D.Force The Second Chapter
Force-12

セカンダリ


「四頭の子竜の候補をデルタへ?」
「ええ、そういう事です」
暖かな昼下がり。ひと時の休みを満喫していたスティングが、ライアに信じられないというような視線を向けている。
「・・・でも、本当に大丈夫なのか?確かにこの宮内にはそれだけのスペースはあるが、その世話となると・・・」
「その点はご心配ありません。竜は食いだめをすることもできます。それに術による精神干渉によって制することもできます。ご安心ください。王子のような立派な術者なら竜さえも操ることができるでしょう」
当たり前だとでも言うようなライアの言葉にスティングは困惑した。竜はモンスターに属し、高い知能を持つ。さらに強大な力も持った、まさに最強とも言える種族なのだ。
それを操るなどとは一体どういうことなのか。
「・・・・・・ちょっと待て、その操るって・・・」
「私は王子が竜を世話するのに一番適していると思うのです」
笑みを浮かべて自信ありげに答える。
「ぼっ、僕が!?いくらなんでも無理があるだろう?」
いきなりでまさかの展開にスティングは悲鳴を上げた。思わず、座っていた椅子から腰を浮かせて反論するが、ライアは相変わらず笑みを浮かべたまま首を振った。
「ええ、それはもちろん四頭全てを一人では無理ですから、誰か術力のあるものを王子が推薦してください」
――――――― そんな事言われても・・・
犬や猫ならいざ知らず。竜を手元に置きたがるような人間が果たしているのだろうか・・・?
自分だってそうだ。竜を育てるなんてできるのか?
「一週間後、エルダスの神官が一緒に来ます。詳しい説明はそこでしましょう」
スティングはなにやら言い返そうとするが、ライアはその前に一方的に話しを切って部屋を出て行ってしまった。
まだ驚きの表情を張り付かせていたスティングはため息をつくとようやく椅子に腰をかけた。
・・・子竜の候補・・・か・・・
困惑の表情を窓の外に向け、スティングは心の中でつぶやいた。


一週間などすぐに過ぎてしまった。
直前まですっかり忘れていたが、ライアに意見され、スティングは約束どおりエルダスの神官と会うことになった。
「初めまして、スティング様。私はエルダスの神官、ジュライです」
白い衣装を身にまとったジュライが一礼する。
「初めまして、僕はスティングです」
「ではジュライ、ご説明を」
ライアに促され、ジュライは説明を始めた。
「竜神に仕えるものに、子竜という存在があります。しかし、子竜となるには相応の教育が必要なのです。子竜の候補をわたし達はセカンダリと呼んでいます。本来ならば、その教育は人間ではなく子竜が行うものなのですが・・・」
「では、なぜそのような大役を人間に?」
「はい、現在残っている子竜にその余裕がないためです」
余裕が・・・ない・・・?
「ちょっと待って下さい。余裕がないというのは子竜から直接聞いた話なのですか?」
スティングは困惑した表情だ。
子竜はジュライたちと通じているのか・・・?
「エルダスの神殿は、竜神を祭っている所ですから。現在の子竜は起こりうる大きな力に対抗するための準備をしています。そして、本来ならばセカンダリの教育はもっと先なのですが、万が一のことを考えて今から育て上げると」
ジュライの言っている事は本当だった。未知の力に対抗して全ての子竜がいなくなってしまったら・・・?それを恐れ、緊急にセカンダリを見つけ出したのは事実だった。
―――――― 大きな力・・・ネルディアスの竜神が絡んでいることか?
