D.Force The Third Chapter
Force-14
発進!ブルーフォース
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「つまんなぁ〜い」 「はい、十四回目」 ソファの上で不服そうに足を投げ出しているナチュラルにディクスが現在のカウント数を告げる。 「だって、本当につまんないんだもん」 「十五回目・・・最近本当にそればっかだな。カウントするの大変なんだぞ」 ―――――― だったらカウントしなきゃ良いじゃない・・・ 思うが口に出すのも面倒なのか軽いため息をついただけだ。 「ディクスは楽しい?今の生活」 さっきから山積みにされた料理の本を堪能しているディクスに訊く。 「ああ、楽しいよ」 ナチに目もくれず手に持っている本を凝視したまま当たり前のように答えた。 「洗濯とか掃除とか、料理できるのが楽しいの?」 「当たり前だろ?だって旅をしてたから料理できなかったし。それを考えると今は楽しくてしょうがないさ」 そうさわやかな笑顔で答えた。ナチがなんと言おうと、ディクスは今の生活が一番楽しいらしい。 「そりゃあ、わたしだって今の生活が不服ってわけじゃないけど・・・いい家に住んで、セフィーロたちと一緒に住めて・・・でも、前と比べると発見がないというか、なんかこう、面白みがないのよね」 「この前退屈しない生活だっていったじゃないか」 「そうだけど・・・でも、なんか違うのよ、今の生活。旅をしていた時は毎日が本当に楽しくて。新しい町に着くたびに何があるんだろうってすごくわくわくしていたの。今の生活以上に新しい発見があって・・・大変だったけど、でも退屈しなかったの」 「いろんなトラブル続きの旅と比べると確かに今の生活はぬるいけどな。けど、不安定より今みたいに安定していたほうが生活楽じゃないか」 やはり目もくれず本に釘付けのままディクスは答えた。 ・・・・・・だから、そういうことじゃないのに・・・ 「もういいわ。ディクスじゃ相手にならないもん」 仕方がないというように息をつくとナチが立ち上がった。 「どこか行くのか?」 「スティングのとこ。だってディクス本ばっか見てて相手にならないし、セフィーロたちは朝の訓練で疲れて寝てるから」 そういうとナチはさっさと館を出て行ってしまった。 「――――――― 旅ね・・・今の生活と比べると刺激的だろうけど・・・」 つぶやいて大量の料理本に目を配る。 「でも、料理三昧な生活のほうが絶対いいよな」 口元をほころばせ、ディクスは一人満足げにうなずいた。 「じゃあ、ライア。ブルーポイント近郊に発着所建設の計画書を」 「分かりました」 「レイル。至急この公文書を届けてくれ。それから発着所の建設地の候補は任せると」 「はい」 ペンを慌しく走らせ、紙を丸めるとレイルに渡す。 レイルとライアの二人が部屋を出て行ってしまってもスティングは焦るようにしてペンを進めていた。 長い長い文書に目を通し、そしてサインを繰り返す。全ては飛空挺のためだ。飛空挺の発着所の計画もいよいよ軌道に乗り、スティングはあわただしい日々を送っていた。 「スティングいる?」 別の文書に目を通している時、ドアの外で呼びかける声があった。誰のものであるかはすぐに分かる。 「いいですよ、入って」 許可を貰い、部屋に入ったナチの表情が驚きに変わる。 「ス、スティング・・・」 スティングの周りは雑然としていた。本や文書の山。そして設計図なのかなんなのか、丸められた大きな紙の筒が段ボール箱に差されていた。周囲を綺麗にする余裕もないのか、机の上は紙でごった返しだ。 「どうかしました?」 ディクスと同じだ。スティングはナチに目を向けず、目の前の文書にサインを続けた。 誰が見ても忙しそうだ。 「えっと・・・なんでもないの。ごめんね、またねー!」 暇そうなディクスと打って変わってスティングは非常に忙しいようだ。 もちろんそれを妨害する気はない。ナチは慌ててそういうと、スティングが次の言葉をかける前に部屋を出て行ってしまった。 「ところでナチ、アクオスですけど・・・あれ?」 顔を上げたスティングの目の前にはすでに誰もいなかった。 ナチが部屋を出て行ってしまったのも気づかないくらい集中していたらしい。 「あ・・・しまった・・・」 しかし、後を追う時間も惜しい。嘆息すると再び公務に復帰したのだった。 長い廊下をとぼとぼと歩く。 ――――――― ディクスもスティングも色々やってるのに、わたしだけ何もしてないんだ・・・ だから暇に感じるのかな・・・? 短く息をつく。今は何もしてないとは言え、やるべきことはたくさんある。 