D.Force The Second Chapter
Force-9
ミッションインポシブル
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「はっ?」 ディクスは突然の声に素っ頓狂な声を上げて振り返る。 目の前には長い銀髪と紅い瞳を持つ人物。数ヶ月前に行動をともにしていた・・・ 「出た―――――― !!!」 開口一番そう絶叫し、びしぃっと指をさして思い切り身を引く。 ・・・出たって・・・ 「スティング!何でお前がここにいるんだ!?」 「何でって・・・ここデルタですよ、エンドレスのデルタ!」 完全に自分の台詞だと思いながらもスティングは慌てて答えた。 「んなこと言われなくてもわかってる!なんで海竜の背なんかにいるのかって訊いてるんだ!」 ――――― そっちですか・・・ ディクスらしいと思いながらも、久々のノリに頭痛を覚える。 「ディクスがいきなり攻撃してくるからですよ。大地の術を連発してたからこの竜の背中に避難したんです。僕はディクスみたいに飛べませんから」 憮然として言う。ところが、その答えに不機嫌になったのはディクスだった。腕を組んでスティングをにらんでいる。 「やっぱりお前だったんだな!お前がこの海竜に命令なんかするから俺は水柱の直撃を受けたんだぞ!」 「えっ・・・?」 よくよく見るとディクスの服はびしょびしょだった。髪も水滴が滴り落ちている。 「それは・・・いきなり火竜が出てきたから対処しないといけないと思って・・・大体なんで火竜なんか出すんですか!」 「なんかって・・・俺の火竜にケチつける気か!?」 なんでそうなるんですか!? 「そうじゃなくて、どうして火竜を出現させたんですか?僕、本物だと思って驚いたんですよ」 その火竜は二人の様子を興味深げに見ていた。 「どうしてって、海竜の反対は火竜だろ?それに、そんな大きな術を見せ付けられて黙っていられるわけないだろ」 自信たっぷりに言い切ったディクスにスティングはため息をついた。 全然変わってないですね・・・ 懐かしいやり取りにふと笑みを浮かべる。 「ディクスはディクスでしたね」 「ったり前だろ?」 さも当然というように何故かなぜか得意満面な顔をした。 「ところで、どうしてここにいるんですか?エルダスはどうしたんです?それに・・・」 ―――――― ナチは? そう訊きかけて口を閉じる。別れの時、何も告げずに去った自分に嫌悪を感じた所以だった。 あのとき一言でも断っておけばと、今でも悔やんでいたのだった。 「フォースの事は色々分かったよ。子竜のこともわかったし・・・ディスティールにも行ったさ。何もなかったけど」 そこまで言って顔をうつむかせる。 ・・・相当つらい思いをしたんですね・・・ 「―――― ディク・・・」 「ぶえっくしょいっ!!!」 親身になって声をかけようとしたスティングにディクスは遠慮のないくしゃみをかました。 「くっそ〜、寒くなってきたな」 「―――――― ・・・・」 鼻をすすったディクスにスティングは冷ややかな視線を浴びせた。 「なんだよ。びしょぬれで寒いんだよ。仕方ないだろー」 「・・・別になんとも思ってませんよ・・・」 心配して損した! 心底そう思うスティングだった。 「寒いなら術を使って乾かしたらどうですか?なんなら僕がやりますけど?」 「服傷むし、髪もばさばさになるからいい」 即行で断られ、スティングはがっくりと肩を落とす。 さっきから振り回されてるばっかのような気がする・・・・・・ 紛れも無い事実に久々の疲れを感じた。だが、それは嫌な疲れではなかった。むしろ、今の自分が求めていたもの。 「ディクス、積もる話は後にしましょう。僕、たくさん聞きたいことがありますし」 「あー、それなら夜はどうだ?俺、この後ちょっと買いだしに行って夕飯作らなきゃいけないんだ」 ものすごく大事なことを思い出したというように手をたたく。 「夕飯作るって・・・一体どこに住んでるんですか?それにどうしてここに・・・」 「その話は後後!急がないとタイムサービスに遅れる!」 そういうや否や、ぱちんと指を鳴らし火竜の術を解いた。 「じゃあな、スティング!」 「あ、ディクス!!」 一方的に話をきると飛んでその場を去ってしまった。 ――――― 話は後って・・・ 残された一人と一匹は冷たくなった風に吹かれるばかりだった。 ―――――― しまった・・・積もる話はたくさんあるのにスティングの居場所が分からない・・・! 食事を終え、いつも楽しみにしている料理の本を読もうとしたところで大事なことを思い出した。 「どうしたの?」 急に固まったディクスにナチが声をかける。 ・・・しかも、ナチにスティングに会ったって話すの忘れてた・・・ お得なタイムサービスが頭の中を支配していたディクスに、スティングがはいいる隙は寸分も無い。 「部屋の場所だけでも聞いておくべきだったな・・・」 「ねえ、何の話?」 ぶつぶつつぶやいているディクスにナチが不審そうに訊いた。 「いや・・・なあ、ナチ。ちょっと外出るか?」 「外に?なんで?」 ・・・もしかしたらあいつそこら辺でうろうろしているかもしれないんだよな〜そこまで来てるかも・・・ 「まあ、いいから!」 そう言うと立ち上がり、上着を取った。 「外は結構冷えるぞ。ちゃんと上を着るようにな」 納得の行かないままナチはディクスとともに寮を後にした。 外に出れない・・・ 自室から見える庭には警備兵が右往左往している。普通に出ようとしては確実に捕まるのは目に見えている。 「今日一日休暇とったし・・・ライアたちには迷惑かけられないし・・・」 第一王位継承者の住む部屋は厳重な警備に置かれていた。特に夜は厳しかった。スティング単独で公務以外で夜半に外を出るのは至難の技だった。 「どうしよう?このまま待っててもディクスたちがここに来れるわけないし」 しかし、考えてもいい案は浮かびそうにもなかった。 「でも、どうしてあんなところにいたんだろう?デルタにいるのはいいとしても、まさか宮殿敷地内で会うなんて」 二人の状況を全く知らないスティングには訊きたいことが山ほどあった。まさかの事態に嬉しさよりも驚きの方が多かったのは確かだ。 ―――――― でも本当に良かった 心の中からそう思い、暗闇の外へと目を向けた。 一方のディクスとナチは警備の厳しい宮殿中心に近い場所に身を隠していた。 「何でこんなところにいるの?何かわたしたちめちゃくちゃ妖しい人物みたいじゃない」 理由も聞かずについてきたナチは不服そうにそう漏らした。 「仕方ないだろ。こうでもしないと警備兵に捕まるんだからな。慎重に潜入しないと会えないし」 「潜入!?ディクス一体何するつもりなの?犯罪するなら一人でやってよね!」 「あのなぁ・・・お前スティングに会いたくないのか?」 「スティング・・・って!会えるわけないじゃない!わたしたちとは身分の違いは雲泥の差よ!」 こんなにも近くにいるはずなのに、宮殿という同じ敷地にいながらも会えるという確証は一度も得た事はなかった。会いたいという気持ちはあったが、会えないだろうという諦めの方が断然勝っていたのだった。 それなのにディクスは突然会おうなどと無謀な事を言い出し、あまつさえ宮内の中心部に潜入しようなどと言っているのだ。 「はぁ・・・」 「そんなに落ち込むなよ。それにほら、城内許可証!」 言って自信たっぷりに見せたのはあの事件の時にアルバートから貰った許可証だった。 「返してなかったの?」 「別に返せとも言われなかったしな。それに犯罪に使うわけじゃないし・・・これで正々堂々と潜入できるだろ?」 ―――― だから潜入って・・・ 「というわけで、行こうか!」 そう言うと勢いよく立ち上がった。 「ちょっと!だったら何でこんなところにわざわざ身を隠したのよ。許可証持ってるなら、こそこそしないで早く入ればよかったのに」 服についた夜露を払いながらナチが文句を言う。 すると、ディクスはにやりと笑った。 「潜入の雰囲気を味わおうと思ってな!」 そう即答してくれた。 ようやく二人は宮殿中心に潜入した。 ―――― パスを通ったとはいえ、これじゃ侵入じゃない・・・ 暗い中庭で一人ナチは思う。 ・・・気づいたら一人だし 辺りを見回しても誰もいない。冷たい風がナチの頬をなぜた。 「寒い〜」 こんなに寒いのにスティングがいるわけないじゃない〜!ほんとにディクスは何を考えているんだか・・・ 本当に突拍子も無い兄だと情けなく思う。 「帰っちゃおうかなぁ・・・どうせ何も無いだろうし」 言ってポケットの中に手を入れた。