一瞬、ナチが正気に戻ったのではないかと思えるほど、凛とした顔つき。
「ナチならそう言うと思ってました。一緒に探しに行きましょう、その人を」
「有り難う!」
笑みを湛え、ナチは嬉しそうにそう言ったのだった。
「ライア、君はいつこっちに戻ってくるんだ?」
「こっちに・・・って?」
緑あふれる庭園を歩きながら、ジュライが問う。
「だから、俺たち子竜の所にだよ」
すると、ライアは不思議そうな顔をした。
「・・・意味がよくわからないんだけど」
「だから、今はスティング様に仕えているだろう?それをやめて、本当にこっちに戻ってくるのはいつなんだろうって思ったんだよ」
「それは・・・!」
ジュライが言ったことは、以前、セルディアも言っていた事だった。
それをジュライに言われ、ライアは動揺していた。
「今がその時じゃないかとそう思うんだ。・・・ライア?」
ライアが急に立ち止まり、ジュライが振り返った。ライアはうつむき、無言を保っている。
「・・・・・・君の気持ちもよくわかる。だが、君自身が一番分かっているだろう?」
「・・・」
「今は非常事態だ。あの方が生存している可能性も強くなってきた。そして、ディオライトの事も。エクセル様も、君がこっちに戻ってくる事を望んでらっしゃる」
「・・・ってる」
「え?」
「わかってるわ、痛いほど。だから、私は――――――」
ライアは顔を上げ、歩き始めた。
「私は子竜としての役目を果たす。子竜として、この命を真っ当するわ」
ジュライは、目の前を通り過ぎるライアを目で追う。そして、ジュライもまた、歩き始める。
「すまない。君が苦しんでいる事はわかっている・・・。だけど、君の力が必要だ。竜族の中で最高位の攻撃を誇る力が」
「・・・有難う、私の力を必要としてくれて」
「それと、ライア。もう一つ頼みがあるんだけど」
「何かしら?」
気を害しているのか、ややツンとした口調でライアが返す。
「今度、少し攻撃術について教えて欲しいんだけど」
「ええっ?」
しかし、ジュライの言葉に驚いた表情を見せた。
「グランドアビスのあなたに?私が?」
グランドアビスは攻撃、守備のバランスの取れた種。しかし今まで、一度たりとも攻撃術を自ら学ぼうとしなかったジュライに、ライアはあんぐり口を開けている。
さらに、グランドアビスは水、ブレイズロンドは火を扱った術を得意とする。
ジュライがライアに教授を求めているという事は、グランドアビスが大の苦手な火の術を教えてくれと言っているようなものだ。
「そう・・・だけど。何か?」
今度はジュライが不満そうに言った。
「・・・珍しい事もあると思って・・・」
驚き冷めやらぬライアを見て、ジュライはため息をついた。
「いつまでも守られてばかりじゃいられないし。・・・たまには俺にもライアを守らせてくれ」
「私なら大丈夫よ。武竜だもの」
と、即座に頼もしい言葉を返してくれた。
いや、そうじゃなくて・・・
自信満々のライアに、ジュライは再びため息をついた。
どうして俺の気持ちを不意にするかなぁ・・・?
「ジュライ?」
「いや、別に・・・。ライアがそう言うなら、俺は後ろで援護するよ。怪我したら飛んできてくれ」
思いが届かないと、ジュライは諦めたように言った。
「有り難う、頼もしいわ」
ライアの笑顔が胸に痛い。
やきもきした気持ちを抱えつつ、さらに歩みを進める。
その時だった。
「ライア、あれは・・・」
「・・・クロードさんの妹ね」
二人の目の前に、ナチとスティングの二人が現われた。
髪が銀色で、目が真っ赤になっていることを気にも留めず、ディクスは歩いていた。
別に目的があるわけではない。
ただ、ぼんやりとした表情で歩き続けていた。
過去を見せられてから、あまり時間は経っていない。
「俺が?・・・だって?俺は今まで普通に生きてきたんだぞ。ナチだっているし」
ぶつぶつと何事かつぶやきながら、危なっかしい足取りで歩いている。
ディクスに周囲の光景は目に入らない。
だが、ディクスを認識した者はいた。
「・・・あれは・・・ディクス?」
ナチと、"大切な人"を探しに来ていたスティングの目が見開かれる。
やはり、髪の色はいつもと違うが、あの背格好と良い、見間違えるはずが無い。
一方、ナチは、目の前にいるディクスに気付いたのか、立ち止まり、ディクスをじっと見ている。
・・・ディクスを見て、ナチは正気を取り戻さないだろうか?