セカンダリの世話に術の訓練、そしてフォースの調査。ちなみに一番おろそかになっているのが三つ目だ。 ディクスと協力して手当たり次第本をあさるも、相変わらず同じ内容に二人ともいい加減にうんざりしていたのだ。今まで頑張ってきたというのにディクスは"もうフォースのことどうでも良くなってきた・・・"などと嘆いたこともあったくらいだ。 はっきり言って旅をしていた時のほうが何らかのフォースの情報を得られたのだ。 「わたしの青春こんなのでいいのかな」 立ち止まって窓の外を見遣る。 今日も晴天だ。いつも変わることのない青い空が広がっている。 ―――――― 広い世界を見たくてディクスについてきたようなものなのよね。確かにデルタは広いけど、でも、今までの旅の比じゃないわ・・・ 今までいろんな町に出会ってきた。もちろんいいことばかりではなかったが、それがナチを成長させていたのは確かだ。 「旅に出たいな・・・」 思わず声になる。 「リスタルにも・・・帰ってみたいな・・・」 ・・・・・・みんなどうしてるかな・・・ リスタルに思いをはせた瞬間だった。急に目頭が熱くなるのを感じ、慌てて目をこすった。 な、何で泣いてるのよ、わたし。別に悲しくなんかないのに・・・ 手の甲で乱暴に涙をぬぐう。そして深呼吸を一つ。 「しっかりしなきゃ」 鼻をすすると、足早に宮殿を後にしたのだった。 その途中だった。目を真っ赤にしたナチを目にした人物がいた。 ―――――――― 今のは、ナチ・・・? ぱっとしか見てなかったが、確かにナチは泣いていた。そしてエリオスに気づくこともなく走るようにして過ぎてしまったのだ。 ナチが来た方向はスティングの部屋がある方だ。 「まさか、スティングのやつ・・・」 エリオスは一人解釈すると、こぶしを握りナチが来た廊下をたどった。 ペン先にインクをつけ、そしてサインをしようとしたとき、ペン先にたまっていたインクのしずくが余計な場所に落ちてしまった。 「しまった、インクこぼした!」 スティングの悲鳴が部屋中に響いたその瞬間だった。 「スティングーッ!!!」 ばぁんっ 「のあぁぁぁっ!インクがぁっ!!」 突然の来客に驚き、スティングは持っていたインクのビンを文書の上に豪快に落としてしまった。 文書の上は真っ黒だ。一度目の比ではない。 「え、エリオス!一体なんなんだ!?インクが、インクが・・・」 蒼白な顔をエリオスに向ける。 インクをこぼしてしまった文書はスティングが清書をするのに非常に手間のかかった文書だったのだ。これを書き直すのかと思うとペンを持っている手がこわばる。 「インクはどうでもいい!また書き直せばいいだけだろう」 「馬鹿言うな!この文書を書くのにどれだけ苦労したことか・・・エリオスが叫ぶからインク余計にこぼしたじゃないか!」 「不可抗力だ!ところで、スティング。さっきナチュラルが来なかったか?」 「え・・・ナチ?」 ようやくペンを放し、落ち着いたスティングは疑問の眼差しを向ける。 「ナチがどうかしたのか?」 「さっき見かけたんだが・・・どうも泣いているように見えたんでな。それに、ナチが歩いていた場所がお前の部屋の廊下だったから、まさか・・・と」 「ナチが泣いてる・・・?」 「お前何かしたんじゃないのか?」 スティングは首を振る。 心当たりはない。確かにナチは自分の部屋にやってきた。けれど、まともな会話をすることもなうナチはいつの間にか消えてしまったのだ。 よく考えれば顔もみなかったのだが・・・ 「いや、知らないよ。確かにさっきナチがここに来たけどすぐに帰ってしまったらしいんだ。何ですぐに帰ったのかは分からないけど・・・」 困惑気味なスティングにエリオスはため息をついた。 「ナチがすぐに帰った理由くらい、お前の周囲を見ればすぐに分かるだろ」 言われて自分の周囲を見渡す。 「なんで?」 「だから、ナチはお前が公務で忙しいって、気遣って帰ったんだろう?迷惑かけまいとな」 「あ・・・そうか・・・だからすぐに帰ったのか・・・」 「本当に鈍いやつだな」 「・・・・・・でも、それとナチが泣いていた理由とは関係ないだろう?」 言われてエリオスが今度は困惑した表情を見せた。 「まあ、それはそうだが・・・でも、お前なら何かやりかねんと思ったからな」 ―――――――― うわー、僕ってすごい信用ないじゃん 自分で思って情けなくなった。 「・・・・・・わかった。仕事片付いたらナチのところに行くよ。もしかしたらエリオスの言うように僕のせいかもしれないし」 「いや、私が行こう。じゃあな、スティング」 そういうとエリオスはさっさとスティングの部屋を出て行ってしまった。 