D.Force The First Chapter
Force-12
再起
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(ここはどこだ・・・俺は宿にいたんじゃなかったのか・・・??) ディクスは不思議に思う。眼下には瓦礫の山があった。まだ土ぼこりが蔓延しているところを見ると破壊されて間もないようだ。 (何でこんなところに・・・) とてつもなく奇妙な感覚だった。目の前の光景を見ている自分がいることは確かなのに、実体がない魂だけ浮遊しているような感覚だ。 (あれは・・・・?) そう思った瞬間、瓦礫の山にいた。かつて村であった場所には瓦礫と人々の死体が横たわっていた。そこだけ時が止まったようだった。目の前に男がいる。その男の目は狂気に満ちていた。男は何かを探すように村の残骸の奥に進み、とある場所で瓦礫を吹き飛ばす。 (―――――― ・・・・?) その男の表情が驚愕する。そしてがっくりとひざをついた。ディクスが何事かと思ったとき、再び光景が変わった。男の丁度背後にいるような位置にいた。男が見たものをディクスも目の当たりにする。 少女が泣いていた。その背後、ひどいものだった。きっとそこは家だったのだろう。家族が幸せに住んでいたはずだ。それが今は原形をとどめていなかった。地獄のような光景。 少女の母親であろう、力の抜けた腕がだらりと垂れ下がっていた。その隣の大きな岩の下に大量の血とともに太い、男の腕らしきものが見えていた。父親だろうか。そして少女はその前に座り込んでいる。 (あ・・・・) ディクスも驚愕する。瞬間光景が変わった。同時に実体に戻る。その感覚に気付き、手で顔を触った。 「ある・・・」 顔をめぐらし、さっきの光景と違うところを見るとほっと息をつく。二度と思い出したくないというようにゆっくりと目を閉じると、手をひざにつっかえさせ、上半身の体重をかけた。 「なんだったんだ、さっきの光景は」 体が汗でぐっしょりだった。今度はゆっくりと目を開ける。地面が、赤い地面が見えた。 「え?」 冷水を浴びさせられたように心臓が縮む。ディクスの足元にあの母親がいた、父親の腕があった。背後には少女の気配がする。 ・・・嘘・・・だろ・・・?? 予想もしない事態にパニックに陥る。がくがく震える手で顔を覆ったときだった。ぬるっとした感触にはっとする。恐る恐る手の平を見る。 血・・・ まだ生暖かい血がべっとりとついていた。手だけではない、ディクスの体全体にぶちまけられたように赤い血が染み付いていた。 「う・・・あ・・・・ああああああああ―――――― っ!!!!」 ばっ! ディクスが反射的に身を起こす。心臓がばくばくいっている。体も汗ぐっしょりだ。 「俺は・・・」 額の汗を手でぬぐおうとして手をぎゅっとにぎった。その手をゆっくりと開く。――― 何もなかった。 ほうけたように辺りを見回し、ようやく宿にいる自分に気付く。もう、あの惨劇の中ではない。 「寝ていたのか。・・・・何であんな夢を・・・あれは一体なんだっ・・・・」 言いかけて口をつぐむ。唇が震えている。 「くそっ!」 震えを振り払うように叫ぶと立ち上がった。だが、震えはおさまるどころか激しくなっていった。 ついにひざを折る。そして意識を失った。 カーテンの隙間から光が差し込む。その光がスティングの顔を照らした。 「う・・・」 ゆっくりと目を開けようとしたが眩しすぎて再び目を閉じた。重い頭を抱えながら身を起こす。目をこすり、隣で寝ているナチの様子を伺った。よく眠っているようだ。何もないことを確認すると、大きく背伸びをした。 「・・・今日、どうするんだろう」 つぶやくといつものように顔を洗い、簡単な服に着替えた。部屋を出る。 「ディクス・・・」 ディクスの部屋の前で立ち止まる。ドアをノックする。反応はなかった。 ・・・寝てるのかな? ドアのノブに手をかける。開かないはずのドアが開いた。 「ディクス、起きてるんですか?」 そろそろと部屋をのぞく。しかし誰もいなかった。不審に思い、部屋に入る。 「いないんですか?」 声をかけるが誰も答えない。辺りを見回す。