D.Force The Third Chapter
Force-17
久方ぶりの再開
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時を忘れてぼーっとしていた三人はようやく洞窟の外に出た。 目に差す夕日の光がまぶしい。 「時間すっかり忘れてたけど、もう暗くなっちゃうね。早く帰らないとディクスに怒られちゃう」 大きく伸びをしながらナチが息をついた。続いて他の二人も洞窟から帰ってきて解放されたのか、深く呼吸をしている。 洞窟内部は神秘的で飽きないものではあったが、やはり外のほうが気分的にいいようだ。 外の明るさがなんとなく懐かしく感じられる。 「ディクスはもう今日の宿を見つけたんでしょうか?」 「うーん、多分そうだと思うんだけど・・・とりあえず戻ってみようか。寒くなってきたし・・・」 訊いてきたスティングにナチは困惑したように答えた。 ――――――― 大丈夫だとは思うけどね・・・ 「じゃあ、町に戻ろうか。寒くなってきたしね」 そして三人がようやく町に戻ろうとした時だった。 帰り道の向こうからこちらにやってくる人影が見えた。 「ナチュラル、もしかしてクロードさんじゃないか?」 いち早く気づいたエリオスが、その人影を指差してナチに問う。 「えっ・・・?あ、本当だ・・・ディクスだわ・・・」 エリオスと同じ方向に視線を向ける。その先には見慣れた人影があった。 スティングも目を細めてうなずいている。・・・が、エリオスは一人ナチを不思議そうに見ていた。 「どうかしました?」 エリオスの視線に気づいたナチがきょとんとした様子でエリオスに振り返る。 「前から気になってたんだが・・・クロードさんは君の兄上だったな?」 「?はい、そうですよ」 何でそんなこと訊くんだろう?と、思いつつもナチは答えた。しかしエリオスの表情は相変わらずすっきりしない様子だ。 「たまに"ディクス"って名前で呼んでないか?」 続いた素朴な質問にナチは口元を引きつらせていた。スティングはともかく、エリオスの前では極力ディクスのことを"兄"と表現するようにしていたのだが、知らず知らずにぼろを出してしまっていたらしい。 「え〜・・・えーっと・・・」 なんと説明しようかナチは混乱している。 「あ、暗黙の了解ってやつなんです」 「暗黙の了解?」 「そうですそうです!それにエリオスさんだってスティングのこと呼び捨てじゃないですか〜」 と、話をエリオスに振る。 「こいつは兄と呼ぶにはあまりにも歳が近すぎる。それにそれ相応の振る舞いではないからな」 ツンとして言ったエリオスにスティングはひそかにショックを受けていた。 ――――― っていうか、エリオス小さい頃僕が兄貴面して怒ったからそれ以来普通にしてきたのに・・・ 「えっとまぁ、わたしもそんな感じです!エリオスさんと同じ理由ですよ」 言い切って曖昧な笑みを浮かべた。 ディクスとナチの歳はどっちかというと離れている。だから、"それ相応の振る舞いではない"からディクスと呼び捨てにしてると解釈していいだろう。 ・・・・・・仕方ないからリスタルにいる間はおにいちゃんって呼んであげよう・・・知り合いも多いし・・・ 誰にも気づかれないようにナチはそう判断し、嘆息したのだった。 「おーい!」 ナチたちを探しにやってきたディクスが手を振りながら走ってきた。 その少し後ろにはスティングとエリオスにとって見慣れない女が・・・ 「リーンお姉ちゃん!」 その姿を認めたナチが嬉しそうに声を上げた。するとリーンは手を広げてナチをぎゅっと抱きしめた。 「お帰り、ナチュラルちゃん」 「うん、ただいま!」 二人で感動しているが、スティングとエリオスは完全に蚊帳の外だった。ナチの知り合いということまではわかるのだが・・・。 「あのね、リーンお姉ちゃん、この二人なんだけど」 ようやくスティングとエリオスに話が向けられる。二人はリーンに向き直ると軽く会釈をした。 「初めまして、スティングです」 「私はエリオスです」 見た目こそ変えてるが二人は本名で答えた。 やんわりと笑みを浮かべ、二人は王族ならではのオーラを発していた。自己紹介のときにこうなるのは癖らしい。 ちなみにディクスもナチもスティングの王族オーラを出しているのを見るのはこれが初めてだったりする。 