そう思ったが、あえて口には出さなかった。
「しかし、セカンダリを育てるのには優秀な術者が必要です。そのメッカとも言われるこのデルタの王子にお頼みしたいのです」
・・・術者のメッカ・・・
術者の減退しているエンドレスではあったが、優秀な術者が多いことは確かだ。
「是非協力したい所なのですが、果たして手に負えるかどうか・・・竜の育て方を知っているものなどいませんし」
「それならお任せください。これから一週間は私がサポートしますし、それ以後もライアが手助けをしてくれます。セカンダリについてはライアによく教えておきましたので」
「王子、まかなえない分は私がやります。竜と過ごすなんてこんなに滅多なことありませんし・・・私からもお願いします」
要はセカンダリに接し、術を教えてやればそれで良い・・・
それだけなら簡単そうに感じる。ライアもサポートしてくれるという。さらに、竜と過ごすなんて一生に一度あるかないかのチャンスだ。
しばらく考え込むように腕を組んでいたが、スティングは意を決したように顔を上げた。
―――――― わかりました。僕も興味があります。上のほうに断ってから正式に決めましょう。それで構いませんか?」
「はい、有難うございます!」
そう、再びジュライは深々と頭を下げたのだ。
それからの手続きは全てライアがこなしてくれた。驚くほどスムースに事は進み、そしていよいよそのセカンダリと対面する時がやってきた。
今、目の前には巨大な竜が四頭。
「どうしよう・・・?」
呆然と目の前の巨体に顔を上げた。四頭の竜は落ち着かないのか、辺りを観察するようにきょろきょろしている。
エルダスの神官が言うには、術によってある程度竜との意思疎通ができるという事だ。さらにこの四頭の竜は他の竜と違い、その能力がずば抜けて高い。子竜となるには将来的に足る竜ということで子竜の候補―――――― セカンダリという呼び方をしているのだという。
術で意思疎通が本当にできるのだろうか?
見上げるほどの竜に触れようと手を伸ばす。その動作に気づいた一頭の竜がスティングの手に自分の口を当てた。
「!」
その瞬間、今までに感じたことのない気の流れに気が遠くなった。引っ込めるように竜から手を放すと、よろけながら額を手で押さえる。
「今の・・・」
竜の強い思念は人間の比ではなかった。自分が飲み込まれそうな感覚に寒気さえ覚えた。
特にスティングのような優秀な術者はそれを手に取るように感じたはずだ。優れた術者ほど、相手の思いを強く感じる事ができるのだから。
そしてその竜の思い―――――――
「怖い・・・のか?」
恐る恐る口にした。するとその言葉に反応するように四頭の全ての竜は顔をスティングに近づけた。まるでその不安を取り除いてもらうように。
次は気おされないように気を落ち着かせてから一頭の顔に両手で触れた。しかし―――――――
「あれ・・・」
先ほどのように強い気が流れては来なかった。逆に感じたのは心地よいまでの癒し。
意思疎通ができるって、もしかして・・・
竜はとても繊細で、そして知能の高い生き物。一頭がスティングに触れたと同時に感じ取ったスティングの不安の原因が自分にあると判断し、それを竜独自の術で他の仲間に伝えたのだろう。
さらに、竜から感じた強い思念に恐怖を覚えたスティングの気を感じ、それを和らげようと癒しの気をスティングに送った・・・
―――――― こういうことか
「なんだか・・・不安を取ってやるのは僕のほうなのに逆に迷惑かけたみたいだな」
そう言って苦笑する。すると別の竜が顔を摺り寄せてきた。
今度は触れても何も感じない。無理に術を使って意思の疎通を行おうとはしないようだ。
・・・セカンダリといわれる所以か・・・
その頭をなでてやると竜は気持ち良さそうに目を閉じた。他の竜もそれを求めるように首を伸ばす。
しかし、その全てをスティング一人が負えるわけもなく、あたふたした。
「やっぱり僕独りじゃ無理だ!」
悲鳴を上げると竜たちから一歩身を引いた。
「今からお前達の主人を連れてくるからここでおとなしく待っているようにね。すぐに戻ってくるから!」
早口でそう言うとすぐに走り去ってしまった。普通の竜ならすぐに何かやらかしてくれるだろうが、ここはさすがにセカンダリの竜。完全に人語を解さずとも、スティングの焦りと願いを感じ取り、四頭仲良くその場に身を伏せた。


―――――― 竜だよなぁ・・・あれ」
スティングに会いに行こうと思っていたディクスは、途中で巨大なうずくまりを発見してそれを遠くから凝視していた。始めは大きな岩かと思った。しかし広大な芝生にそんなものは合わない。というより、あまりにも不自然だ。
