D.Force The Second Chapter
Force-19

求める理由


ディクスに全てを話し終え、アッシュは暗くなった庭園を一人待っていた。
これからディクスと共にエイブルのところに行く約束をして。そのディクスはナチに帰りが遅くなることを言って来るとかで今はこの場にはいない。
「でも、どうやったらエイブルさんは研究をやめるんだろう?ボクだってリバースのこと何も知らないのに・・・」
リバースが人間には出来ない術を証明しなければエイブルは研究をやめないだろう。しかしアッシュには人間がリバースを完成させることが出来ないという証明を持っていなかった。
「あのシルバーヒールに訊いておけばよかったかなぁ・・・」
意味深な事を言い残したシルバーヒールを思い出す。
・・・竜だからフォースの事を知ってるかもしれないし・・・
禁術の事にシルバーヒールの事、そしてさっきのフォース・・・どうして混乱するような事が立て続けにあるのかわからなかった。何から解決していけばいいのか分からない。
そもそも、どれか一つでも解決の糸口はあるのだろうか・・・?そんな気さえしてきた。
ボク、どうしちゃったのかな?なんだか自分が自分じゃない気がしてきた。
困惑しながらポケットから一枚のカードを取り出す。そこには生年月日が書いてある。
今の年からその生年月日をひく。
・・・・・・・二十七・・・
十三年前、気づけば一人荒野にいた。自分が誰なのか、どこにいるのか・・・そう、記憶がなかった。荒野をさまよい、途中でであった老夫婦に拾われたのだ。
彼らは彼にアッシュと言う名を与え、まるで本当の息子のように世話をしてくれた。
もう、自分を育ててくれた老夫婦はいないけれど・・・
そして一人旅をするようになってから八年が経とうとしていた。アッシュが老夫婦に拾われたのが推定十四歳の時。それから十三年も経つというのに外見はまるで変わっていない。
ナチやディクスに初めて会った時も十四歳だと偽った。本当の事を言えば奇異の目で見られるのはわかっていたから・・・エルフなら特徴的な耳を持っているはずだ。なのにアッシュは姿は人間そのもの。
ただ違うのは自分に流れる物理的な時間の流れ。
もしかしてボク人間じゃないのかなぁ・・・
一年が過ぎるごとにその不安は大きくなる。周りの人は年をとり、過ぎてゆくのに自分だけ何も変わらない。
「はぁ・・・」
軽くため息をつく。自分が年をとらない理由が分かれば自分が何者でも構わなかった。ただ、自分が何者なのか分からないのが一番不安なのだ。
「さっきのシルバーヒールどこに行っちゃったんだろう。色々訊きたいことあるんだけどな」
もしかして空を飛んでいないかと見上げる。
しかし、暗闇の空には何も飛んではいなかった。
「いるはずないかぁ」
つぶやいた時だった。背後に何者かの気配を感じる。ディクスではない、でも知らないわけじゃない。
まさかとは思いつつ、振り返る。
「・・・」
予感は的中した。あのシルバーヒールのエデンだ。
「あの・・・訊きたい事があるんですけど」
自分でも突拍子もない事を言ったもんだと思う。それでも続けた。
「えっと・・・リバースってどんな術なんですか?それからボクは一体・・・」
――――― リバース・・・それは私たちシルバーヒールのみが行使できる術・・・』
あの時と同じように頭の中に響く声。ただ違うのはエデンはアッシュに触れてはいないという事だ。
「それはわかっています。でも、どんな術なんですか?蘇生の術じゃないんですか?」
『・・・お忘れのようですね』
一言答えただけだった。
『私がリバースをお見せしたら思い出していただけますか?』
「思い出すって何を・・・?」
問い返すが、エデンは何も答えなかった。
『・・・』
沈黙の後、エデンは翼を大きく広げ空に舞う。
「ちょっと待ってください!まだ話は終わってません!」
エデンはアッシュが叫んだ事を聞き届けるようにその場に少し滞空した後、どこかへ飛んでいってしまった。
「また・・・どこかに行ってしまった・・・」
「今の、シルバーヒールじゃなかったか?」
突然頭上からした声に驚く。
「すまん、待たせたな」
飛行術でやってきたディクスが地面に降り立つ。
「クロードさん・・・」
「何か言ってきたのか?さっきの竜」
「いいえ・・・ただ通り過ぎるのを見ただけです。珍しいですよね、こんなところにいるのも」
「・・・あいつがいればリバースもわかるんだろうけど・・・でも、教えてくれるわけないよな。それはいいから行こう、アッシュ」
アッシュが再びついた嘘に疑いなく、ディクスが促す。
「あの、クロードさんはあのシルバーヒールがしゃべること知ってるんですか?」
何気ない言葉の中の疑問にアッシュが問いかける。
「ああ。あいつは王族の一人が世話してるセカンダリの竜だよ」
「セカンダリ・・・?」
聞きなれない言葉だ。それに王族が世話をしているというのも変な話だ。
「竜神に仕えているのが子竜なのは知ってるだろ?その子竜の候補がセカンダリといわれる高位の竜なんだ。人間の言葉を覚えさせないといけないらしいから、一時人間の世話になるそうなんだ。その竜が散歩でもしてたんだろ」
「そうですか・・・高位の竜だったら意思疎通の術で話しかけることも出来ますよね」
「ああ。竜とはいえ、俺たちが思っている以上にあいつらは知能が高いみたいだからな」
ディクスがセカンダリの世話をしていることを知らないアッシュは知識豊富なディクスに感心した。
・・・・・・でも、思い出すって何のことだろう・・・?
