D.Force The Second Chapter
Force-13
一つ屋根の下で
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「王子はあのクロードさんたちにセカンダリを預けられたそうよ」 夕暮れのテラスでライアが紅茶を飲みながらジュライに語りかけた。 「ああ、それなら安心して探せるな。何も問題が起きなければ良いけど」 不安そうなジュライにライアはくすっと笑った。 「・・・・・・何かおかしい事言った?」 「ううん、違うの。何かジュライまるでセカンダリの母親みたいな心境なんだもの。おかしくなっちゃって」 「そりゃあ、俺が苦労して探し出した候補だし。それなりに感情移入するのは仕方ないだろう?本来ならあいつらのそばにずっとついていてやりたいし・・・けど、俺はあいつを探してやらなきゃいけないから」 そういうとジュライは手に持っているティーカップに視線を落とす。 夕日に照らされ、中の紅茶はきらきらとジュライの顔を照らした。 「明日そのクロード兄妹と、スティング様、エリオス様にセカンダリの育て方をお教えすればいいんだろう?」 「ええ、そうよ。基本的に竜は何でも食べるし、あの子達なら滅多に暴れることもないだろうし・・・できるだけ術を見せたり話しかけたりするようにって頼めばいいと思うわ。万が一病気とか何かトラブルが起きた場合は私が対処します」 「そうか。・・・まあ、俺にとって一番大事なことはあいつらをどれだけ大切にするか・・・なんだけど。大丈夫だよな」 同意を求めるようにライアに目を向けると彼女は確信を持ってうなずいた。 それを受け止めるようにジュライも軽くうなずくと沈みかけている夕日に目をやった。 クウゥゥゥゥ――――――― ッ 「だーっ!わかったよ!起きればいいんだろ、起きれば!!」 ばさっ 階下のロビーで激しく鳴いている竜に観念したのか、ディクスはベッドから飛び降りると彼らの元にどたどたと走って行った。 すると、待っていましたといわんばかりに三頭の竜はいっせいにディクスに顔を向けた。ディクスの選んだ竜、火竜のレクサスは甘えるようにディクスに顔を近づける。 恥ずかしいとは思いつつも、腕で抱くようにしてからなでてやる。嬉しかったのかレクサスは声を上げた。 他の二頭もうらやましそうに見ているが、ディクスが主人でないことを分かっているのか、なでてもらおうとは考えていないようだ。 ディクスを咥えたグランドアビスは知らん振りだ。 ・・・・・・可愛くないやつ・・・ 「・・・・・・ナチを起してくるよ。静かに待ってな」 あくび混じりに言うと、ゆっくりと階段を上がってナチの部屋を開けた。 ナチはセカンダリの鳴き声にも気づかずぐっすりと眠っているようだ。机上の時計に目をやると四時を指していた。 ――――― まだ四時か・・・どうりで暗いわけだ 軽くため息をつくと、ナチが寝ているベッドに近寄った。 気持ち良さそうに寝てる顔見ると腹立つ・・・・・・ 「ナチ、起きろ。お前の竜が待ってるぞ」 「うるさい」 即答された。 「――――――― 起きてるんなら下降りて竜の世話してやれよ。さっきから呼んでるぞ」 額に青筋を浮かべつつ、冷静に言う。 「・・・・・・・・」 「おい、ナチ」 反応しないナチの肩をゆすると、彼女はたまらないというように勢いよく起き上がった。 「わたしはちゃんと世話してるわよ!昨日だって夜遅くまで一緒にいて・・・寝たの二時過ぎなんだから!」 かなり怒った様子で言う。 「それに、寝ようと思ったけど、あの子たちクウクウ鳴くからなかなか寝付けなくて・・・ようやく寝れたと思ったら、今度はディクスが邪魔するんだもん!」 「し、仕方ないだろ?俺、そんなこと知らなかったんだし・・・」 「最初はセフィーロだけ相手にしてたんだけど、スティングのアクオスとかディクスのレクサスがすごく悲しそうなんだもん。だから平等に・・・って思って・・・」 三頭同時に相手していたせいで寝る時間が遅くなってしまったらしい。文句を言いつつもかなり眠そうだった。 「・・・・・・そうだったのか・・・悪かったな。それにしても竜ってそんなに寂しがりやな生き物だったのか」 「わたしも正直驚いたわ。はっきりわかったもん、寂しがってるの。他の動物と違って術でそれが直に分かるから可哀想で・・・本当はずっとそばにいてあげたかったんだけど、どうしても眠くなったから・・・」 「わかったよ。