D.Force The First Chapter
Force-22

過ぎ去りし日々


ナチ、悪いけど今回はそういう事にして、なんとかはぐらかさないか?
嫌よ!なんでディクスとわたしが・・・
仕方ないだろ!?それっぽく演技すればいいだけなんだし・・・俺、もうやだよ・・・
あー、もう!なんでこんな事になるのよ!
ディクスとナチの不満をよそに、ミリアは口上を続ける。
「私はこの十年間ずっとあなたを待っていたわ。このラグーンに戻ることを信じて・・・そして、二人で結婚しよう。そう決めていたのに。なのに!」
あーあ、今頃家でうまい昼食作ってるところなんだけどなぁ・・・
わたしだって!今日の夕食にまだたくさん貝採ろうってスティングと頑張るはずだったのに・・・
言いながら、ナチはスティングに視線を移す。哀れ事に、まだ撃沈したままだった。
「聞いてるの!?」
『聞いてマス!』
凄みに反射的に答える。
・・・そう言えば、あの人見た事あるわ・・・ねえ、もしかしてオーナーさんの家にいなかった?
えっ、何で知ってるんだ?
ほら、わたし、昨日オーナーさんの家に行ったじゃない?その時見かけたと思うんだけど。
じゃあ、あいつはオーナーじゃないのか。
多分ね。
それからさらにミリアの話は続いた。
あーあ・・・腕がひりひりしてきた・・・
俺だって。なあ、とりあえずあいつを眠らせて、それから家に送り届けよう。また来ても知らん振りするからさ。
―――― そうだね。このままだと夜になっちゃう。スティングもどうにかしないといけないし。
というわけで、ナチ、後は頼んだ。
ったく・・・気は高ぶってるけどこの距離ならうまくいくわね。じゃあ・・・
「"ミリア、将来も僕のそばにいてくれ"って私に言った言葉は嘘だっ・・・」
どさっ
言いかけていた口の動きが止まり、ミリアは砂浜に倒れた。
「おー、さすが。やったな」
「あんまり離れてなかったから。それよりスティング!」
波打ち際で、まだ伸びているスティングを起こしにかかる。相当強烈な一撃だったのか目覚める様子はない。
「スティング、かわいそうにな。あいつのせいで・・・」
「ディクスが避けたからでしょ!頬が真っ赤にはれちゃってる。痛そう・・・とりあえず冷やさなきゃ」
スティングの頬に手を当て術を発動する。
「ナチ、俺こいつを家に戻してくるから。スティングの事、頼んだぞ」
ディクスは眠ったままのミリアをかつぎ、家に向かった。
「んっとに迷惑千万なやつだなー」
文句たらたら、ようやく家に着いた。
「あれ・・・?姉さん!?」
留守を預かっていたはずのミリアを捜していたアリスがディクスを見て驚きの声を上げる。
「えっ・・・ああ、もしかして」
「私の姉です!・・・一体どうして・・・」
――――― それはこっちが訊きたいよ。
「オーナーに用事があって俺ここに来たんだけど、誰に間違われたんだか、いきなり俺のこと婚約者だとか何とか言い出してな。俺はここに来るのも初めてだし、この人の事も知らないし・・・追い掛け回されて話も通じないから術で眠らせて連れて来たんだよ」
ミリアを自室に寝かせ、ディクスが簡単に事情を説明する。
「・・・姉さん・・・」
「俺、さっぱりわけがわからないんだが・・・何か心当たりはないか?」
アリスが記憶をめぐらす。
「・・・よく覚えてないんですけど・・・私も姉もまだ子供だった頃、近くに"ディスク"という一つ上の少年がいたんです」
・・・・ディスク・・・?
