D.Force The Second Chapter
Force-3
凍れる刃
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「スティング、デルタの状況聞いたかしら?」 早朝、朝食を済ませ自室で口直しの紅茶をすすっているスティングの元へ、姉のフィオールが訪ねてきた。部屋に入ったフィオールはスティングと向かい合わせの席に着く。 「ええ、また殺人が起きたと」 スティングは持っていたティーカップを置く。 「また若い女性・・・可哀想なことだわ」 二ヶ月前からだろうか。デルタでは残酷な殺人事件が起きていた。二日前に起きた殺人も同じような手口で行われたものだった。 女性を鋭利な刃物でずたずたにし、その場に置き去りにする。被害者に共通している事は女性だということだった。一人目は三十五歳の女性、二人目は三十三歳の女性、そして今回、三人目となる女性は二十四歳という若さで殺された。 「他に何か共通点はないのかしら。役所の方も対応に追われてるという話しよ。でも、夜間に女性が外に出るのを控えるようにと注意を呼びかけることしかできない・・・このままでは四人目の被害者出るのは時間の問題だわ」 「兄上から聞いたのですが、この三人はある程度術が使えるみたいですね。冷静に対処していたら免れたかもしれません」 スティングが惜しむようにいう。恐怖に負ければ術は成り立たないのだ。 「犯人は男・・・かしら?ずたずたにしてしまうならそれなりの力が必要だわ。それに遺体の傷から見てロングソード並の長さの刃物が使われたと検証されている・・・」 「女性にはロングソードを振り回すのはきついですね。ショートソードがせいぜいですから」 フィオールは頬杖をつきながら新聞に目を通している。 「私たちが何か手伝えるようなことがあればいいのにね。ここに縛られているだけで何もできない。皮肉だわ」 フィオールは嘆息すると席を立った。 「朝からごめんなさいね、スティング。私は戻ります」 「あっ、いえ・・・」 スティングはあわてて席を立ち、ドアを開ける。 「じゃあ、またね、スティング」 そう言うとフィオールは部屋を出た。 「連続殺人事件・・・か・・・」 「ディクス、ディクス!」 ナチはまだ横になっているディクスをゆすり起こす。 「うっ・・・」 ディクスは頭を抱えて起き上がろうとした。だが、すぐに崩れる。どうやら二日酔いのようだ。 「夜遅くまで飲んでるから・・・はい、水」 無理やりディクスに水を飲ませる。 「くぅー・・・・」 久々の二日酔いに頭を抱えてうずくまる。相当つらいらしい。 ・・・まったくもー ナチはディクスの頭を自分の方へ向かせる。額に手を当て神経を集中した。しばらくそうして離す。 「・・・どう?少しは楽になった?」 「ああ・・・ありがと・・・」 術で二日酔いから少し解放されたらしい。ディクスがよろよろと立ち上がる。 「もうお昼前だよ。お腹すいた?何か買ってくるけど」 しかし、ディクスは首を振って断る。 ・・・・頭痛いけど、外に出て体動かさないと やっとの思いで部屋を出て日の光を浴びる。太陽はもう天高い位置だ。 「ああ、今日もいい天気だ・・・」 眩しそうに空を見上げる。 「この分なら大丈夫みたいね。ねえ、ディクス、わたしあっちで術の練習してるから」 ディクスの状態を確認したナチはその場を離れた。そして、向かった先は昨日奇襲を受けた場所。 犯人が最初に攻撃を放ったと思われる場所を特定しようと、木々の生い茂る場所に踏み入る。しばらく探して無数の傷を受けている木を発見した。 ・・・・ここらへんから攻撃してきたんだわ ナチの放った術を受けて傷ついた木に触れる。 「相手は術の扱いに長けた人物・・・・か」 もし最初の攻撃を受けていたら命はなかっただろう。しかし、ナチは色々と修羅場をくぐってきた人物。ディクスから戦闘における心得は修得済みだった。 普通なら悲鳴を上げて逃げまとうところを冷静に対処し、なおかつ撃退に成功したのだ。 「その一・相手を見極め応じて術を使い分けること。