D.Force The Second Chapter
Force-29
侵攻と侵食と迫る死
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昨日の荒れた天気は嘘のようにすっきりはれた朝。 アルヴィス国の三人とディクスたちは最初に顔を合わせたあの応接間にいた。 「これでお別れですね・・・本当に寂しいですわ」 そういって抱きつこうとしたネイシャンをスティングは余裕で避けた。 「ディクス様・・・」 潤んだ瞳に見つめられディクスは非常に困惑していた。 「わたくしディクス様のこと諦めませんわ。ですからずっとずっとわたくしのこと心に留めておいでください!」 そういってディクスの手をがしっとつかんだ。 ディクスは顔を引きつらせてうなずけないでいる。 「またブルーフォースでアルヴィス国までお送りしましょう。エントランスブルーまでは少し距離があります。馬は大丈夫ですよね?」 スティングが聞くとネイシャンが首を振った。 「いいえ、その必要はありません。私は少しでもスティング様と共に過ごしたいのです。二人仲良く手をつないで参りましょう!」 凄い提案にスティングが固まる。 ――――――― 結局、その意見がとおり、六人は歩いてエントランスブルーに向かったのだった。 出来るだけディクスのそばにつこうとしているシャーリーンではあったが、さっきから何が気になるのかきょろきょろしている。そして後ろを振り向いたりして何度も転びそうになっている。 「・・・・・・今回もお会いできませんでしたわ・・・」 宮殿がいよいよ見えなくなったとき、シャーリーンは悲しそうにつぶやいた。 「えっ?」 「な、なんでもないですわ!」 よくきこえなかったディクスが声を上げるとシャーリーンは慌てた様子で首を振った。しかし、やはりシャーリーンは何かを探すようにきょろきょろしていた。 だいぶ歩いたところで開けたところにでた。後もう少しでブルーフォースが停泊しているエントランスブルーだ。 「もうすぐですね!」 ネイシャンに腕を引っ張られっぱなしのスティングが嬉しそうに言う。 するとネイシャンがものすごく残念そうな表情をした。 ――――――― でもよかった、大したトラブルもなくて ナチが一番後ろを歩きながらそう思う。スティングに散々釘をさされていた分一体何が起きるのかと怖くも感じたが、その仕事もいよいよ終わる。 ディクスにとっては災難な三日間ではあったが、ナチにとってはちょっとしたスリルを味わえた充実した日々だった。真剣になっているときはこんなこと考えもしなかったが、全ては終わろうとしているのだ。 そう、何事もなく、無事に・・・ 警備員が配置するエントランスブルーの入り口にいよいよ差し掛かったときだった。 「ん・・・?」 太陽が何か黒い影にさえぎられたような気がしてエルトシャンが顔を上げる。巨大な鳥が空を舞っていた。 「大きな鳥だな〜」 思わず見とれているとその数が徐々に増しているのに気づいた。そして十羽あまりの数が空に滞空している状態になった。 「スティング王子、あの鳥ですが・・・」 さすがに不気味に感じたエルトシャンがスティングに声をかけたそのときだ。 空がにわかにまばゆく光る。そして・・・ ドドドドドドッ!!! 天から光の帯がディクスたちに向かって降り注いだ。 『なっ・・・!!!』 驚きの声が重なる。 十二羽の巨大な鳥がこちらに向かって攻撃を開始したのだ! 「我を守る壁よ!」 とっさにエルトシャンが広大なシールドを張る。 危ないところで全ての攻撃は無力化した・・・が、巨大な鳥はさらに攻撃しようとしているのか激しく騒いでいる。 「鳥・・・!?」 その場の全員がまさかの事態に驚く。まさかこのデルタで、しかも警備に置かれているこの宮殿内で攻撃を仕掛けられるとは・・・。 十二羽はしばらく滞空していたが、そのうちの半数は宮殿のほうに向かって飛んで行った。 エントランスブルーの入り口を警備していた近衛兵が馬を駆ってやってきた。 「君たちは王子たちをお守りしてくれ!私たちはあちらのブラックフォルスを倒してくる!」 ディクスとナチに言うと、飛んでいってしまったほかのブラックフォルスの後を追って全力で走って行った。 残されたのは六人。ディクスとナチは最後で王族を守るという大役を任されることになったのだ。 「ブラックフォルス・・・?」 「危険度Aランクのモンスターの一種ですよ。一羽一羽はたいしたことはありませんが、彼らは連携攻撃を得意とするやっかいなモンスターです」 聞きなれない名前にナチがつぶやくとスティングが気まずそうな声で解説した。 