「まさか、将来まで誓う仲だったという事は知らなかったんですけど、よく姉さんと二人で一緒にいました。・・・ただ、あちらの両親の都合でここ、ラグーンを離れることになって・・・急でしたから別れも告げず、いなくなってしまったんです」
「・・・」
「それから姉さんはふさぎこんでしまって・・・半年はそうしてたんじゃないでしょうか。今はもうあきらめたと思ったのですが・・・」
「じゃあ、俺はそのディスクと名前を間違えられたから追いかけられたんだな?」
「ええ、恐らく・・・すみませんでした」
・・・名前間違えていたわりには俺のこと"ディクス"って呼んでたけどな。
「俺がいるとまた面倒になるから、もう帰るよ。誤解だって話しててくれな」
「わかりました。本当にごめんなさい」
深々と頭を下げるアリスにディクスは苦笑した。
「もういいよ、解決したから」
「あの、私に用事があるって」
「ああ、たいした用事じゃないから」
早々に切り上げ、ディクスはナチたちの元に戻った。
・・・姉さん・・・
ミリアが寝ている部屋に入る。どんな夢を見ているのか、ミリアの表情は険しかった。
・・・ディスクはもう・・・


「もー、わたしたちが解けないようなシールド張るなって言ったのに!」
ディクスが泥棒対策に家の周りに張ったシールドの前で、ナチと頬をさすっているスティングが帰りを待っていた。
「悪い、悪い!すぐ戻ってくるつもりだったからさ」
言ってシールドを解く。
「スティング、大丈夫なのか?」
「え、ええ・・・今は術で痛みを緩和してますから・・・」
それでもつらそうだった。ソファーに腰をかけると深いため息をついた。
「大丈夫よ、スティング。跡は残らないわよ!」
「だといいんですけど・・・」
あざが残る可能性が気になるのかスティングはいつになく元気がなかった。
・・・もし残ったら皆になんて言われるだろう・・・?
そんな考えが頭の中をめぐる。笑われるのは必至だ。
「しょうがないなぁ・・・」
原因の一つが、自分が蹴りを避けた事であるのを思い出し、ディクスはスティングの前に立った。
「俺が治してやるよ。あざが消えればいいんだろ?」
さも当然のように言う。
「えっ・・・できるんですか?」
「ちょっと疲れるけどな。いいからあざ見せてみろ」
スティングの頬は腫れ上がり、既に紫色になっていた。本人がショックを受けるのも当然だ。
・・・俺じゃなくて良かった・・・
薄情なことを心の中で思い、あざに手を当てた。
「あ、その前に痛覚鈍化の術を解けよ。力が相殺するからな」
スティングが鈍化の術を解く。すると、当てられたディクスの手のせいか、苦痛に顔をゆがませる。
・・・うあっ、スティング痛そう!
そばで見ていたナチが思わず自分の頬にも手を当てる。
「じゃあ、いくぞ」
そう言ってディクスは目を閉じ、神経を集中する。
数分そうしていただろうか?
少し触れられただけで激痛につらそうだったスティングも痛みを感じなくなったらしい。ディクスの手をちらちら横目で見ようとしている。
さらに数分。ようやくディクスは手を離した。
「終わり。鏡見てみろよ」
やや疲れた様子で言う。スティングは期待半分で鏡に頬を映してみる。
「あっ!消えてます!あざがない!」
声を上げる。
「良かったね!綺麗に消えてるじゃない」
痛々しげなあざもすっかり綺麗に消えていた。もちろん痛みもない。スティングは自分の頬をつねったりしている。
「ディクス、やるじゃない!」
「まあな・・・前々から開発してた術なんだが・・・あんまり使いどころがなくてな。怪我もしないし」
