D.Force SideStory
聖夜の贈り物(2)

――――――― そして、現在。
「今になって気づいたけど、このマフラーって結構難しい編み方してるのね・・・」
白いマフラーをにらみながらナチはつぶやいた。ナチの手にはディクスの編んだあのマフラーが握られていた。
そしてナチのもう片方の手には編みかけの紺色のマフラー。色こそ違うが、その模様はディクスが十年前に編んだものと全く同じだ。
「頑張れわたし!あともうちょっと!」
気合を入れると、あと少し出来上がりそうな新しいマフラーを再び編み始めたのだった。
やがて日が落ち、町はクリスマスのイルミネーションで一層輝き始めた。
目を酷使して真っ赤にしているナチもようやく部屋から出、一階に下りてきた。それと同時にとても香ばしい香りがナチの元に届いた。
「んー、いい香り!お腹すいちゃったなぁ」
一番温かい場所である、暖炉の前にセカンダリたちは身を寄せるようにして集まっていた。
「もうそろそろできるかな?」
ホールのソファに腰をかけた。ちょうどそのときだ。
「ナチー、運ぶの手伝ってくれー!」
厨房が呼ばれる声が聞こえた。
「はーい!」
ナチは元気に答え、そして厨房に向かったのだった。
大量の料理を運び終え、二人は席に着いた。セカンダリたちもお行儀よくちゃんと座って目の前の料理に釘付けになっている。
「じゃあ、今年も・・・メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
ディクスはワイン、ナチはアルコール度数が極力低いシャンパンのグラスを互いに重ねた。
ローストビーフに、色とりどりの温野菜。温かいコーンスープに焼きたてのパン。ホクホクポテトのグラタンに鮭のムニエルレモン添え、野菜のマリネ、魚介類のフリカッセ・・・そして、ディクスの得意分野、デコレーションケーキ。
ふわふわの生クリームの上にはたくさんの果物が添えられていた。
「毎年豪華になってるわよねー、食べるのがもったいない!」
「いや、絶対食べろよ」
言ったナチにディクスは凄みを利かせて返した。
――――――― あの、ほめたんだけど・・・
とりあえず、手近にあったムニエルに手を付ける。レモンの酸味がとても合う逸品だ。
「本当に美味しい~。ディクスがお兄ちゃんでよかったぁ」
素で言ったナチの言葉に、ディクスは驚き、そして恥ずかしそうにうなずいた。
「・・・・・・あのね、お兄ちゃん」
久々にお兄ちゃんと呼ばれ、ディクスはやや反応遅げに顔を上げた。
「これ、クリスマスプレゼント」
紙袋を差し出したナチに何故かディクスの顔が蒼白になった。
「ど、どうしたの?」
「すまん・・・」
ぽつんっとつぶやく。
「プレゼントの用意・・・すっかり忘れてた・・・」
奈落の底に落ちたかのような落ち込みぶりでディクスは謝った。
しかしナチはそんなディクスに笑っただけだった。
「何言ってるの!この料理が素敵なプレゼントじゃない。本当に感謝してるんだから。だから、はい」
紙袋を手渡す。
ディクスは手渡された紙袋を開けた。そして・・・
「おまえ、これ・・・」
「ふふっ、わかる?」
ナチにディクスはうなずいた。
十年前、まだ小さかったナチに初めて編んだ白いマフラー。そして自分の手には紺色だが全く同じ形のマフラーがあった。
「すごく苦労したのよ。教えてくれる人いないんだもん」
呆然としているディクスにナチは言った。
「・・・・・・もしかして、気に入らなかった?」
黙っているディクスにナチは恐る恐る訊いた。
「まさか・・・!―――――― 違うんだ。嬉しすぎて・・・だから・・・」
それに、色々思い出して・・・
再びディクスは黙ってしまった。そんな兄の思いを汲み取ったのか、ナチは笑顔で答えた。
「良かったぁ!気に入ってもらえて」
「ありがとう」
「ううん。わたしこそ、美味しい料理いつもありがとうね。ほら、早く食べないとディクスの自慢の絶品料理が冷めちゃうよー」
「あ、ああ、そうだな・・・!」
手編みのマフラーを丁寧にたたんでひざに置き、そして二人は再び料理を楽しみ始めたのだった。



「早いね、あれから十年なんだ」
暖炉の火をまぶしそうに見つめながらナチは言った。
「ん・・・そうだな」
少し離れ、ナチと同じように椅子に深く腰掛け、暖炉の火を見つめながらディクスは返した。
