D.Force The Second Chapter
Force-27
蘇る恐怖
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ザアアァァァ ディクスとナチの二人がセカンダリの待つ館に戻ると同時に強い雨が降り出した。 「いろんな意味で危なかったな」 叩きつける雨を窓越しに眺めながらディクスがつぶやく。 「うん、エリオスさんにもシールド張っておいて良かったね。もし張ってなかったら今頃雨でずぶ濡れだもの」 スティングやアルヴィスの三人はいない。 ―――――― ディクス、ナチ。エリオスのこと頼みます そういってスティングは決死の覚悟で一人で立ち向かうことにしたのだ。エルトシャンも協力してくれるということで多少の負担は軽減されるだろうが。 ディクス様はご一緒されませんの!? ディクスが四人から離れようとすると、シャーリーンがすがりついた。 他に仕事があるからと、なんとか言い逃れをして今ここにいるのだ。 「ディクス、遅くならないうちにエリオスさんのところに行こう?いくら眠らせてるからってあのままじゃ可哀想だし」 「そうだな。エリオスさんのためだと言ってもあの扱いじゃな・・・」 「どうする?」 ナチに言われディクスが思案する。 「俺は飛行術で行くよ、お前はセフィーロで後を追ってくれ」 「わかった!」 元気よく返事をすると、ナチはセフィーロの元に駆け寄った。セフィーロが甘えるようにナチに顔を摺り寄せる。 「セフィーロ、外大雨だけどちゃんとシールド張るから、お願い。わたしを背中に乗せて飛んで?」 セフィーロは任せろとでも言うように鳴くと、自ら扉の前に歩いて行った。 「ん?レクサス、お前は良いよ」 主人と一緒に外に出るセフィーロをうらやましく思ったのか、レクサスはディクスに近づき、小さく鳴いた。一方アクオスは激しい雨の叩きつける外を凝視して目を放さない。 「アクオス、外に出たがってるみたいね」 その様子を見てナチが言う。 「さすがは水の術を得意とする竜だな。レクサス、お前水嫌いだろー?」 図星のレクサスは頭を低くして目を瞑った。 「ディクス、行こう?」 「そうだな。レクサス、アクオス!おとなしく待ってるんだぞ」 寂しがっているレクサスと、外に出たがっているアクオスはやや不本意ながらもおとなしく定位置に身を落ち着けた。雨に打たれぬようにシールドを張ったナチがセフィーロにまたがる。 「よっし、行くか!」 その声と同時にディクスは進行方向に向かって勢いよく飛んで行った。 「セフィーロ、お願いね!」 ばさっ 翼の一振りでナチを乗せたセフィーロは宙を舞い、ディクスの後を追った。 「それにしても激しい雨ですね。でも、私たちの燃え上がる愛はこのような豪雨でも決して鎮火する事はありません」 "私たち"イコール、ネイシャンとスティングだ。 「スティング王子、先ほどの従者のディクス・クロードという方ですが」 冷たい雨が降るような日には身にしみる熱い緑茶をすすりながらエルトシャンが話しかける。 「ああ、はい。ディクスがどうかしましたか?」 「彼が使っていた術、あれは飛行術ですよね」 エントランスブルーから逃げるように走っていた時。途中引き返してきたディクスが中に浮いているのを見て衝撃を受けたのだ。飛行術は補助系の術の部類だ。アルヴィスでも修得が推奨されているが、実際それを使っているものはほんの数人。 高い術力、何より技術力が要求される術なのだ。それゆえ修得は非常に困難なものだ。 「わたくしも驚きましたわ!わたくしが見初めた方とはいえ、まさか飛行術の使い手だとは思いませんでしたわ」 話を聞いていたシャーリーンが言う。 自分の高い術力を誇示している彼女ではあったが、修得しきれない飛行術を目の当たりにして衝撃を受けたようだ。 「そうでしたね・・・私はスティング様しか見えなかったのですけど、さすがに飛行術を見せ付けられてはそちらに目が行ってしまいます。私があんなに修得しようとした術なのに、まさか民間人に先を越されるなんて・・・正直プライドが傷つきました」 面白くなさそうにお茶をずずっとすする。 「まあ、ネイシャン。ディクス様はいずれアルヴィスを担う大事な人となりますわ」 シャーリーンが言い返す。 「あら?シャーリーン、あなたエリオス様を狙っているのではなかったの?」 "狙っている"という言葉にスティングが戦慄する。 「エリオス様はエリオス様ですわ。今のわたくしはディクス様一筋。彼の瞳はサファイアのように美しく、そして魅惑的ですわ」 湯飲みを手で包み、うっとりとしている。 「サファイアならどこにでも転がっています。でも、スティング様の美しい緋色のその瞳・・・何物にも変えがたい、このエンドレスの重要文化財です」 ―――――――重要文化財・・・ 「ネイシャン、シャーリーン!スティング王子に失礼だろう?スティング王子の瞳を称えるなら、スティング王子は人間国宝です!」 ・・・・・・・・・・・・・・・。 大真面目に言ったエルトシャンにスティングは返す言葉がない。呆然としているスティングに気づかず、エルトシャンは指を立てたままだ。 なら、僕やエリオスや父上は彼らからすると皆人間国宝・・・? 「それもそうですわ。良かったですわね、ネイシャン」 何が良かったのか、シャーリーンは嬉しそうにネイシャンの肩を叩いたのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。 「それで・・・、スティング王子。あの若さで飛行術を物にするとは、彼はどういった経緯で術を修得したのでしょう?」 「それは・・・」 それはスティングにもわからなかった。ディクスがエスティナ号で真実を告白した時、術を本格的に極めようとしたのはフォースと自分の力関係を知ってからだったと言っていた。 それまでは、術はただの研究対象・・・つまり、暇つぶし、または実益を兼ねた存在でしかなかったのだ。 どの術をいつ修得したかなどは一切聞いていない。 「詳しい事は分かりません。けれど、彼が若い頃から術を共にしていたことは確かです。今は従者の仕事をしてもらっていますが、普段は図書館や蔵書室で文献を調べている研究家でもあるんですよ」 「やはり素晴らしい術を身につけている方は努力家なんですね。私はもちろん、ネイシャンやシャーリーンも一時期飛行術に没頭したことがあるのですが、誰も修得できませんでした。機会があれはディクスさんにそのコツを教えていただきたいものです」 言って、アシュダ伝来の和菓子なるものをほうばった。 「アシュダの銘菓を食べるのは実は初めてなんです。この優しい甘さ、最初は砂糖の固まりかと思ったのですが、程よい甘さでこの緑茶とよく合いますね」 エルトシャンが一息ついて満足そうにつぶやく。 ネイシャンたちも同意するようにうなずいている。 「それにしても残念です。こんなに大雨だなんて・・・せっかくデルタに来ましたのに。スティング様と一緒にお庭をお散歩しようと思っていたのですよ。エルトシャン、あなたが雨男だからこうなったのです!責任取りなさい!」 むちゃくちゃな事を言ったネイシャンに、エルトシャンはむっとするもそのまま聞き流した。 「でもわたくしはこんな雨の日が好きですわ。そう、あの日、あの時・・・アルヴィスの庭園で、わたくしとエリオス様は・・・」 「シャーリーン、二兎追うものは一兎も獲ずって言うでしょう?一般市民とはいえ、あなたが追いかけているあの人に失礼なんじゃなくて?」 何を思い出しているのか、浸っているシャーリーンにネイシャンがつっこむ。 「ネイシャンには関係ないですわ!わたくしにとってはどちらも愛すべき殿方なのですから。そうですわよね、スティング様?」 いきなり話を振られたスティングは苦笑いしながら首をかしげた。 スティングにはあの日、あの時の恐怖が蘇っていた。 エリオスと二人でアルヴィス国に立ち寄った時、そして今日のように大雨がアルヴィスを潤していたその時。 エリオスに悲劇は起きたのだ。 その悲劇を目の当たりにしていたスティングだが、今でもあの光景は昨日の事のように思い出される。その話題をエリオスに振ろうものなら黒焦げにされること間違いなしだが。 大きなガラス窓の向こうを見遣る。雨はやむ気配はない。 ――――――― エリオス、大丈夫かな 緊急事態とはいえ、あの場所に置き去りにしたエリオスに申し訳なく思う。 何事も起こらぬように・・・そう願いつつ、残り少なくなった緑茶を口にした。 パシャンッ 誰もいないエントランスブルーの入り口。ディクスとナチはそこに降り立った。 がさがさっ ディクスが草を掻き分けると、そこにはまだ眠ったままのエリオスがいた。 