D.Force The Second Chapter
Force-6
真実と罠
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それは異様な光景だった。 焼け爛れた衣服、同じように爛れた肌。その片目はすでに光を捉えてはいなかった。そして左腕。深く切り込まれ、白い骨が見え隠れしていた。 それでもミレナスは笑みを浮かべていた。何事もなかったように使える片腕を掲げる。 「このくらいの傷、痛覚鈍化の術でどうにでもなるわ」 手で傷を折った腕を覆う。ボッという音と共に、炎が傷を焼き、出血を止めた。 「ディクス・・・なんでここに・・・?」 しかし、答えず、ディクスはナチを適当なところに寝かせた。 「俺、行って来るから」 そう言うと一歩茂みから踏み出した。 「学術院のトップクラスをなめないことね」 「それを候補生が引きずり落としてやるよ」 威を秘めた瞳で静かに言い放つ。長いシャツを二の腕までまくり、戦闘態勢をとってみせる。 「面白いわ。あなたのそのプライド、私がズタズタに引き裂いてあげる!!」 勢いよく振り下ろしたその軌跡から広がった黒い霧が辺りを支配する。 周囲が一瞬にして黒く染まり、ミレナスの姿が全くわからなくなった。 「吹き行く風よ」 ディクスは落ち着いた表情で対応する。出現した風が辺りの霧を一気に払った。 「死ねっ!!」 ディクスの斜めすぐ上をミレナスが跳躍する。 どぉぉぉん 大きな振動と共にディクスの足元が大爆発を起こした! 「ディクスッ!!」 一部始終を目で追っていたナチが悲鳴を上げる。赤く立ち上る粉塵。 到底中はうかがえない。 「ざまないわ!」 ミレナスが嘲笑しながら地面に着地する。 「えっ?」 ミレナスが声を上げた時だった。かすかに地面が光ったのだ。 「くそっ!!」 悪態をつくと再び高く飛び上がる。 ドカッ!! ナチの比ではなかった。天さえ貫きそうな高く、鋭い大地の柱がその場にできあがった。 ミレナスはそれをすれすれでかわす。 「貴様・・・!!」 ディクスは確かにその場所にいた。さっきミレナスが放った術のその中心。ディクスはその場から微動だにしなかった。 ディクスはあらかじめ飛行の術を発動させ、地面から体を浮かせていた。さらに頑丈なシールドによって爆発の衝撃を遮断していたのだった。 「わざと遅らせてやったんだ」 その場に落ちていたナチのショートソードを手に、一歩一歩近づく。 「くっ・・・ハンドレッドショット!!」 無数の鋭い刃がディクスの周りを取り巻き、一斉に浴びせにかかった! 「院生が聞いてあきれる」 しかし、その言葉と共に刃は音もなく消えた。 「!」 術を防がれたミレナスの表情に動揺が走る。 「術を使うまでもないか?」 ディクスは冷淡な口調で剣を構えた。 血で濡れた冷たい刃。恐ろしくも、その美しさに目を奪われる。 「来るなっ!」 叫びと共にあの衝撃波がディクスを襲う! とっさにシールドを張るが、全ての衝撃をかわす事はできなかった。ディクスはたたらを踏んで態勢を崩す。 「くらえっ!!」 ミレナスの右腕に張り付くようにぎらついている巨大な氷の刃を一身に振る! キィン!! 硬いもの同士がぶつかり合う澄んだ音。しかし、 じゅわっ それはディクスと交わした剣によって無残にも溶けて消えた。 「!?」 蒸気に変わった己の剣に、ミレナスは目を見開いた。 「そろそろ芸風を変えたほうが良いんじゃないかっ!?」 かざしたディクスの手から漏れる光の洪水。 「っ!!」 まさかの反撃にまともに目を焼かれる。それを見ていたナチも同じだった。めまいと頭痛が襲う。次の攻撃を恐れ、ミレナスは身の回りに風をまとった。 ・・・やられるわけにはいかない!! 激しい怒りがこみ上げる。 「ダークミスト!」 