D.Force The First Chapter
Force-13

新たな目的


「はい、作ってきましたよ!腕によりをかけて作ったスティング特製の美味しいスープです」
言いながら二人の目の前にスープを並べる。前回作ったよりも種類も量も多い野菜が入っていた。見るからにヘルシーな感じのスープだ。
「本当にスティングが作ったの?」
ナチが信じられないというように訊いた。それを聞いてスティングの動きがぴたっと止まる。
「え?」
ナチが不思議そうな顔をしてディクスを見た。
「俺も同じこと言ったんだよ」
ディクスが気まずそうに言った。スティングが仁王立ちになる。手を腰に当ててわざとらしく深いため息をつく。
「そろいも揃って・・・カエルの子はカエルって言いますけど、本当なんですねー」
スティングが首を振る。
「わたしたち兄弟なんだけど・・・」
ナチが水を差す。再びスティングの動きが止まった。
「と、とにかく早く食べよう!本当にうまいんだから!」
ほかの二人に食べるようすすめるようにディクスがあわてて言う。それでスティングも席に着く。
「二人ともひどいですよ。少しは信じてください」
スプーンでスープをかき回しながら残念そうにつぶやく。
「でも、結果的にはうまいんだからいいじゃないか・・・」
機嫌をとるように言った。そんなディクスの様子を見てスティングが吹き出した。
「嘘ですよ!それくらいですねたりしませんよー。ナチ、大丈夫ですから食べてください。今日作ったスープ、今までで一番美味しいって言えるくらい出来がいいんですから」
まだ手をつけていなかったナチにスティングが食べるようにうながした。
「まずいとか思ってないわよ。ただスティングが料理って・・・あんまりイメージがわかなくて」
苦笑しながらスープを口にした。
「嘘!?美味しい!」
ナチがすぐに反応を示した。スティングは嬉しそうだ。
「もちろんですよ!最高傑作ですから」
誇らしげに言う。ディクスもその最高傑作を口にした。
「やっぱりうまいなー。この前のもうまかったけど、それ以上にこっちのほうが・・・」
二人ともその美味しさを堪能している。
「煮込む時間の問題でしょうね。今回はじっくり煮込みましたから。やっぱり料理は時間をかけるに限ります」
自分でうなずきながら言った。
「これでスープの素の存在も思い出しましたから、いつでも飲めますよ。今度新しく調合しておきますね」
「このパンも美味しいわねー。スープとよく合うわ」
パンをかじりながら幸せそうに言う。
「この町にあるものは全部美味しそうなんです。実は僕、そのパンを買ったパン屋さんで、全種類のパンを完食しようと思ったんですけど、思ったよりも種類が多くて無理でした。その中でもこのパンが一番美味しいんですけどね」
「スティング、そんなことやってたのか?」
ディクスがあきれたように言った。
「何もすることなかったんですよ。次に出発するための準備ももう済ませましたし・・・町の探索か、食べるくらいしか楽しみがなかったんです」
「じゃあ、スティング、明日にでも案内してよ。もう元気だし。町を歩くくらいならいいでしょ?」
二人に訊いた。
「僕はかまいませんよ」
「まあ、急に動くよりも、少し慣らしたほうがいいから・・・無理しない程度ならいいよ。あ、でも、術の使用禁止な」
承諾してくれたようだ。
「ありがと!」
「この町にも数日滞在だな」
そして天井に向け、大きく伸びをした。


「気持ち良かったー!一日のラストはやっぱりお風呂よねー」
ナチがベッドに倒れこんで言った。元気な様子を見ると体力も大分回復したようだ。元気があり余っているのかベッドで泳ぐように手や足を動かした。
「あんまりはしゃぐなよ。体に障るだろ」
隣のベッドで本を読んでいるディクスがあきれながら言う。そして今度はベッドにぐでーっと寝そべったナチにさらに付け加えた。
「冷凍マグロじゃないんだから」
ぼすっ!
