D.Force The First Chapter
Force-1
大国エンドレス
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"―――― 何故そのようなことをなさるのです!?貴方様にいったい何が起きたと言うのですか?お答えください!" "―――――― どうか怒りを静めてください。今ならまだ間に合います。今すぐ力を封印してください!" 命を懸けた叫びにも耳を向けずそれは更なる力を解放した。 天地を震わす衝撃が辺りを襲い、辺り一帯が一瞬にして灰塵に帰す。 そばにあった小さな町が一瞬にして廃墟となった。 残るのは瓦礫と人々の死体のみ。 "―――― ああ、なんと言うことを・・・大地が悲鳴を上げている・・・悪夢だ・・・" "―――――― 我々の叫びは届かぬというのか・・・ならば、我々がすべきことはただ一つ" "―――――― それが我らのあなたへの忠義・・・" そう言うと彼らは戒めの封印を解いた。 五本の光の柱が天に向かって収束する。その光が不意に消えた瞬間、天から光が垂直に降り注いだ。 解かれた封印は大地を揺るがす力の持ち主を貫いたのだ。 だが、その一撃で倒れることはなかった。大地を隆起させるほどの咆哮が彼らを襲う。 そして、飲み込まれた。 "愚かな・・・我が力を封印するなど。この忌まわしい大地。我が力をもって浄化してやる・・・" 心臓が締め付けられるような響き。 ディオール大陸をさらに破壊しようと力を解放したそのとき、それは結晶となって砕けた。力の主はまばゆい光に包まれ、見る間に形を変え小さくなっていった。 やがて光が散った。その先は人間と同じシルエットが浮かび上がっていた。 「・・・これは・・・」 自分の体をまじまじと見た。どう見ても人間の体である。 手を見つめ眉をひそめた。 「やっかいなものだ」 初めて人間という生き物の視線で周囲を見渡す。 さっきまではあんなに近く見えた空が、山が、そして遠くに感じた大地が。今は途方もなく遠く、近い。それを十分に痛感した後、今まで自分がやったように体全体に力を込めてみる・・・が。 「・・・やはり無理か。少々あなどっていたな」 苦い顔をする。そして自分がこれから破壊しようとした大地に向かって歩き出した。 三日三晩続いた大地の荒廃の進行がようやく終わったのだ。 三大大陸にそれぞれ生息し、守護神としてあがめられる三頭。 その一頭がディオール大陸の東部に巨大な力を振るったのだ。。 竜の放った力は三日間大陸をなめつくした。 しかし、東大陸の四分の一が荒野と化した頃、その竜を使役する子竜(しりゅう)が力を分散させた。 分散された力は結晶となって各地に散り、今はただの石でしかないという。 結晶は"フォース"と呼ばれている。 そして、破壊の竜の行方は誰も知らない。 「その守護神は"死の使い"と呼ばれ、破壊の三日三晩は"死の行進"と呼ばれている・・・だ。分かったか、ナチ」 十三年前、守護神・・・ディオール大陸の竜神の力の影響を受けることのなかった土地、大国エンドレス。その王立図書館に二人の男女がいた。 古く、分厚い本を読んでいる男。明るい金髪に青い瞳の青年だ。指でページをなぞりながら、向かいに座っているナチと呼んだ女に説明している。 説明されているナチは興味深げにうなずいた。こちらも同じように金髪に碧眼を持っている。こちらは少女と表現したほうがいいだろう。 二人の座っている席の隣には荷物と剣が置かれている。この町の住人ではなく、旅をしているところ、ここに立ち寄ったと見受けられる。 「え?ディクス、人間に倒されたんじゃないの?」 ちょっと驚いたように言う。するとディクスは待ってましたとばかりに疑問にくらいついた。 わざとらしく指を振ってみせる。 「知らないやつはそう勘違いするが、人間なんかが竜神を倒せるわけがないだろ?竜神は使役する竜・・・つまり子竜に力を封じられたんだ。突然暴れだした自分の主人を見るに耐えなかったんだろうな。かわいそうに。