D.Force The First Chapter
Force-14

楽園シェルガーデン


「おはようございます。じゃあ、早速今日の予定を話しますね」
早朝、スティングは徹夜で計画したプランが書いてある紙を見ながら言う。ナチもディクスは眠そうだった。
「はぁーい」
「はい、元気出していきましょうねー。まず、今四時ですけど、五時にブルーポイント行きの馬車が出ているそうです。ここから大体十時間かかります。午後の馬車もあるんですけど、着くのが遅くなるので午前中の便にしました。だから午後の早い時間につくと思います」
スティングが説明するが二人とも目がうつろだった。
「・・・大丈夫ですか?眠かったら馬車の中で寝てください。じゃあ、行きますよ」
そして宿を出て乗り合い場に向かった。四時という早さでも町はもう動き出していた。
途中でスティングは例のパン屋で買い込んだ。
「もう店開いてたのか?」
ディクスが眠そうに訊いてきた。
「はい。実は昨日何時に開くか訊いたんです。そしたら6時だったんですけど、無理言って今日は早めに開けてもらいました」
嬉しそうにパンを見せてみた。まだ温かい正真正銘の出来立てのパンだ。
「そうか・・・」
ややあきれながらディクスがつぶやくように言う。
のろのろ歩き、しばらくしてようやく町の端の乗り合い場に着く。人はまばらだった。
「ラグーン行きはこっちです」
うながされついていく。今のところ先に並んでいた女性二人を加え、五人だった。
「馬車早く来ないかしらね」
「出発の二十分前に来るみたいよ。早くラグーンでくつろぎたいわね」
「そうよー、そのために今までバイトがんばってきたんだもん。その分楽しまなくちゃ」
女性が嬉しそうに話していた。
「・・・もっとテンション上げましょうよ。低いですよ」
そんな女性たちがうらやましかったのか、スティングがまだ眠そうな二人に声をかけた。しかし二人はうなずいただけで何も話さなかった。
やがて馬車も到着し、乗り込むも、ディクスとナチの二人は早くも爆睡モードに突入しそうな勢いだった。壁にもたれかかってあくびをしている。
「何がそんなに眠いんですか?昨日早く寝ませんでしたっけ?」
スティングが不思議そうに訊いた。
「ちょっとな・・・」
昨夜もディクスとナチは同じ部屋で寝たのだが、少しいつもと違っていた。
スティングが走り去ったあの後、二人はラグーンについて調べようと本屋で色々調べていたのだった。しかし、気分が乗ってきて、乗ってきすぎて本を買い込み、深夜まで語り合っていたのだった。そのせいで睡眠は二時間しかとっていなかったのだ。
「ねえ、スティング。宿とかって今の時期空いてないんじゃないの?」
昨夜徹夜で読んだ本には今の時期が丁度シーズンで、観光客が多いとかいてあった。宿も取れないほどだという。
「安心してください。絶対大丈夫です」
かなり自信ありげに断言する。
「そうなんだ。じゃあ、期待しても損はないわね」
「もちろんですよ。任せてください!」
「はあー、にしても眠いな」
ディクスがあくびをしながら眠そうに言った。そして背伸びをした丁度その時馬車が動き出し、ディクスはバランスを崩し頭をまともに床に打ち付けた。
「何やってるんですか?」
スティングがあきれたようにディクスを見遣った。
「いってー・・・」
頭をさすりながらのろのろ起き上がる。その様子を見ていた他の女性客がくすくす笑っている。
「笑われてるわよ」
「だって眠いんだ」
「・・・昨日の夜何かしてたんですか?あ、もしかして僕に隠れて何か食べあさってたとか!?」
身を乗り出して訊いてきた。
「あほか!ンなことするわけないだろう」
即座に突っ込む。すると例の女性客にまた笑われてしまった。それでディクスもスティングも顔を赤くする。
