D.Force The Third Chapter
Force-22
特異な力
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どぉんっ 爆音が演習場に響き渡る。設置されている衝撃緩和システムが振動と爆音を吸収するが、許容範囲ギリギリなのだろう。システムがみしみしと音を立てている。 「はあっはあっ・・・」 荒い声が粉塵の中で聞こえる。 「オッケー!わかった。もういいよ、レイシェル。ご苦労様!」 ディクスが手を叩いて合図すると、レイシェルはようやく笑みを見せた。 「ディクスおにいちゃん、これで、いいの・・・?」 砕けた地面を不安そうに見つめる。まだ粉塵が辺りの視界を悪くしていた。 制御されない術――――― それは威力の抑制がなされない危険なもの。 始めは術を全く発動することができなかった。ところが、ディクスがわざとレイシェルにプレッシャーをかけるようなことを言うと、だんだんとその術力が増し、結果、さっきの爆音と言うわけだ。 「威力がでかすぎて緩和システムが壊れそうだよ」 笑いながらいい、レイシェルの頭をくしゃっとなでる。 ―――――― や、やばかった・・・俺が衝撃緩和の術をかけてなかったら演習場のシステムがいかれる所だった・・・ 笑みを見せつつも、ディクスは内心動揺していた。 レイシェルには、全身全霊を込めて術を発動しろとは言った。さらに相当なプレッシャーもかけた。 だが、まさかここまでの威力を発揮するとは思わなかったのだ。 まったく抑制されていない術だな・・・ レイシェルの頭に手を乗せたまま周囲を見渡す。 そしてレイシェルを見下ろした。レイシェルはディクスと視線が合うと笑って見せた。 「よしっ、術の威力は十分だ。悪いな、さっきは無茶なこと言って。後は俺がその制御の仕方を教えてやるよ」 「うん!」 ディクスはかがんでレイシェルと目線を合わせる。 「レイシェル。レイシェルは術を発動するとき何をイメージする?」 「イメージ?」 「誰だって術を発動する時は頭の中に何かをイメージして、それを発動させるだろう?」 するとレイシェルは変な顔をした。 そしてその表情のまま首をかしげる。 「えっ・・・」 その反応を見てディクスが驚く。 ―――――― まさかとは思うが・・・ 「何もイメージしないのか?例えば爆発するイメージだとか・・・色々」 するとレイシェルはディクスの顔をうかがいつつうなずいた。 「・・・・・・」 「ディクスおにいちゃん?」 「あ、ああ、ごめんごめん!じゃあ、イメージするところからだな!」 レイシェルに腕をゆすられ、考え事をしていたディクスは笑いながら言った。 ―――――― イメージせずに発動って・・・どうやって・・・ 「とりあえず、図書館行こうか。術の基本から叩きなおしだ!」 広い図書館には実にさまざまな本がある。中でも一番のシェアを誇るのが術に関する本。やはり術国家だけあって、自国の書籍はもとより、各国の術書が所狭しと並べられていた。 「ここらへんかなぁ・・・」 ディクスがはしごを上り、かなり上のほうの薄っぺらい本を手にする。何年もの間、誰にも必要とされなかったのだろう。本に息を軽く吹きかけただけで埃が舞った。 "子供のための術入門" 「ま、古いが、昔から術の定義は変わらないからな」 はしごから降りるとその本をレイシェルに手渡す。レイシェルは渡された本をぺらぺらとめくって流し読みをした。 「・・・・・・悪い・・・もしかして字、まだ読めないか?」 「ううん、大丈夫だよ。でも、分からないところは教えて」 まだ幼いが、字はある程度読めるようだ。 レイシェルはその本を大事そうに腕に抱くと、手近な椅子に腰をかけた。その隣にディクスが座る。 「レイシェル。術っていうのはな、イメージがすごく大事なんだ」 最初のページを見せながらディクスが解説する。 「術はイメージを具現化・・・えーっと、つまり、使えるようにするためにとても重要なんだよ」 レイシェルはディクスの言うことを理解しようと本を凝視しつつ、ディクスの話に相槌を打つ。 