D.Force The First Chapter
Force-24
別れの時
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大国エンドレスの首都デルタ――――――― 「ライア、すぐにでも連れ戻してきてくれ」 「・・・しかし、まだ期限は来ていませんが」 突然の男の命令にスティングに仕える従者の一人、ライアが疑問を抱いた。 「どうやら、向こう側の耳に入ったらしい・・・もし、このままほおって置けば、必ず国王の耳にも入る。そうなればスティングがどうなるか・・・言わなくてもわかるだろう?」 漆黒の髪を持つ男は深刻そうな表情を向ける。その言葉にライアも非常に困惑した表情をした。 「何故・・・内密にしていたはずなのに・・・!」 偽って旅をしているスティングの事はほんの一握りの人間しか知らないことだった。そして、誰にも口外していないはずだった。 なのに一番厄介な人物の耳に入ってしまったらしい。幸いにも国王はデルタにはいない。しかし、国王の耳に入るのは時間の問題だった。そうなる前にスティングを連れ戻さなければ第一王位継承権を剥奪されるだろう。 追放だって十分ありえる処置だ。 「・・・おかしいと思ったのだろう。機密情報収集はあいつの得意技だ。―――― 国王は三日後帰ってこられる。それまでになんとしてでもスティングを連れ戻せ。・・・スティングは話のわかるやつだ。すぐに戻ってきてくれるだろう」 そういうと立ち上がった。 「スティングの居場所は見当がついているのだろう?外出は私が許可を出しておこう。小型飛空挺の使用許可もな。レイルと今すぐ行って来てくれ」 王子がデルタを離れてそんなに時は経っていないのに!!ようやく叶った夢なのに・・・ 「・・・わかり・・・ました」 ようやく声を絞り出す。その言葉に男が無言でうなずく。 そして一礼して部屋を出た。 「お力になれなくてすみません・・・王子」 一人つぶやく。 ・・・でも、今の私がやらなければならない事は王子の継承権の剥奪を阻止すること・・・ そう決まれば早かった。公務をしているレイルのもとに急いだ。 「なんか、ラグーンでの生活が夢みたい・・・この前のことなのにもう遠い過去に思えてきちゃう」 文句たらたらなのは重い荷物を抱えているナチだ。 「そこ!文句言わずにきびきび行動する!でないと夕方までに終わらないぞ」 同じく荷物を抱えてやってきたディクスが喝を入れる。そして、立ち止まっているナチの前を行ってしまった。 「誰のせいよー」 「・・・すみません、僕のせいです」 すまなそうにナチの後ろに控えていたスティングが答える。 三人はまだブルーポイントを離れ、隣国の首都ネストにいた。 ラグーンから戻ってきてだいぶ経っていた。 ここにくるまでさまざまなトラブルがあった。ディクスの奇妙な夢に、立ち寄った村の惨事。ネルディアスの竜神まで絡んでくるようなことまであった。しかし相変わらずのマイペースで三人はここまで来ていた。 そして本来ならすぐにでもここ、ネストを出発するはずだった・・・が、ラグーンの帰りにエスティナ号を再び利用したのがいけなかった。さらに、調子に乗って別の船で現在滞在しているネストまで一気に船で来てしまったこと。 ディクスとスティングの大きな誤算だった。 ここまできて借金せざるを得ない状態になってしまったのである。仕方なくネストの高利貸しを利用し、今その埋め合わせをしているところだった。 「どこか良質な石が取れれば・・・」 一人つぶやく。しかし、ここネストは面白いほど粗悪な石しか取れなかった。当然売れるはずもない。かといって、ここを離れることもできない。となれば、バイトを見つけてこなす他なかった。 「スティング、ぼけっとするなー!」 ディクスが叫ぶ。あわてて目の前の荷物を運ぶ。 ・・・引越しのバイトって結構つらい・・・ 高額な時給に釣られた自分に後悔した。 部屋自体は広いが飛び跳ねでもしたら床が抜けてしまうんじゃないかというくらい古い宿の一室に三人は寝泊りしていた。 「あと、一週間もあればなんとかなるな」 水の滴る髪を乱暴にタオルで拭きながらディクスが言う。 「スコール激しいね・・・」 ナチが窓の外を眺める。いきなりの土砂降り。個人的な依頼を受けていたディクスはずぶぬれになって帰ってきた。 「場所が場所だからな。でも、術が発達してないおかげで結構いい収入になったぞ」 エンドレスのように術の発達していないネストでは術者は希少らしい。