「良かった。まだ術力は切れてなかったみたいね」 その様子を見てナチが安堵する。 「これで起きてたら最悪だな」 苦笑しながらエリオスの周囲に張っていたシールドの術を解く。 「ディクス、濡れないうちにセフィーロの背中に」 「わかってる」 エリオスを何とか抱えると、ディクスは急いでセフィーロの背中にエリオスを乗せた。シールドに守られて雨をしのいではいるというものの、雨が少しエリオスの服をぬらしたようだ。 「帰ってから乾かせば何とかなるさ」 「うん。じゃあ、セフィーロに乗って帰るけど、ディクスはスティングのところに戻るんでしょ?」 「いつまでもあいつ一人じゃ大変だろうからな。一人で大丈夫か?」 「もちろんよ!セフィーロもいるし。だから、スティングのところに行ってあげて?」 ナチがエリオスを地面に落とさないようにセフィーロに乗る。 ディクスも術を発動していつでも飛べる状態だ。 「じゃあな。俺行くから」 「後でね!」 そして、ナチたちを残してディクスは飛び去った。 「・・・よし。セフィーロ、二人乗りでも大丈夫?わたし降りようか?」 訊くが、セフィーロはそれを否定するように首を振った。そして翼を大きく広げる。 ばさっばさっ いつものように一回の羽ばたきで飛び立てないところを見ると、やはり二人分は重いらしい。ややぎこちなく上昇すると、気合を入れるように大きく鳴き、そしてその場を飛び去った。 あれは何年前の事だろう? ざぁぁぁ・・・ 来た時から雨が降っていた。 雨は嫌いだった。服は濡れるし、髪はばさばさになるからだ。不快に思っている自分とは反対に、スティングはいつものようにあっけらかんとしていた。何がそんなに嬉しいのかにこにこしている。 ――――――― 本当に能天気だな・・・ 横目で見ながらあきれてしまう。これが未来のエンドレスの王なのかと思うとこれからの自国の行き先が不安になる。 「エリオス、さっきからなんか不機嫌そうだね?もしかしてお腹すいた?」 どこか抜けているスティングの質問にエリオスは深いため息をついた。 「あはは、長旅で疲れたんだね。僕もだよ。アルヴィス国って地図じゃ近いけど、こうやって実際に来てみると遠いよね」 などと、スティングは一人感慨にふけっている。 ・・・お前は始終寝てただろうが 突っ込むのもだるい。スティングの相手をするのも面倒だが、もっと面倒なこと・・・これからアルヴィス国の子息に会うのだ。国の子供同士の交流とでもいうのだろうか。 国同士が未来永劫共にやっていけるように、小さい頃から子供同士のコミュニケーションは常識だった。いつもならアルヴィス国のほうがエンドレスに来るが、今回は代表でスティングとエリオスの二人がここにきたのだった。 公道を通って来たとはいえ、馬車での長時間の移動はきつい。数日かかってたどり着いたこの国でのこれからの予定を考えると、どうしても鬱になってしまう。 エルトシャンはいいとしても、ネイシャンやシャーリーンが問題。人の迷惑を考えずにべたべたしてくる彼らが大の苦手だった。 きっと今回も色々とちょっかいを出してくるだろう。 「でも楽しみだね。皆に会うのあの式典の時以来だし。ネイシャンなんて毎月手紙送って来るんだよ?ほんと、マメだよねー」 手紙をマメに送ってくるネイシャンの真意を全く理解していないスティングがのん気に言う。 ちなみに式典というのは第一王位継承者を認定する時のものだ。それは大々的行われ、アルヴィス国はもちろん、他の国からの来訪もあった。 こんこん 二人がいる部屋の扉をノックする音が聞こえた。 がちゃ そして、扉の開く音。 「お久しぶりですわぁ!」 シャーリーンの黄色い声が部屋中に響く。 「やあ、シャーリーン」 めげず、スティングが笑みながら返す。 「お久しぶりですね、スティング様。手紙を出すだけでは寂しく感じていたところなんですよ」 続いてネイシャンが入り、そしてエルトシャンが入ってきた。 「お二人ともお久しぶりです。お変わりない様でよかったです」 エルトシャンのいつものお決まりの台詞だ。まだ十代前半にもかかわらず、えらく大人びた言葉だ。 「スティング様!私、スティング様にお渡ししたいものがあります。一緒に来ていただけますか?」 「ええ、もちろんです。エリオス、君はどうする?」 訊かれて思案する。一緒についていってもろくな事はないだろう。 