D.Force The First Chapter
Force-23

最後のラグーン


「ただいま〜」
夕方、ようやくナチが帰ってきた。海で釣った魚をバケツ一杯にして。
「お帰り!・・・って、そんなに服汚して」
どこにいったのか、ナチは服を泥だらけにして帰ってきた。
「でもね、魚たくさんつれたよ。見て!」
そう言ってナチがバケツ一杯の魚を見せる。
「釣ってくるのはいいけど、いい加減にしとかないと朝昼晩ずっと魚・・・」
言いかけてはたとやめる。
・・・あれ・・・この感じ・・・・
奇妙な感覚にとらわれ、ひとり困惑する。そんなディクスを不思議そうな顔でながめるナチ。
「・・・?でも、わたし魚好きだもん!それにディクスいつも言ってるじゃない。お金を節約しないとって」
「・・・・」
すると今度はナチの顔をじーっと見つめた。
「な、何・・・?」
気おされるように一歩後ずさる。
「・・・とにかく、服着替えて手を洗う!もう夕飯できるぞ」
「はーい」
そう返事して奥の部屋に行ってしまった。そんなナチを目で追う。
―――― そうか・・・思い出した。デジャ・ヴだったのか・・・
・・・あいつあのときとほとんど同じだな。
奇妙な感覚の原因がわかり独りほくそ笑む。そんなディクスをスティングは非常に興味深げに観察していた。
・・・あっ、笑った・・・一体何を考えてるんだろう?
考えてみても到底わかることではなかったが、何もすることのないスティングはそのことに頭をフル回転させていた。さっきディクスが過去を話し始めた理由も関係あるのではないかと推理してみる。
「スティング、何難しそうな顔してるの?」
いつの間にいたのか、ナチがスティングの顔を覗き込むようにしていた。
「あっ、ナチ」
驚いて思わず声を上げる。
「きょ、今日はたくさん釣れたみたいですね」
あわてて取り繕う。
「えっ・・・ああ、うん、そうなの。ちょっとポイントずらしただけであんなにたくさん!やっぱり釣りは奥が深いわー」
自分でうなずきながら満足げに言う。
「あ、そういえば・・・砂浜でこれ見つけたんだけど・・・」
言ってポケットから小さな石のようなものを取り出す。そして、スティングに渡した。
「これは・・・」
スティングが掲げ、透かして観察する。直径4センチくらいの丸みを帯び、クリスタルにも似た青い物体。
「水の・・・輝石ですね」
「水の輝石?」
聞き返す。
「ええ、僕らの間ではそう呼んでます。―――― 精神力の回復、癒しには最高の石と言われています。でも、非常に希少で僕もこれを実際に見るのは二回目ですよ」
驚いた様子で解説する。
「えーっ、そうなの?なんか砂浜できらきらしてて眩しかったからよけようと思ったんだけど、綺麗だったから」
「じゃあ、とんでもない拾い物しましたね。加工せずにそのまま持ってるといいですよ。精神的に疲れたとき回復の手助けになるはずです」
そしてナチの手に返した。
「これがねー」
ナチも興味津々で石を眺めている。
「おーっし、できたぞ。そっちに運ぶの手伝ってくれ」
大好きな料理を終えたディクスは二人に大声で叫んだ。


それから数日がたった。ナチは大好きなつり三昧、スティングは社会勉強だと言って中心街によく出かけ、ディクスはディクスで得意の料理を惜しみなく披露していた。
「明日いよいよ実行ねー」
ソファーに腰をかけているナチが嬉しそうに言う。
「明日の深夜、またエスティナ号に乗ってブルーポイントに戻ります」
船の出発時刻が書いてあるパンフレットをのぞきながらスティングが言う。
―――― はぁ・・・ぐうたら生活もこれで終わりか。
ひとり嘆くディクス。
「でも数年分釣りしたっ!ってくらいたくさん釣りしたわ。もう、思い残すことないわ」
満足そうに言う。
「なあ、俺、ちょっと海に行ってくるよ」
「海に?」
「ああ、俺結局夜の海見てなかったしな。最後に一度くらいは・・・」
そう言って立ち上がった。
「そっかー・・・じゃあ、わたしもついてく」
「いいよ、俺一人で。スティングが泣くぞ」
「僕別に泣いたりしません・・・」
スティングがジト目で見る。
「まあまあ、恥ずかしがらずに!いこいこ」
やや不本意そうなディクスを引きずって二人は家を出た。
―――― 本当は嬉しいくせに」
家に残ったスティングはひとりそう口にした。


