D.Force SideStory
アルヴィスの王女
This story is Epilogue after [CrimsonTown].
ざっ
エルトシャンが馬を止めるのももどかしく、シャーリーンは馬から飛び降りた。
―――――― エリオス様・・・!
エルトシャンやネイシャンの静止も聞かず、シャーリーンは急いで宮殿の中に向かった。
「エリオス様・・・ご無事かしら・・・」
広い宮殿の中でシャーリーンはさまよう。何度階段を駆け上り、そして廊下を走ったか分からない。誰かにエリオスの部屋を訊こうとも、ブラックフォルスの件で出払っているのか、すれ違う人もいない。
たったったったっ
自分の荒い息と、走る音しか聞こえない。
「いたっ・・・」
走るにはあまりにも不向きな高いヒールで足を痛めてしまったようだ。シャーリーンはその場にかがんで足をさする。
術を掛けようとして
―――――― しかし、立ち上がった。
そして靴を脱ぎ、手に持つ。
「エリオス様が受けた苦痛はこんなものではありませんわ・・・こんなもの・・・痛みのうちに入りませんね」
自分に言い聞かせるように言うと、きっと顔を上げて長い廊下を再び走り始めた。
「シャーリーン王女どこに行っちゃったんだろう・・・」
ナチが困惑したように言う。
「ナチ、シャーリーン王女は俺が探すから、お前はエルトシャン王子とネイシャン王女を応接間に案内してくれ」
「そうだね、わかった。じゃあ、頼んだわよ、ディクス!」
そしてナチは他の二人のところに駆けて行った。
シャーリーンがこの宮殿の中にいるのは確かだ。巨大な建物、しらみつぶしに探すしかないようだ。
「探すか」
ディクスはシャーリーンが向かったと思われる場所へと急いだ。
やがてディクスはある扉の前にたどり着いた。大きな扉。
「俺のカンが正しければここにいるはずなんだが・・・」
そして扉を叩く。しばらくすると扉が開いた。
「まあ、クロードさん!ごめんなさい、エリオスはまだ気を失ったままなの・・・」
フィオールだった。
――――――――― 確か、スティングの姉さんだったっけか・・・だとするとエリオスの姉でもあるわけだ・・・
「エリオスに御用があるのかしら?」
「え、ええ。あ、シャーリーン王女はいらっしゃいませんか?」
ディクスが聞くときょとんとした顔を見せた。
「いいえ、ここには・・・どうかされたのですか?」
「いえ、たいしたことではありませんから。すみません手間を取らせてしまって。失礼します」
どうやらここにはいないらしい。
だとしたら一体どこにいるのか・・・?
「もしかして迷ってるのか?」
ナチとこの宮殿に侵入した時、ナチも迷ったことがあったのだ。今はもうそんなことはないが、なれないシャーリーンならば十分に可能性はある。
ディクスはもと来た廊下を走り、シャーリーンを再び探し始めた。
さっきも目にした絵画を見上げる。確か、四回目だ。
「ふぅ・・・」
ため息をつく。ドレスも着崩れ、鏡に映した自分はきっと王女にふさわしくない格好だろう。
――――――― 罰ですわね・・・
自嘲気味に笑う。でも、諦めるわけにはいかなかった。
重くなってきた足を一歩前に出した時だった。
「シャーリーン王女!」
背後から声がかかる。知っている声にはっと振りかえる。逆光で顔は分からない。
「ディクス様・・・」
つぶやいたシャーリーンにディクスが駆け寄る。
「いきなり走って行ってしまわれたからどうしたのかと・・・大丈夫ですか?」
かなり着崩れているシャーリーンを気遣う。しかし、ディクスが見たところでは外傷はないらしい。
「靴も履かずに・・・もしかして足を痛めたんじゃ・・・」
ディクスがかがんでシャーリーンの足首の様子を見ようとしたときだ。
ぽたっ
涙が零れ落ちる。それがシャーリーンのものであることに気づき、ディクスは顔をあげた。
「シャーリーン王女・・・?」
心配そうな顔をのディクスをシャーリーンは涙をたたえた瞳で見つめる。
「どうして・・・」
「えっ?」
「どうしてそんなに優しくしてくださるのですか・・・わたくしは貴方にご迷惑をかけたというのに・・・」
あふれた涙が頬を伝い、そしてまた落ちる。
がたっ
床に靴を落とす。両手で顔を覆い、声を震わせた。
「どうして・・・」
「シャーリーン王女・・・とりあえず別の場所に移りましょう」
靴を拾い、シャーリーンの肩に手をかけ、二人は空いている部屋に入った。
「足を見せてください。高いヒールで走ったせいで足を痛めてしまったのでしょう?」