「さっき・・・術を発動するとき、何もイメージしてないって、言ってたよな?」 「うん」 「――――― おそらくそれが原因だ。レイシェルが術を制御できないのは」 レイシェルはディクスをじっと見、それに対する答えを求めている。 だが・・・・・・ 「だが、イメージ無しに術を発動することはありえない。なのに無意識に術を発動できたっていうのは、レイシェルが術をある固定観念でしか捉えていないってことだ」 「こてい・・・?」 「レイシェルにとって術ってどんなものだ?」 「えっ・・・」 少し声を上げて、そのまま固まってしまった。色々思いをめぐらすが、自分にとっての術とは何か・・・ 「わから・・・ない・・・」 声のトーンを落とし、悲しそうに告げる。 本当に分からなかった。術とは何なのか。自分は今まで何のために術を求めていたのか・・・。 「ディクスおにいちゃん・・・わからないの・・・」 「大丈夫だ。大丈夫!」 背中をぽんっと叩いて励ます。 だが、レイシェルは不安そうな瞳でディクスを見つめた。 「朝からひっぱりだされて疲れたろ?何か飲み物買ってくるからここで待ってるんだぞ」 再びレイシェルの頭に手を乗せ、そしてディクスはその場を去ってしまった。 ディクスの背中が見えなくなってから、レイシェルは開いている本に目を向ける。 「イメージ・・・・・・」 同じページを頭に叩き込むように眺めている少女。 その姿を不思議そうに見ている影があった。 ―――――― なんで子供がこんなところに・・・・・・ その視線はスティングのものだった。彼もまたこの図書館に術に関する本を求めてやってきたのだった。 普段見られない小さな来訪者に首をかしげる。 「術に興味があるのかな?」 その少女・・・つまり、レイシェルの真向かいまでやってきて声をかける。 スティングの存在に気付いていなかったレイシェルは、あわてて顔を上げた。 そしてスティングの姿を認めると、驚きの表情を見せた。 「誰か付き添いの人とかいないのかな?お父さんとかお母さんとか・・・」 スティングが訊くが、レイシェルはふるふると頭を振った。 「もしかして一人でここへ?」 またレイシェルは同じ反応を見せた。 相変わらず驚きの表情でスティングを見ている。 「・・・・・・・おにいちゃん・・・すごく綺麗な髪だね」 レイシェルがぽつっと言う。 「えっ・・・」 「銀色の髪の毛初めて見たの。おにちゃんの髪、長くて綺麗だね」 「本当?有難う、そう言ってくれるとすごく嬉しいよ」 笑みを浮かべながら、スティングはレイシェルの前の席に着いた。 「僕はスティング。あなたのお名前は?」 「レイシェル!」 元気のいい答えにスティングも嬉しそうだ。 「術の本読んでるんだ。術が使えるようになりたいんだね」 「・・・・・・違うの・・・」 「違うって?」 「術は使えるけど・・・いつも何かを壊してばかりだから・・・」 ――――― 何かを壊す・・・? 「もしかして、制御ができないってことかな?」 問い返すと、レイシェルはその通りだとでも言うようにうなずいた。 「あのね、術を使うといつも怒られるの。あたしがちゃんと術を使えないから。怒られたくなくて、一生懸命がんばってるのに、全然できなくて・・・」 かつての自分と同じ境遇の子供がここにいる・・・・・・ 悲しそうに言うレイシェルにスティングは過去の自分の影と重ねていた。 過去の自分もそうだった。術に対する劣等感、自分という存在に対する疑問・・・。 「それで、ここで本を読んでるんだね?」 「うん。早く"いちにんまえ"になりたいの」 レイシェルの瞳には強い意志が込められていた。 術への執着心。誰かに認めてもらうための、そして、自分の存在を確立するための術(すべ)。 「でも、そのまえにイメージしなきゃいけないって」 「イメージは術の大元だからね・・・」 「それがわからなくて・・・」 ―――――― イメージがわかないのか、それともイメージを作り上げても具現化する術を知らないのか・・・ 「ところで誰か術のことを教えてくれる人は・・・・・・」 「スティング?」 誰か付き添いはいないのかと再び訊きかけたとき、別の方向から声が上がった。 