D.Force The First Chapter
Force-18
与えられた名
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フォーマルな服に着替えた三人は船室を出た。 ディクスとスティングはスーツを着ていた。首には蝶ネクタイなんかをしている。いつもは梳くだけのディクスの髪もワックスで整えられていた。スティングの髪はナチに無理やりつけられたリボンで綺麗に束ねられていた。 一方ナチは肩が露出しているイブニングドレスを着ていた。そして床につきそうなくらいのロングスカート。薄く化粧もして大人の仲間入りと言ったところだ。 「十階だよねー」 先にナチがエレベーターに乗る。続いてスティング、そして・・・ 「ディクス、どうしたの?早く乗ってよ」 「ああ・・・」 またさっきのように迷うのではないかと人知れず不安になっていたディクスだった。不本意ながら巨大なボックスの中に入る。しばらく奇妙な感覚に襲われた後、扉が自動的に開いた。しかし目の前に広がる光景はさっきのものとは違った。 ―――――― こういうことだったのか・・・ ようやくエレベーターの役割を理解し、感心しそうになり、 いや!なんでも科学にたよっちゃだめなんだ! あわてて否定する。危うくポリシーを捨てるところだった。 「思ったよりもなんか堅い所ね・・・」 ナチが辺りを見回す。落ち着いた感じの場所だった。中心には人口の池が設置してあり、どこからでも見渡せるようになっている。三人は二階のテラスに案内された。夜景が見渡せる絶好の場所だ。もちろんガラス張りになっているから外気温にさらされることはない。 「なんだか緊張するね」 言いながらウェイターにひかれた椅子に座る。ディクスもやや緊張気味だ。スティングは慣れているのか余裕があった。 「ああ、俺こういうの初めてなんだけど」 「わたしだって。スティングはこういうの得意よね。サポートよろしく!」 ナチが言うが、スティングは黙ったままだ。テーブルの上で手をからませて目を瞑っている。 「?」 まもなく食前酒が運ばれてきた。白いワインである。 ・・・飲めないんだけどな・・・ ナチが困った表情をする。 「無理に飲むなよ。水を飲めばいいだろ」 ディクスにフォローされる。やがてスープが来た。 音を立てないように飲めばいいんだよね。 細心の注意を払いながらスプーンですくっていった。しかし・・・すくうだけでは残さず飲み干すことはできないようだ。思案しているときだった。 「すくえなかったスープはそのまま残しておくのが通例だ」 黙っていたスティングがおもむろに口にする。 ・・・"通例だ"? らしくない口調にナチが驚く。 「あ、そうなんだ・・・」 スープ皿を傾けてすくおうとしたディクスが決まり悪そうにゆっくりと戻す。 「やっぱ俺にはこういうの合わないわ。ちゃんと学んでおくべきだったな」 失敗したように言う。 「さすがねー、スティング」 ナチが褒めるがスティングの反応はない。 続いてオードブルだ。 「エスカルゴだな」 ディクスがつぶやく。そして口にした。 「ボルドー風か」 今度はスティングだ。 「ボルドー風って?」 「にんにく、パン粉をバターでいためたものと、カタツムリの身をバターでいため、極濃の肉汁をからげにしたものだ」 さらっといいのける。 ・・・なんで口調が違うんだろう? 「ほかにもいろいろ調理法はある。にんにくを利かせたものがほとんどだがな」 「お前よく知ってるなー」 ディクスが感心する。それでもやはりスティングは黙ったままだ。 ナチはディクスになんで?といいたげな顔を向けた。ディクスは肩をすくめてみせる。 ―――――― 真に受けてるんだな、スティング・・・ さっき教えたことをスティングは忠実に守っていた。"寡黙で博識で黙って俺について来い"タイプが好まれるのだということを吹き込んだのだった。もちろんそんなことはない。 ですます口調はもってのほかだからな!ディクスにそう駄目だしされた結果だ。 お前みたいに甘いタイプは駄目なんだよ。だからナチに"S"ランクだとか何とか言われるんだ。 