シャーリーンの足首を見る。そして癒しの術をかけた。
「有難うございます・・・」
「・・・・・・」
知っているいつものシャーリーンとは違う雰囲気にディクスも困惑気味だ。
「罰・・・ですわね」
不意にそう口にした。
「罰?」
「わたくしがエリオス様に限らず、ディクス様にもご迷惑をおかけした罰ですわ。でも、この足の痛みはエリオス様が受けた傷とは比較にもなりません・・・」
小さな声で言う。
「ディクス様、どうしたらわたくしは許されるのでしょうか!?たくさんの人に今までの罪を償えるというのならわたくしなんでもいたしますわ!!」
立ち上がって興奮した様子で言う。その目からは涙があふれていた。
「どうしてかしら・・・どうしてわたくしは人を傷つけてばかりなのでしょう・・・?」
「シャーリーン王女、それは違いますよ」
ディクスがシャーリーンの肩に手をかけ、そして彼女を座らせた。涙もぬぐわず、ディクスを見上げる。
「誰もそんなこと思っていません。誰だって他人に迷惑をかけて・・・そして迷惑をかけられて、楽しくも、そしてつらくも生きているのが当たり前なんです。罪とか罰とかそんな概念は存在しません」
優しく言う。
「でも、ディクス様はわたくしのこと迷惑に思っていらっしゃいましたでしょう?」
恐る恐る口にする。
「しかし、それが王女の本質でないと分かれば全ては水に流せます。シャーリーン王女、本当のあなたは素直でそしてとても思いやりのある方です」
「ディクス様・・・」
たまらなくなったシャーリーンはわっと泣き出した。しかし、ディクスに抱きつくようなことはしなかった。
その様子をちょっと困った様子で見ているディクス。どうしようかと迷っているようだ。
「シャーリーン王女、行きましょう」
ようやくそう口にした。そして持っていた靴を履かせる。泣いていたシャーリーンが顔を上げた。
「
―――――― わかり・・・ましたわ・・・。エルトシャンたちにも心配をかけてはいけませんものね・・・」
つぶやくと、差し出されたディクスの手を取って立ち上がる。空いている手で涙をぬぐった。
「その前に着崩れた服を直しましょう。そこに鏡がありますが・・・」
向こうにある姿見をさしたが、ディクスは咳払いをした。
「・・・あ、ああ・・・大丈夫ですわ。一人でも直せますわ」
ディクスが思っていることが分かったのか、わずかに笑みを浮かべてそういった。
「それは良かったです。私は外で待ってますから終わったら呼んでください」
「ディクス様、ありがとうございます」
そして部屋に一人きりになったシャーリーンは大きな鏡に自分の姿を映した。その姿に思わず口を開けてしまう。
着崩れしやすい服ではあったが、最悪だ。胸の上まで覆っていたフリルが危ないところまで下がってしまっている。こんな姿で、しかも靴も履かずに宮殿を走り回っていたのかとさすがに恥ずかしく思ってしまった。
人とすれ違うことがなくてよかったと、心からそう思う。
「ディクス様に悪いことしましたわ・・・もっと豊満な体だったら良かったのですけど・・・」
どこかずれている論点を口にしながら、ドレスを着なおす。
「終わりましたわ」
扉を開け、外で待っていたディクスに声をかける。
「ふぁ~あ・・・あっ!!」
ちょうど大きなあくびをしていたディクスを目撃してしまう。シャーリーンにあらぬ姿を見られ、ディクスはそのまま固まってしまった。
「ふふっ、ディクス様って可愛いですわ」
顔を赤らめたディクスを見てそう言う。
「すみません・・・フォースを使うと眠くなったり無かったり・・・」
苦しい言い訳をする。しかしシャーリーンはおかしそうに笑った。
恥ずかしいが、笑むシャーリーンにディクスはほっと胸をなでおろした。
「そちらのほうが自然で良いですわ。わたくしが王女とはいえ、敬語で会話するのはお疲れでしょう?スティング様やナチュラルさんと話すように普通に話してくださいませんか?」
「え・・・?」
「最後のお願いですわ」
ちょっといたずらっぽくそういった。
「え、えっと・・・あ、ああ・・・わかった・・・」
なんだか変だとは思いつつ、ディクスはいつもの調子でそういった。
「シャーリーン王女、行こう」
そして手を差し出した。ちょっと驚いた様子のシャーリーンだったが、嬉しそうにその手を取った。
「ディクス様、やはりエリオス様を治療した時に使ったあの石はフォースでしたのね」
「ああ。ネイシャン王女の水晶でも効かなかったらとっさに・・・」
