D.Force SideStory
始まりの災難

新年初の日が昇ろうとしている。
塔で三人はその様子を黙って見ていた。
―――――――― 寒いらしい・・・
「早く昇れえぇぇ~」
「寒いぃっ!」
「・・・・・・・・」
待ちに待った太陽がようやく昇りきった時、三人は数分の間その美しい光景を見た後・・・
「帰るぞ!」
「暖炉暖炉~!!」
「体が凍えそうですっ!」
その美しい朝日に感動することもなく、三人は塔を駆け下り、一目散に館に帰ったのだった。
三人で暖炉の前にかたまる。
「うー、まさかあんなに寒いなんて・・・」
「風が強かったからな」
手をさすりながらディクスとナチが話している。
「でも、見れたじゃないですか。綺麗でしたね」
「ん・・・うん。でもやっぱり暖炉の前が一番ー」
ディクスは暖炉に手をかざして幸せそうにつぶやいた。
「これからどうするんですか?」
「もう七時過ぎたからな。俺は御節の支度するよ。あと二時間もすれば出来上がるから、それまで寝てていいぞ」
時計を見ながらディクスが答えた。


「明けましておめでとう!」
「おめでとう~!」
「おめでとうございます」
やはり正座とは行かないが、三人はテーブルについていた。
もちろんテーブルにはディクスの作った御節が並べられていた。その他装飾もこっていて、祝い箸はもちろんお雑煮の入った漆器の器もちゃんと用意されてあった。
和洋中と、三拍子揃ったディクスの御節はとても食欲をそそる。
「じゃあ、頂きますー!」
「頂きます」
「おう、どんどん食え!」
三人が御節に手をつける。もちろんどの料理も逸品だ。しかもデザインまで凝っている。煮物のニンジンだってちゃんと桜の花形に切られていた。
「おせちって冷たいんですね」
目の前の昆布まきに手を付けたスティングがつぶやく。
「そういうもんなんだ。正月料理ってのは。まぁ、正月の三日間、料理を作る手間を省くためにこうやって大量に作り置きしておくって言われてるけどな」
「じゃあディクスは明日、明後日料理しないんですか?」
「んなわけないだろ」
さも当然というように答えて、ディクスはだしまき卵を口にした。
「この甘煮がおいしいんだよね」
甘く煮た黒豆にナチが舌鼓を打つ。
「ディクスとナチは毎年こうやって新年を祝ってるんですね。僕たちとは大違いです」
「まぁ、なんとなくな。正月って気分も味わいたいし・・・それに料理が絡んでくるならドンと来いだ」
雑煮のスープをすする。
もちろんちゃんともちだって入っている。
「正月は料理ももちろんだが・・・ナチ、今年も負けないからな」
「今年こそ絶対勝ってやるんだから!」
ディクスにナチは殺気立たせたようにそう答えた。
スティングには何のことだかわからないが、何かほかにもやることがあるらしい。
「スティング、お前も手伝ってくれな」
「?いいですけど・・・」
そして再び料理をつつき始めたディクスにスティングは不思議そうな顔をしたのだった。


床にはたくさんのカードが並べられていた。
しかも文字ばかりのカードだ。両脇にはディクスとナチが対面する形で正座している。
スティングも、それに参加する形で正面に座っていた。その手にはたくさんのカードが握られていたりする。
「前回は負けたけど、今年は絶対に負けないんだからね」
「今年も勝ってやるから覚悟しろよ!」
何故か戦闘態勢だ。
「あのー、僕は何をすればいいんですか?」
一人蚊帳の外のスティングは悲しそうにつぶやいた。
「その手元のカードを読めばいい。そしたら俺たちがこっちのカード取るから」
スティングに目もくれずに目の前の並べられたカードを眺めながらディクスは言った。
ナチも同じだ。カードの位置を確認するかのように目を配っている。
「じゃあ、読みますよ。"ちはやぶる・・・"」
「はいっ!!」
ぱぁんっ
ナチがちょうど並べられたカードの中央あたりを思い切り叩いた。そして確認するようにディクスに取ったカードを見せてみた。
「あってるでしょ?」
「くっそー!」
最初の一枚目をとったナチにディクスは悔しそうだった。袖をまくり、気合を入れなおす。
「次行きますよ。"むら・・・"」
「これだぁぁっ!!」
ばあんっ!!