「あれ?ディクス?」 スティングが顔を向けた先には不思議そうに椅子に座る二人を見ているディクスがいた。 場所を移動し、スティングを加えた三人は館にいた。 セカンダリと遊んでいるレイシェルを遠めに、二人はなにやら深刻そうな表情で話し合っていた。 「じゃあ、レイシェルが正しく術を使えるように、ディクスが指導するってことなんですね」 「簡単に解決できると思ったんだが・・・」 「イメージを完成させることを教えるだけじゃないんですか?」 「いや、違うんだ。どうもレイシェルの場合は無意識のうちに術を発動しているらしくてな。その無意識をどうにかしないと次に進めないんだよ。それこそ何でもかんでもイメージが具現化できることを教えたら、今度はどんな術が無意識にイメージされて出てくるか分からないからな」 「術の発動に無意識は怖いですからね。制御がなってない場合がほとんどですし」 話しながら二人が目を向けた先にはセカンダリたちと楽しそうにしているレイシェルがいた。 「それにレイシェルの術の威力は未知数だ。今はまだ弱くとも、成長とともにおそらく増大するだろう。今のうちの悪い部分を除いておかないと将来どうなるか・・・」 「何が原因なのかわかればいいんですけどね」 「そこまではさすがの俺もわからないしなー」 「やっぱり、術に優れてるところは似てますよねー」 「似てるって?」 微糖の缶コーヒーをあおり、ディクスは疑問のまなざしを向ける。 「金髪碧眼なところとか」 「うん?」 「ディクス、相手は誰なんですか?今度僕にも紹介してくださいよ、ディクスの奥さん!」 ガンッ ディクスが握り締めていた缶コーヒーがスティングの顔にめり込んだ。 「やっぱり、金髪碧眼だとディクスの子供だって思っちゃうよね」 「ええ・・・冗談だったんですけど・・・」 スティングが悲しそうに言う。 「でも、その後がよくなかったのよ。余計なこと言ったんでしょ?」 ナチの言葉にスティングは肩を落とした。 そう、ディクスに殴られたその後。 『わ、わかってますって!!ディクスなんかに奥さんがいないことくらい僕だって知ってますってば!』 『なんかって・・・お前に言われたくねえよ!!』 ディクスの怒りの一撃。まともに食らってしまったスティングは、うなだれながら現在も術で治療している。 「大丈夫みたいよー、青あざだいぶ消えたみたい」 さっきは痛々しげに腫れていた頬も、術で今はなんともなさそうだ。 余計なことを言ったらディクスに殴られることは重々承知だったのに・・・・・・ 勢いでいらぬ事を言ってしまった自分に、スティングは激しい自己嫌悪に陥っていた。 「ところで、ナチ。そのレイシェルですけど・・・」 「うん、またディクスと演習場に行ったみたい。ディクスが言うには、どうもレイシェルにプレッシャーや恐怖感を与えると術を発動するらしいって」 「本能的な自己防衛でしょうか・・・」 「多分ね。レイシェル、術のことで両親に怒られてるって言ってたから・・・だから、その辺も関係していると思うの。じゃあ、次はどうするって訊かれたら、どうすればいいのか・・・ディクスも分からないみたい」 腕を組んで考え込む。 スティングもあごに手を当て考えている。 「今日一日で解決するようなことじゃないと思うけど、できるだけのことはしてあげたいって思うの。そうしたらきっと、レイシェルの家族もレイシェルに優しくしてくれるんじゃないかって・・・」 「―――――― 複雑ですね・・・」 目を細め、スティングつぶやく。 良く似た状況を身をもって知っているから余計に心が痛む。 「ナチ、僕たちも演習場に行ってディクスの手伝いしましょう。レイシェルが自信を持って術を使えるようになるために」 「うん・・・、そうだね!」 日も高く昇り気温も上がってきた。 演習場で相変わらず頑張っていたディクスとレイシェルは昼食を挟み、一息ついていた。 「昼飯も食い終わったし、後することは・・・」 満腹になったディクスは大きく伸びをし、そしてレイシェルに目を向けた。 レイシェルも期待しているのだろう。きらきらとした目をディクスに向けている。 