術を使えば楽に済む仕事は高額な収入を得られるようだった。 「何してきたんですか?」 「ああ、モンスターの駆除だよ。家に住み着いたんだとさ」 濡れた上着を脱いだ。ナチが受け取り、代わりに別の服を渡した。 「ディクスとスティングは明日も引越しのバイトよね。・・・わたしは犬の散歩・・・かぁ。何で犬の散歩にお金かけるんだろ?」 「ここらへんもブルーポイントみたいな金持ちが多いからな。何をするにしても金をかけなきゃ気のすまないやつがいるんだろ」 面白くなさそうに答える。 「ふーん」 あまり気のない返事をする。 「俺落ち着いたら寝るけど、お前らどうするんだ?」 「わたしも・・・寝ようかな?疲れちゃった」 ベッドの上にどさっと座る。 「そうですね。明日もありますし」 スティングは雨のやみかけた夜空を見上げている。 「そうしたほうがいいな」 濡れたタオルを椅子に投げた。ナチは勢いよく立ち上がると隣の部屋に続くドアの前に立った。 「うん、じゃあおやすみ!明日もがんばろうね」 そういうとナチは隣の部屋に戻った。 「寝坊するなよー!」 ――――――― 深夜 「・・・・」 ――― いる・・・誰かがのぞいてる! ベッドのもぐりこんで二時間ほど経ったときだった。熟睡モードだったはずのスティングだが、外の何者かの気配に目を覚ました。ディクスはまだ気づいていないようだった。寝息を立てて気持ちよさそうに寝ている。 ・・・誰だ? 起きていることを気づかれないように自然に寝返りを打ちベランダに続くドアをにらんだ。その時だ。 ――――――― 王子! 頭の中に突然声が響いた。驚いて目を見開く。 まさか・・・ライア? ライアの訪問だった。そう確信すると、ディクスを起こさないようにゆっくりとベッドから身を起こす。そしてベランダに出た。 ブルーポイント同じ気候を持つネストとはいえ、ひんやりとした風が頬をなぜた。 「ライア?」 小さな声で呼びかける。闇にまぎれて懐かしい顔があった。 ライアはスティングの顔を認めるといつものように一礼した。 「一体どうしたんだ?」 しかしその質問に悲しげな表情をするばかりだった。何も言わずただスティングの顔をじっと見つめている。 ほんのしばらくそうして、ライアは思い切ったようにいつもの真面目な表情を作り、スティングに向き直った。 「王子・・・デルタに戻ってきてください」 短くそう言った。 「なっ・・・戻るって・・・」 ライアの唐突な言葉にスティングは上手く言葉を返せない。 「お戻りになってください」 スティングが言葉を返す前に再び同じことを口にした。意を決したように。 「どういうことなんだ!?ちゃんと説明してくれ!」 予想だにしない展開に声が荒くなる。そしてディクスの存在を思いだし口に手をあてた。一瞬苦い顔をしてからゆっくり口を開く。 「まさか・・・エリオスか・・・?」 その言葉にライアは無言でうなずいた。 「くっ・・・」 額に手を当て下を向いた。 「アルバート様からの指令です。すぐにお戻りください。 幸いにも国王はデルタには居りません。しかし、ばれてしまうのは時間の問題・・・もし、エリオス様が国王に真実を告げれば王子の継承権は剥奪されてしまう可能性があります」 「わかってる・・・けど!」 ライアの予想していた反応だった。アルバートの言うように素直に同行してもらえるとは思えなかった。それほどスティングがこの旅を大切にし、どれだけ学んでいたかを知っていたのだ。 「―――― 王子、ディクスさんやナチさんにも影響が及ぶことをお考えですか?」 はっと顔を上げる。 「継承権を剥奪されなくても、王子がともに旅をしたお二方に必ず影響が及ぶでしょう。最悪は王子をさらったと犯罪者に仕立てられることさえ考えられるのですよ。そうなれば彼らが陽の目を見る事はもはや・・・」 そこまで口にした。スティングが勝手についていったことだとどんなに主張しても受け入れてもらえるはずはない。ディクスとナチの二人は拉致の罪を着せられるだろう。終身刑、最悪は死刑。免れないことだ。 ライアが言う事は厳しいが事実だった。 ・・・僕、どうすれば・・・ 「行けよ、スティング」 突然の出来事に打ちひしがれていたスティングの背中を押すものがあった。 「ディクス!」 いつの間にかドアのそばにディクスが立っていた。 「エンドレスをめちゃくちゃにするつもりか?俺はそこまでしてついて来て貰っても全然嬉しくないぞ。