首都デルタとはいえ、二人のいる館は宮殿内の離れた場所。外は耳が痛いくらい静かだ。セカンダリたちも美味しい料理にお腹一杯になったのか二人の後ろで丸くなって寝ている。
「わたしも一人前になったわよねー」
「・・・・・・」
ディクスは何も答えなかった。
「うんって言ってよ・・・」
「お前はまだまだ半人前だよ、半人前!」
「そんなに強く言わなくてもいいのに・・・いいもん、そのうち料理だって術だって頑張ってディクスに追いつくんだから」
「うんうん、頑張ってな」
あまり相手にしてくれないディクスにナチは頬を膨らませた。
そんな時だ。
「すみませーん」
ホールのほうから聞きなれた声が聞こえた。
暖炉の前を離れ、ホールに行く。するとロングコートを羽織ったスティングと・・・
「こんばんは」
エリオスがいた。
「すみません、夜更けに」
「ううん。だってまだ九時だもん。寝るには早すぎよ」
笑ったナチの後ろからアクオスがスティングに首を伸ばした。暖炉の火にあてられて暖かくなった頭をなでてやる。
「パーティー楽しかったですか?」
ナチがエリオスに訊くとエリオスは肩をすくめた。
「いや・・・。兄上や姉上は別としても、宮殿の重役、ご老人ばかりだ。それに堅苦しい食事会じゃ楽しいものも楽しくないさ」
「ナチたちはもうご飯済ませたんですか?」
するとディクスが親指を立てて満面の笑みを浮かべた。
――――――― 最高ってことですね
「いいなぁ、僕もディクスの料理食べたかったですよ」
「あ、でもケーキは残ってるんだよ。食べる?」
「食べまーす!」
嬉しそうに答えたスティングとは逆にエリオスは首を振った。
「それより、雪が降ってるんだ。少し積もってるくらいなんだが・・・」
そしてナチに目配せした。
「ナチュラル、庭園のイルミネーションが綺麗なんだ。一緒に・・・」
「じゃあ、僕も行きます」
「俺も見たいな」
エリオスが皆言い終える前にすかざすスティングとディクスが手を上げた。
――――――――
「じゃあ、皆で行こう?」
ナチの言葉にエリオスはがっかりした様子でうなずくしかなかった。


コートを着てもイヴの夜は冷える。雪もだいぶ積もったようで、木々が白く装飾されているようだ。
「わーっ、本当に綺麗!」
庭園の明かりを見つけると、ナチは走り出した。
エリオスが勧めるだけあってとても綺麗だった。町のようにいろんな色の明かりがあるわけではないが、落ち着いた暖色の光が庭園を美しく飾っている。
宮殿敷地内なので、他には誰もいない。
「デルタでも一番綺麗なんじゃないかって私はそう思うよ」
嬉々としているナチの横に来てエリオスが言った。
「ええ、本当に綺麗ですよ!わたし夜に家から出ることってないからこんなに近くに綺麗なイルミネーションがあるなんて知りませんでした。イヴに見れて幸せです」
「そうか、それは良かった。喜んでもらえて嬉しいよ」
――――――― 本当は二人で来たかったんだけど・・・
そう言って背後にいる残りの二名のほうを振り返る。
「ディクス、ここんとこの雪なら結構積もってるから大丈夫そうですよ!」
「お、本当だな!じゃあ・・・」
ディクスとスティングはカキ氷にかける甘いシロップを雪が積もっている部分にかけて、スプーンですくって食べていた。
「・・・・・・」
なんとも幻滅的な光景にエリオスが頭が痛くなったような気がした。
「どうかしたんですか、エリオスさん」
「いや、なんでも・・・。もう少しあっちに行こう、あっちのほうが綺麗に見えるよ」
ナチには二人の行為が見えないように背中を押して噴水のそばに歩いて行った。
噴水もライトアップされ、水しぶきが光に照らされてきらきら光っていた。光の噴水とはまさにこのことだろうと、ナチが感激していた時だ。
「ナチュラル、手を出してくれないか」
言われて手を差し出す。
するとエリオスはポケットから何かを取り出し、そしてナチの指にはめた。
「え・・・」
その銀の指輪の台座には石がはめられていた。光に照らされて・・・いや、それ自体が発光しているようだ。
「エリオスさん、これ・・・」
「メリークリスマス」
きょとんとしているナチに、エリオスは微笑みながらそう言った。
「・・・・・・ありがとうございます!」
嬉しそうに答えて、そして貰った指輪をまじまじと見た。
半透明の綺麗な石。その内部からは淡い光が漏れている・・・
――――――― ムーンパール・・・?
