D.Force The Second Chapter
Force-1

始まりの候補生


私は・・・人間を、大地を、子竜を・・・殺したのか?
この世の愛すべきもの達を――――――
自らこの穢れた手で・・・



エンドレスの首都デルタ
古くから竜神との関わりを持つ歴史ある国
術を主体として発展してきたこの国はある問題を抱えていた
それは科学技術の発達による、術社会の減衰
術という人間だからこそ為しえる術(すべ)の衰退を止めるべく国を挙げての救済が始まった
その一つが学術院
優秀な術者としての証―――― マスターの称号を得る者のためのよりどころ
国が術を求めるものを全面的に支援するというものだ
エンドレスの王立図書館の秘蔵書はもちろん、宮殿内の厳重管理書物の一部も閲覧可能だという
そして、今年から生活的な面の補助も行われることになった
術を求めるものにとってはこれとない場所なのである


その称号を得るべく、二人の若者がその門をたたこうとしていた。
「やっぱり無理よ―――――― っ!!」
「そんなことないって!レベル十までの段階・・・ほら、ナチ!テレパスは使えたよな。見ろよ、レベル六の位置にある。結構いけるじゃないか」
絶叫する少女にパンフレットを見せながら説得している青年。
四ヶ月の旅を経て、再びデルタに戻ってきたディクスとナチだった。
「でも、わたしのテレパス届くときと届かないときあるもん。そんなの認められないわ!」
ディクスのフォローを否定する。
「ディクスはいいかもしれないよ、飛行術・・・これ、レベル九じゃない!わたしが一人置いていかれるのは目に見えてるわ」
ナチが手に持っているパンフレット―――――― マスターの称号を得るための使用可能な術のレベルわけされた目安表だった。
レベル一・力の感知から、レベル十まで、そのレベルの代表となる術の名前が羅列されていた。
「このレベル十とかビーストマスターなんて・・・できるわけないわ・・・」
生き物を精神干渉によって自由自在に扱う高度な技術。それを持つものを一般にビーストマスターという。しかし、この広いエンドレスとはいえ、この技術を持つものはごくごく限られていた。
「だからこれは一例だろ?俺だって見たことないし・・・それにマスター取得可能レベルは八だからあと少しじゃないか」
困ったようにいう。
「それにがんばるって意気込んでただろ・・・」
「がんばるって言ったけど・・・けど、まさかこんなにハイレベルだとは思わなかったの!わたし自信ないよー」
一生ここで研究なんて絶対イヤーーーっ!!
半泣き状態で首を振る。それを見たディクスがますます困惑した表情をする。
「ちゃんと教えてやるから。飛行術扱えるようになりたいって言ってたよな?あれも教えてやるから・・・」
仕方がないという風に肩をすくめて見せる。
前々からナチが隠れて飛行術を試していたのは知っていた、だがあえて教えてこなかった術だった。その理由は危険な術だからだった。
ディクス自身も何度も失敗して生傷が耐えなかった。死に掛けたことだってある。そんな危険をナチにさらすわけにはいかない。だから飛行術は禁止という決まりを作っていたのだった。
「飛行術・・・を?」
ナチの言葉に何度もうなずく。
「学術院に入るならな」
人差し指を立ててナチに突きつける。
「本当に・・・?」
ナチは口からでまかせではないかと訝しげな目でディクスを見る。
「ああ、本当だ」
「・・・・・」
考え込む。しばらくそうして顔を上げた。
ずっと求めていた飛行術が修得できるかもしれない・・・・
「・・・・わかった。それならわたしも学術院に行く。けど、絶対に飛行術教えてよね!」
よしっ、釣れた!!
「その言葉忘れるなよ!」
まんまと策略にはまったナチに、ディクスは一人ほくそえむ。
・・・二人がかりなら膨大な書物も調べ上げられるな。よーっし、あとは登録だけだ!
「・・・で、どうするの?もう行くの?」
「そうだなー。とりあえず寮のほう見ておくか。登録もそっちでやってるみたいだしな」
そう言うと二人はその場を離れ宮殿へ向かった。
宮殿の一角にその寮はあった。
―――― 見えない・・・」
高い塀を見上げてナチがつぶやく。
「・・・・」
宮殿は高い塀に守られ、内部を伺い見る事はできなかった。もちろん寮の様子を見る事はできない。
――――― どこか入り口くらいあるだろ
そう思い、ディクスは塀伝いに歩き探す。そのときだった。掲示板に気づき、立ち止まった。
何か情報が得られるのではないかと見てみることにした。
「あれ?ディクス?」
置き去りにされたナチは辺りを見回す。
どこ行っちゃったんだろう?
ディクスと同じように塀伝いに歩き、掲示板にかじりついているディクスを発見した。
「ディクス!」
ナチに呼ばれディクスは顔を向ける。しかし、その表情は非常に困惑したものだった。
「どうしたの?」
「それがな・・・」
言って掲示板の一角を指差す。
「ん?なになに、『宮内のシェフ募集中。料理経験豊富であれば履歴問わず』・・・って」
「こっちも魅かれるよな〜」
ディクスは考え込むようにして見ている。
・・・ったくこの兄貴はぁぁぁ!!
「何言ってんのよ!目的は宮内の蔵書を探ることでしょう!?だからわたし学術院に行くこと決めたのに、今更目標変更しないでよ」
「わかってるからこうやって悩んでるんじゃないか」
ディクスが文句をいう。このままここに留まらせていたら危険と察知したナチは、ディクスを掲示板からはがすように引っ張っていった。
「惜しかったな・・・」
まだ言っているディクスをナチがにらむ。
「登録・・・登録済ませちゃおう?ほら、そこ」
ナチが指差した先に小さな受付所があった。
「ああ、わかったよ」
まだ未練のあるディクスは重い足を引きずって向かったのだった。
身分証明と、簡易履歴だけの簡単な書類を通した後、二人は宮内の寮の前に向かった。
「適性検査・・・ねぇ。やっぱりあるんだ」
受付で貰ったマニュアルを見ながらナチがつぶやく。
「全面バックアップはやっぱおいしいよな。まさか適性検査で院生を決定なんてな」
と言ってるものの、ディクスは余裕があるようで困っている様子はなかった。
「ねえ、ディクス」
「ん、なんだ?」
「わざと不合格になってシェフになろうなんて考えないでよ」
・・・・・。
ディクスの頬を一筋の汗が流れ落ちるのナチは見逃さなかった。
「わたし一人で学術院行くのイヤだからね」
釘を刺され、ディクスは黙り込んでうなずく。
「適性検査は四日後。それまで院生候補宿舎で待機・・・。そんなに候補生多いのか」
「わたし通るかな・・・」
ナチがつぶやく。
「大丈夫だ。素質はあるし、努力もしてきただろ?暴走さえしなきゃ大丈夫だ」
「うん・・・」
自信なさげなナチを元気付ける。
「じゃあ、移動するか。宿から荷物持ってこよう」
そう言って立ち上がった。


