D.Force The Second Chapter
Force-11

子竜の責務


その巨大な翼はライアを魅了した。
――――― 私と同じ翼・・・
暗がりの巨体は見る見るうちに小さくなり、やがてそれは人の形となった。
「セルディア!」
目の前に飛来してきた竜・・・・セルディアにライアは歓喜の声を上げた。
「久しぶりね、ライア。そろそろあなたが寂しがる頃じゃないかと思ってエクセル様に許可をもらって様子を見に来たの」
そう言って手に持っていたものを見せた。
「フォースね」
セルディアがうなずく。
着崩れた服をちゃんと直すとライアに向き直った。
「どう?クロードさんには会えたの?」
「ええ、驚いたけれど会えたわ。あの力はまだ見せてもらっていないけど」
「そう・・・」
セルディアは残念そうにつぶやくとライアに何かを手渡した。
小さくてごつごつしたもの。暗くてよく見えないが、子竜にはそれが何であるか見ずともわかった。
「どうしてこれを?」
手の中にある力の結晶、フォースだった。セルディアが先ほど見せたものとはまた別のもの。
何者かの力によって人間の姿に変えられてしまった子竜は、己の力のみでは竜に戻ることはできなかった。しかし、フォースを使うことで、ある程度の時間戻ることが可能なのだった。
そのフォースをなぜ自分に渡したのか理由がわからなかった。
「帰ってきなさい、ライア・・・いえ、竜神に仕えるものよ」
「!?」
口調をかえ、静かに言い放ったセルディアに驚愕する。
「もう、時が来たのです。私たち竜と、人間に流れる時間は同じでも感じるものはまるで違う。我々は人間社会に長くいすぎたのです」
そう言うセルディアの目は悲しみにくれていた。
「でも・・・たかだか十二年・・・!まだやっていけるわ!現に今なにも問題は起こっていないはずよ!」
突然なことを言い出したセルディアにライアは非難の声を上げる。しかしセルディアは首を振った。
「例え今は何も起きなくても何年か経てば、人間たちにおかしいと思われるのは必至です。どうして我々だけが歳を取らないのか。何も変わらないのか・・・違いますか?」
「・・・・」
「それに我々子竜にはすべきことがあるのです」
「すべき・・・こと?」
ゆっくりとうなずくセルディア。
「もう十三年もこの大地には守護神がいません。今こそ新たな守護神を祭り上げるときなのです」
「そんな!我々のマスターを見捨てるというの!?」
「そう思われても仕方ありません!しかし、仕方がないのです。幸いにもフォースは今五つ見つかっています。後二つを探し出せば全てそろいます。かつての竜神の力が新たな守護神に受け継ぐことができるのですよ!私だってどんなにマスターの復活を待っていることか・・・けれど、もう時間がないのです!何か大きな力がディオール大陸を巻き込もうとしています。我々子竜だけの力ではもう、どうしようもないのです!新たな守護神にこの人化の術を解いてもらい、その力と向かい合わなければならないのです!」
「しかし、私はこの十三年間ずっとマスターの復活を夢見てかなわなかった・・・セルディア、貴方が見せてくれたあの光は間違いなくマスターのものだった!まだ可能性は十二分にあるのでは・・・」
なおも食い下がろうとするライアに今度は強く首を振った。
「私だってそう思いたいのです・・・しかし、これはエクセル様の決定。逆らうことはできません」
「・・・・・・・・」
そこまで言うとセルディアはテラスを飛び越え、宙に身を躍らせた。
「竜神に仕えるものよ。貴方なら今何をすべきかわかっているはず・・・」
悲しげに言うとその場から消えてしまった。
――――― すべき事・・・
「私が今しなければならない事・・・」
ほうけたようにつぶやく。しかし、つぶやいても答えは見つからない。
活を入れるように深呼吸をすると今の彼女の主人の元へ向かった。


「・・・・・・・・・・」
寝ぼけ眼でディクスはブルーフォースが飛び立つ様子を眺めていた。
冷たい風が顔に容赦なく吹き付けるが、眠気には勝てないようだった。
「ん〜!やっぱりブルーフォースってかっこいいわね!はぁぁ、一度でいいから乗ってみたい・・・」
早朝、ディクスをたたき起こしてブルーフォースが見える建物まで引きずってきたナチは歓声を上げた。
「実は僕もまだ乗ったことないんですよね。もし、僕の搭乗許可が下りたその時はディクスとナチを招待しますよ」