「レイシェル、俺ちょっと用事があるんだ。だからさ、ナチと一緒に術の練習しててくれるか?」 「ディクスおにいちゃんは来ないの?」 少し不安げな表情を見せる。ディクスはかがんでレイシェルと視線を合わせた。 「うーん・・・ちょっとやらなきゃいけないことがあるんだ。そう時間がかかることじゃないし、すぐに戻ってくるから。ナチのやつもなかなかの術者なんだぞ。それから、スティングにも教えてもらうといい」 ディクスが言い聞かせるとレイシェルは納得したようにうなずいた。 「よーし、いい子だ。じゃあ、ちゃんと練習しとくんだぞ」 レイシェルの頭をなで、そしてディクスは用事を済ませるために宮殿敷地を出た。 デルタの町の細い路地を歩き進める。昨夜はちょっと迷いかけもしたが、今回は迷うことなく目的地に向かう。 やがて開けた大きな通りに出ると、ディクスはすぐ目の前の大きな家を仰ぎ見た。重厚な大きな門構え。そして石畳の向こうには大きなドアがあった。 「今度はいてくれよ・・・!」 祈るようにつぶやくと、ディクスはインターホンを押した。 甲高い呼び鈴が鳴り響く。そして程なく家の住人が出た。 『どちら様ですか?』 その声にディクスは落胆した。昨夜と同じ声――――― レイシェルの兄だ。 「クロードです」 『ああ、昨日の・・・』 興味なさそうな返答にディクスはため息をついた。昨夜もこんな感じだったのだ。 兄では話にならないと、今日はレイシェルの両親に会いに来たのだが今回も空振りのようだ。 『どうぞ、隣の通用路から入ってください』 かちゃんっ 気のない声の後、鍵のロックが解除される音がした。 昨夜は失敗したけど今日こそは・・・!! レイシェルに対する術教育が悪いと、説教する気まんまんのディクスは力強く通用路の門を開けたのだった。 屋敷のような家の中で待っていたのはレイシェルの兄だった。やはり両親は不在。 ディクスを一瞥するような目で見ると、レイシェルの兄はディクスを応接間へと招きいれた。 レイシェルの兄がディクスに背を向けていることいいことに、ディクスはその後姿を凝視していた。やはり兄弟だけあって金髪碧眼なのは同じようだ。白い肌と顔立ちもレイシェルとよく似ている。 年は十五、十六くらいだろう。少しませているような印象を受ける。 「レイシェルがお世話になってます」 ディクスに席を進め、礼を言うが、本心からではないとすぐにわかる。 「昨夜は何分遅かったもので・・・。紹介が遅れて申し訳ありません。私はレイシェルの兄のシュミットです」 そしてシュミット自身も向かいの席に座る。 「それで、妹を助けていただいたということですが・・・いくらで手を打ちましょうか?」 「は?」 「ですから、いくら払えばお取引していただけます?」 面倒そうに言う。 「安心してください。わが家の長女を助けていただいたのですから、それ相応のお礼はさせていただくつもりです。とりあえず具体的な金額を揚げていただけません?」 「ちょっと待ってくれ、こっちはそんなつもりで来たんじゃない!」 変な風に理解されているディクスはあわてて否定した。 「レイシェルの術について訊きに来たんだ!」 「レイシェルの術・・・?」 シュミットの表情が神妙になる。 ディクスはこれまでの経緯を詳細に話した。 「だから俺はレイシェルにちゃんとした術を身につけて欲しいと思っている。だけど、俺たちだけじゃどうしても解決しない問題らしいんだ」 「それはどういうことです?」 シュミットの視線がより鋭いものになる。さっきからそうだった。話を進めるほど、その表情はだんだんと厳しいものに変わっていったのだ。 少しずつ感情的になっているらしいシュミットの様子を見つつ、ディクスは話し続けた。 「レイシェルは術に対する劣等感を持っている。しかし、皮肉なことにレイシェルはその劣等感を糧に術を発動しているんじゃないかって・・・俺はそう思ってるんだ。その劣等感を無くすにはどうしても家族の協力が必要で・・・」 「劣等?家族の協力・・・?あのレイシェルが?」 口元をゆがめ、吐き捨てたように言う。 