D.Force The Second Chapter
Force-28

全ては守るために


「ま、安心しろ。エリオスさんはナチが見てるから」
三人の相手をしているスティングを呼び出し、ディクスは今の状況を話した。
「そうですか。エリオスが目覚めたらなんと言い訳をすればいいかが問題ですが・・・けれど今はエリオスに彼女達を会わせない事が先決です。ディクス、どうかお願いします」
「わかってる。俺は一度館に戻るけど三人の相手頼むな」
「分かりました。それにもうすぐ夕飯の時間です。その前の一時間は部屋に戻ってもらいますから」
そして戻ろうとしたスティングをディクスが止める。
「一つ気になってたんだが・・・」
やや気まずそうにディクスが訊く。
「そのアルヴィスの王女をエリオスに会わせたら具体的にどうなるんだ?」
するとスティングの顔がこわばる。
――――― 過去二回そういうことがあったのですが・・・王女・・・特にシャーリーン王女に会わせると・・・」
「会わせると?」
わずかな沈黙の後、スティングは口を開いた。
「周囲が跡形もなく消し飛びます」


ナチとエリオスは向かい合わせるように座った。セカンダリもようやく落ち着いたものの、エリオスから目を離そうとしなかった。
「まずは、どうして私がここにいるのか教えてもらおうか」
ナチは気まずそうな顔をし、重い口を開いた。
「・・・わたしが・・・エリオスさんを術で眠らせて・・・ここに運んだんです・・・」
途切れ途切れに言う。
「一体何故?」
――――――― それは・・・エリオスさん・・・貴方を守るためです」
ますますわからなくなった。警備員もそんなこと言っていたが、ナチの口から聞いてさらに困惑した。
「守るためとは?私はエントランスブルーに入ってはいけなかったのか?」
「いえ・・・そういうわけじゃないんです。・・・エリオスさんに会わせてはいけないと、そう言われていたから・・・でも、悪気はなかったんです!わたしまだ術力に長けてなくて・・・エリオスさんを眠らせてあの場を治めることしか出来なかったんです!」
自分のした事に罪悪感を抱いているのだろう。ナチは一気に口にして頭を下げた。
「ごめんなさい・・・」
二人の間のテーブルには冷水を張ったボウルがあった。目覚めた時にひざに落ちたタオルで気づけばよかったのだろうが、夢でうなされていた自分を介抱してくれてのはナチなのだろう。
ナチは手に持っている別のタオルをぎゅっと握ってうつむいたままだ。
エリオスは問い詰めた自分を後悔した。そして自分の事を考えていてくれる周囲を省みずの行為を恥じた。
「謝らなければならないのは私のほうだ。周囲の者の気持ちを考えずに自分のやりたい事を遣り通そうと・・・その結果君を巻き込むことになってしまったようだ。―――――― すまない」
うつむいたままのナチの肩に手を乗せ、謝る。
するとナチは驚いた表情で首を振った。
「・・・でも、一つだけはっきりさせておきたい。ナチュラル、君も含めてだが、どうして周囲のものは私をエントランスブルーへの立ち入りを、そしてスティングに近づく事も許されなかったのかを」
―――――― 驚かないで聞いて下さい。・・・スティングに今来客があるのですが・・・」
そこで息をついた。
「その来客というのが、アルヴィスの・・・アルヴィス国の三つ子なんです」
「!」
ナチからその言葉を聞き、エリオスは固まった。
――――――――― アルヴィスの三つ子・・・ネイシャン、シャーリーン、エルトシャンの三人・・・
「わたしもどういう理由でエリオスさんに会わせてはならないかはよく知りません。だけど、スティングの話では大変な事になると・・・決してそうならないためにわたしたちも、そして周囲の人たちもエリオスさんを守るために止めたんです。今日はエントランスブルーを視察しました。だから周囲の人たちもエリオスさんがそこに立ち入ることを止めようとしたんだと思います」
スティングを探し出そうと術を発動したあの時。そしてわずかに感じた異変・・・。
・・・あの三人だったのか・・・
まさかの事態にエリオスは愕然とする。それなら全ての謎は解ける。
自分を止める周囲、階段の先を行かせようとしなかったスティング、そして眠りの術を発動したナチュラル・・・
全てはあの三人に会わせないためだったのだ。
「アルヴィスの・・・あの三人が・・・」
ほうけたようにつぶやくエリオス。その目はどこもとらえてはいない。
「・・・今、三人はスティングと一緒にいるはずです。途中で雨が降ってきましたから宮殿のほうだとは思いますが・・・エリオスさん、お願いです。ほんのしばらくでもいいですからここにいてください!」
ナチは立ち上がり、もう一度頭を下げる。
そんなナチをエリオスはまだ信じられぬと言った様子で見ている。
――――――― あの・・・エリオスさん・・・?」
ナチが声をかけるとエリオスがびくっと体を振るわせた。そして視点は定まらないが、ナチの目を見る。
「あ・・・ああ、すまない・・・わかった。私もこれ以上周囲に迷惑を掛けたくはない。君やセカンダリたちには悪いが、しばらくここにいさせてもらうよ」
そう言ったエリオスに安堵する。
「じゃ、じゃあ、わたしお茶入れますね!兄秘伝のとても美味しいお茶があるんです!」
嬉しくなったナチはぱたぱたと厨房に走って行った。
一人になったエリオスは頭を抱えた。夢での出来事がまたここで再現されてしまうのだろうか?
