D.Force The First Chapter
Force-16

水平線の彼方へ


ラグーン行きの港がある町、ブルーポイント。三人は乗ってきたサーベルタイガーは町の手前で放してやり、今、町の入り口まで来ていた。サーベルタイガーのおかげで夕方前に着く事ができた。
「潮の香りがする・・・」
ナチが町の匂いをかぐ。ブルーポイントはラグーンとの架け橋の役目はもちろん、エスタの重要な輸出入の港のひとつとしてそれなりに人が多かった。
「金持ちとか多そうだな・・・」
町人の雰囲気を見てディクスが面白くなさそうにつぶやく。
「町としては小さい方なんですけどね。どうします?この分だと夕方出発の船に乗れそうですよ。チケット取って置きましょうか」
「そうだな、さっさと出発した方がいいな。それにまたあの女たちと一緒になるのはごめんだし」
あの女たちとは馬車で乗り合わせたティアとウェラのことである。もし再び会うようなことがあれば今度は何を言われるかわからない。
「じゃあ、チケット買いに行きましょうか。港の近くにあるでしょう」
「あ、俺ちょっと寄るとこあるから」
しかしディクスはそれだけ言うとそそくさとその場を立ち去った。
「港で待っててくれよー!すぐに行くからっ!!」
大声で残った二人に叫ぶと人ごみに消えて行ってしまった。
「どこ行ったんだろ?」
ナチが不審そうな顔をする。スティングもわかっていなかった。
「何ででしょうね・・・何か用事でもあるんでしょう。ナチ、先に港に行って準備しておきましょう」
「そうだね。ディクスも港に行くって言ってたし、行っちゃおうか」


「チケット取って来ました。四時出発の明日の九時ごろ到着予定の船です」
三枚のチケットを手に、眼下に広がる海を眺めていたナチの元へ戻ってきた。
「お帰り〜、ありがとうね」
髪をほどき、風に髪をなびかせながらナチが振り返った。そして再び海に向き直る。
「髪ほどいちゃった。なんだか風がすごく気持ちよくて。やっぱなびかせるなら長い髪よね」
金色の髪を耳にかけるように手を添えながらナチが話す。
「スティングはもっと長いもんね。それに手入れが行き届いてるからなびかせたら綺麗だと思うんだけどなー」
スティングの後ろ髪をじーっとみながらナチが言う。
「僕はずしませんよ・・・」
髪をかばうようにスティングがやや逃げの体勢をとる。
「わたしスティングが髪下ろしてる姿あんまり見たことないんだけどな」
「寝る前にしかほどきませんから。ナチは別の部屋ですもんね」
「でも、一度はちゃんと見せてもらうからね」
「夜這いですか!?」
「そんなわけないじゃない!!」
ナチが声を上げる。そしてため息をついた。
「もー、せっかくの雰囲気が台無し。いいや、髪結んじゃおう」
言うと、いつもとは違いポニーテールで結い上げた。その様子をスティングは申し訳なさげに見ていた。
「魚・・・魚の影が見えますね」
視線を海に移す。海の透明度が高いため高いところからでも魚の影を確認することができた。小さな影が群れをつくり泳ぎ回っている。
「熱帯魚かな?ラグーンに近いせいかこの港も海綺麗よね。青い地平線がすごく素敵。一番好きだな」
遠い目をしてつぶやくように言う。
「でも、後でもっといいもの見せてあげますよ」
「いいもの・・・?」
ナチがスティングの方を向く。
「きっと忘れられないものになると思いますよ」
スティングは意味ありげににっこり笑って見せた。


「おまたせーっ!!」
船着場で待っていたナチとスティングのもとにディクスが戻ってきた。とても機嫌が良いのか手をぶんぶん振りながら全速力でやってきた。
「何してたの?」
事情を知らないナチが訊く。
「なんでもないよ」
短く答えたディクスだが、なんでもないわけではなかった。ディクスは馬車の組合所に行って小切手の換金をしていたのだった。他の二人にはもちろん内緒である。
一息つく。
「チケット取れたのか?」
「ええ、取れましたよ」
「シーズンだから多かったんじゃないか?」
「その点は心配無用です!」
何故かとても自信ありげに答えた。
「出航までまだ時間あります。どこかで時間つぶしましょう」
スティングの提案に賛同し、海の見えるテラスのある喫茶店で落ち着くことにした。
