D.Force The First Chapter
Force-27

エルダスの神官


広大な荒野のオアシス、エルダス。リディア国の技術を流用したそのサイバー都市の一画にそれはあった。
「ディオール大陸の竜神を祀る神殿―― か」
予定通り、ディクスとナチの二人は竜神を祀る神殿に来ていた。
町の雰囲気に合わせたのか重々しい雰囲気はない。とはいえ、たくさんの巨大な大理石の柱で支えれた壮大な建物は竜神の神殿としての荘厳さを感じさせるのに十分だった。たくさんの採光の窓から差し込まれる朝日が光芒となって神殿の雰囲気をよりいっそう引き立てていた。
まだ時間が早いせいか、二人のほかに誰もいないようだった。
「大きいね」
ナチはきょろきょろしながら中に入る。緊張しているのかディクスに寄り添うようにして歩いている。
白く、長い廊下を歩く。
やがて神殿の中心が見えてきたところで立ち止まった。そして視界に入った床を見てから天井を見上げた。
――――― 竜神と子竜・・・・
天井には巨大な竜と周りを取り囲むようにしている小さな竜のステンドグラス。太陽の光がそのステンドグラスを通り、そして床に影を落としていたのだった。とても高い天井ではあったが、何か特殊な技術を使っているのか床に映っている影もクリアで現物より巨大なものだった。
思わず見入ってしまう。
「ようこそ、ディオール大陸の守護神の神殿へ――― 旅人さん」
後ろから突然声をかけられあわてて振り向く。
目の前には白いローブを身にまとった女性がいた。ゆったりとした長い髪を流し、やんわりとした笑みを浮かべている。
「こんなに朝早くから熱心ですね。信仰されてる方でももう少し時間が経ってからいらっしゃるんですよ」
そういうと二人をその場に神殿の中心へ歩き、立つ。
「ここは十三年前、子竜によってその力を封印されたディオール大陸の守護神を祀る神殿。私はこの神殿の神官の一人、セルディアといいます。この神殿が建設されてからずっとここを守っています」
ほうけたように話しを聞いていた二人だが、ようやく我を取り戻し、同じように中心に歩み出た。
天井から差し込む光がまぶしい。
「俺は・・・俺はディクス、ディクス・クロード。そしてこっちが妹のナチュラルだ」
そして握手を交わす。
「よろしくね、ナチュラルさん」
ナチとも握手を交わす。
「この神殿はエルダスで一番最初に作られた建造物です。ご覧の通り、このステンドグラスは竜神と子竜をあしらったものです」
セルディアが視界に入る神殿の内装を簡単に説明する。
「一つ訊きたいんだが・・・なぜ、ここに竜神を祀るような神殿があるんだ?誰も恨みを抱いてないのか?」
遠慮せず直接訊くディクスにナチはひやひやしていた。
「これからミサ・・・と言ったら大げさかもしれませんが、ちょっとした集まりがあるんです。これから人も集まってきますから、もし調べたいことがあるならお昼にもう一度来られるといいでしょう。私もそのときはご一緒します」
やわらかく言う。
「ミサ・・・か。そうだな、俺たちの目的はそれじゃないし」
少し決まりが悪いように頭をかいた。
「うん、じゃあまたお昼に来よう?セルディアさんも手伝ってくれるって言って下さってるし」
「では、また後でお会いしましょう」
そういうことで、二人はまた出直すことにした。早々に神殿を出る。
「すごい神殿だったね。緊張しちゃった!」
ナチが今までの緊張を解くように大きく伸びをする。
「ああ、大きかったな。それに最初の建造物・・・か」
「ねえ、ディクス。お昼まで時間あるから色々見ていこう?長期滞在するんだからいろいろ知っておきたいし・・・」
「それに長期滞在の宿も見つけなきゃな」
「そういうこと!じゃあ、じゃあ、行こう!」
そう言って二人はエアーカプセルの発着所に向かった。


そして時間がやってきた。再び神殿に戻ってた二人は待っていたセルディアに迎え入れられた。
「何からお話しましょうか?この神殿にいらっしゃったからには何かお探しのものがおありなんでしょう?」
その言葉にディクスがうなずく。
「ああ、訊きたいことが山ほど・・・」
そしてナチを見た。ディクスの視線に気付いたナチは一瞬きょとんとした表情をしたが、ディクスの言わんとしていることを理解したのかうなずいてその場を離れた。
離れていく背中を見届けて話を続けた。
