D.Force The Second Chapter
Force-26
隠蔽
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朝からどうしても気になる事があった。 どうして彼がここにいるのか?そして、どうしてあの制服を着ているのか?彼は学術院の院生ではなかったのか・・・? 考えるたびに新しい疑問が生まれる。そして、どれ一つとして解決するものはなかった。 従者のナーシャに聞こうとしても、彼女は今日はデルタにはいない。レイルや、イリアスといったほかの従者と共にここデルタを離れているのだ。そういえばスティングのもう一人の従者、ライアの姿も見当たらない。 だとしたら彼はその埋め合わせなのだろうか・・・?緊急事態でもないのに素人を従者に抜擢するのか? がたっ 席を立つ。 ――――――― そういえば・・・ 思い返せばおかしいのはこれだけではない。昨日からエントランスブルーの立ち入りを制限され、そしてスティングの部屋へ近づくのも禁止されていたのだ。今までこんな事はなかったというのに。 しかも、城内もあわただしい。何かに怯えてもいるように見えるのだが・・・。 何か良くないことが起こりそうな気がしてならない。悪寒に不安がよぎる。 「はっきりさせておいたほうがいいな」 自分だけ何も知らないのは歯がゆい。エリオスはこのデルタで何が起きているのか知るべく、できるだけ部屋にとどまるようにと言われたナーシャの言葉をふりきり、部屋から出た。 心配をよそに、シャーリーンは思ったほどディクスに付きまとうことはなかった。向けるまなざしは他のものとは多少違うものの、ネイシャンのように二人きりになろうなどと実力行使に出ようとはしない。 ほっとしつつも、後で何かやらかされるのではないかと、ディクスは内心冷や冷やしていた。 「スティング王子、あれが管制室ですね」 エントランスブルーに来た六人。エルトシャンが向こうに見える建物を指差した。 ブルーフォースから降り立った時は疲れていて気づかなかった建物だ。 「ええ、あそこでブルーフォースのシステム管理をしてるんです。このエントランスブルーの全てはあの場所で管理されています」 「マインドリンゲージシステム(MLS)を搭載した機体は一機しかないのですか?」 見渡す限りの広大なアスファルトの地面。しかし、そこにあるのはアルヴィスでも見慣れた普通の飛空挺だった。MLSを搭載した特異な機体はブルーフォース以外見受けられなかったのだ。 「試作機は何機かあるのですが・・・実際に稼動しているのはあのブルーフォースだけなんです。それにパイロットは一人だけ・・・。機体が何機もあってもそれを操る術者がいないと意味がありませんしね」 苦笑する。実際そうだった。ブルーフォースの現パイロット、ハルキ・ヴィストルは候補の中でも抜きん出た一材だった。彼と同じ技術を持つものを探すのはそう簡単ではない。 そして、面倒なことに機体との相性もある。ヴィストルに敵うものが現れたとしても、機体が拒否をすればそれまでだ。そのあたりはどうにもならない。 「そうですか・・・。やはりMLSは凄い技術ですね。正直、ディオール大陸の科学というものはリディア大陸に遠く及ばないと思っていたのですが、これならば引けを取らないでしょう。さすがはエンドレスです」 「リディア大陸の支援がなければ実現しなかった計画です。エンドレスだけの力ではありません。それに、エンドレスにはまだまだやれなければならないことがあります。―――――― なによりも、術を衰退させてはならない・・・」 スティングの表情がふと暗くなる。すると、エルトシャンも痛感しているように目を伏せた。 「わが国もです。エンドレスだけではない、ディオール大陸全土がその危機に脅かされている・・・ネルディアス大陸が使っている魔法と呼ばれているもののように、術は先天的なものではありません。ですが、人々が使おうとしなければ、やがてその存在は伝説となる・・・。大げさだと言われるかもしれませんが、これくらいの危機感は持っておかなければと、自身に言い聞かせているのです」 アルヴィス国でも同じ現状のようだ。