その二・絶対に動揺しないこと。その三・弱点がわかったら徹底的にそこを衝くこと。その四・泣いて謝るまで攻撃をやめないこと。その五・死なないこと・・・」 ディクスの戦闘の心得十三か条の一部を声に出す。ちなみに最後の十三か条は負けないように勝つこと。という当たり前のことが挙げられていたりする。 ディクスがいうにはこれをちゃんと守れば絶対に大丈夫だという。十三か条目が消えない限りそれは当然のことだろうといつもナチは思うのだった。 「でもなんでわたしが・・・誰かと間違えられた?」 考えても行き着く場所はない。そのままその場で考えているときだった。 「ナチュラルさん、どうかしたんですか?」 考え込むナチを見つけたアッシュが声をかけた。あわてて振り向く。 「ああ、アッシュ」 「そんなところで何をしてるんですか?何かあります?」 アッシュがナチがいる茂みを身を乗り出すようにして覗き込む。 「ううん、なんでもないのよ」 あわてて首を振る。 「ちょっと術の練習してただけよ」 「そうですか・・・もうすぐですもんね。ボクもがんばります。ナチュラルさんもがんばってくださいね!!」 「ありがと!」 微笑み返すと、アッシュは満足そうな顔でその場を後にした。 「こんなことしてる場合じゃないわね。わたしもがんばらなきゃ置いていかれちゃう」 やるべきことを思い出し、ナチもまたその場所を離れた。 ヴォンッ!! 鈍い音と共に黒い塊が出現した。ナチがイメージした通りにそれは形状を変え、無数の針が四方に突き出ている形になった。 パチンッ ナチが指を鳴らすと、それらは一本一本鋭い刃となって三百六十度方向に一気に飛び出た。 ヴュヴュッ しかし、それはナチが合図を送るようにこぶしを作ると同時に、その動きを止めた。辺りの空間に黒い針が時が止まったように宙に浮いている。 ナチの額の数センチ手前でも一本の黒い針がその動きを止めている。 ・・・ふぅ・・・ 息をつくと揺らめいて消えた。 「優秀な候補生だったのね」 突然声がかかり、慌てて振り向く。そこには腕を組んだミレナスがいた。 「そうよね、私の攻撃も避けたくらいだし・・・」 「ミレナスさん・・・」 「あなたなら学術院二人目の女性の院生になるかもしれないわね」 相変わらず腕を組んだまま言い放つようにいう。 「いえ・・・わたしの術力じゃまだ・・・」 「そう。まあ、皆に遅れないようにがんばることね。院で会えることを楽しみにしているわ」 一瞥するとどこかへ行ってしまった。 ――――― 敵視されてるなぁ・・・ 軽くため息をついたときディクスの声が聞こえた。 「ナチー!」 「ディクス・・・二日酔いはもう大丈夫なの?」 さっきのディクスは嘘のように元気になったらしい。走ってナチの元にやってきた。 「まあな。アッシュのやつが薬を調合してくれてな。それ飲んだら一発で直った」 「薬の調合・・・アッシュって年齢の割りにすごい知識持ってるのね」 「ああ、俺もびっくりした。うかうかしてられないな」 苦笑いする。 「そうだね。わたしもがんばらなくちゃ」 そして、新しい術を生み出そうとした。 「ナチ・・・」 ディクスに声をかけられ一時中断する。 「なに?」 「あのさ・・・ごめんな。昨日・・・俺、お前の事傷つけちゃったみたいでさ」 珍しく素直なディクスの態度に少し驚く。だが、すぐに笑って返す。 「もう気にしてないからいいわ。立ち直り早いもん」 「・・・・そうか」 「わたしもディクスと院に入りたいからがんばるね。入ったら飛行術教えてよ」 「ああ、わかった」 ナチは満足そうにうなずくと再び意識を集中し始めた。そんなナチの様子を見て、ディクスはその場を離れた。 「ご飯おいしかったね〜」 マインの勧めでデルタの隠れ家的レストランで院生候補者の六人は食事を終え、宿舎に帰っている途中だった。ナチが満足そうに感嘆をもらす。 「あのソースをもうちょっと甘くすれば・・・」 ディクスはさっきから小言を言っていた。 「アッシュ、お前あんまり手つけなかっただろ。大丈夫なのか?」 