ミレナスの術により、黒い霧が一瞬にして辺りを覆う。 視力を奪われながらも精神を統一し、むやみやたらに攻撃を続けた。 「フレアボム!」 「ブラストヘイル!」 「ラーバ・フロウッ!!」 烈火の大爆発が、氷の粒の嵐が、そして熱く溶けた大地が・・・辺り一帯をめちゃくちゃにする。 戦闘の場所から離れていたナチだったが、シールドを張らなければその余波を受けなければならないくらいに大きな術の連発だった。 「はぁ・・・はぁ・・・」 大きな技の連発でミレナスの息が上がる。飛び出てくる仇敵を今かと待ち構える。 ・・・が、いつまで経っても反応はなかった。攻撃は防がれたのか、それとも・・・ 「・・・・・?」 一方的に術を暴発しながら光を取り戻したミレナスは、ようやく攻撃をやめた。粉塵にはばまれ様子はわからない。だが、爆心地に何かがうずくまっているのは確認できた。 「エクスプロージョン!!」 それを中心に大地と炎のコラボレーションが夜空に散る。鼓膜を突き破るような轟音と共にそれが吹き飛ばされた。 どさっ ミレナスの目の前にたたきつけられる。その後を追うように、同じように突き上げられたショートソードがそれに深く突き刺さる。 「!」 それはミレナス以上に焼けただれ、ところどころ炭化している・・・・・・・・・ 「うそ・・・・ディクスっ!!」 同じく視力の戻ったナチが同じものを目にして絶叫する。 「ふ・・・ふふっ・・・あはははははっ!!!」 目の前のディクス。それはもはや原形をとどめていなかった。黒く炭化している部分から白い煙が立ち上っている。そして強烈な匂い。 ――――― 絶望的だった。 「いやぁぁぁぁ―――――― !!!!」 腹部の痛みどころではなかった。よろけながらも立ち上がる。 「許さない・・・絶対に許さない!!!」 手を構え、大きな術、一発勝負で決めようと極限まで意識を高める。 それをあざ笑うミレナス。 「ふふっ・・・安心しなさい。すぐに後を追わせてあげるわ」 「どうして・・・どうして人を殺すのよ!?何でそんなに無造作に・・・・!!」 叫び訴える。しかしそれを鼻で笑う。 「冥土の土産に一つ昔話をしてあげましょうか」 それは七年前の事だった。 山間にある小さな村。 一軒の家の前に二人の女がいた。心地よい風に吹かれ、一人の女――― ミレナスの長い髪がなびいていた。 「ミレナス、私応援してるから。がんばってよ!」 もう一人の女が満面の笑みと共にミレナスにそう言った。 その言葉を胸に刻むように、ミレナスは力強くうなずく。 「有難う。私、絶対皆を見返せるくらい優秀な術者になって戻って来るから」 そう告げ、ミレナスは親友に見送られ、村を去った。 彼女は一人身だった。早くに母親を亡くし、一人で生きてきた。彼女の記憶にある母親は男をめまぐるしく変える、いかがわしい女というイメージしかなかった。父親の顔など知らない。 自分は絶対にそうならないと心に決めていた。 そんな嫌な思い出の中によぎる、彼女の安らぎがあった。 "―――― ミレナス、帰ってきたら結婚しよう" その言葉がミレナスの力だった。 彼の言葉を信じ、そして親友の言葉を糧に、ミレナスは過酷な術の修行に明け暮れた。 流れる月日は早く、気がつけば五年が経過していた。 ・・・もう十分かな? そう思えば次にすることは決まっていた。すぐに住み慣れた村へと戻ったのだ。 ミレナスが去った村は何も変わっていないはずだった。 「ごめんください」 真っ先に向かった彼の家。愛しい彼が待っているはずだった。 しかし―――――― 「ミレナス・・・!」 自分の顔を見て驚きの声を上げたのは紛れもなく彼女の親友だった。 口元に手をあて、信じられないものでも見るかのような視線をミレナスに向けている。 だが、驚いているのは彼女だけではなかった。 