D.Force SideStory
主婦になった主夫
「ソウルラージュかぁ」
わたしは、手につまんでいるぎざぎざの葉っぱをくるくる回した。
どこから見ても、ただの緑色の葉っぱ。だけど、すごい力を秘めてるんだって。
この葉っぱに念を込めた後、枕の下にでも敷いて寝ると、念が夢になって出てくるのだそうだ。
「それって、夢をコントロールできるって事かな?」
本当かどうか分からないけど、珍しい葉っぱもあるのねー。
貴重なものらしいが、扱いはテキトーに、葉っぱをくるくる回しながらわたしは応接間に向かった。
応接間を覗くと・・・いたいた。ディクスがソファに寝転がりながら雑誌読んでいる。
普通に読んでいるならまだいいけど、どうして料理の雑誌を見ながらにやにやしてるんだろう?
もしかして、料理の本を読んでる振りして、変な本でも挟み込んでるんじゃないだろうか?
「・・・ディクス」
「うわぁっ!!」
べつにそっと近づいて声を掛けたわけでもないのに、ディクスは必要以上に驚き、大声を上げてソファから転がり落ちた。
・・・この驚きよう。まさか、本当に料理の本じゃなくて――――――
「驚かすなよ!」
ディクスは身を起こしながら怒ったように言う。
「名前を呼んだだけじゃない。ディクスこそ雑誌見ながらにやにやして。何読んでるのよ?」
ディクスにとられる前に、床に落ちている本をさっと取り上げた。
「あっ!!」
すると、ディクスは慌てたように声を上げた。
・・・この反応は・・・いよいよ怪しい!
ディクスが手を伸ばして本を取り返そうとしたのをかわし、一歩退いて本を開く。
「ったく、昼間からこんな本読んで」
ぱらぱら
本のページを余す所無くめくっていく。
ぱらぱら・・・
・・・・・・あれ?
「かーえーせ!」
わたしが本を食い入るように見ていると、ディクスに取られてしまった。
おかしい・・・一応ページは全部確認したけど、怪しいページは・・・もしかして、隠された!?
訝しげにディクスを見ていると、ディクスもこちらを訝しげな表情で返した。
「・・・なんだよ」
「どうしてその本見ながらにやにやしてたの?」
単刀直入に訊く。すると、ディクスは一瞬ひるんだ表情を見せた。
わたしの予想は確信に変わった・・・が。
「いや、ここのページがさ」
ディクスは、再びにやにやした・・・というか、ものすごく嬉しそうな表情で、あるページを示した。
「料理の芸術」
ディクスが開いたページには、色とりどりの料理が並んでいた。
美味しそうな料理だが、それだけではない。料理の隣に、果物で作られた、それは大きな竜や鳥の像があったのだ。
おそらく、ディクスはこの果物で作られた像を見て、にやにやしていたのだろう。
「な?すごいだろ」
と、満面の笑みだ。
・・・・・・これを見てたんだ・・・怪しい本じゃなくて、この料理の本を見て、純粋に喜んでたんだ・・・!
ある意味ショックだが、ディクスらしいといえばディクスらしい。
料理の本だろうが、怪しい本だろうが、どちらを読んでにやにやしてても、わたしはひくけど。
「・・・良かったね」
「ああ!」
わたしの皮肉も通じず、まるで子供のような笑顔のディクス。
ディクスの主夫も、ここまで来たのか・・・・
「それとさ、ほら、これ!どんな汚れも一発で落ちるんだってさ」
と、今度は別のページを開いて見せてきた。
・・・・・・汚れやすい台所の油汚れもたちどころに綺麗さっぱり!・・・だって。
「いいよなー。俺、いつもガス台の掃除に苦労しててさ。しかも、この洗剤、床とか壁とか、いろんなところに薄めて使えるんだってさ。欲しいよな!」
いやいや、わたしはぜんぜん欲しくないんだけど・・・
「どうしようかなぁ、買おうかな」
と、わたしがじと目で見ているのに気づかず、ディクスは恍惚とした表情だ。
・・・・・・はぁ・・・
「ん?どうした?」
「別に・・・」
ため息にはさすがに気づいたのか、問いかけてきたディクスにわたしは首を振った。
・・・なんかもう、本当に主婦になったら?って感じがするわ。
ディクスが女の人だったら、すごく良い主婦になってたんだろうけど。
うっとりしていたディクスだったが、ふと何かに目を奪われ、不思議そうな表情を見せた。
わたしの手元を見ているようだが・・・
「ナチ、それは?」
わたしがくるくる回していた葉っぱを指差し、ディクスは首をかしげた。
「ああ、うん、これ?」
「葉っぱ?」
「うん、そう。とても貴重な葉っぱなんだって」
ディクスは葉っぱを取ると、まじまじと見た。
眺めても、本当にただの葉っぱなんだよね・・・
わたしと同じ院生のフィルジアさんから貰ったんだけど。
「貴重な・・・へぇー」
「そう言う事!ソウルラージュって言って・・・欲しいならあげるけど?」
「いいのか?」
「うん、良いわよ」
貴重な葉・・・らしいのだけど、いまいち価値がわからないので、ディクスにあげることにした。
ディクスはソウルラージュの事を知っているのか、その葉を手にして嬉しそうにしている。
いつも家事で大変(いや、喜んで?)だろうから、たまにはいい夢でも見て欲しいしね!