暗い海も月のおかげで淡い光を放つ幻想的な雰囲気を作り出していた。波に光が反射していっそう明るくしている。
―――― 静かだな
冷たい潮風が頬をなぜる。
この幻想的な雰囲気と静けさなら楽園だと言われるのももっともだな。この世にはこんな場所も存在するんだ・・・
「ねえ、ディクス。これ見て」
ナチがディクスの手をとり例の水の輝石をのせた。
「ちょっと力込めてみて」
言われるまま力―――― 己の精神を注ぎ込む。心なしか石を持っている手に熱気が帯びる。
そして辺りが青い光に包まれた。
―――――― この光は
なんとも言えない青い光。心が和らぐような温かさ。
なんか・・・落ち着くな、これ。
思わず顔が緩む。
「落ち着くでしょ?それ」
ディクスの表情を見たナチが言う。ディクスは何も言わずにうなずいた。
「水の輝石か」
急速に光が弱まる。そしてただの石に戻った。
「なんだ、知ってたんだ。そ、水の輝石って言うんだって。今日砂浜で見つけたの」
言いながらかがんで足元に落ちている巻き貝を手に取った。
「大きいよね、これ。中身があったらきっとおいしいんだろうけどなー」
既に宿主のいない貝の中をのぞきながら残念そうに言う。
「お前なー、本当に食べることしか考えてないんだからな」
あきれたように言う。
「・・・明日が最後なんだよな」
「だね。なんかすごく長かったような気がする。・・・まあ、実際滞在長かったんだけどね」
サンダルを脱ぎ、波を蹴った。水しぶきが月の光できらめく。
「またエルダスで落ち着いたらくればいいさ。リスタルからよりは近いしな」
「うん、また三人で来ようね!」
三人でまた来ることを信じて二人は白い家に戻った。


そして計画実行の夜。
「準備はいいですか?」
「いつでもいいわ!」
スティングが小声でナチに訊く。それにナチは自信たっぷりに答えた。
例の計画の実行のときが来たのだ。彼らが計画したとおり、ミリアはラグーンの絶景シェルガーデンに一人たたずんでいた。夜遅く、満月になりかけた月が夜空を飾っている。
「なあ、本当に上手くいくと思うのか?」
ディクスが怪訝そうに訊く。
「そんなのディクス次第よ。わたしたちはそのサポートをするだけ。がんばってね!」
他力本願なことを言うナチをジト目で見る。
この浜―――― シェルガーデンはミリアとディスクの思い出の場所だとアリスから聞いた。三人の計画はミリアを一時的に眠らせ、そしてスティングの夢に介入する術を使ってディクスをミリアの夢の中に送り込む。後はディクスがディスクの代わりとなってミリアにディスクのことをあきらめさせるという計画だった。
「そろそろ行きましょうか」
スティングが時計を見ながら促す。
「そうね・・・じゃあ、わたしから行くね!」
そういうとナチは目を閉じる。
めまいが起こるような不思議な感覚。ナチは睡魔の術をミリアに向かって解放した。
ほんの少しミリアは頭を押さえると、そのまま白い砂浜に倒れこんだ。
「よっし、成功!」
嬉しそうに言うとナチは隠れていた茂みから立ち上がり、倒れたミリアの元に足を運ぶ。
「じゃあ、次は僕の番ですね」
スティングは倒れたミリアを抱き上げるとその額に手を当て意識を集中し始めた。
「最後はディクスね」
「ああ」
スティングがしばらくそうしてからディクスは同じようにミリアの額に手を当てた。
「ディクス、終わったら呼びかけてください」
目を閉じたままスティングが言う。
「・・・・」
無言で答える。
体中が浮遊状態なったようなそんな感覚。あまり気持ちのよくない感覚がしばらく続き・・・気づけば目の前にあのミリアがいた。背を向けていたミリアは笑顔と共にディスク―――― ディクスの方を振り返った。


