D.Force The Second Chapter
Force-24
貴方の瞳にロックオン
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長すぎるテーブル。その一角に四人は座っていた。 スティングの隣にはエルトシャンが、そして彼らの前にネイシャンとシャーリーンが座っていた。ディクスとナチはスティングの後ろに控えている。 「まぁ♪エンドレス産のレム貝!わたしこれ好きなんですのよ」 目の前に出された料理を見てネイシャンが嬉しそうに言う。 さすがはアルヴィスの王族を迎えているだけあって料理は豪華絢爛。色とりどりの温野菜に、鶏肉に牛肉、魚介類。年代物のワインや、ビール各種も置いてあった。 そこで目をぎらぎら光らせていたのがディクスだ。料理が運ばれてくるたびに、それを凝視している。食べることが出来ない分、見極めて自分の料理のレパートリーに入れようと必死なのだ。 「スティング王子。あのブルーフォースだけど、どの辺りまで拡大するおつもりですか?」 影の薄いエルトシャンが尋ねる。 「出来れば、エンドレスと同盟を結んでいる国には全て建設したいと考えています。飛空挺なら、ディオール大陸中を文字通りひとっ飛びですから。エルト王子、僕からも協力をよろしくお願いします」 「もちろんです。スティング王子は私の兄のような存在ですし、何よりエンドレスは古くからの友好国じゃないですか。私も一つとは言わず、主要都市には建設したいと、そう思います」 影は薄くともさすがはアルヴィス国の王位継承者。自分がすべきことはしっかりわかっているようだ。 しかし、スティングと話している様子を面白くなさそうに見ているのがネイシャンだ。エルトシャンばかり話しているのが気に入らないらしい。 「スティング様!これからご予定は?宜しかったら散歩でもいかがです?今日は満月ですから、きっと月の光に祝福されて二人の愛も・・・」 「そうですか!アルヴィスでも、術の強化政策を。エンドレスでは兄のアルバートがその政策に携わっているんですよ。一度話されたらどうです?」 「ええ、私も創めたばかりで助言を求めていたところです。お暇があればアルバート様と、是非」 完全無視のようだ。その様子を見てシャーリーンが笑っている。 そのシャーリーンの食べかけの皿を狙っているものが一人。 ・・・・・・あの肉はグラン産、最高級の牛肉。添えられているにんにくが臭みを消し、何度も叩いて柔らかくすることで、あの厚みでも食べられるようになっているってわけか・・・ソースは濃い味で添えられ、そばの温野菜がその濃さを緩和している・・・この匂い、ソースはトマトがベースとなってること間違いなし・・・!! 目を光らせて頭の中で分析する。食べてもいないのに、料理の味わいが口に広がっているようだ。 一人でレシピをつらつらと完成させている。 そんなディクスを見ていたナチは呆れ顔だ。仕事が終われば作りにかかることは必至だ。 その視線にシャーリーンがいよいよ気づく。自分の皿を凝視しているディクスを見て不思議そうな顔をした。 「・・・・・・・そう言えば、スティング様。レイルとライアはどうしたんですの?いつもは彼らがおそばについてると思ったんですけど・・・」 シャーリーンが問いかけるとスティングはあいまいに笑って見せた。 「ええ、ちょっと急用で。代わりに彼ら二人に頼んでいるんですよ」 そういってディクスとナチの方を向く。話をふられ、ディクスはようやく皿から視線をはずした。 「初めまして、ナチュラル・クロードです」 「私はディクス・クロードです」 変人でも相手は王族だ。二人とも丁寧に対応する。 「あら、兄妹なの。どうりで似てると思ったわ」 ネイシャンの一言。 ぐさっ ナチに何かが突き刺さる。そしてふっとため息をついた。 ・・・・・・ナチのやつ・・・!!! その様子に気づいたディクスがナチをにらむ。 「ディクス・・・クロード・・・」 そんなディクスを見て、今度はシャーリーンが口を挟む。ナイフとフォークを持ったまま、ぽーっと見ている。 彼女の視線に気づき、ディクスも視線を移す。そして、ぶつかった。 ―――――――― なんだ・・・? するとシャーリーンがにこっと笑った。つられてディクスも思わず微笑む。 「ところで、今回は視察に来られたとお聞きしましたが、明日以降どちらへ?」 スティングが訊く。 「私はスティング様と・・・」 「明日は学術院のほうの視察をしたいと思っています。それから、飛空挺の離着陸機地の視察・・・できれば、もう一度ブルーフォースの内部を見せていただけたらと思うのですが」 再びネイシャンの言葉をさえぎってエルトシャンが続ける。 「エルト!人が話しているのにどうして貴方はいつも邪魔するの?そんなにスティング様との仲を嫉妬するのなら、エルト、いくら貴方とはいえ私は容赦しませんよ!」 先ほどから不発に終わっている発言を怒っているネイシャンがエルトシャンに指を突きつけている。本気のようだ。 「ネイシャン、私達は遊びに来たんじゃないんですよ。今回は視察です。ちゃんと説明したじゃないですか」 「だから私はスティング様を視察しに来たんです。エルト、そんなにデルタを視察したいなら貴方一人でお行きなさいな。私はスティング様と一緒にいます」 当たり前のように言ったネイシャンに、スティングは涙目だ。 第一王位継承者も大変ね・・・ その様子を見ていたナチがしみじみ思う。 なあ、ナチ・・・ 隣でスティングを哀れみの目で見ているナチにディクスがつつく。 ん?何? あれ・・・ ディクスが目で指した先。シャーリーンがこちらをにこにこしながら見ている。 ・・・・・・なんか、嬉しそうだね・・・ディクス、何か顔芸やった? そんなことするか!・・・俺だってわからないんだ。ただ単にさっきから料理を眺めてただけでさ。 ふーん・・・ ナチの頭にもしかしたら・・・という考えがよぎったが、まさかディクスに限ってと思い直し、押しとどめた。 やがて、メインディッシュも終わり、最後のデザートも食べ終えたところでエルトシャンが立ち上がった。 「それでは、今日はこれで失礼します。スティング王子、お忙しいの突然済みませんでした」 「いいえ、こちらこそ。十分なおもてなしも出来ずに申し訳ないです。せめて視察で何か得るものがあればと思うのですが」 「期待しています。・・・ネイシャン、シャーリーン」 言うとしぶしぶながら二人も席を立った。 「スティング様・・・残念ですわ・・・。明日こそ将来を語らいましょうね」 惜しみつつ、エルトシャンに引きずられるようにして部屋を出た。 「ご安心ください、スティング様。ネイシャンはわたくしの術に掛けて拘束いたします。安心してお休みになってくださいね」 「シャーリーン王女、是非ともお願いします」 スティングは心から深くそう願った。 「それではわたくしも失礼させていただきます。また、明日」 そして続いて部屋を後にしたのだった。 部屋の中が三人だけになると、スティングはいそいそと部屋の鍵を閉めた。 「お疲れ様!」 ナチが言うとスティングは苦笑いをした。 「ディクスもナチも、長い時間有難うございました」 「立っているのは慣れてるもんな。まあ、さすがに疲れたけど」 「スティングこそ大丈夫?ほとんど料理に手を付けてなかったように思ったんだけど」 スティングの後ろに控えていたナチだったが、彼の目の前の料理はほとんど手が付けられていないように感じたのだ。 「ええ、大丈夫です。別に用意してありますから」 そういうと別の扉へ行き、メイドと共に戻ってきた。そして、誰も座っていないテーブルに三人分の料理が並べられた。大きな皿に所狭しと料理が詰まっている状態ではあったが、先ほど出てきた料理に間違いはないようだ。 「スティング、これ・・・」 ディクスとナチが目を丸くする。 「セカンダリの世話をしてもらっているお礼です。さあ、冷めないうちに食べましょう」 スティングが席に着くと、ディクスとナチは顔を見合わせそれから同じように席に着いた。 「ほんとうにいいの?わたしたちバイトの従者なのに・・・」 なんとなく悪いと思っているのか、ナチは遠慮がちだ。 「僕はディクスやナチがただのバイトの従者だとは思っていませんよ」 「―――――― 下僕って事か・・・」 「えっ!?」 スティングの言葉にディクスが悲しそうにつぶやく。