ムーンパールだった。ただ、通常のものとは違いかなり上質な一級品だ。表面には傷一つない。
はっきり言って相当値が張る。
「あ、あの、わたしが貰っていいんですか・・・?」
自分は何も用意していない。しかしエリオスは首を振った。
「もちろんだ。・・・私はナチュラルのおかげで今があるのだからな」
「?」
頭の中が疑問符で一杯になるが、エリオスは笑みを浮かべただけでそれ以上何も言わなかった。
「ナチー、エリオスー!」
そんな二人にスティングとディクスがようやくやってきた。
「これ結構美味しいんですよー、食べません?」
そう言ってスティングが差し出したのはガラスのボウルに入ったカキ氷だった。イチゴ味のシロップがかけられている。
「結構美味いぞ」
横からディクスが口を挟む。
「綺麗な雪なので、どうぞ」
そういってナチに差し出した。出されたボウルを手に取ったときだった。
――――――― あ・・・
スティングがナチの指に気づく。続いてエリオスを見るが、エリオスはスティングの視線に気づいていない。
・・・・・・エリオスのやつ・・・
「あ、ほんと・・・雪が細かくておいしいね」
言われるままに口に入れると、細かいやわらかい雪が口の中ですぐに溶けてしまう。
「だろ?冬にカキ氷なんてなかなかおつだよな」
言うディクスにスティングもうなずいている。
「でも・・・なんか寒くなってきた・・・」
何回か口にしていたナチは唇を震わせながらそう言った。
・・・・・・そういえば・・・
言われてディクスもスティングも急に寒さを感じ始めたらしい。腕をさすって体を温めようと必死だ。
「・・・・・・そろそろ帰るか・・・」
エリオスの言葉に他の三人がうなずいた。
「じゃあ・・・」
エリオスは一人宮殿に向かう道へ歩いて行った。
「エリオスさん、館に行かないんですか?」
「ああ、私はいいよ。おやすみ、ナチュラル」
引きとめようとしたナチにエリオスは笑顔でそう答えて行ってしまった。
残った三人はカキ氷のせいで心まで冷え切った体を温めようと館に走って帰った。
「一番乗りーっ!!」
勢いよく扉を開け、そして暖炉の前を陣取った。続いて入ってきたスティングもナチも、暖炉の前でようやく落ち着いたようだ。
「あったか~い。やっぱり冬にカキ氷なんて邪道なのよ」
「美味しいんですけどね」
スティングが苦笑する。
「うーん・・・そうだ、スープ飲まないか?作ったやつが余ってるんだ」
「是非食べたいです」
「わたしの分もお願いねー」
リクエストを受け、ディクスは厨房のほうへと向かった。
暖炉の火がとても暖かい。二人とも椅子に座らず、床に座って温まっていた。
「ところでナチ、その指輪ですけど・・・」
ナチの指にきらめく指輪を見てスティングが口に出した。
「あ、うん、これ・・・エリオスさんがくれたの。ほら、スティングがディクスとカキ氷ではしゃいでる時」
指輪を見せながら説明した。
「十年も前になるんだけど、わたし、湖で拾ったムーンパールを集めてディクスに贈ったことがあったの。そして今年はディクスが十年前にわたしにくれたマフラーを今度はわたしが編んであげて・・・そしたらエリオスさんにムーンパールを貰って・・・なんかすごい偶然よね」
「循環しているみたいですね」
ナチは暖炉にムーンパールを透かしてみた。
「これかなり上質のムーンパールよ。わたしエリオスさんに何も用意してなかったのに、なんか悪いみたい」
「そんなことないですよ。エリオスは好きでやったんですし・・・それに、僕も・・・」
スティングはポケットから取り出すと、差し出しているナチの手首に何かを付けた。
「シンプルなつくりが良いと思って・・・」
銀の輪に小さな青い石と赤い石が通してあった。
術者のナチにはすぐ見ただけでわかる。
「これって、水の輝石とドラグアイ!?」
驚いたナチにスティングがうなずく。
「実はエリオスと相談してお互い何をあげようかって話し合ったんです。同じものあげても仕方ないですから・・・それでエリオスはムーンパールの指輪、僕はその腕輪をあげようって決めたんです。渡すタイミングは決めてなかったんですけど、エリオスにさき越されちゃいました」
「本当にありがとう!すごく嬉しい!大事にするね!」
「あ、でも、ディクスには黙っててくださいね。僕ディクスには何も用意してなくて・・・」
「大丈夫よ、わたしがちゃんとあげたから!」
ナチの言葉にスティングは安心したように息をついた。
「わたしもちゃんとスティングに用意してたんだよ」
ナチは立ち上がって袋を持ってきた。そしてスティングに渡す。
「温かそうなマフラーですね!ありがとうございます!」
何の模様もない、シンプルな白いマフラーを手に、スティングは嬉しそうに言った。
「スティングにはすごく迷ったんだけど・・・」
「本当に嬉しいですよ!貰ったの初めてです。巻いてみていいですか?」
「もちろん!」
