D.Force SideStory
20歳の記念日

「おっめでと~う!スティング今年成人式でしょ?」
ナチが嬉しそうにスティングに祝いを言う。
「ええ、そうですね・・・とりあえず二十ですから」
ナチが祝ってくれたことに嬉しく思いながらも、何故か勢いのある彼女に違和感を感じ、目をぱちぱちさせる。何かたくらんでるようにも見えるが・・・。
「だよね!いいなぁ、成人式かぁ~。憧れちゃうな」
そう言うと、うふふと笑ってみせる。
・・・・・どうしたんだろう?何でこんなに明るいんだろう・・・!?
「そ、そうですか・・・ナチもすぐ来ますよ」
「成人式といえば着物よね!振袖!スティングはどうするの?着物着るの?」
ずいっと顔を近づけて迫る。迫力に思わず顔を引いてしまった。
着物じゃなくて袴じゃなかったっけ・・・?
「え、えーと・・・着ないと思いますよ。エンドレスでは成人の日っていうのはそんなに重要視されたものではないですし、なにより僕だけじゃなくてエリオスもいますから」
「あ、そっか。エリオスさんも二十歳なのよね。だったら、二人一緒に並んだらきっと綺麗なんだろうね。美形が二人も!」
―――――――綺麗・・・・美形!?
「な、何たくらんでるんですか・・・?」
着物という言葉を聞いて、ナチが何をしようとしているのかなんとなく分かったような気がした。そして、同時に危機感も覚えた。
「うふっ、えーっとね・・・・」
わざとかわいらしい仕草をしてナチはあることを提案したのだ。


「こらぁ、レクサス。俺の腹の上にあご乗っけるな~、く、苦しい・・・」
甘えるようにディクスの腹にあごを乗せたレクサスに耐え切れずディクスは青々した芝生に仰向けになった。
そして目の前に広がる青い空と・・・
「ぬわわわわわっ!!!」
レクサスの頭を思いきり蹴ってその場から飛び去る。
グゥゥ・・・
相当痛かったのだろう。レクサスは低いうなり声を上げて伏せてしまった。
「あ・・・ごめんなさい・・・」
自分が原因だと思ったのだろう、ディクスの驚きの原因である女性がレクサスに細い声で謝る。
「お・・・お前は・・・グレース!?」
ディクスが大きな声で叫ぶ。
するとグレースと呼ばれた女性は少しうなずく。
「初めまして」
やんわりと笑みを浮かべてそう言った。
「は、はじめましてって・・・スティング!お前なにやってんだよ!何だその格好は!!」
ディクスが指をさす。
その先には銀髪を結い上げ、鮮やかな着物を着た人物――――
「スティング・・・ですか?彼がどうかなさったんですか?」
しかしグレースは動じず、きょとんとした顔で訊き返す。
「?スティングじゃないのか・・・?」
「当たり前でしょう。彼は男ですよ。振袖なんて着たりしないでしょう」
おかしそうに笑う。しかし、それは気品に満ちたものだ。清楚で、気品のある女性。
「―――――――じゃあ、一体・・・?」
「ですから、私はグレースです。貴方がドラゴンたちと楽しそうにしているので私もそれに誘われるように・・・でも、貴方にこんなにも驚かれるとは思いませんでしたが」
「そ、そりゃあもちろん!!だってどう見たってグレース・・・」
「ええ、私はグレースです」
当たり前のことを言ったディクスに笑みを返す。
「あああ、そうじゃなくて!スティングが扮するグレースって意味で・・・」
「スティングが扮する・・・?」
やばっ・・・!これは口外しちゃいけなかったんだ・・・!
「い、いや・・・なんでも・・・」
そういうとちらっとグレースを見た。どう見てもスティングの女装版、グレースだ。
「――――――本当にグレースなんだな?」
念を押すように訊く。ちなみにこの質問にはお前はスティングじゃないんだな?という意も込められている。
「ええ」
やはりうなずく。この落ち着きぶりはスティングではないのか・・・?
