D.Force The First Chapter
Force-4




三人は夜が明ける前に町を出た。彼らは荒野に続く街道・・・現在は使われていないに等しいが・・・を歩いていた。
薄霧の中、朝日があたりを照らし出し、幻想的な雰囲気をかもし出していた。
さえずる鳥の声が心地よい。
「ねえ、大丈夫?」
ナチがグレースに尋ねた。昨夜グレースはこれも修行のうちだからと言って、宿屋のベランダで寝たのだった。ナチとディクスの部屋は分かれていたが、ナチの部屋にグレースが寝れるスペースは十分にあったにもかかわらずだ。
「大丈夫ですよ!結構涼しかったし、なかなか快適でしたよ」
そんなわけないじゃん。
ディクスとナチが心の中でつっこむ。
・・・しかし、昨日の夜は・・・
ディクスはグレースが誰かと話しているのを目撃していた。それが誰だかわからなかったが・・・
「まあ、本人がいいって言ってるから。でも次、宿に泊まるときはちゃんと部屋で寝るようにな。風邪引くぞ」
ディクスが苦笑しながら言う。それを聞いてグレースが返事をした。
「そういえばディクス。昨日引きずられたときの服の汚れ、結局落ちなかったんだよ!」
ナチが文句を言う。
お気に入りの服を汚され、ナチは怒っているようだ。
「ま、まあ、そういうこともあるって!また新しいやつを買えばいいだろ?」
少し動揺しながらごまかし半分に言った。とはいえ、ナチは納得がいかない様子だ。すると会話を聞いていたグレースが口を挟んだ。
「術を使えば、もしかしたら綺麗になるかもしれませんよ。ナチさん、その服貸してください」
「え?うん、わかった・・・」
三人は立ち止まり、ナチが荷物から汚れの落ちない服を引っ張り出した。
「はい、これ。本当に落ちるかなぁ・・・?」
「大丈夫ですよ。ちょっと貸してもらいますね」
ナチは半信半疑のようだ。術を使って洗濯などしたことなかったのだ。術で水流を作っても、頑固な汚れは落ちそうになかったため、洗いは手でやっていたのだ。
グレースはナチから服を受け取るとそれを空高く放り投げた。それから服に手のひらを向けた。向けた手に神経を集中させる。
「水よ!」
威圧的な声で叫ぶ。するとクリアな水が服を包み込む。オーブのようだ。そのままふわふわと空中を漂う。
「これでどうするの・・・?」
ナチがいぶかしげに尋ねる。すると、グレースが自信ありげな顔を見せた。
「風よ!」
グレースが再び叫んだ。今度は突風が出現し、水のオーブにつっこみ大量の泡となった。そのままものすごい勢いで中の服が回転する。
「ほー、こういう使い方もあるんだな」
ディクスが感心したように言った。
「まだですよ。音よ!」
三度叫ぶと、ヴンッという音とともに水が細かく振動する。
「へぇ・・・すごいわね。でも、なんで音の術を?」
ナチが聞くがグレースは黙ったままだった。
集中してて聞こえないのかな・・・?
