D.Force The First Chapter
Force-26
サイバーシティ
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それから二ヶ月ほど経った曇りの日。 ディクスとナチの二人は、目指してきた荒野のオアシス、エルダスに足を踏み入れていた。荒野に到着したのは数週間前、そして今首都エルダスにいる。 予定よりもかなり早く到着したのはフォースの研究をいち早く進めるため二人ともわき目も振らず進み続けた結果だった。 暇があればエルダスをめざし、歩きながらでもそれぞれの目標に向けて地道な努力をしてきた。 その甲斐もあって、ディクスは前以上にフォースの力を操れるようになり、そしてナチはより高度な術を身につけることができたのだ。 「なんかいよいよね」 心なしか緊張気味にナチが言う。 「ああ」 力強く答えるディクス。 噂どおりの城壁に囲まれた新都。その内部は今まで二人が見たものと一線を画していた。 「これは・・・」 見たことも無い建物。何層にも重ねられた部屋が天に向かって聳え立っている。ぱっと見ただけではそれが何階建てなのかわからないほどだ。そしてラグーンで見たエレカーが道を右往左往している。 空を見上げても、高層ビルに阻まれ、一部しか見えない。 「なんて町だ・・・」 ディクスはほうけたように辺りを見ながら歩いた。ナチも同じだ。あてもなく町をさまよう。 エンドレスや、ましてやリスタルとは全く違ったサイバー都市。所狭しと立つ建物の間を縫うように、巨大な透明の筒が走っている。ときおり、その中を人を乗せた物体が高速移動していた。 二人はまるで別世界に来てしまったような錯覚に陥っていた。どうもおちつかない。 「ねえ、宿はどうするの?決めておかないと日が暮れちゃう。雨も降りそうだし・・・」 やや不安げにナチが言う。 「そうだな・・・」 ナチに言われ今日のところは宿をとり、調査は明日から行うことにした。道行く人に適当な宿を尋ねる。巨大ビルの間を行きかい、そして着いた場所は高層のビジネスホテルだった。その十八階に二部屋とる。 「うーん、頭がなんかくらくらするー」 十八階まで一気にエレベーターで上がってきたナチは気分の悪さに頭を抱える。ディクスも同じだ。 採光のない長い廊下には一定間隔でたくさんのドアが並んでいた。そのうちのとった部屋の前でカードキーを取り出し、中に入る。狭い部屋はまさに寝るだけといった感じのものだった。 ―――― やっぱり台所なんてあるわけないよな 見回すまでもなく視界に全体が入る部屋を見て少し残念に思う。 「うわー、ディクス、見てみて!!これすごいよ!」 先に奥に入ったナチが窓の下をのぞきながら手招きする。 「だろうな・・・」 窓に近づき、同じように下を見て・・・後悔した。 「どうしたの?」 ディクスの様子を見ていたナチが伺う。 「別に・・・」 げんなりと答えるとよたよたとベッドに向かった。 「ほんとにこの町ってすごいよね。エスティナ号をそのまま町にしましたって感じじゃない」 一脚しかない向かいの椅子に腰をかける。 「リディアも支援してくれたって話だからな。その技術がそのまま流用されたんだろ」 「そっかー・・・」 そう言って備えてあるデジタル時計を見る。三時三十四分を表していた。 ナチは立ち上がり、もう一度窓から下を眺めた。 エレカーが、人があんなに小さく見える。まるで米粒が動いているようだった。遠くを見ても、やはりこのホテルと同じような高層ビルが見える。 「ナチ、明日ここ行ってみよう」 ディクスが持っていたエルダスの地図を広げる。その一点に神殿を表す記号が記されていた。 「神殿・・・?」 「ああ、どうやら竜神に関する神殿らしいんだが・・・」 「竜神??・・・って、ここらへん荒野にしたの竜神なのに・・・」 「だろう?フォースのことわかるかもしれないし。まずは朝一でここに行ってから、長期滞在の宿見つけような」 「うん」 ―――――― なんで竜神の神殿が・・・?