D.Force SideStory
今年の最後に(2)
やがて日も落ちてしまった。
夕闇に落ちる庭園には八十体もの雪だるまが陳列されていた。
庭園の電飾にライトアップされて恐ろしいことになっている。
スティングの部屋からその光景を満足そうに見ているエリオス。さっき夕食を食べ終えたスティングも満足げだ。
「エリオス、これからどうする?」
「どうしようか・・・」
暗くなってからさらに冷え込んでしまった。こんな状況で雪だるま百体を目指すわけにもいかない。
「ねえねえ、スティング。ハツヒノデって知ってる?」
「ハツヒノデ?」
訝しげに問うスティングにエリオスは得意げに説明を始めた。
「年の一番初めの朝日を見ることだよ!お正月の醍醐味なんだって」
「ふーん」
興味なさそうに反応したスティングにエリオスが怪訝そうな顔をする。
「どうせスティング明日も何もすることなくて暇人なんだろ?」
「エリオスもじゃないか」
「そのハツヒノデっていうの見てみない?」
「やだ」
名案とばかりに言ったエリオスにスティングは即座に反対した。
「寒いし、暗いからいやだ」
腕を組んでそっぽを向いてしまった。
「寒いって、宮殿の中からだから大丈夫だよ。それに暗くたってスティング、光の術使えるようになったからいいじゃないか」
嫌がるスティングをあの手この手で連れ出そうと試みる。
しかし、エリオスにも切り札以外、誘いの言葉が尽きてしまった。
「スティング・・・」
「僕は行かないよ」
「・・・・・・知ってる?ゴキブリってね、大晦日の夜に大宴会するんだって。それで、ご馳走を探すために一人きりで寝ている人の部屋に忍び込んでカサカサやってるんだって」
エリオスの言葉にスティングの表情が強張る。
「そして十二時を過ぎると、今度は新年会だって、部屋で大運動会するんだってさ。ベッドの下とかクローゼットの中を大量のゴキブリたちが走り回るらしいよ」
スティングの頭の中に自分のベッドの下をリレーしている黒光りしたゴキブリたちの光景が浮かび上がる。
そのすぐそばでは、それを観戦しているゴキブリの群れが、あさってきたご馳走を歓声をあげながら平らげる・・・
ありえない光景だが、想像力豊かな子供にはすぐに想像できる。
「ほ、本当なの・・・それ・・・」
「だから、部屋にこもってないでハツヒノデ見に行こうよ!」
「うん、行く!早く行こう!早くしないと日が昇っちゃうよ!」
ゴキブリ効果で勢いづいたスティングは、エリオスの手をとると足早に部屋を出て行ってしまったのだ。
半ばパニック状態のスティングは宮殿をむやみやたらに走っていた。当然エリオスも巻き添えである。
最後の切り札を使ってスティングを部屋から出したのはエリオスではあるが、ゴキブリ効果が効き過ぎたと、後悔し始めていた。
まだ日の出には早いと何度言っても今のスティングには聞く耳持たず。
絶対に部屋に戻ろうとしなかった。
「スティング、ちょっと待って!ちょっと休もう!」
ようやく立ち止まって息をつく。
スティングも立ち止まるが、あたりをやたらと警戒して落ち着かない。暗い影を落としている壁際にはもしかしてご馳走を狙ってゴキブリたちが走っているのではないかと気が気ではないのだ。
―――――― 嘘だって言ったほうがいいかなぁ・・・
殺気立っても見えるスティングにエリオスがそう思う。けれど、嘘だとわかればスティングはすぐに部屋に戻ってしまうだろう。
これでは初日の出は見れない。
「エリオス、ハツヒノデってどこで見たほうがいいの?」
「うーんと、太陽がよく見えるところ・・・かな」
自信なさ気に答えた。
「太陽がよく見える・・・?宮殿にそんな場所あったっけ?」
「太陽は東から昇るんだよね。そうだ!東の塔は?あそこだったらデルタでも一番高いし、ハツヒノデもよく見えるはずだよ!」
エリオスの意見にスティングもうなずいた。
「そうだね。じゃあ、東の塔に行こう!」
そうして二人は誰もいない長い廊下を再び歩き始めたのだった。
「・・・・・・と、まあ、僕はエリオスにだまされてまんまと初日の出を見ることになったんですよ」
「ゴキブリの運動会・・・」
スティングの話を聞いていた二人がつぶやく。
「エリオスさんって意外に冗談が好きなのね・・・」
「小さい頃の話ですから。僕、色々だまされたんですよ。僕もだましましたけど」
楽しそうに言う。
「結局寒い中、迷いに迷ってなんとか東の塔にたどり着いて、凍えながら初日の出は拝めたんですけど・・・」
「それからどうかしたのか?」
「初日の出を見た後、部屋に戻ろうとしたんですけど・・・迷いに迷ってたどり着いた場所ですから、そこからどうやって自分たちの部屋に行きつけばいいのかわからなくて、結局朝になって兄上が僕たちを見つけ出すまでずっと迷い続けてたんです・・・」