命を駆けて必死に止めようとしたんだろうが、結局願い叶わず最後の手段を使ったんだ」 「それが子竜による力の封印・・・」 言葉を続けたナチにディクスがうなずく。 「で、そのときに分散させた力が結晶となったのがこれだ」 ポケットをごそごそすると小さな皮の袋を取り出した。きつく縛っている口を開けると、その中から小さな石をつまんだ。ただの石のように見えるが・・・ 「これがディオール大陸のあちこちに散らばったといわれてる。こんなに小さいし、まだ研究段階だからわからないけど、これは必ずなにかの力を秘めているはずなんだ。フォースの存在はデマだというやつもいるけどな」 ディクスが力む。 「それを期待して集めてるのね、わたしたち」 「そういうこと。俺たちみたいに術が使えるくらいの強い精神力がないと、フォースと普通の石と区別が出来ないからな」 「でもなー・・・なんで竜は暴れちゃったんだろうね。守護神としてあがめられてきたんでしょう?何か嫌なことされたのかな」 ・・・子供じゃないんだから・・・ 内心ディクスがつぶやく。 「さあな。人間を守るのに飽き飽きしたんじゃないのか。数千年人間たちを守り続けてさ。退屈だったとか」 ・・・ディクスじゃないんだから・・・ 内心ナチがつぶやく。 「でも、子竜たちが一番可哀想よね。主人を必死で止めようとして、死んじゃったんだから」 言いながら自分の目の前に広げられた分厚い本をめくる。 めくったページには子竜と思しき竜の絵が載っていた。彼らよりもはるかに大きな主人に仕えてる様子だ。その一頭が人間と主人の間を保っているように見える。 ほんの十三年前まではそれが当たり前だったのに、今となっては過去の話だ。 「・・・ん。そうだな。主人を守り、そして諌めるのが彼らの忠義だったんだろうし。裏切られたらつらいだろうな」 「ほかの大陸の守護神はどう思ってるんだろう。どうして止めに入らなかったんだろうね」 「さあ。自分の領域以外は関係ないんじゃないか?竜ってテリトリー意識が強いみたいだから」 ふぅん。とナチが納得するのを確認すると、ディクスは本をパタッと閉じる。そして背伸びをした。 かれこれここに来てから三時間。彼らが座っている机には古い本が山積みにされている。こんなに探し出すのも大変だっただろうが、戻すのはさらに大変だろう。 この図書館に来た目的は竜神に関する知識を得ること。そうすれば彼らが探しているフォースに関する何かが得られるのではないかと思ったのだ。 「あ〜、疲れた〜!ずーっと座ってたからお尻痛い・・・」 「ふっ、歳だな。俺は全然平気だぞ」 言ったナチにディクスが自慢げに言う。 「・・・歳だとお尻が痛くなるわけ?」 「知らん」 ジト目で見たナチにディクスは即答した。しかも自信たっぷりに。 「まあ、そんなことはいいから。本戻したら次行くぞ、次!」 手に持てるだけ本を取ると立ち上がった。しかし、ナチは驚きの表情を見せた。 「ちょっと待って!今朝宿を引き払ったからまさかとは思ってたけど・・・もしかして今日町を出るの?」 ナチが訊くとディクスはうなずいた。 「当たり前だろ?調べ物は終わったんだし・・・もう用はないからな」 「えーっ!せっかくエンドレスの首都デルタに来たんだからさ、王立記念祭見ていこうよ。絶好のチャンスじゃない。急いだってフォースはそう簡単には見つからないんだから。ね?たまにはゆっくりして行こうよ」 せっかくここまできたんだもん。ちょっとくらい羽伸ばしたってばちはあたらないわよね。フォース探してばっかでつまらないし・・・ ナチは目をきらきらさせてせがんだ。 「大国エンドレスの王立記念祭だよ?何か珍しいもの見られるかもよー?」 「・・・・・・・」 どうしよう?確かにフォースを探してもそう簡単には見つからないけど・・・けど・・・! 心の葛藤がディクスを苦しめる。が、それもほんの数秒。 俺も見てみたい・・・!! 結局初志貫徹を忘れ、もう一日滞在することにしたディクス。宿代は財布と相談しないといけないかもしれないが、王立記念祭だ。