「ディクス、ちょっと出かけてくるね!あ、夕方くらいに帰ってくるつもりだから」
「夕方?夕飯時までには帰って来いよ」
「はいはい」
どこまでも主婦じみているなと思いつつ、わたしは館を出たのだった。
「野菜たくさん貰っちゃったね」
わたしが抱えている段ボール箱には、たくさんの野菜が詰め込まれていた。
そして、隣を歩くスティングが持つ段ボール箱も、さらにたくさんの野菜が。
「レイルの奥さんの趣味が家庭菜園で、時々こうやってくれるんです。今回は、ディクスが料理好きだって事を知っていたから、こんなにたくさんくれたんでしょうけど」
そう。このたくさんの野菜はレイルさんから貰ったものなのだ。
本当にたくさんの新鮮な野菜で、最初はこんなに貰えませんって断ったんだけど、レイルさんはディクスにぜひってくれたんだよね。
でも、その野菜もつやがあって、美味しそう!
これはディクスに美味しく料理してもらわないとね!
「うん、ディクスも喜ぶと思う。だって、主婦だから」
言うと、スティングは笑った。
「ディクスが女性だったら、素敵な奥さんになるでしょうね」
「そうなのよねー。誰かお嫁さんに貰ってくれないかなぁ。良かったら、スティングいらない?喜んであげるけど?」
「いりません」
間髪いれず、スティングにそう返されてしまった。
「残念だわ」
「それより、もう着きますよ」
あ、ほんとだ。
野菜に気をとられて気づかなかったけど、いつの間にか館の明かりが見えていた。
わたしはなんとなく腕の時計に目をやった。時刻はもうすぐ八時を指そうとしている。
"夕飯時までには帰って来いよ"
ディクスの言葉が思い出される。
・・・・・・門限にはちょっと遅れたけど・・・いいわよね、野菜お土産に帰るんだし!
「どうかしました?」
「ううん、なんでも!さ、早く行こう?ディクスが料理を並べて待ってるわ。スティングも食べていくでしょ?」
「ええ、是非」
ようやく館の扉までやってきた。
野菜の入った箱をいったん下ろし、スティングは重い館の扉を開けた。
「こんばんわー!」
「ディクスー、帰ったよ~」
と、スティングが館に一歩足を踏み入れた、その時だった。
「何時だと思ってるの!?」
ディクスの黄色い声。
そして――――――
パンッ!!ドグッ!
ディクスの平手打ちがスティングの左頬に決まり、続く右ストレートがまたまたスティングの腹を見事に捉えた!
「ぐあっ!」
たまらず、スティングは後ろに吹き飛ばされ、玄関先に仰向けに倒れた。
「きゃあああっ!スティング!」
わたしは野菜の入った箱を投げ・・・出さずに、ちゃんと地面に置いてからスティングに駆け寄った(だって、野菜に傷がついたらもったいないし・・・ね?)。
「大丈夫!?」
スティングは腹を押さえ、うめきながら体を起こした。
あぁ・・・、スティングの頬が赤くなっちゃってる。痛そう!
「ちょっと、ディクス!!・・・って、ドア閉めてる」
いきなりスティングを殴ったディクスに文句を言おうとしたが、ディクスはすでに館の扉を閉めてしまっていた。
「どういう事なの?開けてよ、ねえ!」
すぐにディクスを追い、話をしようとしたが、扉に鍵がかかっていて開かない。
・・・なんなの!?