隣には警備をかいくぐって自室を抜け出したスティング。
二人ともディクスをほったらかしにしてブルーフォースを眺めている。
「なんで・・・俺が・・・」
ぼやくが二人には聞こえないらしい。
「ねえねえ、スティング。デルタにはあのマインドリンゲージシステムとかいうのはブルーフォースにしかないの?」
「ええ、MLSはあの一機だけです・・・確か。二年位前だったと思うんですが、スカーレットという小型の飛空挺にも搭載されていました。ただ、それがどこにいってしまったのかはわからないんですけど・・・」
「そっかぁ」
残念そうにつぶやく。
「レイルさんが乗ってるんでしょ?アルヴィス行きだっけ」
「そうです。アルヴィスにも飛空挺の発着所を作るという事で、その話し合いだそうです。本当は僕も行かないといけないんですけど・・・」
「え?どうしていかなかったの?大事な話し合いなんじゃ・・・」
「・・・色々あって・・・それに、今はナチたちがいるから良いんです」
そう言って曖昧に笑って見せた。
――――― アルヴィスの三つ子・・・それが彼の最大のネックだったのだ
「ライアさんも一緒かな」
「それが、ライアは急な用事があるとか・・・今日から数日公務を休むことになってるんです」
寝る準備をしようとした所にやってきたのはライアだった。こんな遅い時間にやってくるのは緊急事態以外滅多にない事だ。明日から従者のレイルが出張で、もう一人の従者がいなくなるのはスティングの痛手ではあったが彼女の思いつめた表情を見てスティングは了承したのだった。
「ふーん、じゃあ今、スティングのお付の人って誰もいないの?」
「そうですね。でも今週の予定はたいした仕事もありませんし、平気ですよ」
あまり平気ではないような気もしたが、とりあえず笑ってごまかした。
ごおおおぉぉ・・・・
ブルーフォースのエンジン音が一段と大きくなった。
「いよいよね!」
ブルーフォースは一度にエンジンをふかすとそのまま垂直に上がって行った。ある程度の高さまできて、アルヴィスのある方角に船体を向けると、轟音を立てて飛び去った。ブルーフォースの残した白い軌跡だけがその場に残ったが、しばらくすると風にあおられて消えてしまった。
「無事に離陸できたようですね」
「うん、面白かったぁ。次は着陸の様子を見なきゃね」
すると、顔を突っ伏して動かなかったディクスがこう言った。
「その前に俺がこの発着所を破壊してやる・・・」


数日かけての飛行はさすがに体にこたえたようだ。
目的地のエルダスのすぐ手前で羽をたたみ、人間の姿になるとその場にへたり込んでしまった。
「もともとブレイズロンドは飛行は得意じゃないのよ・・・」
誰にともなくつぶやくとため息をついた。
ブレイズロンドとは炎を操る赤竜の一種。赤竜のなかでも一番の知能の高さと攻撃力を持つが、その巨体は長距離の飛行には向いていない種族だった。彼女自身、今までにこんなに長距離を飛んだのは初めてだ。
それもあって、もう動くのもつらいほど消耗していた。夜であるせいか、周りに人の気配はない。
「・・・ここまで来て野宿ね」
情けなくつぶやくとそばにあったやせた木に背中を預けた。
ばさっ
諦めかけたその時、聞き覚えのある羽ばたきに視線を移す。
「来てくれたのね」
そこには人間の姿のセルディアがいた。
だいぶ消耗しているライアに駆け寄った。
「ええ・・・エクセル様に直接伺おうと思って」
立ち上がりもせず弱弱しく答えた。
「それにしても早かったわね。さすがブレイズロンド」
「エアロガイドに言われたくないわ。馬鹿にして・・・」
面白くなさそうにつぶやく。
エアロガイドとは風をあやつる緑竜の一種。竜の中ではダントツの飛行力を持つものだった。
「その分我々には攻撃力がないわ。それはいいから行きましょう、神殿へ。エクセル様がお待ちよ」
そう言うと再び竜の姿に戻った。しぶしぶながらも人間の姿のライアはセルディアの背中に乗り、神殿へと向かった。
「初めてこの神殿を見るけど、立派ね」
目的地に到着したライアは初めて見る竜神の神殿に感嘆をもらした。
「そうね、いつも私が貴方のところに行ってたから、この神殿を見るのは初めてよね」
長い廊下を歩きながらセルディが返す。
巨大な壁画を見ながらライアはかつての竜神の事を思い巡らす。
