D.Force The First Chapter
Force-11

豹変


「これでいいのかな・・・?」
ナチが"光"の単語が彫られた柱を叩きながら言う。
ディクスは"風"の単語が彫られた柱の前に立っている。
「いいですか?僕らは試されてるんです。柱に彫られている単語のイメージを具現化すればきっと次の道が開けるはずなんです」
スティングが自信たっぷりに言う。
「でも『竜』とか『人間』って・・・・」
ディクスが困惑したようにつぶやく。
「だからそれが試練なんですよ。一般的に使いやすいイメージから使われないものまで・・・それらをいかに具現化するか、それが鍵なんです。ともあれ、できるものから片付けていきましょう」
言うとほかの柱に向かい早速術を発動させた。ほかの二人は納得がいかないようだが試しに術を使ってみる。
「光のイメージ・・・」
ナチは頭の中に光のイメージを創り出す。頭の中が光で真っ白になる。
―――― 今だ!
辺りが一瞬眩しく光る。そしてすぐに淡い光になった。柱全体が淡い光を放つ感じになる。スティングがやったように術を封印する。
「やっぱり発動したままだわ」
まだ淡い光を放つ柱を見ながら言う。
一方ディクスは風のイメージを創り出そうと集中していた。大地に広がる草がさわさわと風に揺れるイメージを創る。
「ブリーズ」
静かに言い放つ。爽やかなそよ風が柱を取り巻く。術を封印するが柱にまとわりついた風は消えなかった。
そんな感じで次々と柱に術を発動していく。順調だった。途中までは。
「『命』『死』『人間』『竜』『無』『有』・・・わからないですよ!一体何をイメージすればいいんだか・・・」
スティングが珍しく根を上げる。しかも術で精神力がつきかけているのかぜーぜー言っている。
「大丈夫?」
まだまだ元気なナチが『人間』の単語が彫られた柱の前から訊く。ナチも挑戦していたのだった。単語と違うイメージが具現化されようとするとパシッという音とともに柱が術の発動を拒絶する。
ディクスは壁にもたれかかりながら難しそうな表情をしていた。
「ディクス、手伝ってよー」
言うが、ディクスはナチをちらっと見ただけで何も答えなかった。
・・・・・??どうしたんだろう?難しい表情して・・・なんか怖いなあ、ディクスじゃないみたい。
少し心配になったナチがディクスに近づく。
「どうしたの?大丈夫?・・・あ、さっきの土が前髪についてるよ」
言いながら前髪の土を払ってやろうと手を伸ばした。
パシッ
その手をディクスが払った。
「気軽に触れるな」
確かにそういった。
―――― 何・・・?
その言葉に驚く。払われた手をもう片方の手でかばいながら後退する。それを見ていたスティングはディクスの異変に驚きの表情を示した。
ディクスはそんな二人を無視して壁から身を離すと問題の柱の一つに近づく。
「『闇』か・・・」
そうつぶやくと目を閉じ柱に触れた。すると柱が一瞬ぶれたように見えた。しかしそれ以上何の変化も無い。ディクスは次の柱に向かう。そして次々と各単語の術を放っていった。
『命』『死』『竜』『無』『有』・・・一体何のイメージを術にしたのか、ナチもスティングもわからなかった。そして最後の『人間』。ディクスが立ち止まる。
「ナチ、ちょっと来い」
ディクスに呼ばれ恐る恐る近づく。
「何・・・?」
いきなりディクスはナチの腕をつかむと強引に柱に触れさせた。
「わかるか?人間のイメージだ。未来永劫を信じてかなわない神の産物。自己中心的で欲望のかたまりだ。わかるだろ?」
「そ、そんなのわからないよ・・・」
震える声で答える。ディクスの手は相変わらずナチの腕をつかんだままだ。
「・・・人間じゃないのか?自分自身をイメージすればそれでいい。お前がその人間そのものなんだから」
その言葉にナチの表情が強張る。
そんな・・・わたし未来永劫とか・・・自己中心的とか・・・そんなのわからないよ!
ぎゅっと目をつぶった。
「ディクス、どうしたんです?僕が代わりにやりますから」
見かねたスティングが声をかける。
「だまれ。お前には関係ない。・・・ナチ、できないというのなら」
ディクスがナチの頭をわしづかみにした。
「ディクス!!」
スティングが非難の声を上げる。しかしディクスは構わずナチの頭をつかんだままだ。ナチは抵抗しなかった。
「なら俺が今から人間のイメージ・・・本来の姿を教えてやる」
そういうと目を閉じた。そして次の瞬間、
「っ!!なに・・・これ!?なんでこんな・・あっ!」
ナチが悲鳴を上げた。
「ディクス!やめてください!!」
スティングが叫ぶ。ナチの頭の中に強制的に流れ込んでくる人間のイメージ。欲望、憎悪、悲しみ・・・
人間の負のイメージがナチの頭を支配する。
「・・・やめて!!・・・あ・・・い、いやああああ!!!!」
カッ!