「素晴らしいですわ。わたくしも一度スティング様のフォースを手にしたことがありますの。絶対に行使できると思ってたのですけど、結果は惨敗でしたわ。ディクス様、すごい能力をお持ちですのね」
「でも、俺もどうしてその力が使えるのか分からないから・・・フォースは巨大な力が封じ込められている。使い方を誤れば立派な凶器となるんだ。十三年前、大陸を破壊したように
―――――― 」
「何でもかまいませんわ。人の命を助けたのですから・・・わたくしも頑張らなければなりませんね。もっともっと術を磨いて立派なアルヴィスの術者になりますわ。シルバーヒールの名にかけて誓います」
「シャーリーン王女ならきっとなれるさ」
ディクスが言うとシャーリーンは嬉しそうにうなずいた。
「ディクス様って本当に素敵な方ですのね。強くて・・・そしてとてもお優しい方ですわ」
「・・・そんなつもりは全然ないんだけど・・・」
ほめられてディクスは照れてしまった。そんなディクスを見てシャーリーンは笑う。
「ナチュラルさんがうらやましいですわ。エルトシャンなんて全然役に立ちませんもの。いまいち押しが弱いというか・・・」
・・・・・・強烈な性格が二人もいればそうなるかもな・・・
ディクスが心のなかでつぶやく。
「でも、エルトシャン王子も立派な術者だろう?アルヴィスの国王にはふさわしいじゃないか」
「そうですわね。エルトシャンが国王だけれども・・・でも、ネイシャンとわたくしが横からがっしりとサポートいたしますわ!」
「そ、そうか・・・三人ならアルヴィスも安泰だな」
苦笑する。
「ええ、それに・・・もう一人家族が増えるのですから・・・」
「家族・・・?」
「わたくし縁談がありますの。まだ返事はしていないのですけれど・・・」
「どうして・・・」
「エリオス様にお許しを頂こうと思って・・・もし今回の視察で会うことが出来なかったらその縁談はお断りしようと思っていました。他の殿方が心の中にいては結婚など出来ませんものね」
「そうか・・・じゃあ、もしかして会えたから・・・」
言うとシャーリーンはうなずいた。
「わたくし縁談を受けますわ。ディクス様やエリオス様も素敵ですけれど、わたくしのフィアンセも素敵ですのよ」
ちょっとはにかんだ様子で、しかしシャーリーンは嬉しそうだった。
「割りに俺にはまとわりついてたみたいだが・・・」
思わず口にしてしまう。しかし後の祭りだった。
「それはコミュニケーションですわ!確かにディクス様はわたくしの愛しい人です。でも、あの方には敵いませんわ」
ほうっと息をつく。あの方・・・つまりシャーリーンの婚約者のことだ。
――――――――― やはり、追っかけは体質だったのか・・・
口をつぐんでそう思う。今でこそ笑える過去だが、リアルタイムでは本当に大変だったのだ。
「ディクス様にあえて本当に良かったですわ。有難うございます」
ディクスを見上げながら礼を言う。
「たいしたことしてないよ」
ディクスはそう笑って返した。長い廊下を歩いた後、大きな階段へたどり着いた。
「確かのこの階段を下りれば入り口に・・・」
「いや、こっちだ」
「えっ?」
しかしディクスは階下に降りず、シャーリーンの手を握ったまま階段を上った。
「どこに行きますの?」
「いいから」
しかしディクスは答えずどんどん先に行く。歩幅があわないシャーリーンは小走りについて行った。
やがて大きな扉の前についた。
「
―――――――― この扉は・・・」
見覚えがあった。何年も前にこの扉をくぐったことがある。そう、シャーリーンがエリオスに事件を起こすはるか前だ。
「エリオスさんの部屋だよ」
「ディクス様・・・」
不安そうに見上げる。ディクスは元気付けるようにうなずいた。
「俺はここで待ってるから。終わったら・・・」
「いいえ、大丈夫ですわ。帰り道はわかりますから。あの応接間に行けばよいのでしょう?」
シャーリーンにディクスがうなずく。
「わたくし行きますわ・・・」
決心したように言う。それを確認するとディクスはその場を離れた。
胸がどきどきする。そんな中、扉を叩く。
こんこんっ
しかし中から返事はない。
「エリオス様・・・?」
ノブに手をかける。鍵はかかっていないようだ。
ぎぃ
恐る恐る中をうかがう。
「エリオス様」
小さな声で呼びかける。広い部屋。しかし人は見受けられない。大きなベッドに気づき、そろそろと近づく。
そこには深く眠り込んでいるエリオスがいた。
「よかったですわ・・・」
穏やかなその顔に安堵する。