「ところで、何でこんなところに?スティングの親戚か何かか?」
「ええ・・・まぁ・・・」
急にグレースの顔がかげる。理由が分からないディクスはばつが悪そうな顔をした。
「あ、ごめん・・・言わなくていいから」
「いいえ・・・ご存じないのももっともです。私も北エンドレスからデルタに来るのは何年ぶりか・・・」
そういって長いまつげを伏せる。
「北エンドレス・・・??」
「生まれたその時から私はデルタを離れ、北エンドレスに移らされました。私は、生まれてはいけない存在だったから」
生まれはいけない存在・・・!?
ディクスがその言葉に驚愕する。ただの親戚ではないようだ。
「銀の髪、赤い瞳・・・そして力ある石を探知する能力を兼ね備えていても、女という性別に生まれたからには影で生きなくてはならない。私は王位継承権なんていらない。だけど、せめて双子の片割れのそばでともに生活をしたかった・・・」
「双子の片割れって・・・まさか」
「―――――私はスティングの双子の妹です」
「!!!!!!」
ディクスの中で大噴火が起こる。ナチからスティングの家族構成は聞いていた。しかしまさか双子がいたとは・・・そしてまさかそれが女だとは驚きだ。
スティングの女装版と容姿がそっくりなのもうなずける。
・・・・・・・スティングのやつ、妹の名前を借りたのか・・・・・・?
「で、でもどうしてここに・・・?」
「今年、私たちは二十歳の成人式を迎えます。エンドレスでは大きな行事はありませんが、せめてこうしてスティングに会えたらと」
そして美しい着物の振袖を広げて見せた。
「スティングには会えたのか?」
グレースは悲しそうに首を振る。
「そうか・・・なら、俺が今から探して来てやるよ!スティングには毎日嫌というほど顔合わせてるしな!」
「―――――――」
「あの単細胞の行動パターンは把握済みだからな。すぐにつれて来てやるよ」
「た、たんさ・・・」
グレースが何かつぶやいた。
「ん?どうかしたか?顔色悪いぞ」
「い、いえ!じゃあ、お願いします・・・」
困惑した顔で無理やり笑みを浮かべ、軽く頭を下げる。
ディクスは満足そうにうなずくと術で飛び去った。
「・・・・・・・」
クゥゥ・・・
いつの間にかそばに来ていたアクオスがグレースに顔を摺り寄せる。
「良かった。お前は僕のことがちゃんと分かってくれるんだね」
そして頭をなでてやった。
「ディクス、思い切り勘違いしてたね。面白かったぁ~」
木の後ろからナチが出てきた。一部始終を見ていたらしい。
「面白いって・・・僕全然面白くないですよ。ディクスをだますからって乗った計画ですけど、僕ディクスに単細胞だとか言われるし・・・」
グレース・・・いや、スティングが不服そうに言う。姿は着物を着た清楚な女性。しかしその声は紛れもなくスティングの声だ。
「単細胞なのはディクスのほうなのにね。正直ディクス疑うかなって思ったんだけど上手く行き過ぎちゃったね~。どっかいっちゃったし。
でも、スティング。本当に綺麗よ。ちょっと嫉妬しちゃう」
ナチがスティングの上から下を見てそういう。誰が見ても女にしか見えない。
「それ、馬鹿にしてるんですか?」
スティングは不機嫌そうだ。
「まさか!褒めてるに決まってるじゃない」
「はあ、ディクスは無事にだませましたし、僕そろそろ着物脱ぎますよ。きつくてしょうがないんです」
そういうと帯をたたいた。着付けはかなり適当だった。ナチが図書館から持ってきた着付けの本を見ながら見よう見まねで着付けしたものだが、着物を着る習慣がほとんどないこの国で多少違った着付けでも気づくものはほとんどいない。
「ん~、そうね。誰かに見つかったらそれこそ大変だし・・・脱いじゃおうか。ありがとね、スティング。すごく面白かったし、目の保養になったわ!」