荷物は置いたままだった。ベッドは使った様子がなかった。ベッドの反対側に回り込む。 「ディクス!」 ディクスは床に倒れていた。あわてて駆け寄り抱き起こす。 「大丈夫ですか!?ディクス!」 頬をパシパシ叩く。 「あ・・・スティ・・・ング・・・」 目を少し開けてそういった。心労がたたったのかかなり憔悴しているようだ。スティングに支えられゆっくりと立ち上がる。 「悪い・・・」 「それはいいですから。一体どうしたんですか」 ベッドに座らせた。ディクスは頭を抱えた。 「・・・ナチは大丈夫ですよ。昨夜僕の従者が来て介抱してくれました。今も眠っています」 その言葉にディクスがスティングを見上げ薄く笑った。 「ありがとう。本当にすまなかった」 スティングには山ほど訊きたいことがあった。そのつもりでここにきたのだった。しかしディクスはこんな状態だ。 ・・・もういいか。ディクス、普段どおりみたいだし。昨日はきっと神殿のせいだったんだ。僕だって使えない術が使えたりしたから そう考え、これ以上訊きだすのはやめた。 「ディクス、数日はこの町に滞在しましょう。ナチも回復するのに時間かかるでしょうし、ディクスもかなり危ないじゃないですか。ちゃんと休んでくださいよ。主人公がいないと始まらないんですから」 いいながらディクスを強引にベッドに寝かせた。ディクスは嫌がっているようだが仕方なく指示に従う。 「わかったよ・・・なあ、スティング」 「なんですか?」 「もし、俺に何かあったときナチを・・・」 いいかけてやめた。 「なんでもない」 スティングは不思議そうな顔をした。 「なんだかわかりませんけど、僕は部屋に戻ります。それから町に出ますね。昨日だって夕食抜いてしまいましたし、お腹空いてるんですよ。何か買ってきますから」 そう言って部屋を出た。 ディクスはほうけた顔で天井を見上げる。そして目を閉じた。 「ナチ・・・大丈夫ですか?」 部屋に戻ったスティングが寝ているナチに声をかけるがやはり起きなかった。 窓際による。ナチに朝日が当たらないように注意してカーテンを開ける。まぶしい光が部屋を照らし出した。窓をかけると初夏の涼しい風が吹き込んだ。爽やかな朝だった。 「さてと・・・町に出ますか」 言って再び部屋を出た。 早朝だというのに町はにぎわっていた。威勢のいい声が行きかっている。 「これとこれください」 スティングがとある店で野菜を買う。 「あいよ!採れたてだからうまいよ!」 野菜を受け取り、今度は向かいのパン屋に入る。香ばしいにおいがたまらなく食欲をそそる。どれも食べてみたくなるほど美味しそうだった。 「どれにしようかな?・・・これなんですか?」 スティングはボールのような形をしたパンを指差す。 「ああ、それは中にベーコン、チーズ、コーンが入ってるんですよ。この店の人気商品です。もうちょっと時間がたつと常連さんが来て買っていくからすぐになくなっちゃいますよ」 「ベーコン、チーズ・・・スープにも合いますよね?」 「もちろん!朝食にももってこいです。栄養もありますし」 「じゃあ、これください」 今度はパンを買い店を出る。通りはさっきよりも人が多くなったようだ。宿屋に戻る。宿屋の主人に頼み、厨房を借りた。 先ほど買ってきた野菜をぶつ切りにすると大きな鍋に入れて煮込んだ。味付けをして野菜スープの出来上がりだ。パンも切ってスープに添える。皿に盛ると部屋に持っていった。 「ディクス、開けますよ」 ディクスが寝ている部屋に入る。おとなしくベッドで寝ているようだった。スープがこぼれないように気をつけながら近づく。 「スティングか」 「起きてたんですね。よかった。これ、スープ作りました。まずくはないと思うので飲んでください」 スティングがスープのにおいに誘われて起き上がる。スープを受け取る。 「もしかして作ったのか?」 不安そうに訊く。 「・・・大丈夫ですよ。ちゃんと毒見しましたから」 「・・・・」 「嘘ですよ!味は保障します。ほかの人にも味見してもらいましたし・・・結構評判良かったんですよ」 憮然として答える。 「悪い悪い。ありがたくいただくよ」 笑いながら言う。