恥ずかしそうに笑った。
「二人とも馬鹿ですよねー」
声には出さないが、ディクスとナチの二人は心の中で力強くうなずいた。
「これが初めて初日の出を見た思い出ですね。危うく宮殿の中で迷い死にするところでした。ちなみにそれ以来一度も初日の出は見てませんけど・・・」
「じゃあ今度も東の塔に登って帰りに迷ってみるか?」
意地悪そうに言ったディクスにスティングは苦笑しながら首を振った。
「というか、俺は雪だるまを八十も作ったお前達の気が知れん」
「結構頑張りましたよ。ああ、そうそう。ゴキブリの話しのお返しに、作った雪だるまを外に放置していたままにすると夜中に雪だるまたちが襲ってくるって言ったらエリオス泣きそうな顔してましたけどね」
「お前ら仲がいいんだか悪いんだかわからんな・・・」
「なんだか可愛いわね。二人ともそんな話を信じるなんて。わたしもディクスには散々嘘をつかれたけど、小さい頃はそれが本当の話しなんだって、すごく真面目に捉えてたんだもん。もし、スティングみたいにゴキブリが大運動会してるなんて言われたらもう、部屋中殺虫剤撒き散らしてるかも」
―――――――― 実はゴキブリの話が嘘だってわかっても、部屋中殺虫剤まいたんですよね・・・
ナチの冗談が実は過去、現実にあったスティングは一人心の中で告白した。
「でも、東の塔っていうのは、朝日がよく見えるのか?」
「ええ、そうです。とても綺麗な朝日でしたよ」
「じゃあ、今回の初日の出は本当に東の塔行ってみるか・・・。いくらなんでももう、場所わかってるだろう?」
「もちろんですよ、任せてください!」
スティングは胸を張って答えたのだった。
「ところで、小腹すかないか?」
唐突にディクスが訊いた。しかし、さっき年越しそばを食べたばかりのはずだが・・・
「実はこんなの作ってみたんだ」
いいながらテーブルの上に置いたのは和菓子だった。
季節の草木や花をかたどったさまざまな菓子が皿の上に並べられていた。
「うわー、綺麗ー!ディクスこんなのもいけるんだー」
珍しく感激しているナチにディクスは得意そうだった。スティングも同じだ。目を丸くして和菓子を見ている。
「よく作りますねー、こんな凝ったものを・・・」
「実は王立図書館で色々見てたら和菓子の本があってさ。面白そうだから作ってみたんだ。緑茶によく合うってさ」
そしてどこから取り出したのか、自家焙煎の緑茶。
「渋いお茶に、甘い菓子はよく合う~」
湯飲みに茶を注ぐと、適当な和菓子を一つ手に取り、ほおばった。茶の苦味と和菓子の甘さがなんとも言えない。
ナチとスティングも一つずつ手近な菓子を手に取った。食べるのがもったいないのか、いろんな角度から眺めている。
「ケーキとかもデコレーションしたの綺麗だけど、こういうこじんまりとしたお菓子も素敵ね」
「趣があるってこういうものの事を指すんでしょうね」
そしてようやく口に入れる。最初の一口は甘すぎるほどだが、すぐにすするお茶の渋みがそれを打ち消してくれて口がすっきりする。
そしてほのかに残る菓子の甘み・・・
「コタツにみかんもいいが、ここにはコタツはないからな。だから和菓子」
ディクスが言うと他の二人も共感したようにうなずいた。
「大晦日って毎年憂鬱に過ごしてたんですけど、こんなにのほほんとした大晦日なら大歓迎です」
ほーっと息をつきスティングが言う。
「そうかそうか、それは良かった。俺も作った甲斐があるよ」
茶をすすりながらディクスが満足げに言った。
「でも、本当にあと少しで今年が終わっちゃうね」
壁にかけられている時計を見てナチが感慨深げに言う。あと三時間ほどで来年だ。
「うんうん、今年は本当にいろいろあったな。特に・・・」
ディクスが言いかけると、ディクスとナチの二人が菓子をほおばっているスティングを凝視した。
「え、なんですか?」
「今年の一大事。女だと思っていたら実は男で、しかも王位継承候補者が俺たちにくっついてきた・・・ってこと」
「そ、そうですか・・・じゃあ僕は逆にディクスとナチについて行ったことですね」
「わたしはあこがれのラグーンに行ったことかなぁ。本当に楽しかったし。あと、エルダスも結構楽しかった!」
三人がそれぞれ今年の思い出を口にする。
「また三人で旅が出来るといいな」
「うん、そうだね!」
「僕ももう一度三人で広い世界を堪能してみたいです。そして今度こそエルダスに行けたらって思います」
時間は進んでいく。
やがて時計はあと少しのところで十二時を差そうとしていた。
「来年もよろしくね!」
「来年も俺の料理堪能しろよ!」
「来年も迷惑かけますけど、よろしくお願いしますね!」
そして、時計の針はいよいよ十二時を差し、新年が幕を明けたのだった。