言っている目はやや眠たげだった。
「ディクス、有り難うございます!それにしても本当にすごい術ですね。ディクスのこと見直しましたよ!」
嬉しそうに言う。
「ははっ・・・」
褒められているが、ディクスはほんの少し笑みを見せただけで、その場に座り込んでしまった。
そのまま沈黙する。
「ディクス?」
「・・・」
ナチが覗き込むが、ディクスは反応しない。それどころか、口を軽く開けて眠ってしまっている。
「寝てる・・・」
呆れたように言う。ディクスは術の使いすぎでダウンしてしまったらしい。
「なんか・・・悪い事しちゃいましたね」
「そんな事ないわよ。ディクスが蹴りを避けたんだし・・・とりあえずソファーに寝かせとこ。夕方には起きると思うわ」
頭を殴っても起きないディクスをソファーに寝かせる。
「丁度昼時ですね。何か食べましょうか」
「そうだね!スティングが釣ったあの魚、味見してみる?」
外に置きっぱなしの例の魚を解体すべく、二人は再び炎天下の中に戻った。


「私、とんでもない事しちゃったわね」
術の解けたミリアが言う。
ベッドに腰をかけ、寂しげな表情でアリスに語っている。
「本当はわかっていたの。あの人はディスクじゃないって・・・アリスが"ディクス"って言った時にどうしても思い出さずにはいられなくなって・・・それに実際に会ってみたら本当にディスクに似てるんだもの。もう・・・止まらなかったわ」
視線を落とす。
「姉さん・・・」
「うん、わかってるわ。もう大丈夫よ。・・・ディクス・・・ううん、クロードさんにちゃんと謝らなきゃね」
そう言うと立ち上がった。
「それに、よく考えなくてもディスクがここにもどって来るわけないわよね!私って馬鹿よね」
「姉さん!」
自嘲的なミリアにアリスが声を上げる。
「・・・ディスクはもう・・・」
声のトーンを落とす。一瞬の沈黙。
「・・・わかってる・・・痛いほどわかってるわ。二度と会えないこと・・・痛いほど・・・」


「俺の楽しみがーっ!!」
夕方、おいしそうな匂いに誘われて夢から覚めたディクスの第一声がこれだ。
「だって、起こすの悪い気がしたんだもん。ね、スティング」
「え、ええ。気持ちよさそうでしたから」
スティングの味付けで例の魚の料理がずらりと並んでいた。スティングもディクスに負けず劣らず料理上手なようだ。なかなか起きないディクスを差し置いて作ったらしい。
「ひどすぎる!」
そして、二人の目を盗んで目の前の料理をつまみ食いする。
――――― う、美味い・・・
スープしかレシピを知らないだろうと高をくくっていたせいでその衝撃は大きかった。ひとり硬直する。
「あー、ディクス、つまみ食いしたでしょ」
ナチが魚の欠けている部分を指して言う。
「ふんだ!」
開き直ったディクスはさらに料理をつまんだ。
「僕らも食べましょうか」
「ディクスに食べられちゃう前にね!」
そう言って席に着いた。
「夜は涼しいですよね」
食事を終え、テラスの窓を開け放ちながらスティングが言う。
「昼間は暑いけどな」
日の下に長時間いたせいでひりひりする腕を術で冷やしながらディクスが返す。
「ねえねえ、せっかくだから夜の海にも行ってみない?涼しいし」
ナチが提案する。
「いいですね、行きましょうか」
「ん?じゃあ俺パス!」
しかし、ディクスは面倒なのか行こうとはしなかった。結局ディクス一人残して出かけることになった。
あ――― ・・・まだ眠い・・・
長いソファーにだらーっと寝そべる。時間が経ち、うとうとしている時だった。
「クロードさん」
戸をたたいて呼ぶものがいた。
・・・・?誰だ・・・?