また周囲を破壊することに?
ただ会うだけで術を暴発してしまう自分が情けなくてしょうがなかった。たしかにあの出来事は衝撃的だったし、許しがたい行為だ。だからといって条件反射のように術を暴発してもいいのだろうか?
それがエンドレスの王子の一人としてあるべき姿なのか。
・・・その葛藤が彼らに会いたくない理由の一つでもあった。自分の不完全さをあの出来事に、そして彼らのせいにする自分が嫌だったのだ。
「・・・・・・・・・・」
先ほどうなり声を上げたセフィーロに近づく。セフィーロは気を許したのか、エリオスに鼻を向けた。
それに応えるようにエリオスが手を乗せる。と、同時に流れ込んでくる癒しの術。
「お前達にも私は迷惑をかけているようだな」
セカンダリにさえも心配をかけている自分に苦笑する。
ぱたんっ
後ろを振り返ればトレイにお茶を乗せたナチがいた。
「このお茶、兄が煎れたものなんです。いわゆる民間の知恵って言うんでしょうけど、けど美味しいんですよ」
テーブルの上に紅茶を置く。
ほのかに香ばしい香りが部屋を包み込む。セカンダリたちもその香りを楽しんでいるようだ。
ナチに促され、エリオスは席につく。
「・・・こうやってゆっくり飲むのも久しぶりだな」
ティーカップを手に取り、口に含んだ。砂糖を入れたわけでもないのに、十分な甘さが口を潤す。
―――――― 確かに君が言うとおり美味しいよ」
笑みを浮かべて言うと、ナチは嬉しそうに笑った。
「兄がこういうのが好きで。色々煎じたりしてオリジナルのお茶を作ったりするんです」
「君の兄上は術だけではなくてこういうセンスにも長けているのか。素晴らしい才能だ」
「いえ、ただ多趣味なだけです。なんでもものにしようとするから・・・」
恥ずかしそうに紅茶をすする。
「それからこのクッキーも美味しいんですよ。おととい作ったものなんですけど、しっとりしててちょうど今が食べごろなんです。これも兄が作ったものなんですけど」
「あはは。君の兄上は本当に万能だね」
「・・・もし、院生の試験に合格できなかったらシェフになるくらいの勢いだったんです。宮殿の外の掲示板に募集があったので・・・」
そう言ってクッキーを手に取る。エリオスも手にとって食べた。
紅茶によく合う美味しいクッキーだ。その兄、ディクスを何度か見かけたことがあるから顔は知っているのだが、意外な一面もあるのだと思うとちょっとおかしくなってしまう。
「?どうかしました?」
「え、いや、なんでもない。このクッキー本当に美味しいよ」
思わず顔に出ていたのだろう。不思議そうに声をかけたナチにエリオスは食べかけのクッキーを掲げた。
ナチはクッキーを三枚手に取ると、席を立ち、セカンダリに近づいた。
すると、待っていましたとばかりに三頭が近寄ってきた。
「はい、一枚ずつね」
ナチが一頭に一枚ずつ口に入れてやる。彼らの口には小さすぎるクッキーだが、何とかもぐもぐ食べているようだ。
「美味しい?」
ナチが訊くと三頭は揃って声を上げた。
「・・・よく慣らされたものだ。さっき君のセカンダリがうなり声を上げたときもそうだが・・・その三頭は本当に君の事を信頼しているようだ」
その様子を見ていたエリオスが感心したように言う。
「エリオスさんのエデンは元気にしてますか?」
訊くとエリオスはうなずいた。
