-->

D.Force The First Chapter
Force-2

本当の被害者


「あ、ほらディクス!あそこでパレードやってるみたいよ!」
あごを痛そうにさすっているディクスにナチが叫ぶ。
少し先で人々の歓声や音楽が聞こえる。長い行列のパレードもいよいよここまでやってきたらしい。
「あー、ほんとだな。行ってみるか。人が多いからほら、手放すなよ!」
言うが早いが、ナチの手を取り大通りへと人ごみを掻き分けた。ナチよりもディクスのほうが喜び勇んだったのだ。単純である。
そしてようやく大通りに出た。
パレードもフィナーレに近づいているせいか、周囲のテンションは先ほどよりも高くなっていた。
その活気にあわせて、進行行列もより派手にショーを繰り広げていた。
「エンドレスはお金の掛け方が違うわよね。リスタルのお祭りとは大違い」
「人口の差だろ。それにしてもこのパレード、練習するの大変だっただろうな」
ファンタジックのショーを目の前に二人は現実的なことを言っている。活気に飲まれながら、パレードを楽しんでいる時だった。
「きゃー!ドロボー!誰かそいつを捕まえてー!!」
喝采の中、その甲高い声だけが妙に耳についた。見れば二人がいる場所から程遠くない場所にいた中年の女がなにやら慌てふためいている様子が伺えた。そして、そこから離れた場所で人ごみを何とか抜け出そうとしている怪しげな男が。
「どけよ!」
男はそう言いながらなんと二人の方へ向かってくるではないか。
「こっちにくるわ。ちょっ・・・、ディクス!?」
しばらく黙っていたディクスが駆け出した。人ごみの中なのに駆けているのだ。はっきり言ってすごい力である。
ディクスに気づいた男は舌打ちすると進行方向を横にそれ、人少ない裏通りへと走って行った。
「てめー!待てーー!!」
一心不乱に全速力で追いかける。相変わらず手をつなぎっぱなしのナチのことはお構いなしだ。
「きゃー!痛い痛い痛いーっ!引きずってる!!手ぇ放して〜!」
ナチが懇願するがディクスは全く聞いていないようだ。ディクスはナチをひきずるようにして追いかける。ディクスたちもなんとか大通りを抜け裏道に出た。
「ちくしょー!」
人ごみを抜けた男とディクス達の距離はだんだん縮まっていく。それに危機感を感じたのか男はポケットをごそごそするとなにか小さな石みたいなものを取り出し、地面にばら撒いた。
そして後から走ってきたディクスがそれを踏む。
ぱんぱんぱんぱんぱん!!!
「きゃああ!」
ディクスが踏むつぶすたびに大音量が響き、そしてナチが悲鳴を上げる。
空いた手で片耳をふさぐがすぐ近くで炸裂するかんしゃく玉には効果がなかった。耳がじーんとする。それでもディクスは走り続けた。
「待てー!!」
ナチはぎゅっと目をつぶっていた。もはや反論する気もないようだった。
「なんなんだあいつ!おかしいんじゃねえの!!」
ナチを引きずるようにしてもまだ追いかけてくるディクスに男が青ざめる。男の呟きが聞こえていたならナチも両手を挙げて大賛成だろう。
追いかけてくる相手が女ならすぐに振り切れるかもしれないが、今回は男だ。しかも女を引きずって。このままでは捕まってしまうかもしれない。
距離がいよいよ縮まってきた時、男はおもむろに握っていた財布を後方に放り投げた。
「だー!もう、わかったよ!財布は返すぜ!」
これならもう追いかけてこねぇだろ!ちくしょー、今日の儲けが台無しだぜ・・・って・・・
「きーさーまー!」
ディクスはなおも追いかけてくる。財布は放り投げられたままだ。ナチも引きずられたままだ。
「あああっ!なんだてめぇ!?財布もう返しただろうが!」
予期せぬ事態に取り乱した男は前につんのめり、そのまま倒れる。ディクスたちはすぐそこに迫っている。
どうする・・・!?
男がもうここまでか。と、諦めかけた時だ。すぐそばを通り過ぎた女が目に入った。
「おい!」
声を掛けられた女は足を止める。そして返事をする間もなく、男が女を羽交い絞めにした!