「ここも風が気持ちいい!」
ナチが大きく伸びをする。
「本当だな。どこを見ても絵になる場所だし・・・ラグーンはこれ以上なんだよな。想像つかないよ」
辺りをきょろきょろしながら言う。そして席に着いた。
「なあ、スティング。船だけどもっと早く出港するやつあっただろ?確か三時くらいだったと思うんだが」
ディクスが手にしているパンフレットを見ながらスティングに訊いた。今は既に二時半過ぎだ。
「大丈夫ですって。客室もだいぶ余裕ありましたし、快適な航海は保証します。安心してください」
「そうか・・・」
曖昧な答えに納得がいかないようだった。パンフレットを眺めながら注文したジュースを口にする。そこへナチが戻ってきた。
「海の見える町ってすごく素敵ね。あこがれちゃうな」
この風景が相当気に入ったようだった。目に入るもの全てが新鮮で素敵に見える。
「リスタルのクリスタルレイクも綺麗だけど、海は規模が違うわ」
そしてフレッシュジュースを飲む。
「・・・なんだろう?このジュース。何の果物が入ってるんだろう?」
味わったことのないジュースにナチが不思議そうな顔をする。
「まずいのか?」
ディクスが訊いた。ナチは首を振る。
「ううん、おいしいんだけど、何の果物が入ってるのかわからなくて・・・黄色い果物?バナナ・・・じゃないわよね」
「南の地域でしか取れない果物でしょう。そういう珍しいものがたくさんあるようですから。僕のこのジュースだって何か食べたことのない果物はいってるみたいですし」
「そっか・・・珍しい果物かぁ。ねえ、ディクス、ディクスのそのジュースちょっと味見させて」
ディクスの返事を待たずにグラスを手に取る。
「はい、わたしの飲んでいいから」
そういうとグラスに口をつけ少し口に含んだ。
「・・・このジュースも・・・飲んだことない味ね。本当に何なのかわからないわ」
首をかしげる。
「お前なー」
「だからわたしのも飲んでいいってば」
「いいよ、もうそんなに喉渇いてないしな」
困ったような表情をすると再びパンフレットに目を落とした。ナチは手に取ったグラスを元の場所に戻した。
「ラグーンについたら竿買うか借りるかしないとね」
「竿ですか・・・魚釣りでもするんですか?」
竿を入手するのはさも当然だというようなナチにスティングが不思議そうな表情をした。魚釣りをしているナチの姿を見たことなかったのだ。
「そう、魚釣り!わたし結構得意なんだよ。海でしたことはないんだけど・・・川とか湖ならよくやってたわ。一日かけて自分のここだって思うポイントでずーっと釣り糸をたらしておくの」
「そうそう、一度明け方からクリスタルレイクで魚釣りをするって一人で出かけて帰ってきたの夜中過ぎだぞ」
ディクスは参ったように肩をすくめてみせる。
「いいじゃない、たくさん釣れたんだし・・・なのにすごい怒られたんだもん。そんなに心配なんだったら迎えに来てくれれば良かったのにー」
「すれ違いになったら困るだろ?」
不服そうに言い返す。
「釣ってる間何をしてるんですか?」
「釣ってる間?うーん、何もしてないに等しいかな・・・何も考えてないときもあるわ。頭の中が空っぽになった感じ」
「なんだ、お前の頭何か詰まってたのか」
ナチは余計なことを言ったディクスを一撃した。
「・・・そうなるとね、なんだかふとアイデアが浮かんでくるの。もちろん術の事なんだけど。それに精神を落ち着ける上ではやっぱこれも重要な術教育の一環だもんね、魚も釣れるし一石二鳥よ」
「なるほど、結構いいかもしれませんね」
「でしょ?ラグーンで遊ぶのもいいけど、そうやって過ごすのもいいなって思ったの。だから竿は必須!実はスティングに会うちょっと前に持ってた携帯用の竿折っちゃって・・・デルタで買おうとも思ったんだけど、海に面した都市じゃないからそういうお店なくて買えなかった。さっきまで忘れてたんだけどね」
いい終えると立ち上がった。
「一度ね、このくらい大きな魚釣ったことあるんだよ!」
背伸びをし、腕を天高く掲げた。
「あの時は糸が切れそうだったから魚の大きさを確認してから術使って釣り上げたんだけどね」
「でも、大きすぎて持ち運びも大変だしあんまり美味そうな魚じゃなかったから戻したんだよな」