問題は結局解決しなかった。余計にどうしてそのセカンダリがここにいるのかとか疑問も増えてしまったが、心の中でうやむやにして気にしないようにした。
「クロードさん。不老って・・・信じますか?」
歩きながら再びアッシュが訊く。
「不老?不老不死とかか。俺は信じないけどな。エルフみたいに長命だってなら別だけど」
そうディクスが答える。
「そうですよね・・・やっぱ不老はないですよね・・・」
「どうしたアッシュ。・・・・・・エイブルのことは気にするな。アイツのことは俺が何とかするよ」
ディクスが元気付けるように言うとアッシュがうなずく。
「あ〜あ・・・それにしても体力が回復してから演習場の修理に駆り出されて大変なんだ。新しく植えた木を早く土になじませるとかで治癒の術をかけまくり・・・」
ディクスがあくびをしながら不満を漏らす。
「あんなにしたの俺じゃないのに・・・」
そしてぼそっとつぶやいた。
「そういえば、あのスティーブさんと一緒でしたよね」
「え・・・ああ、あいつな。万年候補生の・・・」
「クロードさんとエイブルさんが戦った時はさほど気にしてなかったんですけど、ボク、スティーブさんに良く似た人を見たことありますよ」
「えっ」
緊張の走ったディクスにアッシュは続けた。
「ボクが蔵書室で本を取ろうとしたら反対側の本が落ちてしまって・・・不運にもそこに人がいたんです。だから本が思い切りその人に当たってしまって。その人も銀髪の長い髪だったので印象に残ってたんです。スティーブさんとは目の色が違いますし、院生候補生みたいですから他人の空似だとは思うんですけどね!」
――――――― それ、スティングだよ・・・
アッシュの話を聞いていたディクスが確信を持つ。スティングならば蔵書室に足を運ぶだろうし、上から落ちてきた本の直撃を受ける不運な面も持ち合わせている。
「そ、そうか。そういうこともあるよな」
「いまデルタの院生募集は一杯ですから、次に試験があったら受かるといいですよね〜」
意外に鈍感なアッシュにディクスは胸をなでおろした。
それから沈黙のまま歩き、途中、目の前の人影に立ち止まる。
「あっ、アッシュ・・・お前一体どうしたんだよ!家にいるのかと思ったらいないし・・・オレどこかで倒れたんじゃないかって心配してたんだぜ」
その人影はスレイドだった。アッシュを心配して探していたのだろう。
「ごめんなさい、スレイドさん。迷惑ばかりかけてしまって・・・」
しゅんとして謝ったアッシュにスレイドがひるむ。
「まあ、無事ならいいさ。エイブルのやつに聞いても知らないっていうし・・・」
「スレイド、エイブルは家に帰ったのか?」
「ん、ああ、帰ったぜ。三十分くらい前だったと思うけどな。・・・で、なんでディクスがここにいるんだ?家こっちだったか?」
スレイドが訊くと、ディクスとアッシュの二人は顔を見合わせた。
「スレイド、お前もついてくるか?」
ディクスが訊くとスレイドは不思議そうな顔をした。二人の様子がおかしいと感じたのだろう。
「?わけわかんねえけど着いて行くよ。アッシュも心配だしな」
・・・でも、ボク年齢的にはスレイドさんと同じくらいなんですよね・・・
意外に面倒見の良いスレイド嬉しく思いつつも、心の中でそうつぶやく。
「色々有難うございます」
「お互い様さ。エイブルの家だろ?じゃあ、城でるか」
三人に増え、宮殿の敷地を出、エイブルの家に向かった。


「珍しいですねー、アッシュ君はまだしも、スレイドさんやましてやクロードさんまでおいでになるとは。どうかなさったんですか?」
エイブルがにこにこしながら三人にコーヒーを出す。アッシュが片付けたのにもかかわらず、エイブルの部屋はまた本で散らかっていた。その本の一冊をディクスが手に取る。
「クロードさんも興味おありですか?」
「えっ、いや、別に・・・珍しい本だと思っただけです。このグリット文字見るの久々ですから」
そういうと、エイブルが近づいてディクスが手に持っている本をのぞいた。
「ああ、この本ですね。こんな古代文字の種類が分かるなんてさすがですね」
いいながらディクスから本をとり、コーヒーを手渡す。
ディクスが渡されたコーヒーに口をつける。
にがい・・・