スティングの頭の中でディクスに言われた言葉がぐるぐるとまわっている。 ―――― ああ・・・もっと話したいのに・・・そもそも食事で黙っているのは一番のマナー違反なのに・・・ 軽くため息をついた。 「スティング、どうしたの?なんかさっきから変だよ。――――― もしかしてわたしが何か悪いこと言ったせいなら謝るわ。ごめん」 スティングはあわてた。 そ、そんな!ど、どうしよう!? ディクスを横目で見るが首を横に振られ反応するなと注意された。 ―――― でも・・・!! ――――― 評価上げたいんだろ?それくらい我慢しろ! ディクスがスティングの足を蹴った。スティングの落ち着きのない様子にナチがかなり不審の目で見ている。 「わたし・・・ちょっと」 ナチはそういうと席を立ってしまった。驚いたのはスティングだ。自分のせいで気を害してしまったナチに対する失敗の念と、マナーの基本中の基本であるエスコートができなかったからである。 「ナチ!すみません・・・座ってください」 あわてて立つとナチの背後に回り椅子を引いた。仕方なくナチは再び席に着いた。 「本当にどうしたの?」 「え・・・ええ・・・まあ・・・」 歯切れの悪い話方をする。たださっきの寡黙なスティングではないようだ。 「"S"ランクっていいましたよね、僕のこと」 「言ったけど・・・」 それがどうかしたのかというような顔をする。きいていたディクスはたまらないというように忍び笑いをした。 「ディクス?」 「わ、悪い!!・・・スティング、お前勘違いしてたんだよ」 「勘違い?」 スティングは何のことだかわかっていない。 「"S"ランクってのはな、アルファベット順のSじゃなくて、Aよりも高い評価のことのSなんだよ」 辛抱たまらんとでもいうように腹を押さえて必死に笑いに耐える。 スティングがナチに顔を向ける。 「そ、そうだけど・・・勘違いしてたの?」 「・・・」 スティングは恥ずかしそうに頬をぽりぽりかいた。 「―――― ええ・・・」 一時の間を置いてスティングが返事をする。それを聞いたナチの口元がぴくぴくしている。こちらも笑いをこらえているようだ。 「ナチが着替えている間、こいつかっこよくなるために"どうすればいいんですか?せめて普通の下でいいんです、教えてください!"って頼み込んできてな。せっかくだから教えてやったんだ」 ようやく発作のおさまったディクスが理由を説明する。 「"寡黙で博識で黙って俺について来い"タイプが好かれるってな」 「そ、そんな!僕が勘違いしてるってわかっててそんな事いったんですか?ひどいですよ!」 非難の声を上げる。 「もー、本当に何かと思った!!勘違いしてたからあんな態度とってたのね。何が悪かったのかってすごく不安だったんだよ」 ナチが笑いながら言う。 「すみません・・・」 「謝ることないわよ。大体・・・スティングを騙したディクスが悪いんだからっ!」 言ってハイヒールの先でディクスの足をがつんと思いきり蹴った。 「いってー・・・」 「ったく、本当にろくな事しないんだから」 「でも、これでやっと肩の荷が下りました。せっかくのディナーなのに楽しく話すことができなくて残念に思ってたんです。自分らしくないって思ってましたし」 苦笑する。 「わたしも。なんだか暗くて、口調まで違うし。でもまあ、解決してよかった!」 嬉しそうにいう。そしてまだ笑いをこらえているディクスを蹴った。 「雰囲気はかたいかもしれませんが気を楽にして食べましょう。自分にあったスタイルで食べるのが一番ですから」 解決したところで、運ばれてきた魚料理、肉料理と豪華料理を次々をこなしていった。 さすがにスティングは身元が身元だけあってこういったテーブルマナーは得意中の得意らしい。 「こういった魚のムニエルはまず頭と尻尾を切り取って、それから水平に切って開いてくださいください。そして上のほうから切って食べるんです」 「このくらいの大きさの肉の場合は真ん中を斜めに二つに切って・・・なるべく薄く切ったほうがいいですよ」 などなど、マナーの博識ぶりを見せていた。