「ふふっ・・・"きり"だろ?」
ナチにカードを見せびらかすように言った。
「ああ、もう!わかってたのに!!」
今度はナチが悔しそうだった。
しかし、カードを呼んでいるスティングには何が起きているのかさっぱりわからなかった。
最初は読んだカードと同じものを探すものだろうと思っていたが、そうではないようだ。しかも、最初の単語を言い終わらないうちに二人ともカードを取っているのだ。
「次です。"あしび・・・"」
「ながながしよをひとかもねむ!!」
ナチが叫びながらまたカードを取った。そして悔しがるディクス。
「"あさぼらけ"」
「これだ!!」
「これよ!」
二人同時手を出すが、しかし同じカードには手を出さなかった。それぞれのカードを手に二人は緊張した面持ちでスティングを見た。
「え?あ、ああ、続きですね。えーと、"あさぼらけ ありあけの・・・"」
「やったー!わたしのカードね!」
ディクスに手持ちのカードを見せ付けた。
間違ったカードを手にディクスは崩れた。仕方なく間違ったカードを元にもどす。
そしてスティングの次の句を読む。けれど、最初の数文字を読んだところで二人はすぐさま取ってしまう。
そんな光景が九十九回続いた。
「いよいよ最後ですね。行きますよ。"わびぬれば"」
ばしぃんっ!!
二人のついたカードが飛んだ。そして・・・
「取った!!」
宙に飛んだカードを見事にキャッチしたのはナチだった。
「うあああ・・・・」
その場に崩れるディクス。やはりスティングには何が起きているのかさっぱりわからない。
「じゃあ、集計ね」
そういうとナチは手元の積み重なったカードの枚数を数え始めた。ディクスも同じだ。
そして・・・
「五十二枚・・・!ふはははっ!今年も俺の勝ちだっ!」
「ああああ・・・・・・あとちょっとだったのに・・・」
わずかな差で負けたナチは突っ伏して床を叩いた。
「絶対に勝ったと思ったのに~」
「ふふ、甘いな!」
ディクスとナチの二人で盛り上がっている。そしてやはりスティングにはわけがわからない。
「あのー・・・」
「はははっ・・・・ん?どうかしたか?」
息を切らしながらスティングに向き直る。
「このカードゲームってなんですか?」
スティングの素朴な質問に、突っ伏して悔しがっていたナチも起き上がる。
「もしかしてスティング、お前何もわからずに句を読んでたのか?」
「でも、全部読む前に二人ともカード取ってますし・・・それに読んだカードと取ったカードって書いてあるないよう全然違うじゃないですか」
口を尖らせて言う。
「スティングは百人一首知らないんだ」
「ひゃくにんいっしゅ?」
ナチの言葉にスティングがきょとんとした様子だ。
「ああそうだ。和歌っていうのを読み札と取り札にわけて、読み手が読み札を読んだ時、それに対応したとり札を取り合うゲームだよ」
「そうそう。それで数文字読んだだけでカードを取れるのはそれが"決まり字"って言って、全部読まなくてもそれだけでどれが組み合わせのカードかってわかるんだよ」
二人の説明にようやくスティングも納得したようだ。
「それで・・・僕なんで二人がカードを取れるのか全然分かりませんでしたよ」
苦笑する。
「知らなかったら分からないよな。それにこの百人一首ってのは全部の句を覚えてないと試合にならんし」
「去年は二人だけだったから出来なかったけど、読み手がいるときは必ずディクスと対戦してたの。いっつも負けてばっかだったから今年こそはと思ったけど・・・」
ナチがディクスに視線を移すとディクスは得意満面な顔をして威張っていた。
「全部覚えるんですか!?記憶力も集中力もいる結構ハードなゲームですね」
手元のカードを見ながら驚いたように言う。
「やりがいはあるから結構楽しいぞ」
カードを箱にしまいながら嬉しそうだ。
「あーあ・・・また特訓しなきゃなぁ」
ナチも片付けながらつぶやいた。スティングも持っていた札を元に戻す。
―――――――でも、このカード一体どこで手に入れたんだろう?