「目の保養って・・・」
文句言いたいところを言いとどまり、館に向かおうとした時だった。
「お前・・・」
突然発せられた声。反射的に二人はその声のほうに向き直る。
「!!」
「あっ・・・」
スティングの目が見開かれる。そしてナチはしまったと言う顔をしている。
二人の先にいたのは・・・
「え、エリオス・・・」
スティングがほうけたように口にした。
「やはりスティング、お前か!何でそんな・・・」
「あわわわ、ちょっと、理由があって!!ねえ、スティング!!」
ナチが言うがスティングはそれどころではないらしい。動揺しているのは目に見えていた。
「第一王位継承者とあろうものが何故女装なんぞを・・・気でも狂ったかスティング!」
怒っているようだった。勢いに二人はたじたじだ。
「で、でもなんでエリオスさんはスティングだってわかったんですか?」
「そんなの当たり前だろう?異母兄弟とはいえ兄弟は兄弟だ。どんな格好をしてようとすぐに"気"でわかる。今回ばかりは自分を疑ったがな。だけど、恐ろしくも的中だったってわけだ」
苦々しく言う。女装をするように兄弟を持ってしまったことを恥じているのだろうか。
しかもそれが王位第一継承者なのだから余計にあきれる。
「継承者としての自覚が足りなさ過ぎるよ、お前は!それで私はどれだけ苦労しているか・・・」
「す、すみません」
おどおどした様子で謝る。
「・・・・・・頼むからその格好を一刻でも早くやめてくれ。その格好でスティングの声を聞くと寒気が来る」
「ごめんなさい♪」
エリオスに言われるとスティングは術で声を変えてかわいらしく言ってみせた。
・・・ほとんどやけくそ状態だ。
「うっ・・・」
精神的なダメージを受けたのかエリオスは固まってしまった。
す、スティング・・・やばいよ!今のうちに中に入っちゃおう?
そ、そうですね。早いとこ着替えましょう。
意見が合致し、そろそろと歩き始めた時だった。
「どこ行ったんだスティングのやつ~」
ディクスだ。スティングを探して帰ってきたディクスだ。
「ん~、いつもだったらそこら辺に転がってるはずなのになんで今日に限って・・・」
や、やばい!スティング、早く!!
え、ええ!!
ディクスに気づかれないうちに退却しようとしたが、世の中そううまくはいかないものだ。
「スティング!私を馬鹿にするのもほどほどにしろ!」
生き返ったエリオスが突然大声を上げた!
「・・・えっ・・・スティング・・・?」
その声に一番反応したのはディクスだ。エリオスのほうを見てから、そしてエリオスの視線の先を見た。
「ナチ・・・?それにグレース・・・」
「グレースだと?笑わせるな!スティング、お前は母上の名前を語ってまで女装していたのか!?」
ディクスの言葉にエリオスが答える。
終わった。全ては終了した。
もう逃げられない。
「・・・・・・・おい・・・」
ぎぎぎぎとディクスがナチとスティングのほうに首を向ける。
「そいつ、スティングなのか?」
二人は恐ろしくて首を縦に振ることも出来ない。
「・・・・・・・・愚かなエンドレスの第一王位継承者だ」
エリオスが冷たく言い放つ。
確認したディクスはゆっくりと二人に近づく。同時に二人は後ずさる。
「そっか・・・そういうことか・・・・・・・・・ぬああああ!ギガフレイム!!」
怒ったディクスは二人に向けて手加減なしの術をお見舞いした。
「うひゃあああ!!」
「くっ」
悲鳴を上げるナチを抱きかかるとスティングはその場を跳んだ。
どおおぉぉぉん!!
轟音と紅蓮の炎がその空間を焼き尽くす。
「ちょっとディクス!何するのよ!」
抱きかかえられたままナチが反論する。
「スティング!お前ってやつは・・・お前ってやつは・・・・・・・!!