客が少ないということもあってか三人は普段と変わりなく楽しく食事ができたようだ。 そして時間をかけてようやくすべての料理を食べ終わることができた。 「結構多かったな」 船室に戻ったディクスがネクタイを緩めながら満足そうにいう。 「ただあんなに格式ばってなきゃなおさら良かったんだがな」 「仕方がないですよ。こういうところはあれが常識なんですから。僕もあんまり好きじゃないですけどね」 脱いだ上着をハンガーに丁寧にかけ、クローゼットに戻す。 「勉強になったよ。料理の盛り付け方だろ、焼き具合、ソースの味付け・・・参考にすれば少しは豪華に見える料理も作れるようになるな」 勉強になったのがマナーでないところがいかにもディクスらしい。 ドアをこんこんたたく音がした。 「もう着替えた?入ってもいい?」 隣の部屋で着替えをしていたナチが声をかける。 まだ着替えの完了していないスティングがディクスに向かって首を横に振る。ディクスはわかったいうようにうなずく。 「入っていいよ」 「駄目です!!」 間髪いれず声を上げる。 「嘘言わないでくださいよ」 文句を言いながら急いで着替えを済ませる。 「だって遅いんだもん」 「これレンタルなんですからちゃんと扱わないと駄目なんです。結構いい生地みたいですし」 ぶつぶつ言いながらきちんとたたむ。 ―――――― 細かいやつ・・・ 「ナチ、今度こそいいぞ。入って来いよ」 ドアがそろそろとゆっくり開く。 「スティング、入っていいの?」 とりあえず訊いてみる。 「ええ、もう大丈夫ですよ」 しっかりと確認を取りようやく二人のいる部屋に入る。 「お前人のこと信用してないいだろ?」 「しっかり嘘ついてるじゃないの!」 不服そうな顔をしてワックスで固めた頭をかきむしる。おかげでめちゃくちゃだ。 「あーあ、髪めちゃくちゃ。ねえ、わたし図書室にでも行こうかなって思ってるんだけど、二人は?」 「僕も・・・どうしましょう?何も考えてなかったんですけど」 ディクスに顔を向ける。 「うーん、俺も決めてなかったんだけど・・・ただ夜はバーにでもいこうかとは考えてた。スティング、お前も行くだろ?」 「え、ああ、誘っていただけるなら」 「ふーん。そう、まあいいや。わたし行って来るね。いつでも部屋出てくれていいから」 そういうと早速船室を出ていってしまった。 「ナチは連れて行かないんですか?」 「あいつまだ未成年だろ」 「そうでしたね」 「俺はもう一眠りでもしよう」 言うとベッドにねっころがった。 「・・・僕、船内を見て回ってきます。十時くらいまでには戻ってきますから」 「ああ、わかった」 断るとスティングもまた船室をでた。 ―――――― 科学のリディア大陸・・・ スティングがこの船のオリジナルを見たのは十歳のときだった。 今でも覚えている。姉や兄に手を引かれ、船内をまわった記憶がよみがえる。大国エンドレスにやってきた白色の巨大船籍。術では成し得ない大きな力で動く巨獣だ。 ここで転んだんですよね、僕。 スティングがホールの入り口で立ち止まる。何もない床だがスティングは転んでしまった。皆が心配してくれたのが嬉しかった。でも・・・ ――― でも、それは・・・それは僕が第一継承者だったからだ。 第一継承者であると公で認められるのは本人が十二歳になったときだ。その間まで誰が継承者候補なのかは内密にされていた。当然当時十歳のスティングがそんなことを知る由もない。兄や姉が継承するものだと思っていた。 自分には関係のないことだと、そう信じていた。 "―――― お前にスティング・S・G・エンドレスの名を与える" そう言われ、八年の月日が流れた。兄や姉に手を引かれることもない。もうあの時の自分ではない。 旅を始めて、見るもの全てが新鮮だった。ディクスやナチの人柄だってとても新鮮だったし、温かかった。 現国王が歳をとり、国を統括する力がなくなれば、その地位はスティングに継承される。どれくらい先になるかはわからない。けどその間、周りの期待を一身に背負い、常に継承者としての毅然とした振る舞いをしなければならないことにうんざりしていた。 "外をご覧になってください" ライアの一言で今の自分がある。よき理解者であったレイルとライアはスティングが外に出て旅をしたいという願いを真剣に受け止め、そして力を貸してくれた。 信頼のある二人だったからこそ、お堅い大臣たちにスティングの辺境の地での独学――― もちろん旅をさせるための嘘ではあるが――― を許してもらえたのだ。 ―――― 僕は幸せ者なんだ・・・ 他国で自分と同じくらいの年の次期王位継承者が縛り付けられている現状を知っている。 ――――― どうだ、スティング?術は使えるようになったのか? ――――― はい・・・ ――――― そうか、エンドレスの継承者たるもの当たり前のことだな。もっと知識を取りいれろ。他国に負けないくらい術を磨け。でないとなめられるのは国全体だからな。 これ以外に話したことなんてなかったように思える。いつも成績のことばかりだ。 ―――――― 僕はこのシステムを変えるべきなんだ ずっと思っていたことだった。一人ではどうにもならない。けど、レイルやライア、そしてディクスやナチがいれば成しえないことではないと思うようになった。 でも、そのときまでディクスやナチは一緒にいてくれるだろうか? それが唯一の不安だった。顔を曇らせる。 ・・・こんなところで思い出に浸ってる場合じゃないな ひとり苦笑いをするとその場を離れた。 うふふ〜、たくさん本借りちゃった〜! 図書室で借りたたくさんの本を抱えてナチは喜び勇んで船室に戻る途中だった。徹夜してでも読破するつもりだった。そして小走りで次のT字路を曲がろうとしたときだ。 あ、スティングだ! スティングが通り過ぎるのを発見した。 脅かしちゃおう! スティングの背後にゆっくり近づこうとして・・・ は、早い!歩くの早すぎ!! 焦って近づく。走るくらいにスピードを上げ・・・ ばさっ 本を落としてしまった。音に気づいたスティングが振り向くはずだった。 あれ・・・? しかしスティングは気づかなかったのかそのまま行ってしまった。なんとなく居場所のないナチはしばらくスティングの背中をみて、見えなくなったところでようやく本を拾い上げた。 ・・・・どうしたんだろう? スティングを追おうとも思ったが、大量の本が一緒では追いかけることもできない。一度船室に戻り、それから探すことにした。 ディクスは相変わらずベッドにねっころがったままだ。連続して高度な術を使用したせいで十分な休養が必要らしい。ナチが戻ってきたことも気づかずよく眠っている。 「風邪ひくよー」 床に落ちた掛け布団をディクスにかけなおす。寝顔を覗き込もうとするが、枕が顔に埋まってて見えなかった。 「行こうかな・・・」 時計を確認する。デジタル時計は八時半を示していた。そっと船室を出、スティングを探し始めた。 いそうなところをくまなく探す。そして・・・ いた! スティングは人口庭園の噴水にいた。 かなりのスペースを消費して作られた庭園はやはり巨大なガラスで外気と完全に遮断されていた。ドーム型の天井から月の淡い光が差し込んでいる。その月の光とライトアップされた噴水をのぞけば他に光はなかった。 しばらく空を見上げていたスティングだがそばのベンチに腰を落ち着けた。 どうしちゃったんだろう? 茂みで様子を見続けていたナチだが拉致があかないと判断したのかようやくその場から立ち上がる。 ―――――― スティング・・・ ゆっくりと目を閉じ、精神を集中させる。そして心で話しかけてみる。 テレパス――――― ナチの持つ術の一つだった。声を出さずとも相手に伝えたいことを伝える能力だ。そして、神殿でディクスに流し込まれたあの"記憶"もこれとおなじもの。聴覚や視覚で伝えられるよりも直接的でそして確実だった。 ただナチの場合、まだ使い勝手が悪いのか相手に上手く届かないことが多かった。気のせいかと間違えられそうなくらいの波動しか出すことができなかった。しかし、今回はちゃんと相手に届いたようだ。 「ナチ?」 スティングが辺りを見回す。 「やっ!」 ナチがスティング前にひょっこりと現れる。 「今の・・・」 「うん、テレパス。