百人一首さえ知らないスティングにはさっぱり検討もつかなかったのだった。


「でもやっぱり・・・」
「暖炉の前が一番だよね~」
百人一首で一汗かき、落ち着いたディクスとナチが暖炉の前でくつろいでいる。
「これで一通り正月の行事は終わったんですか?」
「まあな。あとは六日後に七草粥ってのを食べるだけだ」
またまた変な風習にスティングは首をかしげた。
「外寒そうですよね。雪もだいぶ降り積もって・・・」
窓の外を見て、スティングがディクスとナチを振り返ったときだ。いつの間にか二人はコートやマフラーを着用して防寒対策万全のようだ。
「どこか行くんですか?」
「雪合戦だよ、雪合戦!」
そういうと二人は外に出て行ってしまった。スティングも自分のコートを引っつかむと慌てて二人の後を追った。
館の前は白い雪で一杯だった。しかし空は晴れている分、今日は絶好の雪合戦日和といえるだろう。
いそいそと戦闘の準備を始めている二人をよそにスティングも足元の雪をすくって固めてみた。これで手のひらに納まるくらいの雪の玉が出来た。
「スティング、それじゃちっさすぎだろ」
スティングの雪球をみたディクスが自分が造ったものを見せた。
「それ、でかすぎですよ!」
ディクスは一抱えもある雪の玉を持っていた。あれを投げるのだろうか。
「オッケーディクス。わたしは準備できたよー」
「おーっし。じゃあスティング、お前はナチのところな。今年はスティングがついてるから手加減なしで行くぞ!」
「望むところよ!」
"今年は"ということは、去年もしたらしい。
スティングはナチがいる場所にかがんだ。ディクスと違い、ナチはちょうどいい大きさの雪玉をたくさん作っていた。
「ディクス、あんなに大きな雪玉作って大丈夫なんでしょうか?」
「甘く見てると直撃するわよ。ディクスあれを普通に投げてくるから」
平然と言ったナチにスティングは戦慄した。
「じゃあ、僕も負けないように頑張ります」
そういうと、大き目の雪玉を何個も作った。
ぼすっ!
二人の手前に大きな雪玉が落ちてきた。投げたのはもちろんディクスだ。
目を向ければ、だいぶ離れた場所にディクスはいた。あんな場所からディクスは重い雪を投げたのだろうか。
「ディクス、行きますよ!」
勢いよく立ち上がって、玉を投げようとしたが・・・
「ん?うあああっ!」
頭上から降ってくる大きな雪の塊に気づき、スティングは反射的にシールドを張った。
「あ、スティング。シールド張るの禁止だから、次気をつけてね。他の術は何でもオッケーよ」
そう言うと、ナチはたくさん雪の玉を抱えて立ち上がる。するとそれを空中にいっせいに放り投げた。
そして・・・
「いっけぇーっ!!」
掛け声とともにたくさんの雪の玉がディクスに向かって放たれた!
「おっと!」
ディクスはそれを横に飛んで避けた。
「まだまだ行くわよ!」
そういうとナチは再び複数の雪玉を投げると、術を使ってディクスにお見舞いした。
弾丸のごとく飛んだ雪の玉が、ディクスに向けて真っ直ぐ突き進む。それらがよけられて地面に着弾すると、白い雪が派手に舞った。
「ゆ、雪合戦・・・?」
術を使って攻防を繰り返す二人にスティングは呆然としていた。
楽しいはずの雪合戦は、その場を戦場にしていたのだ。雪の塊が術によってありえない速さで飛びかっている。
直撃したら絶対に痛い。
「ブラスト!」
スティングが大きな雪の玉をディクスに放つ。大きな塊はディクスに直撃しようとした寸前、カマイタチによって真っ二つにされて砕けてしまった。
「甘く見るなよ!」
ディクスが叫ぶと、作り置きしておいたたくさんの大きな雪玉が宙に浮かぶ。そしてディクスの号令に二人にめがけて飛んできた!
