D.Force The First Chapter
Force-8

素敵な依頼


「さようならスティング。楽しかったわ」
「じゃあな。もう会うこともないだろうけど」
言うとディクスとナチは行ってしまった。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
スティングはあわてて二人の元に駆け寄ろうとするが目の前の地面が陥没した。驚いてしりもちをつく。
「な、なんで・・・・」
体勢を立て直し再び追いかけようと勢いをつけて亀裂を飛び越える。
「うわっ!!」
しかし、スティングの長い足でも届かず、滑り落ち、かろうじて岩に手をかけた。
「はあはあ・・・なんでこんなことに・・・・」
わけもわからず上を見上げる。
「あ・・・」
「いいざまだな、スティング」
ディクスとナチだった。
「これも報いよ」
「報いって・・・・?」
頭をめぐらせるが何も思い浮かばない。一体何故・・・・??
困惑したスティングを、二人は冷たい目で見下ろしていた。その視線にぞっとする。
「くっ・・・」
かろうじて体を支えていた手がわずかにずり落ちる。
・・・もう駄目か・・・・??
「にぶいのね。わたしたちみたいな貧乏一般市民に言ったお言葉はお忘れになったのかしら?殿下」
ナチが嫌味ったらしく言う。
一般市民に言った言葉・・・・?一体・・・ま、まさか!!
「そ、それはもしかしてさっきの・・・・・」
さっきの野盗の一件のことか!?
「ようやくわかったようだな。そうだよ。お前が野盗にいったあの言葉。その報いだ」
まさかとは思っていたが、ディクスから直接原因を聞きさらに驚く。
「そ、そんな!あれは嘘に決まってるじゃないですか!僕が本気で言うと思ったんですか!?」
精一杯叫ぶが二人は不敵な笑みを浮かべたままだった。
「嘘だなんて証拠はないわ」
そう言うとナチは消えてしまった。
「相手が悪かったと諦めてくれ」
そして、ディクスも消える。
「ディクスー!ナチー!!」
大声で叫ぶがもう二人は戻ってこなかった。自力で登るしかないかと腕に力を入れたときだった。
どぉぉぉぉ・・・・
割れ目から低い音が聞こえてきた。その音はだんだん大きくなっているようだ。
「あ・・・しまっ・・・!」
急がなければとあわてる。手を岩の出っ張りにかけるがもろくも崩れてしまった。バランスを崩す。
「うあああああああ!!!!!!」
絶叫をあげながらスティングは暗い岩の裂け目に落ちていった。


「うあああああああ!!!!!!」
絶叫しながらがばっと身を起こす。
「うあああああ!!!」
スティングの叫びに驚いたディクスが同じように絶叫しながら身を起こす。そのまま二人とも肩で息をしていた。
「な、なんだ・・・?どうしたスティング?」
さっき消えたはずのディクスが隣にいた。
「ディ、ディクス・・・どうしてこんなところに・・・?」
スティングは混乱していた。ディクスはそれを不思議そうに見る。眠そうに目をこすった。
「こんなところにって・・・野盗に精神力全開しただろ?それで気絶したお前をここまで運んできたんだ。今の今までずっと寝てたんだぞ」
「・・・え・・・?僕は岩の裂け目に落ちたんじゃ・・・・??」
不思議そうなスティングの表情にディクスも負けないくらい不思議そうな顔をする。
「岩の裂け目?夢じゃないのか。そんなものなかったぞ」
半開きにした目をスティングに向けながら言う。どう見てもさっきのような冷たい目ではなかった。
・・・夢・・・?でも・・・
一つだけ引っかかることがあった。
「ディクス」
「うん?」
スティングが少し緊張したように声をかける。
「怒ってないですか?ほら、あのとき僕が言ったことですが」
「あのとき・・・・ああ、野盗に言ったやつか。貧乏な一般市民がどうだとかいうやつ」
・・・やっぱ覚えてた・・・
少し動揺しながらも平静を装う。
「でも、別に気にしてないよ。俺たちだってあんなことしたんだし・・・おあいこってやつだな」
「本当に!?じゃあもう谷間に落ちた僕を見捨ててどっかに行ったりとかしませんよね!?」
わけのわからんこというスティングにディクスは眠そうに答えた。
「しないよ。そんなこと。・・・それよりもう寝よう」