指先に感じた固い感触に気づく。 これ、スティングから預かった石・・・ 取り出して透かしてみた。雑じりっけのない見事な真紅。いつ見ても魅入るほどの美しさだ。 「これ、返せるのかな」 「君は・・・」 突然背後からかかった声にナチはびくんと体を震わせた。 「昼間の・・・」 「えっ?」 振り向くと、そこには今日の昼に会った銀髪の人物がいた。不思議そうにこちらを見ている。 「また会ったね。でも、どうしてこんなところに?院生とはいえ、ここに容易に入れないはずだが」 痛いところをつかれ、ナチは思わず苦笑する。 「兄が用事があるみたいでその付き添いに・・・」 「用事?こんな夜に・・・ん?」 何かに気付いたのかナチの手元を凝視している。わずかな光にきらめく真紅の石。 ―――――― あの石は確か・・・ 「あのー、どうかしました?」 ナチに声をかけられ、我に帰る。 ・・・もしかして・・・ 「いや、なんでも・・・ところでまだ聞いてなかったね。君の名前は?」 「わたしはナチュラルといいます。ナチュラル・クロード」 「――――― そうか、宜しくナチュラル。私はエリオスだ」 そう言って手を差し出した。ナチも慌ててその手を握り返す。 シュッ 「!」 その瞬間、手を通して伝わる強い思い。ナチの不安と思いが交錯した感情がエリオスの中に流れ込んできた。 "――――― スティングに会えるのかな?わたしはこの石をちゃんと返すことができるのかな・・・?" ナチの不安が無意識のうちに術で伝わってしまったようだ。それがエリオスの確信となる。 やはり・・・そうか・・・ 「・・・ここにいても君の探している人物はやってこないよ。彼は厳重な警備の元に置かれているからね」 「探している・・・人物?」 「ああ。ともかくここを離れよう」 そう言うとナチの同行をうながした。わけのわからないままナチはエリオスについて行くしかなかった。 あれは、スティングがエンドレスに戻ってくる数日前のことだった・・・ 「スティング様がデルタを離れたそうです」 「ああ、知ってるよ。静養を兼ねて北エンドレスに・・・」 「それは建前ですよ、エリオス様」 エリオスの言葉に彼の従者ナーシャが怪しい笑みを浮かべる。 「我々も苦労しました。こんな忙しい時期に王子とあろう人間が静養目的で北エンドレスにいくなんておかしいと思いませんか?静養ならエンドレス内でも十分にできるはずなのに」 「それは・・・」 「アルバート様やライア達が大臣たちをも騙してスティング様の一人旅を促したのです。そして彼は今、ネスト国にいます」 ―――――― 旅? 「別に構わないんじゃないか?そうでもしないと許可は得られないだろう。それに前々から外に出たいって言っていたし、誰も文句は・・・」 言いかけて思いついたようにエリオスは息を呑んだ。 まさか・・・・! 「エリオス様、今が時です。このことを国王に告げれば、王位継承は・・・」 「!」 「こんなにいいチャンスはありませんよ!今は国王はここにはいません。しかし、数日のうちに帰ってきます。スティング様がここまで帰ってこれる余裕はありません!」 「ナーシャ!私は・・・!」 「調査をこのまま進めます。エリオス様は何も心配される事はありませんよ。我々にお任せください」 口元をゆがませて言うと、ナーシャはあわただしく部屋を出た。 声をかける暇もなく目の前から消えてしまった。残ったのはひとり焦燥に刈られているエリオス。 ―――― なんとかしなければ・・・! 自分のやるべき事は一つだった。書きかけの書類をそのままに、続けて部屋を出た。 「さあ、ここをまっすぐ行けば会えるよ」 今、目の前には長い回廊。 「あの・・・エリオスさん?」 「気にしないで。いつものことだからきっと部屋でうつらうつらしているはずだ。ノックさえすればいい」 そう言うと促すようにナチの背中を軽く押して行ってしまった。 ・・・・・・会えるって・・・ 不安なまなざしを長い回廊に向ける。エリオスに言われるままついてきたナチだったが、あの場所からどうやってここへ来たのか分からなくなっていた。侵入者を惑わすために複雑なつくりになっているのだろう。 引き返そうと思っても不可能に思えた。 