それゆえ、エンドレスが以前から行っていた学術院の設置を行おうとしているのだ。 「しかしスティング様、安心してください。エルトシャンはともかく、私はアルヴィスでも有数の術者です。必ずこの大陸を潤すほどの術者を生み出して見せます。それがアルヴィス国の王女の務めなのですから―――――― それに、このエンドレスでの屈指の術者のスティング様が加われば鬼に金棒です!」 こぶしに力を込めて力説する。頼もしく思うものの、スティングは最後の言葉が引っかかって素直にうなずけなかった。 「わたくしもですわ、スティング様。他国もこの状況に危機感を抱いております。お一人ならともかく・・・、しかし、大陸全土がその力を見せれば必ずや成果は現れるでしょう」 「ええ、そう願います」 アルヴィスもエンドレスも切実だ。普段はともあれ、国の危機監理に関してはさすがに王族の血を備えているだけあって真剣そのものだ。 「学術院、是非とも成功させてください。エルトシャン王子」 「はい。エンドレスに習い、わが国でも必ず・・・」 二つの国の誓いが固く交わされた瞬間だ。 様子を見ていたディクスとナチも思わず拍手をしたい気分になった。 と、同時に、いつもこんなに真面目だったら・・・。そう思う。 はふっ・・・ 思わずあくびが出てしまう。ディクスはあの夢のせいで深く眠れなかったのだ。目の端に涙を溜め、目をしばしばさせたときだ。 ―――――― あっ・・・ 不意にシャーリーンと目が合う。びくっとするも、思わず笑んでしまう。シャーリーンもおかしそうに見ている。あくびをしているところを見ていたらしい。 ・・・やっぱ俺って立場ないな・・・ 自分でやっていて情けなく思う。 ごおぉぉぉぉっ・・・ 腹に響く轟音。第一衝撃緩和システムで中和し切れなかった振動が六人を襲う。巨大な機体が太陽の光にきらめいて少しずつ動き出した。 「綺麗・・・」 ネイシャンがつぶやく。光を反射し、その輝きを増した機体は空に浮かぶ巨大な宝石だ。六人の視界がさえぎられる。と、次の瞬間、爆音をともに、ブルーフォースは目的地めがけて発進した。 目で追うが、機体は瞬く間に彼方へと消えてしまった。 「さすがですわね。わたくし、乗っている時は気づかなかったのですけど、振動が結構きますわね」 興奮気味にシャーリーンが言う。 「そうなんですか?機体の中はあまり騒音が聞こえないみたいですね。こうやって間近で見るとすごいんですけど」 「あら?スティング様はお乗りになったことがないのですか?」 「ええ、実は・・・。自分が指揮を取っていてなんですが・・・なかなか機会がなくて、ブルーフォースに乗った事がないんです」 そう苦笑いをする。ブルーフォースがエントランスブルーを飛び立つ機会は何度となくあった。しかし、スティングはその機会を全て逃していた。理由はただ単に忙しかったというだけなのだが。 「まあ、そうだったんですね!でも心配ありませんわ、スティング様。明日、私たちと一緒に乗りましょう。今度はアルヴィスが総力を挙げてスティング様をお迎えしますわ!」 名案とでも言うようにネイシャンが声を上げるが、スティングは慌てて首を振った。 「・・・・・・そうですか・・・。お忙しいのですね。それならば仕方ありません。アルヴィスはスティング様に合う純白の衣装を用意してます。それを着ていただく日を心待ちにしております」 目が冗談じゃないところがやばい。 ・・・・・・っていうか、僕は婿養子・・・? 別の緊張が走り、スティングは戦慄した。 「ねえ、ディクス」 まだ眠そうなディクスをナチが声をかける。 「・・・・・・・んん?なんだ?」 「やっぱリスティングってネイシャン王女と結婚するのかな?」 彼にネイシャン王女がフィアンセなのかと訊いた時も否定はしなかった。それに、さっきから会話を聞いていると、どう考えても将来は決まっているような気がしてならない。 「――――――― さあ・・・?」 気のない返事にナチがむっとする。 「珍しいな、気になるのか?」 にま〜っと嬉しそうに笑ったディクスにナチは首を振った。 「珍しくないし、当たり前よ。ディクスは気にならないの?」 「馬鹿言うな!