「ああ。ナチュラルのようにいつもそばにいてやることは出来ないが・・・エデンは私の唯一の理解者だからな」
そして紅茶を一口含んだ。
―――――― 唯一の理解者・・・
口に出してはいけないと分かっている。ナチは声に出来ず、口をつぐんだ。
・・・・・・そんな事ないのに・・・
「寂しいと感じたことはないし、これが私の中では当たり前のことだから。気にすることはない」
何か言いた気なナチを察したのかエリオスはそう口にした。
ばたっ
二人の会話が止まったところで玄関のドアが開いた。
「おーい、ナチ。今かえっ・・・」
と、言いかけて止まる。
「え、エリオスさん!」
まだ術で眠らされていると思っていたエリオスを見てディクスが驚く。
「あ、ディクス。お帰りー」
一方の驚かれたエリオスは立ち上がり、軽く会釈をした。
「ど、どうも・・・」
怒られるのではないかとひやひやする。するとエリオスは笑みを浮かべた。
「クロードさん、この度は私のためにありがとう。話は全て彼女に聞きました」
「そ・・・そうですか・・・。すみません。私も、ナチもまだ未熟なもので・・・エリオスさんを助ける方法は他にもあったはずなのですが、気が動転してしまって・・・」
さすがに草むらに放置したのはまずかったと反省する。
「いえ・・・こうなったのも全ては私が未熟なせいです。その結果、周囲に多大な迷惑をかけてしまった・・・」
「それが私たちの仕事でもありますから。今スティングはアルヴィス国の使者と一緒にいます。夕食はやはり彼らと一緒にとると言ってましたが、今夜が最後なのでアルバートさんやフィオールさんも同席すると」
「兄上と姉上が・・・」
「夕食の前に彼らには部屋に戻ってもらうつもりです。ですからそのとき部屋のほうへ」
「・・・そうですね。あなた方にもこれ以上迷惑をかけるわけには行きません。部屋で待機することにします」
そしてエリオスはテーブルの上に置いていたティーカップを手に取った。
「この紅茶クロードさんが煎ったものだとナチュラルさんに聞きました。とても美味しいお茶ですね」
「え、ホントですか!?実はこのお茶作るのに凄く苦労して・・・」
ソファーに座って語り始めたディクス。エリオスは延々と語られることになったのだ・・・。


「はるばるアルヴィスから来てもらったんだ。今夜は私も同席しよう。今日はもう仕事は終わったんだ」
スティングの部屋にやってきたアルバートが言った。
「いいのですか?姉上まで・・・」
「ええ、あなたに押し付けがましくて申し訳なく思っていたの。彼女達だって大事なお客様だし、一度くらいは会っておかなきゃね」
そしてフィオールがそういった。
「ほ、本当ですか・・・良かった・・・」
スティングが安堵する。後ろにディクスとナチが控えていてくれるとは言え、食事に同席するわけではないからやや心もとなく感じていたのは事実だ。
「ところで、ちょっと耳に挟んだのだけれど、エリオスがニアミスしたんでしょう?」
「ええ、もう少しで大惨事になるところでした・・・ディクスとナチのおかげで何とか回避したんですけど・・・」
あの時の緊張を思い出したのかスティングは額を手でぬぐった。
「やはりあの二人を付けておいてよかった」
緊急の従者としてディクスとナチの二人を抜擢したアルバートが安堵する。しかし、スティングはちょっと困惑した表情を見せた。
何故兄はあの二人を従者にしたのか・・・院生だから・・・?
