D.Force The Second Chapter
Force-20
禁術、その正体
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カッ ・・・・・・・・・・・・・・・。 エイブルの視界が真っ白になる。 「あああ・・・もう・・・もう駄目だ!!!」 白い光の中、絶叫した。そして泣き崩れる。 全ては終わってしまった・・・もう、エレナに会うことはないだろう・・・ エイブルは空間にうずくまるようにして絶望の真っ只中にいた。何故だかずいぶんそうしていたような気がした。 もう望みがかなわないなら、死んでもいい。目的のない人生なんて無いも同然だ・・・ アッシュが彼女の体に触れた瞬間何が起きたのか分からなかった。気づけば泣き崩れる自分がいるだけ。 確かにあの時アッシュは"リバース"という言葉を口にしていた。しかし、目の前に生き返った妻―――― エレナはいない。 ・・・と、不意に聞こえた懐かしい声に顔を上げる。 「・・・・」 しかし目の前にはただの白い空間があるだけ。見れば自分がうずくまっている場所も地面があるのかないのかわからない。浮かんでいるのではないか?そんな気もしてきた。 三百六十度真っ白な中、エイブルはその声の主を探した。 彼はその声の持ち主を知っている。ずっと聞きたくてやまなかった声――――― 「・・・・・・・エレナ・・・?」 ぼんやりと見える人影。やがてそれははっきりと顔が認識できるまでにクリアになる。 「エレナ!!」 健康な時のエレナそのもの。つややかな髪に、健康的な肌。 そう、目の前にはエイブルの妻がいたのだ。 「エレナ、エレナ!!」 エイブルが近づこうと必死にもがくが体が動かない。 「あなた・・・」 「エレナ・・・帰ってきてくれたんだね!!もう・・・もう僕から離れないでくれ!一人は嫌なんだ!」 懇願するエイブルにエレナは微笑んだ。 何故エレナが突然現れたのかどうでも良かった。死んだ彼女が現れたこの白い空間が、あの世ではないかという疑問も今のエイブルに浮かぶはずも無い。 ただ微笑んでいたエレナは手を掲げた。 と、同時にエレナの姿がかき消されたような気がした。突然現れて消えた妻の名前を呼ぼうとしたエイブルの頭の中に在りし日の思い出が全て蘇る。 ――――――― これは・・・!! 初めて会った日、結婚式を挙げた日・・・喧嘩だってした。全ての過去が今現実に起こっているかのように感じる。 そして一つの思い出―――――― 『あなた、見て!この間病気が治った女の子からの手紙よ。ほら、あなたの似顔絵まで同封されてるわ』 『本当だ。良かった、もう病気は完治たようだね。こんな素敵な似顔絵がかけるならもう大丈夫だ』 『ふふっ、そうね。・・・・・・あなた、世界にはたくさん病気や怪我で苦しんでいる人がいるわ。だから私たちもっと頑張りましょうね。私はあまり力になれないけど・・・』 『そんなことないさ。エレナ、君は僕の一番の支えだよ。だから僕は頑張れる。僕は君の望む立派な医者になって見せるよ』 妻に約束したあのひと時が鮮明に蘇る。 彼女が元気だった日々、病気に倒れた日・・・楽しい日々もつらい日々も記憶が再現される。 そして最期の瞬間・・・エイブルがその場にいなかったあの時までたどられた時だった。 「私はあなたから片時も離れません。私はあなたの妻だから・・・」 その声に引き戻される。見れば目の前には先ほどと同じようにエレナが立っていた。 「エレナ・・・」 ゆっくり立ち上がると、よたよたとした足取りでようやく妻のもとにたどり着く。 そして妻を・・・目の前のエレナを力いっぱい抱きしめた。 「有難う・・・エレナ・・・」 「どうか私がいなくなってしまっても失望しないで。多くの人を助けるお医者様になって・・・それが私の一番の願いです」 そう言い終えた瞬間、エレナを抱きしめていた感触が不意になくなる。 「・・・・・・・・」 最後の言葉を言い終えたエレナはその場から消えた。しかし、エイブルはわめき散らすことはしなかった。 彼は彼の使命を思い出したから。妻との約束を果たさなければならないから。 それをかみ締めるように目を閉じ、再び目を開けたときには現実に戻っていた。 