D.Force The Second Chapter
Force-17

ぶつかり合う力


「クロードさん、お忙しいところをお付き合いしていただいて申し訳ありません」
戦闘位置についたところで、エイブルが言う。
「あなたのような優秀な術者の相手が出来てこっちとしても光栄ですよ」
そう言い返す。
―――――― 優秀な術者は一人で十分です。どちらが本当の術者か決着をつけることにしましょう!」
ディクスの挑発にのせられたのか、エイブルが本音を言う。
・・・なんだよ、最初はお手並み拝見とか言ってたくせに
「いいでしょう―――――― 受けて立ちます!」
「ふふっ、若いということは時に愚かな結末を招く・・・せいぜい完敗に自暴自棄にならないように気をつけてください!」
エイブルの気迫が空間を通じて伝わってくる。術を使って相手をけん制しているようだ。
―――――― ナチ
スティングが促す。うなずいてナチは二人の前にシールドを張った。
「アッシュ、オレたちもやるか」
「そうですね」
彼らもまた同じようにシールドを張った。
「準備は良いようですね・・・行きますよ!ディクス・クロード!」
叫びと共にエイブルの手から電気が音を立てて生み出される。バリバリという轟音と共に電気の球体が放たれた!
ばぎっっ!!
その球体はディクスの突き出した手によって動きを止められた。
バリバリバリッッッ
「くっ!」
それを術によって相殺する。それでも手には痺れが残る。
痺れを何とか振り払い、剣を手にした。
「烈火の陣!」
声に反応するようにディクスの周りに炎の陣が出来上がった。それで視界がさえぎられる。
―――――― 視界をさえぎったところで何もなりませんよ
「風よ!」
炎を凪ごうとする風が襲う。同時に炎の陣の中からディクスが躍り出た。
「でやああああ!」
剣をエイブルに向けて垂直に振り下ろした。
ガキンッ
エイブルを取り巻いていた見えないシールドがディクスの剣を受け止める。
「アースブレイク!」
それを予想していたかのようにディクスは術を発動した。その術はエイブルのいる地面で大爆発を起こした。
どぉぉぉぉん
外からの攻撃はいざ知らず、内側から発動された術はシールドを破り、天高い柱を作った。
爆風を利用し、ディクスはその場から離れると風を起こした。
ぶおぅ
粉塵が風でかき消される。
どさっ
先ほどの爆発と共に舞い上がったエイブルは無様に着地する。
「癒しの風よ」
エイブルの周りに暖かな風がふく。それだけでエイブルは何もなかったように立ち上がった。
―――――― 丈夫なやつだな・・・全く!
「私を何度傷つけたところで意味はありませんよ、クロードさん」
そういうと、エイブルは手を合わせて精神統一に入った。
「ナチ、もう少し離れましょう。巻き込まれますよ」
そしてスティングがさらにシールドを張る。
「大技を仕掛けようったってそうはいかな・・・ぐあっ!」
エイブルを直接攻撃しようとし、突っ込んだディクスが悲鳴を上げる。エイブルの周囲には障害となるようなものはない。しかし、近づいたディクスはその衣服、肌を無数に傷つけられ、慌てて後方にとんだ。
「何が起きたんだ・・・?」
スレイドが目を凝らして見るが、何の変化もないように見える。
「スレイドさん、目を凝らしても見えませんよ。エイブルさんの周囲には無数の見えない氷の粒が浮いているんです。鋭い・・・突っ込めば肌を切り裂いてしまうほどの」
アッシュが二人から目を離さず解説する。
浅かった傷を術で治したディクスは舌打ちした。もう間に合わない。
―――――― やばいな。くそっ、ミスった!
後悔している暇なかった。ディクスは手を前に出すと、力ある言葉をつむぎだした。
「珍しいわ。ディクスが完全防御にでた・・・」
「完全防御?」
「うん。わたしも教えてもらったんだけど、あの体勢は相手の大技を回避するための防御の術としては大掛かりなものなの。・・・・・・この勝負、ちょっとやばいかもスティング!」
ディクスの様子に慌てたナチはさらに強力なシールドを作り上げた。そしてスティングがそれをコーティングし、より強力にする。
ざあぁぁぁ・・・
木々が嫌な音を立てる。静かだったはずの周囲が緊張に包まれた。
「クロードさん。あなたの耐久度のほどを見せていただきますよ・・・!」
ようやく体勢を崩したエイブルが言い放つ。
「ヘルブラスト!!」
「我が根底に眠りし大いなる力よ!」
エイブルが術を発動すると共に、ディクスの術も完成した!