ここの連中は誰も恨みを抱いてないのか・・・? ふいにネルディアス大陸の竜神が言っていた十三年前の真実という言葉が思い出される。 ・・・ちゃんと突っ込んで訊いておくべきだったな。 少し後悔してから地図をたたんだ。 「よーっし!やっと目的地に着いたんだ。今日はパーッといくからな、ナチ。覚悟しとけよ!」 「望むところよ!!」 「王子、どうされたんですか?」 曇ったエルダスとは裏腹に晴天に恵まれたエンドレスの首都デルタ。 「いや、なんでもないよ」 ふと外を見ていたスティングにライアが声をかける。そして思い出したかのように少しあわてて返事をした。 スティングにもあれから同じ時が経っていた。そして、あるべき生活を送っていた。 ――――― うまくやってるかな 帰ってきてから外を眺めることが多くなった。そして見れば見るほどまた、旅をしたいという気持ちが大きく膨らむ。 ・・・けれど二度と叶わないことだ・・・僕はひと時でも外で自由に過ごせたことを感謝しなければならない 視線を落とし、再び公務にいそしむ。でもペンがなかなか進まない。 「・・・これからリディア大陸の使者と謁するのですよ。もっとしっかりなさってください」 様子を見ていたライアが喝を入れる。スティングが注意力散漫になっている理由は痛いほどわかっていた。とはいえ、ほうっておくわけにはいかない。 「ああ。わかってる。すまない」 再び注意力散漫になった自分を恥じ、そして今度こそ公務に集中した。 夕方になり、ようやくリディア大陸の使者との会合も終わった。正装のスティングは自室に戻ろうと一人歩いていた。 「ご大層だな、スティング」 次を曲がれば自室のドアが見えるところまで来たときだった。 「エリオス・・・」 預けていた背中を壁から離し、向かい合わせにスティングの横に立つ。 背はスティングとほとんど変わらない、そして同じく真紅の瞳と銀の髪を持つ。 「何を話したんだ?」 「デルタとエルダスを結ぶ飛空挺設置の技術提供についてですよ。リディア大陸の技術をエンドレスにも取り入れようと・・・その話し合いです」 するとエリオスは驚いて見せた。 「例の飛空挺!私ならリディア大陸なんかの技術を流用しようとは思わないがな。リディアの技術を取り入れる・・・スティング、もしお前がエンドレスを変えようなんて考えているならさっさと継承権を放棄したほうがいいんじゃないか?」 突き刺すように横目で見る。しかしスティングは表情を変えない。 「―――― まさか」 「・・・そう。それならいい。まさか第一継承者たるものが国賊だなんてエンドレスの存亡かかわる一大事だからな。その気がなくて本当に良かった」 謳うように言う。 「エリオス、口がすぎるんじゃないか」 あきれたように目を閉じたスティングが口調を変え静かに言い放つ。 「そりゃあ、どうも失礼いたしました、第一継承者殿。第二継承者の私はこれで引き下がりましょう」 そしてその場から離れる。スティングも再び歩き出そうとしたときだ。 「ああ、スティング!アルバートやフィオールを頼らないほうがいい!彼らはお前の継承権を狙って優しくしてやってるんだから、勘違いしないように!」 わざとらしく大きな声で言うと、笑いながら消えた。 「・・・・」 ―――――― 何がお前をそこまで変えたんだ、エリオス・・・ わずかに眉をひそめる。嘆息してから気を取り直して部屋に戻った。 「んじゃ、エルダス到着にかんぱーい!」 ネオンが眩しいエルダスの酒場、ビールのジョッキを手にしたディクスが到着を祝す。 「かんぱーい!」 ジュースの入ったジョッキを手にしたナチも同じように祝した。そして一気にジョッキの中身を喉に流し込む。 「ふはーっ!」 どちらともなく満足げに息をついた。 「おいしーい!!」 甘いジュースでぬれた唇を手の甲で口ぬぐう。 「うまいっ!!」 久々にビールを口にしたディクスはテーブルにジョッキをたたきつけるように置いた。 「あー、でも、本当に長かったねー!」 感無量といわんばかりにナチが目の前の料理をほおばりながら言う。 「そうだなー。