あの三頭のことは俺に任せて、お前は昼まで寝てるといい。昨日だってずっと本に目を通してたから疲れてるだろ?」 ナチは少し驚いたような表情をしたが、ディクスの顔を見てうなずいた。 「スティングのアクオスには嫌われてるみたいだけど・・・まあ、なんとかなるだろ。外に連れ出して術をたくさん見せてやるよ」 「―――――― うん、有難う・・・皆のことお願いね」 そういうとナチは再び布団にもぐりこんだ。 ディクスはそれを邪魔しないようにそっと部屋を出た。 出来るだけ音を立てないようにロビーにやってくると、大きな扉を開け、三頭の竜を外に出るように促した。 薄く霧が出ていた。冷たい風がディクスの眠気を吹き飛ばす。 「やばい・・・パジャマのままだったよ、俺・・・」 この季節の早朝にパジャマだけでいるのは寒すぎだったようだ。両腕を抱えて竜たちが出るのを待っていると、先に出てきたレクサスが尻尾を、寒そうにしているディクスの体に巻きつけた。 意外と温かい体温にディクスは驚いた。 「お前ら恒温動物なのか?」 思わず声に出すが、レクサスは不思議そうに首を傾げただけだった。 しかし、このままでは何も出来ないため、ディクスはレクサスに礼を言って離れると扉に向かった。 「ちょっと着替えてくるから行儀よく待ってろよ!」 三頭に向かってそう叫ぶとディクスは館の中へと消えた。 しばらくしてあわただしくディクスが出てきた。かなり急いだのだろう。もしかしてあの竜たちが何かやらかしているのではないかと思ったのか、ディクスの着こなしはめちゃくちゃだ。 しかし、予想に反して三頭の竜は言われたとおり行儀よく待っていたようだ。 「ふう・・・じゃあ、これからいくつか術を見せてやるからやってみ?」 無理難題なことを言うと、お構いなしに術を披露した。 「まずは初級編な。行くぞ、光よ!!」 格好をつけて勢いよく手を挙げると、煌々とした光がぼんやりとした暗闇に生み出された。 突然現れた光にまぶしかったのか、竜たちは目を細めてこちらを見ている。 「どうだ?できそうか?」 光を弱めると、ディクスは三頭に問いかけた。 すると、それぞれの竜の前に淡い光が一つずつ出現した。だんだんとその強さを増している。 「え・・・?」 ディクスの要求した術を竜たちは難なくこなしたようだ。恐らく初級の術はジュライに教え込まれていたのだろう。 「じゃあ、これはどうだ!!」 今度は手のひらに火球を出現させた。 グランドアビスのアクオスを除いて二頭の竜が難なくこなす。アクオスの目の前では、時折ろうそく程度の小さな炎が一瞬現れるだけですぐに消えてしまった。 ・・・・・・やっぱり系統の不得意はあるんだな 水系のアクオスを見てディクスが一人納得する。 「次は、これだ」 前に出した手のひらに、透き通った水の球があらわれた。くるくると回っている。 同じように竜たちはそれを真似る。系統の違いからか、レクサスは出来ないでいるようだが。そのレクサスは非常に落ち込んでいるように見えた。何度も水を出現させようとしては蒸発させている。 「いいよ、レクサス。お前はそれが出来なくて当然なんだから」 ディクスの言っていることが分かったのか、それから水を出現させようとはしなかった。 「今度はセフィーロの得意な系統・・・風か・・・」 風といえばたいていの人が思い浮かぶのが飛行術だった。 確かに飛行術は風を主体とした高等な技である。しかし、セフィーロのような風を操るエアロガイドは術で風を操り飛ぶのではなく、鳥が飛ぶように自然と風に身を乗せて飛ぶのだ。 他の竜も飛ぶことは出来るが、それは人間が飛行術を使って飛ぶのと同じ、擬似的なものだ。 本物の風を味方にしているエアロガイドに勝つものはいない。そして、飛行中の攻撃力も、他の竜たちと違って飛行に術力を費やしていないため格段に勝る。 ・・・・・・でもこのセカンダリは飛んでここに来たんだろうな、わざわざやらせる必要も無いか 「えーと、次は・・・」 ぐうぅぅー 言いかけたとき、ディクスのお腹がなった。 竜たちは何事かと一斉に顔を向けると、そこには顔を赤くしたディクスがいた。 「・・・・・・・腹減ったんだよ・・・」 恥ずかしそうにボソッと言う。 ・・・なんで俺恥ずかしがってるんだよ 自分に突っ込むと大きくため息をついた。 「ちょっと休憩しないか?俺朝飯まだ食ってないんだ」 するとレクサスがよってきて顔を近づける。 「お前も何か食べるといい。