それとも・・・
「あの、兄上・・・どうしてあの二人の事を知っていたんですか?どうして二人を従者に・・・」
――――――― いつ何時もお前には"仲間"が必要だ。だから私はあの二人を推したんだよ。もし、彼らが違うというのなら申し訳ないが・・・」
するとスティングが首を振った。
アルバートは知っていたのだ。スティングが誰と旅をしていたのかを。そして、ナチを介抱したあの時からその二人がこのデルタにやってきた事を知ったのだ。
「ごめんなさいね、スティング。あなたには悪いとは思ったの・・・でも、あなたの立場を考えたら調査せざるを得なかったのよ。でも、スティングは本当にいい仲間に出会えてうらやましいわ」
旅を許したとはいえ、野放しに出来るわけがない。常にというわけではないが、スティングが誰とどこにいるのかを知っておく必要があった。それがアルバートとフィオールの責任でもあったのだ。
―――――― 有難うございます・・・」
「それくらいしか私とフィオールにはできないからね。スティング、お前にはあるべき場所にあって欲しい・・・それが私たちの願いだよ」
あるべき場所・・・
その言葉がずしっと胸に響く。
スティングは口には出さす、ただ、力強くうなずいた。
「ところで、スティングは大丈夫だったの?ネイシャン達に何かされなかった?」
フィオールが心配そうに訊く。スティングが苦笑して見せた。
「ええ、今のところたいした被害は・・・だけど、ディクスが・・・」
「クロードさんがどうかしたのか?」
「はい。シャーリーンですけど、どうもディクスに一目ぼれしてしまったようで・・・枕の下にソウルラージュの葉を敷かれていたらしいんです。それで凄い夢を見たらしく・・・」
「まあ、そのクロードさんにシャーリーンが?てっきりエリオスに気があるのだと・・・」
フィオールが驚いた様子で言う。アルバートも同じだ。
「そうか・・・それならば万が一シャーリーン王女とエリオスが会ったとしても、襲われることはない・・・か?」
「それはどうかは分かりませんが、シャーリーン王女が何もしなかったとしてもエリオスのほうが過剰反応して周囲が・・・」
その場の三人にある惨劇が蘇る。
エンドレスの兄弟四人で彼らを迎えた時だ。かなり嫌がっていたエリオスではあるが、シャーリーンがこちらに走ってくる様子に殺気にも似た感情を覚え、術を暴発した・・・。
結果、彼らがいた応接間は跡形もなく消し飛んだのだった。幸い、エリオスの術の発動をとっさに感じたアルバートがシールドを張ったから良かったものの、もしなかったら大変な事になっていただろう。
それ以来、彼らをエリオスに近づけてはならないと、周囲が躍起になったのは当然だ。
「そう・・・よね。トラウマはそう簡単に消えるわけないものね。でも、大丈夫よ。万が一そうなったとしても私が強力なシールドを張るから・・・」
「フィオール、その万が一が起こらないようにするのが私たちの役目でもあるだろう?」
やや気が動転気味のフィオールにアルバートが突っ込む。
「明日の昼、ブルーフォースで帰国するそうです。それまであと少し・・・大丈夫ですよ、姉上」
「ええ。彼女達を邪魔者扱いするようで心が痛むのだけれど・・・」
「スティング、時間になったら使いのものを向かわせて欲しい。私は一度部屋に戻ることにするよ」
「分かりました」
そして部屋にスティングは再び一人きりになったのだった。


―――――――――
厚く暗い雲からわずかに漏れる夕日がやけに目にしみた。
ガラス窓に手をあて、こぶしを作る。
・・・私は・・・なんてふがいない人間なのだろう・・・
痛いほど感じる己の汚点。
―――――― これだから私は認められないのだ・・・
そして目を閉じる。
・・・・・・私が第一王位継承者にならなくてまさに正解だった―――――
今まで周囲の者、兄やスティングまでにもつらい言葉で当たってきた。だが、それは同時に自分に対するものでもあったのだ。
自分は取るに足らない人間だと前々から感じていたことだ。
誰にも迷惑をかけてばかりだった。何も受け入れようとはせず、自分勝手にやってきた。
そう、どんな勝手をやっても、ひどい事を言っても咎める者はいない。しかし向けられるのは哀れみの目。
それは耐え難い苦痛だった。
――――― どうして誰も止めようとはしないんだ!?私はこんなにまでひどい人間なのにどうして誰一人として私の前に立ちはだからない・・・!?