少々金銭的に心もとなくても見る価値はあるだろう。 「そこまで言うならわかった。見てからにしよう!」 ため息をつき、いかにも仕方がないという風に言って見せる。 ・・・自分も見たいくせに 口元が微妙に笑ってるディクスをナチがジト目で見る。 本心はばればれだった。 「わーぉ!やっぱすごい人ね。規模が違うわ〜」 久々のお祭り騒ぎでナチはかなりご機嫌だった。普段は暗い森や何もない荒野をひたすら歩いてるからだ。しかもディクスのほかに誰もいない。 しかし、今は誰もが一度は訪れたいナンバーワンの国で、最高の記念祭を見ているのだ。実にさまざまな衣装を身にまとった人々が通りを行きかい、踊ったりしている。パレードの音楽に負けないくらいの喝采がデルタを包んでいる。 みんなとても楽しそうだった。 二人は人ごみを掻き分け、なんとかパレードが見える位置へと移動する。 「これが王立記念祭か・・・」 ディクスは目を丸くして見ている。デルタにはこんなにも人がいたのかと感心させられるほど通りには人がひしめいていた。活気に圧倒されっぱなしだ。 「噂には聞いてたけどすごい人・・・」 誘ったナチではあったが、あまりの人の量に困惑している。背を一生懸命伸ばさないと前も見えないのだ。 「・・・じゃあ、先に昼飯行くか?」 時計を見ながら提案する。するとナチはうんうんとうなずいた。 来たばかりではあったが、二人は再び人ごみを抜けて比較的人の少ない通りに移った。 「驚いたぁ。こんなにも多いなんて思わなかった」 まだ人の集まっている大通りを見ながら言う。あのままあそこにいたら押しつぶされてしまいそうだ。 ディクスも人波にもまれたのか、手に持っていたらしいくしゃくしゃになった紙を綺麗に伸ばしている。 「まあ、王立記念祭だからな。なあナチ、昼飯のコーディネートは俺任せで良いか?」 「お昼ご飯?うん、いいよ、どこでも」 「オーケー!じゃあ行こうか!」 ナチの了解を得ると、二人は反対の道へ歩き始めた。 その場所はさほど遠くなかった。真っ白い壁の手入れの行き届いた店。いつも行くような定食屋ではない。 見るからに高そうなレストランだ。 「なんか高そうだよ、ここ・・・」 ディクスについてきたナチではあったが、節約家のディクスがこんな高そうな店に入るなんて滅多にない。緊張した様子で小声で訊いた。 「大丈夫だって」 心配をよそにディクスはそう答えた。ウェイターに案内され、三階の日差しが気持ちいいテラスへと案内された。大きなテラスからは透き通った青空が一面に広がっていた。記念祭の大音量もここではただのざわめきだ。 一度席に着いたナチだったが、ウェイターがいなくなったのを確認するとすぐに席を立ち、手すりから身を乗り出して町の中心を見た。 「うわぁ!すごくいい眺め!こんなに大きな町なんだわ」 ナチが感嘆をもらす。それくらい巨大で美しい町だった。町の真ん中に高い塔が見える。それを取り囲むように城壁が立ち並んでいた。 あれが王宮ね。一度で良いから覗いてみたいなぁ・・・ 「ねえ、ディクス。あとであの王宮に行ってみ・・・あれ?」 隣にいるものだとばかり思っていたナチは、自分が話しかけた空間をまじまじと眺めた。そして振り返る。 いつの間にかウェイターが戻ってきて、ディクスの注文をきいていた。 「以上で」 「かしこまりました」 ・・・注文終えてるし・・・ ウェイターが去った後つかつかとテーブルに歩み寄る。 「ちょっと!ディクス、人の話聞いてたの?しかもわたしだけ身を乗り出して町を眺めて・・・恥ずかしいじゃない〜!ウェイターが来たなら来たって教えてくれればよかったのに!しかも注文済ませちゃって。わたしの分はどうなったの?」 ナチは恥ずかしさで顔を真っ赤にして抗議する。 ディクスは手に持っている紙から目を離した。その先には目の前には不機嫌そうなナチの顔があった。 「・・・どうしたの?」 全く聴こえてなかったようだった。そのディクスのあまりにもあどけない表情に力が抜ける。 はあ・・・ ナチがため息をつく。