持ってきてやるから」 しかし、レクサスは首を振った。ゆっくりと顔を上げると他の二頭の竜の方に向ける。 その先には近くの大木に首を伸ばし、木の葉を食べている光景が広がっていた。 「そうか、お前ら雑食だったな」 少し驚いたように言う。 竜は肉食というイメージが強いが、大半のものは雑食であった。セカンダリに選ばれた、ブレイズロンド、グランドアビス、エアロガイド、そしてシルバーヒールも草でやっていける種。 特に、エアロガイドと、シルバーヒールは草食の竜で有名だった。 ようやくレクサスから離れると、台所と言うには広すぎる厨房へを足を運んだ。巨大な冷蔵庫を開けると、中に入っていた容器を取り出し、電子レンジに入れた。 教わった通りにボタンを押し・・・・・・そして、するべき事を思い出す。 「やばいやばい」 棚からラップを取り出すと、容器の上に覆いかぶせる。 ピッ スタートボタンを押すと、ディクスはレンジの中の容器をにらみながら腕を組んだ。 ・・・・・・リディアはどんな技術を使ってるんだ・・・ 中でゆっくりと回っている容器を見続けても、電子レンジの仕組みが分かるはずもなく、液晶ディスプレイの時間は正確にカウントダウンして行った。 ピーッピーッ!! 甲高い音がするとディクスはレンジの扉を開け、容器を取り出した。 「でも、便利だよな・・・」 ぽつっとつぶやく。ただ湯を沸かすなら術のほうが簡単だが、何かを温めるという微妙な火加減を術で出現するのは難しかった。下手すると焦げてしまうのだ。 「いただきまーす」 ただっ広いステンレスの台で、一人黙々と食べる。 「あー、わたしも食べる」 突然した声に顔を上げる。 「ナチ、寝たんじゃなかったのか?」 厨房の扉には服に着替えたナチが立っていた。やはり、なんとなく眠そうな表情をしている。 「んー・・・寝ようかなって思ったんだけど、セフィーロが心配で」 「親馬鹿だなー」 向かい側に座ったナチにディクスが笑いながら言う。 ―――――― いや、ただディクスに預けるのが心配なだけなんだけど・・・ 「皆は?」 「外でおとなしく草食ってるよ。竜って便利だよな、そこら辺の草でも生きていけるから」 「でもジュライさんが言ってたじゃない。時々肉類も与えてくださいって。それに広い宮殿とはいえ、草ばっかり食べさせてたらそのうちなくなっちゃうわ」 「そうだけど。・・・ナチ、今日の昼前からそのジュライさんとライアさんから説明があるそうだ。ちゃんと準備しとけよ」 「わかってるわ。わたし先に皆のところに行ってるね!」 そういうと厨房を出て行ってしまった。 「ナチ!朝飯は?」 「後で食べるわ!」 大声で聞くと、大声で返ってきた。 「エリオス、今ちょっと良いか?」 庭園をいつものように歩いていたエリオスに突然かかった声。エリオスはその声の主に驚いたような表情を向ける。その姿を認めると少し怪訝そうな顔をした。 「スティングか・・・何か用か?」 「僕のところに四頭のセカンダリ・・・子竜の候補のドラゴンが来たのは知ってるだろう?」 そういうとエリオスは静かにうなずいた。 「そのうち三頭は主人が見つかった。僕を含めて・・・だけど、後一頭、シルバーヒールの主人が見つからないんだ。だから・・・」 「――――― 私にそのシルバーヒールのお目付け役をしろと?」 訊き返したエリオスにスティングがうなずく。 「ふっ、私はあまりものの世話役か。私にうってつけの仕事だな」 「そういうわけじゃ・・・!!ただ、セカンダリを育てるのには優秀な術者であることが第一条件。それを考えるとエリオス、お前にしか頼めないことなんだ」 真剣に言うスティングにエリオスは訝しげな顔をしてため息をついた。 「言われるまでもないさ。・・・良いだろう、私がその役目をまっとうしよう。ただ・・・」 「ただ?」 「そのシルバーヒールの全ての世話は私がする。他の三頭がどうしようと関知しない。それが条件だ」 エリオスはエリオスなりの方法でシルバーヒールを教育しようとしているようだった。出来れば四頭同じように育てたいスティングではあったが、そのような条件をつけられてはどうしようもない。 エリオスはスティングに劣らぬ術者だ。彼ならシルバーヒールを立派に育て上げるだろう。 「わかった・・・。そのシルバーヒールだけど、今第三庭園の方にいるんだ。今時間があるならすぐにでも会ってほしい」 「いいだろう。私も暇をもてあましていたところだ」 エリオスの同意を得ると、スティングは第三庭園へと歩き始めた。