そばに横たわっているのは冷たい体のエレナ―――――― 「エイブルさん・・・」 アッシュが心配そうに声をかける。するとエイブルはやわらかい笑みを浮かべた。先ほどの狂乱は嘘のようだ。 「あの・・・リバースですけど・・・」 言いかけたアッシュを制す。 「確かにエレナは生き返ったよ。私にとっては・・・ね。彼女の最後の言葉も聞けました。私はするべき方向を間違っていたようです」 「・・・・・・・・・」 「アッシュ君、君には本当に迷惑をかけましたね。君のことだからひどく悩んだでしょう。申し訳ない」 頭を下げたエイブルにアッシュは首を振った。 「クロードさんや、スレイドさんにもひどいことをしてしまいました。アッシュ君、最後の頼みです。部屋の片づけを手伝っていただけませんか?」 「はい、もちろんです」 「じゃあ、あの二人を。私はエレナをあるべき場所に返します」 そういうと、体の冷たいエレナに触れた。 ―――――― すまなかった、エレナ・・・僕は君にも迷惑をかけてしまったね・・・ 「アッシュ君、しばらくこの部屋から出てもらえますか?」 「あ、はい・・・」 アッシュは急いで気を失っている二人を別の部屋へ移すと扉を閉めた。 「癒しの風よ!」 アッシュが得意の術を二人にかける。 「・・・アッシュ・・・?」 それがすぐに効いたのか、ディクスが目を覚ました。 「クロードさん!すみません、ボクがふがいないばかりに・・・」 「いや・・・いいんだ。・・・エイブルはどうしたんだ?」 「エイブルさんは奥さんをあるべき場所に返すそうです。それから自分のやるべきことを思い出したと」 ディクスが身を起こす。 「リバースはどうなったんだ?どうやって了解させたんだ?あんなにひどい状態だったのに」 ディクスの記憶は狂乱したエイブルの放った術で壁に叩きつけられたところまでしか覚えてない。 「・・・・・・リバースは蘇生の術ではありません」 突然言った言葉にディクスが驚く。 「どういうことだ?」 「リバースは死んだものの記憶をたどる術です。例え命はなくなろうとも、その命を宿していたもの・・・たとえば髪の毛や爪だけでもいいんです。そのものが死に行くその瞬間まで体の一部だったものがとどめている遺言を伝えるのが本来の使い方です。ただ言葉を伝えるだけではありません、幻術を併用することで、まるで生き返ったように感じるために蘇生の術と歌われたのでしょう」 「リバースは体の一部さえあれば、記憶もたどれるというわけなのか・・・?」 「そういうことです。・・・やはり一度命を失ったものは元には戻りません」 ・・・・・・エイブルさんは奥さんの最期を看取ることが出来なかった。奥さんの最後の言葉を聴くことが出来なかったんだ。だからその言葉が聞きたくて蘇生の術に執着した・・・ 「エイブルはそのリバースを理解したってわけか」 「え、ええ。そうです」 恐らくディクスはリバースの意味を言葉で説き伏せたと思っているだろう。しかし、実際はシルバーヒールしか使えないあの術をアッシュは実際に使い、エイブルを正気にしたのだ。 全てはフォースから送られてきた記憶。あのシルバーヒールが言っていたことがようやく理解できた。 「でも、アッシュ。何でそんな事知ってるんだ?」 「えっ!えっと・・・それは・・・」 まさかフォースが教えてくれたなんて言っても信じてはくれないだろう。 「ボク、お医者さんになりたいから・・・ボクも本を読んでいたんです。そしたら昨日偶然にもリバースのことが書いてある本を見つけて・・・」 動揺を隠せ切れなかったが、かえってそれが自然に感じたようだ。ディクスはそれ以上追求しようとしなかった。 「そうか・・・リバースはそういう術だったんだな。人間には死んだものの記憶を読み取ることは出来ないが、シルバーヒールならできるかもしれないな。蘇生の術なんか存在しなかったか」 「どちらにしても、人間には使うことの出来ない術ですから・・・禁術のままでしょうね。それはそれでいいんじゃないかと思います」 自分で言っていておかしいと思う。 人間に使うことの出来ない術・・・ならばどうして自分は行使できたのか? 