・・・微妙に動いてるし・・・・・・
スティングが術で竜を創り出したのかとも思ったが、彼でも同時に四頭も作り上げる事は不可能だろう。しかもそのスティングがそばにいる様子はない。遠隔操作は余計に無理だろう。
「・・・・・・・」
目的も忘れて一歩ずつゆっくりと近づいていく。その正体はいよいよはっきりしてきた。
「やっぱ竜だ」
目の前には竜の大きな背中と尾がある。
その硬そうな体に手のひらをぺたっと乗せた。するとそれをすぐに感じたのか触れられた竜が首を掲げディクスに向けた。
ディクスと視線がぶつかり・・・そのままどちらも固まってしまった。それに気づいたほかの竜もディクスを物珍しそうに見ている。
「何でこんな所に飛来したんだ?こんな所にいても何もないぞ」
相変わらず手を乗せたままそう言った。ディクスも四頭が暴れだしたらヤバイと思っているのか緊張気味だ。
すると手を通して伝わる思い。予想外のことにディクスは目を見開いた。
「お前ら精神干渉の術が使えるのか!?」
自分の呼びかけに、術を通して答えてきた竜にかなり驚いているようだった。
「・・・って、お前らに主人がいるのか?こんなところに・・・四頭も置き去りにするなんて」
すると竜は首をかしげた。
・・・・・・竜もある程度は術が使えるとは聞いていたが・・・まさかこんな高等な術を使ってくるなんてな
別の一頭が首をディクスの腰辺りに近づけた。何か気になるものがあるらしい。
「なんだ?餌になるようなものは何も無いぞ・・・って・・・フォースか?」
ポケットに手を突っ込み、フォースを入れていたのを思い出す。手にとって見せると竜たちはいっせいにその手に顔を近づけた。
「お前達の本当の主人の力のかけらだよ。・・・何か感じるか?」
問いかけるがさっきのように返事はなかった。ただ四頭ともそのフォースをじっと見つめていた。しばらくそうしていたが、きりがないと思ったのかディクスはフォースをしまった。その様子さえも竜たちは真剣に見ていた。
「俺がフォースを持っているのは俺がこれを行使できるから。集めればその理由が分かるんじゃないかって思ってるんだ。安心しろ、別に悪い事に使おうとか思ってないから」
困ったように言うと、四頭は納得したのかようやく首を掲げた。
「それにしても見事に四色揃ったなー」
顔をめぐらせて言う。
「赤、緑、白に青・・・種類は分からないけど緑にはエアロガイド、赤はブレイズロンド・・・そして白がシルバーヒール。青はグランドアビス・・・・・・だったよな。」
ディクスがほうけて見ていると、一頭が大きなあくびをした。その口には立派な牙がずらりと並んでいた。
―――――― 食われたら痛いな、きっと
その様子を見て背筋が寒くなる。
この場を離れたいところだったが、万が一の事を考えるとどうしても離れるわけにはいかなかった。
・・・まあ、別に急ぎの用事もないし・・・
軽くため息をつくと、竜たちにちょっかいを出しはじめた。


「ナチ、ここにいましたか」
相変わらず書庫で本をあさっているナチを見つけると、力が抜けたように壁にもたれかかった。
「あれ?今日は何か用事があったんじゃないの?それに、どうしたの、そんなに疲れた顔して」
手に持っていた本を戻すと、スティングのところに歩み寄った。
「ええ、実は頼みごとがあるんですけど・・・ディクスはどこですか」
憔悴した様子で辺りを見回す。
「ああ、ディクスならスティングのところに行くとかって十分くらい前にここを出たわよ。会わなかった?」
・・・すれ違いましたか・・・
――――― そうですか・・・。ナチも一緒に来てくれますか?ものすごく重要な話があるんです」
真剣な・・・しかし、困惑している表情を隠せないスティングにナチは不思議そうな顔をした。
そして促されるままスティングの後をついて行き・・・絶句した。
「何・・・あれ・・・」
ナチとスティングの目の前には半身をくわえられ、必死に抜け出そうとしているディクスだった。
「ディクス・・・一体何やってるんですか」
スティングも呆れ顔だ。スティングがディクスをくわえている竜の目の前に立つと、その竜は口を大きく開けた。
どさっ
それと同時にディクスが地面にたたきつけられた。
「いってぇ〜・・・」
「ディクス、なんでくわえられたのよ。何かいたずらしたでしょー」
「違う!ほかの竜の背中に乗ろうと思ったら足が滑って・・・で、そこの竜にくわえられたんだ!!」
わめくように言う。しかし、くわえていた竜、グランドアビスは知らん振りだ。
・・・くっそ〜!!