俺はアイツをそういう対象として見てない」 口を尖らせて言ったディクスにナチはがくっと肩を落とした。 「あのね・・・誰がそういう対象で見てるって言ったのよ!そうじゃなくても仲間なんだから気になるでしょ?」 彼らの言うそういう対象とは恋愛対象ということだ。ディクスは当然、ナチもそういう目では見てないようだ。 「まぁ、そう言われたらそうだけど・・・」 自信なさ気に言う。本当に気にしてないようだ。 「でもなんで急に?」 「んー・・・?ほら、ディクスが緋鳥と戦って、その日の夜湖でキャンプしたことがあったでしょ?」 ラグーンから戻ってきた直後のことだ。サイレシアという町からレストリアという町に移動している途中、モンスターと戦い、ダウンしてしまったディクスのおかげで野宿する羽目になったことがあったのだ。 「そんな事もあったな」 「その時言ってたのよ、スティング。エンドレスを変えたいって」 視線を移したその先には相変わらず迫っているネイシャンにわたわたしているスティングだった。今見る限るではとても未来の大国を担う国王には見えない。 「エンドレスを変えたい・・・か。あいつらしいな」 ディクスが思いをめぐらす。 そういや、酒場でそんなことも言ってたな、あいつ・・・ ――――――― あくまでも候補です。そんな地位、どうにでもなりますよ。 そうやって自嘲気味に笑っていた彼の顔が脳裏をよぎる。 「だから、もしスティングが決められた人と結婚するんだったら、それこそ変える事が困難になっちゃうんじゃないかなって。別にスティングが他の王族と結婚するのを反対しているわけじゃないのよ。だけど・・・」 「それをはねつけるも、受け入れるものスティング次第だ。俺たちが介入できるようなことじゃないさ」 長きにわたって続いてきた伝統。それを変えたいと願っている人物。 彼がそのために何らかの行動を起こせば、それは必ず大きな波となってエンドレスの脅威となるだろう。 ――――――― ええ。でも今そんな事ぼやいたりでもしたら多分継承権剥奪されちゃいそうですけどね! 胸中を告白した後、スティングはそう言っていた。本当の思いを口にすれば、エンドレスはスティングの存在を否定するだろう。本人からしてみれば、今までの人生を無駄にするようなものだ。 それゆえ、伝統と相反する願いは、スティングの中でわだかまりとしてとどまっている。 「そう・・・だね」 「――――― そろそろ助け舟出すか、行くぞナチ」 からかわれ半分のスティングのところに二人は駆け寄った。 「え、エリオス様!お戻りください!」 エントランスブルーに差し掛かった時だった。警備をしているものがエリオスにすがりつく。 「どうして私は中に入ってはいけないんだ?公式に出ている礼状はあるのか?」 エリオスは止める声を聞かずにどんどん先へと進んでいく。そのたびに周囲は慌てた。 「エントランスブルーには入らないほうがエリオス様のためです!ですからどうかお戻り下さい!」 「私のため・・・だと?何の話だ?」 立ち止まって訊く。すると口にした警備員が気まずそうな顔をした。口を閉ざしてエリオスから目をそらす。 「―――――― ならば直接確認しに行く」 人をかき分け、エリオスは立ち入ってはならない場所に足を進めた。 ヒュゥゥ 風がふきぬける場所。エントランスブルーにエリオスはただ一人立っていた。 「・・・・・・何もないじゃないか」 辺りを見渡しても自分の障害となるようなものはない。いつもの光景が広がっているだけ。 なのにどうして周囲はあんなにも自分を止めようとしたのか。 「ふむ・・・」 スティングのやつなら何か知ってるかもしれないな・・・ 「おい、スティングはどこにいるか知らないか?」 エリオスの後ろで様子を伺っている警備員に訊く。すると、かなり驚いたのか、びくっと体を振るわせた。 「す、スティング様ですか・・・!?」 「ああ。お前達に訊いても本当の事を言わなさそうだからな。あいつに直接訊く。原因はスティングなんだろう?」 「そ、それは・・・でも、エリオス様。明日まではお部屋で待機なさっていたほうが身の為です。