「そうなの。大きいには大きかったんだけど・・・真っ黒い魚でね、おいしそうに見えなかったのよ。それに大きかったから返しちゃった。もしかしたら湖の主みたいな存在なのかもしれないしね」
いい終えると再び席に着いた。
「なんだか楽しそうですね」
「絶対はまるって!それにスティングはきっと王宮じゃ忙しかっただろうし、暇でも本とか読んでそうだし・・・旅を始めてからもずっと歩いてばっかだったから本当の心の休息っていうのを体感したことない思うんだ。だから試してみてね」
「ええ、やってみます」
話が一段楽したところでディクスが読んでいたパンフレットを閉じた。そして大きく伸びをすると立ち上がった。
「そろそろ乗るか?余裕を持って船に乗っておいたほうがいいしな」
ディクスが店内の時計を横目に言う。
「じゃあ、港に行くのね?」
「そうですね、行きましょうか」
そう言って残りの二人も立ち上がった。


ブルーポイントの大きな港には船が四隻停泊していた。そのうち二番目に小さい船の前に来た。
「この船だろ、ラグーン行きは」
そう言ったディクスの視線は目前の船を捉えている。一日もない航行ならこのくらいの大きさの船で十分なのかもしれないが、やや心もとない気がした。木造の船は古かった。
「・・・・」
そして少し離れた所に停泊しているもう一隻の白い船を見遣る。こっちの船とは違い三回りは大きいだろうか?真っ白な大きな船体は太陽の光を浴びてその壮大さを一層引き立たせている。白く塗装された金属でできてる分あっちの方が断然安全と言えそうだ。
――――― あの船はリディア大陸の船から複製したものです。オリジナルはエンドレスにあります。一度乗ったことがあるんですが、本当にすごい技術で動く船ですよ。術を使わずとも生活しているリディアの人たちの理由が良くわかります」
スティングが軽く解説をする。
「じゃあ、行きましょうか」
そういうとスティングは先に船の方へ歩き出した。目の前の船ではなく、白く大きな船の方へ。
「え、スティング、そっちじゃないよ」
ナチが声をかける。しかしスティングは戻らない。
「何言ってるんですか、僕達が乗る船はこっちですよ。大型船籍クイーン・ヒューエスティナ号」
さも当然のように言うと歩いて行ってしまった。木造の船の前に取り残された二人。
「あいつ何倍も高いあっちのチケット取ったんだ・・・」
ディクスがつぶやく。
「すごいものってこれの事だったんだ・・・」
予想だにしない出来事に二人とも困惑気味だった。まさかあんな豪華客船に乗ることになろうとは全く予想してなかったのだ。そんな二人に気づいたスティングが振り返る。
「何やってるんですかー!早く来てくださいよー!」
そう大声で叫んだ。
「・・・うん、今行くっ!!・・・ディクス!」
「ああ・・・。―――― お言葉に甘えて便乗させてもらうか!」
気を取り直したディクスが声を上げた。


「・・・・」
海上を快速で航行する白い船体の甲板に一人たたずむ影があった。
あれからしばらくして船が出港した。ディクスの知っている船とは違いこの白い船は人の労力を消費せずなんともスムーズに航行し始めた。その動力源が電気、燃料だというのだから信じられなかった。こんなに大きな船体を動かす動力の源がどこから来てるのか検討もつかない。
「ディクス!何してるの?」
甲板に姿を現したナチがディクスに声をかけた。
「ナチか」
ナチの方を振り向くと風にあおられて髪が逆立った。
「スティングと色んなところ見て回ったんだけど本当にすごいよね、この船。びっくりしちゃった」
ディクスの隣に身を落ち着けた。
「リディアって本当にすごいのね。スティングも言ってたけど、術に頼ってない理由が良くわかるわ。こんなにすごいもの作っちゃうんだもんね。信じられない」
三人とも考えることは同じようだった。
「でも、動力は電気と燃料なんだろ?それが枯渇したら終わりじゃないか。こんな大きな船動かす動力だ。その消費も相当なものだろ。俺は術の方がいいと思うけどな。人間に感情がある限り衰えることのない力だし」