テラフレイム!!!(俺は本当だと思ったんだからな!!!)」
ディクスの悲痛な思いと共に、先ほどよりも大きな衝撃が二人を襲う。すでに戦闘態勢の二人はなんとかそれを防ぐ。
「・・・当然の報いだな」
深いため息をつくとエリオスはどこかに行ってしまった。
「お前のせいで俺の心はずたずただ!!」
振り切るとさらに大きな術を発動せんと体制を整え始めた。
「ごめんなさい!悪気はなかったの!」
悲鳴にも似た声が上がる。
――――――スティングだった。
「・・・・・・!!死ねー!!」
とことん馬鹿にされたディクスは本気で襲い掛かってきた!
「仕方ないですね・・・!」
スティングは仕方がないというように覚悟を決めると、両手をかざして術を発動した。
「フラッシュフレア!」
「ダークフォグ!」
まばゆい光が黒い霧に吸い込まれる。そしてスティングが地に着地するとともにディクスが切りかかった!
術をかけた右手で何とか受け止める。
「くぅ・・・!」
しかし受け止められる時間はそう長くはない。左手で術を発動しようとした時だった。
「ディクス見て!」
ナチが声を上げるとスティングの着物の襟をつかみ、思い切り引っ張った!
「!!!」
ディクスが固まる。頭の中では男だと分かっていても視覚的には女。例え胸が平らでも本能的に(?)思考停止してしまったのだ。
「すみません、ディクス!」
空いている左手を添えると、雷撃を放った。
「うぐっ・・・」
体中に電撃の走ったディクスはそこでもろくも崩れてしまった。
「・・・・・・・お、終わった・・・」
ナチがへたり込む。スティングも果てたというようにうなだれている。
悪夢は終わったのだ。


頬に冷たいものを感じた。ディクスにはそれがなんだか分かっている。
ゆっくりと目を開け、起き上がる。ディクスの顔をなめていたレクサスがそばにちょこんと座った。時はすでに夕方だ。
「・・・・・・・・俺、ずっと寝てたのか・・・?」
辺りを見渡して言う。
じゃあ、あのスティングの女装は・・・?
「ディクス!やっと起きたんだ」
ナチが声をかける。
「!」
「そんなところで寝てたら風邪ひきますよ」
続いてスティングが。
「お、お前ら・・・」
言いかけてやめる。
―――――――もしかして・・・夢?
二人の堂々とした態度にふとそう思う。もし、あれが現実だったら二人は声をかけてこないだろう。
・・・・・・・・そうか、俺寝たんだ。レクサスがもたれかかって・・・・
「どうしたのディクス?」
ナチが覗き込んだ。
「そうか・・・そうか夢だったんだ!」
ディクスが嬉しそうに声を上げる。
そーだよな!スティングのやつが着物なんか着て俺をだますはずが無いもんな!
自分の失敗を隠すかのごとく、ディクスは一人で納得する。
「そーかそーか!それなら全てが片付くな!この優秀な術者である俺が性別間違えるはずが・・・」
何やらぶつぶつ言い始めたディクスに二人が顔を見合わせる。
「ディクス、ここは冷えますよ。早く中に入りましょう」
「ああ、わかってるよ!」
言われた勢い良く立ち上がる。
夢でよかった・・・・・・・・!!
そしてえらくご機嫌で館に戻ったのだ。
「・・・ディクス気づいてないね」
「そうですね・・・成功してよかったです」
スティングがげんなりとした様子で言う。ディクスが電撃で気を失ったことを好機に、全てが夢だと思い込ませるためにディクスが元いた場所に寝かせておいたのだ。
そしてそれは見事に成功した。
二人は安堵して同じように館に戻ったのだ。


「エリオス様、お顔が優れないようですが・・・」
ナーシャが疲れ気味のエリオスに声をかける。
「いや・・・なんでもない。気のせいだろう。―――――今日はもういい。下がってくれ」
ナーシャは疑問に思いながらも部屋を後にした。
一人になったエリオスは夕日が見える窓に足を運ぶ。
未来のエンドレスが果たしてあんなやつにゆだねられて良いのだろうか・・・?
夕日に照らされ、エリオスは初めてそれを真剣に考え込んだ。
不幸にも彼の心配事はまた一つ増えてしまったのだ・・・。



「スティング、今度はウェディングドレス着てね」
「・・・・・・・・・・・」