「ここ一週間で院生候補者は十名。いずれも簡易登録を済ませて宿舎で待機しています」
「十人・・・予想以上に多いな」
渡された書類に目を通す。
「喜ばしいことではないですか。スティング様の言っておられる術の衰退も、予想よりも進んでいないようですから。アルバート様のこの案も、このまま上手く行けばスティング様の大きな手助けとなりますし」
「そのうち、宮殿内は院生だらけになるかもな」
彼の従者オリヴィアの言葉にアルバートは苦笑する。
「大丈夫です。ここまでは厳重な警備を敷いていますから。院生とアルバート様たちが会うことはまずありません」
―――― そういうわけじゃないんだが・・・
「適性検査は四日後か。逸材が一人でもいれば、それだけエンドレスの大きな財産になる。期待して待っていることにしよう」


夜。外で夕食を済ませ、宿舎に戻ってきたディクスは、ナチを守るように周囲への目を光らせていた。
それはもうぎらぎらしていて眩しいほどだ。
「まさか雑魚寝だとはな・・・」
ディクスが大きな部屋の端っこで苦々しくつぶやく。
大きすぎるほどの部屋が割り当てられたなとは思った。しかし、雑魚寝だとは予想していなかったらしい。荷物を置いた後、夕食をとるため外へ出、再び帰ってきたとき、部屋に他人がいた事に驚いて声を上げそうになったくらいだったのだ。
「別にそこまでしなくても良いのに・・・」
ナチがつぶやくが、ディクスは聞く耳持たないらしい。相変わらず周囲を気にしている。
部屋にはディクスとナチを含む六人がいた。初老、中年、青年、少年の男性。それぞれ一人ずつだった。
―――――― やっぱり女の子いないよね・・・
予想はしていたが、目の当たりにして少し残念に思ったようだ。小さくため息をつく。
そして、立ち上がった。
「ナチ?」
「ちょっとトイレ!」
少し怒ったように言うと、荷物を飛び越えて部屋の入り口に向かう。
部屋から出ようとした時、ナチがディクスに視線を送った。
――――― 着いて来るな
はっきりとそう伝えていた。
「・・・・・ったく」
息の詰まった部屋からようやく解放されたナチは暗闇で大きく背伸びをした。
「あそこまでしなくていいのに・・・」
ぼそっとつぶやく。
宿舎の隣にある小屋で用を済ませる。しかし、すぐに部屋に戻る気はないのか、しばらく外で暇をつぶしていた。十五分もそうしていただろうか。寒さを感じたナチは部屋に戻ることにした。
がさっ
低木の植え込みで何かが動く音がした。反射的に振り向くが、何も見えない。
―――― 風かな・・・
特に気にも留めず、ドアのノブに手をかけようとしたときだ。
「ええっ!?そうだったのか!?」
ディクスの驚く声が聞こえた。
――――――
不審に思いつつ、ナチが部屋に入る。
「あっ、来た来た!」
部屋の中心に円陣を組むようにして男達が座っている。その中にいたディクスが立ち上がり、ナチを迎えれる。
「これが俺の妹、ナチュラル」
必要最低限の紹介をする。すると「どうも!」「宜しく」といった声が一斉にかかった。さっきまでのぎすぎすした雰囲気はどこへやら、ナチのいない間に打ち解けたらしい。
突然のことでナチはおどおどしている。
「お嬢さんが出て行った後、そっちのにいさんが『あいつ全然わかってない』ってぼやいてね。同じく妹を持つ私が共感して話しかけたのがきっかけで皆仲良くなったんだよ」
中年の男性が笑みを浮かべながら経緯を説明する。
「そ、そうなんですか・・・」
「とはいえ、君達みたいに歳は離れてなかったけどね。今は愛する夫と幸せに暮らしているよ」
少し寂しい笑みを浮かべた。
ディクスに連れられ、ナチが円の中に加わる。
「えーと、こっちから順に、アッシュ、マイン、スレイド、フィルジアだ」
それぞれ紹介していく。
「ボク、アッシュです。出身はエンドレスじゃないんですけど、術者になりたくてここに来ました。宜しくお願いします」
ディクスの隣に座っている十四歳の少年、アッシュが手を差し伸べる。
「私はマイン。実は君達と同じリスタルの出身なんです。今はここデルタに住んでますけどね」
同じように手を差し伸べた。
「オレはスレイドっていうんだ。ここで君みたいに可愛い子にあえて嬉しいよ」