「そうだけどね。でも、いざって時はこっちのほうがいいと思うのよね。誰の精神力も奪わないんだもん。それはちょっとうらやましいかも。高価な水晶にわざわざ術を移さなくてもスイッチひとつで点灯する明かり・・・リディアの生活文化が少しずつディオール大陸にも影響してきているわ。この船だって・・・――――― 術の時代は終わりなのかもしれないわね」
最後を言いにくげに言う。
「そんな事あるわけないだろ!・・・術にしかできないことだってたくさんある。リディアとはちがってディオールは"思いを力にする"ことができる。守りたいとか、そういう感情が直接的な力になるんだ。お前だってそれは熟知してるはずだろ?」
はっと顔を上げてディクスを見る。
「・・・そうだったね。それだけは枯渇することのない無限の力だわ。これこそ未来永劫の力なのかもしれないわよね。でもやっぱメリットだけって言うのはどこにもないね」
「メリットだけが全てじゃないだろ」
「うふふ、そだね!」
ナチは笑った。そんな表情を見てディクスは不思議そうな顔をした。
「なんだかディクスとそんな話をこんなところでするなんて思ってなかったんだもん!全然思いもしなかったこと尽くしでおかしくなっちゃって。悪気があるわけじゃないのよ」
「まあ、それは俺も同じだけど・・・同じ星に生きていて、ただ住む大陸が違うだけでこんなにも違う文化だ。世界は俺たちが思っているよりもずっと広いのかもな」
二人の目の前にはどこまでも続く水平線が広がっている。目の前だけではない、三百六十度どこを見渡しても広大な海。ディオール大陸の姿はもう見えない。
「リディア大陸かぁ・・・ちょっと行ってみたいよね。ネルディアス大陸も行ってみたいけど今は荒れてるって話しだし」
「その前に荒野だろ、荒野。エルダスに早いとこ着いてフォース探し始めないと。頼むからそれだけはやらせてほしんだ」
懇願するように言う。
「・・・―――――― ねえ、ディクスはどうしてフォースを集めようって思ったの?フォースの研究したいなら、かけらひとつあればいいじゃない」
ナチがディクスに向き直る。その目はディクスの目を捉えて離さない。ディクスが本当の理由を言わなければ納得しないだろう。
―――― これを逃したら、ディクスがフォースを探している理由を知る機会を後にしてしまう・・・
ナチは正直焦燥に駆られていた。この機会を逃すわけには行かない。
「・・・・」
しかし、ディクスは黙ったままだった。その表情は今までにないくらい強張っていた。その理由はナチにはわからない。
「ディクス」
たまらずディクスはナチに背を向けた。
「そんなに深刻な理由なの・・・?」
「・・・・――――――
それでも黙ったままだった。船がかき分ける波の音しか聞こえない。そうしてどれくらい経っただろうか。
「怖いんだ」
そう口にした。
「え・・・」
「最初は誰でもできるものだと思った。だけど、それは自分しかできない事だってわかって・・・怖くなったんだ」
「何のこと?」
ディクスはようやくナチに顔を向けた。その手にはフォースのかけらが乗せられていた。
「この小さなかけら。何も感じないだろう?」
ディクスに訊かれナチがうなずく。
「でも・・・俺は違うんだ。このかけらを見ただけでいつも鳥肌が立つくらいの恐怖に襲われる」
そう言い、フォースを握り締める。
「このかけらは人間が持ってはいけない巨大すぎる力が封じ込められているんだ。この小さなかけらでも町一つを破壊する力は十分ある」
「ちょっと待って、なんでそんなことわかるの?今まで、フォースは何の力も感じられないのが特徴だって言ったのディクスじゃない」
「・・・初めてナチにフォースを見せた時そう言っただろ?何も感じないって。俺もそう思ってた。だけど、俺以外の人間はこのフォースの力を引き出そうとしても力を感じ取ることができないことがわかったんだ。だから・・・」
「じゃあ、ディクスは・・・フォースの力を引き出せるって言いたいの?」
ナチが信じられないと言うような顔で見ている。その表情を見たディクスの顔が曇る。
「一度町に行くってって三日くらい家を空けたことあっただろ?実はあの時フォースの力がどれくらいなのか実験するための嘘の理由だったんだ。俺はほんの少しだけ力を解放したはずだった。だけど、その解放された力の規模は俺の予想をはるかに超えていた。・・・俺を中心に大穴が開いたよ。もちろん俺も巻き込まれた。とっさにシールド張ったから大事には至らなかったが半日気を失う結果になった」