余計なことを言ったディクスに、ナチが枕を投げつけた。それが見事に顔面に直撃する。
「誰が冷凍マグロよ」
「お前なー枕投げつけることないだろ!全く。いつまで経っても子供なんだから・・・」
本をパタンと閉じた。投げつけられた枕をお返しとばかりにナチに投げつけた。しかし、それを予想していたナチは余裕で避けた。
「あたらないわよーって、わわっ!」
ゴンッ
そしてバランスを崩して床に頭から落ちた。その場の空気が凍りつく。
「ナチ・・・生きてるか?」
ディクスがほうけたように訊いた。ごそごそとナチが復活する。
「うぅー・・・いったー」
後頭部を抑えながらよろよろ立ち上がる。軽い脳震盪でも起こしたのかしばらく頭を抑えたままじっとしていた。
「大丈夫か?」
再びディクスが訊く。
「あー、痛かった!馬鹿になるかと思った!」
頭をさすりながら言う。床に落ちたままの枕を拾い、ベッドに座りなおす。肩が凝ったのか揉み解している。
「ちゃんと避けたつもりだったのに。なんでこんなことになるのよ・・・。最近ついてないかもしれない・・・」
肩を回しながらぽつっとつぶやく。それを聞いたディクスが軽いため息をついた。そして仕方がないなというようにベッドから降りた。
「ほら肩。揉んでやるから」
「えっ?ほんとー?らっき〜」
ディクスに言われ肩の凝っているナチはすぐに背を向けた。ディクスが指をぽきぽきならす。
「少し我慢しろよ」
そう言ってナチの肩に手をかけ思い切り力を入れた。
「きゃあああっ!痛い痛い痛い痛い―――― っ!!力入れすぎっ!」
ナチが悲鳴を上げる。逃れようをもがくが、ディクスの力に押さえつけられて動けなかった。かわりに手でベッドをばしばしたたく。
「ああああ、もういいから!いいから!もう、治ったって!もう肩凝ってないってば―――!」
ディクスはそれを聞き、まだしばらく揉んでからようやくやめた。ナチは肩で息をしている。相当参ったようだった。
「もう肩凝ってないだろ?」
ディクスが訊く。冗談でやったのではないようだ。
「い・・・痛いってば・・・力入れすぎ・・・」
「それくらい力入れないと意味ないだろ。それに大分凝ってたぞ。ずっと寝てたせいだろうけど」
「でも痛いって・・・」
ナチが肩をさすりながら疲れたように言う。そして背伸びをする。
「あーっ!・・・はあ。・・・・うん肩はもう大丈夫よ。ありがとね・・・すごく痛かったけど」
そして座り込んだ。ディクスもベッドに戻り本を読み始めた。
「ねえ・・・竜神って、どこにいると思う?」
唐突にナチが訊いた。
「またそれかー」
ディクスがあきれたように言った。ナチは憮然とした顔をする。
「いいじゃない別に。減らないし。・・・で、どこにいると思う?」
「さあ?隠れるなら大きな岩穴とか山じゃないか?竜神ってでかいんだろ」
「だよね、やっぱり!」
話についてきたディクスにナチが嬉しそうに同意した。
「ねえねえ、竜神ってどんなのだと思う?竜なんだよね。どれくらい大きいのかな?羽は生えてるのかな?やっぱうろこでおおわれてて、口から炎のブレス吐くんだよね」
言うと術でイメージを映像化してみせる。ナチの手のひらにナチのイメージする竜神がいた。
・・・と言ってもかなりぼんやりしたものだが。
「・・・きっと、めちゃくちゃかっこよくて、強くて、大きくて、優しくて・・・」
話に乗ってきたディクスがはっとして言葉をとぎらせる。決まりが悪いように頭をかく。
「でも・・・普通の竜のでかい版だろ。ほら!余計なこと考えないでさっさと寝る!しかもしれっと術発動させるんじゃない。疲れるだろ」
「眠くないのにー」
ナチは不満そうに術を封印してベッドにもぐりこんだ。
「全く。誰に似たんだか・・・」
「ディクスよ」
ナチの即答にディクスが凍りつく。
「・・・俺も寝るからな」
言いながらベッドにもぐった。
一方、隣の部屋のスティングはまだ起きていた。ベッドに自分で買った地図を広げている。
―――― 大きな森、山・・・あの鉱脈以外にないですよね。あの鉱脈にはいなさそうですから・・・だとすると、荒野の方の山脈・・・でも広いなあ・・・
指で地図をなぞりながら思う。そしてそのまま海岸の方に向かい・・・そこでふと止まる。