首に鋭いナイフを突きつける。
「な、何ですか!?」
女が驚きの声を上げる・・・が、その声をさえぎるように男が追いついたディクスにむかって叫んだ。
「てめぇ!この女がどうなってもいいのか?それ以上近づくんじゃねえ!」
その言葉にさすがのディクスも立ち止まる。
「い、いいか!?そこ動くなよ?」
かなり動揺しながら男は人質を取ったまま後ずさる。
それにあわせてディクスもナチを引きずったまま前に出る。
「動くなって言っただろ!?」
男が絶叫する。しかし、ディクスは不敵な笑みを浮かべた。その表情に男はさらに動揺する。
「なんだよ!?てめぇ一体なんなんだ!?」
それでもディクスは不敵な笑みを浮かべたままだった。
・・・く、苦しい・・・
人質がもがきだした。人質の女は背が高いせいか、男が羽交い絞めにするには少々難だった様だ。一瞬の隙を突き、人質が男から逃れたそのとき。
チャンスとばかりにディクスはようやくナチの手を離し、両手を男に突き出す。その行動に男は不審な顔をするが、ディクスが何もしないと思ったのか今度は大きな態度に出た。
「は、ははっ!そんなところから何しようってんだ!?手が届くわけねぇだろ!」
男がはははっと笑うがぴたりとやめた。
「ま、まさか・・・・」
男の顔が蒼白になる。
「やめろぉぉぉぉ!!」
絶叫すると人質を突き飛ばし逃げにかかった。しかし、
「ブラスト!」
ディクスがひと言叫んだ。すると、突然出現した激しい風が男を吹っ飛ばす。
「いやああああああ!!!」
三度絶叫すると男は吹き飛んだ。そして、地面に叩きつけられ大の字になってのびたのだった。
人質にされた女は目を丸くしてディクスと気絶した男・・・と、引きずられてぼろぼろのナチを不思議そうに見た。いきなりすぎて状況がよく飲み込めない。
「あ、あの・・・」
肩で息をしながらも満足げなディクスに声をかける。
「あー、やっと捕まえたぜ!ったく、何考えてるんだこいつ」
ようやく手を放してもらったナチは白目を向いてる。
なんなの・・・この人たち・・・誰?
やっぱりよくわからない。頭が混乱して整理が着かない。
歩いていたらいきなり男に羽交い絞めにされて・・・逃げたら今度はこっちの男が・・・
じーっとディクスを見るが、ディクスはその視線には気づいていないようだ。
「あの!何が起きたんですか!?」
今度こそ真相を聞こうと大きな声をかける。それでやっとディクスが気付く。
「あ・・・れ?何でこんなとここにいるの・・??ああ、もしかして被害者?ん、でも被害者は太ったおばちゃんだと思ったんだけど」
目の前の女をまじまじと見るが、ディクスは困惑したような表情を見せた。人質をとられたとは認識していたらしいが、それが今目の前にいる女であるとは分かっていなかったようだ。
あれこれ考えていると白目をむいていたナチがようやく意識を回復した。
「う・・・ディ・・クス・・・手、放してって、言ったじゃない・・・!」
ぶつぶつ文句を言いながら自力で起き上がる。
「あ、ナチいたのか。大丈夫か?」
こいつ・・・!!なんなのよ!もー、さっき見直したと思ってたのに・・・・
「あんたねー!わたしをずっとひきずってたでしょー!覚えてないの!?」
「あはは、俺猪突猛進なとこあるからさ。ごめんな」
・・・あ、そっか。俺ナチの手つなぎっぱなしだったんだな。気付かなかった・・・
やはり全然意識していなかったらしい。ディクスの頭の中では犯人を追わなきゃいけないという義務感が支配していた。しかし、ナチを迷子にしたらいけないというわずかな義務感が無意識にナチを引きずる結果になったのだろう。
「ったく。覚えてなさいよ」
まだ文句言い足りなさ気のナチは女に向き直る。引きずられながらも状況はちゃんと把握していたようだ。
その女の容姿に思わずしげしげと眺めてしまう。今は人質の被害者として気に留めてはいるが、通りですれ違ったとしても思わず振り返ってしまうような・・・そんな魅力というか、雰囲気を持った女だ。
プラチナブロンドってやつかな?綺麗な長い髪ねー。うらやましいわ。それにしても華奢なわりに筋肉質。背の高さディクスと変わらないんじゃないかなぁ。軽装だけど旅人かも。