「どうして・・・どうしてあなたがここに?彼は!?」 同じくミレナスも驚きを隠せない。何故ここに彼女がいるのか、そしてどうしてこんなにも驚いているのか・・・結論は一つしかないように思えた。 「まさかあなた達・・・・・!?」 あまりにも簡単な答えに、ミレナスは詰め寄る。 しかし、親友は黙ったままだった。うつむいて顔を上げようとしない。 「どういうことなの!?ちゃんと説明してよ!」 親友の肩をつかみ問いただそうとする。それでも何も答えようとはしなかった。 「ねえ、答えてよ!!」 「うるさいっ!」 ミレナスの腕を振り切る。 「イタッ!」 その拍子にレンガの壁に手を強く打ちつけ、手の甲がわずかに血がにじむ。 ミレナスの親友だったその女は息を荒くし、ミレナスをにらんだ。 「邪魔だったのよ・・・」 そう言った。 「私も彼が好きだったの!でも、彼はあなたのことを愛していた・・・私は振り向かせようと必死で・・・」 彼女の体がわずかに震えるのがわかった。 「だから私はアンタの親友の振りして術の修行を促した・・・そして私は彼と・・・」 「言わないで!!」 感情が術となって辺り一帯を衝撃波が襲う。強いものではないとはいえ、親友は仰向けに倒れた。 「信じて・・・たのに・・・!」 私はあなただけを・・・親友として認めていたのに!! 自然と目から涙が零れ落ちる。 「今更術を修得しようなんて遅れてるのよ。今の時代に術なんて必要ない・・・術者なんてダサい人間の象徴じゃない!!」 「だまれ!!」 突き出した右手から氷の刃が生み出され、彼女の腕を覆った。日の光を受け、きらきらと輝く。 ―――――― 私は・・・私はただ純粋に・・・ただ術を修得をしたかったから・・・それなのに! ガキン!! 地面に刃が突き刺さる。 「あなたは何もわかっていない・・・!!私の事知っている振りして何も知らない・・・」 私は優秀な術者として選ばれたもの!!あなたみたいな下等な人間に言われる筋合いはない!! 「な・・・何よ・・・!それで私を殺すつもり・・?やれるもんならやってみなさいよ!!」 自分のすぐ隣に刺さっている氷の刃に圧されながらも、言い放つ。 「彼はアンタみたいな女には一生振り向かないんだから!!」 ・・・一生振り向かない?それは私だから・・・?私とあなたは違うの?一体何が・・・ 心の中で問う。しかしその答えはすぐに導かれた。口元を曲げる。 「そう・・・ね。そうよ、私とあなた達が格が違うわ・・・」 不意に表情を変え、刃を引き抜く。 「あなた達みたいな下等な・・・術を知らない人間に私は合わないわ」 「下等・・・・・!?」 寒気が襲う。ミレナスの異常な気を本能的に察し、一歩あとず去る。 「そうよ、私どうしてあなた達みたいな人間と付き合っていたのかしら?こんな人間と付き合っていたって何もメリットなんかないのに・・・私自身が汚されるだけじゃない」 そう言って一歩前進する。 「あなた・・・邪魔ね」 きらめく氷の刃を振り上げる。 「ちょっ・・・と・・・?」 しかし、気づいたときには既に遅かった。 ざしゅっ 真っ赤な血が辺りを染める。かつての親友は悲鳴を上げることなくその場に倒れ崩れた。 「害虫は駆除しなきゃ」 返り血を浴びながらも冷たく言い放つ。そして二度とその村に姿を現す事はなかった。 「なんで・・・どうしてそれだけの理由でほかの人を巻き添えにするの!?」 一通り話しを聞いたナチが非難の声を上げる。それにミレナスは怪訝な顔をした。 「まだ話は終わってないわ。ちゃんと最後まで聞きなさい」 そういうと、思いをはせるように空を見上げた。 「そう・・・ね・・・。それだけの理由じゃいくら私でも何人も殺したりしないわ。でもね、私が人を殺した理由はもう一つあるの」 そう言って数歩前へ歩く。 「あなた知ってるんでしょう?