旅を始めてから二年くらいだけど、俺たちよくがんばったよ、うん」 ディクスもうなずきながら料理に手をつけている。 「エンドレスに着くまでが長かったのよね・・・まあ、最初は目的なかったからだけど」 「まあな。リスタルにもちょくちょく帰ってたりしたしな」 「エンドレスから始めて約四ヶ月・・・別に長すぎってわけじゃないけど、ほんと、色々あったわよねー」 「ああ」 二人の脳裏に浮かぶのはスティングのことだった。 ・・・元気にしてるだろうか? 同じように思う。 「フォースのこと何かわかるといいね。・・・ううん、絶対わかるよね」 「もちろん!そのためにここを目指してきたんだしな」 自信たっぷりに答える。 「でもさ、十三年でしょ、こんなに変わるものなのかな?噂ではハイテクな町だとは聞いてたけど、まさかここまですごいものだとは思いもしなかった」 「うん、俺も。でも、このエルダスの再建に特に力をいれてたみたいだからな。全体的に言えば荒野はまだまだ再建途上状態なんだよ。小国が集まって一つになったとはいえ、もともとあった各国の資金はほぼないに等しいからな。ディオール大陸の中で一番不利な状態である事は間違いないさ」 そう言ってビールを一口飲んだ。 「エンドレスとかね。もし、資金援助がなくなったら、エルダスはそれこそ大変だし・・・」 「そういうこと!」 今度はメニュー表を取り出し、次に制覇すべき料理を探し始めた。 「それにしても、おいしー!最近簡単な食事しか取れて無かったもんね」 広大な荒野、ましてやほとんど町が再建されていないこの土地で普通の食事にありつける機会はほとんどなかった。二人が荒野に足を踏み入れてからここまで、ほとんど軽食状態で過ごしてきたのだった。 ・・・・それに、料理できる場所がないって、寝言で不満を漏らしてたくらいだし・・・・ ナチが鳥のから揚げをのどに詰まらせ、生死の境をさまよってるディクスを見る。 「げほっ、げほっ・・・」 しばらくしてようやくお花畑から帰ってきたようだ。青ざめた顔もようやく生気を取り戻す。 ―――――― 死ぬかと思った・・・ 酸欠状態の魚のように、少しでも多くの酸素を取り入れようと口をパクパクさせている。 「・・・・」 ナチは助けるそぶりも見せず、目の前の料理をつまみながら静観していた。というか、あきれている。 時間をかけてようやく落ち着きを取り戻す。 「落ち着いた?」 いい歳して・・・と言う視線をディクスに向ける。 「・・・ああ、落ち着いたよ」 痛いほどその視線の意味がわかるディクスはナチと目を合わせないようして答える。 ちなみに三回目だった。 こんなんでフォースのこと調べ終わるのだろうか・・・? かなり不安になったナチだった。 翌朝、設定した時間どおり目覚まし時計の電子音で目覚めたディクスはまずテレビのスイッチを入れた。エスティナ号でリディアの技術に驚かされ、もうどんなすごいものが目の前にあっても取り乱さないと心に決めた以上、テレビという奇妙な情報発信の箱に惑わされる事はなかった。 チャンネル数は三つしかない。そのうち二つが国営だったりする。民間放送の朝のニュース番組が近況を告げている。 「ふむ・・・」 しばらく眺めていたが特に気をひく話題がなかったのか、チャンネルを変える。 『リディア国の技術支援を受け、建設が進められているエンドレス国の飛空挺が・・・・・』 「エンドレス?・・・そういえば、スティングのやつが飛空挺が何とかって言ってたな」 スティングにエンドレスの首都デルタと、ここ、エルダスをつなぐ飛空挺を建設中だと聞いたことを思い出す。 ・・・飛空挺って・・・やっぱ空飛ぶんだよな。飛行船とは違うのか・・・? 『試験運転のため、エルダス郊外に建設されているスカイゲートに着陸予定とのことです。二、三日中に到着ということで、関係者はその対応に追われています』 すると画面が切り替わり、代わりに青い、流線形の巨大な飛空挺が映し出された。 BlueForce 機体に大きく書かれた文字。美しく塗装された船体は、海を泳ぐイルカを連想させる。しかし、これは海ではなく空を飛ぶのだ。