それを見たスティングは少し安心した。ディクスが最初の一口を口にした。 「・・・うまい・・・」 ディクスが信じられないというようにつぶやく。もちろんスティングは聞き逃さなかった。そして参ったか!という顔をした。 「これ、何を入れたんだ?このスープの味・・・初めて食べたよ」 「スープの素は僕が調合したんです。試行錯誤の結果、この素ができたんですよ。水にでも溶かせばすぐスープができるようにって」 ディクスが感心したようにスープを飲んでいる。 「あ、これも食べてくださいね。焼きたてみたいですからおいしいはずです」 そしてパンを渡した。自分も食べようとテーブルについた。二人とも黙々と食べている。 「スティング」 ディクスが声をかける。 「なんですか?」 「俺・・・あのとき・・・・さ。ナチをあんな風にしただろ?あのときの記憶はちゃんとあるんだ。俺がやったってわかってる。けど・・・」 スティングは手を止める。 「おかしいんだ。俺だって、わかってるのに・・・なんだか他人みたいな存在だったんじゃないかと思って・・・誰かが俺の中にいたんじゃないかって」 「あの神殿に誰も立ち入ったことはありません・・・僕らが初めてだったんです。それに僕だって声がするって走り出しましたし・・・もしかしたらあの神殿はなにか不思議な力があるんじゃないかって思うんです。そのせいですよ」 スティングが断言した。 「でも、俺がやったことには変わらない」 「ですけど、本心じゃないんでしょう?何かに乗っ取られでもしない限り、あんな行動起こしたりしませんから」 「じゃあ何故!?」 ディクスが声を荒げる。 「それは・・・これはあくまでも憶測なんですけど、あの神殿には力のほかに何者かの意識が封じ込められてるんじゃないかと。怨念みたいなものです。それがディクスに憑依したんじゃないかと思うんです」 「憑依・・・?」 訝しげに繰り返す。スティングがそれにうなずく。 「ええ、あのときディクスは人間の負の部分しか取り上げていませんでした。それがディクスの人間に関する考えだとは思えません。なにか人間に恨みを持つものの考えでしょう」 「厄介だな・・・」 「でも、あの神殿に近づかなければ大丈夫でしょう。僕ももう行くつもりはありません。危険すぎます」 そう言って一息ついた。 「大丈夫ですよ。あの時ナチだってディクスの異変に気づいていました。ちゃんと話せばわかってくれますよ」 そういったスティングにディクスは弱弱しく笑って見せた。スティングも微笑み返す。 「ディクスの妹じゃないですか。立ち直りも天下一品ですよ。元気になったらナチのところへ行ってあげてください」 立ち上がってカラになったディクスのスープ皿を受け取る。 「じゃあ、僕はこれで。まだ精神的に不安定みたいですから安静にしていてくださいよ。これ、使うといいですから」 スティングが柱状の黄色い石を渡す。鉱山で見つけた石だった。 「有り難う・・・悪いな」 「仲間じゃないですか。当たり前ですよ」 スティングは部屋を出て行った。 一人になり、ディクス手の中の石を見つめた。 「一人じゃない・・・か」 つぶやくと、ディクスは石に力を込めた。 真っ白な世界。ナチはあの神殿にいた。すぐ隣にディクスがいる。何故かその表情は険しい。 「・・・ディクス、わたしのこと邪魔に思ってる?」 ナチが今まで訊きたくても訊けなかったことをついに口にした。自分でも何故こんなこと口にするのかわからなかった。ディクスから目をそらす。その問いにディクスは振り返り不敵な笑みを浮かべた。 「邪魔?そんなの当然だろ?いつも足手まといで。世話する身にもなってくれよ」 大げさに肩をすくめて見せる。ナチの目が大きく見開かれる。 「そんな・・・じゃあ、何故わたしを連れて歩いてるの?わたしはディクスの・・・お兄ちゃんの何なの!?」 声が震える。気付かれてはいけないと思うほど余計に声が、体が震えてしまう。 「そんなこと訊いてどうする?」 今度は冷たく訊く。 「それは・・・そんなのわからないよ!でも、でも・・・」 「でもなんだ?理由もないのに滅多なこと訊くな。俺が答えたとしてもお前にはどうすることもできない」 その言葉にナチがうつむく。 