「本当に会えて良かった。もう会えないかと思っていたのよ、私」
「そうか・・・」
短く答え、ミリアの隣に立つ。
「この砂浜でよく遊んだわよね。貝殻集めたり・・・そう、私にネックレス作ってくれたこともあったわよね」
懐かしそうに語るミリア。
―――― ディスクはクロードさんと同じ、金髪に碧眼の少年でした。恐らく大人になっていればクロードさんに似た感じになっていたと思います。
アリスから聞いた簡単なディスクの説明。彼はラグーンを離れた。そしてまたここに戻ってくるはずが竜神の死の行進を受け、帰らぬ人になってしまったという。それからミリアは長い間ふさぎこんでしまった。それから何年もたった今、ようやく癒えてきたと思われた心の傷も容姿も、名前も似たディクス・クロードに会うことによって再び思い出されてしまったらしい。
その責任を・・・そして、同じ感情を持ったことのあるものとしてディクスはディスクとして今ここにいる。
「アリスがね、ディスクは十三年前に死んじゃったって言ってたけど、やっぱり嘘だったのね。私ずっと信じてた、ディスクはきっと戻ってくるって」
潤んだ瞳をディクスに向ける。そんなミリアを痛々しげな目で見る。そのディクスの表情を見てミリアは一瞬不安げな顔をした。
「・・・」
―――――― 俺が嘘をつくわけないだろ?
そう、言いたかった。けれど、ミリアには真実を告げなければならない。そして重い口を開いた。
「ああ・・・俺はこうして戻ってくることができた。ミリアのおかげだよ」
表情を和らげる。
「でも・・・」
次に続いた言葉にミリアの顔がこわばる。
「俺は十三年前にもう、この場所からいなくなった。ディスクはもういないんだ」
そうきっぱりといった。そんなわけがないとミリアは必死に首を振る。
「そんなわけない!だって現実にここにいるじゃない!こうやって、このシェルガーデンで二人で一緒にいるじゃない!」
ディクスの腕をつかみ、訴える。
「一緒にいてくれるって言ったのに・・・」
「俺は今までも、そしてこれからもお前と一緒にいるよ。こうやって姿を見せることも、語り合うこともできないけれど」
そう言って肩に手を乗せた。ミリアは目をこすり笑った。
「・・・うん・・・ごめんなさい。困らせて」
・・・え?
ディクスの予想に反し、ミリアは早くも聞き分けてくれたようだ。
「私・・・ディスクがいなくなったことを聞いてから数ヶ月は本当は嘘なんだって思ってたの。けれど・・・それじゃ、ディスクに迷惑かけちゃうって。嫌われちゃうって思って・・・死ぬような思いでそれを受け止めた・・・それから十年以上の時が経って、ディクスさん、あなたに会った」
!?・・・い、今、ディクスって言ったよな・・・?ディスクじゃなくてディクス!?
激しく動揺するディクスにミリアがいたずらっぽく笑う。
「ふふっ、びっくりした?初めからわかってたのよ」
「・・・・」
「大丈夫怒ったりしないから!私なんかのこと心配してくれて本当に有難う」
そう言ってディクスとの距離を置いた。
「本当に大丈夫なのか?」
恐る恐る訊く。その言葉にミリアは力いっぱいうなずく。
「もちろんよ。だって・・・ディスクはいつまでも私の心の中に色あせないで残っているから・・・いつでも一緒にいるから」
胸に手を当ててそう答える。申し訳なさそうに頭をかくディクス。
「でもね、最初にディクスさんを見たときは本当に錯覚しちゃった。ディスクが帰ってきた!・・・ってね。アリスになだめられてからそんなわけないって現実に戻ったんだけど。あの時は本当にごめんなさい」
頭を下げるミリアにディクスが驚く。
「そのことはもういいから!!・・・それに同じ気持ち・・・俺も感じたことあるから・・・」
ぽつっとつぶやくように言う。
「時々夢に見るんだけど・・・何度見てもなれない夢で、俺・・・」
そこで黙ってしまった。
「でも、乗り越えなければならない・・・」
ミリアが言う。それにディクスがうなずく。
「じゃあ、ディクスと私は同じね」
「そうだな」
ミリアは暗い海に目を移した。
「楽園ラグーンの浜、シェルガーデン。私何十回も何百回もこの景色を見てきた。けど、一度も見飽きたって思った事はないわ。だって一度だって同じ景色を見せてくれる事はないから。この美しい海はいつも私の心に同調して癒してくれる」
そして今度は月を見上げた。
「この月も・・・ね」
そしてディクスのほうを振り返る。
「ところで、これって私の夢の中よね。どうやって入ってきたの?」
「あ、ああ・・・スティングって言う連れの術だよ。それで夢に。・・・俺の本当の目的はミリアに現実を認めさせること・・・けれど、どうやら俺たち勘違いしてたみたいだな」
苦笑する。
「ううん、そんなことない。本当に有難う。心から感謝するわ」
ミリアはゆっくりと首を振る。
「この夢の内容は私たち二人しか知らないことなのよね?」
「ああ、そうだけど」
「じゃあ、私はディクスのおかげで現実を認めることができたってことで、ハッピーエンドで終わろう?私今回のことでいい夢を見させてもらったから」
「有難う」
ミリアはうなずき、ディクスとの距離をさらに置いた。そして身を翻す。
「ディスク!また夢で会いましょう!!」
大声でディクスに叫ぶ。
「俺はいつでも待ってるよ、ミリア!」
ディスクとしてそう叫び返した。