ディオール大陸にあるどの乗り物よりも高速で移動する。ディクスとナチが数ヶ月かけて移動してきた距離も、この飛空挺なら一日足らずで着いてしまうだろう。 「・・・・」 ハイテクなものはあまり好きではないディクスだったが、その飛空挺の壮大さには思わず見入ってしまったようだ。テレビに釘付け状態だ。 『エンドレス国の飛空挺、ブルーフォースはリディア国の技術を元に独自に開発したもので、特殊な技術を使い、操縦者の意思を直接コンピューターに送り込むことで操作が可能という世界初のMLS、【マインド・リンゲージシステム】を搭載しており、より高度で早い船体の機動が可能だということです』 「意思を送り込む・・・?機械に?」 科学技術に関する知識を持たないディクスにはちんぷんかんぷんだった。とりあえず、自分の思うとおりに動いてくれるすごい機械とだけ認識することにした。 ―――――― なんだ、エンドレスってリディアに劣らないくらい科学技術発達してるじゃないか。わりに、町にはほとんど浸透していないみたいだけどな。 意外なエンドレスの一面を見て、ニュースの話題が切り替わったところでテレビのスイッチを切った。 「ディクス、起きてる?」 ナチの声が聞こえた。 「おはよう」 オートロックのドアを開ける。目の前には普段着を身にまとうナチがいた。いつものように延々と外を歩くわけではないからラフな格好だ。 「おはよー。ご飯食べに・・・」 言いかけてナチはディクスをまじまじと見た。 「まだ顔も洗ってないでしょ?ほら、早く服に着替えて神殿に行こう?」 言われてまだ寝巻きのままの自分に気づく。テレビに釘付けですべきことを忘れていたようだ。 「ああ、すまん」 「わたし部屋で待機してるから、準備が済んだら呼んでね」 そう言って隣の部屋に戻った。 「顔洗うか・・・」 つぶやいて、ようやく準備を始めた。 「朝からバイキング形式。贅沢ねー」 いいながら皿にスパゲティサラダを盛っているのはナチだ。 一方のディクスは大量のポテトサラダを皿に盛っている。盛りすぎて他の料理が盛れなくなったらしい。一度テーブルに戻り、新しい皿を持って再びサラダバーに戻ってきた。 「俺は嬉しいけどな。どれでも好きなだけ食べてるから」 当たり前のことを嬉しそうに言っている。二人とも目当ての料理を盛ったところでテーブルについた。 「ポテトサラダ好きね」 ナチがディクスの皿を見ながら言う。 「だって最近食べられなかったから。お前だってスパゲティ好きなんだろ?」 「うん、大好き。だってほら、鍋とか持ち歩いてるわけじゃないからパスタ持っててもゆがけないし・・・。だからさ、今度パスタ料理作ってね」 さりげなくリクエストする。 「任せろ!」 親指を立てる。 「ところで、今朝のニュース見た?スティングが言ってた、飛空挺のこと」 「ああ、もちろん見たよ。俺、ハイテクな物あんまり好きじゃないんだけど、あれはすごいと思った」 蒼い、有機的なフォルムの機体を思い出す。 「だよね!自分の意思どおりに動く飛空挺かぁ。思いのままに操縦してみたいよね」 「スティングに頼んだら乗せてくれるんじゃないか?」 「あのね、無理言わないでよ。そんなことできるわけないでしょ」 「わからないぞ。あいつの弱みをちらつかせたらきっと・・・」 ―――――― 脅迫じゃない、それ・・・使えるけど 「二、三日中にここに来るんでしょう?暇だったら見に行こうね」 「そうだな、暇だったらな」 ・・・っていうか、きっと暇してるだろうけど・・・・ ホテルでの朝食を食べ終え、二人はエルダスの町へ出た。 「えーっと・・・そうだな。エアーカプセルに乗って行くといいらしいんだが」 そして向かった先はビルの間を縫うようにある透明の筒の一画。人の列に並ぶことなく、スムースにエアーカプセルに乗ることができた。乗客を乗せたカプセルは透明な筒を高速で移動する。そして時折、ゲートで止まり、人が行きかった。 やがて目的地、ディオール大陸の竜神を祀る神殿のそばのゲートにつく。 「ここが竜神の神殿・・・」 目の前には巨大な神殿が建っていた。 |