女性の風貌を一通り認めると声をかけた。
「大丈夫だった?ごめんね、この馬鹿が迷惑かけちゃって。けがはない?」
ようやくまともな話ができそうだと思った女性はもう一度状況を聞いた。
「私、まだ状況が飲み込めなくて。何が起きたんですか?」
「えーとね、大通りでひったくりにあった人がいて、その犯人を追いかけていたの。そこで伸びてる人よ。で、もう少しで捕まるってところで、あなたが偶然通りかかって人質にされちゃったってわけ」
そういや、財布どこやったのかしら?放り投げられたと思ったんだけど。
ナチがあたりをきょろきょろする。すると自分たちが走ってきた方向から被害者の中年女が走ってきた。手には財布を握り締められている。
「ああ、よかったー。あんたたちすまなかったわねぇ」
中年女はとても嬉しそうだった。
「ったく、安心してパレードも見てられやしないよ」
「あはは、そうですねー」
いきなりの出現にディクスがあいまいに微笑んでみせる。そんなディクスを嘗め回すように見る。
「あら、あんたいい男ねー。あたしんちにきなさい。美味しい料理をごちそうしてあげるよ」
などといい、太い腕を見せてみる。それにディクスが息を呑む。
「いいいいいです!な、何もしてませんから!」
思い切り首を振り精一杯遠慮・・・ではなく、断った。相当嫌がってる様子だ。
・・・当然の報いね。
他人事のようにナチがディクスのあわてぶりを眺めている。助け舟を出す様子はない。
「いいじゃないのー。人の誘いは受けるものよ」
まだ誘っている。ディクスも負けじと首を振って断っている。
「いいです!俺たちこれから用事があるし・・・なぁ、ナチ」
言いながら振り返る・・・が、ナチはいなかった。はるか遠くで知らん振りを決め込んでいる。
・・・ちくしょー!
「と、とにかく!結構なんで!これあげますから!」
そういうとまだ大の字に伸びている男指差した。
「お好きなようにお使いください」
すると中年女は男の顔をまじまじ見て、
「まあ、なかなかいい男じゃないの。そうね、わかったわ。これで手を打つわ。じゃ、またね。あんたたちも気をつけな」
男を軽々と担ぎ上げるとそのまま路地を曲がっていった。ディクスはそれを呆然と見ていた。
・・・これで手を打つって・・・一体!?あのおばちゃんが被害者なんだかわからないよ。被害者はむしろ俺とあの男だな。
ため息をつく。
「はあ・・・俺たちが追いかけなくても自力で取り返せたかもな。オバハンパワ〜みたいな。報酬もなかったし、っていうか逆に脅迫されたしもっとちゃんと考えて行動するべきだったか〜」
「だからいつも言ってるじゃない。ちゃんと状況を把握しろって」
いつの間にか戻っていたナチが不平を言う。
「お前なー、何で他人の振りするんだよ。人が困ってるってぇのに」
言い合う二人を凝視する人物が一人。人質にされた女だった。
・・・・・さっきこの男の人が使ったのは紛れもなく術だった・・・だとすると術者?剣も装備しているみたいだし、軽装だけど冒険者か何か・・・??
品定めするように見ている女にディクスが気づく。
「どうしたんだ。何か変か?」
そう言いながら自分の服をはたき始めた。
ディクスは走っていただけだ。どこも汚れてはいないからはたいても意味はないのだが、女の目が気になったようだ。ナチも思い出したように引きずられて随分汚れた服をはたき始めた。しかし、汚れがひどくはたいただけで元通りになる気配はないようだ。
「あー、やっぱり汚れ落ちない。これお気に入りだったのに・・・」
ナチが深いため息をつく。
「綺麗にしなきゃ。ディクス、いったん宿をとって休もう?わたしこの服どうにかしなきゃ」
「ふぅむ・・・そうだなぁ。パレードももう終わりに近いし。行くか」
「じゃあ・・・えっと・・・名前分からないけど気をつけてね。美人は襲われやすいから」
「気をつけてな!」
ディクスとナチは呆然としている女に声をかけると、来た道を戻ろうと歩き出した。
「あっ・・・!」
女が声をかけようとして言いやめる。
こんなところにいつまでもとどまっていてもしょうがない!今の自分に必要なものは・・・
「待ってください!あなたたちに頼みたいことがあるんです!」
女が二人に声をかけた。