しばらくしてグレースが術を封印した。乾いた服がナチの上に落ちてきた。それをキャッチする。
汚れていた場所を確認するが・・・
「落ちてる!あんなにひどかったのに・・・グレース、有難う!」
「お役に立てて光栄です」
にっこり笑った。
「術を三つも同時に操るなんて・・・グレース、術の研究か何かしてたか?」
グレースの術の使い方に興味津々のディクスがたずねる。
"術"とは力の解放のことである。"力"とは精神力や意志力、そして、これらを引き出す集中力の総称。"解放"とは頭の中で考えたイメージを"力"によって具現化することだ。
術を使うときの掛け声は、具現化したいイメージが術者にとって同じようなイメージである言葉ほど威力を発揮する。誰にでも使えるものではあるが、相当の集中力を要し、また修行も必要なのだった。並みの精神力と集中力では術の発動はできない。なのにグレースはいとも簡単に"水""風""音"のイメージを具現化し、同時に発動させたのだ。
「ええ。こういうの結構好きなので。夢中になって研究したんです」
「さっきの術に名前付けてないの?」
「うーん。名前付けるの得意じゃないですし、そのまま普通にイメージタイプの名前言った方が強い力を発揮できますからね」
ナチが訊くとグレースは苦笑した。
「・・・あ、そういや」
何かを思い出したようにディクスがにやにやしながらナチの方を向いた。
「なによ・・・・」
ナチが不審そうな顔をする。ディクスはやはり不敵な笑みを浮かべたままだった。
「昔の話なんだが。炎は"ファイアー"だ。で、水は"ウォーター"だよな」
そこまで言うとナチの顔がみるみる赤面していった。
「や、やめてよ!その話はしないって言ったじゃない!」
叫んだが、ディクスはやめる様子はない。そのまま話を続けた。
「で、それを聞き間違えて、炎を"ウォーター"、水を"ファイアー"って覚えてな。今でも火系統の力を発動するときは"ウォーター"、水系統は"ファイアー"って言い間違えた方が威力が大きいんだよな!」
と言って大笑いした。グレースも笑っている。
プライドを傷つけられたナチ。こぶしを硬く握り締めた。
「う、うるさいわね!!そんなに言うなら・・・」
握りこぶしをディクスに向けるとその手に神経を集中した。
「一発お見舞いしてやろうじゃないの!!」
「え?」
「ファイアー!!」
ディクスに向かって"水滴"が弾丸のように走った!
「うぉあ!!」
バシバシバシッ!
間一髪でのけぞり全弾を避けた・・・が、水滴はディクスの背後の木に命中。着弾したところにそれぞれ一センチほどの深さの穴を作った。ナチの怒りと、彼女の間違った水に対する知識がいつもよりもかなりの威力を発揮したのだ。
「木が・・・」
ディクスが水の術を受けた木を見て呆然とする。グレースも目を丸くしている。
術の威力を確認したところでディクスがゆっくりとナチに首を向ける。
「ほ、本当に打つことないだろ!!」
大声で怒鳴る。ナチは涼しい顔だ。当然の報いよ!っと言ってるようであった。
「見せてあげたのよ。ディクスが言ったことをわざわざ実演して証明したんじゃない」
「だからって・・・」
「まだ見たい?」
ディクスに向けて満面の笑み・・・しかし、どこか不気味な笑みだ。
「ま、まぁ。落ち着いてください!何か役に立つかもしれませんよ」
なんの役に立つというのだ・・・??
ディクスとナチの二人にそんな疑問が浮かんだが、これ以上揉め事を起こしたくなかったため、つっこまなかった。お互い違う形で精神的にダメージを受けていたのだ。
・・・あー、もう。死ぬかと思った。寿命が百年縮んだ・・・
・・・人の失敗笑って!傷ついたんだからね!
「わかったわ。今日はここまでにする。でも、次ははずさないからね」
ナチの目の奥が光ったような気がした。
標的は何ですか?と思わず訊きかけたディクスであったが、その標的が言わずもがなであることに自己嫌悪に陥った。
俺って一体ナチのなんなんだろう・・・・?