そして自分もテーブルについた。 「ん?ああ、もういい。なんでもないの」 ひらひらと手を振る。その手をディクスは不思議そうに見る。 「いいの?」 ナチの顔を覗き込むように見た。そして視線がぶつかる。お互いじーっと目を離さなかった。 ・・・時々こういう表情見せるのよね、この人。子供のようなあどけない顔・・・ 「いいの」 ひとこと告げるとグラスの水を一気飲みした。ディクスはますます不思議そうな顔をする。 「ふぅん・・・あ、ほら。これ見てたんだけどさ、ここんとこ」 いつの間に入手したのかディクスが差し出したパンフレット。指差された場所を見る。 「これタウンガイド?『この町有数の名店。一流の料理を最高の眺めとともにお楽しみください』・・・あれ?この写真ってこの店のことじゃない?このドアさっき入ってきたのと一緒だよ」 高そうな店だとは思っていたがこの街有数の名店とわかりナチは驚愕の表情を見せた。 節約家のディクスが高すぎる店に入るなんて・・・!と思っているに違いない。 「でも、ここの眺めは本当に最高よね!恥ずかしいけど、思わず手すりから身を乗り出しちゃうくらい綺麗だし・・・」 今度は笑みを浮かべたナチにディクスは安堵した。 ・・・・・・良かった。何とか気に入ってくれたみたいだな。こいつにはいつも迷惑かけてるから・・・ 心の中でつぶやく。もちろん間違って高級な店を選んだのではない。昨日この町についてからずっと計画を練っていたのだ。どの店が一番喜んでくれるだろうか、と。 ナチはその事に気づいていないだろう。たまたま入った高級店としてしか認識していないかもしれない。 ま、気づいても有難うなんて言わな・・・ 「ディクス、有難うね!」 「へっ?」 思いがけない言葉にぱっと顔を上げる。目の前には満面の笑みを浮かべたナチが。 「だから、有難うって!わざわざここ選んでくれたんでしょ?」 「―――――― 忘れた」 反射的にそう答える。顔が熱くなるのを感じ、ディクスは慌てて下を向いた。 ナチが普段口にしない言葉が聞けて嬉しかったのだ。そして予想していなかったせいか、恥ずかしくなったようだ。 照れを隠すようにグラスの水を一気飲みした。 やがて運ばれた料理の数々。エンドレス特産のレム貝のバター焼きや、高級魚のムニエル、温野菜・・・普段はなかなか口に出来ない高級料理ばかりだ。 「なんか食べるのがもったいない・・・けど、いただきます!」 フォークとナイフを持ち、手始めに軟らかく煮込まれた牛肉をほおばる。程よく煮込まれた肉の柔らかさと濃すぎないソースがとても美味い。 「ん、これけっこういけるな。今度実践してみよう・・・」 どこからかディクスはメモを取り出すと口の中で分析できた限りの食材や調味料を書き連ねる。美味しい料理を食べた時はこれが常だった。 「ねえ、ディクス。ここから宮殿見えるけど、確かここの国って跡取りがいたのよね?」 「ん?ああ、いるらしいな。男が。大事な後継者だろうから箱入りで根暗なんじゃないのか」 ディクスはスプーンでソースをすくうとそれを十分に口の中で味わう。そして思いついたようにメモに走り書きした。 「へー、男なんだ。ということは王子様ね。きっと背が高くてー、さらさらヘアーで、白馬に乗ってるのよ!」 ペンを走らせていたディクスの手が止まる。見ればナチは王子様への想像を膨らませうっとりしている。 ―――――― 女ってどうしてそういう発想しかしないんだろう?? ナチの想像に予想はしていたが、的中してディクスはむっとした顔を見せた。 ・・・どうせ俺とは正反対ですよ 何故か投げやりになる。 「でもさ、箱入りだし、きっと部屋の中にこもってるんだよな。栄養のあるものたくさんたべてるだろうから太ってるぞー」 フォークで肉をぐさっと刺す。 「夢がない人ね。いいじゃない、理想なんだし。そういうイメージ持ってる人多いと思うわよ」 「そうだろうね」 ディクスが皮肉っぽく言った。そんなディクスにナチが仕方ないな。という顔をした。気を取り直して会話を続ける。 