その怒りにも似た感情はエリオスから周囲を遠ざけていた。
それではいけないとずっと分かっていた。けれど、どうしても駄目だった・・・。体が、口が言う事を聞かない。
気づけば相手を傷つけてばかりだ。
それが悲しくて、つらくてしょうがなかった。今回の件だってそうだ。
取り巻きは自分がシャーリーンに会えば術を暴発してしまうことを知っている。しかし彼らは遠慮をしてエリオスに真実を話そうとはしなかった。
それが自分を思いやっている所業だとは分かっている反面、信じてもらえない自分に憤りを感じていたのも事実だ。
"エリオス、そんなことでは責務は勤まらないぞ。"
誰かに、そう言ってもらいたかった。どんなことでもいい、叱責が痛みをやわらげてくれるような気がしたのだ。
それが・・・その一言が自分を、認めてくれる言葉だと――――――
「エリオスさん、入りますね」
ドアを叩く音がするとトレイを持ったナチが入ってきた。
「この部屋からの眺めって綺麗なんですよ。あ、これお茶です。良かったらどうぞ」
屈託のない笑顔でナチが差し出す。
「・・・有難う・・・・・・」
しかし、その笑顔さえエリオスは上辺のものではないかと・・・
―――――― 違うっ!!私は・・・
「エリオスさん、顔色悪いですよ?大丈夫ですか?」
急にこわばった表情を見せたエリオスにナチが心配そうに声をかける。
「いや・・・なんでもない・・・」
いつからこうなった・・・?私はいつからこんなにも病んでいたのか・・・・・・
頭を抱えたエリオスの手をナチが握る。
はっとしてナチを見た。
「これ、水の輝石って言うんです。持っているだけで落ち着くんですよ」
ナチの手には何かが握られていた。ナチはそれをエリオスの手握らせる。
そして目を閉じた。
ふわっ
握っている石から伝わってくる安心感。
うわべだけでない、本当の人のぬくもり、思いやり――――――
エリオスがずっと求めていたものだ。その心地よさにエリオスも目を閉じる。
しばらくしてナチは手を放した。エリオスも目を開ける。
「エリオスさん、もっと気楽にしてください。ずっとずっと自分を追い詰めていたら誰だって気が滅入ってしまいます。わたしにはこのくらいしか癒してあげられませんけど」
ちょっと自信なさ気ではあるが、ナチはそう口にした。
「ナチュラル・・・」
「さっき唯一の理解者は一人だけって言ってましたよね。でも、エリオスさんは気づいていないだけです。エリオスさんはたくさんの人に愛されている・・・慈しみを受けています」
そしてもう一度エリオスの手を取った。
「少しだけ・・・ほんの少しだけでいいんです。自分の内をさらけ出してみてください。誰にも左右されない本当のエリオスさんを・・・」
―――――――― 本当の自分・・・?
「自分の殻に閉じこもってたら本当のエリオスさんが可哀想です」
「・・・・・・・・」
黙って聞いていたエリオスにナチがしまったという顔をする。
「ご、ごめんなさい!わたし偉そうなこと言ってしまって・・・!わたしエリオスさんに気持ちを考えないで自分勝手に」
「いや、いいんだ」
慌てて手を放そうとしたナチの手を握る。
―――――― 有難う・・・私が今一番聞きたかった言葉だ」
やわらかく笑みを浮かべる。
「・・・・・・わたしもそのことの気づかなかった時期がありましたから・・・あ、あの、この水の輝石ですけど」
エリオスの手のひらを返す。
美しい透明度の高い石がわずかにきらめく。
「これエリオスさん貰ってください」
「えっ・・・」
「実はこれ拾ったものなんですけど・・・けど希少な石だってスティングが言ってました。本当にただの石ころかもしれませんけど・・・」
自分で言ってナチはどんどん自信なくしていったようだ。困惑した表情を見せている。
ただの石ころだと謙遜したつもりが逆に自分の足を引っ張ったのだ。
「あの・・・ただの石ころ・・・でも、綺麗ですから・・・」
「・・・・・・・・・・有難う、大事にするよ」
そんなナチをほほえましく思い、エリオスはその石を受け取った。
受け取ってくれたエリオスにナチは嬉しそうにうなずいたのだった。
トレイをおき、ナチが去った後もエリオスは夕日から目を離さなかった。
アルヴィスでのあの出来事を思いだす。
このままの自分ではいけないと分かっている。しかし、和解しようと会えば従来のように――――――
周囲がそうならないように気を使ってくれたのにもかかわらず自滅してはそれこそ大迷惑だ。
「・・・・・・・・・・」
手にはあの石が握られている。
ただの石ころではないことは十分知っている。スティングがナチに教えたように希少で貴重な石だ。
自分の内をさらけ出してみてください。誰にも左右されない本当のエリオスさんを・・・
ナチの言葉が蘇る。
自分の殻に閉じこもってたら本当のエリオスさんが可哀想です
「誰にも左右されない――――――― 本当の、自分・・・か・・・」
ナチの言葉をかみ締めるように口にする。
誰にも左右されない・・・・・・
「・・・・・・・・」
エリオスの中にある決心が芽生える。自分に決着を付けるためにも、例え周囲に止められても、成し遂げねばならないこと。
その決心が消えてしまわぬよう、手に持つ石をぎゅっと握った。



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