「何でこのデルタに・・・スティング、デルタの周囲には警備を張ってないのか?」 「いくらなんでも空までには手は届きません。それに、デルタの周辺ではブラックフォルスは生存区域には指定されていないはずなんです!それなのにどうしてこんなところに・・・」 空に羽ばたく黒い鳥を見据えながら言う。残った六羽のブラックフォルスはディクスたちを品定めするように滞空している。 「ともあれ広いところへ移るぞ!建物の中には隠れるな!攻撃されたら終わりだぞ!」 ディクスの号令で一同走り出した。それに合わせるようにブラックフォルスも追いかけてきた。 キュゥゥゥッ 何かが収束するような音。そして次の瞬間それは爆音に変わったのだ! ドオオォォンッ 先頭を走るディクスの前が大爆発を起こす。 「くそっ!!」 一同の足がその場で止まる。 「永遠を示す力の源よ、その無限なる力を我が前に示せ!ゼロウェイブ!」 応戦したディクスの衝撃波がブラックフォルスを襲う。しかし、その攻撃に反応するように飛び出た一羽のブラックフォルスによって防がれてしまった。 「シールドの術まで使うの!?厄介な相手ね!」 ナチが文句を言う。 「皆さんは下がっていてください。ブラックフォルスは俺たちが倒します・・・行くぞ、ナチ!」 「オーケー!任せて!」 ディクスの合図にナチが応える。 『全てのものの基点の存在よ、その秘なる力を我が前に示せ!』 二人の詠唱が気持ちが良いくらいに重なる。二人が詠唱すると共に、三地点にうっすらと光の帯が出現する。 『デルタフォース!!!』 ゴッ!! わずかな光をたたえた柱は最後の言葉によってその本来の力を示し、ブラックフォルスを貫いた。 どさっどさっ 体を打ち抜かれた二羽は上げる声もなく、大地に倒れ伏せた。巨大な黒い体と散った大量の羽根が広い敷地にシミのように点在している。 グゥゥゥ・・・ 仲間を砕かれた残りの四羽は殺気をさらにふくらませ、こちらをうかがっている。 ドォン! 近くからあがる爆音と、土煙に全員が振り向く。宮殿のほうで何かがあったらしい。 クアァァァ!! 全員が気をそらしたのを見計らい、一羽が攻撃を仕掛けてきた! 巨大な体を中に舞わせ、ネイシャンに襲い掛かる。 ヒュウッ 「きゃあぁぁぁっ!!」 まっすぐに向かっている黒い弾丸にネイシャンはただ悲鳴をあげるしかなかった。 どぉん しかし、そのブラックフォルスが攻撃を加えようとした直前で、行く手をさえぎるように大地が隆起した! 「あっ・・・」 「何をしている!さっさと援護しないか!」 そして続く声。その場の全員が目を向ければそこには銀髪の彼がいた。 「エリオス!」 スティングが素っ頓狂な声を上げる。 アルヴィスの三人がいる場所には死んでも立ち入らないはずの彼が何故ここに・・・?突然のエリオスの登場にあっけらかんとしている一同をよそに、寸でのところで衝突を避けたブラックフォルスは高く舞い上がり、攻撃を仕掛けて来た! 「レイストーム!!」 動きを予想していたエリオスは、自分達を守るように高温のストームを出現させた。 ギャアッギャッ 空間の一部分が突然熱くなり、行く手をさえぎる。ブラックフォルスは甲高い声で次なる術を発動させた。 ヴォンッ ぶれるような音。何の術を発動したのか分からなかった。ブラックフォルスは一度高く舞い上がると、ストームの中に自ら突っ込んできた! 「シールドの術か!」 ストームを通り抜け、その向こうの七人に直接襲い掛かってきた。 クアァァァ!!! 一羽のブラックフォルスが雄たけびを上げると同時に他のものも声を上げた。 ごぉぉぉっ 彼らの巨大な口に煌々とした光が生まれた。そして・・・ どんっ!! 複数の轟音が重なり、光球が放たれた! 「ナチ、スティング!シールド張れ!!」 ディクスの判断にナチとスティングが攻撃を防がんとシールドを張る。 バシュンッ そのおかげで攻撃の全ては防がれた。シールド内にいれば全員が無事なはずだった・・・ 「わたくしたちを誰だと思いまして!?アルヴィス国の名にかけてあなたたちを闇に葬り去りますわ!!」 シャーリーンがシールドをはずれ、空に舞うブラックフォルスに言い放つ。 「シャーリーン!何考えてるんだ!戻れっ!!!」 エルトシャンが叫ぶがシャーリーンは聞く耳を持っていなかった。祈るように手を合わせ、そして詠唱を始めたのだ。 「アルヴィスの名において命ずる。我に今一度の力を――――――― ブラックグラヴィティ!!!」 