不安に思いもしたが、フォースのせいだろうと気を取り直す。 「ああ、リバースは禁術で伝説のほうがいいんだ。知らないほうがいい術ってのもあるんだな」 リバースが生み出すであろう、人間の欲望にディクスはため息をついた。リバースが存在することを知れば競ってシルバーヒールは狩り出されるだろう。 「ところで、アッシュ。よくあのエイブルをなだめたなー」 ディクスが感心したように言う。 「そ、そうですか?ボク必死だったから・・・エイブルさんに伝わったんですよ、きっと。エイブルさん根はいい人ですから」 苦しい言い訳をする。 まさかフォースにみなぎる力で使ったことの無い術を使えたなどとは言えない。 「あ、そうだ!クロードさん、フォース落としましたよ」 ずっと握っていたフォースをディクスに返す。 「えっ、ああ、すまん。良かったー、無くしたとか言ったらナチに殺されるところだったよ」 笑いながらポケットの奥にフォースをしまう。 「クロードさんフォース集めてるんですよね?何か目的があるんですか?」 アッシュの問いにディクスが困惑した表情を見せた。 「怖がらないか?」 「怖がらないってどういうことですか?」 「まあまあいいから、怖がらないよな?」 念を押すように言われ、アッシュはうなずいた。 「よーっし、それなら見せよう」 そういうとディクスは先ほど閉まったフォースを取り出した。 手に握るとディクスは深呼吸をして目を閉じた。 「あっ・・・」 その様子を見ていたアッシュが声を上げる。 硬く握ったディクスのこぶしから光が漏れる。やがてその光は強くなり、部屋全体が白くなってしまった。 一瞬、目の前に巨大な竜が暴れ狂う光景が見えたような気がした。 しかし、もっと重要なことが・・・ 「・・・っと・・・こんな感じなんだ」 ディクスが力を封じる。フォースはただの石に戻ってしまった。 「・・・・・・・・・・・・」 光に包まれたその短い時間。アッシュは何か大切なことを忘れているような感覚に襲われた。 それはとても重要なこと・・・自分の存在意義に等しいくらい大事なこと。 今の自分にはそれがなんだか分からない。けれど、そう感じる"理由"を欲している自分に気づいた。 一度目と二度目に触れた時のフォースの感じとはまるで違う。 ――――――― なんだろう?ボクは何かを忘れてるような気がする・・・ こみ上げる思いにアッシュはただ疑問をぶつけることしか出来なかった。 「・・・やっぱり皆同じ反応だな」 ほうけているアッシュを見て、ディクスが苦笑いする。慌てたアッシュは首を振った。 「そ、そんなわけじゃ・・・!ただ、なんだかとても懐かしい感じがして・・・それに、何か昔の事が思い出せそうな気がして・・・」 「昔の事?」 ディクスが訊くとアッシュがうなずいた。ポケットから一枚のカードを取り出し、ディクスに渡す。 「ん、IDカードか・・・アッシュ・イグニッド。出身がエスタ・・・生年月日が・・・」 そこまで来てディクスが言うのをやめる。 「アッシュ、お前・・・」 顔をあげ、アッシュの顔を見るとアッシュは困惑したような表情を見せた。 「二十七・・・か?」 言うと、アッシュは恥ずかしそうにうなずいた。 「でも、最初は十四歳って・・・」 「すみません、だますつもりはなかったんです。だけど・・・本当のことを言えば皆が遠ざかってしまうような気がして・・・。だからボク、拾われた時からずっと十四歳のままで通してきてるんです。ボク、十三年前以前の記憶を持っていないから・・・」 「・・・」 ―――――――― だからさっき不老不死の事を訊いてきたのか・・・ 「アッシュという名前はボクを拾ってくれた老夫婦がつけてくれた名前です。彼らは八年前になくなってしまいましたけど。ずっと黙ってきた事です。だけど、クロードさんなら話してもいいような気がして。ごめんなさい、混乱するようなこと言ってしまって」 「いや、いいんだ。有難う、信頼してくれて」 「ボク、クロードさんのこと凄く好きだし、とても尊敬してます。ボクこそ、フォース有難うございました。信頼して、見せてくれた事を嬉しく思います」 そう言って笑った。 「一部の記憶はなくなってしまったけど、ボク今が幸せだから気にしてません。