D.Force The Second Chapter
Force-30
真紅の街
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―――――――― フォースが俺にしか使えないなら、その力の全てを俺に貸してくれ・・・! 手に持ったフォース。それを硬く握り締め、強く願う。 ポウッ その願いに応えるようにフォースに光が宿る。 「クロードさん・・・もしかしてその石は・・・」 ディクスが持っている石にエルトシャンが反応する。 「我が根底に眠りし蘇の源よ、癒しの力となりて治癒力を与えよ」 静かに言い放つ。 カッ!! しかし、その口調とは反対にディクスの手から漏れる光は周囲の目をやいた。 「な、なんですの・・・!?」 悲鳴を上げる。しかし、目の前は白いだけの光景が広がるだけで何が起きているのか分からない。 ――――― ディクス・・・ 目をやかれながらも、ナチは目を閉じ、ディクスのその行為を按じた。 今、どういう気持ちでディクスがフォースを使っているのか――――― ナチには痛いほど分かっていた。 「・・・・・・・・・・・」 普通の人間ではその力を引き出すことの出来ないフォース。しかしディクスだけは違ったのだ。 そう願えばフォースの力はディクスの力となって術を作り出す。術を強化する水晶や護符とは比べ物にならない。それはディクス自身が身を持って体験している。 フォースに閉じ込められたかつての竜神の力、それを自分を通して今、エリオスに癒しの術を発動しているのだ。 周囲には何が起きているのかは分からない。けれど、ディクスには見えていた。フォースの力が術の侵食を止めているのを。・・・いや、むしろフォースの力が浸食の力を圧倒的に上回り、治癒しているのだ。 侵食や化膿によってひどい状態だった腕も徐々に治り、さらにその治癒力も上がっていった。 ―――――― もう、そろそろか・・・・・・? ディクスの額に緊張とわずかな焦りが汗となって浮かぶ。 ほんの十数秒のはずだった。けれどディクスにとってはとてつもなく長い時間。 そして不安と恐怖の入り混じる耐え難い瞬間・・・ フッ・・・ そしてディクスはフォースの力を封じた。まばゆい光に包まれていた周囲も元に戻る。他の五人はまだ目を焼かれているらしいが、エリオスの様子を見ようと懸命に目を凝らしている。 「・・・・・・これで完全に治癒できたはずだ。もう、侵食はしない。完全に傷はふさいだから」 周囲を安心させるようにディクスが言う。 苦痛の表情だったエリオスももう落ち着いた様子だ。眠るように目を閉じている。 「ほ、本当ですか・・・!?有難うございます、ディクス!」 ようやく光を取り戻したスティングがディクスの手を握り締める。そしてその手に握られているフォースに気づく。 「―――――――― ディクス・・・本当に有難うございます・・・」 心の底から感謝を言う。スティングもまたディクスの思いを分かっていたのだ。 かつての竜神の力を行使できる異端な自分を疎んじているディクスを――――――― 「当然だろ?俺だからな、出来ない事なんかないさ!」 いつものように振舞ったつもりなのだろう。しかし、ぎこちなさにスティングもナチもいたたまれない気持ちで一杯だった。 一部始終を見ていたアルヴィス国の三人。 目の前で起きた事象に圧倒されるばかりだ。 この男は一体何者なのだろうか? どうしてあのフォースを行使できるのだろうか? 疑問しか生まれない。 シャーリーンは傷の治ったエリオスに近づき、ひざまづいた。そして手を取る。 その手はまだうっすらと汗が握られていた。侵食が相当な苦痛をエリオスに与えていたことが伺える。 「エリオス様・・・本当にごめんなさい・・・」 エリオスの手の上に涙を落とす。 「――――――― こんなわたくしなのに・・・助けてくださって本当に感謝したりないくらい・・・わたくしはエリオス様に嫌われているのに・・・それなのにエリオス様は・・・」 するとシャーリーンの手をエリオスの手が弱弱しくも握り返した。 