コーヒーをブラックで飲まないディクスには苦く感じたらしい。眉を少しひそめてから一気にコーヒーを飲み干してむせた。
「エイブルさん、あの・・・」
カップを手にしたまま、アッシュが声を出す。
「ん、なんですか、アッシュ君」
「えっと・・・」
カップに一度目を落とし、ディクスに目をやる。むせて、目に一杯涙を溜めたディクスは勇気付けるようにうなずいた。
――――――― あの部屋の先にいた女の人は誰ですか?」
―――――――
アッシュの言葉に明らかにエイブルの顔つきが変わる。スレイドは状況が飲み込めず緊張した雰囲気にただ飲まれていた。
「ボク、見たんです。隠し部屋の先にいた綺麗な女の人・・・エイブルさんはその人のためにリバースを研究してるんですか?」
アッシュがそこまで言うとエイブルは笑い出した。
「あはは!・・・そうか・・・アッシュ君、君は見てしまったんだね。だから最近私を避けてたというわけですか。スレイドさんが君の様子がおかしいと言ってたので、まさかとは思っていましたが・・・思い違いではなかったようですね」
「エイブルさん、術の研究にいそしむことは俺はかまわないと思います。だけど、死者を使って人体実験まがいのことをするなんて俺は好きじゃない。エイブルさん、あなたが知っているはずです。リバースは人間には成し得ない術であると・・・優秀な術者ならわかってるんじゃ」
ディクスが笑い続けているエイブルに言う。するとエイブルはぴたっと笑うのをやめた。
「それは私の勝手でしょう、クロードさん。あなたは愛するものが死ぬという苦しみを知らない・・・あなたにはリバースという術がどれだけ私に必要な術かわかるはずがありません」
冷たい声。エイブルが立ち上がる。
「でも・・・私は必ずリバースを完成させて見せます。私の妻にもう一度微笑んでもらうために・・・」
バタッ
いきなりエイブルは奥の部屋に入っていってしまった。
「エイブルッ!!」
スレイドが持ち前の瞬発力でエイブルが扉を閉めるのを阻止する。
「ディクス、早くしろ!」
扉を何とか全開にしようとするスレイドだったが、その間に不覚にもエイブルの術が完成してしまった。
「ヘルウィンド!!」
ぶおっ
「ぐわっ!」
ガシャッ!!
エイブルの放った術にスレイドがふき飛ばされる。
「させません!」
ビキッ
扉を閉めようとしたエイブルにアッシュが氷の術で扉を固定した。
「待て!」
隠し扉も閉めるのももどかしく、エイブルは隠し部屋の奥に消えた。後を追ったディクスだが、嫌な予感がよぎり、部屋の前で立ち止まる。全開した隠し部屋からは青い光が煌々としていた。
「クロードさん・・・」
スレイドに肩を貸しているアッシュが不安そうに声をかける。
「ああ・・・」
ディクスは意を決したように部屋に足を踏み入れた。
「もうすぐ・・・もうすぐだからな・・・、あと少しだよ」
エイブルがそれにしがみつくようにその場にいる。青いクリスタルに必死に何かつぶやいている。
「・・・これか・・・」
ディクスが呆然とする。隠し部屋・・・そこには目立って青い大きなクリスタルがあった。その内部、女性が眠るように横たわっていた。
青い光が漏れていたのも、クリスタルの下から発せられている光が通り抜けているからこそ。部屋を不気味に照らし出していた。
「エイブルさん・・・この人のためだったんですよね」
――――― ええ、そうです。全ては妻のために・・・病気で死んだ妻のために!」
「死者は生き返ることはない・・・それを分かっているはずなのに・・・どうして伝説の術にすがろうとしたんですか?どうして奥さんの死を受け止められないんですか?」
アッシュが問う。エイブルはクリスタルから目を話さずに答えた。
「そんなの決まってるじゃないですか。妻にもう一度微笑んでもらいたいんです。私は彼女が言い残しそびれた最後の言葉が聞きたい・・・リバースは伝説じゃありません!誰がなんと言おうとも、私の中でリバースは存在する術、私ならそれを扱うことが出来るんです!」
言い切るとゆっくりと立ち上がった。
「あなたたちは私の研究を阻止するつもりですか・・・?私の妻をこのまま土に埋めろというのですか?私に行き地獄を味わえというのですか!?」
と、叫んだと同時に衝撃波がアッシュを襲う!