ただ年をとらないのがちょっと気になりますけど、それはそれで悪いことじゃないですしね!」 「そうだなー。俺だって外見全然変わってないしな。・・・まあ、昔からふけ顔だったってだけなんだが」 苦笑したディクスにアッシュが笑った。 「ま、誰でも人と違うところを持ってるってわけだ。俺だってフォースのことがあるし・・・それはそれでいいよな。今は個性が大事な時代なんだから」 意味が微妙に違う気もしたが、アッシュは嬉しそうにうなずく。 「ところで、アッシュ。エイブルは・・・」 「お待たせしました」 タイミングよく、エイブルが顔を見せた。手に小さな瓶を持って。 「エイブルさん・・・」 「クロードさん、アッシュ君、今は気を失っているがスレイドさんも・・・本当にすみませんでした。 私は本来すべきことを忘れていました。妻との約束を・・・。でも、全ては終わりました。今までの研究を破棄して私は自分の進むべき道を歩んで行こうと思います」 言い終え、小瓶を少し掲げた。 「明日にでもこの小瓶を海に返そうと思います。妻は海が好きでしたから」 いとおしそうにその小瓶を見つめた後、大事に袋にしまった。 「エイブルさん、これからどうするんですか?」 「私の目指すべき道は多くの人を助ける医者です。次のマスターの取得試験で合格したらデルタを出るつもりです。そして修行を積んだらまたこの地に戻ってこようと思います。次は必ず・・・」 「そうですね。エイブルさん、あなたならきっとなれるでしょう。俺に深手を負わせた位ですから。その分しっかり病気で苦しんでる人を治してあげてください」 ディクスが言うとエイブルが苦笑した。 「あの時は本当にすみませんでした。でも、私はとても運が良かった。クロードさんやアッシュ君のような優秀な術者に出会えたのですから」 「次のマスター取得の試験、合格するといいですね。ボク応援してます!そしてボクも取得して・・・エイブルさんに負けないくらいのお医者さんになります」 意気込んで言う。 アッシュの夢、それはエイブルの本来の夢と同じものだった。ずっと心に決めていた目標だ。 「アッシュ、俺たちはそろそろ帰るか。スレイドも家につれて帰ってやったほうがいいだろ」 「そうですね、スレイドさんはボクが見ます。いつも迷惑かけてばかりでしたから」 術力を使い果たしたスレイドは眠り込んでいる。 抱えて家に運ぶしかないようだ。 「仕方ない、俺が運んでやるか」 ディクスがスレイドの肩を持った。 「アッシュ君、ちょっと・・・」 ディクスがスレイドのことをしている間にアッシュをあの部屋に呼んだ。 あの隠し部屋には何もなかった。遺体も、クリスタルのくずも。 「君にこれを渡しておきましょう。きっと役に立つはずです。もう絶版だからなかなか手に入らないんですよ」 そういって分厚い本を手渡した。その見覚えある装丁にアッシュが驚く。 「エイブルさんこの本・・・」 リバースをかけたあの時、アッシュも体感した記憶の中に出てきた本。エレナがエイブルにプレゼントした本だった。 「こんなに大切なものを・・・」 「いいんですよ、アッシュ君。これからの事に役立ててください。君には本当に感謝しているのです。有難う」 「ボクこそ、エイブルさんにはたくさんの事を教えてもらいました」 「アッシュ君、これから色々悲しい事、嬉しい事があると思います。でも、それはアッシュ君がアッシュ君であるからこそ起こる事だということを忘れないでください。・・・・・・これからも自分らしくあってくださいね」 「はい・・・!」 本を受け取り、アッシュは力強くうなずいた。 リバースを発動している時、見た記憶と全く同じ本。少し年代は感じるが紛れもなくあの本であることを確信した。 裏表紙にはこう書いてある。 『最高のお医者様へ』 その文字に触れる。何故だから強く勇気付けられたような気がした。 ―――――― ボク、頑張らなくちゃ。たくさんの人のお役に立たなくちゃ! 前以上に心に強く思い描く夢。ほんの少しだけ近づいたように感じた。 「・・・・・・・」 闇にまぎれるように身を潜めているものがあった。 一部始終を見ていたそれは、確信を得ると音も無くその場から姿を消した。 |