「ごめん、スティング。痛かったでしょ?」
わたしはもう一度スティングに駆け寄った。
「ええ、・・・大丈夫です。でも・・・」
スティングは心配そうに扉に目を向けた。ディクスが顔を出す気配はない。
「どうしてでしょう?すごく怒っていたようですけど」
「・・・うん。すごい剣幕だった。なんであんなに怒ってるんだろう・・・」
考えてもさっぱりわからない。
それに、どうしてスティングを殴ったりしたのか・・・
「僕、一つ気になるんですけど、ディクス、"何時だと思ってるの?"って言ってましたよね」
「うん。で、スティングを"平手打ち"したんだよね」
・・・・・・ディクスの口調といい、平手打ちといい・・・なんだか・・・
「ねえ、どうしたの?ドア開けてよ!美味しい野菜も貰ってきたんだよ!」
扉をたたいてディクスに話しかけるが、ディクスは無言だ。
「ねえってば!」
「・・・今、何時だと思ってるの?」
ようやく声が・・・って、やっぱり扉は閉めたままだけど、ディクスはそう言った。んー、声からすると、やっぱり怒ってるみたいなんだけど・・・
「えっ・・・まだ、八時・・・前・・・」
一応、時計を確認しつつ、わたしが答えると、扉の向こうから深い深いため息が聞こえてきた。
「あなたは・・・本当に。こんなに夜遅くまで出歩いて・・・」
・・・夜遅く?
夜遅いって・・・八時前だよ?
「ナチュラル、まだ未成年なのよ。それなのに、こんなに遅く帰って来るなんて・・・・・・」
まあ、確かに未成年ではあるけど、こんな時間に帰ってくるのは当たり前なのに。
「ナチ、やっぱり、ディクスの様子がおかしいですよ」
わたしの後ろで会話を聞いていたスティングが耳打ちする。
「うん、おかしい。口調がなんだか・・・・・・」
『お母さんを心配させていいと思ってるの!?』
ディクスの叫びが耳に届いた。
"お母さん"・・・?
「僕・・・主夫かと思ってたんですけど、本当は主婦だったんですかね」
「・・・・・・・・・・」
呆然としているわたしに、スティングは楽しそうにそう言って来た。
「って、待ってよ。ディクスはわたしのお母さんなの!?」
「そうみたいですね」
「・・・・・・・・・」
爽やかなスティングの笑顔が、他人事だと告げている。
「あはは、そんなに絶望的にならなくても・・・・・・」
『スティング!あなたもあなたよ!子供を連れて一体どこをほっつき歩いてるのよ!』
・・・と、ディクスの更なる叫びが・・・。
「旦那さん?」
笑いを堪えつつ、問うと、案の定、スティングは笑顔のまま固まっている。
「――――――」
「良かったねー、お嫁さんじゃなくて。」
「ええ、良かったですー・・・って!そんなこと言ってる場合じゃないですよ!僕が旦那でナチが子供扱いになってるんですよ!」
「はっ!そうだった!ディクスとスティングの子供役なんて有り得ない・・・!」
だだっと扉に駆け寄り、思い切り叩いた。
「ディクス!どういうことなのか説明してよ!なんでわたしがディクスの子供でスティングが旦那なのよ!一般的にはスティングが妻で、ディクスが旦那で、わたしは赤の他人が正論じゃないの!?」
「ナチ、論点ずれてます・・・」
わたしの背後でスティングが突っ込むが、この際無視!しばらくして、ディクスはまた返してきた。
「なんてこと言うの、あなたって子は・・・・・・。あなたの教育が悪いからそんなにぐれた娘になってしまったのよ、スティング!」
と、何故か話題がスティングに飛び火する。
「・・・・・・ディクスの頭の中では、わたしがぐれた子供になったのは、"スティングの教育が悪いせい"なんだ・・・」
「ど、どうしてこんな事に・・・」
笑っていたスティングの顔が深刻になっている。これはもう、わたしも、スティングも他人事じゃない。
「うーん・・・、頭でも打って、本当の主婦にでもなっちゃったかなぁ。もう一発頭に衝撃与えたら治ったりして」
「だとしても、中に入れてもらわないと殴るものも殴れないですよね。完全に閉め出されてますし」
ディクスを殴る事前提で話を進める。
硬く閉ざされている扉に目をやる。
これは、ディクスを説得して、開けて貰うしかないのだが・・・
「仕方ないわね・・・」
「何か策があるんですか?」
「―――――― お母さーん、ごめんなさーい!これからちゃんとするから、許して!!」
いきなり叫んだわたしに、スティングはぎょっとした顔を見せた。
・・・そりゃそうよね・・・これで気が触れたと思われても仕方ないし。
「ほら、スティングも!」
「えっ、えぇっ!?」
「ディクスをなだめて館に入れてもらわないと、殴れないでしょ!だから、ほら、早く!」
"父親として"許しを請うように言う。
しばし、真顔でわたしの顔を見つめるスティング。そして、一つ深呼吸をすると、扉に向かって声を上げた。
「僕が悪かった、ディクス!許してくれ!」
スティングの渾身の叫びに思わず笑いそうになる。
これでディクスは中に入れてくれ・・・
「あなたはいつもそればかり・・・まったく改心してないじゃないの!」
しかし、予想に反し、ディクスは怒りの言葉を放った!