その後を距離を置くようにしてエリオスが続いた。 第二庭園を抜け、ひっそりとした第三庭園へと足を運ぶ。 見渡せるほどの庭園に、シルバーヒールが一頭待っていた。 クアァァァ 二人の姿を認めるとシルバーヒールは嬉しそうに鳴いた。 「これがその竜か・・・」 エリオスがシルバーヒールに近づく。 手を差し伸べると、シルバーヒールはその鼻先を向けた。 シルバーヒールのうろこは日の光を受け、まさに銀色に輝いている。吸い込まれそうな美しい新緑色の瞳がエリオスを優しく捉える。 ――――― 貴方の名前は? シルバーヒールの鼻先に触れた瞬間だった。頭の中に流れる声。 驚いて手を引く。 「―――――― それがセカンダリと言われる所以だよ、エリオス。理解できるとも、彼らは人語は話せない。けれど、術を使って思考を使えることが出来る」 スティングの言葉が耳に入っているのか入っていないのか。エリオスは躊躇したその手を再び鼻先にかざすとゆっくりと手を置いた。 どうか恐れないでください。私は名、無き竜・・・貴方の名前は? もう一度頭の中に流れる声。エリオスは深呼吸すると同じように術を使って答えた。 ・・・私はエリオス。お前の主となるものだ 答えるとシルバーヒールはゆっくりと目を閉じた。そして頭を低く下げる。 どうやらエリオスを主人として認めたようだ。 「スティング、お前はもういい。このシルバーヒールは私が預かろう。後でライアをよこしてくれ。この竜の世話の仕方を聞きたい」 「ああ、わかった」 振り向かずに言ったエリオスにスティングは答えた。 そして第三庭園を出ようとしたときだった。 「あれはエリオスね」 「姉上!」 女性の声がするとスティングは驚いたように声を上げた。 「帰ってらしたんですね」 「ええ、昨日の夜に帰ってきたの。アルバート兄様には申し上げたのだけれど、貴方はもう寝てしまったと聞いたから」 やんわりと微笑みながら言う。スティングは何も言わずに首を振った。 「兄様から話は聞いたわ。子竜からセカンダリを預かったのでしょう?」 「ええ、四頭を。そのうち三頭は僕を含めて主人が決まったのですけど、残りのシルバーヒールはエリオスに頼みました。彼ならきっと立派に育ててくれるでしょう」 エリオスたちのいるほうに目をやる。 エリオスはシルバーヒールの頭をなでてやっているようだった。シルバーヒールも気持ちよさそうにしておとなしくしている。 「もう仲が良くなったみたいね」 笑いながら言ったフィオールにスティングもつられる。 「スティング、今は時間が無いけれどそのうち貴方のセカンダリも見せて頂戴ね。私もドラゴンに触れてみたいわ」 「もちろんです。姉上の都合のよい時にいつでもいらしてください」 スティングが了解するとフィオールは嬉しそうに笑みを浮かべた。 すると誰かが小走りにやってきた。その女性は二人の手前で止まると胸にこぶしを作り頭を下げた。 「スティング様、お取り込み中のところを申し訳ありません」 「イリアス、議会に命集されたのではなかったの?」 驚いたように言ったフィオールにイリアスが困ったような顔をした。 「途中で抜け出してきました。ところでフィオール様、そろそろお時間です」 彼女の従者、イリアスがそう告げるとフィオールの表情にかげりが差した。 「・・・・・・姉上?」 スティングが敏感に察知して心配そうに声をかけるとフィオールは弱弱しく笑って見せた。 「―――――― ここ数日で母上とたくさん話したわ。今までのこと、そして・・・これからのこと。北エンドレスにも立ち寄って、貴方のお母様にもお話したわ」 ――――― 僕の母上にも・・・? 言わんとしている事が分からずスティングは困惑する。 「・・・お気持ちは分かります、フィオール様。しかし何ぶん時間が押してます、お急ぎください」 フィオールが何を言いたいのか分かったのか、イリアスは沈痛な面持ちで急かす。 「ごめんなさい。・・・スティング、決まったらその時は貴方にちゃんと話すわ。その時までもう少し待って・・・」 そういい残すとフィオールは行ってしまった。 「イリアス、姉上は一体・・・」 「残念ながら私が申し上げることではございません。どうか、フィオール様の気持ちをお汲み取り下さい」 それだけ言うと再び敬礼をしてフィオールの後に続いた。 「――――――― 」 一人残されたスティングは心の中にわだかまりを残したままただ立ち尽くすしかなかった。 |