「え・・・なんでエリオスが?」 ぽかんとしているスティングは、ただ、文書で埋まる部屋に立ちつくすしかなかった。 ゴォォォッ 音に気づき、見上げればブルーフォースが頭上を飛んでいくところだった。 「どこにいくんだろう・・・?」 青い機体を見上げながら、ナチはまぶしそうにつぶやいた。 第一庭園にある円形の噴水の淵に腰をかける。手を水につけてみるが、この季節だけあって手が凍るように冷たい。 「・・・こんなところでこんなことしてても何も始まんないよね・・・」 相変わらず水面に手を付けたままため息をつく。 そんな落ち込んだナチをようやく発見した人物が一人―――――― エリオスだ。 こんなところにいたのか・・・ エリオスにも気づかず、腰をかけているナチを痛々しげに見つめる。 「仕方ないよ。だって自分で選んだ道だもん。生活が苦しいわけじゃないんだから、贅沢なんか言えないわ」 自分の今までの子供じみた感情をたしめるように口に出して言う。 「ナチュラル」 突然声がかかり、ナチはうつむいていた顔を上げた。 目の前には笑みを浮かべたエリオスがいた。 「あ、エリオスさん・・・」 「隣、いいか?」 「はい、どうぞ!」 前触れなしに現れたエリオスにナチは慌てて答えた。 ・・・・・・エリオスさん、何でこんなところに?第一庭園には王族の人は滅多に来ないと思ったんだけど・・・ 「単刀直入に訊いてもいいか?」 何のことか分からないが、ナチはエリオスの問いにとりあえずうなずいた。 「さっき、廊下でナチュラルを見かけたんだが・・・泣いてなかったか?」 「えっ!?」 思いがけないことを質問され、ナチは声を上げた。まさかあんな情けない場面を誰かに見られていたとは思わなかったのだ。恥ずかしくて顔がかぁっと熱くなる。 「いえ、あの、えっと・・・」 顔を真っ赤にして慌てふためいているナチを見て、エリオスも慌てた。 「すまない!違ってたらいいんだ」 ――――――― いきなり訊くのはやはりまずかったか・・・ 動揺しているナチを見て反省する。 「あ、あの、違うんです!・・・泣いていたのは本当ですけど・・・でも、まさかエリオスさんに見られてたなんて思いもしなくて・・・恥ずかしくなったんです」 耳まで真っ赤にしてナチはうつむいてしまった。相当恥ずかしいらしい。 「え・・・じゃあ、どうして泣いて・・・」 言いかけてはっとする。 また、無神経な質問をしてしまった・・・! 無意識に口に出た言葉に後悔する。しかしナチはとがめなかった。 「なんだか、寂しくなって・・・」 まだうつむいたままだったが、そう答えた。 「寂しい?」 鸚鵡返しに言ったエリオスにナチはうなずいた。 「最近今の生活がなんだか退屈になってきて・・・でも、そんな事感じるのはわたしだけだったんです。それではぐれたような気持ちになって。そのとき故郷のこと思い出したんです。皆のこと考えたらなんか感傷的になっちゃって、それで・・・」 ようやく顔を上げ、困ったように笑った。 そんなナチの表情にエリオスは胸を突かれた。自分はむしろこの宮殿から出た事がないから分からないが、ナチはなじんだ故郷を離れ、遠いこの地で兄と二人で術に励んでいるのだ。故郷が恋しくなって感傷的になるのも無理はないだろう・・・そう、考えた。 「ナチュラルは故郷に帰りたいのか?」 「自分でもよくわかりませんけど・・・でも、ちょっとだけでも帰ってみたいなって、そう思います。でも、わたしは院生ですし、フォースや、セカンダリのこともありますからそんなこと言ってられませんけどね」 やはり、故郷が恋しいか・・・ 「ナチュラル、一つ提案があるんだが」 「なんですか?」 真っ直ぐな瞳を向けたナチに、エリオスはその"思い付きの提案"を話し始めた。 それからおよそ一週間が経過した―――――――― 巨大な青い機体、ブルーフォースは今まさに発進しようと、エンジンをふかせている。 その客席エリアで、ナチは目を輝かせながら窓の外を眺めていた。 「まだ飛んでないけど、ここからの眺めもなんだか高く感じる!」 「こんな間近で・・・っていうか、まさか乗るなんて思いもしなかったけど、ほんとに高いな。それだけでかいってことか」 ナチの隣に座っているディクスも席を立ち、同じように窓の下を覗き込む。下のほうで仕事をしている整備士たちが小さく見える。 「エリオスさん、有難うございます!」 ナチが向き直り、目の前に座っているエリオスに礼を言う。 「そんなに喜んでもらえて私も嬉しいよ」 「エリオス、ここ数日ずっとブルーフォースの手配で徹夜だったんですよ」 エリオスの横に座っているスティングが指を立てる。 