ましてや濡れ衣を着せられるのはごめんだからな」 スティングの前に立つ。 「お前はエンドレスの王位第一継承者なんだろう?自分の立場を考えろ。アルバートとかってやつもお前のこと考えてくれてライアを送ったんだろ?お前が思っている以上に城内の人間はお前のことを心配してるんじゃないか?この旅だってお前一人の力で実現したものじゃないんだろ?だったら今度はお前がそいつらに恩を返すべきなんじゃないか?」 「・・・僕は・・・」 「俺には難しい事はわからない。けどな、お前一人のわがままで大勢が悲しい目にあうことを忘れるな」 そこまで言って今度はライアのほうを向いた。 「こんなところまで悪かったな・・・スティングを連れて帰ってやってくれ。俺たちの足じゃ到底間に合いそうにもないからな」 ライアはうなずいた。 「王子、着替えて身支度を・・・」 「僕は!」 ライアが出発を促そうと声をかけたそのときだった。 「ディクスやナチにとって一体何だったんですか!?確かに一緒に旅をする時間は長いものではありません・・・けど、どうしてすぐに帰れなんて言うんです?」 ――――――― 僕は二人にとってそんなに簡単な存在だったんですか? ――――― すぐに忘れられる存在なんですか? ――― どうして・・・ 「どうして引き止めてくれないんですか・・・?」 一番つらいことだった。きっと引き止めてくれるだろうと期待していた。自分は必要とされる人物だと驕っていた。 しかし、現実は・・・・ 「俺たちはいつまでも待ってるよ」 「えっ・・・」 「お前が俺たちを忘れない限り、俺たちはいつまでもお前が帰ってくるのを待ってるって言ったんだ」 さも当然のように言うディクス。思いがけない言葉に何度も瞬きをする。 「俺たちのほうが忘れられるんじゃないかって不安なんだぞ」 そう言って笑った。 「ディクス・・・」 「俺たちがデルタに立ち寄ったそのときはフォースの謎も解明して、延々と語ってやるよ。その代わり講義料ははずむけどな」 呆然とディクスを見つめる。 ――――― 僕はなんて馬鹿なんだろう?自分の事ばかり考えて何も見えてなかっただけじゃないか。僕にはしなきゃいけないことがあるのに・・・目先の事にとらわれすぎてディクスやナチまで疑って・・・ 意を決したように顔を上げる。 「ディクス、僕・・・」 しっかりと声に出す。 ・・・帰ろう、エンドレスへ・・・ 「エンドレスに帰ります」 ・・・僕があるべき場所へ・・・ ――――― 後悔しないように。 「・・・ああ」 部屋に続くドアを開け、スティングが中に入るよう促す。 「ちゃんと整頓していけよ」 「・・・ええ」 ディクスの本心がわかった今、もう迷うことはなかった。ディクスとナチならどこまでも信じてもいいような確信さえあった。短い間ではあったが二人のことを十分に理解しているつもりだし、理解してもらってるつもりだ。 待たせているライアにこれ以上迷惑をかけないようにてきぱきと行動する。しばらくして準備が整った。いつもの服に着替える。 ――― この服もこれで終わりかな・・・? そう考えると少し惜しい気もした。けれど、自分には待っていてくれる二人がいる。と、そんな気もすぐに失せた。 「終わりました」 宿の廊下に出るドアの前に立つ。ライアはすでに外でレイルと待機している。 「ナチには・・・」 「俺から言っておくよ。何で起こさなかったのか怒るだろうけど・・・まあ、スティングのこと察してやれとでも言えば納得するだろ」 苦笑いする。どこまでもマイペースなディクスをうらやましく思う。 「本当に有難うございました。どれだけお世話になったか・・・」 「ほんとにな!でもまぁ、こっちも世話になったしお互い様ってやつだな」 そのまま二人とも黙る。どちらも別れの言葉なんて言うつもりはなかった。 「じゃあ、僕行きますね。ナチと仲良くしてくださいよ」 「わかってるよ。お前も面倒起こさないようにな」 うなずいて部屋を出る。足を踏み出して思いついたように振り返った。 「あの、これ・・・」 荷物の中を手で探る。 「研究に役立ててください」 フォースを取り出した。 「お前、これ・・・」 「研究成果が出たらそのとき返してくださいね。売っちゃうなんてことしないでくださいよ」 笑いながら言い、ディクスの手に渡した。 「・・・わかった。研究に役立たせてもらうよ!」 スティングは満足そうにうなずく。 「ナチには・・・」 耳の下辺りを手でさわり、小さなかけらを渡した。 