大きな祭壇のある部屋まで来た所で二人とも立ち止まった。
「久しぶりだな。赤の子竜、ブレイズロンドのライア」
「お久しぶりです、エクセル様」
数年ぶりに見る子竜のリーダーにライアは深々と頭を下げた。
「セルディアから事は聞いたのだろう?なにやら意見があるようだが」
「はい。私はこれまでマスターの復活を夢見て疑いませんでした。そしてその日まで人間の中に溶け込み、時を過ごすものだと、そう信じていました。エクセル様のおっしゃることもよくわかります。しかし、まだ希望を持っても良いのではないかと思うのです」
懸命に訴える。そんなライアをエクセルは真剣なまなざしで見ていた。
「ライア、君の言うことはもっともだ。しかし、このディオール大陸に今、大きな力が加わろうとしている。それを阻止するのはフォースを受け継いだ新しい守護神しか手がないのだ。いつになるかわからぬマスターの復活に頼っていては大きな痛手を負ってしまう」
「その大きな力とは何ですか?私には何も感じませんが」
「子竜にも気取れられない相当な力の持ち主だ。私も最近になってようやくその存在に気づいた。何が目的なのか、正体は何なのか全くわかっていないが対策は早めにうっておくべきだろう。このディオール大陸はあの方が長きに守ってきた大地。そうやすやすと傷つけられては子竜の名が泣いてしまう」
「それにライア、それが我々のマスターに対する忠義。マスターだってそうする事をお望みのはずよ」
「・・・・」
「安心しなさい、ライア。まだ君が不本意であっても、フォースはまだ全て見つかってはいない。全て集まる前にあの方が復活すればそれは最高に喜ばしいことだ。そうだろう?」
促されうなずく。
・・・確かにフォースが完全に集まらなければ竜神の地位の継承はできない・・・それまでにマスターが復活すれば・・・・?
それでも確信のない不安げな表情を浮かべる。
「長距離の飛行で疲れただろう。奥で休むといい」
ふと表情を和らげ、疲れ気味のライアを気遣う。
「有難うございます・・・」
つられてライアも笑みで返した。
「さあ、ライア、こっちよ。私の部屋にもう一つベッド用意したの」
背中を押され、祭壇を後にした。
「ねえ、セルディア。子竜から次の竜神を選ぶことになると思うんだけど、やっぱりエクセル様がなるのかしら」
ふとした疑問を投げかける。五頭の子竜の中で秀でた力を持つのがエクセルであった。そしてかつての守護神の右腕となって動いていた優秀な竜。
「そうね、私もそう思うわ。そうあって欲しいと思うし」
「でも、エクセル様が竜神となってしまったら子竜に欠員が出てしまうわ。ただでさえあと一人見つかっていないというのに・・・」
――――― あと一人はジュライが必死になって探しているわ。あの子はきっと自分を人間だと信じて生活しているに違いない。エクセル様が私が子竜であることを思い出させてくれる前のように」
そういってゆっくりと目を閉じた。
「子竜候補は見つかったの?どっちにしろ、今のうちに見つけておかないと後が続かないわ」
「大丈夫よ、それはエクセル様が手を打ってあるの。これもジュライにまかせっきりだったんだけど、すでに四頭のセカンダリ・・・子竜の候補を確認済みなの。あとはその四頭を育てればそれでいいわ」
子竜となるためには、セカンダリと呼ばれる子竜の候補になる必要があった。セカンダリは子竜から子竜となるためのさまざまな知識を取り入れ、竜神に仕えるための力をつけるのだ。
「それはいいけど、一体誰が面倒を見るの?私には無理よ、デルタじゃとても・・・それに、このエルダスだって竜をかくまえるようなスペースはないし」
「そこが問題なのよね・・・だからセカンダリの四頭は今ジュライのところに預けているの。でも、彼一人で面倒が見切れるわけないし、困っているのよ。だから・・・」
「だから私たちが人間社会を離れると・・・?」
「・・・・・・そういうこと」
エクセルの突然の人間社会を離れるようにとの要請。その理由の一つはセカンダリの世話のためであった。人間社会に竜がそのまま入り込めるような余裕はない。混乱にもなりかねなかった。
・・・・・・・そういうことだったのね・・・
「ライア・・・確かに貴方には今すぐには離れられない生活があると思うの。でも、貴方は子竜なのよ。お願い、子竜としての責任と誇りを忘れないで」
責任・・・誇り・・・・?