赤い髪を持つスレイドがいう。思いがけない事を言われ、ナチは恥ずかしそうにうつむいた。
「実は俺と同い年なんだってさ」
ナチの肩をたたいてディクスが付け加える。
「フィルジアじゃ。こんな老いぼれでも、マスターを目指すお前さんたちと情熱は変わらんよ」
たっぷりとしたひげをなでながら最後にフィルジアが。
「わたしは、ナチュラル・クロードです。―――― お兄ちゃんとここまで旅をしてきました」
ためらいながらもだが、ひさびさにお兄ちゃんと言うナチにディクスは少し面食らった。
・・・借りてきた猫みたいだな
ナチの様子を見ながら思う。
「ここで仲良くなるのは良いけど、適性検査で通過するのは五人。隣の部屋にも四人いるから今のところ倍率は二倍って所だな。運がよくてもこの中の誰か一人はお別れ・・・だな」
「でもスレイドさん、まだ院生の募集は続きますから大丈夫ですよ。マスターを目指すという志があれば皆一緒になれます」
スレイドが惜しむように言ったのに、アッシュが付け加える。
「私は今回が二回目ですけどね。一ヶ月前に受けたんですけど、緊張してしまって不合格でした」
「ほお。二回目。ということは試験内容をご存知で?」
マインが苦笑しながらいう。それを聞いたフィルジアが試験内容を訊く。
「毎回違うと聞いたのですが、私の時は、今現在自分が持っている術の中で自信を持って扱えるものを見せろっていうのがありまして・・・どうも上手く行かなくて。そこで失敗してしまいました」
「自信もって扱える術・・・かぁ。俺はなんだろう?」
ディクスは腕を組んで考え込んだ。
―――― わたしは炎術か光術かな?炎のほうが得意だけど、扱いやすいのは光・・・なんだよね
「ボクちょっと聞いたんですけど、合格の評価となるのはその人の人間性だと」
「人間性?」
アッシュの言葉にナチが思わず聞き返す。
「ええ、術者には不可欠なものだからということらしいです」
うなずいて答える。
「修得した術を悪用しないようにということかの?」
「じいさんのいうとおりだろうな」
スレイドも同意する。
「とにかく四日後。それまでのお楽しみですね」
ディクスがあくびをかみ殺す。
・・・疲れたんじゃない?
ナチが小声で聞き、ディクスをつつく。
―――― 少しな。お前は?
・・・ちょっと疲れちゃった
苦笑する。
「なあ、俺たち先に休んでも良いか?俺たち昨日ここについたばかりでまだ疲れが取れないんだ」
お互い疲れていることを確認したディクスが他の四人に言う。
「そうか、エルダスから来たって言ってましたね。それならお先にどうぞ」
マインが気にするなというように言った。
「ならわしも寝るとするかな。年寄りは朝が早いからの」
そう言うとフィルジアは先に立って寝床の準備を始めた。それを全員が視線で追う。
「私たちも早めに休んだ方が良いですね。お開きにしましょうか」
「マジかよ!?まだ十一時だぜ?」
時計を確認してスレイドが驚く。
「じゃあ、ボクも寝ますね。皆さん、おやすみなさい」
「あ・・・おい、アッシュ・・・」
しかしスレイドを残し、皆それぞれの場所で準備を始めた。
「ちぇ」
スレイドはしばらくその場にいたが、やがて自分の場所に戻り同じように準備をした。
「ナチ、お前こっちな」
ディクスが壁際の方にナチを寄せる。
「あ、うん・・・ありがと」
少し離れてディクスが横になった。
―――――― あのさ・・」
「ん・・・なんだ?」
小声で話しかけたナチに、ディクスは小さな声で答えた。
「スティングも近くにいるんだよね」
一瞬黙るディクス。
「ああ、いるだろうな」
「・・・・・・会えるかな?」
暗くなった部屋でナチの顔をうかがい知る事はできない。だが、自分の目をしっかり捉えている事はわかった。
距離的にどんなに近くとも、一般市民と王族という身分の差は計り知れないくらい大きい。呼べばすぐに振り向いてくれたスティング。けれど今、どんなに叫んでも声は届かない。
「俺たちが答えを見つければ・・・・な」
ディクスは自分自身に言い聞かせるようにそう答えた。
――――― そうだ・・・スティングに会うためにも、わたしがんばらなきゃ
「うん、そうだよね」
ナチは髪をほどき、薄い毛布にもぐりこんだ。
―――――― 待っててね、スティング
そして、ゆっくりと目を閉じた。