「ええ、大丈夫です。それにボク、今の身軽さを保つために食事は制限してるんですよ」 あまり食事を取っていないように見えたアッシュを心配してスレイドが訊く。アッシュは見た目は細いが、筋肉はしっかりついているようだ。恐らく体力的なトレーニングを積んでいるのだろう。 「そうですねぇ。マスターを目指すもの。知識的なことだけではなくて体力的にも最高の状態を保つのが望まれますから。私もアッシュ君を見習わなければ」 がっしりとはしているが、やや体重の気になるマインがアッシュの心がけに感心した。 「長生きは腹八分が鉄則。食べすぎは不健康の元じゃな」 とは言いながら一番食べていたのはフィルジアだったりする。 暗い夜道を何気ない話で歩いていく。冷たい月が夜空に輝こうと昇り始めていた。 「ねえ、ディクス。夜間練習して良いかな?」 部屋に戻り、くつろいでいる時、ナチがディクスに訊いた。 「夜間練習?」 ディクスが眉をひそめて訊き返す。 「うん。ほら、せっかく術のための広場があるんだし・・・夜だったら集中できるじゃない。だから、お願い!」 手を合わせて頼み込む。ディクスのことだから断られるのは承知だった。それでも寸分の望みを胸にこうやって頼み込んでるのだった。 予想通りディクスは難しい顔をしてナチを見ている。 ・・・やっぱり駄目だよね・・・ 諦めかけた時だ。 「いいよ、夜間練習。行って来いよ」 「えっ?」 予想外の反応に思わず声を上げる。 「いいの・・・・?」 「ああ、いいよ。ちゃんと帰ってくれさえすればな。もう子供じゃないんだろ?術者としての責任をちゃんとわかっていれば、帰ってくるのはいつでも良いさ」 などと言ってくれたディクスに後光が差しているように見える。思わず手を合わせて拝みたくなったナチだった。 「あっりがとぉ〜!さすが我が兄!歳をとると角が取れて丸くなるってのは本当だったのね。やっぱり亀の甲より年の功!伊達に歳食っちゃいないわね〜」 けなしてるのか褒めているのかわからないナチをディクスがにらむ。 「やっぱり・・・」 「ディクス、愛してるわ!・・・ということで、バイバ〜イ!」 ディクスの言葉をさえぎると、ショートソードをひっつかんでさっさと部屋を出て行ってしまった。その様子を全員が目で追う。一部始終を見ていたアッシュが再びディクスに目を向ける。 「クロードさん・・・顔がにやけてます」 静まり返った部屋にアッシュが突っ込む。 「まさか」 他の三人もつられてディクスを見る。誰から見てもニヤけているディクスがいた。 術の開発のために設けられた宮殿内の広場。 その広場には術で爆音、振動を防ぐシステムがしかれていた。たとえ暴れたとしても、他の迷惑にはならないだろう。その暗く、誰もいないその場所にナチは一人立っていた。 「それにしても、あのディクスがよく許してくれたわよね」 珍しいこともあると感心していた。普段は身につけないショートソードを腰に装備し、気合を入れる。 ナチは昨夜のことがあって、敢えてここに来たのだった。もし自分が標的でなかったらそれでもいい。けれど、その標的が自分だったら・・・・絶対に負けるわけにはいかない。 ――――― 来るなら来なさいよ〜 勝てる自信があった。この広い敷地なら、茂みから狙い撃ちにするのも難しいし、術の発動から目標の到達までブランクがある。そして、何より接近戦となった時に広い方が有利なのだ。戦闘において一番厄介なのが相手の行方がくらまされること。昨日のように木々が生い茂るような場所では不利に感じたのだった。 接近戦はディクス直伝の剣術でいこうかな。 ショートソードを腰から引き抜き、構えてみる。高かっただけあって、軽く、切れ味は抜群だった。 そして、その剣をディクスが時々隠れて包丁代わりに使っていたのを知っている。その理由はディクスが自分のマイ包丁を使いたくなかったからだった。 ・・・ま、いつも研いでもらってるもんね。 剣を傾けると月の光に照らされ鈍く光った。その反射光が目を衝く。 「イタタ・・・」 思わず態勢を崩したときだった。 ヒュッ!! 