何もすることはないが、ここにとどまることにした。 「そっか・・・エルトシャンは?」 「じゃあ、私もネイシャンと一緒に・・・」 「わたくしはここにいますわ。三人で行ってらっしゃいな」 シャーリーンの言葉にエリオスはどきっとするも、ネイシャンとシャーリーンの二人と一緒にいるよりもシャーリーン一人の相手をするほうがマシだ。 それを了解することにした。 煎れられた紅茶の芳しい香りが広がる。エリオスの前にシャーリーンが座る形となった。 そして、他愛のないことを話し始めるシャーリーン。大して反応もしないエリオス。そうすればきっと諦めておとなしくなるだろうと踏んでいたのだ。 しかし・・・だ。シャーリーンは気にせず延々と話を続けていた。時間は経ち、何杯目の紅茶を口にしたか分からない。 聞き流すのもつらくなってきた。 ずっと同じ体勢でいるせいか、血の流れも悪くなってきているような気がしてならない。 「それで、この前このアルヴィスの城内にも庭園が出来たのですわ。雨が降ってますけど・・・ご一緒しませんか?」 これ以上ここで座っているのは苦痛だ。雨の降る外を出歩くのは好きではないが、仕方なく同行することにした。 「ごめんなさい。傘がこれ一本しかないようですわ」 そういってシャーリーンが差し出した一本の傘。広げてみるが、結構大きいようだ。シャーリーンが本当に困惑の表情をしているところを見るとわざとではないようだ。 そういうわけで不本意ながら相々傘をすることになってしまった。 ややぬかるんだ道を二人で歩く。程なくその庭園に着いた。広い庭園で、手入れも行き届いているのだろうが、雨のせいでせっかくの光景も台無しだ。 「晴れていると本当に綺麗なんですけど・・・エリオス様にお見せできなくて本当に残念ですわ・・・」 そう言ったシャーリーンの横顔を見て慌てて視線をそらす。 咳払いをしたエリオスをシャーリーンは不思議そうに見上げた。 シャーリーンのいつにない憂いの表情を見て、少なからず動揺した自分が恥ずかしかった。 「あれ?もしかして、あれはエリオス様とシャーリーンじゃないですか?」 通りかかったエルトシャンが雨の向こうの人影を凝視する。 「確かにあれはシャーリーンですね。あんなところでどうしたんでしょう?珍しくエリオスも一緒だし」 スティングも目を凝らして見ている。 観察されている二人はとりあえず庭園をゆっくりとした足取りで回っていた。 「きゃっ」 何もない所でシャーリーンがつまづく。地面にこけそうになった彼女をエリオスが危うく受け止める。その時に触れた彼女の体が思っていたよりも細いことに気づき、少し驚いた。 「ご、ごめんなさい。わたくし、ぼーっとしてて・・・」 めずらしく頬を赤らめているシャーリーンを見て、こういう一面もあるのだとしげしげと見てしまう。 これでも一応女なんだな・・・ 失礼だが本音だ。 自分を見ているエリオスの視線に気づきシャーリーンは笑んで見せた。 その上品な笑みにどきっとする。二人の間に会話はない。ただ、雨の音だけが二人を包んでいる。 「エリオス様・・・」 「―――――― そろそろ戻ろう。雨も激しくなってきたようだ」 慣れない雰囲気にエリオスは咳払いをし、城へ戻ろうと足を進めたときだ。 「エリオス様!」 声を上げたシャーリーンにエリオスが振り向く。それにいいタイミングでシャーリーンが背を伸ばし・・・ 「!!!」 エリオスに衝撃が走る。 一瞬何が起こったのかわからなかった。ただ、手は反射的に自分の唇を押さえていた。 シャーリーンは胸に手をあててうつむいている。 「実はわたくし・・・今のが初めてなんですわ」 恥ずかしそうにそう言った。 返す言葉が見つからない。起こった事実を受け止める余裕もない。 「シャーリーンッ!!」 呆然としていると、城のほうから叫び声が聞こえた。ようやく我に返り、そっちを向くと・・・ そこにはシャーリーンとエルトシャン、そしてスティングまでもがいた。 なっ・・・なんであんなところに・・・! 声を上げたのはネイシャンのようだ。すると、呼ばれたシャーリーンははじかれたように雨の中をエリオスを置き去りにして走って行った。 「あっ・・・ちょっと待て・・・!」 しかし、シャーリーンはエリオスの言葉を無視し、ネイシャンのところまで来ると彼女の手を取った。 「ネイシャン!