「本当は貰い物だからそれを人にあげるのはいけないことだとは思うんですけど・・・でも、ナチならいいですよね!これ、持ってるだけで精神を癒してくれる特殊な石です。僕はピアスにすることで効果を得てたんですけど、ポケットに入れてるだけでも効果はあると思います」 片方のピアスをディクスに渡す。綺麗な透明度の高い赤い石だ。 「ああ、必ず渡しておくよ」 「じゃあ、僕・・・」 「気をつけろよ」 ――――――― もう会うことはないかも知れなけど・・・ 口には出さないが二人の本音だった。それでも再会を信じてスティングはエンドレスに戻った。 ・・・・行ったな・・・ ある程度予想はしていたことだった。ただ、こんなに早くその時が来ると予想していなかった。 「ナチのやつ怒るだろうな・・・」 そうつぶやき、再びベッドにもぐった。 もうひとつのベッドにはもう誰もいない。 朝が来た。珍しく日の出とともに目が覚めた。カーテンを開ける。朝とはいえ、ネストの強い日差しが目を焼く。そしてここの朝は早い。 いつものように顔を洗い、服に着替える。 ・・・・そして何もすることがなくなった。 「・・・どうしよう」 つぶやいても誰も答えない。ナチはまだ寝てるだろう。昨日の疲れもあるだろうからぎりぎりまで起こすつもりはなかった。 スティングから預かったフォースを手に取る。ほんの少しだけ力を込めてみた。 部屋が朝日に負けないほどの強い光に包まれる。ディクスはそれ確認したようにうなずくと光を消失させた。そして部屋は再び朝日に包まれた。 「ふむ・・・」 ベッドに大の字になる。 ・・・スティングにこれを預かった以上、フォースの研究を死ぬ気でやらなきゃな。あいつに合わせる顔がないよ。 ――――― ナチのやつなんて言うかな・・・ さまざまな思いが頭の中を巡る。ついついうとうとしているときだった。 「おはよー、起きてるー?」 ディクスが起こすより早くナチは目を覚ましたらしい。服に着替え、ディクスのいる部屋に顔を覗かせていた。 「おはよう」 ベッドから身を起こす。予想通りナチは顔をめぐらせスティングの姿を探した。 「スティングは?」 避けられない質問だった。ディクスは立ち上がり、窓に寄った。 「ああ。あいつなら帰ったよ」 短く言う。 「帰ったって・・・どこに?」 わけがわからないナチはディクスに再び訊いた。 「うん、エンドレスに。デルタに帰ったよ。王子としてな」 「はぁ?」 さらっというディクスにナチはからかわれているのかと憤慨した。 「あのねー、そんなこと言っても信じるわけないでしょ。馬鹿にしないでよ。スティングはどこに行ったの?」 何故ディクスがそんなことを言うのか、少しいらだちながら再度訊く。 「俺嘘ついてないよ。荷物もないだろう?」 言われて見回す。言われたとおりスティングのものと思われるものは何もなかった。 「そんな・・・まさか」 「昨日の夜、あいつの従者がきてな。スティングが旅をしていることが国王にばれそうなんだとさ。だからすぐにでも帰ってその証拠を消さないと継承権が危ないらしい」 ナチはまだ信じられないという表情をしている。 「俺だって引き止めたかったさ。でもな、あいつのためだ。仕方がないよ・・・」 「でも・・・でもなんで言ってくれなかったの!?どうして起こしてくれなかったのよ!」 激しく問いただす。 「どうして?」 「あいつの決心が鈍るからだよ。ナチ、もしお前がその場にいたら・・・お前なら引き止めるだろう?俺たちにとってスティングは大切な存在だ。でもな、俺たち以上にエンドレスから必要とされている存在なんだよ」 ・・・そんなのわかってる!!それでも・・・一言スティングの口から聞きたかった・・・ 「あいつはエンドレスに帰る気はほとんどなかった・・・自分の地位を危ぶんでまで俺たちについていこうとしていた」 「・・・・。」 「その気持ちは俺だって嬉しかった。けれど、俺はあいつが何かを失ってまでついてきて欲しくなかったし、あいつが望むほど多くを教える事はできない。だから俺はエンドレスに帰ることを勧めたんだ」 ・・・・。 「ナチュラル」 うつむいて立ち尽くすナチの肩に手を置こうとした。 「ちょっと・・・散歩してくるから・・・朝ごはん先に食べてて」 ディクスに背を向け、静かに言うとその場を立ち去った。やり場のなくなった手でこぶしを作る。 「役に立たない兄貴だな、俺」 つぶやいてこぶしを振った。 |