ナチが絶叫する。それと同時に辺りがフラッシュする。柱が七色に光り、そして一瞬暗くなったかと思うと何事もなかったように元に戻った。柱の拒絶はなかった。
「ナチ!」
倒れたナチをスティングが危うく抱きとめる。
「ディクス!一体何を考えてるんですか!?」
スティングは本気で怒っているようだった。しかしディクスは何も反応しない。柱を眺めている。
・・・・・・・???
ディクスらしくない一連の行動に今までにない不信感を覚える。
・・・・一体何なんだ!?
納得がいかないまま、気を失ったナチを抱き上げたそのときだった。
ゴゥンッ・・・
鈍い音が響く。それと共に柱が徐々に床に沈んでいく。一枚の壁がスライドして新たな入り口を作る。
黒い、四角い空間。その先は見えないが、何かまがまがしいものが潜んでいるような威圧感が感じられた。
そして、沈んだ柱の後には小さな石があった。ディクスがそれを拾い上げる。すべてを拾い上げると小さな袋にしまった。
呆然としていたが、スティングが我に返る。
「ディ、ディクス!なんなのかちゃんと説明してください!」
「次の道が開けた。行くぞ」
そう言って壁にできた入り口に入ろうとした。
「ナチが倒れたんですよ!?これ以上進めません!」
その言葉にディクスが振り向く。そして二人に近づいてきた。
「だったら・・・・」
ディクスがスティングからナチを抱き上げた。
「捨てればいい」
ナチを放り投げようとした。
「何してるんですかっ!!」
スティングがとっさに叫ぶ。すると放り投げられたナチが宙に浮いたままになった。とっさに何かの術を発動させたらしい。スティングはあわててナチに駆け寄る。
「危なかった・・・でも、この術は・・・」
スティングは胸をなでおろしていたが、何故こんな難しい術がとっさに発動したのかわからなかった。
「暇だな」
その冷たい反応にとうとうスティングの堪忍袋の緒が切れた。
「いい加減にしろっ!!」
言葉とともに衝撃波がディクスを吹き飛ばし、壁にたたきつけた。そのまま崩れ落ちる。怒りからかスティングの精神力は著しく高まり、頂点に達していた。怒りで疲れは感じない。
「う・・・」
うめき声を上げながらディクスが辛そうに立ち上がる。そして壁にもたれかかる。そんなディクスの様子をスティングはただ見ていた。
「・・・あ・・・俺は・・・・」
頭を手で支えながらゆっくりと二人のほうを見る。そしてナチに目を留める。
「まさか・・・あれは現実・・・?」
わけのわからないことを言うとがっくりとひざをつく。そして手で顔を覆った。体が震えている。
「ディクス、何故あんなことを言った?」
「お・・・俺にもわからない・・・勝手に体が・・・」
震える声でしぼりだすように言う。
「・・・とにかく、地上に戻りますよ」
いつもの丁寧な口調に戻ったが、怒りを抑えたように静かに言う。
ナチを抱きかかえたまま、膝をついているディクスに近づくと、その肩に手を置き、テレポートした。そして三人の姿がその場から消えた。


近くの街に着くまで、ただ沈黙しかなかった。スティングはナチを背負ったまま歩いていた。ディクスは首をうなだれるようにして歩いている。どちらも声をかけることをしようとしなかった。
地上に出てループの術をもう一度かけた。そしてテレポートして街に行こうとしたが発動しなかった。その理由はスティングにはわからない。ただ、あの神殿にはもう行かないほうがいいと、そう確信した。
ずっと歩き続けた。夕方になり、とうとう夜になってしまった。そして満月が真上にさしかかったときようやく町に着いた。酒場をのぞけば町はひっそりとしたものだった。
手近な宿を見つけるといつものように二人部屋と一人部屋を借りる。
ただ違ったのは、
「ディクス。今日は一人部屋で寝てください。ナチは僕が引き受けます」
そう言うとディクスの返事も聞かず部屋に入ってしまった。ディクスはそれをただ呆然と見ることしかできなかった。しばらくドアの前に立ち尽くす。
「俺は・・・あの時・・・どうして・・・」
かすれた声でつぶやく。部屋に入りベッドの上に腰をかける。そしてあの時の事を思い巡らす。
あのとき自分も単語のイメージを具現化するために考え込んでいた。でもなかなかイメージがわかなくて少しいらいらしていた。それからだ。
―――― 誰かに操られていたとか・・・そんなことないよな。俺の記憶ははっきりしている。ナチに言ったこともしたことも・・・全部・・・全部俺がやったことだ。
頭を抱える。でもどんなにナチと喧嘩してもうっとおしいとか思ったことはただの一度もなかった。なのにあの時の自分はナチに強制的にイメージを送り込み、術を・・・精神を暴走させた。
そしてあろうことか倒れたナチを捨てていこうとした・・・
―――― 何なんだよ!!俺は俺じゃないのか!?自分のことなのにわからない!!