「お帰り!」
再びあの不快な気分を味わった後、ゆっくりと開ける視界にはナチとスティングの顔があった。
「ただいま」
身を起こしていまだ横たわっているミリアの顔を覗き込む。
「だいぶ穏やかになったと思わない?」
「ああ」
また目を閉じたままのミリアの表情は穏やかなものだった。
「でも、ディクスは途中でものすごく気まずそうな顔してたんですよね」
不思議そうに言うスティングにディクスは気のせいだとにごす。
―――――― 俺がディスクじゃないってことばれた事は黙っておこう・・・取りあえず計画は成功したんだし・・・
心の中に秘めておくことにした。
「で、どうだったの?上手く行ったんでしょ?」
「もちろん」
―――― 多分
やや不安げに心の中で付け加える。
「あとはナチが術を解けば完了ですね」
スティングがミリアを砂浜に寝かせる。
「じゃあ、戻ろうか」
そう言って三人は再び茂みの中に戻った。そしてナチは術を解く。
しばらくして、ミリアはゆっくりを身を起こした。不思議そうに辺りを見回す。月を見上げたあとその場から離れた。
その場からいなくなったミリアを見届けて三人は一度白い家に帰った。
「荷物はこれだけよね・・・」
「ですね」
そして家から出てきたディクスが鍵をする。
「えーと・・・確かこの辺に箱が・・・」
玄関の入り口の辺りを探し、小さな箱を見つけ出す。
「あった。鍵はこの中において置けばいいんだよな」
事が終わった後、三人はそのまま港に向かうつもりだった。深夜に出航するエスティナ号に乗るためだ。
「またあの船かー」
ディクスがかなり不満そうだ。
「寝てればすぐに着きますよ」
エレカーを運転するスティングが言う。
「またフォースを探す旅・・・なんだかすごく久々な気がする」
「実際に久々だろ?」
しばらくそうして彼らは港に着いた。深夜にもかかわらず、港は人であふれかえっていた。
「じゃあ、ここで待っててくださいね。僕エレカー返してきますから」
そのまま行ってしまった。
「明日からまたがんばろうね、ディクス」
「ああ、エルダスまでまだまだあるけどフォースのためだ。がんばるぞー!」
誰にともなく決意を新たに固めたのだった。
しばらくしてスティングも戻り、三人はエスティナ号へと姿を消した。やがて船が出港する。
その人気がいなくなった港でエスティナ号を見送る姿があった。
―――――― ディクスさん・・・そしてナチュラルさん、スティングさん、有難うございました」
そう言ってアリスとミリアは深々と頭を下げた。



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