スティングから声を掛けることをせず、ナチの様子を窺う。
ディクスとの距離も大分縮まり、すぐそこにディクスがやってきた時だった。
「竜神様!」
ナチはそう叫んだ。スティングから離れると、走ってディクスのところに向かう。
ディクスはまだ気付いていない。顔を地面に向けたまま、ゆっくりと歩いている。
「!?」
と、突然体にぶつかってきた何かに、ディクスはたたらを踏んだ。
うつむくディクスの目に入ったのは、金髪の頭。
「良かった、やっと会えた!竜神様!」
そして、興奮したようにディクスを見上げた。
「ナ・・・チ!?」
驚くディクスの目の前で、ナチは嬉しそうに笑いかけている。
「ずっと探していたんだよ?会いたかった!」
ナチはディクスに抱きついて喜んでいる。その様子をディクスはただ驚いて見ているだけだ。
ナチが突然現われたからではない。ナチが口にしていた言葉。
「ナチ?」
かすれた声に、ナチは顔を上げた。
「そうだよ。竜神様、わたしの事忘れちゃったの?」
硬直しているディクスにナチは不安げに問い掛ける。
「俺が・・・竜神?」
「そうだよ。だってそう言ってたもん。わたし、竜神様と一緒にいたかったのに、竜神様どこかに行っちゃうんだもの」
少しふてた表情で返した。
「スティング、これは一体どういうことなんだ?」
ゆっくりと歩み寄ってきたスティングに、驚愕の表情でディクスは問う。
だが、驚いているのはスティングの方だ。
ナチはディクスに向かって確かに"竜神"と・・・
「ナチ、その人は・・・?」
恐る恐る問うスティングに、ナチはうなずいた。
「竜神様よ!これからずっと一緒にいてくれるんだよね?」
「俺は・・・」
ディクスが一歩後ずさり、ナチの手から離れた。
「竜神様?」
「違う、俺は・・・ディクスだ」
「違うよ、竜神様だよ」
「違う、ディクスだ!」
「竜神様だよ!」
「俺は竜神なんかじゃない!ディクスだ!ディクス・クロードだ!!!」
叫ぶディクスに、ナチは口をつぐんだ。
「どうしたんだ、ナチ?俺はお前の兄貴だろ?何が竜神なんだ」
非難するように声を上げるディクス。すると、ナチは沈んだように顔をうつむかせた。
「また?」
「ん?」
「また、逃げるの?」
先ほどとは違う、落ち着いた重い声。
「え・・・」
「そうやって逃げるの?わたしを置いた時と同じように、現実から逃げるの?」
顔を上げ、ディクスに詰め寄る。
「俺は・・・逃げてないだろう?」
「逃げたじゃない!わたしは、"ディクス"を必要としていたのに・・・逃げたじゃない」
『!』
ナチの言葉に、ディクスが、そして、態度にスティングが反応した。
「わたしは・・・ずっと探してた。探してたのに・・・」
あふれる涙をぬぐい、ナチはさらに続けた。
「ナチ、戻ったんですか?」
「嫌でも戻ったわよ!ディクスのせいで!!」
腫れ物に触るような態度のスティングに、ナチは怒ったように答えた。
そんなナチの様子に、ディクスもスティングもわけがわからない。
「戻ったって・・・?」
何がなんだか分からないディクスはスティングに問いかける。
「ディクス、ナチは・・・」
「今はいいの、そんな事!」
スティングの言葉を退ける。
「わたし今、すっごい頭にきてるの。無責任な馬鹿兄貴に!」
「馬鹿って・・・」
「ちゃんと真実を見て!いつまでもうじうじしてるなんてディクスじゃない!」
「・・・そうだよ、俺はディクスじゃない」
自嘲気味にぽつりとつぶやいたディクス。
パァンッ
ディクスは目を見開き、叩かれた頬に手を当てた。
「ディクスがディクスじゃない?じゃあ、ディクスは一体何なのよ。こうやって悩んで、苦しんで・・・その感覚もディクスのものじゃないわけ?わたしの目の前にいるディクスは虚像なの?」
「・・・・・・」
「ディクスはディクスなのに、どうしてディクスがディクスを否定するの?ディクスは確かにそこに存在して、こうやって話して・・・それは今までと何も変わらないでしょう?」
ナチの勢いが急にやみ、暗い表情を見せた。
「ディクスがディクスじゃないって言うなら・・・わたしもわたしじゃないわ。ディクスと同じ、作られた記憶が埋め込まれているのよ。昔存在したわたしはもういない・・・」
胸に手をあて、表情を暗くする。
作られた記憶・・・?