「ディクスの中のスティングって一体どんな旦那さんなんだろうね・・・」
「・・・・・・」
スティングは無言のままうなだれている。
すると、ディクスのお小言が始まった。
「私はいつも家で一人で苦労して・・・」
「楽しく主婦してるんじゃないんですね・・・」
少し驚いているスティング。それはわたしも同意だ。
「晩御飯を作っても、あなたはいつも残業で・・・」
「なんだかリアルな設定ね・・・」
ディクスの事だから、毎日楽しく料理をして、うきうきしながら旦那様を待ってるってイメージだったんだけど、意外にもそうではなかった。
「たった一つの心の支えのナチュラルもぐれちゃって・・・」
・・・で、最後はわたしに行き着くのね・・・
「わ、悪かったよ・・・。これからは家庭第一にするから・・・」
スティングが観念したように言う。
「わたしも!お母さんとお父さんの言う事ちゃんと聞くわ!わたし、改心したの。ね、お父さんっ!?」
「えっ?あ、ああ!そうだよな、ナチュラル!そういうわけで、開けてくれ、ディクス!」
半分・・・いや、かなり投げやりなスティング。
これで駄目なら、強行突破なのだが。
「わかったわ・・・あなたたちがそんなに言ってくれるなら・・・」
がちゃっ
あぁ、扉が開いたっっ!!
「二人ともお帰りなさい!さあ、私の胸に飛び込んで―――――」
涙を流し、両手を広げるディクスの懐に飛び込む!
「正気に戻って!ディクス!!」
「元の主夫に戻ってくださいぃっ!!」
「きゃああああっ!!ドメスティックバイオレンスーッ!!」
ドガッ!!ばきっ!!
わたしとスティングの渾身の一撃。
ディクスは見事にホールに倒れたのだった。
『覚えてない・・・!?』
ベッドの上で上体を起こし、ディクスは「何も覚えてない」と言ったのだ。
ちなみに、ディクスの頬は、真っ赤に腫れ上がっている。
「・・・何も覚えてない・・・」
当然、わたしとスティングは見合わせた。
やはり、ディクスは日ごろの疲れが祟って、精神的ダメージを受けてしまったのだろうか・・・?
「何か悪いものでも食べたんじゃないですか?」
スティングが聞くと、ディクスは首を振った。
「別に何も・・・」
結局、ディクスがああなってしまった原因はわからず、わたしはお茶でも煎れようと、厨房に向かった。
厨房の扉を開けると、ディクスの作りかけの料理の香りが充満していた。
主婦になっても、ちゃんと料理は作ってたのね。
いったい何を作っていたのかと、大きな鍋の蓋を開けた時だった。
「んっ・・・?」
具沢山のシチューの上澄みに、変な形の食材が目に入った。
それをつまんでみると・・・・・・
「この、ぎざぎざは・・・まさか・・・!」
ソウルラージュの葉っぱだ。
ディクスにあげたソウルラージュなのだが、どうしてシチューの中に・・・?
考え込んでいると、厨房にスティングもやってきた。
「どうかしたんですか?」
ソウルラージュを凝視しているわたしの所にスティングがやってきた。
「えっ・・・ああ、うん。ディクスにこれあげたんだけど・・・香草と間違って料理に入れてたみたいで」
シチューに煮込まれてしまったソウルラージュをスティングに渡す。
「・・・このぎざぎざ・・・もしかして、ソウルラージュじゃないですか?」
「知ってるの?」
「知ってるも何も・・・とても貴重な葉っぱなんですよ。これを枕元に置いて寝ると、この葉に念じたものが夢に出てくるんですが・・・。ディクスはこれを煮込んだんですか?」
どこか緊迫した表情でスティングが問う。
・・・シチューに入っていたから、煮込んだのは間違いないと思うんだけど・・・
わたしがうなずくと、スティングはソウルラージュをじっと見て、考え込んでしまった。
何かあるのだろうか・・・?