ディクスの周囲が筒状に薄い膜で覆われる。同時にエイブルをのぞく四人にも。
「え・・・この術は・・・」
アッシュとスレイドが突然現れたシールドに驚く。それはナチはスティングも同様だ。
「ディクス!」
ナチが叫ぶ。しかし、その声は間髪入れずに発生したエイブルの術にかき消された。
ごっ・・・どぉぉぉぉぉぉ!!!
何かが大きく破裂する音。そして続いた轟音と激しい熱風。穏やかだった周囲が一瞬にして地獄と化す。
緑の木々に火がともり、大きく燃え上がった。大地は砕け、黒く焼け焦げている。
以前の面影などまるでない。
シールドに守られている四人にはわけが分からない。ただ一瞬にして地獄と化した周囲に唖然としているだけだ。
「どうしよう、スティング!」
「ナチ、落ち着いてください!」
身動きの出来ないシールドの中で、ナチが悲鳴をあげる。
「もしこのシールドからでれば黒焦げになりますよ!」
ディクスの作り上げたシールドから出ようとしたナチをスティングが必死に止める。ディクスの作り上げたシールドは、外気をも遮断する完全防御型の術だ。
もし、ナチやスティングがかけていた防御の術のみだったら彼らは熱でやられていただろう。
「違うの・・・ディクスが!こんな術を使ってるのに次に攻撃されたら・・・!!」
―――――― それは・・・」
ナチの言葉にスティングが息を呑む。
ディクスの作り上げたシールドは健在だ。おそらく、まだ術を発動し続けているのだろう。消耗の激しい術を発動し続けている彼に、さらに衝撃の大きい攻撃が来たとしたら・・・?
今度は五人どころか、ディクス自身危ない。
「行かなくちゃ!」
隙を狙い、ナチはシールドの外に出ようとした・・・が。
ガツン
シールドの外に出そうとした手がぶつかる。たたいても崩れる気配はない。
「う・・・そ?このシールド外側から防ぐだけなんじゃ・・・」
ナチがほうけたように立ち尽くす。
「まさか、内側からも防ぐなんて・・・」
見れば、彼らの足元も薄い膜が張っている。地面爆発が起きても大丈夫なように。
「だったら内側から破壊するわ!」
「ナチ!?」
「鳴神の怒りよ、力となって敵を打て!」
ナチが声を上げる。しかし、ただそれだけで何の変化もなかった。思わず硬く目を瞑っていたスティングも驚いた表情をしている。
「え・・・?どうして・・・ならもう一回・・・!雷火襲来!!」
大きく手を上げる。しかし、やはり何の変化もなかった。
「術が・・・発動しない・・・?」
発動しない術にナチがつぶやく。ディクスの作り上げたシールドには外部と隔離する機能だけではなく、中にいる人間の術をも封じるもの。
―――――― 術を封じる・・・!?そんな術が存在していたなんて・・・
ディクスのいるほうに目を向けるが、煙でうかがい知ることは出来ない。あたりは相変わらずの炎と熱気。この状態が続けば、ディクスのこの防御の術もやがて効力を失うだろう。
そして消耗したディクスはエイブルに・・・
「ディクスッ!」
悪寒にスティングが叫んだ時だった。
じゅわっ、しゅぅぅぅ
音がして、真っ赤だったあたりが一瞬にして真っ白になった。
―――――― 蒸気・・・?」
真っ白で何も見えなくなってしまった外にナチがつぶやく。
「大気渦巻く風よ!」
どうしてかその声がとても懐かしく聞こえた。
術者の命に従い、風が蒸気を上空へと飛ばし、視界をクリアにする。そして傍観者達の視線の先にはディクスが・・・。
「これでも料理の腕は五つ星並なんでね!」
何事もなかったようにいつものディクスがそこに立っていた。
むしろ、その顔は自信に満ちている。
―――――― さすがですね。先ほどの一撃で逝ったかとも思ったのですが・・・どうやら甘く見すぎていたようです」
馬鹿にされたエイブルが歯軋りをする。ナチやスティングの視線に気づいたディクスが彼らに力強くうなずく。
「うんうん!さすが我が兄!」
ナチが泣き出しそうな声で言いながら何度もうなずく。
「複数のシールドを発動させながらも、水の術、風の術で周囲を落ち着かせたというわけですか。ヘル(地獄)の名にふさわしいシチュエーションだったというのに」
エイブルが残念そうに言うが、その声には激しい怒りが込められているのは確かだった。
ディクスの術のおかげで周囲の気温は元に戻りつつあった。それでもシールドは張られたままだ。
「その複数のシールド。そろそろ解かないと持たないんじゃないですか?」
「まさか。優秀な術者を目指すもの、これくらいの術だったらなんとでもなるさ。俺の術者としての器はそんなもんじゃないんでね」
「強がっていられるのも今のうちですよ、クロードさん。人間には限界というものがあるんですからね!!」
言葉と共に発動した無数の氷の柱がディクスに向かって解き放たれた。
「おっと!」
ディクスはそれらをわざとすれすれでかわす。
「普通の術と同じだと思わないことです!」
目標を失った柱は大地に砕けるはずだったが、それは軌道をかえ、横に飛んだディクスに再び襲い掛かった!