あなたの言うとおりでしたわ!このような状況で愛というのははぐくまれるものなのですわね!」 そう嬉しそうに言った。 「ファーストキスをシャーリーンのほうが先に奪われてしまうなんて・・・」 ネイシャンはがっかりそうだ。 何を馬鹿な!奪われたのは私のほうだ!! 「これでエリオス様はわたくしのものですわ!この大雨の中体を張った甲斐がありましたわぁ〜」 さきほどのおとなしさはどこへやら。シャーリーンは今の心境を大声で話している。 二人のその瞬間を目の当たりにし、さらにシャーリーンの真意を聞いていたスティングは戦慄した。不幸なエリオスに声をかけることも出来ずに呆然としている。 エルトシャンも同じだ。 ただ一人残されたエリオス。その会話を聞いて愕然としていた。シャーリーンはやはりシャーリーンだったのだ。どうしてあの時ここに来ることを拒まなかったのか。どうしてあの瞬間避けられなかったのか。 激しい後悔と怒りがエリオスの理性を吹き飛ばした。 カッッ!!!! あたりが真っ白に輝く。そして立て続けに土柱が出現した! ドオォォォンドォォォンッ!! 綺麗に手入れされたばかりの庭園に土柱が、そして隆起した地面が全てを破壊した。 「え、エリオスーッ!!」 地獄と化した目の前の光景にスティングが声を上げるが、エリオスの術の暴走は止まる事はなかった。幸いにも城を砕くということはなかったが、術の暴走が終わった後のその惨劇はすさまじいものだった。 跡形もなく消し飛んだ庭園に立っているエリオス。 そして、術力を使い果たした彼は地面に倒れた。 「エリオス様ぁ!」 駆け寄ろうとしたシャーリーンをエルトシャンが術で拘束した。 「ぼ、僕が行ってきます!」 スティングがエリオスに向かって走る。ようやくたどり着くと、エリオスは苦悶の表情で土に汚れていた。 それから三日間。エリオスは目覚めることはなかったのだ。 ―――――― どうしてこんな事に・・・どうして私が・・・っ!! 眠っている間も悪夢にうなされた。起こった事実は決して消えることはない。 シャーリーンがいなければ・・・! 怒りがふつふつと湧き上がる。 「この屈辱、絶対に許さない!!」 「絶対に許さない!!」 「うひゃっ!!」 突然叫んだエリオスにそばにいたナチが悲鳴を上げる。 突き出した手を空を握るようにし、エリオスはようやく目が覚めた。 「・・・・・・・・」 そして、自分が寝ていることに気づく。上半身を起こすと、額から冷たいタオルがひざに落ちた。周囲を確かめるように視線をそらせば、驚いた表情をしているナチがいた。 「あ、あの・・・」 しどろもどろになって声をかける。 「―――――― どうして君が・・・?ここはどこだ!」 悪夢の興奮が冷めないのか、エリオスは声を荒げた。確かスティングにエントランスブルーへの立ち入りを阻まれた時から記憶が飛んでいる。 「えっと・・・」 「スティングはどこだ!どうして私はここにいる!?」 立ち上がってナチに詰め寄った。ナチはどうして良いか分からず、おびえた表情でエリオスを見ている。 グゥゥゥ・・・ うなり声に顔を向ければ、そこにはエリオスを敵視しているセカンダリたちがいた。エリオスがナチを襲おうとしている思っているのだろう。今にも襲い掛からんと身を低くして構えている。 「・・・そうか、この館はセカンダリを世話するための・・・」 とりあえず自分がいる場所を特定する。 予想外に早く目覚めたエリオスにナチは激しく動揺していた。頭の中がパニック状態だ。 「―――――― ナチュラル・クロード・・・だったね。ナチュラル、どうして私はここにいるんだ?君は知ってるんだろう?」 肩をつかんで問いただすが、ナチは返事をせず困惑した様子でうつむいた。 恐怖心で一杯になったナチを察し、セフィーロがエリオスに向かって怒りの咆哮を放った。 「・・・・・」 それでようやく自分がどんな顔をしてナチに迫っているのか理解する。 ―――――― 私としたことが・・・ 夢での出来事と現実がごっちゃになっている自分に気づき、ナチから手を放した。 「・・・おびえなくてもいい。何があったのかそれさえ教えてくれればいい」 不審な点は山々だが、エリオスは出来るだけ表情を和らげ、ナチに再度語りかけた。ナチの表情はまだ不安げではあったが、平静に戻ったエリオスに、ようやくうなずいたのだった。 |