明日を過ぎればスティング様を全てをお話になるでしょう」 その言葉にエリオスが眉をひそめる。 ――――― 明日を過ぎれば・・・? 不信感は募るばかりだ。どうして今すぐ教えてくれないのか。明日を過ぎれば分かる事実とは一体なんなのか? 「―――――― わかった。もう余計な詮索はしないことにしよう。私も余計なことには首を突っ込みたくはない」 そう言って、ほっと胸をなでおろした警備員たちをその場に、エントランスブルーを離れた。 エリオスが諦めたことで、付きまといもいなくなり、ようやく一人きりになれた。エントランスブルーからだいぶ離れたところで立ち止まり、振り返る。 誰もいないようだ。 「・・・・・・我が根底に眠りし真の力、命によって力を解き放て」 眠っている力を呼び覚ますための言葉を口にする。 ウィンッ・・・ わずかな音。それはエリオスを中心に可能な限り広がり、覆った。 「――――― そこか」 エリオスだけが感じるわずかな異変。その場所に探しているものはいた。 "感知能力" スティングが使う、宝石を見つける能力によく似たものだった。術者が知っている"気"で、それがある程度の範囲内にいれば居場所を特定できる探りの能力。 今回は居場所を知るだけで簡単なものしかかけなかったが、高度な使い方をすれば相手がどのような状態にあるかも知ることが出来る。エリオスはスティングのように力ある石を見つける能力は持たなかったが、反面、このような特異な能力を持っていた。 スティングがいるであろう方に体を向ける。エントランスブルーにいるのは間違いないようだ。 「・・・」 しかし、気になることがあった。 先ほどの能力使った時。そしてスティングの居場所を特定したその時。周囲にいた複数の気が引っかかっていたのだ。 普段なら対象外の気は気にかからないはずだが。 「訊けば理由はわかるだろう」 気を取り直して再びエントランスブルーに向かったのだった。 「スティング様、私、この間エスタのシェルガーデンに行ったのですけれど、それはそれは美しい浜辺でした。スティング様はご覧になったことがあります?」 「い、いえ・・・。でもシェルガーデンの噂は聞いています。なんでも海に反射する月の光と白い砂浜が最高に美しいだとか」 本当の事を言うわけにはいかないが、シェルガーデンの描写は実際に見た浜辺そのままだ。 「その通りです。本当に素敵でした。今度ご一緒しませんか?小型の飛空挺ならひとっとびです。夕暮れの砂浜でスティング様とお散歩したらどんなに素晴らしいことか・・・」 ほうっ・・・と頬の手をあててうっとりしている。 スティングはただ顔を引きつらせて苦笑いするしかなかった。吹く風も冷たく感じない。 一方のディクスもシャーリーンに遠回りに迫られ、困惑しているようだ。 「ナチュラル・・・さんでしたよね」 「あ、はい!」 エルトシャンに声をかけられ、思わず声を上げてしまった。 「そんなに緊張しなくてもいいですよ。貴方方には謝らなければならないですね。ネイシャンとシャーリーンが本当にご迷惑をおかけして申し訳ありません」 アルヴィスの王子という身でありながらナチに頭を下げた。 「そ、そんな!お二人ともご自分に正直なだけです!迷惑だなんて・・・スティングはともかく、わたしの兄でよければのし付けて差し上げます!」 言ったナチにエルトシャンが笑う。やはり王子だ。上品な笑みを浮かべている。 「・・・彼女達も自由に恋愛が出来ればいいのですが・・・束縛されるのは一人で十分です」 その表情に不意に陰りがさす。 「エルトシャン王子・・・」 「その反動か、彼女達は過剰な行為に走ってしまう傾向があるようです。私は頼りなくて彼女達をとめることが出来ないんですけどね」 そして寂しそうな表情をした。 ――――――― 違う・・・エルトシャン王子、あなたはネイシャン王女やシャーリーン王女のさらに束縛された未来を予想して彼女達を敢えて止めようとしなかった・・・そして彼女達も自分の思いが遂げられないことを知っている・・・過剰な行為はその寂しさを紛らわすためのものなのかもしれないわ 「姉妹思いなんですね」 「・・・・・・私にはそれくらいのことしか出来ません。