「!!ファイアーウォール!!」
意表をつかれたディクスが反射的に炎の壁を出現させる。炎の壁に突っ込んだ氷の柱はそれで溶けて消えた。
ごぉう!!
しかし、直後に来た二弾目の炎の柱がディクスの壁を突き破る。
火に火を注がれた柱は威力を増しディクスの腹を直撃した!
「!?」
物理的な衝撃はさほどない。しかし、その柱はまともにディクスの腹を貫き、激しく焼いた・・・。
ドクンッドクンッ
自分の心臓の音がやけにクリアに聞こえる。腹を押さえることも出来ずにディクスはただその空間に停まっていた。
「ぐあっ・・・」
それでも浮遊の術、防御の術は解かない。
「術者の意地というやつでしょうか?あまり張ってばかりいると身を滅ぼしますよ。今のようにね」
エイブルの言葉が遠く聞こえる。
「早く痛覚鈍化の術を使ったらどうです?楽になりますよ。―――――― それとも、逝きますか・・・?」
「・・・・・・・・」
「これだから程度の低い術者は困るんです。自分で処理することが出来ないんですから。早々に降参していればこんなことにはならなかっ・・・」
「ブレイズロンド!!」
ガアアァァァ
突然出現した巨大な赤竜。その美しさ、壮大さに目を奪われる。
「竜・・・?そんな馬鹿な!」
「悪かったな。傷つけられれば誰もが戦闘力を失うと思ったか?俺はそんな性質じゃないんだよ!」
その言葉と共に、竜がエイブルに襲い掛かる!
「壁よ!!」
エイブルは強力な壁を張った。風も通さない完璧な術を。
しかし――――――
「!?・・・ば・・・かな・・・・」
どさっ
竜が壁とエイブルを突き抜けると同時に彼は驚愕の表情を張り付かせたまま地に倒れ伏せた。
壁は張った。衝撃も暑さも痛さも感じなかった。なのに今の自分は地に倒れている。
一体何故―――――――――
「・・・・・・俺が得意なのは物理攻撃だけかと思ったか?ただ強力なシールドを張ったんじゃ俺の術は防げないんだよ」
「・・・・・・・・」
「戦闘力は殺がせてもらった・・・もうお前はこれ以上戦えない」
―――――――― そう・・・か・・・あの竜は・・・
術の正体に気づき、己の敗北を確信した時、脱力感にエイブルは意識を失った。
それを確認するとディクスは地面にひざをつけた。同時に全ての術が解ける。
「ディクス!!」
ほうけていたナチだが、なくなったシールドに気づくと、ディクスの方へ走った。
「ディクス!ねえ、ディクス!」
駆けつけた他の三人も心配そうにディクスを伺う。
「ボクに任せてください」
ナチを制すと、アッシュは力ある言葉をつむぎだした。
仰向けにされたディクスの腹部を見てナチが目をそらす。
「リヴァイヴ!!」
その言葉と同時に温かな光がディクスの傷を癒す。
ほんの数秒だったが、それでアッシュは術を解いた。
「もういいんですか?」
その様子を見ていたスティングがアッシュに訊く。
「ええ、もう大丈夫です。完全とはいえませんが、重度のやけどならこのくらいで」
「さすがアッシュ!わたしもこんな風に治療できると良いんだけど・・・」
焼け焦げた衣服が体に付着している分、本当に治ったのかは分からない。けれど、ディクスはゆっくり目を開けると笑みを浮かべた。
「約束どおり勝ったよ」
「・・・ったくもう・・・!心配かけないでよね!」
「でも、良かったです。さすがディクス」
「まさかディクスが勝つなんてなー。オレ正直エイブルが勝つかと思ってたんだが」
それぞれが安堵する。
「俺もちょっと焦った」
ディクスが苦笑する。
「エイブルさん、寝てるみたいです・・・」
エイブルの様子を見ているアッシュがつぶやく。
「精神衰弱の術使ったのね。そんな傷でよく発動できたわね」
「そうか・・・!それ使ったからエイブルのやつ無傷で倒れたってわけか。何で負けたのかさっぱりわからなかったよオレ」
「まーな。物攻撃だけが専門じゃないからな。・・・・・・・でも、久々に疲れたよ・・・」
言いながら起き上がろうとして崩れる。
「ディクス?」
ナチが心配そうに声をかける。