「俺たちは竜神が最後に破壊した町、ディスティールの生き残りなんだ。もっとも、俺が聞いた話では生存者はいないって・・・でも、実際は違う。二人残ってたんだ」
ディクスの思いもよらない言葉に少しうろたえるセルディア。
「生存者が・・・そうでしたか・・・。でも、そのあなたがたが何故この神殿に?」
「七年位前か・・・知り合いからフォースを貰ったんだ」
言ってそのときのフォースを取り出す。セルディアはそれを受け取り、光に透かす。
「・・・確かに、フォースですね。間違いありません」
「ジョージってやつから貰ったんだが、あいつが言うには誰もこのフォースの力を行使する事はできない・・・そう言っていた。・・・・俺もそう思った。多分俺も皆と同じように・・・・行使できないと」
歯切れの悪い言い方、そして思わせぶりな話し方をするディクスをセルディアはまっすぐな瞳で見ていた。
―――― 俺・・・ほんの少しだけ力を込めたはずだったんだ。なのに・・・なのに!!」
――――――― 俺って一体何なんだ!?どうして・・・俺だけ!?
今までその能力に苦しんできたディクスのことを察したのかセルディアは握りこぶしを固めているディクスの手を彼女の白い手で包む。
その瞬間、ディクスが初めてフォースの力を行使したときの光景がセルディアの頭にフラッシュバックする。
彼を中心に開いた大穴。爆風になぎ倒された木々。
「・・・どうしていいか分からない・・・だからフォースを集めたら何かわかるんじゃないかって・・・エルダスに行けば手がかりがつかめるんじゃないかと・・・」
どうして・・・?何でこんなに苦しんでるんだ、俺・・・?ナチやスティングが応援してくれるって言ってくれたのに、どうして今更俺は恐怖を感じてるんだ!?
心の葛藤に苛立ちを覚える。
「ディクスさん、安心してください」
優しく声をかける。
「確かに我らが守護神はディオール大陸を破壊したもの・・・その力の結晶とも言えるフォースの力を行使できるとなれば人々が奇異の目で見てしまうかもしれない・・・けれど、その過ちを正すためにも私たちがいるのですよ」
ディクスが何のことかわからずセルディアの目を見る。
「十三年前のことはディオール大陸の守護神だけがその罪を負っているように思われている。けれど実際は違うのです。守護神の意思ではないのです」
とんでもないことを言い出したセルディアにディクスが目を見開く。
「どういうことだ・・・?でも、あの巨大な力は確かに竜神のものだろう?違うなんて今更・・・」
そういうとセルディアはゆっくりと首を横に振った。
「確かに肉体は守護神そのものでした。けれど、その精神が、守護神のものでなかったとしたら・・・?」
「まさか・・・そんなこと!!」
「それ以外に守護神が暴走する理由が見つからないのです。どんな巨大な力を持つ守護神とはいえ、私たちと同じ感情を持つもの。それが侵されることだって十分にありえるのです」
・・・精神・・・干渉・・・?一体誰が・・・
そこまで思いあることを思い出す。
「そういえば・・・ネルディアスの竜神が・・・」
そこまで言うと、セルディアの目つきが変わった。
「ネルディアス大陸の竜がどうかされたのですか?」
「俺の夢に干渉してきて・・・助けてくれって。力を貸してくれって・・・」
「助け・・・を?」
「十三年前、ディオール大陸の竜神の暴走を止めようとして力を使おうとしたけど、既に手遅れで・・・でも、その力を別のところに使ったから今も昏睡状態で目覚めないと」
セルディアは思い巡らすように視線を落とす。
「ネルディアスの竜があなたにそう言ったのですね?」
念を押すように訊く。
「ああ。時が来るまで待つ・・・と。俺が完全な状態に戻るまで」
―――――― 完全な状態・・・
「そうですか・・・―――― ディクスさん、フォースの力を行使できるとおっしゃいましたね。宜しかったらその様子を見せていただけませんか?何かわかるかもしれません」
言われ、フォースをセルディアから受け取り手のひらにのせた。目をゆっくりと閉じ、深呼吸をする。力を込めるように手を握る。
しばらくそうするとディクスの指の間から少しずつ光が漏れ始めた。そして直視できないほどのまばゆい光。ステンドグラスを通して床に落ちていた光もフォースから発せられる光に相殺され見る影もない。
「これが・・・」
驚きの表情を隠せない。
―――― こんなにも強い光!!我々でもここまで行使する事はかなわないのに・・・!!!