スティング王子やあなたの兄上には多大なご迷惑をおかけしてますが」 真意を悟ったナチにそう答える。 「二人なら大丈夫ですよ!神経は図太いですから」 笑みを取り戻したエルトシャンに安心する。 ・・・・・・スティングだけかとも思ったんだけど、アルヴィス国も色々大変なんだわ。 「そういっていただけると助かります。有難う、ナチュラルさん」 笑みを浮かべたエルトシャンに、ナチは笑みを返したのだった。 「と、ところでっ・・・!そろそろ戻りましょう。風も出てきたみたいですからっ」 腕をネイシャンにつかまれながらスティングが叫ぶ。 「私もそう思いますっ!」 ディクスが空いた手をまっすぐに上げて同意する。また、彼のもう片方の腕もシャーリーンにつかまれている。 「そうですね、戻りましょう。スティング王子、有難うございました」 シャーリーンとネイシャンの二人をはがしながらエルトシャンが頭を下げる。 「いいえ、少しでも参考になったのなら嬉しいです。それでは行きましょうか」 スティングが早口で言う。 「ナチ、行くぞ」 そう言ってすたすたと歩き始めた。 「ああ、待ってください、スティング様ぁ〜」 「ディクス様、お待ちくださーい」 早歩き・・・と言うよりは、むしろ全力で走っているディクスとスティングの後を二人は追いかけたのだった。 「また、空振りか?」 再びエントランスブルーの入り口でエリオスは一人立っていた。今度は周囲にまとわりつくものはいない。 ・・・・・・しかし、ここにいることは間違いないか スティングの位置を確認してから時間は経っていない。すれ違ってもいないからまだここにいることは確かだ。 先ほどより強くなった冷たい風が髪を逆立てる。 さっきはあんなに天気がよかったはずなのに、この場所に再び戻ってきてから急に天候が荒れだした。青い空を黒い雲が覆い隠そうとしている。 ―――――― 明日まではお部屋で待機なさっていたほうが身の為です 警備員が言っていた事が不意によぎる。 「どうせたいした事ではないだろう」 わずかに感じた危険を殺すかのように、エリオスは口にした。 ざっ そして歩き始めたその時だった。 だだだだだっ・・・ 「ん?」 向かっている先から聞こえる音。何かがこっちに向かって走ってきているらしい。聞こえる足音が段々大きくなっている。その方に意識を集中すれば、どうやら誰かが走りながら叫んでもいるようだ。 「悪いなっ!」 声が間近に聞こえる。この階段を上がったすぐ先だ。エリオスが彼の身長よりも高いその階段を上ろうとした時だ。エリオスの上を何かが通り過ぎた。 『えっ!?』 エリオスの声と、その通り過ぎた者との声が重なる。 エリオスが振り返ったその先、空に浮かんでいるディクスがいた。 「また、どうして・・・」 突然のことにエリオスはかすれた声を出す。ディクスがここにいる驚きはもちろんだが、ディクスが浮いていることにも動揺しているらしい。 や、やばい・・・!! あの三人に近づけてはならない人物の登場に、ディクスの表情が引きつる。 「ディクス!先に行くなんてずるい・・・」 後に続いた声にエリオスが再び振り返る。階段の上には息を切らしたスティングがいた。スティングは下にいるエリオスを認めると、目に見えて血相を変えた。 「え、エリオス・・・どうしてここに・・・」 「どうしてって・・・それはこっちの台詞だ!お前には訊きたいことが山ほどある、たいした用事はないのだろう?降りて来い!」 スティングが慌てたように走ってきた方を振り返る。そして、再び向き直ると、ディクスに絶望の表情を向けた。 「そこのお前もだ!どうしてここにいる?」 興奮した様子でエリオスがディクスに問う。 「そ、それは・・・」 どうしても言葉に詰まる。しかし、エリオスの相手をしている場合ではない。 早く彼女達を止めなければエリオスは・・・ 「スティング様ーっ!!」 ネイシャンの声だ。もうすぐそこまで来ている! 「誰だ?来客中か?」 階段の先の道にいるらしい客人を確認しようとエリオスが階段に足をかけた時だ。 「だっ、駄目だ!来るなエリオス!」 スティングがどたどたと階段を駆け下り、エリオスの行く手を阻む。 「スティング・・・お前もか。