「ほらな。いつだってそうだ。何を期待しているんだ?お前は・・・」 「なんでっ!なんで・・・変わっちゃったの・・・?わたしのお兄ちゃんは優しいはずじゃなかったの!?」 ディクスの言葉をさえぎりナチが叫ぶ。 「そんなものお前の勝手な理想、思い込みだろ?それを他人に押し付けるな。迷惑だ」 「他人・・・って・・・」 ナチがかすれた声で言う。ディクスは冷たい目でナチを見たままだ。 「いやだ・・・いや!そんな目で見ないでよ!」 拒否するがディクスはナチから目を離さない。 「どうして・・・」 しゃがみこんだ。ディクスの豹変振りに頭が追いつかない。自分のせいなのか? そう考えて心臓が締め付けられるような苦しさに襲われる。 わたしは・・・要らない人間なの・・・? 皆に迷惑ばかりかけて・・・わたしは―――――― "ナチっ!" 遠い声が響く。 間違いない・・・この声は・・・ 「え・・・・ディクス!?」 ナチが顔を上げるが、目の前の冷淡なディクスが叫んだようには見えなかった。 「どこ・・・?どこなの!?お兄ちゃん!!」 思い切り叫んだ。 「ナチ!」 今度は背後からはっきりと声が聞こえた。すぐに振り向く。 「お兄ちゃん!」 もう一人ディクスがいた。迷わず駆け寄る。そして抱きついた。そんなナチにもう一人の・・・いつものディクスが手を回した。 「ごめんな・・・」 「ううん、ううん!!わたしもごめん!本当に・・・ごめん・・・」 言って泣き崩れる。それをディクスが抱きとめる。冷淡な・・・偽のディクスが面白くなさそうにその様子を見ていた。 「主人公のご帰還か」 「お前一体何者なんだ?」 うんざりしたようにつぶやく偽者にディクスが声を荒げて訊いた。 「何者って・・・俺、つまりアンタが一番知ってることじゃないのか?」 ディクスの問いがばかばかしいとでも言うように笑いながら言う。 「それとも・・・ナチの前でわざわざ言って欲しいのかな?」 その言葉にディクスが歯軋りする。 「わけの分からないことを言うな!何が目的だ?」 「別に・・・目的なんかないさ。ただ俺は俺を演じているだけ。俺はアンタみたいな偽善者じゃないからな。ありのままに生きる」 「ふざけるな!俺はお前なんかじゃない!生きてるだと・・??・・・お前は亡者だ」 そういった。亡者という言葉に偽者が顔をしかめる。 「俺が?だったらどうする・・・?」 「どうする?わからないのか?お前は俺なんだろう・・・こうすんだよっ!!」 ディクスは片手を突き出すと瞬間に精神を集中させた。 「出て行け!俺たちの前から消えうせろっ!!」 叫びとともに術が発動した。偽者に向かって光が収束する。不利になった偽者は逃げようともがくが術のせいで身動きができない。 「くそっ!なんだこれは!?」 「ざまみろ!」 偽者のあわてぶりにディクスが嬉しそうに言った。 「ディクス・・・」 「行くぞ、ここから脱出するんだ」 ナチは困惑した表情を見せた。 「でも、出口ないよ。出られないよ・・・」 そんなナチの手をディクスが両手でにぎる。 「安心しろ、大丈夫だ。お前ならできるよ。優秀な術者になるんだろ?自分の悪夢は自分でなぎ払うんだ」 「わたしの・・・悪夢?でもなんでディクスが?」 訝しげに訊く。ディクスは決まり悪そうに頭をかいた。 「ああ、これは悪夢なんだ。まあ・・・俺が原因なんだけど。俺はいいから、とにかく今はここから脱出することだけを考えろ。それからだ」 そしてディクスは偽者の方を向いた。再び手を突き出すと精神を集中させ始めた。 「悪夢・・・わたしの夢?・・・夢から脱出するにはどうすればいいの!?」 困惑気味に問うが誰も答えてはくれなかった。 ―――― 自分でやらなくちゃ駄目なんだ 「夢から脱出・・・起きること・・?わたしはいつもどうやって起きてるっけ・・・・?」 朝の場面を思い出す。 ―――――― いつもどうやって起きてるんだっけ。わたしが目を覚ますのは・・・ ―――― ナチ、まだ寝てるのか?起きろよ。朝だぞ。起・き・ろ―――っ!! 「ディクスの声だっ!!」 「ナチッ!!」 ひらめいた瞬間ディクスの声が頭に響いた。その声に敏感に反応する。