ナチは疑惑の表情でスティングを見ている。 ――――― そ、そんな違っ・・・!!! 「そんなわけないじゃないですか!バイトだろうとディクスとナチは僕の仲間だって意味です!」 スティングは大慌てだ。 「ディクス!いい加減なこと言わないでくださいよ!僕、二人を信頼してるからセカンダリの事だって頼んだんですよ」 しかし、叫びむなしく二人の視線は冷たかった。 「お願いですから信じてください・・・」 がくっとうなだれて泣きそうな声で言う。するとナチが笑った。 「ごめんごめん、大丈夫よ!わたしディクスの言うこと信じてないもん!それより早く食べよう?わたし凄くお腹空いちゃった」 ナイフとフォークを手に持つ。 ナチの言葉にぽかんとしているスティングを見てディクスが苦笑する。 「お前、相当ストレスたまってるな。あんな言葉に動揺するなんて、らしくないぞ」 言いながらディクスも手にする。 それでようやくからかわれたことに気づく。 「お願いですからからかわないでください・・・」 スティングは安心半分、料理を口にしたのだった。 デザート共に出された紅茶の甘い香りが部屋に広がる。食事も終え、三人はだいぶリラックスした状態だった。スティングも緊張が解けたのだろう。珍しく椅子にだらーっと座っている。 「それで、あの三人は明日から視察するのか?」 最後の紅茶を味わいながらディクスが訊く。するとスティングは座り直して深刻な顔でうなずいた。 「ええ。エルトシャン王子の言うように、学術院、エントランスブルー、そしてブルーフォースの見学をするんだと思います。もちろんそのときは僕も同行しますけど」 「あの王女様二人も一緒に?」 ナチが言うと、スティングは持っていたティーカップをテーブルに置いた。 「そうでしょうね・・・」 スティングのテンションが急激に下がる。 「でも、まあ、ネイシャンとかいう王女だけ気をつければいいんじゃないか?どうもお前のことを追い掛け回しているのはあいつだけみたいだし」 「そうなんですよね。シャーリーン王女は大人になったと思います。彼女も昔はネイシャン王女並に凄かったですから。エリオスが・・・」 言いかけて口を閉ざす。そして紅茶を飲んで隠そうとした。 「エリオスさんがなんなの?スティングさっきもなんか意味深なこと言ったよね」 しかし、ディクスとナチが見逃すわけはない。スティングに吐かせようと身を乗り出した。 「えーっと・・・」 スティングは視線をそらして逃げようとする。 「じゃあ、エリオスさんに直接訊こうかな?」 「言いますっ!」 さすがにそれはまずいと思ったのだろう。スティングは反射的に叫んだ。 ――――――― しまっ・・・! しかし後の祭りである。勝ち誇った顔を二人を見て、ため息をついた。 「・・・・・・奪われたんです」 「ナチはあっちに行きなさい」 ディクスがびしっと言う。 「えー、なんでよー!奪われたって・・・なんか盗られたの?」 「―――――― 多分、ディクスも、ナチも勘違いしてると思うんですけど・・・」 スティングが苦笑いする。 「奪われたのは唇ですよ」 観念したように言ったスティングに、ナチは驚きの表情をした。 「なんだ、そんなことか・・・」 ディクスはつまらなさそうにつぶやいた。 「ディクスはなんだと思ったのよ?」 「それは言えない」 きっぱり言ったディクスにナチは不服そうだった。 「でも、ファーストキス奪われちゃったんだ・・・それはショックよね。可哀相・・・」 「・・・・・・お前はどうなんだ、スティング」 「えっ!?」 痛いところを突かれ、思わず声を上げる。 「お前の弟がそういう被害にあってるんだったらお前も何かやらかされたんじゃないか?」 「そ、それは・・・」 目を移せば、ナチも興味津々の目つきでこちらを見ている。 「――――――― 僕はまだ奪われてないから大丈夫です・・・」 未遂だけど・・・! 心の中で付け加える。 「そんなもんか・・・」 ディクスはまたつまらなさそうにつぶやく。 「そんなもんって・・・僕たちにとっては死活問題なんですよ!ディクスにはリーンさんという女性がいたから分からないでしょうけど!」 「!」 