「ああ、大丈夫ですよ、ナチュラルさん。ボク、リヴァイヴかけた時に、クロードさんに安静にしてもらうようにって体力だけ奪っておいたんです」
にこにこと言うアッシュにディクスが愕然とする。
「体力奪っておいたんですってお前・・・」
「そうでもしないとクロードさん料理しちゃうじゃないですか」
――――――― ですね。良かったですね、ディクス。これで安静にしてられますね」
「あはは、良かったね!ディクス」
笑われたディクスはかなり不服そうだったが、その目はかなり眠そうだ。
「・・・ったく・・・」
他に何か言いたげだったが、眠気には勝てず、ついに目を閉じてしまった。
「しかし・・・エイブルのやつ、もしディクスが俺たちにシールド張らなかったらどうなるのかわかってたはずなのによ。あんな大技かましやがって。殺す気か?」
「スレイドさん、きっとそれはクロードさんがボクたちに術をかける事を見越してやったんじゃないかと思います。エイブルさん口ではクロードさんの事ののしってましたけど怖かったんですよ。負けるのが」
「優秀と歌われた術者ゆえ・・・かぁ?オレには縁がなさそうだな」
苦笑しながら言う。ほんの数十分の戦いだったが、あたりはまだ残り火がくすぶっている。炭化した木々も白い煙を上げ、横たわっていた。
・・・・・・兄上に怒られるかもしれないけど・・・
改めて辺りの状況を把握したスティングに緊張が走る。
「じゃあ、ボクたち戻りますね。エイブルさんを家に送り届けます」
「そうね。お願いするわ。わたし達も帰ろう?スティン・・・じゃなくて、スティーブ」
「ええ」
本名を言いそうになったナチにスティングがおかしそうに返事をする。
「じゃあな!ナチュラル、スティーブ!」
そして二人はエイブルを連れて行ってしまった。
「さてと・・・どうしよう?まずはディクスを館に連れて行かないと」
「僕は兄上に状況を話さないと・・・」
つぶやいたスティングにナチが気まずそうな顔をする。
「そ、そうだね・・・。じゃあ、ディクスはわたしが・・・」
「ナチはディクスを見ててください。僕は宮殿に戻るついでに館によってセフィーロにここに来るように指示しておきますから。セフィーロならディクスを運べるでしょう」
「そうだね。じゃあ、お願いするね」
そして行ってしまったスティングを見送るとディクスに目を向ける。
アッシュの術が相当効いたのだろう。気持ちよさそうに寝入っている。
―――――――― でも・・・ディクスって凄いのかも。いつも一緒にいるから気づかないのかもしれないけど・・・ほんとはきっとすごいんだろうな
口をぽかっと開けているディクスを見てもそう思う。
「これで普通の性格だったらなぁ〜」
思わず本音が出る。
横たわっているディクスをまじまじと見る。エイブルとの戦いでぼろぼろになった服の裂け目から傷がうかがえた。途中で治癒の術を施したディクスではあったが、完全ではなかったようだ。
「我が根底に眠りし蘇の源よ、癒しの力となりてこの者に治癒力を与えよ!」
傷の一つ一つを術でふさいでいく。大きな怪我は手に負えないが、ちょっとした傷くらいなら治療できるほどにナチは成長していた。ちょっと前なら、小さな傷さえもディクスに治してもらっていたのにだ。
「わたしもちょっとは成長したんだからね〜」
一人自慢げに言う。
ばさっばさっ
急に視界が暗くなる。見上げると、ちょうどセフィーロが近くに着地するところだった。
クアァァァッ
「セフィーロ、来てくれて有難うね!」
なでながらセフィーロを力いっぱい抱きしめる。
嬉しそうに目を細めていたセフィーロだが、横たわっているディクスに気づくとナチの手をすり抜け、心配そうにディクスを伺い見た。
「セフィーロ、ディクスを家まで送ってくれる?わたし一人じゃ運べないの」
そういうとセフィーロはディクスの横に着いた。
「ディクス、ちょっと痛いかもだけど我慢ね」
ナチはディクスの肩を何とかかつぎ、セフィーロの背中に乗せる。セフィーロもセフィーロで、できるだけ身を低くしている。
――――― お、重いっ・・・!