焼き付けるようにエリオスの顔をじっと見つめる。
「わたくし・・・もう、軽はずみな行動は取りませんわ・・・」
眠っているエリオスにもう一度約束をする。
そして、自分にも約束をするように―――――――
「エリオス様、どうか、お元気で・・・」
上品な笑みを浮かべそう告げた。
そして音を立てないように部屋を出た。
「クロードさんっ!私すごく感動しました!!」
応接間に戻ってきたディクスにエルトシャンはがっしと手をつかんでそういった。
「へっ?」
「ナチュラルさんから聞きました、フォースのこと。やはりあの時の石はそうだったんですね・・・素晴らしい力ですね、貴重な場面をみらてて本当にうらやましく思っているのですよ」
目をきらきらさせて言うエルトシャンにディクスはたじたじだ。
「そ、そうですか。それならよかったです」
「追求していることが解明すると良いですね。影から応援しています!」
握っているディクスの手に力を入れる。
「ええ、頑張ります」
ネイシャンは呆れ顔で、ナチは苦笑して二人の様子を見ている。影の薄いエルトシャンではあったが、興味があることに関しては積極的らしい。
その後もディクスの飛行術について色々と訊いていた。
それからあまり時間も経たず、シャーリーンが戻ってきた。
「今帰りましたわ」
「シャーリーン!」
心配していたネイシャンがシャーリーンに駆け寄る。ディクスに迫っていたエルトシャンも同じだ。
「シャーリーン・・・大丈夫なの・・・?」
心配そうに訊くネイシャン。しかし彼らの心配を取り除くようにシャーリーンは笑みを浮かべた。
「そう・・・良かったわ・・・」
そういってネイシャンはシャーリーンを抱きしめた。
「エルトシャン、あなたも有難う」
珍しい言葉に一瞬驚くが、それを笑みにかえてエルトシャンは首を振った。
そして視線を移したその向こう。ディクスがこちらを見ていた。
シャーリーンが笑みを浮かべると、それに応えるようにディクスは微笑んだ。
――――――― 俺の仕事も・・・やっと終わったな・・・
何故だか、強くそう思えた。
応接間に五人が揃い、程なくしてアルバートを追ったスティングが戻ってきた。
「すみません、遅れました」
「スティング様!寂しかったですわ~!」
シャーリーンから離れ、スティングに飛び掛った彼女をかわす。
「・・・で、ですね。ブルーフォースの準備ももう済みました。すぐに飛び立てます。エントランスブルーまではエレカーを用意しました。今度はそちらに乗ってください」
「まあ!またスティング様と歩いて行こうと思っていましたのに・・・」
残念そうに言ったネイシャン。
『もうこりごり!』
そんな彼女にその場の全員がそう突っ込んだのだった。
ゴォォォォォッ
青い大きな機体が空に向かって飛び立つ。そして空の彼方へと飛び去ってしまった。
「は~、終わったね・・・」
その様子をまぶしそうに見上げながらナチが言う。
「ええ、有難うございました」
スティングも同じように見上げている。
「でも・・・良かったね。大変だったけど、色々解決したみたいで」
「そうですね。一時はどうなることかと思いましたが・・・でも、エリオスとシャーリーン王女が分かち合えたのが何よりも良かったって、そう思います」
ナチが視線を移す。
「ディクス?」
そういえば何も話さないディクスに気づく。ディクスは見えなくなったブルーフォースの跡を見つめたまま。
「
――――――― どうかしたんでしょうか・・・?」
「うん、何かあったのかな?」
二人でひそひそ話す。それに気づいたディクスが振り返った。
「何噂してるんだよ。さあ、帰るぞ!」
こっちを伺っている二人に気づき、ディクスは笑いながらそういった。
そして一人でエレカーに歩いていってしまった。
「置いていくぞー!」
残した二人にディクスはそう叫ぶ。
「行きましょう、ナチ」
「もう、歩いていくのはこりごりだもんね!」
二人はディクスの待つエレカーに急いだのだった。
――――――― スティング様、エンドレスは本当に素敵な方がたくさんいらっしゃいますのね。わたくしはどれだけ助けられたか・・・
はるか雲の下のエンドレスに向かって思う。
・・・・・・ディクス様、やはりあなたはわたくしが見初めた方でしたわ
自然と表情が和らぐ。
どこまでも広がる青い空。そしてその空は何も隔てることなく、アルヴィスの空へと続いている。
ブルーフォースは二国を架ける橋となって、三人の使者をアルヴィスの大地へと送り届けたのだった。
- 終 -