よかった・・・夢でよかった・・・・
ほっと胸をなでおろす。その様子を見ていたディクスが思いついたように言った。
「あ、そうか。寝すぎでもう寝れないよな・・・夕食っていうか夜食、そこの袋に入ってるから温めて食べるといい。あと風呂も入るようにな。髪の汚れはナチと俺でなんとかがんばったんだがちゃんと洗ってな・・・」
言うとぼすっと枕に顔をうずめた。
「・・・なんだ。夢だったんだ・・・」
嬉しそうにつぶやくとベッドから降りた。そして、二度とあんなことは言うまいと心に決めたのだった。


翌朝のスティングは元気だった。二日は静養しないと駄目だろうと思っていた二人はかなり驚いていた。
「スティング本当に大丈夫なの?」
ナチが心配そうに聞く。
「無理しない方がいいぞ。精神力と体力は比例してるんだから」
だが、スティングはもう大丈夫だと断固言い張った。実際にスティングは驚異的な回復力で復活したのだ。よく寝たからだけではなく、夢が夢であったことに救われたのだった。それを知らない二人は心配してスティングに静養を勧める。
「だから大丈夫ですって。もう力も回復しましたから。ほら」
言って手のひらに小さな炎を一瞬出現させた。
「うーん・・・でも万が一ってことがあるし・・・ディクス、今日もここに泊まりましょ。何かあってからじゃ遅いわ」
「俺もそう思う。スティング、出発は明日にするよ。いいな。外出するなとは言わないがあまり感情的にならないようにな。疲れるぞ」
迷惑をかけてしまったと不本意であったが本当はすごく嬉しかった。あんなことを言った自分にこんなにも気を使ってくれたのだから。
「ありがとうございます」
にっこり笑う。そのスティングにナチがおずおずとやってきた。
「ごめんね、スティング」
「・・・何がです?」
思い当たることがなくて不思議な顔をする。
「あれくらいの事で攻撃術なんか使っちゃって・・・。使い分けが出来ないようじゃ、わたし術者失格ね」
「まさか!そんなことないですよ。でもこれでおあいこじゃないですか。・・・ディクスの受け売りですけど・・・」
言って苦笑いする。
「僕は怒ってなんかいないですよ。むしろ僕のほうが二人に見捨てられるんじゃないかって生きた心地しなかったんですから。それにナチは立派な術者です。もっと自信を持ってください。じゃないと術の威力が落ちますよ」
スティングの言葉にナチがうなずく。
「うん、ありがとう。・・・わたしスティングに負けないくらいがんばるから。絶対術のスペシャリストになるの!」
「そうそうその調子」
その言葉にナチが微笑み返す。
「おーい、支度すんだか?朝ごはん食べに行くぞ」
なにやら話していた二人にディクスが声をかけた。
「今行く!じゃ、行こ!」
ナチがスティングの手を引っ張った。
・・・やっぱ立ち直りが早いって良いことですね・・・
そう思いながらスティングはナチに引っ張られていた。


午後一時過ぎ、二人の若者が喫茶店のテラスでだれていた。
「暑いな・・・・」
「そうですねー。やっぱ今日出発しなくてよかったですねー」
ディクスとスティングだった。朝は気持ちよい気温だったのに昼が近づくにつれてどんどん気温が上がっていった。それに耐えられなかった二人が昼もろくに食べずただだれていたのだ。二人ともまだ完全に体力が回復したわけではなかったようだ。
「ナチ、どこに行ったんでしょうね」
「さあな。あいつは暑さに強いから・・・俺もマント買っておけばよかったな・・・」
「術使っちゃ駄目ですか・・・・?」
「だめ」
だれていた二人は術を使えなかった。ディクスは例え涼しくなるようにイメージを具現化しても、それを体の周りにとどめるようなマントを持っていなかった。だからもったいないと術を使わなかった。一方スティングはマントはあるものの、ディクスに禁止されていた。ちなみにナチは術を使わずとも平気だった。丈夫なのだ。
「暑いな・・・・」
「そうですねー・・・」
その繰り返しだった。それを十回も繰り返したころだった。ナチが帰ってきた。
「ただいまー!いいもの見つけてきたよ・・・って。何やってんの・・・?」
テーブルにつっぷすようにだれている二人を見ていぶかしげに尋ねる。
「暑いんだってば」