不審に思いながらのろのろと戸に近づき、そして開けた。
「・・・」
「あっ・・・あんた・・・!」
思わず息を呑む。
ディクスの目の前にいたのは、今日、散々追い掛け回されたミリアだった。ただ、落ち着いたのか昼間の行動は嘘のようにおしとやかだ。
「何か・・・用か・・・?」
恐る恐る訊いてみる。
「あの・・・すみませんでした」
小さな声でつぶやく。
「あ・・・ああ・・・大丈夫だよ、俺は。アリス・・・だっけ?から聞いたよ。今日のこと」
「・・・」
「別のやつと勘違いしたんだろ?」
その場を取りつくろうといろいろ話しかけるが、ミリアは黙ったままだった。
「・・・ここじゃなんだから、中に入ろう」
それでもやはりミリアは何も言わず、ディクスの後に着いて行った。
ソファーに腰掛けたミリアをそのままに、ディクスはキッチンで冷たい飲み物を用意した。
「有り難うございます・・・」
礼を言い、ミリアはアイスティーに口をつけた。
ディクスは向かい側に座る。互いになにも口に出さず、しばらくの沈黙が続いた。
しかし、その沈黙を破ったのはミリアだった。
「本当は・・・あなたがディスクではない事を分かってた・・・ちゃんと分かってました。でも・・・」
そこまで言って再び黙ってしまった。
「―――― ディスクはもういません」
「?」
「彼の事を忘れよう、忘れよう!・・・そう思って・・・自分でも、もう忘れてしまったと思っていました。けれど、名前が一字違いのクロードさんの事を聞いて、錯覚してしまって。それで・・・すみませんでした」
そう言って頭を下げる。
「・・・」
「でも、大丈夫です!もう、自分の中で決着つきましたし・・・」
精一杯の笑みを浮かべるミリアだったが、その奥に秘められている悲痛な思いを感じられずにはいられなかった。
「ご迷惑おかけしました!じゃあ、私はこれで・・・」
「えっ・・・?」
早口で言うと、顔も向けずに玄関に向かった。
そして、ディクスが立ち上がる前に、ミリアは姿を消してしまった。
「まっ・・・」
タイミングをはずしたディクスは、結局声もかける事もきないまま再び一人家に取り残された。
―――― なんか・・・逆に悪い気がする・・・
納得のいかないまま、自分で入れたアイスティーを一気に飲み干した。
・・・聞いた?今の。
ばっちり聞こえました。
いつからそこにいたのか、ディクスから見えない場所から一部始終観察していた影があった。
絶対解決してないよね。
そうですよね・・・そんなに簡単に忘れられるとは思えませんし・・・
―――― んー・・・そうだ!
思いつきました?
うん!あのね・・・・
再びディクスがソファーでごろ寝し始めた頃、二人は何食わぬ顔で家に戻った。
「ねえねえ、ディクス」
ナチが顔を覗き込む。
「帰ってきたか・・・」
だるそうに目を薄く開ける。
「人助けしてみたくない?」
「はぁ・・・?」
ナチの前触れのない提案にディクスが不審そうな顔をする。
「ディクスにしかできない事なんです」
スティングが付け加えるが、ディクスはますます不審そうな表情見せた。というより、かなり不安げな様子だ。
「お前らまさか・・・」
気づいたように声に出す。
「わかってるなら話は早いわ!今から計画立てよう!」
そう言ってディクスの腕をしっかりつかんみ、三人は作戦を練り始めた。


「・・・というわけで、わたしたちがラグーンを離れる最終日、実行しようと思うんですけど」
次の日の昼。アリスを呼び出したナチが例の計画を話す。
「でも・・・いいんですか?」
「もちろんよ!是非やらせて」
ナチが自信たっぷりに言う。本当に有難い事だとアリスは心底思う。
「本物のディスクさんには及びませんが、全力を尽くしますよ。ですよね、ディクス」
ディクスに向けてスティングが笑顔を向ける。
「・・・わかってるよ・・・」
やや不服そうに答える。
「もちろんミリアさんには内緒ということで。それまでわたしたちは今までどおり過ごしますから」
「ええ、わかりました」
一通り話をつけ、ディクスたち三人はアリスたちの家から出る。
「本当に・・・感謝します」
「困った時はお互い様ですよ」
スティングが言う。
「じゃあ、俺たちは戻るから。帰る日が決まったら、また連絡するよ」
「アリスさん、またね!」
アリスは、そう言い残して帰った三人に手を振る。
―――― もしこれで姉さんが立ち直ってくれれば・・・
心から強く願うアリスだった。


そして、三人は家に戻った。
「俺、食料の買出しに行ってくるわ。お前らどうするんだ?」