「危ない!」
アッシュの前に飛び出たディクスに衝撃波がヒットする。
ドガッ
何の防御もしていなかったディクスは思い切り壁に叩きつけられ、床に崩れた。
「ディクス!」
「クロードさん!」
二人が慌てて駆け寄る。体を強く叩きつけられたディクスは気を失っている。
「エイブルさん!そんな思いをしているのはあなただけではありません!クロードさんだって、スレイドさんだって・・・ボクだってつらい現実を背負って生きてるんです!それなりにちゃんと自分で受け止めて・・・だからもうこんなことはやめてください!自分自身が傷つくだけです!」
「アッシュ君・・・私は君が話してくれた悩みを知っています。君はその現実をしっかりと受け止めている。だけどね、私は受け止めることが出来ないのですよ。可能性があるなら私はそれに命をかける覚悟までしているのですから」
部屋が重い空気に包まれる。
「自分の命をかけてまでリバースに執着したって奥さんは喜びませんよ!むしろ、狂おしいほどにこだわっているあなたを見て奥さんだって悲しんでるんじゃないですか!?」
アッシュが訴えるが、エイブルは首を振っただけだった。それでもアッシュは続けた。
「リバースはボクたち人間が思っているような術ではありません!だからリバースを完成させたとしても、奥さんは生き返らないんです!」
ついに言い切ってしまった。自分でも確信が無いというのに。
アッシュの言葉に神妙な顔を見せたエイブルだったが、自信気のないアッシュを見抜いたのだろう。
ただ鼻で笑っただけだ。
「・・・誰にも邪魔はさせません。リバースを完成させるまでは・・・妻が私の元に帰ってくるまでは誰も・・・」
空間が今までに無い緊張に包まれる。
「やばいぞ、アッシュ!あいつ、オレたちを殺す気だ!」
「そんな・・・!」
まだ痛む体を何とか奮い立たせ、スレイドが戦闘態勢に入る。
自分の叫びは届かないのかと、己の力の無さにうなだれた時だった。ディクスのすぐそばに転がっているフォースが目に留まった。
ディクスが叩きつけられた時、床に落ちたのだろう。
ドクンッ・・・
フォース・・・だ・・・
アッシュに別の緊張が走る。
「アッシュ、防御の術だ、急げ!」
スレイドが完全防御体勢に入ろうと精神の統一を始めた。しかし、アッシュには届かない。
目の前のフォースに釘付けだ。自分を求めている――――――― そんな気がした。
・・・・・・・・・・・・・。
恐る恐るフォースを手に取る。
ドクンッ!!
フォースがさらに大きく脈打った。
「っ!!」
それと同時に流れ込んでくるもの。アッシュが今一番欲している"記憶"だ。
―――――― リバースはあなた方人間が思っているような術ではありません。
シルバーヒールの言葉が蘇る。
――――――― そうか・・・そうだったんだ!!
その意味がようやく分かった。何故人間は勘違いしているのかと。
「アーッシュッ!!」
どぉぉぉ!!
エイブルが放ってきた術。それに何とか間に合わせたスレイドがアッシュの名を呼ぶ。
バリバリバリッ
スレイドがなんとか押しとどめてはいるが、それも時間の問題だ。
――――― やばい・・・!オレ、もう駄目だ・・・!!
スレイドがいよいよ限界に達しようとした時だった。
「サイレンスッ!!」
アッシュがフォースをかざすと、スレイドのシールドを破壊しようとしていた術が中和される。同時にあのクリスタルにかけられていた術も・・・。
「えっ・・・ああ!!」
ざぁぁ・・・
術が中和され、クリスタルがただの粒になる。それで中の女性があらわになった。
どさっ
同時に術力を使いきったスレイドはその場に倒れた。
「あああああ!!」
エイブルが悲鳴を上げる。
「エイブルさん・・・」
立ち上がったアッシュが声をかけるがエイブルには聞こえてないようだ。
ただただ目の前の現実に悲鳴を上げているだけ。
「あああアッシュ君・・・!!君はなんてことを・・・!君は・・・君は・・・!!!」
ひどく動揺しているようだった。
そんなエイブルをアッシュは悲しげな目で見ると、クリスタルに包まれていた女性に近づく。
「やめたまえ!!何をする気だぁぁぁ!!!」
近づいたアッシュを阻止しようとするが、激しいショックで体が思うように動かないらしい。結局アッシュに近づくことを許してしまった。
「私の妻を奪わないでくれぇぇ!!!」
エイブルさん、今あなたの望みをかなえます・・・
――――――― リバース!」
フォースを手にしたまま、アッシュはもう片方の手で女性の体の一部に触れ・・・そして禁術を発動した。



第18話 第20話
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