「わかってるわ・・・」
心の中にわだかまりを抱きつつ、ライアは暗がりの外へ目を向けた。


「ジュライ!」
大きな翼をたたみ、フォースの力を封じると、四頭の竜の前で右往左往している人物に声をかけた。
「・・・ライア!?」
突然の声に驚きつつも、満面の笑みを浮かべてライアを抱きとめた。
「久しぶり!セルディアから聞いて立ち寄ってみたの」
「そうか、本当に久しぶりだね。いつもすれ違いだったし・・・俺も何度かデルタには立ち寄ったんだが結局いつも君に会えずじまいでね。会えてよかったよ」
そう言って遠慮がちに体を離すと、後ろの四頭の子竜に目を向けた。
「ライア、これがセカンダリだよ。それぞれ俺たちと同じ種族の竜・・・俺と同じグランドアビスに、セルディアと同じエアロガイド。それにほら、ブレイズロンドだって・・・そしてシルバーヒール・・・」
「まだ、見つからないの・・・?」
ライアは辺りを見渡し、急に表情を暗くしてそう言う。
「ああ、暇があれば探しているんだが・・・時間が経ちすぎたかもしれない。子竜の気が一切感じられないんだ」
残念そうにつぶやく。
彼らが探しているのは五頭目の子竜。十三年前以来行方不明なのだ。暇があれば大陸中、いそうな所をめぐって探してはいたのだが、その所在はいまだつかめなかった。
「ジュライのせいじゃないわ。――――― ごめんなさい。私がデルタにいるから・・・」
「誰のせいでもないさ。それにライア、君はデルタで君の仕事をやっているんだろう?それで十分だ」
笑って答えた。
「それで、セカンダリはどうなの?子竜にはなれそう?」
「んー、能力的には問題ないんだが、俺一人じゃとても教えられないな。フォースを持ってないから竜に戻れないし・・・だからあいつらの言ってることが直にわからないんだよ。もちろんあいつらはまだ不慣れだから完全に人語を解しているわけじゃないし」
困ったように肩をすくめて見せた。
「じゃあ、いつも精神干渉の術で教えているのね」
「そういうことだ。でも、今度はこっちが長続きしないから本当に毎日大変さ」
四頭のセカンダリは初めて見るもう一頭の子竜、ライアを興味深げに眺めていた。もし、彼女が竜の姿であれば、その四頭が何を思っているか感じ取ることができるだろう。しかし、人間の身の今は、何も感じることはできなかった。
「ねえ、ジュライ。今彼らに教えているのは人語と、人とどう関りあっていくかでしょう?」
「あと、それぞれの得意分野の術な。俺、炎術ものすごく苦手なんだけど・・・」
「だったら、子竜じゃなくても人語が使えて、なおかつ人間のことよく知ってて、精神干渉の術が使えれば誰でもいいってこと?」
「まあ、そうかな・・・?」
その返事を聞くと、ライアはしばらく下を向いて何事かを考え始めた。
「ジュライ、デルタの人間の優秀な術者たちに、このセカンダリを預けてみない?」
「ええっ!?預けるって人間に?しかも、大都市のデルタだぞ!?」
唐突な事を言い出したライアにジュライは素っ頓狂な声を上げた。
「わかってるわ。でも、いい方法だと思うの。私はデルタの王子と、そばにいる優秀な術者に頼むつもり。信頼は置けるわ」
「しかし・・・王子って、スティング様のことだろう?了解してくれるかどうか・・・」
「その分私が王子の分のサポートをすればいいのよ。子竜の私が一目置く術者よ、大丈夫!」
自身ありげに答えたが、ジュライはまだ不安そうな表情だ。
「それに、私が候補に上げている優秀な術者にはフォースを行使できる人間もいるわ」
「フォースの力を行使・・・まさかセルディアが見せてくれたあの人間のことか?」
今度は驚きの表情を見せたジュライに、ライアはゆっくりとうなずいた。
「彼は今、デルタの院生としてとどまっているの。私たちでは感じ取れない何かを、あの子達ならわかるかもしれないわ」
「・・・・・・・・・」
腕を組み、黙り込むジュライ。ライアは四頭の竜に手を伸ばして話しかけた。
「貴方たちもこんな狭いところで暮らすより、もっと大きな、そして人間のたくさんいるところで暮らしたほうが楽しいでしょう?もっと人間の事が好きになるわ」
語りかけると、四頭のセカンダリはお互いに顔を見合わせた。彼らなりに色々話し合っているようだ。
「それにジュライ、この子達を預ければ、シルバーヒールのあの子を探す手間が十分とれるわ。あの子は貴方の事を待っているはずよ」
「・・・もうしばらく考えさせてくれ」
つぶやくようにそう言った。




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