「スティング、頼みごとって何?もしかしてこの竜に関すること?」
ナチがスティングの用事を思い出し、問いかけた。
「言っとくけど、俺はそこの竜のお守りはしないからな」
ディクスが憮然という。
「・・・・・・白銀の世界のこと覚えてますか?」
スティングがそんなことを口にした。
「白銀の世界って・・・ネルディアスの竜神の子竜がディクスに接触してきたってやつ?」
ナチが言うとスティングは黙ってうなずいた。
「あの時、竜神はディクスの力を欲していると言っていましたよね。恐らくそれが関係するのではないかと思うのですが・・・」
「なあ、スティング。前置きはいいから要件だけ話してくれないか」
何が言いたいのかわからず、スティングを急かす。
「わかりました。ディオール大陸の子竜たちは、これから起こり得る大きな力に対抗すべく準備を進めているということです」
「子竜が・・・?ディオール大陸の?」
「もし現在の子竜に何かがあった時のために、その埋め合わせとしてセカンダリ・・・つまり、子竜の候補を育て上げようとしているらしいんです。そしてこの四頭がそのセカンダリです。そのセカンダリを育てる大役に僕たちが選ばれたんです」
――――― というか、僕が二人を選びました。
スティングは心の中で付け加えた。
スティングが以前ライアに反応したようにディクスも素っ頓狂な声を上げて驚いた。
「はっ!?セカンダリを育てるって・・・この竜をかぁ!?」
四頭を指差す。セカンダリたちはディクスたちの状況を分かっていないのか、あくびをしたりマイペースだ。
「い、いや・・・それよりも!その、大きな力っていうのがネルディアスの竜神に関係しているんじゃないかってことを言いたいんだろ?」
「ええ、そっちのほうが重要だと思ったので・・・。ディクス、これから何があるかわかりません。気をつけてください」
どんな困難が訪れようとも、どうかあなた自身を見失わないで・・・
不意にネルディアスの竜神の言葉が蘇る。
「・・・ああ、わかってるよ。大丈夫だ」
「で、スティング。この竜をどうやって育てるの?四頭も・・・」
ナチが竜を見上げるように言う。
手を伸ばしてなでようとするが、頭を低くしてもらわないと到底届くはずがなかった。
「とりあえず、僕たち三人で三頭の世話をして・・・あともう一頭は別の術者に預けます」
「どの竜でも選んでいいのか?」
「ええ、そうしてください」
それから一時間が経過した。
特にもめることなく三人のお気に入りの竜が決定したようだ。
「じゃあ、ディクスがブレイズロンドで、ナチがエアロガイド・・・そして僕がグランドアビスですね」
それぞれの竜の前に、三人が立つ。その様子をシルバーヒールは悲しそうな目で見ていた。
「二人は名前決めた?」
「ええ、取りあえず。ディクスは何か良い名前思いつきました?」
訊かれるとディクスは自信たっぷりな表情をした。
「ディクス二号」
「かわいそうに・・・縁起でもないわ」
そして自信たっぷりに言ったディクスに、ナチはそう間髪いれずにつっこんだのだ。
――――― かわいそうって何だよ。失礼なやつだな。俺だって二号とかそんな名前付けるほどセンス悪くないよ」
縁起でもないといわれたのがショックだったのか二人に背を向け、肩を落としてそう答えた。
「じゃあ、なんてつけるんですか?」
「レクサス、特に意味なし」
いたって普通な名前に二人は驚いたが、あえて表には出さなかった。
「僕は水の竜なので、アクア・・・・アクオスにします。ナチは?」
「うーんとね、風をもたらしてくれそうだからセフィーロかな。仲良くなったら背中に乗っけてもらおうっと」
のけ者にされたと思ったのだろう、シルバーヒールはスティングのそばに寄ると、鼻でつついた。
「大丈夫、後でちゃんと新しい主人のところに連れて行ってあげるから」
なでながらそう言ってたしなめた。
「スティング、この子達のねぐらってどこ?わたしたちが今いる院の寮じゃ絶対無理よ、狭いもん」