シャーリーンが術を放つと、羽ばたいていた二羽のブラックフォルスの動きが急に鈍くなる。 羽根を懸命に動かそうとするが、その動きが突然止まると同時に、硬い地面に激しく叩きつけられた。 ぐしゃっ そのうちの一羽はエリオスが出現させた大地の柱に無残にも突き刺さり、血があたりに飛び散った。 「す、すごい・・・っていうか、むごい・・・」 シールドをかけながらナチが驚く。隆起した大地には鮮血が流れ、地面を赤く染めている。 「どうです?それでもまだわたくしたちにたて突くおつもりですか?」 得意げに言い放ったシャーリーンだったが、一つだけ誤算があった。たたきつけたもう一羽の存在だ。 キュウゥゥゥ その口の中で光が生まれる。しかしそれに気づくものは誰もいない。誰もが隆起した大地に突き刺さった一羽のほうに目を向けている。 そしてその光が力となった次の瞬間! ゴッ 高らかに笑っているシャーリーンに光の矢が放たれた! 「!危ないッ・・・・」 ばっ エリオスがシャーリーンをかばうように体当たりをかけた。 ジュッ しかしわずかに遅かった。収束した光はエリオスの腕を焼き、苦痛を与えたのだ。 「ぐっ・・・!!」 バシュッ 力衰えぬ光の矢はナチとスティングのシールドによって消失した。 どさっ 抱き合うように大地に倒れた二人だが、エリオスは激痛に腕を押さえ、顔をゆがませている。 「え、エリオス様!!」 助けられたシャーリーンが悲鳴を上げる。 「く・・・そ・・・!!」 「ナチ、スティング!シールド解除だ!全力でブラックフォルスを叩け!ナチは王女とエリオスさんの援護に回れ!」 言われ、二人はシールドを解き、素早く適位置につく。 「シャーリーン王女、エリオスさん大丈夫ですか!?」 ナチが声をかける。するとシャーリーンはどうして良いか分からない顔をナチに向けた。エリオスは激痛でうずくまっている。 「よくもやってくれたわね・・・!その代償は高いわよ!」 地面に叩きつけられ、もがきながらも戦闘態勢に再び入ったブラックフォルスをナチがにらむ。 そのブラックフォルスが三度光を生み出そうとしたその時。 「パニッシュ!!」 ナチが言い放つと同時に、ブラックフォルスの生み出そうとした光も、命のともし火も消滅した。 球体にえぐられたブラックフォルスの体は再び地面に倒れふせ、ただの肉塊と化したのだった。 一方、残る二羽の前に立ちはだかる二人。 「スティング、派手に行くか!」 「わかりました。アレですね・・・!」 ディクスが意味ありげに言った言葉にスティングがうなずく。 「行くぞ、竜神の舞!!」 「海竜波!!」 ディクスとスティングの掛け声に応えるようにあたりが重低音のきいたうなり声が生まれる。それは空気をも震わし、空を飛んでいるブラックフォルスにもわずかながら影響を与えたようだ。 周囲の変化を敏感に察知したブラックフォルスたちが騒ぎ始めた。 「な、なんだろう・・・!?」 後ろに控えていたエルトシャンやネイシャンもその変化に動揺している。 どおぉぉぉん ザアアァァァッ 二つの轟音と共に、巨大な二つの影が出現した。 「りゅ、竜!?」 エルトシャンが驚きの声を上げる。 上空の強い風に鬣が揺れる。日の光がその硬い鱗を美しく照らし出している。その大きな瞳は迫る敵を捉え、離さない。 「え、エルトシャン、私はまだ死んでいないわよね・・・!?」 突然出現した竜にネイシャンがほうけている。ただただ巨大な竜を見上げているばかりだ。 「ま、また大技出したわねー・・・」 ナチも驚いてみている。 ギャアギャアッ ブラックフォルスも突然現れた巨大な竜に動揺しているらしく、大きな声を上げて縦横無尽に飛び回っている。 「よーっし!最高位の技でやってやる!駆け巡る怒涛の力、鳴神の力と共になりて力と為す!疾風迅雷!!」 コオォォォォ ディクスの術で出現した竜の口内に光が灯る。ぱちぱちと火のはぜるような音がした次の瞬間――――――― バリバリバリッッ!!! 耳を劈くくらいの音と、吹き飛ばされそうな強風が稲妻と共にブラックフォルスを直撃した! バチッ 焦げ臭い匂いがあたりに充満する。そのままの形で炭になったブラックフォルスは大地に叩きつけられると、崩れ、土の一部となった。 「大地の息吹を覆いし冷たき殻、天を貫くその尖りよ、我が意思をもって随従せよ!樹氷の尖(とが)り!!」 続いてスティングが術を発動する。 それに呼応した水竜が口を天に向け、そして最後のブラックフォルスに思いきり頭を振り、無数の氷の尖りを放った。 