「えっ・・・」 「・・・もう・・・軽はずみな行動は・・・とるな・・・」 まだ辛そうではあったが、わずかに目を開け、シャーリーンにそう言った。 「エリオス・・・!気がついたのか!」 スティングが歓喜の声を上げる。 「じゃ、じゃあ私が体力回復の術を・・・」 言いかけたエルトシャンをディクスが止める。エルトシャンは疑問のまなざしを向けた。 「さっきは術を使って治癒をしたとはいえ体への負荷は小さいものではありません。怪我はともかく、体力は出来るだけ自然回復のほうが体にもいいはずです」 「でも体力回復系の術は・・・」 「体力回復とはいえ、それは体のポテンシャルを一時的に、しかも強制的に上げるだけです。あまり無理をさせないほうが良いでしょう」 ディクスの的を得た意見にエルトシャンが驚いた表情を見せる。 ――――――― この人は・・・術の本当を知っている・・・ 「?どうかしました?」 ディクスをほうけて見ていて慌てて首を振る。 ・・・馬鹿だな。見ていたって、彼の素性は何も分からないのに・・・ 一人苦笑する。 「エリオス様、エリオス様っ!!」 シャーリーンがエリオスの手を強く握り何度も名前を口にする。そのたびに大粒の涙がエリオスに手にこぼれる。 「頼むから・・・もう軽はずみな行動は取らないでくれ・・・」 念を押すようにもう一度口にする。シャーリーンはその言葉に何度もうなずく。 「ごめんなさい、エリオス様・・・わたくし・・・ずっとエリオス様に嫌われていると思っていました・・・あの時からずっと・・・」 エリオスはもう一度シャーリーンの手を握り返す。 「謝らなくてはならないは私のほうだ・・・私は自分の不完全さをあの出来事のせいにしていた・・・己の弱さをさらけ出すのが怖くて・・・結果的に貴方を避けようとした・・・そして・・・傷つけてしまった・・・」 「違いますわ!わたくしがあんなことを・・・・・・!」 「・・・・・・もう・・・それで十分だ・・・」 わずかではあるがエリオスは笑みを浮かべそういった。 「――――――― エリオス様・・・!」 その一言にシャーリーンは声を上げて泣き出してしまった。相変わらずエリオスの手を握ったままで。 困惑した表情のエリオスではあったが、握られる手を振り払おうとはしなかった。 「良かったですね、エリオスさん!」 ナチも涙をぬぐって笑みを浮かべる。 「助けたつもりが逆に助けられたようだな・・・」 苦笑する。 「ディクス・・・クロードさん・・・貴方には感謝を言わねばなりませんね・・・」 「いえ、私がシャーリーン王女を守りきれなかったから・・・王子や王女達を守ることが課せられた仕事だというのに満足にこなせず・・・本当に申し訳ありません」 ディクスは深々と頭を下げた。 「ディクス!顔を上げてください!それなら僕だって同じです!誰も守りきることは出来なかった・・・お願いです、ディクス、顔を上げてください!」 スティングがディクスに慌てて言う。 「――――――― 誰のせいでもないさ・・・そう、誰のせいでも・・・」 互いに謝り始めたディクスとスティングにエリオスがつぶやくように言う。 そして――――――― 目を閉じた。 「え、エリオス様―――――― っ!!!」 急変したエリオスにシャーリーンが激しく彼の肩をゆする。 「ちょ、ちょっと待ってください、シャーリーン王女!」 がっくんがっくんエリオスを揺らすシャーリーンにナチが慌てて取り入る。 「大丈夫ですよ。ほら、眠り込んだだけですから」 何とか押さえて落ち着かせる。緊張の糸が切れたエリオスはすやすやと寝入ってしまった。先ほどの表情からは信じられないほどの穏やかさだ。 「ひと段落・・・だな」 ディクスが言う。同時にその場の全員がうなずいた。 パカラッパカラッ 遠くから馬を駆る音が聞こえる。目を向ければ血相を変えたアルバートが馬に乗ってこちらにやってきている途中だった。 