「やばい!対抗しなきゃ!」
ナチも作り置きの雪の玉を宙に浮かべると、向かってくる玉に向けて飛ばした。
ざんっ!!
ディクスの放った雪の玉は、ナチの放ったものに力が相殺されるはずだったが、大きさが違いすぎる。すこしだけ力を殺いだだけで、大きな雪の玉はナチとスティングの二人に襲い掛かってきた!
どごぉんっ
直撃こそ免れたが、二人は雪まみれになってしまった。
「そっちがその手なら・・・」
地面から小さな雪の塊が無数に浮かぶ。大きさは親指の半分くらいだ。
「スティング、一緒に発動してね」
「ええ、わかりました」
スティングの力が加わり、さらに雪の小さな塊が宙に浮く。
『ブラスト!!』
二人の声が重なったそのとき。無数の雪の塊がディクスを襲った。
「ん?のあああっ!!」
慌てて伏せたディクスだったが、何発かは顔を直撃したようだ。そのときの衝撃がはっきりと跡となって顔に出ていた。
「でぇいっ!」
ディクスが手のひらを地面に付けると、雪しぶきが二人に向かってきた。
「トルネード!」
スティングの術にひどい雪しぶきが天に向けて軌道をそらされた。
「アイスショット!」
間髪いれずナチが術を発動する。鋭利な氷の錐が出現したかと思うと、ディクスに突き進んで行った。
余裕でかわすディクス。
「氷のつぶてよ!」
今度はディクスの番だ。無数の氷のつぶてが二人を襲うが、これも何とか術で防ぐ。
はっきり言って普通の雪合戦ではなかった。術を使っているあたり、すでに戦闘だ。
参加しながらも本気な雪合戦にスティングも必死だった。まさか雪合戦で命の危機を感じるとは。
ドカーンッ
「うひゃあああっ!!」
チュドーンッ
「きゃああっ!」
ドゴォンッ
「うわわわわっ!」
静かなはずの宮殿敷地内で、雪が激しく舞い、悲鳴と爆音が響き渡る。
―――――――正月の雪合戦・・・
それはディクスとナチにとって新たな年を迎えるための行事であり、兄妹の戦いでもある。
スティングは思った。
僕は部屋でボーっとしてるほうが性に合ってるのかもしれない・・・
ディクスの投げてきた巨大雪玉の直撃で仰向けに倒れながらスティングは意識を失った。


「スティング、大丈夫ー?」
「咳がひどいなら俺が背中さすってやろっか?」
笑いながら言うディクスにも今日のスティングには突っ込みも、笑う余裕もない。
体を折って激しき咳き込む。
「まさか風邪引くなんて・・・ごめんね、早く見つけ出せたらよかったんだけど」
「雪の中に埋まってたなんてな・・・」
ディクスとナチがスティングを哀れむように見る。
スティングが意識を失った後も攻防は続いた。やがてディクスとナチの双方が日ごろの鬱憤を晴らした頃、スティングが行方不明になっているのに気づいたのだ。
雪の下敷きになっているのは分かったが、どこにいるのか分からず・・・結局夕方までスティングは遭難し、結果、ひどい風邪をひいてしまったというわけだ。
ちなみにセカンダリの鼻を使えばすぐに済んだのかもしれなかったが、セカンダリが誤ってスティングが埋まってるかもしれない場所を踏んづける可能性があったため、三頭は館で留守番だった。
「早く良くなってね」
「食べたいものがあったらなんでも言えよ」
二人の言葉にスティングはかろうじてうなずいた。
「ゴホゴホッ」
新年早々、雪に埋まって風邪をひいたスティング。
この年での行く末を案じずにはいられなかったのだった・・・・・・。