それでも何とかセフィーロの背中にディクスを乗せる。背中には乗ったものの、運んでいる途中に落ちないかどうか心配だ。
「大丈夫かなぁ。落ちないかな?」
心配そうにつぶやくと、セフィーロは任せろとでもいいたげに大きく鳴いた。
「そうだよね、セフィーロだもん。じゃあ、先に戻ってて、わたしもすぐ追いかけるから」
セフィーロが空に舞い上がるのを見届けて、ナチは館へと一目散に駆け出した。


「これはまた・・・派手にやったな・・・」
真っ黒になってしまった一角を見て、アルバートが感嘆をもらす。衝撃緩和システム内の大地はすべて何らかの影響を受けていた。演習場内部だけがまるで別世界のように変わってしまっていたのだ。
「衝撃緩和の術を発動させる暇もなかったんです。ごめんなさい、私がついていながら・・・」
スティングが一生懸命謝る。
「いや、怪我をしていないだけ良かったよ。しかし・・・エイブル氏もとんでもない術を放ったものだ。衝撃緩和システムが壊れなくて良かった。すぐそばにいたのにお前達も良く無事だったね」
「ええ。一応のことは考えてシールドは張っていたのですが、ディク・・・いえ、クロード氏が戦いながらも私たちにも強力なシールドを張ってくれたんです。外からも内側からも破壊することのかなわない術を」
「内側から破壊できない?」
アルバートが訊きかえす。
「シールドの内側にいる人間の術をも封じてしまうんです。物理的に破壊しようしても無理でしたから、術で突破しようとして・・・結局不発に終わってしまったのですが」
――――――― 術を封じる術・・・?そんな術は初めて聞いたな・・・
そんな術が存在するのかと眉をひそめる。ある意味最強の術といえるだろう。
「そうか。世の中には私の知らない術がまだまだたくさんあるようだな」
「兄上、このあたりどうしましょう?木々を植え替えるにしても時間が・・・」
「そうだな・・・」
辺りを見回す。やはり凄い状態だ。炭化した木々に治癒の術を施しても到底元通りにはなりそうになかった。
「とりあえず、駄目な木は全て撤去だ。それから必要な場所に新しい木を植えて治癒の術をかければすぐに大地になじむだろう。一週間程度で元に戻るはずだ。炭になった木は暖炉にでも使えばいい。これから冬がやってくるのだからね」
アルバートの素敵なフォローにスティングは胸をなでおろした。
――――――― 怒られるかと思ったから良かったー!
心の中で小躍りしている時だった。
「だが、スティング。自分の立場を分かっていながらこんな危険な場所に自ら足を踏み入れた失態は許さないよ」
――――― えっ・・・?」
アルバートがゆっくりと振り返る。
自分の立場――――― つまり、スティングが第一王位継承者という立場でありながら危険な場所にわざわざ立ち入ったことをアルバートは怒っているのだ。
ぽかんとしたスティングをよそに、アルバートは周りを見ながら何やら思案している。
そして、やおらぽんと手を叩いた。
――――――― まさか・・・
スティングに緊張が走る。
「植樹した後の治療術はお前がやりなさい」
そう言った。兄からの命令だ、さからえない。
「・・・はい・・・」
自分の軽はずみさにスティングは心の中でさめざめと泣いたのだった。



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