「大丈夫かっ!?」 馬から下りるのももどかしく、アルバートは青ざめた表情で走ってきた。 「エルトシャン王子たちが無事でよかった。こっちも退けるのに手間取っていてな、心配になってきてみたんだが・・・・・・エリオス?」 その場の全員がエリオスを取り囲んでいるのに気づく。 よく見ればナチやシャーリーンが泣きはらした跡も見受けられる。 恐る恐る近づく。ここから見えるエリオスの服は血で染められ、焼かれた跡を見せている。 「・・・・・・・・・・」 嫌な予感がよぎるが、気を保って歩み寄る。 やがて、その目に飛び込んできたのは眠るようにして横たわるエリオス――――――― 「まさかっ・・・!エリオスッ!!!!」 『わっ!!』 そばにいたディクスとスティングを跳ね除け、アルバートはエリオスに馬乗りになって襟首をつかんだ。 「エリオス、エリオス!目を開けろっ!!私より先に逝くなど許さないぞ!」 シャーリーンの時よりも激しくゆすられ、エリオスの頭ががっくんがっくんゆれる。 「ま、ま、待ってください、アルバートさん!エリオスさんは無事です!ただ眠ってるだけなんです!!」 ものすごい勢いのアルバートにナチが腕をつかんで主張する。 はっとして我に帰ったアルバートはナチとエリオスを交互に見比べる。そしてつかまれている腕に気づく。 「眠って・・・いる・・・?」 念を押すように聞いたアルバートにナチが一生懸命首を縦に振る。 それを確認して再びエリオスに向き直る。 ――――――― 本当に寝ているようだ。 襟首をつかんでいる自分の手をまじまじと見ると、ゆっくりとエリオスを地面に下ろす。そして立ち上がった。 背を向け、頭をかいた。 背後からの視線が微妙に痛い。 「こほんっ・・・ともあれ、全員が無事でよかった」 わざとらしく咳払いをし、顔を赤らめそう取り直した。 ・・・・・・意外に可愛い。 その場の全員の率直な感想だった。 「兄上・・・申し訳ありません。私が腑がないばかりにエリオスばかりか、エルトシャン王子たちにも危険にさらしてしまい・・・」 背を向けているアルバートにスティングが頭を下げる。 「それなら私もです!課せられた任務を果たせませんでした」 ディクスもナチも立ち上がり頭を下げた。 「―――――― 確かに・・・任務としては果たせなかったようだが。今はもういい。全員が無事ならばそれが一番だ」 振り返り三人に言う。 「しかしあのブラックフォルスを6羽も倒すとはさすが。しかもこの竜たちは・・・」 アルバートがまだ術の解かれていない二頭の竜を見上げる。 パカラッパカラッ 「アルバートさま!」 六人の騎馬が遅れてやってきた。 「スティング、お前は馬を駆って私と一緒に来い。・・・エルトシャン王子、あなた方ももう一度宮殿にいらしてください」 スティングとエルトシャンがうなずく。 騎馬兵が倒れているエリオスを担ぎ、馬に乗せる。 「クロードさん、あなた方はエルトシャン王子たちについてください―――――― 全てが片付いたらまた呼びます」 ディクスもナチも緊張した面持ちだ。 「では行くぞ。スティング!」 「はい」 再び馬に乗ったアルバートは馬を駆り先に行ってしまった。スティングも馬を一頭駆り、後を追いかけた。同じくエリオスを乗せた騎馬兵も走って行った。 「クロード・・・と言ったね?我々の馬を貸しましょう。ブラックフォルスの後始末は我々が行います。アルヴィス国の王子と王女を乗せて宮殿に向かってください」 「ええ、わかりました」 そして四頭の馬を借り受けた。 「私は馬に乗れますから同伴されなくても結構です」 そういうとネイシャンは身軽に馬に乗る。エルトシャンも同様になれた様子で馬に乗る。 「―――――― わたくしはエルトシャンと共に参りますわ」 シャーリーンは泣きはらした顔でディクスにそういった。 そんなシャーリーンの肩をぽんっと叩く。シャーリーンは口元に笑みを浮かべ、うなずいた。 