貰ったマフラーを首に巻く。
「良かった。ディクスには紺だったんだけど、スティングは白が似合うわね」
「すごく温かいですよー。本当にありが・・・」
「す、スティング・・・」
絶望的な声が聞こえ、二人は振り返った。そこにはカップを置いたトレイを持ったディクスが立っていた。
スティングのマフラーを見て愕然としている。
「これ、ナチから貰ったんですよ。すごく温かくて・・・」
スティングがマフラーを広げて見せてみた。ディクスは何も言わず、トレイを置くと、ナチから貰った紺色のマフラーを広げた。
「ふふっ、甘いなスティング」
ディクスは不敵な笑みを浮かべた。
「お前のは何の柄も入ってないまっさらマフラーだけど、俺のは手の込んだ模様付マフラーだ!」
得意満面にそう言い放った。
「そ、そんな・・・」
敗北を感じたスティングは愕然とした様子でつぶやいた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!わたしスティングのマフラー編むの苦労したんだよ!初めて編んだマフラーなんだから」
そう言ったナチの言葉にスティングとディクスの表情が入れ替わる。
「初めて、編んだ、マフラー・・・?」
途切れ途切れに言うディクス。ナチはうなずいた。
「だってディクスのその模様難しそうだったんだもん。だから先にスティングのマフラーを編み上げてからディクスの編んだの」
「ふふ、ディクス、これでおあいこってやつですね」
「くっ・・・まだまだ!このマフラーはなぁ、俺が十年前にナチに編んでやったやつと同じなんだぞ!つまり、ナチのマフラーと俺のこのマフラーはおそろい!」
「ま、まさか・・・」
スティングが再び崩れる。
「っていうか、ディクスは編み物もするんですか?」
「俺にできんことはない!編み物だって俺の分野だ!」
ナチのマフラーを編んだのが最初で最後なのだが、ディクスは言い切ってしまった。
―――――――― あー、なんかもう、主夫の鑑ですよね・・・
呆れ七割、感心二割、その他一割といったところだ。
「ふふ、参ったかスティング!」
「・・・・・・あ!でも、そのディクスが編んでくれたマフラー、白だったから・・・」
「ということはディクス、ナチと僕のマフラーは同じ色ってことですよね?」
「はっ!」
思い出したように言ったナチの言葉にスティングが息を吹き返す。ディクスは再びダメージを受けた。
「これで本当のおあいこですね」
「ううっ・・・俺はナチの兄(かっこいい)なのに・・・」
しょうもない争いをしている二人にナチはため息をついた。
「はいはいはーい。喧嘩しないでねー。ほら、ディクスの温かいスープに、美味しいケーキ。早く食べないとわたしが食べちゃうよー」
すると、二人ははっとしたようにナチのほうを見た。
「一時休戦だ、スティング!」
「次はドローではすませませんよ、ディクス!」
一体何の争いをしているのか・・・二人は互いに闘志を燃やしてスープとケーキを完食したのだった。


やがて静かな夜が訪れた。
十年前と同じように、冷たい夜空から深々と雪が降り積もっている。
あとは部屋で寝るだけと、自分の部屋のドアノブに手をかけたとき、なんとなくナチが寝ている部屋に目をやった。
十年前なら、そっと部屋に入って"サンタからののプレゼント"を置いているはずだった。けれど、時は流れ、その必要はなくなった。寂しく感じるが、これもナチが成長した証だろうと、そう思う。
暗い部屋に入り、電気もつけずにそのままベッドに入る。
ナチから貰ったマフラーを枕元に置くと、いつものように勢いよく頭を枕に預けた・・・が。
ごりっ
「!」
後頭部に感じる硬いもの。慌てて起き上がり、そして光の術を使った。
淡い光が頭の衝撃の原因を照らし出す。
カードとリボンで結ばれた包み。カードを開く。
『お兄ちゃんがいつまでも一番でありますように』
そして、包みの中には一つのムーンパールが。エリオスがナチに贈ったもののように上質ではないが、確かにムーンパールだ。
十年前、幼いナチがディクスにくれた石と同じもの・・・。
「んっ?」
さらにもう一枚紙が入っているのに気づく。取り出して読んでみた。
『最後一個しかなくて・・・残りは今度ね!』
「あいつらしいな」
思わず笑ってしまう。
今日は思わぬものがたくさんもらえたと思う。
もしかしたら今が一番幸せなのかもしれない・・・
そう、強く感じながら、ディクスはゆっくりと目を閉じたのだった。


暗い空から降り注ぐ真っ白い雪は、デルタを、そしてリスタルも同じ白に染めるように降り続けた。
その雪は何年たっても変わることなく、その地に降り、そして人々の心にその年のクリスマスイヴを刻み続けるだろう。
その思い出が何物にも変えがたい最高の贈り物なのかもしれない。
今年もディクスの胸の中に最高の贈り物を抱き、クリスマスイヴは幕を閉じたのだった。