「そこまでしていただいたんですか・・・?」 不安げな表情に変わったナチを見て、エリオスは余計なことを言ったスティングのわき腹をつねる。 「!・・・・・・だ、大丈夫ですよ・・・ナチ。夜更かしはエリオスの得意技ですから・・・」 フォローになるのかならないのか、スティングは口元を引きつらせながらそう言った。 「・・・・・・私のことは気にしなくていい。たいしたことじゃない」 しかし、結構たいしたことだったのだ。私用でブルーフォースを動かすのは簡単ではない。 ブルーフォースは一機しかないのだ。その利用手続きはエリオスとは言えども非常に手間がかかる。通常は二週間ほどかかる使用許可を、エリオスは一週間ほどでやり遂げたのだ。 「あの、ところでどこに行くんですか?」 ナチが問うが、エリオスは何も言わず笑みを返しただけだった。今度はスティングに疑問のまなざしを向けるが、スティングを肩をすくめただけで何も言わなかった。彼もどこに向かうのか知らないらしい。 ブルーフォースに搭乗しないかと話を貰ったのは一週間前、ナチが第一庭園でエリオスと話していたあの時だ。近いうちにとは言っていたが、その近いうちはすぐにやってきたのだった。 一泊付だというが、セカンダリの世話はライアが代わりに行ってくれるということもあり、ナチは大喜びで参加したのだった。 ちなみにオプションでついてきたのがディクスとスティングだ。 スティングも仕事を大急ぎで終え、慌ててやってきたのだった。 最初は乗り気じゃなさそうなディクスだったが、実際搭乗してみて出発もしていないのにナチと同じように好奇心全開だ。 うふふ、ブルーフォースどこにいくんだろう?乗れたらなって思ってたけど、でも本当に乗れるなんて! ナチが今か今かとブルーフォースの発進を待ちわび、そしていよいよそのときがやったきたのだ。 「この度はブルーフォースに搭乗していただき有難うございます。機長のハルキ・ヴィストルです」 機長が出発前の挨拶にやってきた。 「スティング様、お初にお目にかかります。エリオス様も再び登場していただいて有難うございます。お二方の搭乗された機体を任されて光栄です!」 「こちらこそ。飛空挺計画の指揮を取りながら搭乗が延ばし延ばしになって申し訳ない。今日こそ搭乗できて僕も嬉しいです」 手を差し出したスティングにヴィストルは慌てて手を差し出した。 「今回もブルーフォースの航行よろしくお願いします」 「はい、エリオス様!それでは、間もなく機体は離陸します。安全のためにもシートベルトをお閉めください。航行時間はおよそ二時間となっています。良い空の旅をお過ごしください。それでは失礼します」 スティングとエリオスに深々と頭を下げ、そしてディクスやナチにも頭を下げるとヴィストルは機長室へと戻って行った。 「機長さんって若いんだね」 「彼はマスターの称号を二十六歳の時に取得してるんですよ。・・・多分、今のところ最年少の取得者だとおもうんですが・・・」 言いながらディクスに意味ありげな視線を送る。しかし、視線を送られたディクスはスティングの言葉に暗い影を落としていた。 ―――――― ・・・ディクスのほうが歳ってことですね・・・ 異様な雰囲気からディクスの年齢を予測する。 「でも、最短の取得者はクロードさんなんだろう?」 エリオスの素敵なフォローにディクスに温かな光が射した。ディクスから見たエリオスに後光が差している。 単純な兄に、ナチが嘆息したそのときだ。 ごぅんっ 機体に鈍い音が響く。そして体にはっきりと感じる振動。 その振動がだんだん大きくなっていくのが分かる。 「もうそろそろ発進みたいですね」 『まもなく当機は航行を開始します。発進時の衝撃に備え、座席のシートベルトをしっかりとお閉めください』 女性の涼やかなアナウンスが流れる。 最新設備でエンジン音こそ機内に響かないものの、振動だけは感じ取れる。 窓の外を見遣れば、エンジンの強風に遠くにいるはずの整備士の髪が逆立っていた。手旗を振って、何か合図をしている。 ごぅんっ! 今までで一番大きい体への衝撃。縦に一度揺れたかと思うと、機体は徐々に地面から離れて行った。 さっきまで旗を振っていた整備士も慌ててさらに遠くへと退く。 キィィィーーーーン 全てのエンジンがその回転数をさらに上げ、巨体を空にゆっくりと持ち上げていく。だんだんと窓の景色が小さくなるのが分かる。 そして、デルタのほぼ全体が見渡せるほどまで機体が浮上したとき・・・ ・・・ゴッ!! 一瞬の停止の後、青い機体は斜め前上空を目指して一気に飛び立ったのだった。 |