「・・・です」
「・・・・確かにここは暑いわよね。わたしは大丈夫だけど」
自慢げに言うが反応はなかった。
「仕方ないなー」
言うとナチは持っていた袋の中からマントを取り出した。それをディクスの首にくくりつける。
「ほら、術使って。涼しくなるから」
ディクスはよろよろ上体を起こす。目を閉じてどうにか神経を集中させる。冷たい風が自分を包み込むイメージ。そのイメージが固まるとそのイメージを具現化した。
「はあー、やっと涼しくなったー」
気持ちよさそうに言う。くくりつけられたマントのせいで地蔵のように見えるが本人は気にしていないようだ。
「ずるいですよー」
スティングが恨めしげにディクスを見た。
「仕方ないだろー。俺だって暑いもん・・・」
「若者がこんなでいいのかしらね」
ナチがつぶやくがこのさい体裁はどうでもいいようだ。
「ところでナチ、いいものってなんですか?」
「え、ああ・・・ここじゃ無理よ。夕方になったら連れて行くから。じゃ、わたし行くね。さっき面白そうなお店見つけたの」
そして行ってしまった。後姿を横目にスティングがゆっくり起き上がる。眩しそうに目をしばしばさせる。
「暑いですね・・・」
「俺は涼しい・・・」
「・・・・置いていかないでください」
スティングはそう言うとまたテーブルにつっぷしてしまった。


あれからまたしばらくしてナチが戻ってきた。そのころには大分涼しくなっていた。ようやくディクスとスティングが動き出す。ナチは連れて行きたいところがあると、二人を引きずるようにして連れて行った。
「ここよ」
ナチが連れて行った先は小さな店だった。これと言って特徴もない。掲げられた看板には"仕事売ります"そう書かれていた。
「ここがどうかしたのか?」
それには答えず、とにかくナチは中に入るように勧めた。煙たいような霞ががった店内。大きなボードにたくさんの紙切れが刺してあった。はっきり言って怪しい。
ナチはその中から一枚の紙切れを取った。
「これよ!」
自慢げに二人に突きつける。それをしげしげと眺める。
「仕事依頼か?・・・『谷の宝物庫からオーブをとってきてください。仕事を請ける方はこちらまで。報酬は宝物庫のオーブ以外の財宝と、仕事を達成すればフォースを差し上げます』って・・・」
ディクスが驚く。
「すごいでしょ?仕事をちゃんと依頼どおりやればフォースが貰えるのよ。しかも、オーブ以外の財宝も!」
ナチが嬉しそうに言う。
「でもこのフォース本物ですかね?実際見てみないとわからないですよ」
「それはもちろん仕事の依頼請けるなら、そのとき見せてもらうわ。ね、ディクスこれなかなかいいんじゃない?」
ナチが訊くがディクスは紙切れをしっかり握って目を釘付けにしていた。
「・・・行くぞ・・・」
「何か言いました?」
ぽつっとつぶやいたディクスにスティングが尋ねる。
「この依頼うけてたとう!この仕事買うよ」
言うとカウンターにいた店主からこの仕事を買った。
「善は急げだ。いまから依頼主のところに行くぞ」
「今から??もう夕方よ。明日にしようよ」
ナチが抗議するがディクスは聞いていないようだった。ディクスは二人を店から引きずり出すと依頼主の家を探し出そうと手当たり次第通行人に訊いて回った。
「猪突猛進なんですね・・・」
「ほんとにもー。こうなると手が付けられないんだから」
二人がぶつぶつ話している。そして二十分も探し回ったところでやっと目的地を見つけた。
「ここみたいだな」
ディクスは満足そうに鼻から息をついた。大きな洋館だった。蔓が家を覆い、どことなく不吉な雰囲気をかもし出していた。
「ここなの・・・?なんか出そうね・・・」
ナチが不安そうに言う。
「そうですね。古そうですし」
ナチもスティングも不安げだったが一人ディクスは活気に満ち溢れていた。昼間とは別人である。
「早く来いよー!」
いつの間にか門をくぐり大きな扉の前でディクスが手を振っていた。仕方ないなという風に二人は追いかけた。そして三人集まると、ディクスは扉をたたいた。
「こんにちはー!仕事の依頼を受けに来たんですけどー!」
大きな声で呼ぶ。しかし反応はなかった。
「すみません、こんにちはー!!仕事の依頼受けに来たんで・・・」
ばんっ!