リーンという言葉にディクスが過剰反応する。 あらら・・・言っちゃった・・・ ナチが気まずそうな顔でディクスを見る。すると当の本人は顔を引きつらせている。それでも何とか平静を保とうと必死のようだ。 「・・・ふっ・・・男も人生色々だからな・・・」 髪をかき上げて遠い目をする。 色々と突込みどころ満載だが、あえてスティングは口には出さなかった。それこそディクスをトリップさせる原因になるからだ。今はアルヴィスの三つ子という天敵がいる。 もし、ディクスという戦力を失えば自分に多大な被害が及ぶことは承知済みだ。 ・・・・・・・ここでディクスを失うわけには行きません。今度色々突っ込んでみよう。 意外に腹黒いスティングだった。 「ったく・・・スティングのやつ・・・」 支給された制服を脱ぎ、普段着に着替えたディクスは宮殿内を堂々と歩いていた。宮殿外の警備を厳重にしている中、その内部は意外にも人はいない。 長い廊下を割り当てられた部屋に向かって歩く。 人がいない事をいいことにディクスはスティングの悪口ばかりつぶやいていた。 「一番痛いところ突きやがって・・・」 苦々しくぼそっとつぶやく。 ナチはすでに別の部屋で就寝しているはずだ。ディクスは一度館に戻り、セカンダリの世話をして再び戻ってきたのだ。 スティングに何かあったときすぐに対処できるよう、彼の部屋に程近い部屋に入る。 「あ〜あ!」 大きく伸びをしながら部屋に入った。その時だ。 「お帰りなさいませ」 「へっ!?」 誰もいないはずの部屋から突然声がし、驚く。なんとなく聞き覚えのあるその声に嫌な予感がよぎる。そうだ、彼女はディクスに意味深な笑みを残して去った・・・ 「まさか・・・シャーリーン王女・・・?」 ディクスが声を上げると、声の主は嬉しそうに笑った。 「ええ、そうですわ。覚えていただけて光栄です」 先ほどと違う簡素なドレスに身を包んだシャーリーン。腰を落ち着けていたベッドから立ち上がると、上品な足取りでディクスに近づいた。その一歩一歩にディクスもあわせて後ずさる。 「どうして貴方がここに・・・?」 まさかの事態にディクスの声がかすれる。部屋に鍵はしなかった。しかし、誰も入ることが出来ぬよう、術をかけておいたのだ。それなのに・・・ 「アルヴィスはシルバーヒールを重んじる国ですわ。このくらいのプロテクトの術、破れなくては王女は務まりません」 嘘っ!?そ、そんな・・・!俺の術が・・・って、そんなこと訊いてるんじゃない! 「そうではなくて、どうしてこの部屋にいらっしゃるんですか?王女のお部屋はここではないはずですが・・・」 彼ら三人に用意された部屋は別の建物だ。途中、こちらの建物をつなぐ連絡通路が唯一であるが・・・。 「もう一度申し上げますと、わたくしはアルヴィス国きっての術者ですわ。そこら辺の傭兵などわたくしの術でいちころです。恋路を邪魔する人にはわたくし容赦いたしませんの」 ディクスの不審な表情に気づいたシャーリーンが悪気もなく当たり前のように言う。 しかし、ディクスはある言葉に全身に寒気が走る。 "――――――― 恋路を邪魔する人にはわたくし容赦いたしませんの" 恋路を邪魔する・・・恋路っ!? 「おっ、俺はあんたとスティングの恋路を邪魔した覚えはないぞ!俺は臨時のアルバイトなんだ!だから何も悪くない、冤罪だ!!」 素で叫ぶ。 恋路を邪魔するものには容赦しない・・・それはスティングへのアピールを邪魔すれば、ディクスも巻き添えにする・・・そう言っているようなものだ。 ところが、シャーリーンは鈍感なディクスにくすっと笑っただけだ。 「・・・?」 「何をおっしゃっているのですか?わたくしはスティング様とではなく、貴方との恋路を築くために邪魔な傭兵をはらってこちらまで赴いたのです。わたくし、この部屋で待っていたのですけれど、待ちくたびれましたわ!」 そう言うと、いきなり抱きつこうとしてディクスにかわされる。 「なななななな、何ぃぃぃっ!?」 シャーリーンの言葉に大声で叫ぶ。シャーリーンはスティングではなく、ディクスを狙ってやってきたのだ。部屋にまで侵入してきて・・・。 