・・・シェルガーデン・・・前々から行ってみたいとは思ってたんですけど。明日ディクスに相談でもしてみますか。
本題からはずれ真剣に考える。
「寝よう」
地図をたたむとベッドに横になった。
――― 明日はあのパンとあのパンに挑戦だ・・・あ・・・そういやナチが案内がどうとか・・・言ってたっけ・・・
そして意識がまどろみの中へと消えていった。


「待ってください。ちょっと買いたいものが・・・」
夜が明け、昼前から町の探索に出た三人はスティングのお気に入りのパン屋で立ち止まった。店の中に入っていったスティングはしばらくしてパンを抱えて帰ってきた。
「今日はこのパンに挑戦です」
言いながら自分のパンをくわえ、残りを二人に渡す。
「まだあったかいね。わ、やわらかーい。おいしそう!」
受け取った焼きたてのパンをちぎりながらナチが言う。ディクスはちぎらずにそのままかじった。
「うーん、やっぱり一番最初に食べたベーコンとチーズのほうがおいしいですかね」
スティングがなにやら言いながらも次々とパンを平らげていった。
「なんか昨日から食べてばっかのような気がする・・・ねえ、スティング。ほかに何かないの?この町」
ナチが食べるのをやめて訊いた。
「他にですか?娯楽とか観光関係はあまりないみたいですよ。そんなことしなくても十分やっていけるほど商業が発達してるようです。僕も探してみたんですけど、結局めぼしいものはありませんでした」
「なんだ。なんにもないのかー。じゃあ、今日一日どうする?宿に戻っても何もすることないぞ」
ディクスに言われスティングが考え込む。その様子を見ていたナチが口を開く。
「もう出発する?わたしもう大丈夫だし・・・ほら、この前のって、精神力を消耗しただけで、体力は全然大丈夫だから。術を使わなきゃ平気よ」
「それはだめ」
しかしナチの言葉にディクスが即座に断る。
「なんでよー」
ナチが不満そうに言う。ディクスはあさっての方を向いたままだった。
「心配なんですよ。いつも言い合ってばかりでもナチはディクスの愛妹ですからねー」
笑いながらいったスティングの口にディクスがパンをつっこんだ。その勢いにスティングがたたらを踏む。
「余計なこと言うな」
ぽつっとつぶやく。口にパンを突っ込まれたスティングは口の端をさすりながらパンを飲み込む。
「・・・そんなに力いっぱい否定しなくてもいいじゃない・・・」
ナチがぼそっと言う。それを見たスティングがあわてる。
「あ、え、いやー・・・えーと・・・・・・あ、あの、最近色々あってストレスとかもたまってますし・・・たまにはリゾートでゆっくり過ごすのも良いと思いません?例えばシェルガーデンなんてどうです?」
自分のせいで場の雰囲気が悪くなったことに動揺したスティングがわけのわからないことを口走った。
とはいえ、動揺している割に昨夜目を通していた地図がしっかり握られていたりするが・・・
「シェルガーデン??」
ディクスが訝しげに復唱する。その言葉にスティングは失敗したというような顔をする。
「え、えーと・・・シェルガーデン・・・行ってみたいな。・・・なんて」
取り繕ったつもりだが逆効果だったようだ。ナチもどうして?と言いたげな顔をしている。
・・・しまった・・・やっぱりタイミング間違ったかもしれない・・・・・・
スティングがおろおろする。
「シェルガーデンってあの夢の島って言われているラグーンの浜のこと?」
「そ、そうです、そうです!」
ナチの言葉にスティングが思い切りうなずく。そして地図を差し出した。
「ここなんですけど」
ラグーンの場所を指差す。現在の場所から南西よりだった。目的地の荒野は東。行けば遠回りになってしまう。
「ここからは遠いってことはないのね。でも荒野からするとちょっと遠回り」
「そうなのか?」
ディクスが覗き込んだ。
「本当だ。あまり遠くないんだな・・・でも徒歩で行けば五日くらいか・・・時間ないな」
「あ、えと。大丈夫ですよ!この町からラグーンへ船を出してるブルーポイントへの馬車が出てるみたいですから。僕が旅費持ちます!」
早口で一気に言う。
「うーん・・・」
よ、よし、後一押し・・・!