馬に乗るのは久々ではあったが、ディクスも同じように馬に乗る。そしてそれを恨めしそうに見ている視線に気づく。 「わたし乗れないんだけど・・・」 残りの一頭の前でナチがディクスを見ている。 「・・・じゃあ、俺の後ろに乗れ。落ちるなよ」 ナチは持っていた手綱を放し、ディクスの馬に飛び乗った。 ぱあんっ 手綱を鳴らすと、四頭の馬は宮殿に向かって走り始めた。 「何を笑ってるんですか、シャーリーン」 向かいの席でさっきから嬉しそうな表情のシャーリーンにエルトシャンが不思議そうに訊く。 「エルトシャンは鈍いのねー、それでは一生結婚なんか出来ないわ」 「????」 ―――――― あの騒ぎの後、シャーリーンは一目散にエリオスの元に向かった。 ショックと体力の消耗でエリオスは深い眠りについていた。 「・・・・・・エリオス様・・・」 会うのは何年ぶりだろうか? 最後に会ってからずっとエリオスを探していた。言わねばならない事があったから・・・ あの時はごめんなさい・・・と。 しかしアルヴィスで待っていてもエンドレスを訪れても、彼に会うことは叶わなかった。今回もそう思っていた。嫌われているのは分かったから自分ではどうしようもなかったのだ。 自分をかばって倒れたあの瞬間が蘇る。 あんなにひどいことをしたのに身を呈してかばってくれたエリオス。自分をあんなにも嫌っているはずなのに・・・ そしてあの言葉。 ・・・・・・もう・・・それで十分だ・・・ 笑みを浮かべ、そう言ったエリオスの言葉に今まで抱えていた後悔が一瞬にして消え去った。 「わたくし・・・もう、軽はずみな行動は取りませんわ・・・」 眠っているエリオスにもう一度約束をする。 「エリオス様、どうか、お元気で・・・」 そう言い残し、シャーリーンはエリオスの元を離れた。 そして今、ブルーフォースでアルヴィスに向かっている。 さっきから笑みがこぼれてしょうがない。 「シャーリーン、本当に嬉しそうね」 ネイシャンが言うとシャーリーンがうなずいた。 「わたくしこのときが来るのをずっと待っていました。アクシデント中の出来事でしたけど・・・けど、わたくしはエリオス様に助けられました。命も・・・心も・・・」 エリオスに握り返された手を胸にあてる。 わだかまりがなくなれば何も迷うことはない。恐れることはない。 そして何かを決心したように急に立ち上がった。 「エルトシャン、ネイシャン・・・わたくしあの縁談を受けますわ」 「シャーリーン!?」 エルトシャンが驚いたように言う。しかし、ネイシャンはシャーリーンの目をまっすぐ見てうなずく。 「どうして・・・あんなにも嫌がっていたのに・・・」 しかし、疑問だらけのエルトシャンにシャーリーンは微笑んだだけだった。 エリオスに対する謝罪の気持ちを抱えたままで縁談を受け入れるわけには行かなかった。エリオスに認めてもらう必要があったのだ。 エリオスに許しを貰わなければ・・・ ―――――――― エリオス様、今度はわたくしの自慢の婚約者とともにお会いしましょう・・・ 厚い雲の下に広がっているエンドレスの大地に向かってシャーリーンは願ったのだった。 「・・・・・・」 「あ、エリオス、気がついたのね!」 ゆっくりと目を開ける。そこは見慣れた自室だった。そしてベッドの隣には嬉しそうな顔のフィオールが。 ――――― 姉上・・・ 口に出そうとするが、声にならない。 「いいわ、何もしゃべらなくて。ちょっと待っててね。お水を持ってくるわ」 そしてフィオールが部屋から出て行った。 そうか・・・あの後気を失ったのか・・・・・・ ぼんやりとする頭の中であの時の出来事を思い出す。 昨夜ずっと考えていた。自分がすべきことを。 アルヴィスの三人が今日帰ることを知り、エリオスは慌てて応接間に向かった。しかし、すでに彼らの姿はなかった。 馬を駆ることも忘れ、エリオスはブルーフォースに向かっている三人に追いつこうと必死だった。 この機会を逃せばいつまでたっても自分は負け犬だから。 