「・・・行くしかないかなぁ・・・」 そろそろと足を踏み出し、廊下の先のドアに向かって歩き始めた。 ドアの前に立つ。やや大きめのドアには見事な装飾が施されたノブ。何故エリオスがここに連れてきてくれたのかわからなかった。でも、もしエリオスが自分の探しているものを知っているなら・・・ 意を決してノックをしようとした。 「・・・・・」 コンッ・・・バンっ!! 「イタッ!!」 「えっ!?」 突然開いたドアに頭をぶつけ、悲鳴を上げたナチに懐かしい声が聞こえた。 「あ・・・」 額を押さえたナチが懐かしい顔を捉える。それと同時湧き上がる思い・・・・・・。 相手もしげしげとナチを見ている。 「ナチュラル・・・・・・?」 ほうけたようにその名を口にする。 「ディクス!!」 たまらなくなったナチははぐれた兄の腹に思い切り蹴りを入れたのだった。 ナチを送り届け、一人になったエリオスは、あの時のことを再び思いだしていた。 必死だった。なんとしてでもスティングをすぐに帰還させねばならなかった・・・ 何も考えず部屋を飛び出したエリオスだったが、その足をとめた。大きく肩で息をする。 「私は何をすれば・・・」 ―――― どうすれば阻止できる?どうすればあいつは帰ってくる!? 混乱した頭が出す答えは何も無い。 「くそっ!」 握ったこぶしを自分のひざに思い切りたたきつける。今は痛みも感じない。ただ焦燥感だけがエリオスを支配していた。 「・・・!」 そんなエリオスの視線の先を歩く人物が一人。 ――――― アルバート・・・! 第三王位継承権を持つ義兄、アルバート。 "・・・・・・アルバート様やライア達が大臣たちをも騙してスティング様の一人旅を促したのです・・・・・・" ナーシャの言葉が脳裏をよぎる。考えるよりも先に行動する方が早かった。 「兄上殿」 気づかれぬよう小走りでアルバートの背後に近づく。そして、一息ついたところで声をかけた。 「・・・エリオスか」 そう言ってからアルバートはゆっくりと振りかえる。 「珍しいな。どうした」 「大した用ではありません。ただ、見かけたから声を掛けてみただけです」 当たり前のようにいうエリオスにアルバートは肩をすくめて見せた。 「そうか・・・すまないがお前と話している暇はないんだ。これから会合が・・・」 「・・・第一王位継承権は我が内にある」 アルバートの言葉をさえぎりそう言った。 「―――― 何の話だ?」 エリオスにつぶやきに眉をひそめ、目を細める。そんなアルバートにエリオスは腕を組んで勝ち誇った顔を見せた。 「今はネストにいるとか・・・宜しくやっているといいですね。まぁ、あいつのことだからうまくやってるのでしょうけど。怪我でもしたら大変ですから、見守ってあげて下さい。姉上殿やライアたちと一緒に」 「お前・・・」 「会合があるから私なんかと話してる暇はないのでは?もたもたしてると出遅れますよ」 「・・・忠告有難う。そうさせてもらうよ」 動揺を隠すようにアルバートは足早にその場を去った。その影が見えなくなるまでエリオスは冷たい目を離さなかった。 「・・・これで・・・これでよかったんだ・・・」 やがて見えなくなったところでつぶやくようにそういった。 ――――― アルバートは今すぐにでもスティングの従者にあいつの帰還命令を出すだろう。大丈夫、ネスト国はそんなに離れていない。すぐにでも戻ってこられるさ・・・ そう自分に言い聞かせると、窓から差し込む夕日を浴びながらぐったりとその場に座り込んでしまった。 そして今。同じようにエリオスは壁に背中を預け、ずり落ちるように床に座り込む。 まるであの時の焦燥が今、蘇ったかのように、エリオスは深くため息をするとそのままうな垂れてしまった。 どさっ! みぞおちに不意打ちを受けたディクスは床に背中をたたきつけてのびてしまった。 「どこ行ってたのよ!!一人置いてけぼりにして!」 懐かしい声――――― ディクスの声に反応したナチは迷わずディクスの腹に足を叩き込んだのだった。置いていかれ、散々な思いをした怒りをこめて。 「大体なんでこんなところに・・・」 不意に感じた第三者の視線に顔を上げる。 「ナチ・・・?」 こちらを驚きの表情で見ている人物と視線がぶつかる。 「スティ・・・ング?」 それはまぎれもなく、かつての旅を共にした仲間だった。 |