やがて光が消滅し、いつもどおりの神殿に戻る。
「まさか・・・こんなに・・・!」
思わず声に出す。しかしディクスの気持ちを察したのか口を手で押さえる。
・・・あなたは一体・・・??
「いや・・・いいよ。それが普通の反応だから」
苦笑した。
「でも・・・こんなに強い光・・・」
身体全体に懐かしさが染み渡る。長年探していたものがようやく見つかったような感覚。
――――――― あの方と同じ光・・・・
懐かしむようにゆっくりと目を閉じる。
「セルディア?」
それが心配になったのか声をかける。呼ばれ、はっとして目を開ける。
それと同時に涙が頬をつたう。
・・・涙・・・?
自分でも何故涙があふれたのかわからなかった。感じたことのない奇妙な感覚。
「大丈夫か?」
ディクスが心配そうな顔をしてセルディアの涙をぬぐった。
「驚かれた事はあったけど、泣かれた事はなかったな」
困ったように笑いながら言う。
「ええ、大丈夫です」
笑ってみせる。その表情にディクスも安心したようだ。表情を緩める。
――――――― でもあの方はもういない・・・
「ディクスさん、あなたは選ばれた人間なのかもしれません」
気を取り直す。
「選ばれた・・・?」
訝しげに訊き返す。
「正直私にも今、何が起きているのか、そしてこれから何が起きるのかはわかりません。けれど、ディクスさん。あなたのその能力は必ず理由があってあなたに備わっているものなのです。この世に理由もなく備わっている能力などありません」
「・・・・・」
「そしてそれはあなたの存在理由であるかもしれないのです」
―――――― 存在理由?フォースを行使する能力が?
「俺、そんな大きなこと・・・」
「我々はこの神殿を拠点にディオール大陸と共にある。そして、我らが守護神の帰りを待つことが我々の存在理由。存在理由に大きいも小さいもありません」
そこまで言って微笑む。
「・・・話が少し長くなりましたね。訊きたい事ありますか?私が教えられることであれば全てお話しましょう。ナチュラルさんもご一緒に」
セルディアに提案され、神殿の絵画を眺めていたナチを迎えに行った。
「ナチ!」
「あ、お帰り!もう終わったの?」
ディクスの姿を認めると駆け寄った。
「まあな、俺の能力のこと話したよ。さあ、行こう」
うながし、再びセルディアの待つ神殿の中心に向かった。


「フォースはもともと一つのものです。そして互いに導きあっている」
ディクスのフォースに関する知識を知りたいと言う要望に答え、セルディアは知る限りの知識を話した。
「導きあう?」
「そう、自然に。フォースはただの石と思われているかもしれません。けれど、互いに求め合い、あるべき場所に戻ろうとする力が働いているのです」
ディクスの手元にある三つのフォースのかけら。最初はジョージから貰った、二つ目は人気のない館から失敬した、そして三つ目はスティングからあずかったものだった。
「そう言われればそうなのかな?」
ナチがディクスに訊く。
「うーん・・・そう・・・なのかもなぁ・・・」
ひとしきりうなった後そう答えた。
・・・でも、互いに求め合ってるって・・・
「もしそれが本当なら、あるべき場所にフォースは勝手に集まってくるってことなのか?」
「少し極端ですが、そういうことになりますね。でも、私たちにもあるべき場所はわかりません。ディクスさんは三つのフォースをお持ちなんですよね」
その言葉にうなずく。