シャーリーンに会って、向き合って・・・そして謝らねばならなかった。 今までのシャーリーンに対する自分の行いを。 シャーリーンを嫌っていたんじゃない、自身に負けていた弱い自分をさらけ出すのが怖かったのだと・・・そう告げねばならなかった。 アクシデント中の出来事ではあったが、エリオスとシャーリーンは数年来に打ち解けることが出来た。 それでよかったと思う。大怪我する羽目になってしまったが、おかげで本当の自分をさらけ出すことが出来たのだから。 どうしてか痛む首を横に向ける。すると台の上にあの青い石が置いてあった。 ナチがくれた水の輝石だ。 ――――――― ナチュラル、君のおかげだ・・・有難う・・・ 顔を緩め、そしてエリオスは再び眠りについた。 「はーっ・・・お茶がおいしーい」 ナチが待つように言われた応接間でお茶を堪能している。ディクスも同じだ。向かいの席に座っている。 「ディクス〜、任務完了!!お疲れ様〜!」 「ああ、お疲れ様」 ちょっと笑って言い返す。 ・・・・・・やっぱフォースのこと気になってるのかな? やや元気なさ気なディクスを伺う。ディクスはティーカップを手に持ったままで口には入れようとしなかった。何か考え込んでいるようにも見える。 「ねえ、ディクス。有難うね」 ナチが言うとディクスは不思議そうな顔をした。 「俺、何かしたか?」 「何とぼけてるのよ!エリオスさん助けたでしょー」 そう言うとディクスの顔に陰りがさす。そしてナチから視線をそらした。 「もしあそこでディクスがやらなかったらきっと最悪の結果になったと思う。わたし本当にどうしようって怖くてしょうがなかったの。自分ができる事がなくて、ただ立ってる事しかできなくて・・・だからね、うらやましいんだ」 「?」 「お兄ちゃんがね、うらやましいと思ったの」 「俺・・・が?」 突然お兄ちゃんと呼んだナチに戸惑いながらもディクスが口にする。 「だって命を助けたんだよ?わたしには到底出来ない・・・わたし、お兄ちゃんがフォースのことネックに感じてることを知ってるわ」 ディクスがうつむく。 「でも、わたしはおにいちゃんがうらやましいの。人を助けられる力を持っているから・・・」 「・・・それは借り物の力だ。俺の力じゃない。フォースがなかったら俺は・・・」 「そのフォースの力を引き出す"力"がお兄ちゃんの力でしょ?」 ナチは笑みを浮かべた。 「助ける力を持っていないわたしを考えてみてよ!すんごいむなしいんだから!」 「・・・・・・」 「それに―――――― わたしが一番尊敬しているのはいつ何時でも自分らしいお兄ちゃんなんだから。だからかわいーい妹のためだと思って立ち直って?」 のぞき込むように見たナチと視線があう。 「可愛いってお前・・・」 ジト目で見る。 「まあまあ!とにかく元気出して!わたしはおにいちゃんを誇りに思ってるんだから!」 手を伸ばしてディクスの肩をぽんぽんたたく。 「ん・・・うん・・・」 照れ隠しか、ディクスは見えないようにさらに顔をうつむかせた。 「んふ〜♪照れちゃって可愛い〜」 ナチがニヤつきながらディクスをつつく。 「お、お前な!」 ガチャッ からかわれたディクスははずみでお茶をテーブルにこぼしてしまった。 「あああ!何やってるのよー!」 ナチが辺りを見回して見つけた台ふきを持ってくる。 「お前が妙な事言うからだろ!」 「失礼ね!せっかく元気付けてあげたのに」 「俺はいつでも元気百倍だ!」 「その元気がゼロだったら何倍しても変わらないじゃない」 「またそういう屁理屈を・・・」 「マイナスだったら逆効果よね〜」 「お前ってやつは本当に・・・」 ぎゃーぎゃー言い合いながらその場を効率悪く片付ける。 ・・・・・・やーっと戻ったわね そんなディクスを横目で見ながらナチが安心する。 「ん、なんだ?」 「何でも!ほらほら、そこんとこまだ拭いてないわよ」 「わかってるよ」 ディクスはしぶしぶ残った場所を拭いたのだった。