勢いでここまでの展開になってしまったが、スティングはまんざらでもないようだ。むしろこの状況に喜んでいる。
「それに、フォースもあるかもしれませんよ。どうですか?行ってみませんか?」
スティングに言われディクスがうなる。ナチはスティングに賛成のようで目をキラキラさせてディクスを見ている。そんなナチをちらっと窺った。
・・・ラグーンかぁ・・・噂には聞いたことあるけど。馬車で行けば一日くらい。首都から半年かけて荒野に行く予定だったから・・・今ここだろ?全然進んでない。
「ディクス、行ってみよう?予定外だろうけどそれもいいじゃない」
・・・予定外だろうけどって、既に何回も予定外が起きてるんだけどな。でもそれを一応考えたうえで半年予定してたんだけど。・・・行くか??
「・・・そうだな。今まで何回も予定外のことが起きてきたけど、全部良いことじゃなかったし・・・行くか?今度こそ期待できそうだし」
それを聞いたナチが手を叩いて喜ぶ。
「やった!じゃあ、いつ出発するの?明日の早朝かな?」
はしゃぎながら出発を急かした。
――――――なんか予想外の展開になったけど、ナチもディクスもさっきのこと忘れたみたいだし。それにシェルガーデンにもいけるから一件落着、一石二鳥でしたね
スティングがほっと息をついた。
「じゃあ、スティング。後は頼んだぞ。言い出したからにはプロデュースよろしく」
スティングの肩をぽんっと叩き、にっこり笑った。
「もちろんです。今から切符とか、プラン立てましょうか。急に決まったことですし。僕、ちょっと訊いてきます。だから先に宿に戻ってください。もちろん町を見物して回ってもいいですけど」
「ああ、わかった。疲れたら適当に宿に戻るよ」
「じゃあお願いします」
一通りきまるとスティングは走って行ってしまった。
「ラグーンのシェルガーデン。透き通った青い空と海に広がる白い砂浜・・・行ってみたかったんだよね」
ナチの心はもうラグーンの虜だ。夢を見るような目つきでため息をついている。
「そうなのか?あまり興味なかったから俺知らないんだけど」
「知らなかったの?結構有名だと思ったんだけどな。とにかく楽園なんだって。そういわれてるなら一回は行ってみたいじゃない」
「でもフォースは?」
「・・・大丈夫よ。走って逃げないって!」
・・・そりゃあ、走りはしないけど・・・・
そう思ったディクスだが口にはしなかった。
「うん、わかったよ。まあ、最近散々だったからラグーンではゆっくりしような。遅れたらスティングにどうにかしてもらえばいいしな」
苦笑しながら言う。
「あはは、そうね。探知機能で石探して稼いでもらおうね。シェルガーデン・・・こんどこそ絶対楽しんでやる!」
こぶしを硬く握り締め、ナチは一人決意したのだった。