「もしかしたらディクスさんがそのあるべき場所なのかもしれませんし・・・あるいは、そのフォースを手放さなければならない時が来るかもしれません」
「え、絶対ヤダ」
思わず口に出す。セルディアは一瞬驚いた表情をしてそれから笑った。
「すみません、強欲な持ち主で・・・」
ナチが恥ずかしそうにうつむく。
「だって・・・せっかく集めた・・・っていっても、一つは貰い物で、もう一つは預かり物だけど・・・」
「預かり物なんですか。なら大事にしないといけませんね」
「ああ、スティングのやつに顔向けできないからな」
「・・・スティング?」
思わずスティングの名前を出したディクスはものすごく気まずそうな顔をした。ナチはディクスの失態をジト目で見ている。
でもまぁ、スティングなんて名前はどこにでもいるし・・・ばれない、ばれない!
「もしかして、エンドレスの王位第一継承者のことですか?」
しかしその考えは即座に打ち砕かれた。緊張が走る。
「なななな、なんのことかな?俺なんか言ったっけ?」
激しく動揺しながら白々しく言う。非常にわかりやすい性格の持ち主だ。
「フォース所有者のひとりだと聞いたことがあったので。でも、そのフォースがディクスさんの手元にあるなら」
――――― あるべき場所は・・・
それは確信に変わる。白くなっているディクスを真剣なまなざしで見る。
「本当に肝心なところで役に立たないんだから!!――― えーと、わたし、疑問に思ってたんだけど、どうして竜神の神殿を?」
ディクスと同じ質問をぶつける。
「ええ、ディクスさんにもお話したのですが、ディオール大陸の守護神が大陸を破壊したという説を正すためです」
「やっぱりね!竜神がディオール大陸破壊するわけないもんね!ほら、やっぱりわたしの言い分が正しかったじゃないの」
そう言ってまだ白いディクスをつつく。
「ん・・・ええ・・・?ああ、そうだな」
それでようやく色がつく。
「始めはやはり敵視されました・・・けれど、やはり皆さん心のどこかで我々の守護神を信じていたんです。だからこうやって巨大で素晴らしい神殿が出来上がった。それから守護神のことを敵視する人間はほとんどいなくなった・・・得にこの荒野では」
「でも・・・一体誰が竜神の精神を侵したのか・・・」
ディクスが口にする。
「わかりません。でも、我々には守護神がついています。大丈夫ですよ」
「竜神は・・・生きてるの?」
ナチが訊く。
「どうしてこの十三年間、竜神の加護を受けてやってきた大陸が何の影響もなしに今までやってこれたの?子竜も死んでしまったのに・・・」
ずっと疑問に思っていたことだった。
ナチの鋭い質問にセルディアは少し迷っていた。
――――――― 話すべきか、否か・・・
「わたし・・・十三年前のことほとんど覚えていないの。まだ小さかったから。でも、竜神が町を破壊したって聞いたときの事はちゃんと覚えてる。だって、わたし、竜神様はそんなことしない!絶対に違う!・・・って、そう思ったから。根拠はないけど。今もそう。何故だかわからないけど断言していいくらい信じてる」
――――― 二人残ったんだ・・・
ディクスの言葉がよみがえる。竜神が最後に破壊し、そして消息を絶った町の生き残り。いないと思われていた生存者。
・・・ナチュラルさん、あなたは・・・
そんなナチをいとおしく思う。
――――― あの方をこんなに思ってくれている人がいる・・・・
「子竜・・・守護神に仕え、人間との架け橋を保っていた存在・・・」
言いかけ、セルディアはそこで一息つく。
「子竜は生きています」