あんまり使ったことないんだけど・・・スティングになら届くかなって思って。予想通りちゃんと届いてよかった!」 スティングが薄く笑う。 「隣座ってもいいかな?」 「もちろんですよ」 そしてスティングの隣に座る。 「さっき図書室でたくさん本借りちゃった。徹夜してでも読もうと思って。ディクスに怒られちゃいそうだけどね」 「本を読む機会あまりないですから」 「うん、そうなの。本読んだのデルタの図書館で竜神について調べた時以来だもん。なんだか嬉しくなっちゃって。抱え込むくらいたくさん借りたから脳のしわも増えそう」 それから沈黙が訪れた。スティングは目を落としたままだ。 ・・・・・。 ナチはもう一度精神を集中させた。目標はすぐ隣だ。これくらいの距離ならナチでも相手の状況変化を把握することができる。ディクスに鍛えられた特殊な術でスティングの微妙な変化を読み取る。 迷い・・・迷いだった。 スティングは何か迷っていることがあるらしい。ナチの読み取ったスティングの変化は迷いを表す複雑なものだった。うまくくみ取れない・・・ 「スティング、なに迷ってるの?」 ナチが声に出して訊く。ナチの声に反応するようにスティングが顔を見合わせる。 「ナチ・・・本当に優秀なんですね。術使ったんじゃないですか?」 「・・・うん。使ったわ。だって何も話してくれないんじゃわからないんだもん。ディクス直伝の術よ。商人と交渉するときはこれを使えって教えてくれたの。嘘ついてるかついてないかわかるでしょ?もちろん、普段は絶対に使わない術だけど」 スティングが笑った。 「それいい使い道ですね。僕も教えてもらいたいですよ」 本音なのかそうでないのかわからないいい方をする。らしくない言い方だ。 ―――――― あのときの父上の気持ちがわかったなら・・・ ふいにナチにスティングの意識が流れ込んできた。スティングの意識が相当強いのかはっきり感じ取ることができた。びっくりしたナチはあわてて術を封印した。マナー違反だと思ったからだ。 「・・・スティング、よくわからないけど・・・そんなに考え込まない方がいいよ・・・それしか言う事ないんだけど・・・わたしにはそれくらいしか・・・」 しどろもどろになりながらようやく言う。はっきりしたスティングの意識の流れに動揺しているようだ。 「ナチ・・・」 「ほ、ほら、これから楽しいことたくさん待ってるんだし・・・それに、つらいことばかりじゃないわ、きっと。わたしだってつらいことはたくさんあったけど、それ以上に楽しいことも幸せなこともたくさんあった。だから・・・」 ――――― これ以上スティングのつらそうな顔を見たくない・・・ 今度驚いたのはスティングだった。まだ術の封印が完全でなかったのかナチの意識がスティングの頭に流れ込んできたのだ。言葉で交わすよりもはっきりと感じる。そしてあわてた。 「な、ナチ!僕、もう大丈夫ですよ!ちょっとセンチメンタルな気分になっただけで・・・ほら、術者って精神的に不安定なところあるじゃないですか。僕も例に漏れないわけで・・・ディクスやナチだって浮き沈みが激しいでしょう?だから大丈夫ですよ、気にしないでください!」 取り乱したようにいう。 「え・・・?」 「大丈夫ですって!もう治りました、ナチのおかげですよ」 スティングの豹変振りにナチはきょとんとしていた。だが、もうスティングの迷いが消えたとわかったのかにっこりわらった。 「・・・そっか、よかった!」 正直ナチはスティングに何かした覚えはなかった。まさか自分の意識がスティングに流れこみ、取り乱させた結果であるとは知る由もなかった。 ―――――― ナチの言う通りだ。今更僕は何を迷っていたんだろう?過去になんかとらわれてる場合じゃないのに そして立ち上がり、ナチの前に立つ。 「お手をどうぞお嬢さん」 恭しくお辞儀をし、ナチに手を差し伸べる。驚いた様子だったがスティングの手の平に手をのせた。 「ありがとう」 珍しくはにかんだ様子のナチに新鮮さを覚えていた。そしてナチの腕を取るようにしてその場を後にする。 術を使わずとも互いの気持ちは十分に伝わっているようだった。 |