そして次の瞬間辺りの様子が変わった。 「ナチ!」 もう一度ディクスの声が響く。 ―――― あれ・・・?さっきは元気だったのに・・・体が動かない・・・なんで・・・ ゆっくりと目を開ける。目の前にぼんやりと人が見える。 「ディクス・・・?」 嬉しそうな顔のディクスがいた。ナチが感極まってかディクスに抱きついた。 「はあー、良かった。起きないからどうしようかと思ったよ」 苦笑交じりに言う。ナチをなだめるようにぽんぽんと背中を叩く。ナチがゆっくりとディクスから離れる。 「わたし・・・どうしたの?あの神殿のこと・・・それに・・・夢」 不安げに言う。そんなナチをディクスはじっと見ていた。 ―――― ディクスだ。やっぱりいつものディクスだ その目はもうあの冷たい目ではなかった。これがディクスなのだと確信する。 「うん。確かに・・・あの神殿のことは・・・俺がやったことだ。それで暴走して、ずっと寝てたんだよ。でもあまりにも長い眠りだったから心配になって、スティングに頼んでお前の夢に接触させてもらったんだ」 「接触・・・?じゃあ、夢の中のディクスは本物なの?」 あまり納得がいかないようだった。 「そんなことできるんだ・・・」 「ああ。スティングは優秀な術者だからな。それでやっぱりナチが起きない原因が夢にあることがわかって・・・わかるだろ?どうして起きなかったか」 その言葉にナチがうつむく。 「うん・・・多分わかる。・・・わたし、偽者の言葉にだまされて・・・怖くて抜けられなかったんだわ。不安で、混乱してて・・・いつもならすぐに偽者だってわかるのに」 「・・・ごめん。その原因は俺だ。神殿であんなことしたから。それが夢になってナチを縛り付けたんだよ」 はっとしてナチが顔を上げる。 「そんな・・・あれはディクスじゃなかった。ディクスじゃなかったよ。うまく言えないけど・・・あれは別人だったよ」 「断言していいのか?」 今度はディクスが不安そうに訊く。 「当たり前でしょ!わたしだって、自分のお兄ちゃんかどうかくらい判別できるわ。あの神殿でのこと、もうなんとも思ってないよ。それに、夢の中で助けてくれたじゃない・・・あれでどれだけ救われたか・・・」 「そうか・・・ありがとう」 ディクスが礼を言うがナチはびっくりしたように手を振った。 「そんな!わたしは何もしてないよ。感謝するのはわたしの方。本当に有難う」 にっこりと微笑む。つられてディクスも笑った。 「もう、大丈夫なのか?」 「うん。大分回復したよ。・・・わたしどれくらい寝てたの?」 恐る恐る訊く。 「今はもう夕方なんだが・・・おとといの夜中にここに運んできたんだ。だから二日は寝てたってことになるかな」 考えながら言う。ナチがあんぐり口をあける。 「うそ・・・わたしそんなに寝てたの?」 「寝すぎだな」 「だ、だってー・・・」 言葉に詰まる。 「嘘だよ。俺だって疲れて昨日一日寝てたし・・・スティングが色々世話を焼いてくれたからあとで礼を言っておけよ」 「うん。ちゃんと言っとく。あれ・・??わたしなんでパジャマ着てるの?・・・・・・ま、まさか・・・!」 ナチが青ざめる。 「ああ、それか。それはスティング・・・」 「が、やったの!?」 言葉をさえぎる。目が真剣だ。 「の、従者の一人がやってくれたそうだよ。あの夜に来たそうだ。女性の従者がやってくれたってさ」 それを聞いてほっと胸をなでおろす。本当に安心したようだ。 「よかったー」 「スティングは今夕食作ってるから様子見てくるよ。あいつ結構料理うまいんだ」 「スティングが料理??へー、そうなんだ」 感心したようにつぶやく。 「ちゃんと寝てろよ」 そう言って立ち上がり部屋を出ようとした。それを見てナチが口を開く。 「ディクス!わたし、足手まといにならないようにがんばるから!」 思い切ったように言った。 「気にするな。俺だってお前に迷惑かけっぱなしだし。お互い様だろ?」 ナチの言葉に苦笑しながらそう言うと部屋を出た。 「・・・そんなこと言って後悔しても知らないんだからね」 そう言って笑った。 ―――――― ありがとね そして恥ずかしそうに心の中で小さくつぶやいた。 |