ディクスの頭の中に、あの光景が投影される。
眠らせたナチの記憶を操作し、そして――――――
「違う!ナチはナチだ!それ以外の何者でもない!」
ディクスは叫んだ。
その言葉を否定せず、だが、受け入れもせず、ナチはあるものを差し出した。
「これ」
「何?」
ナチが差し出したものを受け取る。ナチの手の中にあるそれは最初、ディクスには何か分からなかったが、それが手に触れた瞬間、表情が驚愕に変わった。
「最後のフォース」
「どうしてお前が・・・!?それに最後って・・・」
ナチに、今自分が持っているフォースの数を教えていない。それなのに・・・
「・・・だから、変な人がいたって言ったでしょ!その人から貰ったのよ。七つ目の、最後のフォースを」
「その人って・・・」
「その人、子竜だって言ってた。人間の姿してたんだけどね。でも、何故だかそれを否定できないのよ。最近色んな事あったしね。それに、色々言い当てられて・・・」
「子竜が・・・?」
「その子竜から記憶を呼び覚まされたの。わたしの幼い頃の、本当の記憶。十三年前、街が消えた直後の記憶よ。一気にわたしに流れ込んできた。嫌でも思い出してしまって、何がなんだかわからなくて・・・。でも、子竜の目的はわたしの記憶を呼び覚ます事だけじゃない。わたしの精神を幼児退行させて、ディクスに"ディクスの本当の事"を認識させる事」
「俺の本当の事・・・」
「わたし、子竜なんかの策略に利用されたくなかった。だから、さっきディクスに会った瞬間、本当のわたしに戻れるようにって、擬似に生み出された幼い頃のわたしの精神を押さえ込んだの」
「じゃあ、さっきのお前は、お前が小さい頃の?」
「そう、昔のわたしそのまま。わたしが昔そのままに戻れば、ショックでディクスはディクスの本当の事を認めるだろうと、人間の弱い部分を突いて来たのよ、あいつらは。でも、わたしはそんな手段で認めさせたくない。わたしの、現在に存在するわたしの口で言いたかった」
「お前は俺に全てを認めろと?」
「・・・・・・そうよ。分かってるんでしょ?」
真剣な眼差しをディクスに向けて話を続ける。
「全てをちゃんと認めて・・・、そうしたら、この大陸を守って」
「守るって・・・」
白々しいディクス。
「分かってるでしょ?・・・ディオライトの復活。・・・ディクスにしか頼めないから・・・ネルディアスの竜神だってディクスに助けを求めてきたじゃない・・・」
歯切れ悪くナチは続ける。
「でも、俺はディクスだ。何の力も無い、ただの人間だ」
「そうね。今は・・・だけど、きっと―――――― 」
言いかけた言葉が途切れ、ナチの体が大きく傾ぐ。ディクスは慌てて駆け寄り、ナチを支えた。
「悔しいけど・・・、この"術"、本当に強力なの」
苦笑し、ナチは頭を押さえた。
「大丈夫か!?」
「・・・もっと精神鍛えておけば良かったかな。・・・ごめん、ディクス」
「しっかりしろ!」
荒い息でナチは膝を着く。苦しそうな表情でディクスを見た。
「フォース、全部揃ったね。・・・予想通り、ディクスのところに集まったね。あとはディクス次第。・・・・・・本当はね、十三年間続けてきた生活が、これからもずっと続けば良いなってすごく思うの」
遠い目をしてナチは本当の気持ちを口にした。
「でも、大陸を守る事が優先だもんね」
弱弱しく笑みを浮かべた。
「・・・・・・わたしは、また"昔"に戻ってしまうけど・・・ディクスはディクスを失わないで。どんなにつらくても、わたしが着いてるから―――――― 」
そう言葉を残し、糸が切れたようにナチの首がうなだれた。
「ナチュラル!!」
ナチを揺さぶる。
すると、入れ替わったように、明るい表情のナチが顔を上げた。
「あ、竜神様・・・」
「ナチ・・・」
「良かった!どこかに行っちゃったかと思った!」
「・・・・・・」
ディクスは、首に抱きつこうとしたナチの肩を強くつかむ。
そして、ナチを押さえて立ち上がった。
「竜神様?」
ナチの不安そうな声。
「ごめん」
一言、そう告げた。
「竜神様!」
ナチが立ち上がって手を空に向けて伸ばす。しかし、飛行術を発動したディクスは既に天高い場所。
躊躇することなく、ディクスは去った。
「竜神様・・・どうして・・・どうして・・・?」
三度置き去りにされたナチ。ぼんやりと、ディクスが消えた空を見つめている。
「どうしてなの・・・?」
つぶやきに涙声が混じる。
「竜神様っ!!」
ナチの叫びがむなしく空に響いた。