ナチに視線をそらせば傾いたカップを片付けているところだった。 「―――――― ありがと」 聞こえないように小さな声でつぶやく。 「・・・?何か言った?」 「いや、何も」 聞こえたのかと内心焦りつつ、ディクスは同じ所を何度も拭いた。 「やっぱり怒られるよね・・・」 ナチがディクスの隣を歩きながら心配そうに言う。 応接間で待っていた二人にいよいよアルバートからの声がかかったのだ。絶対にブラックフォルスの件だろう。 「殺されたりはしないだろうから大丈夫だろ」 「それはそうだけど・・・あっ」 急にナチが立ち止まり声を上げる。つられてディクスも立ち止まる。 「ん、どうした?」 ディクスが聞くとナチは窓の向こうを指差した。 「外?」 デルタを見渡せるテラスに続くかなり大きな出窓。 そのずっと、大陸を、海を越えたさらに向こう。 「綺麗・・・」 顔を赤く染め、ナチがつぶやく。ディクスも顔を赤く染められその光景を目にする。 真紅の太陽がはるか彼方に沈もうとしている瞬間だ。太陽を隠すように囲む雲の切れ間から光が漏れ、光のカーテンを作り出している。 そしてデルタ全体をその色に美しく染め上げていた。 「・・・・・・・・・・」 「わたし・・・もう今日みたいな日を味わいたくない・・・」 「ナチ?」 「赤い血を見て・・・消えようとしている命を目の当たりにして・・・叫んでるスティングを見て、わたし、気が狂いそうだった・・・」 沈む赤い夕日が連想させたのだろうか。ナチはあの時のもう一つの感情を口にした。 「―――――― もし、ディクスがそうなったら・・・叫んでいるのがわたしだったら・・・考えて体の震えが止まらなかったの。涙があふれてしょうがなかった。お兄ちゃんがいなくなったらどうしたらいいかわからなくて・・・怖くて・・・凄く不安になって・・・」 ナチの体が小刻みに震えだす。 ・・・そうだわ・・・エイブルさんと戦った時だって・・・ 「誰かが死ぬのを見るのはイヤ!絶対に駄目!だから・・・お願い!」 ナチがディクスの腕を力強く握り締める。 「お願い・・・わたしを置いて行かないで・・・!お願いだから・・・死なないで・・・・・・!!」 大きな青い瞳から大粒の涙が溢れ出す。 「ナチ・・・!」 「死ぬならわたしを先に殺してからにして!わたしより先に死なないで・・・!」 「!!」 細い腕のどこにそんな力があるのか。ナチはディクスの二の腕をさらに強くつかむ。 「お前、何を言って・・・」 「お願いだから・・・約束してよ・・・ねえ・・・!」 ディクスの胸板に額を押し付けて返事を求める。 「―――――― それは俺の台詞だろ?」 震える声で言う。 かつて夢を見た事があった。誰もいない町の夕暮れに、胸板を貫かれ、地に倒れ伏せている妹の――――――― 熱い涙がこみ上げる、それを何とか食い止めようと歯を食いしばる。 「お前こそ俺より先に行くなんて絶対に許さないからな・・・!」 「ずるい、そんなの返事じゃないよ!うんって言ってよ!」 震えているナチの肩を力強く抱きしめる。 もう・・・何も失いたくない・・・・ 十三年前の恐怖。・・・失う事の本当の恐ろしさ――――――― 二人ともそれを知っている。 お互い、互いの願いを了解することが出来ず、ただそうならないことを願うしかなかった。 ・・・・・・俺は絶対にそうはさせない・・・!! たった一人の肉親が赤く染まらぬよう、そして失う事の無いよう・・・ディクスは命を懸けて守ると何よりも堅く、そして強く誓った。 赤い夕日はさらにデルタ全体をその色に染めた。 十三年前―――――― 人の血で大陸が染められたように――――――― 不気味なまでに赤く・・・ |
貴方が我々を導いていた一筋の光―――――― 今はその残像さえない、暗黒という無 それでも我々は捜し求めるだろう 貴方という己の安息の地を求めて・・・ 変わり果ててしまったこの姿――――― 貴方は気づいてくれるだろうか? D.Force 第二章 - 終 - |