ディクスにとって永遠の謎だ。


日中は暑いが、木陰はとても涼しい。木々が生い茂るちょっとしたスペースに三人は腰を落ち着けていた。
「どうやってここを抜けるんですか?」
地図を眺めながらハムをかじっているディクスにグレースが尋ねた。
あれから四時間ほど経過していた。ちょうど時間だからと、休憩がてらに昼食を取っているのだ。
「ああ、今ここなんだが」
言いながら地図を地面に広げ、現在地を指差す。指を走らせ、赤い印がしてある場所で止めた。
「ここを目指してるんだが、あと二日はかかるな」
「え?そんなにかかるの?」
ナチが聞き返す。
「明日中には着くと思ったんだけど。やっぱ徒歩は遅いわね」
「そうですね。馬か何かあるといいんですけど。そうしたら一日で着きますよね」
「だけどいないからなぁ。この道ほとんど誰も使ってないから馬車も通らない。首都から通じてる道なのになんでないんだろうねぇ・・・」
ディクスが不平を言う。
「飛んでいけたらな・・・なんて。そんな高度な術使えないし。あ、でもディクス使えたわね」
ナチがさらりと言う。ところが、その言葉にグレースが過剰反応を示した。
「えええっ!?ディクスさん飛べるんですか!?」
グレースが身を乗り出して言う。相当興奮しているようだった。ディクスは驚いて身を引く。
「あ、ああ・・・」
「す、すごいです!私、その術を使いたくて何年も費やしたけれど結局徒労に終わってしまって。はぁー、本当にすごいです。そんなすごい人が目の前にいるなんて・・・」
グレースが深いため息をついて感嘆したように言う。
「がんばればグレースも使えるようになるよ。自信ないけど」
苦笑しながら言った。
グレースがひとり感激しているのを二人は不思議そうに見る。その視線に気付く。
「あ、なんか舞い上がっちゃって。ごめんなさい。私、風はどうも苦手で。荒馬に乗ってるみたいで上手く操れないんです」
「でも、朝みたいに術の合成が出来れば十分よ。それができれば、バリエーションだって格段に増えるし」
「でも、空は飛んでみたいんですよね。気持ち良さそうですし・・・」
「人間努力次第!極めればその内飛べるって」
テキトーなことを言い、ディクスは地図をたたみ始めた。
「ほら!もう行くぞ。あんまりのんびりしてると予定通りに着かないぞ」
そう言うと先に歩き始める。
「ちょっと待ってよ!」
その場を慌てて片付けると、ナチとグレースがあわてて着いてきた。
「今日の野宿先はここから八キロ先の湖だ。浅い湖で、中心でも底が見えるらしい」
歩きながら簡単に説明する。
「浅い湖・・・巨大な水溜りみたいなものですね」
「そんな湖もあるのね。で、どれくらいの大きさなの?」
「直径二十キロメートル」
『はい?』
それをきいた二人がはもる。思わず歩みも止まってしまった。
「直径二十キロ!?そんなに大きな湖なの!?」
「世界って広いんですね」
二人とも湖の大きさを聞いただけでこんなにも驚いていた。それをていたディクスが深いため息をつく。
「・・・・明日、一日かけてその湖の対岸を目指すんだけど・・・」
『はい!?』
再びはもる。しかし、今度は力のこもったはもり方だった。
「対岸って・・・一体どれくらいよ・・・」
「三十一キロです・・・」
呆然とつぶやくナチにグレースが即座に答える。
「・・・仕方ないだろ。迷うよりましなんだから。それに明日がんばれば屋根つきの家に寝れるから」
「でも長いわね。明日中につくかなー」
「がんばりましょう!つきますよ。多分・・・」
そう、今日の目的地さえまだ先なのだ。
とりあえず、今日の到着だけを考え、三人は再び歩き始めた。


あと一時間もすれば太陽も大地に消えてしまうだろう。そんな夕闇が迫ろうとしているなか、三人はようやく目的地に到着することが出来た。
「着いたー!」
ラストスパートだと、走ってきたナチがここぞとばかりに大声を上げて大きく伸びをした。
目の前に広がる大きな湖。そこに写る太陽が直視できないくらいまぶしい光を放っていた。
「着きましたねー。こんなに歩いたの初めてです」
グレースが言いながらもまだまだ元気なようだった。しかし・・・