ドドドドッ その尖りの全てはブラックフォルスの体を貫いた。 パキパキッピギッ と、同時にその尖りがブラックフォルスの体を氷で覆う。炭にされたもう一羽とは対照的に、氷付けにされた最後の一羽は日の光にきらめいて落下し、地面に砕けた。 「フィニーッシュ!」 ディクスとスティングがVサインをする。 後ろで見ていたエルトシャンとネイシャンはまだほうけた様子でぱちぱちと手を叩いている。 しかし、勝利に喜んでいる四人とは反対に、シャーリーンは悲痛な声を上げた。 「エリオス様!」 シャーリーンの声に忘れかけていたもう一つの緊急事態を思い出す。 「エリオス王子!!」 いち早く我に返ったエルトシャンがエリオスに駆け寄る。腕をかばっているエリオスのもう片方の腕を無理やり引き剥がし、傷の具合を見る。 焼かれた腕は深く傷つけられ、物理的な攻撃に付加したもう一つの攻撃。術の侵食が始まっていたのだ。傷ついた腕が時間を早めてみているように深くえぐられ、そして化膿している。 「ひどい・・・シャーリーン!私はエリオス王子に痛覚鈍化を術をかける!だからリヴァイヴの術をかけてくれ!」 「わ、わかりましたわ!」 シャーリーンが圧されてエリオスの腕に手を置く。 まだ痛覚鈍化の術を施されていないエリオスはさらなる苦痛にうめいた。 「アルヴィスの名において命ずる。血の盟約に従い、汝の癒しの力を我が前に・・・!」 ぽうっ シャーリーンの手が光に包まれる。 「侵食・・・あのブラックフォルスはそんな恐ろしい術を持っているのか・・・」 エリオスの傷を目の当たりにしたディクスが痛々しげに口にする。 「話には聞いていましたが、まさかここまでひどい術とは・・・迂闊でした。僕が気をそらしていたから王女達を危険な目にあわせ、そしてエリオスを傷つけることになってしまった・・・」 自分の失敗だとスティングが苦々しくつぶやき目を閉じた。 「おかしい・・・どうして・・・!?」 痛覚鈍化の術をかけているはずのエルトシャンが動揺している。シャーリーンも同じだ。 二人で先ほどから何度も同じ言葉をつむいでいる。術は一度発動すれば何も口にすることはないはずだが・・・。 「どうかしたんですか・・・?」 ナチが心配そうに声をかける。するとエルトシャンは絶望の顔を向けた。 「痛感鈍化の術が効かないんです・・・それどころかシャーリーンのリヴァイヴも・・・」 エルトシャンの顔には焦りと緊張と・・・そして恐怖が混在している。 「そんな・・・!まさか!」 スティングがエルトシャンを抑え、エリオスの様子を見る。激痛にエリオスは気を失っているようだ。先ほどから懸命に手をかざしているシャーリーンではあったが、その術の効果はまるで表れていない。 術はさらにエリオスを侵していたのだ。 「エリオスッ!!」 全く反応はない。 「命あるものの源、癒しの御手よ、その大いなる力をもって傷つきしものに再び力を!」 シャーリーンが術をかけている傍らでスティングが術を発動する。しかし、状況はかわらない。 「そ、そんな・・・エリオス様・・・わたくしのせいで・・・」 シャーリーンの手を包んでいた光が急速に失われる。動揺によって術が消失したのだ。 「そんなことないわ!シルバーヒールを祭るアルヴィスがこのような術に負けるはずがありません!どきなさいシャーリーン!」 ネイシャンが代わって術を放つ。術強化の水晶を併用した癒しの最高位の術、リヴァイヴをかける・・・が。 「――――――― 嘘・・・ありえないわ!癒しの術が効かないというの・・・!?」 ネイシャンが叫ぶ。リヴァイヴの再生力をはるかに上回る侵食。もう時間の問題だった。 スティングががっくりとひざをつく。 「嘘だろ・・・エリオス・・・こんなところで・・・こんなところで!!」 我を失っているようだった。来ようとしているエリオスの死に誰もが失望していた。 「エリオスさん・・・!」 ナチも恐怖で体が震えている。 侵食が広がるとともにその勢いは増していく。そしてエリオスの体を蝕んだ。 「・・・・・・ちょっとどいてくれ」 一部始終を見ていたディクスがエリオスの周りにいる三人を退けた。 動揺しているほかとは違い、ディクスは冷静な・・・しかし、緊張した面持ちでひざをついた。 「できればこれからやることは見なかったことにして欲しい」 言いながらディクスが胸ポケットから何かを取り出した。 「もしかしてディクス・・・」 ナチがつぶやく。ディクスは何も言わずうなずいた。 ディクスは手に取った小さな石をエリオスにかざし、そして祈るように目を閉じた。 |