何度思い出しても自分がやったことだと認識しているのに第3者の立場から見ていたような錯覚が消えない。
―――― ナチ・・・本当にすまなかった・・・


スティングはナチをベッドに運んだ。地震のせいで服や髪が大分汚れている。どうやって綺麗にしようか試行錯誤しているときだった。ベランダに誰かがいるのに気付く。二人いるようだ。スティングがその存在に気付いたとわかると、ベランダの二人は深々と頭を下げた。
「お前たち・・・」
スティングが戸を開けると、二人は顔を上げる。
「お久しぶりです、王子」
二人が同時に言う。
「レイル、ライア・・・なんでこんなところに?」
いきなりの客だがスティングは驚いた様子はなかった。二人は彼の従者だったのだ。
「王子、今日エンドレスの神殿に行かれましたね?」
男性の従者、レイルが訊く。スティングの目が見開かれた。
「実は今日エンドレスで地震があったんです。たいしたものではなかったのですが・・・あの土地に地震が起きることは滅多にありません。ですからまさかと思ったのですが」
女性の従者、ライアが続ける。
エンドレスで地震が起きることは滅多にない。そこで震源地である場所を彼ら二人で向かったのだ。その結果、石碑の封が解かれたことを知り、スティングがこの場所に来たことを突き止めたのだ。
「ああ。行ったよ。散々だった」
スティングが声を落として言う。やっぱりという顔をして従者は顔を見合わせた。
「でも・・・途中で引き返してきた。大変なことになったんだ」
「大変なことと言いますと?」
その問いにスティングは自嘲気味に薄く笑う。
「よくわからないよ。ただ・・・仲間の一人が自分の妹に酷い事を・・・普段はそんな人間じゃないんだ。なのにあの時は人が変わったように・・・今は正気に戻ったみたいだけど、その妹は今ここに・・・」
そしてベッドに寝かせているナチを見る。スティングの視線を追い、その存在に気付く。ライアが近づきナチの様子を見る。
「これは・・・大分精神的にダメージを受けてます。こんなに汚れて・・・」
「どう介抱しようか困ってるんだ。汚れてるけど女の子だし・・・だから・・・」
スティングの意図を察したライアが言った。
「私が介抱しましょう。安心してください」
ライアはナチが寝ているベッドの周りに見えないようにシールドを張った。
「でも来てくれて助かったよ。有難う」
「地震が起きたときは珍しいと思ったのですが、神殿のこと思い出しまして。エンドレスの神殿なら何か大掛かりな罠があると思ったのです。それに、神殿に入れるのは王子だけだろうと思いましたし。伝説の通りでした」
「そうか、心配かけたな」
「いいえ・・・」
ナチを介抱していたライアが顔を上げる。
「もう大丈夫ですよ。安静にしてれば明日にでも気がつくでしょう」
「ありがとう」
レイルとライアはスティングの無事を確認すると窓辺に立った。
「王子、また神殿に行かれるときは十分に気をつけてください。あの神殿には誰も入ったことがありません。何が起こるかわからないのですから」
「大丈夫だよ。さあ、もう行ったほうがいい」
「では失礼します」
そういい残して二人は消えた。
「もう二度とあの神殿には行きたくないよ」
そうつぶやいた。
「ああ!しまった・・・訊き忘れた・・・」
スティングが思い出したように言う。
・・・神殿にいたときに発動したテレポートに空中浮遊、今まで何度も挑戦してきて成しえなかった術だ・・・なのにどうしてあの時は使えたんだろう?
そのことを訊くつもりで忘れていたのだった。
でも、誰も入ったことないって言ってたし・・・訊いてもわからなかったかな・・・
精神を統一する。
「テレポート!」
やはり何も起きなかった。景色は変わらない。
「やっぱりだめかー」
そう言うと部屋に入った。ライアに介抱してもらったナチの様子を見る。このまま寝ていれば大丈夫なようだった。
これからどうなるんだ・・・・
言いようのない不安を抱えながらスティングはナチのそばに腰をかけた。