・・・・情けないなぁ・・・
ナチが心の中でつぶやく。
「ねえ、あなたたちもシェルガーデンに行くの?」
女性客の一人がディクスに話しかけてきた。
「え・・・??ああ、そうだけど・・・」
いきなり話しかけられたディクスはしどろもどろにいう。
「じゃあ、あたしたちと同じね。ずっと行きたかったんだ。で、今日ようやくその夢がかなうってわけなの」
嬉しそうに両手を重ねる。
「そうなんですか」
「そうなのよー。あたし、ティアリーって言うの。ティアって呼んでね。あなたの名前は?」
「・・・ディクス・・・」
「あなたは?」
「僕は・・・えーと、えーと・・・スティアです・・・」
今度は自分に話しかけられたスティングは動揺しながらうその名前を教えた。
「スティアっていうの。顔も可愛いけど、名前も可愛いのね」
などといわれまともに凍りつく。ディクスは苦笑いしている。どちらも初対面の女性にどう対応していいのかわからないらしい。ナチはきょとんとした表情でその様子を眺めていた。
「ちょっとティア!自分だけナンパしないでよー」
今度はもう一人の連れが加わってきた。
「私はウェラ。よろしくね!」
言って動揺気味の二人の手を握る。びっくりしたスティングが思わず手を引っ込め、ひじを壁に思い切りぶつけた。
「あはは・・・」
「かわいー☆そんなに驚かなくてもいいじゃない。あまり女の子と話したことないの?」
ティアが面白そうにスティングをつつく。
「ティア、やめなさいって。可哀想よ」
しかし、ティアはやめる様子はなく、固まっているスティングで遊んでいる。スティングは非常に困った顔をディクスに向ける。ディクスはにかっと笑っただけだった。
・・・なんで僕がこんな目に・・・助け舟出してくださいよー
心の中で叫ぶ。
「ディクス、シェルガーデンで何するの?」
「何・・・するんだろうな?プロデューサー」
本当にわからなかったディクスはスティングに顔を向ける。
「僕ですか!?何するって・・・バカンスを楽しむんですよ。海で泳いだり、朝から晩まで寝転がったり、美味しい海の幸を堪能したり・・・いろいろあるじゃないですか」
困惑しながらも昨夜やろうと決めてきたことを話した。
「やっぱりそうよね。あたしたちもよ。心の洗濯ってやつかな?」
「目的同じなら一緒に行動しない?せっかくだから大人数で楽しみたいじゃない」
「それいいわね!女だけじゃつまらないって思ってたところだし・・・いいわよね?」
強引に迫ってきた二人にディクスもスティングもかなり困惑していた。
・・・一緒に行動って・・・そんなんじゃ僕たちひやひやしてバカンス楽しめないですよ・・・
何でこうなるかなー?別に女同士でもいいじゃないか・・・どーしてこうなんだ?
ちょっとちょっとちょっとー!!まさか"はい"とか返事しないでしょうねー?
ナチを含める三人ともその意見に不服そうだった。
「いや・・・俺たち三人で来るつもりだったし、今まで色々あってゆっくり休みたいんだ。なあ、ナチ」
いきなり話を振られ驚きながらもナチは首を縦に振る。
「そ、そうなの!皆歩き疲れたりとか、精神的にも結構つらかったから・・・だからシェルガーデンに行こうって決めたの。だからできれば三人で・・・」
ナチが申し訳なさそうに断る。しかし、ティア、ウェラの二人は猛反発してきた。
「あら!それなら私たちが十分癒してあげれるわ。こーんな美女をないがしろにする気?」
「私たちがせっかくさそってるってのに、こんなお子様のほうがいいっていうの?笑っちゃうわ」
冷たい目でナチをにらみながらまだ困惑気味な二人にからんできた。
お、お子様・・・
ナチはまともに顔を引きつらせているが、まだ理性を保っているようだった。
しかも癒すってなによ!そーゆー下心のある人なんかモンスターにくわれちゃえばいいんだからねっ!