読んでいた本を閉じ、立ち上がる。束ねていた髪を一度ほどき、結いなおそうとしたときだ。
「・・・」
不意に懐かしい声が聞こえたような気がした。手を止め、何気なく窓に目を向ける。
しかし、暗闇には何もなかった。ぽっかりと空間があるだけ。
気のせいか・・・
思いなおし、髪を高い位置に結い上げる。
本を手に取り、棚に戻した。そして隣の資料を引き出す。
【飛空挺航行企画書】
そばの椅子に腰をかけ、しげしげと眺める。しかし、どこか落ち着かない。
首をかしげて資料を閉じると、窓辺に向かう。そして、窓を開けた。
冷たい空気が肌に触れる。いよいよデルタも秋を向かえ、冬になろうとしていた。
――――――
やはり外に何もないことを確認すると窓を閉めた。
時計を見る。十一時を指していた。
まだ就寝には早い時間だと少しためらいながらも、明かりを消す。この宮殿にも電気は通っていた。だが、スティングはそれを敢えて使わず、己の術で光を作っていた。
この光のやわらかさが好きだった。全てを包み込み、照らしてくれる温かい光。
初めて成功した術だった。飛び跳ねて喜んだのを覚えている。
そして、この術を教えてくれたのは――― ・・・・
一瞬悲しげな表情をする。しかし、すぐに振り切るように首を振る。
手を空気を包み込むように形作る。しばし目を閉じ、代わりに淡い光の球体を創り出し、枕元に置いた。
ガウンを脱ぎ、適当なところにかける。
結いなおした髪を再びほどき丁寧に整えられたベッドにもぐりこむ。
―――― 布団にもぐりこんだ瞬間が一番幸せ
そんなことをいった人物がいた。それはそれでそうなのかもしれないと思う。
彼は・・・彼女はどうしているだろうか?探していたものが見つかっただろうか?
寝る前に思いをはせるのが習慣になってしまった。考えてもキリがないとわかっているのに・・・。
それでもよかった。自分もその場にいるような気がしたから。
決して色あせることのないひと夏の思い出はスティングの心に留まり続けるだろう。彼らがその結果を話しに来てくれるまで。
そして、待ち続けるつもりだった。
短くとも仲間として認め合い、行動を共にした時間。再び訪れることを信じて眠りに着いた。



第2話
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