私がどうして人を殺したか」 「女性を・・・院に入れたくなかったから」 ナチが言った言葉に満足そうにうなずく。 「ええ、その通りよ。正解。それがわかったからこうやって私をおびき出して倒そうと思ったんでしょう?」 一瞬たじろいたナチに鼻で笑う。 「返り討ちに合っちゃって」 目の前の黒い塊りを足で蹴る。それだけそれはもろくも崩れた。 「やめてっ!!」 ナチの両手から光り輝く光玉が生み出される。今にも放たんとその輝きは強くなっていった。 「・・・そんなに死に急ぐことないでしょう?・・・・・・私が・・・私が院に女を入れたくなかったのは聖域を汚したくなかったから。何者も惑わす穢れし女はいらないの」 そう言うと何故か自嘲気味に笑った。 「そう・・・あのときの私は甘かったのよね。強がってた自分に気づかなくて・・・まさか女におぼれるなんて」 「!?」 「そんなに驚くことじゃないわ。あなたが知らないだけ。求める者はそれが何であれ、寂しさを紛らわせることができれば何でも良いのよ。私はそれがただ女だったという、単純なことだわ」 目をゆっくり閉じると小さく息をついた。 「でもね、気づいたの。私の傷は大きくなっていってるって。その原因は何?私が女におぼれているから。それならわたしがそうなった理由は?かつての親友が私を汚したから。・・・私は女である自分が憎かった。全てを堕落させる女という存在が自分であるということに。普通に生きていこうと思えば思うほどその思いは強くなった。だから私は学術院に行ったのよ」 「どうして・・・?」 「あそこは閉鎖的で男しかいないから。部屋にこもっていれば誰に会うこともない。やりたかった術の研究だって惜しみなくできる。女によって堕落した自分を救うのはもはや術を究めるほか道がなかった・・・・・・なのに。あのアルバートが余計なことをしてくれたおかげでここ数ヶ月で院生は急激に増えたわ。まあ、最初は別になんともなかった。けどね、町に出た時、ある人が院を目指すっていう話を聞いてね。いても立ってもいられなくなったのよ」 「それが最初の被害者・・・・?」 つぶやくように言ったナチに顔を向き直る。目を細め、口元を曲げてみてた。 「本当に滑稽よ。誰一人術を使って抵抗しないの。恐怖が術の発動を妨げていたんでしょうね。これで院にはいろうなんて馬鹿げてるわ。下等な人間の考えることよね。 だからあなたが反撃したときはちょっと驚いたけど、結果的にはあなたは倒れた」 「・・・・・・」 「術は神聖なもの。人の思いを力にすることができる。そして、学術院は術を真に求める者のよりどころ。女が入ったら穢れるわ。だから処分したの。私は聖域を守る番人。一歩たりとも女を中に入れるわけには行かないわ」 当たり前のように言う。しのび笑いがやがて大きな笑いとなった。 「だからあなたも私が処分するの。自分じゃわからないでしょうけど、あなたも一皮むければあいつとおなじ・・・私を堕落させた魔女になる。こんなことせずにおとなしくここを去っていれば生き延びられたのに、残念ね」 「そんなの自分の勝手じゃない!!術を純粋に求めるのは皆同じ!高度な術が使えるかどうかなんて関係ない!穢れた女・・・?それは自分のせいでしょう!?あなたが女性を穢れたものにしてるんじゃない!自分の固定観念で全てを決め付けて支配しようなんて冗談じゃないわ!!」 「言ってくれるわね。・・・そんなの重々承知よ。だからその思いを消すために遠ざけたんじゃない。だから・・・・ あなたも死んで頂戴」 ヒュッ!! 氷のつぶてが一斉にナチに襲い掛かる! 「ファイアーウォール!」 間をおいて出現した炎を壁がつぶてを溶かす。痛覚鈍化の術を施したナチはその場をすぐに横に跳び応戦した。 「ダークファングッ!!」 一瞬ナチの手の前の空間がぶれた。そして次の瞬間。 