二回目の呼びかけを皆言い終わる前に、扉がいきなり開いた。目の前にいたディクスはまともに扉にぶつかり、吹っ飛ばされた。
「ディクス!大丈夫!?」
ナチがあわてて駆け寄る。
「いてて・・・」
ディクスは強く打ちつけた腰をさすっている。目の端に涙をためて扉をにらむ。スティングが扉の向こう・・・洋館の中をのぞく。
「ディクス・・・誰もいませんよ・・・」
スティングが静かに言う。その言葉に二人とも息を呑む。
「ま、まさか!そんなわけないじゃない!扉開いたんだから誰かいるわよ!」
ナチが否定するがその表情はこわばっている。一方のディクスは納得がいかないようで、立ち上がると腹いせに扉を思い切り閉めた。
ばんっ!―――――― きゃーっ・・・どかっ・・・
扉の閉まる音とともに何かの叫び声と何かがぶつかる音がした。三人が顔を見合わせる。
「なんですか・・・今の?」
「悲鳴が聞こえたと思うんだけど・・・・」
扉を閉めた張本人は目をまるくしている。
「扉・・・じゃないよなあ。しゃべらないし・・・」
いいながら今度は扉に手をかけ手前に引いた。
がちゃ
扉はすんなりと開いた。恐る恐る中をのぞく。しかし、暗くてよく見えなかった。
「暗くて何も見えないな・・・ナチ、明かり頼む」
「オーケー!」
ナチは光の術で、光の玉を作り出した。それを透明度の高く、紐でくくりつけられた小さい柱状の水晶に移す。
「転送完了。はい、これ。この紐を持ってね」
光のともった水晶を手渡す。ディクスはそれを使い洋館の中を探る。強い光が暗い洋館を照らし出す。
「何か見つかりました?」
「いや・・・よくわからないよ。取り敢えず中に入ってみよう」
言うとさっさと行ってしまった。続いてスティングが入る。
「え!?行くの?待ってよー!」
その後をあわててナチが追いかける。そして二人に追いついたそのときだった。
ぎぃーばたーん!
「扉が!」
まさかの展開にナチが声を上げる。風もないのに勝手にしまった扉。これはもう一つしか考えられない。
「扉を紐で引っ張ったな」
「そんなわけないじゃない!」
「それはないですよ」
ディクスの真剣な意見に二人が同時に突っ込む。
「あのねー、ディクス。今までの展開からしてどうみても・・・ゆ、幽霊の仕業に決まってるじゃない。勝手に開いたりしまったり」
「僕もそう思います・・・一番考えられるパターンです」
あきれたように抗議する。しかし、ディクスは不満そうだった。
「じゃあこれ見てみろよ」
言うと、かがんで何かをつまんで見せた。
「ひ、紐・・・・?」
紐だった。引っ張ると扉に向かってぴんと張る。細いが丈夫そうだった。
「これで引っ張って扉閉めたんだろう。それに開けるときは引っ張ってもどうしようもないから直接扉を開けたんだろうな。多分隠れてたんだろう。だが俺が思い切り扉を閉めたもんだから、俺と同じようにぶつかってふっとんだ。だから、この紐の先に犯人がいたはずだ」
まだ長く続く紐を目で追いながらディクスが言った。
「犯人・・・ですか。ということは近くにいるってことですよね」
「じゃあ、幽霊じゃなくて人間の仕業・・・」
「そういうことになるだろうな・・・」
いいながら紐を手繰り寄せる。やがて紐の先端がたぐりよせられた。
「いないな」
「手、放しちゃったんじゃない?・・・どこかにぶつかったならもしかしたら気絶してるかもよ。もう一つ光の玉をだすわね」
ナチはさっきと同じように水晶に光の玉を移した。
「探してみましょうか。僕はこっちのほうを探します」
手のひらに光の玉を出現させるとスティングは奥へ歩いていった。
「じゃあ俺はあっちを探すよ」
「え!ちょっと待ってよ!・・・・どうしよう。わたしはどこを探せば・・・・」
辺りをきょろきょろする。壁だと思っていたところにドアらしきものが見えた。ドアにしては小さいのだが・・・。
「物置かな?」
手をかけ、手前に引いてみる。
がちゃ。
「あ、開いた」
膝をつき、中を覗き込む。光を奥の方まで照らそうと手を伸ばした。そのときだった。
「!!」
冷たいものがナチの手に触ったのだ。驚いて息を呑む。そろそろと手を引っ込める。
「なに・・・?」
冷たく感じた場所を見てみるがなんともなかった。
「んー?」
もう一度覗き込んだ。本当に何もないのかと目を凝らして中を見回した。すると小さな黒い影が横切った。
「えっ!?」
目を凝らしてよくみる。光を照らしても奥の方はよく見えない。じれったくなったナチはドアの中に半分体をいれて手探りで黒い影の正体を探した。そして・・・
「捕まえた!!!」
ナチが大声を上げた。その声に気付いたディクスとスティングがすっとんできた。
「どうしたナチ!何かあったか!?」
「中に何かあるんですか!?」
ナチはそれには答えずゆっくりと何かを引きずり出した。それはナチの手の中で苦しそうにもがいている。その光景に二人は目を見開いた。
「ナチ、これは・・・・」
「どうしてこんなところに・・・・・・」
「ちょっと、手伝って!」
苦しげに叫ぶとディクスはナチからもぎとった。するとそれはおとなしくなった。ディクスの目をじっと見ている。
「竜だ・・・」
ディクスがかすれた声でつぶやいた。