「ねえ、さっきの続き。フォースだけど。次はどこら辺で探すの?」 「ああ、次は荒野にいく。そっちの方が見つかる可能性が高いからな。それにもう大分復興して小さいけど町もたくさんあるそうだよ」 「え、もう町があるの?早いわねー・・・といっても十三年か」 「そうだな。人間っていうのはうたれ強いんだな」 苦笑する。 荒野とは竜神によって破壊された土地のことをさす。元々は小国の集まりだったが、今は"荒野"として一まとめに呼ばれているのだ。 十三年前は文字通り荒野ではあったが、このエンドレスや他国の援助もあり現在は新しい町もできているのだ。 「わたしたちもよ。すぐに立ち直って次に行く。いいことじゃない。いつまで経ってもうじうじするのはよくないわ。人生短いんだしー」 ・・・年取った事言うなー。まだ若いんじゃないか・・・? ディクスが思うが口には出さなかった。怖いから。 口は災いの元とは言うが、ディクスは身をもってその恐ろしさを経験しているのだ。しかも何度も。 たくさんの皿も気づけばカラになっていた。最後のニンジンのソテーを食べ終えると、フォークとナイフを一緒に添えて皿の端に置いた。 「美味しかった!ご馳走様でした」 満足そうにナチが言う。 「そうか、それはよかった。じゃ、次はいよいよ本日のメインイベントだな」 「オーケー!望むところよ!」 そういうと二人はレストランを早々に、デルタの王立記念祭へと再び足を運んだのだった。 さっきより人が多くなっているのは気のせいだろうか? 前を行くディクスの後を何とかついて行こうとするナチだったが、人ごみで思うように前に進めなかった。 「ナチ、見ろよあれ!すごいぞ!」 やたらと人の多い広場にやってきたディクスが歓声を上げる。何事かとナチものぞいてみたかったが人の多さに視界が悪い。しかも少しずつディクスから離れていくではないか。 「ちょっと待ってよー!わたし背がディクスより低いんだからー」 情けない声を出す。人ごみで離れ離れになりそうなナチをディクスがあわてて探す。 見つけると腕をぐいっとひっぱった。 「わたた・・・うー、人が多すぎー」 半泣きになりながら不平を言う。それでもディクスだけは嬉しそうだった。 「まあまあそう言わずに。言い出したのナチだろ。それより見てみろよ、あれすごいぞ」 言いながらそのすごいものがあるほうを指差すがナチは人の壁で見えない。 「ディクス、だから見えないんだってば」 満足に顔を上げられないままナチがつぶやく。ディクスは仕方ないなぁというように頭をかくとナチの腰をがしっとつかむ。 「うあ!ちょっと何すんのよ!は、放してよ!」 思いもよらぬ展開にじたばたもがく。しかしそれを無視してナチをそのまま持ち上げた。 「ちょっと放して・・・あ!あれ!」 もがいていたナチが例のすごいものを目にして驚く。 「すごいだろ?」 得意げに言うディクスに無言でこくこくとうなずく。 「あのタペストリーって・・・護符でしょ?百年に一度の大公開ってやつ!」 ナチが興奮してディクスの髪をひっぱる。 「痛い痛い!引っ張るな、抜ける!」 ディクスが悲鳴を上げるがお構いなしだ。今度は頭をばしばし叩き始める。相当興奮しているようだった。エンドレスの巨大なタペストリーは百年に一度、記念祭の一日だけ公開される。 それにはこのディオール大陸のかつての守護神が刺繍されていた。日の光を受けて大小さまざまな宝石が眩しくきらめく。 「もう見れないんだからちゃんと見ておけよ」 まだ頭を叩かれながらもディクスはおかしそうに言う。 まだまだ子供だなー。などと思いながら。 しばらくそうしてディクスがナチをおろした。ナチはこの上なく満足そうだった。 「はぁ、わたしあの伝説の護符を生でみたのね。なんか信じられない」 「丁度今年が百年目だったんだ。運が良かったな、ナチ」 言いながらぽんぽんとナチの頭を叩く。 「ちょっと、子供じゃないんだから。やめてよ」 しかし、さっきのお返しとでも言うようにディクスがナチにカウンターをくらわされるまでやめなかった。 |