ぐぉぉぉぉ!! ミレナスの目の前の闇が巨大な竜の顎と化して襲い掛かった! 「光よ!」 しかし、砕かれるよりも一瞬早い光の衝撃がナチの闇を相殺した。 「必死で逃げなさいな!」 どかっ ナチの足元がどろどろの溶岩に変わる。すんでのところで垂直に高く飛ぶが・・・ や、やばい!!このまま着地したらわたし・・・・!! 背筋が凍る。 「風よ!!」 「させるか!」 着地地点をそらすために放ったナチの風がミレナスの風によって相殺され 空(くう)に消えた。 「きゃあああああっ!!!!」 絶叫を上げ、赤い大地へと体が吸い込まれていく! ディクスッ!!! 心の中で亡き兄の名を呼ぶ。しかし、答えるものは無い。 手で虚空をつかむ。そして・・・ じゅわっ ナチが地面にたたきつけられる音もなく、その小さな体は吸収されるように溶岩に溶けて消えた。 骨さえ残らず完全に・・・ その一部始終を冷徹な目で見ているミレナス。 しばらくそうして、鼻で笑うと術を封印した。戻ったのは夜の静けさ。 「本当に女って馬鹿よね・・・」 「そうかしら?」 唐突に聞こえた声にミレナスは振り返る。 どしゅっ 同時に術を放ったが、それは地面に突き刺さっただけで力を失った。 「どうして・・・・!?」 驚愕のミレナスに"ナチ"は不敵に笑っただけだった。腕を組み、妖しい目をミレナスから離さなかった。 「だって・・・わたしはあなたに負けるほど弱くないもの。悪いけど、"罠"にかかったあなたはもう逃れられない」 ゆっくりと手を前に出すとぐっと力を入れた。 「うっ!!」 ミレナスの体が何かに締め付けられたようにその場に硬直した。 体全体を襲う重圧の中、ミレナスはうっすらと目を開けた。その先にはナチが。 確かに術の中に溶け消えたはずなのに―――――― 「まさか幻術にはまるとはな。その幻術でナチを散々な目にあわせたんじゃなかったのか?」 今度は男の声。突然のことにミレナスの目が見開かれる。 しかし、視界に入ったのは死んだはずのナチ。再び腕を組んでこちらをずっと見ている。 ・・・誰!? 「まだわからないのか?」 その声。確かに目の前のナチからつむがれた言葉だった。 「その声・・・あなたは・・・死んだはずじゃ!?」 言って視線をそらした先にはあの黒い塊りが。 「だから幻術だって言ってるんだよ」 ナチはぱちんと指を鳴らした。それと同時にあの黒い塊りはその場から消えた。 「目は覚めたか?」 再び目を向けた先にはナチではなく、あのディクスが腕を組んで立っていた。険しい表情でミレナスを見ている。その隣、気を失っているナチが横になっていた。 「くそっ!!」 体を締め付けていた力も解かれていた。それに気づくや否や、ミレナスは悪態をつき、なおも術を発動しようとした。 「死にたいのか?」 その様子を見て飽きれたようにディクスが目を細めた。そのときだ。 「あうっ」 やけどの箇所、そしてナチに刻まれた腕の痛みがいっぺんに戻ってくる。思いがけない激痛に地面に倒れ伏せた。そしてその場にうずくまる。 「悪いが、痛覚鈍化の術を中和させてもらった。死ぬまでその痛みを味わうことになるな」 言いながら少しずつミレナスに近づく。 ・・・殺されるっっ!! 近づいてくる足音に言い知れぬ緊張が押し寄せる。恐怖が、不安がミレナスを侵す。 「妹によくも大怪我させてくれたな」 静かに、しかし奥底に計り知れない怒りが潜んでいるのは確かだった。 いや・・・いや!!まだ死にたくない!! 「償ってもらうか・・・」 とうとうすぐ目の前に来た。絶望の顔をディクスに向ける。 術が・・・集中できない・・・!! 「せいぜい後悔する事だな」 そう言い、恐怖に震えているミレナスに手をかざす。 ・・・もう・・・駄目だわ・・・ キュアアアアッ・・・・ 白い光がミレナスを包む。そして意識が暗転した。 |