「と言う事は、味見もしてるということですよね」
スティングは、「これで感覚がおかしく?」とか、「幻覚を?」とか、いろいろつぶやいている。
深刻そうな顔は変わらないのだが・・・。
「ナチ」
スティングは真顔で振り返った。
「ど、どうしたの?」
「この葉っぱですけど・・・」
ずいっと近づいたスティングに、わたしは思わず後退した。
どっ、どうしたの?
「どこで手に入れました?」
「ええっ?も、貰ったの。同じ院の人に・・・」
なになになに?なにかまずかった・・・??
「ナチ、この葉っぱですけど」
「う、うん?」
「これは、デスラージュですよ!」
・・・デスラージュ?・・・・・・デスラージュ!?
スティングの言葉に、わたしは驚いて口をパクパクさせた。
「強力な麻薬の一種です。ソウルラージュと対を成すものですが、この葉に念を込め、葉を炊いたりして成分を体内に吸収させると、その念が、成分を吸収した人に影響を及ぼすんです」
知ってる!知らないはずがない!だって、これって違法だもの。
ソウルラージュは夢にしか現れないけど、デスラージュは、その念が本人に直接影響する効力を持つ。
麻薬の一つと考えられていて、この葉を育てる事はもちろん、売買したりすることが禁じられている葉っぱだ。
「ソウルラージュとよく似た形なので、間違えられる事も多いと聞いたのですが・・・。ディクスの、今日の症状からも考えて、これはデスラージュと考えて間違いないでしょう」
うわわっ!ディクス、それを食べちゃったんだ・・・!
でも、どうして主婦に・・・?
・・・・・・あぁっ!!
「ああっ!」
思い当たることがあり、わたしは思わず声を上げてしまった。
「ど、どうかしました?」
「えっと、ううん、なんでも・・・!」
わたしは、今日の昼に、ディクスと話していた時の事を思い出していた。
"・・・なんかもう、本当に主婦になったら?って感じがするわ"
ソウルラージュ・・・いや、デスラージュを手に持ち、わたしは強くそう思った。
その念がデスラージュに写ってしまったのだろう。
そして、その念が込められたデスラージュをディクスは煮込んで・・・
主婦になってしまった。
「・・・・・・」
「ナチ、すみませんけど、僕、宮殿に戻りますね。このデスラージュの出所を突き止めないといけないので」
「ああ、うん。そうだよね、あはは」
「色々聞きに来る事もあるかと思いますけど、その時はよろしくお願いします」
シチューの絡まったデスラージュを片手に、スティングは大慌てで館から出て行ってしまった。
厨房に残ったのは、呆然とした表情のわたし。
「いや、でも、ディクスは念願の(?)主婦になれたんだし!」
何気なく、まだ湯気の立つシチューに目をやる。
もし、このシチューをわたしとスティングが食べていたら?
わたしはいいとしても、スティングは一体どうなってしまうのだろう?
で、誰が旦那役で、誰が子供役に?
かなりどうでもいい事を、しばし、本気で考えてしまった・・・。
後日、デスラージュを売りさばいていた一団は逮捕されたとの連絡が入った。
もちろん、この事はディクスに言っていない。
そして、ディクスが主婦だった事も。
この事件は、わたしの中に永遠に葬られる事となったのだった。
「ほらほら、これ!ディクスの欲しがってた洗剤」
わたしは満面の笑みでディクスに例の洗剤を渡した。
「ああっ!・・・でも、どうして俺に?」
「いやー、ディクスの快気祝いというか、お詫びというか・・・いつまでも、素敵な主夫でいてね!」
欲しがっていた洗剤を押し付けられ、わけの分からないながらも、ディクスは嬉しそうに洗剤の取扱説明書を読んでいた。
え?あのシチュー?
もちろん、即処分。ディクスには、わたしとスティングの二人で食べたって嘘ついたけど・・・。
味見をしただけであれほどの効果だ。もし、普通に食べていたら・・・?
ディクスが、本当に"お母さん"にならなくて良かったと、わたしは心の底から安堵したのだった。