一体何があるんだ?どうして私は見てはいけない!?」 彼らの不可解な行動にエリオスは声を荒げた。しかし、にらみつけてもスティングは何も答えようとしない。階段の向こうを気にしてさっきから後ろを振り返ってばかりだ。 「ディクス、いいから早く!」 スティングの叫びにディクスはうなずき、再び階段の向こうへと飛んでいってしまった。 「あっ、おい、お前!・・・スティング、一体何が起きているんだ?まさか国家にかかわる一大事じゃなかろうな?」 国家にかかわる一大事って言えば一大事だけど・・・エリオスに本当のことを言うわけには行かない・・・!! 意を決し、スティングにつかみかかろうとしているエリオスに不意に笑みを作る。 急に態度を変えたスティングは、不審な表情を作ったエリオスの両肩に手を乗せた。 「まさか、なんでもないよ。僕がエリオスに隠し事するような仲じゃないのは知ってるだろう?」 「――――――― スティング・・・お前というやつは・・・!!」 にっこり笑って兄弟オーラを出しているスティングにエリオスがわなわなと手を震わせる。 「スティング!私を馬鹿にするのも大概に・・・!」 こぶしを振り上げたエリオスの力が急速に抜けていく。そしてその表情も穏やかになり、ついにエリオスは倒れこんだ。 「おっと・・・」 地面に倒れる前にスティングが支える。 階段の上を見れば肩で息をしているナチがいた。 「ごめん、これをするしか・・・」 ナチがすまなさそうに言う。スリープの術をかけられたエリオスは目を閉じたまま動かない。 「これしか方法がありません。とりあえずエリオスをどこか隠せる場所へ!」 「分かった、手伝うわ!」 ナチは階段を駆け下り、空いているほうの肩を支えると、エリオスを茂みへと隠した。 と、ちょうどその時だ。 「スティング様!さすがに足が速いですね・・・!体力には自信あるほうだと思ったのですけど、スティング様には負けますわ・・・」 息を切らしたネイシャンが現れた。 続いてシャーリーンが。 「あら、スティング様。どうしてそんなところにいらっしゃるのですか?」 目ざといシャーリーンがスティングが茂みのすぐそばにいることを不審に思ったようだ。 「あ、ええ・・・ちょっと薬草がないかな〜なんて・・・あはは。僕暇があると薬草の調合とかしてたりしてなかったり」 あいまいな答えではあったが二人は納得したようだ。視線をそらせばその二人の上にディクスが息を切らして浮かんでいる。二人を抑えるのに必死だったのだろう。 エルトシャンもようやく追いついたようだ。体全体で息をしている。 「じゃあ、休憩でも・・・天気も良いですし、テラスでお茶でも・・・」 いいながらスティングが指をさした先は暗雲立ちこめる暗がりの空だった。 「スティング様、お疲れなのでは・・・?」 ネイシャンが様子のおかしいスティングを心配する。 「い、いえ・・・!とりあえず、館に戻りましょう。アシュダから伝わるおいしい緑茶があるんですよ」 スティングが先を切って歩き出すと、二人もその後を続いた。ディクスもようやく術を解き、地に足をつけた。 「ナチ、どうなったんだ?」 「んっとね・・・そこ・・・」 ナチが茂みをかき分ける。するとそこには眠り込んだエリオスがいた。 「なるほど・・・それしか方法はないわな」 「うん。エリオスさんには悪いけど、でも、こうでもしないとスティングが大変なことになるって」 エリオスにはあの王女たちにトラウマがあるらしいが、もし会う事になれば実際そうなるのかは分からない。スティングはそれを恐れているのだ。エリオスに何を言われようと絶対に会わせてはならない。 「どうするんだ?このままほうっておくか?」 「えーっと・・・一応もう一回術かけておくわ。ほとぼりが冷めたら術を解きに来るから」 「そうだな。ここで王女達と別れても逆に不審がられるし・・・ついでにシールドも張っておこう」 そしてディクスのシールドとナチのスリープの術で拘束されたエリオスは茂みの中に取り残されることとなったのだ。 そう、それが彼にとって最善の策だから。 空はこれからの行く先を按じるようにはさらに暗くなり、デルタ全体を覆ったのだった。 |