キッチンを覗き込みながらディクスが訊く。
「でも、アリスさんの了承得られて良かったよね。もし断られたらどうしようかと思ってたんだけど」
「そうですね。それに、アリスさんからディスクさんに関する情報も得られましたし・・・あとはそれをディクスがうまく演じてくれればいいんですよね」
そう言って二人は同時にディクスに視線を移す。かなり納得のいかない顔をしたディクスがいた。
「なんで俺が・・・」
「だってディクスしかいないもん。スティングがやったって意味ないし・・・人助け好きでしょー?」
「そりゃあ、俺でいいなら協力するけど・・・」
「だったら問題ないわね、がんばってね!」
頼られるのは好きだが、こんな頼られ方は非常に不本意だった。なんだか二人に面白半分でやらされているような気がしたのだ。
「・・・・・・」
「ナチはこれからどうするんですか?」
「もっちろん、魚釣り!今日こそは見た目においしそうな魚釣ってやるんだから!」
そういうや否や早速釣りの準備を始めた。
「スティング、お前はどうするんだ?」
「うーん・・・」
――――― ナチには悪いけど、魚釣りは僕には向いてないみたいだし・・・でも、することは・・・
ディクスをちらっと見る。いつでも出発できる状態のようだ。
「じゃあ、僕も中心街に行きます」
「そうか。ナチー!俺たち中心街に行くからなー!術でちゃんと家をガードしとけよー!」
「わかったー!」
ディクスの叫びにナチが叫んで答える。
外に置きっぱなしのエレカーに乗り込む。今回はディクスが運転するようだ。
「んじゃ、出発な」
そう言ってエンジンをかけた。
綺麗に舗装された道を進む。そのまま行けば中心街だ。
「・・・なあ、スティング」
「なんですか?」
「もし、お前が一番大事に思ってる人がいなくなったら・・・どうする?」
唐突な質問に驚く。
「えっ・・・僕ですか・・・?―――― わかりません・・・その時になってみないと」
・・・・ミリアさんの事かな・・・?
「俺たち、ほら、十三年前のあれで両親亡くしただろ?実はあの時俺、あそこにいなかったんだよ」
不意に昔の話を始める。
「竜神が近くまで来てるって事は知ってた。でも、まさかこっちに来るとは思わなくてな。皆いつもどおりに生活していた。俺もナチと一緒にいつものように近くの河原で暇つぶしてたんだが・・・」
「・・・」
「空間が光ったんだ。嫌な予感がしてあわてて帰ったら・・・町はただの残骸。俺、帰ってくるとこ間違ったのかと思ったよ。誰も答えなくてさ。
家があった場所に帰って・・・でも、駄目だった。あの直撃を受けて生きていた人間なんかいなかった。たまたまその場に居合わせなかった俺たちだけが残った」
「ディクス・・・」
「俺たちが元いた町、ディスティールは竜神が破壊した最後の町だ。それを知ったのは少し後だが・・・どれだけ竜神を憎く思ったか。自暴自棄になりそうなくらいだったよ」
「・・・それからリスタルに移ったんですね?」
「ああ。俺たち、本当はエンドレス出身じゃないんだ。そういう事があって・・・、被害のなかったエンドレスに行く事に決めたんだ。・・・ナチはまだ小さいからわかってなかったのが幸いだったよ」
「ナチが五歳くらいの頃でしたっけ・・・」
「あいつ、わかってるんだかわかってないんだか、大陸を破壊したのは竜神じゃないって言い張って。俺が竜神の悪口言うたびにそうやって断言したんだ。・・・・おかげで、俺もあれはディオールの竜神じゃなかったって思うようになったよ。口には出さないけどな」
両親を亡くした時の自分と、ミリアとを重ねているのだろうか。
ディクスはスティングに過去を話し始めた。二人が十三年前の死の行進で両親を亡くした事は知っていた。けれど、そのことを詳しく知る機会はなかったのだ。
「もし、俺が独りだったら・・・とっくの昔に俺この世にいないだろうな」
そんなことを口にした。
「ナチがいたから、俺今までやって来れたんだよな。独りじゃなかったから」
「ディクス?」
「・・・あの能天気がいたから・・・」
それから黙ってしまった。
・・・おそらく今のミリアは昔の俺と同じ状態なんだろう。どれだけつらいか痛いほどよくわかる・・・
「―――― ナチに感謝ですね」
しばらくしてスティングが言葉に出す。
「・・・そうだな」
ようやく中心街が見えてきた。
「スティング、今日は一切、お前の手出しは無用だからな」
昨日の事を根に持っているのか念を押す。
「そりゃあ、もちろん。ディクスのおいしい手料理をナチに食べさせてあげてください」
そう明るく言った。