「ったく・・・」
そうつぶやいた次の瞬間だった。
「うわああああっ!」
御車の悲鳴と馬の鳴き声とともに馬車が急停車した。
突然の出来事で乗客全員固い床に打ち付けられた。
「な、何なの?」
何がなんだかわからないまま馬車の外をのぞく。
「ああ!!」
そこに広がっていたのはサーベルタイガーがまさにこの馬車を襲おうとしている光景だった。
大変っ!
まだ転がっているメンバーをよそにナチは馬車から飛び降りた。
そしてサーベルタイガーから見えない位置につく。
この間合いなら・・・
馬車とサーベルタイガーとの距離が十分開いていることを確認し、サーベルタイガーの注意をひいた。
「こっちよ!」
それと同時にナチが術の発動に神経を集中し始めた。サーベルタイガーがナチのほうを向く。低くのどを鳴らし、突撃してきた!
「メガ・クラッシュ!」
どしゅっ
長く尖った牙とつめが襲い掛かろうとしたそのとき、ぎりぎりまで溜めた力ある言葉が敵の心臓を貫いた。
サーベルタイガーはその巨体をナチの目の前に叩きつけられ、そして動かなくなった。
「ざーっとこんなもんよー!」
ナチが手を腰に当てて勝ち誇った表情をしていた。
「ナチ!後ろっ!」
ディクスの叫びに反射的に横に飛ぶ。ナチがいた場所にさっきのサーベルタイガーよりもふた回りも大きいサーベルタイガーが大地に大きな爪あとをつけて着地した。そして殺されたサーベルタイガーを鼻でつつく。
「仲間・・・・!?」
まさか・・・敵討ちに!?
緊張が走る。敵との間合いも十分でない。動けばこっちがしとめられる。
「くっ!フレアショット!」
混乱気味に放った術ははずれて新たな敵の横に着弾した。
失敗!?
サーベルタイガーが高く飛んだ。その標的は・・・
「ナチ!!」
ディクスが絶叫混じりに言う。しかし、ナチが目を硬くつむり、そして腕を天高く掲げた。
「そうかんたんにはやられないわ!!」
舞い上がった敵はナチに襲い掛からんと垂直に落下した。
どさっ
「きゃあっ!」
衝撃にしりもちをつく。瞑った目をゆっくり開ける。すぐ目の前に自分よりも大きな敵。その目はナチを捉えている。
もう逃げられない。
あっ・・・嘘・・・・
サーベルタイガーが顔を近づけてきた。巨大な牙、強靭なあご。ちょっと力を入れられれば人間など粉々砕けてしまうだろう。
ま、まだやりたいことがいっぱいあるのに・・・こんなところで犬死なんかできない!!
「たっ食べたって美味しくないわよ!まだ死なないんだからね!!―――全てに等しき死の証印をここに!!ジャッジメン・・・」
「駄目ですっ!!」
一か八かジャッジメントの術を放とうとしたナチにストップの声がかかった。それと同時にサーベルタイガーの横腹に光の塊が叩きつけられた。
ギャウウッ!!!