聞きなれている音が耳についた。 「わわっ!」 あわててその場を飛ぶ。それと同時に腕一本の長さはある氷の刃が地面に衝き立った。 ――――― 来た・・・・!! 相手の姿はまだ見えない。ショートソードをしまうと、意識を集中し始めた。 ・・・次の攻撃を見極めること 自分に言い聞かせるように思い出す。深く呼吸をした。その場に留まり慎重に辺りを見回す。 しかし、相手はなかなか攻撃してこない。 "相手が攻撃してこないような時は・・・" ディクスから教えられたある言葉が不意に思い出される。 跳ばなきゃ!! 体のほうが早かった。ナチは術を併用して斜めに高く、遠く飛び上がった! ドカッ!! 図ったように地面が天高く隆起する。ちょうどナチがいたその場所に大地がそそり立った。 "攻撃してこないような時は地面爆発系の術を使ってくるかもしれないからその場に留まらないように" ディクスの言った事は正解だった。 ナチが地面に着地すると同時に次の攻撃がナチを襲う! 「アイスシールド!!」 業火の塊りとナチの放った冷たい氷の壁がぶつかった。硬い音を立てて辺りに霧が立ち込める。 「大気渦巻く風よ!!」 ナチは即座にその場を離れ、霧をなぎ払う風を作り出す。視界がよくなったところで黒い影を確認した。 「逃がさない!エクスプロード!!」 影がいた辺り一帯が爆発する。爆音と共に高温の赤い煙が、高く跳躍した影を焼こうと竜のように伸び上がる。 ・・・予想済み!! 「フラッシュフレア!!」 昨日のお返しとばかりにナチを中心に目を覆いたくなるような光の洪水が広がった。影はそれに一瞬ひるみ、地面にひざまづいた。 「テラーズ!」 今度は、相手に恐怖を与え、精神を撹乱させる術を放つ。恐怖が波動となり、影を襲った。しかし、影の周りが一瞬ぶれたのを確認すると、ナチは次の術の発動にかかった。ナチの術が跳ね返されたらしい。 ヴォン!! 影によって生み出された新しい術。黒い球体は無数の針が突き出ているそれへと形を変える。 そして・・・ 「嘘でしょ!?」 全方向に貫かんと解き放たれた!! 「きゃああ!」 弾丸すら通さない硬い壁がナチを守る。しかし、思いがけない攻撃に全ての攻撃を防ぎ、かわすことは不可能だった。 シュッ! 「うあっ・・・・!!」 その一つがナチの腕をかすった。それだけでも焼けるような痛みが脳を直撃する。 ――――― 焦るな!痛覚鈍化の術を・・・! 以前スティングから教わった痛苦緩和の術をとっさに発動する。痛みで締め付けられていた頭が徐々に正常さを取り戻す。 しかし、既に遅かった。視界が一瞬光り、ナチは思わず目を瞑ってしまった。 それと同時に目の前の影が長い刃をぎらつかせてナチめがけて振り下ろした! ギッ・・・ 「くっ・・・」 すんでのところで引き抜いたショートソードがその一撃を阻止する。さっきの光。目にしたものの精神を著しくそぎ、術の行使を減衰させるものだった。ナチの態勢は完全に不利だ。 ・・・・おも・・・い!! ぎりぎりと押し付けられる。もう限界だった。 「こん・・・な・・・ところで・・・死ね・・・ないっっ!!烈火の陣!!」 グオゥ! 懇親の力を込めて影の剣をなぎ払い、そのまま大地に剣を振り下ろした。轟音と共に影の周りを業火が襲う!今度は避け切れなかった影が態勢を崩す、ナチはそこをすかさず斬りかかった。 キィンッ 固いもの同士がぶつかり合う甲高い音が辺りに響く。月の淡い光だけでは相手の顔はわからない。全霊の力を込めて相手の刃を押しとどめる。しかし、体力で負ける事は重々承知だった。 「怒れる大地よ!」 影の足元が隆起する。予想していなかったのか、影は空高く跳ね飛ばされた。そして、目の前の隆起した大地の向こうで何かがたたきつけられる音が・・・。 間合いを・・・取らなきゃ・・・! 一瞬気が遠くなったような気がした。腕がうずく。同時に頭が何かに吸い込まれるような錯覚を覚えた。 「頭が・・・痛い・・・」 再び痛みの感じ始めた腕をかばい、ナチは後退する。力の入らない・・・それでも剣を構え、相手の出方を待った。