そんな二人の魅力に取り付かれたのがリーンだ。 うっとりするような目でスティングとエリオスを見ている。 「あ、私はリーンです。ディクス君とナチュラルちゃんの古い知り合いで・・・」 珍しく動揺した様子で答える。長い付き合いだ。ディクスとナチにはリーンが王族の二人にほの字なのはすぐに理解できた。リーンはまさか目の前の二人が王族などとは知る良しもないだろうが。 「そういうことでリーン、俺たちのほかの三人のうちの二人がエリオスさんとスティングだ。あと一人は町のほうにいると思うが・・・」 「ええ、もちろん大丈夫よ!」 そういうと、リーンはスティングとエリオスの前に歩み出た。 「こんなに素敵なお二人がディクス君のお知り合いだなんて。今日の宿は私に任せてくださいね」 にっこり笑う。当然言われた二人もつられて微笑む。 「ええ、お願いします、リーンさん」 エリオスが言うとリーンはますます胸が高まったようだ。エリオスがたった一言しゃべっただけなのにうっとりとしている。 「――――― なんか、あれだね。リーンお姉ちゃんって惚れっぽい?」 隣にいるディクスにナチがつぶやく。 「・・・・・・みたいだな。まぁ、予想はしてたけど・・・」 ディクスがリーンの様子を見てため息をついた。 「いいのかね、母親があんなんで」 「母親?」 「ああ、そうかお前はまだ知らなかったな。リーン、母親になったんだ。俺さっき子供見てきたけど」 「ええっ!?ほんと、それ?うわぁ、リーンお姉ちゃんお母さんになったんだ!いいなぁ〜」 「いいなぁって、お前・・・」 ナチが言った言葉にディクスは少なからず驚いているようだ。 「だって、本当なんだもん。早く結婚したいって思ってるし。ああ、もちろん術のこととかフォースのこともがんばるよ?」 笑顔でナチは答えた。それがナチの将来のビジョンらしい。 「―――――― お前、俺より早く結婚したら、俺、泣くぞ・・・」 と、ディクスは肩を落としたのだった。 「ただいま〜!」 冷たい風に当てられ、顔を高潮させたジョージがようやく帰宅した。いつものように大きな声で家の扉を開けたそのときだった。 「あら、お帰りなさい。あ・な・た!」 口元に手を当て、可愛らしく出迎えてくれたのは・・・・・・ 「ディ、ディクスッ!?」 自分の家に現れたディクスにジョージは目を丸くしている。しかも、可愛らしく出迎えてくれるとは・・・ホラーだ。 「よお、久しぶり。いいのかぁ?可愛い子供と愛妻をこんなに待たせて帰宅なんて」 「し、仕方ないだろ!仕事なんだし、ぼくだってさっさと家に帰ってきたかったんだよ!でも、なんでここにいるんだ?」 ディクスにいじられジョージは向きになる。だが、ようやく訊くべきことを思い出し、まだ動揺しながらもそう口にした。 「ジョージお兄ちゃん!」 ニヤニヤしているディクスの後ろからひょこっと現れたナチ。 「ナチュラル!」 二人目の懐かしい客人にジョージはいよいよ驚きの声を上げた。 ディクスとナチをこうごに見ながら口をパクパクしている。 「二人とも本当に久しぶり・・・でも、旅をしてたんじゃなかったのか?急に訪ねてくるなんて・・・ちゃんと知ってたら今日一日仕事休んだのに」 「ディクス君の性格考えたら前もって連絡して帰ってくるようなことしないでしょ?」 残念そうなジョージにリーンが子供を抱きかかえてやってきた。 「おお、リル!ただいまぁ〜、パパですよ〜」 リーンが子供を渡すとジョージは大事そうに抱えた。さっきまでの驚きの表情はどこへやら。そこには娘を溺愛する父親の顔があった。 「お前、ものすごく顔がゆるんでるぞ」 豹変振りにディクスが思わず口にする。 「ディクスだってナチュラルには甘いだろう?お互い様だよ。それにディクスだって子供が出来れば絶対こうなるって。子供以上に可愛いものはないってね」 嬉しそうに言いながら娘にほお擦りする。 いずれ来るであろう未来だが、娘のリルが結婚とでもなったらジョージは自殺しかねない・・・幸せそうなジョージを見てディクスとナチはそう思った。 「ところで、今日は泊まるんだろう?」 「ああ、厄介になるよ。それに俺とナチだけじゃないんだ」 そういって一歩その場を退く。 ディクスで死角になっていたソファに座っていたスティングとエリオスがようやくジョージの目に触れた。 「こちらの二人はディクスとナチュラルの旅の仲間・・・?」 