「その前に連れて帰ったらパニックになるだろうけどな。まさかこんなところに竜がいるなんて」
狭い以前に、家に入ろうとした時点で体がドアに入らないだろう。当然だが竜の体の大きさは人間の比ではない。
「僕のいる館のすぐ近くに、今は使われていない屋敷みたいなものがあるんです。竜が入れるくらいの大きな扉ですし、使われてはいないとは言っても、ちゃんと掃除してありますから大丈夫です」
スティングは竜たちの寝床にめぼしをつけていたようだ。
今は使われていない、大きな屋敷はどうかと提案する。
「竜は玄関で寝るの?」
「それしかないですね・・・。玄関ホールは広いから三頭なら十分寝れますよ」
四頭はやはり退屈しているのか、大きな羽をばたつかせたり大きく伸びをしたりしている。ディクスが選んだブレイズロンドのレクサスは地面にうずくまって今にも寝そうな表情をしていた。
「おーい、レクサス寝るなよー」
それに気づいたディクスがレクサスを小突いた。
「取りあえず館のほうに行きましょうか」
三人が動くと、それにあわせるようにセカンダリの四頭も立ち上がってついて行った。


「あー、なんとか・・・三頭なら十分だな」
今日から彼らのねぐらとなる大きな館にレクサス、セフィーロ、アクオスの三頭を押し込んだディクスがほっとしたように言った。
大き目のホールだが、竜三頭ではぎりぎりだ。扉をくぐるのでさえぎりぎりだったのだから仕方がない。
「なんだかシルバーヒールが可愛そう・・・」
一頭だけ外で待っているシルバーヒールがやけに悲しそうに見えた。大きな扉の前に立ち、入るべきか、入らざるべきか迷っているようだ。
「シルバーヒールはエリオスに預けます。エリオスは僕よりも優秀ですから立派にやってくれますよ」
つぶやいたナチにスティングがそう言った。
「そっかぁ、シルバーヒールはエリオスさんに預けるのね」
スティングにナチが納得する。
「なあ、スティング。俺達の寮はずいぶん離れてるんだが、こいつらの世話するのにいつもここに来ないといけないのか?」
「・・・出来るだけセカンダリのそばにいてあげて欲しいんですけど・・・」
スティングが屋敷の中を見回す。
一階のほとんどは二階へ続くための大きなフロアーになっていた。二階には会議室が一室と、客室が三室。そして、テラスへ続く大きな扉があった。
「よかったらこの館で寝泊りしたらどうですか?部屋はたくさんありますし、もちろん寮の台所よりも広いですよ。ほかに使う人もいませんし・・・」
「台所が広い・・・・・・・・!!」
スティングの言葉の一つに、ディクスが過剰反応する。
「え、ええ・・・生活に困らないような設備はちゃんとありますから」
苦笑しながら言う。
「でも、ディクス。院生はあの寮で寝泊りするのが原則でしょう?勝手にこっちに移ったら怒られるわよ」
「それは安心してください。学術院の総指揮は兄が行っています。僕のほうから断っておきますよ」
さすがロイヤルだと、ナチが心の中で感心する。
「そういうわけだ、ナチ!お前だって風呂が共同だから面倒だとか色々文句言ってただろ?ここだったらいつでも好きな時に入れるぞ。それに、一流シェフの惜しみない食事がこれまで以上に味わえるんだから、もう、断る理由なんてないよな!」
一流シェフなどと自称したディクスがナチに指を突きつけながら言った。
もう、言っても聞かないんだろうな・・・
「オーケー、わかったわ。ディクスの好きにして」
嘆息すると、仕方がないというように了解した。
「よーっし!それじゃあ、さっそく荷物移動するか!スティング、お前も手伝え」
「えっ、僕もですか?」
「当たり前だろ?竜の世話をしろって言ったのお前だし、それくらい手伝って罰は当たらないよ」
言ったディクスにスティングはやや怪訝そうだったが、おとなしく着いていくしか他なかった。



第11話 第13話
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