「スティング!?」
ディクスもナチも驚いてスティングを見る。
「駄目ですよ!そのサーベルタイガーを殺してはいけないんです!」
そう言うと、地面に叩きつけられ苦しそうにもがくサーベルタイガーに近づいた。
「何言ってるの?危ないじゃない!」
しかしスティングは聞かずにサーベルタイガーの額に手を当てた。
「!??」
「静まれ」
響くようなその言葉に反応し、サーベルタイガーは立ち上がる。そして行儀よく前足をそろえて座った。
「スティング、それは・・・」
隣に来たディクスが驚いて訊く。スティングは苦笑した。
「このサーベルタイガー、ここら辺に住む大きな集団の親玉ですよ。だから殺しちゃいけないんです」
「だからさっき襲い掛かってきたのは殺された仲間の恨みを晴らそうとして」
ナチが言うがスティングは首を振った。
「この種のサーベルタイガーは実はとても温厚なんです。さっき飛び出てきたのも過ちを犯そうとした仲間をいさめようとしてやってきたんでしょう。結果的にはナチにやられてしまいましたが。
それにあれはナチに襲い掛かってきたんじゃないですよ。ただ驚いてナチのほうに跳んだだけでしょう」
そういいながらサーベルタイガーの頭をなでた。スティングの背よりも高いサーベルタイガーは頭を低くして気持ちよさそうにのどを鳴らしている。
「人間に手を出したらやられるのは自分たちだってわかってるんですよ。だから森の中でひっそりと暮らしているんです。この親玉がいなくなったら統率力が失われて大変なことになります」
「そうなの・・・知らなかった」
ナチが感心する。
「でもほんと、ひやひやしたよ。まさかの事態だったからとっさに術がでなかった。すまん、ナチ」
馬車から降りてきたディクスが苦笑混じりに謝った。ナチは気にしてないよと首を振る。
「サーベルタイガーといってもその性格や種類はさまざまですから。でもここの種類が温厚な性格でよかったですよ。そうじゃなかったら今頃大変なことになってましたからね」
「わたし絶対死んでた・・・でも、最初のやつ・・・殺しちゃった・・・」
ナチがうつむき加減に反省した。その目は地面に横たわっているサーベルタイガーをとらえていた。
ディクスがナチに近づき肩をぽんとたたく。
「仕方ないだろ、あれは。もしナチが先に攻撃を仕掛けてなかったらやられていたのは俺たちのほうだからな。この親玉が来てからじゃ遅かったんだ」
人間の言葉がわかるのか、サーベルタイガーは反省したように頭をさらに低くした。
「お前のせいじゃないよ」
ディクスが笑いながら言う。
「このままほうっておいても大丈夫そうですね。じゃあ、そろそろ馬車に戻りますか」
スティングに促され馬車に乗ろうとしたときだった。
「ちょ、ちょっと、あんたたち何、モンスターを仲良くしてるのよ!!」
「あっ、もしかして仕掛けたんじゃないでしょうね!?」
ティアとウェラの二人がおっかなびっくり、顔を出して叫んだ。操舵を努めていた中年は気絶しているようだ。
「ちょっとティアやばいよ。早く逃げないと」
「わかってるわよ!・・・仕方ないわね。あたしの手綱さばきみてなさい、えいっ!」
ぱぁん
手綱を握ったティアが馬を走らせた。
「えっ、あっ!?ちょっと待ちなさいよ!」
ナチの静止を聞かず、とうとう馬車は走り去ってしまった。
「嘘・・・」
ナチが呆然とその場に立ち尽くす。
しかし、スティングも、ディクスも予測していたようだ。驚いた様子は無い。
「仕方ないだろ、そう思われても。だから俺荷物持ってきたんだ」
「僕もです」
そう言って二人とも自分の荷物をみせた。
「わたしのは・・・?」
ナチがジト目で訊いた。
スティングとディクスが顔を見合わせる。
しばしの沈黙。
「忘れた」
「ばっ、バカぁぁぁぁーーー!!どうしてくれるのよ!自分のだけちゃっかり持ってきて!」
ナチがものすごい剣幕で迫ってきた。が、馬車が行ってしまった今、どうすることもできなかった。
「だ、大丈夫だよ。シェルガーデンにつけば荷物戻るって!」
「どうやっていくのよ。全然遠いじゃない!数日かかるわ!」
「そんなこと言われても・・・なあ、スティング」
話を振られ驚く。しかし、サーベルタイガーをぽんぽんたたきながら、
「乗せて行ってもらいますか?サーベルタイガーに」
笑みを浮かべながらそう言った。