遠い目をして言う。
「フォースは危険なものだ。絶対に力を使ったらいけない。だから最初はフォースを自分から遠ざけていた。だけど、違ったんだ・・・。心の奥底では力を使える自分が他の人間とは違うんじゃないかって言いようのない不安にかられていたからなんだ。自分の心の弱さを、フォースの巨大な力のせいにしてたんだ」
――――― 本当に怖くて・・・悲しかった・・・
ただでさえ竜神はディオール大陸の一部を破壊したもの。フォースを行使できるなどといえば敵視されても仕方がない。
「それから月日が経って、何故だかフォースと自分の力の関係を知らなきゃいけないって思ったんだ。俺の根っからの好奇心のせいかもしれない。
―――――― いや・・・違うな。自分の恐怖心をなぎ払わなければならない・・・そう思ったんだ。だけど俺は、フォースに興味があるから。研究したいからって・・・、今の今まで嘘をついていたんだ。ナチにまで見栄を張ってたんだよな、俺」
そう言って自嘲気味に笑った。
「奇異の目で見られるのが怖くてしょうがなかったんだ・・・」
握ったフォースに力を込める。しかし、物理的な力ではない、ディクスはフォースに己の精神を注ぎ込んだ。
ディクスの指からまばゆい光がもれる。直視できないほどの強すぎる光だ。
「これが・・・フォース・・・なの?」
ナチがつぶやくように言う。
「これは本当にごく一部の力。最近になってようやくここまでコントロールできるようになったんだ」
そういうとフォースは光を失った。
「びっくりした?」
驚きの表情を隠せないナチにディクスが声をかけた。
「俺っておかしいだろ?」
そう言ったディクスの目はナチを捉えてはいなかった。わざと視界に入らないようにしているようだ。
――――― ナチの反応が・・・怖い・・・
その思いが招いた結果だ。
「ディクス!ちょっとこっち向いて!」
ナチが声を上げてディクスの腕をつかみ、強引に向き直らせた。
「一つ言っておくわ。わたしはディクスの妹だってこと。それわかってる?煮ようが焼こうが腐ろうがディクスの妹なのよ?今まで一緒に暮らしてきた。わたしは最大限ディクスを信用してきたし、頼りにしてきたわ」
そこで一息つく。
相変わらずディクスの両腕をつかんだままだ。逃げようとするディクスを阻止するかのようだ。
「でも俺はナチに嘘を・・・」
言いかけたディクスの頬をナチが叩いた。頬に赤みがさす。
「・・・・」
「誰だって一つくらい秘密にしておきたいことくらいあるわ」
一瞬の沈黙。
「覚えておいて、どんなに迷惑がられてもわたしはディクスを信用する。頼りにするから。ずっとついて行くんだからね!」
言い終えると、突き放すようにディクスの腕から手を離す。
「それに・・・心が弱いことを隠してたって言ってたけど・・・そんなの誰だってそうよ。みんな何かに支えられているおかげで今を保ってるんだわ。わたしだって・・・」
言いかけて空を見上げた。
「ナチ・・・」
「それから、さっきの話、スティングにもしてやってよ。気にしてたみたいだし。スティングだってわたしと同じよ。わたしに負けないくらいディクスを信頼してる。それは知ってるでしょ?」
ディクスに顔を向けたナチの顔は笑っていた。
「・・・」
「なぁにそんなに深刻な顔してるのよ!!世界一立ち直りが早いが自慢じゃなかったの?ディクスらしくないよ?」
ディクスの肩をばしっとたたく。
「笑わないといい男が台無しよー!」
ディクスの頬をぐいーっとのばす。
「いててててっ!」
ナチが参ったかと言いたげに仁王立ちになる。
「わかったらほら、とっととスティングのところに行く!」
急かされナチを後にし、船内に戻った。
「・・・」
振り返るが誰もいない。
―――― ありがとう・・・
心の中で強く思う。そして本人の前でそれを言わなかった自分に後悔した。
しまったな・・・
決まり悪そうに頭をかく。
世界一立ち直りが早いが自慢じゃなかったの?
ナチの言葉がリフレインする。
「・・・行くか!待ってろよー、スティング!根掘り葉掘り答えてやる!!」
一人豪語すると狭い通路を全速力で走っていった。