「お、お前ら!ちょっとは手伝え!」
ディクスが肩で息をしながら全員の荷物を放り投げた。
「だって、言い出したのも負けたのもディクスよ」
ここまでの道のりの間に、ディクスの提案で、じゃんけんで負けた人が全員分の荷物を責任持って目的地まで持って行く事になったのだ。そして、ディクスは負けたのだった。
「だからって・・・俺、一番年寄りなんだぞ。もう少しくらいいたわってくれたって・・・」
「昨日、自分はまだ若いって言ってたじゃない」
半泣き気味なディクスに向かってナチがあきれた様に言い放った。それでディクスはがっくりと肩を落とす。
「はあ・・・ほら、荷物の紐といて。野宿の準備するぞ」
「はーい」
ナチが元気良く返事をして荷物の紐を解きはじめた。
「すごい・・・」
一方でグレースは湖の美しさに一人感動していた。波一つない湖面が鏡のようにあたりを映している。
「ほんと、綺麗よね」
グレースが湖の美しさに感動しているのをナチが気付く。持っていたシートを広げるとグレースの隣にやってきた。
「わたしねー、この歳になってもずっとディクスにくっついてきたの。なんかもう、ディクスが親みたいなものよね」
苦笑する。グレースは湖面に視線を落としている。
「私はずっと部屋の中でした。出られたとしても家の敷地内だけで。いつも本を見ながら外の世界に思いをはせて。ですが、父が厳しい人だったから頼みにくかったんです。でも、今はここにいれてすごく幸せですよ!今までの生活が信じられません」
嬉しそうに言う。
「もう家には帰らないの?」
「・・・それは・・・でも、その時になったら飛んで帰ります」
そう言うと二人は笑った。
「帰る家があるっていいわね。わたし両親死んじゃったんだ。ほら、十三年前のあれで」
「・・・」
ナチの言葉にグレースは何も言わなかった。
強張った表情のグレースにナチはしまったと言う顔をした。
「あ、ごめんごめん!小さい頃の話だし、ほとんど覚えてないから。ディクスもいるし、グレースもいるし、全然寂しくなんかないよ」
ナチがあわてて手を振りながら謝る。
「これから先は長いんだし、今こんなところでうじうじしたって、仕方ないもん。立ち直りの早さはディクスの教えよ」
「・・・ええ」
「それから、もう仲間なんだし、"さん"付けはやめよう?呼び捨てでも言いし、あだ名でもいいから」
ナチが明るく言ってみせる。グレースはナチの言葉が嬉しかった。
「ありがとう。これからはそうします、ナチ」
「そうそう、そんな感じ!」
二人が湖畔で話しているのを眺めていたディクスが声を上げた。
その声に二人が振り返って負けないくらい大きな声で叫び返した。
「わかったわよー!・・・じゃ、行こうか」
グレースがうなずいて駆け出した。ディクスはしばらくかがんだままでそれからゆっくりと立ち上がった。
「なに作るの?」
ナチが平たい石を抱えているディクスに聞いた。石を地面に置く。
「今日はささみのチーズ焼き」
答えると火の術を発動した。石が目にまぶしい炎に包まれる。
「もしかしてフライパンの代わりですか?」
横からのぞいていたグレースが思いついたように訊いた。
「そう、あたり!フライパンなんて持ち歩けないからな。だからこうやって石を焼いて代わりにしてるんだ」
言いながら三切れのささみを熱くなった石の上に乗せ、こしょうを降りかけた。肉の色がにごってきたところでさらにチーズを上に乗せる。いい香りがあたりに広がる。
「ディクスさん・・・じゃなくて、ディクスは料理が上手なんですね」
やはり、"さん"付けじゃないと変だと思いながらも言葉を続けた。
「まあな。ナチは料理なんかしないし。ずっと二人だったから」
「へえー。小さいころもディクスが作ってたんですね」
「そう言えばそうね。五歳くらいのときにあれがおきたからー。でもそのときにディクスに作ってもらった覚えないけどなぁ。っていうか、ディクスの小さいときの顔とか覚えてない・・・」
ナチが考え込む。それをディクスがじーっと見ている。ナチは「小さいころのディクスの料理してる姿・・・?」とかぶつぶつつぶやいている。