「そ!」 「へ〜、ディクス。意外とやるなぁ」 スティングとエリオスを見たジョージが何故だか感心したように言う。 「?何が?」 「こんな綺麗な女性二人と旅してるなんて・・・ナチュラルもいるから両手に花どころか花束だね」 楽しげなジョージの言葉にスティングとエリオスは凍りついた。 さらにディクスとナチとリーンの三人は口元をひきつらせた。 だが、ジョージは笑っている。 「ジョージ、よーく見てみろ・・・。あれのどこが女に見える?確かに髪が長いほうは間違えても仕方ないけど、もう片方は間違えようがない気がするんだが?」 呆れたディクスにジョージは目を凝らしてスティングとエリオスを見た。 立ち上がったその二人。細身ではあるが長身だ。その表情はどちらも落胆したような顔だが、男だ。 「いつからモウロクしたんだ・・・ジョージ」 普段スティングが女に間違えられるなら喜んで便乗して笑いものにするところだが今回はわけが違う。エリオスまでもが間違えられたのだ。ナチも同じなのだろう、微妙な笑いを浮かべたままエリオスの様子を伺っている。 「これは・・・失礼しました」 さすがのジョージも悪いと思ったのだろう。娘を抱きかかえたまま頭を下げた。 「い、いえ・・・あの、今夜お世話になるスティングです。色々迷惑かけるかもしれませんが、よろしくお願いします」 「私はエリオスです。一晩屋根をお借りします」 二人ともやや顔を引きつらせて頭を下げる。 ・・・・・・また、間違えられた・・・ ・・・スティングはともかく、私が間違えられるなんて・・・ セットで性別を間違えられた二人はようやく普段の笑みに変えつつも、やはり複雑な心境のようだ。 「娘ばかりに目を向けるのも結構だが、たまには外にも目を向けろよ。でないとまた性別間違えるぞ」 「わ、わかってるよ!でも、四人も大丈夫かなぁ、この家に入るかどうか・・・」 「あ、悪い。あと一人来るよ。今度はちゃんと女だけど」 この家にはジョージとリーンとその娘、さらにリーンの両親の五人が暮らしている。プラス二人くらいならこの家でも抱えきれるが、五人は無理だろう。 「えー、じゃあますますこの家じゃ小さいな」 「ジョージの家があるでしょ?男性陣は父さんを除いてジョージの家、女性陣はこの家に泊まってもらおうと思ってるの。それなら大丈夫でしょ?」 リーンが言うとジョージはなるほどとぽんっと手を打った。 「そうか。ぼくの家に来れば大丈夫か」 「おまえんち大丈夫なのか?ちゃんと掃除してるのか?お前昔から掃除嫌いだったからなぁ」 「失礼だな。ちゃんと管理してあるよ!いずれ親子三人であそこに住むつもりなんだし。出てもゴキブリくらいだよ」 「ゴキブリ!」 思わず反射的に声に出したスティング。 慌てて手で口をふさぎ、何事かと視線を投げたリーンとジョージに曖昧に笑って見せた。 「ま、今夜は積もる話を酒でも飲みながら消化しような、ジョージ!」 「・・・・・・ディクスは酒癖悪いからあんまり気乗りしないんだけど・・・」 肩を叩いたディクスにジョージは本当に嫌そうに告げた。 「でも夕食は皆で済ませましょうね。腕によりをかけて頑張るわ」 「リーンがそういうなら俺も手伝うよ。料理なら任せとけ!」 そしてリーンと意気様様なディクスは台所へと消えてしまった。 「ゴキブリ・・・」 つぶやくスティングにエリオスは哀れみの目でこういった。 「少なくとも大運動会はしないだろうから安心しろ」 「――――― そうだね・・・」 悲しげにスティングは返した。 やがてリスタルが暗闇に包まれる。小さな町は小さな家々の明かりで灯された。 「じゃあ、ジョージさんはエンドレス中を旅されたんですか?」 食事を終え、リーンの父親を除く四人はジョージの家にいた。リビングにあるソファでコーヒーを飲みながらスティングとエリオスとジョージが談話していた。 ディクスはというと今夜寝泊りする部屋を綺麗にするとかで現在掃除に励んでいる。 「うん、そうだよ。首都のデルタはもちろん、小さな町だってたくさん回った。エンドレスと一口に言ってもそれぞれで特徴があってね。それを感じるのが好きなんだ。今は旅をしていないけれど、またいつか旅に出られればって思っているんだ」 「エンドレスはどうですか?他国と比べて」 王族として一番気になるところを恐る恐る訊いてみる。 