「わたくし一般市民と恋に落ちるなんて絶対にごめんだと思っていましたの・・・でも、今夜、貴方のあの眼差しを見てわたくし考えが変わりました」 ―――――― 眼差し・・・? 覚えのない事に記憶をめぐらせる。確かに一度目が合った時、笑いかけはしたが・・・ 「貴方のあの真剣な眼差し。でも、その瞳は優しさに満ち溢れていましたわ。わたくしのことを一般市民の身でありながらも知ろうと、目で追っていた事・・・その目の輝き、わたくしは負けましたわ」 胸に手を当ててうっとりと告げる。 ディクスの頭の中は嵐の真っ只中、完全に勘違いをしているシャーリーンにどう対応してよいか分からないでいる。 ちっ、違っ・・・あの視線は・・・ 真剣な眼差し、それはディクスがシャーリーンの皿の上の料理を凝視している様子、そしてやさしさに満ち溢れているその瞳は、レシピを思い浮かべている時の満足げな瞳。さらに、目の輝きはまさに料理を出来る限り目で解析しようと光らせているまさにその時だ。 つまり、ディクスはシャーリーンに恋したのではなく、皿の上の料理に恋をしているようなものだのだ。しかし運悪く、シャーリーンはその視線が自分に向けられたものだと勘違いしてしまったらしい。 「わたくし、貴方のその瞳にやられましたわ。スティング様の緋色の瞳よりも深く、美しく、そして優しい・・・。明るいその瞳・・・まさに深海にただ一つ輝く水の輝石。ただ一つわずかな光をその中に閉じ込め、見るものを魅了する罪深き蒼。わたくしが今まで見てきた蒼のなかでも最高の輝きですわ」 ぞぞぞぞっ シャーリーンの言葉に鳥肌が立つ。 ぴ、ピーンチッ!! ・・・・・・部屋にいるのは二人だけ・・・なんでいないんだ、ナチ、スティーングッ!! 心の中で大絶叫する。 しかし、ディクスの慌てようとは裏腹に、シャーリーンはただ微笑んでいるだけだ。ディクスが動揺しているのを楽しんでいるようにも見える。 そ、そうだ・・・部屋を出よう!そうすればなんとかなる! すぐ近くの部屋で待機しているナチに助けを求めるつもりだった。一人ならいざ知らず、二人なら何とかなるだろう・・・か?ならばスティングも巻き込んで三人で・・・も、無理な気がした。 こういうシチュエーションはディクスの一番苦手とするものだ。相手が女ではそう術を放つわけにも行かない。・・・それよりも、相手はアルヴィスの王女だ。 下手に術を発動させて怪我でもさせたらディクスの首が飛ぶ。 「あ、あの・・・シャーリーン王女・・・」 「はい、なんでしょう?」 ようやく声をかけられ、シャーリーンは嬉しそうに口にした。 ―――――― 私には将来を誓い合った人が・・・ そう、大嘘をつこうとした時だ。 「きゃあああああああっっ!!!」 静かな宮殿に響き渡る悲鳴。突然の事にディクスは飛び上がった。シャーリーンはというと、その叫び声を聞いて非常に落胆した様子を見せていた。 「い、今のは・・・」 誰にともなくつぶやく。するとシャーリーンがため息をついた。 「スティング様・・・ですわね。――――― どうやら一杯食わされたようです」 さっきの様子とは打って変わって、神妙な顔をしている。何がなんだか分からないディクスはただ立ち尽くしているだけだ。 「ネイシャンですわ。恐らくスティング様のお部屋に忍び込んだのでしょう。わたくし、ここに来る前に術で眠らせたのですけど・・・どうやら防がれていたようです」 そう告げ、まだほうけているディクスの前を通って部屋の外に出た。 「―――――― 残念ですわ・・・。今宵は貴方と共に将来を語ろうと思っていましたのに。でも、スティング様と交わした契りを破るわけには参りません。わたくしネイシャンをもう一度術で拘束いたします。それでは失礼いたします。良い夢を」 言い残すと扉の向こうへ消えてしまった。 「・・・・・・・はっ!!」 がちゃっ 我にかえると、ディクスは扉に飛びつき、鍵を掛けた。これなら術でも入ることは叶わないはずだ。 本当ならシャーリーンよりも早くスティングの様子を見るべきだが・・・この時のディクスはいつもより白状だった。 ――――――― スティング、頑張れ!これも試練だ! そういい聞かせ、ディクスはその夜、部屋から一歩も出なかった。 |