「そんなわけないだろ。記憶がごちゃごちゃしてるんじゃないのか?それに俺は小さいころから身長高かったし、髪形もずっとこれだし、顔だって小さいころからそんなに変わらないだろ」
ナチに背を向けてささみをひっくり返しながら言う。
実際そうだ。今はそうでもないが十五歳くらいの時二十半ばと勘違いされることがしばしばだったのだ。そのおかげで仕事もそこそこつくことも出来たが、実は傷ついていたのだ。最近になって容姿が年齢に・・・いや、年齢が容姿についてきたくらいだ。
「そうですよ、ナチ。多分今のディクスの印象が強いんですよ。だからじゃないですか?」
・・・やっぱ"さん"付けじゃないと変・・・
やや言いにく気にグレースがフォローする。
「そっかぁー。そうかもね。小さい頃だし、写真もないんだからそのときの顔なんて曖昧よね。自分の顔だってよく覚えてないんだもん。でも小さいころのディクスの顔ってどんなだったか・・・ちょっと残念」
「ナチ、皿持ってきてくれるか?」
ディクスが頼むとナチは「うん」っと返事をして荷物の方へ歩いていった。
「よくありますよね。そういうこと。私も何度か・・・ディクス?」
「あ、ああ。よくあるよな。俺も一度あったよ。そのときは本当に恥ずかしくてさ。これが"穴があったら入りたい"っていう心情なんだなって思ったくらいだし。今でも思い出すと恥ずかしいよ」
その内容を是非聞きたかったが、後でナチにこっそり訊こうと思いとどまった。
「お待たせー!はいこれ!」
言って勢いよく皿を差し出す。
「サンキュ!」
受け取るとディクス特製(?)のささみのチーズ焼きを乗せていった。あたりにチーズの香ばしい香りがたちこめる。
とろけるチーズが柔らかいささみに絡まる。シンプルではあるが最高のコラボレーションだ。
「んー、いい香り。いただきまーす」
ナチが箸を手に取り、チーズとささみを上手くはさんで口に運んだ。
「おいしそうですねー。頂きます!」
グレースもほおばる。手が込んでいない割にはおいしすぎる。コショウのほかにも何か自前の香辛料を振りかけていたようだが、それが隠し味なのだろう。高級なソースと絡めるよりも、ディクス特製のささみチーズ焼きのほうが美味しく感じた。
「美味しいですね!これならいいお嫁さんになれますよ」
などと半ば本気でグレースが言った。その言葉にディクスがふきだした。
「あはは、よかったわね、ディクス」
「・・・・俺、男なんだけど」
手の甲で口をぬぐいながら不機嫌そうに言った。
「でも、結婚する・・・っていうならまずは彼女見つけなきゃね」
しれっと言うナチにディクスがジト目で見る。
「あのなぁ・・・」
「もてそうですよね。大丈夫ですよ。きっと結婚できますよ」
「もてるかなぁ・・・??」
ナチが首をかしげるとディクスはものすごく不機嫌な表情を見せた。
なんでこんなこと言われなきゃいけないんだ・・・・!?
デリカシーなさそうだが意外に傷つきやすいのだ。・・・立ち直りも早いが。
人知れず情けなくなったディクスは皿を持ったまま湖に行ってしまった。それをナチがやりすぎたかな。と言う顔で見つめていた。グレースも気付いたようだった。
「ちょっと言い過ぎましたかね」
調子に乗りすぎたかと反省する。ディクスの背中は非常に哀愁が満ちていた。夕焼けのせいもあるかもしれない。
・・・こういうことに関しては本当に子供みたいなんだから・・・
「ふぅ、大丈夫よ。すぐに立ち直るから」
ナチがやれやれと言った様子で立ち上がる。
最後の一切れを口にほうばるとディクスの元に歩いていった。
「ディクス。ごめん・・・言い過ぎた」
珍しく素直に謝るナチに思わず驚いた。うつむき加減のナチに視線を移し、そのまましばらく見ていたが再び湖に戻す。そして皿の上の料理をぱくつく。
「ああ、いいよ。気にしてないからさ」
ちょっとすねてみただけなんだけどな・・・
料理をしっかり味わい、それから立ち上がってナチの肩をぽんと叩く。そして元いた場所に戻ろうとして振り返る。
「料理うまかった?」
ディクスはいつも通りに陽気に訊いてきた。
「・・・うん・・・そんなの当たり前でしょ?だってわたしのお兄ちゃんなんだから!」
笑みを浮かべるとナチは嬉しそうにディクスとグレースの元に駆けて行った。