「そうだね。とても豊かな国だと思うよ。全体的にね。中流階級の人たちが多いからかな?貧困とかそういうのには比較的縁遠い住みやすい国じゃないかな。術力強化に取り組んでるとは聞いたけど、ぼくはそれには賛成だ。でも、聞いたところによるとエンドレスの王子だかがリディアの科学と術を融合した物を作り出そうとしているらしいけど・・・どうしてそんな面倒なことをするのかが分からないんだよね。別にそんなことしなくても"院"と言う存在で術者は自然と増えると思うけど」 そのエンドレスの王子と言うのがまさか目の前のスティングあるとはジョージが知る良しもない。さらにスティングは懸命に取り組んでいる事業を突っ込まれ少々落ち込む。 「でもそれはきっと、科学技術と術を融合することで一般家庭にも気軽に術を使ってもらえるようなってほしいという思惑もあるんじゃないですか?無駄ではないと思いますよ。確かに面倒かもしれませんけど・・・」 「んー、そうだねー。リディアの科学技術はエンドレスにも浸透してきてるし・・・便利なものに便利な術が加われば効果はありそうだね」 「ええ、そういうことです。エンドレスも術を衰退させてはいけないと院はもちろん、地方のほうにも学校を作る計画を進めているんです。僕の管轄外ですけど・・・」 「そうなのかい?ところで君は色々と詳しいようだが、もしかして王宮のお抱えの何かかな?」 「ち、違いますよ・・・そういう話をディクスから聞いたものですから・・・」 慌てた様子で言い訳をする。 そんなぼろを出したスティングの横でエリオスがため息をついた。 「クロードさんマスターの称号を取得されたんですよ。しかも院設立最短の期間での取得です」 フォローを入れるようにエリオスが話題を変えた。 「マスターの称号っ!?」 口に含んでいたコーヒーを思わず噴出しそうになり、ジョージは慌てて口を手でふさいだ。 「ディクスが・・・マスターの称号を・・・?」 「ええ。つい最近のことですが。特例として与えられたのです」 特例とはいえ条件付でのマスターの称号取得ではあったが、最短の取得者であることには間違いない。 「兄上が・・・」 「あっ、蚊が!」 ばしっ! いきなりスティングが叫び、エリオスの後頭部を平手打ちした。 前につんのめったエリオスは顔を上げるとスティングをにらむが、叩いた本人はそ知らぬ顔だ。 「蚊・・・?こんな季節に・・・?」 「すみません、僕の見間違いだったようです」 ジョージが首を傾げるが、スティングはいけしゃあしゃあと答えた。 ・・・・・・スティング!何で叩いたんだ! だって今度はエリオスがぼろだしそうになっただろ?"兄上が・・・"とかってそれ以上続けたら絶対変に思われるじゃないか。 スティングに言われ、エリオスはそれ以上反論できず不服そうな表情のままソファに座りなおした。 「ディクスはどうだい?もしかして相変わらず家事をこなしてるのかな?」 「ええ、すごいですよ。本当に・・・感心です」 笑いながら訊いたジョージに、スティングは呆れ半分で答えた。エリオスも苦笑している。 彼もディクスが優秀な術者である以上に熱心な主夫であることを熟知のようだ。 「ナチュラルとも喧嘩してるんだろうなぁ。ディクスは変わらないみたいだけど、ナチュラルはさすがに大人びたと思うんだ。今でこそディクスに反発しているけど、あれでも昔はお兄ちゃんっ子だったんだよ」 「へえ・・・ナチが・・・」 普段から言い合いばかりして生傷の耐えないディクスを見ているスティングにはにわかに信じられない。 本当は仲がいいのはわかっているが、そんなそぶりを見せることは滅多になかった。ディクスがナチの世話を焼こうとするのも、昔ナチが慕っていたときのことを引きずっているのかもしれない。 「終わった〜!」 階段のほうから噂のディクスの歓喜の声が上がった。三人が目を向けた先には満足げにバケツを持ったディクスが降りて来る所だった。 「ジョージ、窓のところとかほこりだらけだったぞ。子供も一緒に住むってならちゃんと掃除しないとアレルギーに・・・」 「いいじゃないかそんなこと。本当に細かいんだからな、ディクスは・・・」 ジョージは立ち上がると近くの戸棚から何かを取り出した。 「まあ、寒いこんな夜は一杯やろうじゃないか!」 そういって人数分のグラスと上物のウイスキーを掲げて見せた。 |