ここで根気負けしたら殺られるのは確実だった。 "――――― 術力の財源はやる気でまかなえる" ディクスの戦闘の心得のひとつだ。幸いにも体力に若干の余裕がある。気力さえどうにかできればまだ戦える状態だ。 そして、ナチの危機感が、術力の財源となるには十分だった。 来るなら来なさい! 剣を握る手に力がこもる。今か今かと相手の出方を待った。しかし、粉塵がおさまり、辺りが静かになっても攻撃ひとつ・・・いや、物音一つしなかった。 それでもナチは集中して待ち続けた。懐に飛び込んでくるなら剣術を、地面からの攻撃なら跳躍の術を、飛びの攻撃、精神汚染の攻撃なら守りの障壁を・・・それぞれすぐに行動に移せるように緊張を張り詰めていた。 時間だけが経過する。気がつけば辺りは完全な静けさを取り戻していた。 ・・・・・・相手はいなくなった・・・?それとも―――――― また逃げられたのか、それとも倒すことができたのか。ショートソードを構えたまま少しずつ前進する。やがて、隆起した大地の反対側までやってきた。 「!」 そこには仰向けに倒れている影。腹部と胸の辺りをえぐられ、どす黒い血が地面を染めている。死んでいるのか、動く気配はなかった。 ―――― 動かない・・・ 慎重に間合いを詰めていく。 「・・・・・・」 意識を集中し、片手を突き出す。 「アイスショット!」 小型ナイフくらいの大きさの鋭い氷柱が、倒れている影の肩すれすれに突き刺さる。 ――――― 反応なし・・・ この出血。生きていようと相手は戦闘不能だろうと察し、ショートソードをしまった。 「・・・勝った・・・?」 まだ緊張気味の声でつぶやく。 相手が死んでいるのかどうか、そして一体誰なのか顔をのぞこうと動いた。光の玉を生み出し、倒れている影の顔を照らした。 長い金髪。見開かれた青い瞳・・・そして、それは自分が一番知っている顔。 「わた・・・し・・・!?」 ――――― 違う・・・これは!! ドスッ・・・ 鈍い音。体に何かがもぐり込んできたような衝撃。 背後から出現した氷の刃がナチのわき腹を貫いた。 「・・・・・」 何が起きたのか確認しようとしたが、ナチは音もなくその場に崩れる。 ・・・体が・・・動かない・・・・ 一瞬何が起きたのかわからなかった。だが、わき腹が熱くうずいていることに、自分がどういう状況なのか把握する。今までに感じたことのない衝撃。 額を地面にこすりつけるようにうずくまった。 「・・・あ・・・・っ」 朦朧とする中で目をこじ開ける。目の前には死んでいると思われたあの影。 「・・・っんで・・・」 腹を、胸を無残にもえぐられ、既に死に絶えていたあの影は紛れもなく自分の顔だった。 しかし、それが幻術であったということに気づくのが遅すぎた。 ・・・そう・・・か・・・あのとき・・・ 影を吹き飛ばした後、腕の痛みに一瞬緊張が緩んだあの瞬間。目の前がぶれるようなめまい。 まさに幻術にかかった瞬間だった。 ――――― 油・・・断したっ・・・・!! 「残念ね。もっと遊べるかと思ったのに」 不意に声が聞こえた。 「四人目・・・幻術くらい見抜けないようじゃ、院生失格ね。あなたみたいな未熟者がここに来ようとするから。神聖な場所に穢れた女は要らない」 ・・・・この声・・・・ 「この腕の傷、足のやけど・・・・あなたにはてこずったわ。お礼よ。苦しんで死になさい」 嘲るような笑い。 ドカッ わき腹を押さえ、うずくまるようにしているナチの傷口をつま先で蹴り上げる。 「・・・っあ!!!」 言葉では言い表せないほどの痛み。術は・・・もう使えない。 歩き去る影。もう目の前が真っ暗で何も見えない。感じるのは近づいている死の足音だけ。 ・・・わたし、ここで死ぬのかな・・・・? 不意に痛みが遠ざかった気がした。今なら術が使える気がした。 だが、素直に死を受け入れようとしている自分に気づく。何故か口元が緩んだ。 ―――― お兄ちゃん・・・ごめんね・・・・ ゆっくりと目を閉じる。 一筋の涙が頬を伝って地面に落ちる。そして、それ以上地面をぬらす事はなかった。 |