「――――――― レイシェルの術力に関して、家族が厳しすぎるんじゃないかって思ったんだが・・・」 「厳しすぎるだって?ちゃんと教育されている証拠だろう?ほったらかしにされているよりかはマシじゃないか」 口調を変えて言うシュミット。 怒りを抑えてもいるようだが、同時にわずかな悲しみの表情も伺えた。 どうもこの家ではレイシェルだけではなく、兄のシュミットにも何かあるらしい。術力ばかりのことではなく、家族的な何かが。 「帰ってくれないか?」 「でも、レイシェルのこと・・・」 「あいつのことはどうでもいい!好きにしたら良いだろう?できるんだったら、その劣等感ってのを拭い去ってやって完璧な術者に仕立ててやればいい!きっと素晴らしい術者になるだろうよ!」 「だからそれには家族の協力が・・・」 「この家には誰も力になってくれるやつなんかいない!おれだってそうだ。何の力にもなれやしない・・・」 「・・・・・・」 しばらくの沈黙の後、シュミットは乱れた髪をかき上げる。 そしてようやくシュミットは冷静さを取り戻したのか、息を落ち着けてから立ち上がった。 「・・・・・・すみませんけど、今日は帰ってください。レイシェルはあとで迎えに・・・」 「もしよければ・・・だが、レイシェルを預からせて欲しい。預かる場所は宮殿敷地内だ。俺もレイシェルにちゃんとした術を学んで欲しいんだ」 入城許可証を見せつつディクスが提案すると、シュミットは少し驚いたような表情を見せた。 「せっかくの才能の芽を摘むような事はしたくない」 「そう・・・ですか」 「だから両親に・・・」 「わかりました。―――――― レイシェルを・・・優秀な術者にしてやってください」 さっきの表情とは打って変わった柔らかな笑み。ほんの一瞬だったがディクスには確かにそう見えた。 レイシェルが館の滞在に必要な服などをシュミットから受け取ると、彼らの家を後にする。 しかし、何もかもが引っかかってしょうがなかった。 説教するつもりでやってきたのだが、それどころではなかったようだ。 「あの家は一体どうなってるんだ?」 新たに発生した疑問に、ディクスは首をかしげた。 夕焼けであたりが染まっても館の前はにぎやかだった。 爆音と巻き起こる粉塵と悲鳴で・・・ 「きゃーっ!」 「うわっ!」 避け損ね、ナチとスティングの二人は厚い粉塵に包まれてしまった。 「ご、ごめんなさい!」 そして泣き出しそうな声で謝るレイシェル。 「だ、大丈夫よ。ちょっとびっくりしただけだから」 大丈夫だと言う二人だが、体は埃まみれだ。しかもこれが一度目ではない。 何度も粉塵に巻かれ、汚れきっていた。 アップにしているナチの髪も既に肩まで下がってきてしまっている。 スティングの綺麗な長い髪もキューティクルが失われ、くすんで見えた。 ―――――― す、スティング、そろそろやめようか・・・? ・・・・・・そうですね・・・。これ以上庭を破壊するわけにも行きませんし・・・ 「レイシェル、そろそろやめようか?ディクスも帰ってくるし・・・」 ナチが笑顔で言うと、レイシェルは急に寂しそうな顔をした。 「ナチおねえちゃん・・・あたし家に帰らないといけないのかな・・・?」 悲しそうに訊いたレイシェルに、ナチとスティングは顔を見合わせた。 ナチがかがんでレイシェルと視線を合わせる。 「大丈夫よ」 ――――― 多分ね・・・ ディクスがどこに行ったのかは分かっている。こんな時間になっても帰ってこないのだから、レイシェルの宮殿敷地内での滞在を許され、ディクスが夕方の買い物を楽しんでいるか・・・または、ディクスとレイシェルの家族がもめて時間を食っているか・・・どちらかであることが推測された。 ディクスのことだ。何が何でも自分の要求を貫き通すだろう。 「うん、大丈夫、絶対にね!」 もう一度ナチが言うと、レイシェルは微笑んだ。 くうぅぅっ・・・ いつの間に外に出たのか、セフィーロがレイシェルに甘えの声を出して顔をすり寄せた。 「くすぐったいよ、セフィーロ!」 レイシェルが嬉しそうにセフィーロをなでる。 「ディクス、帰って来ませんね」 「うん・・・でも、大丈夫よ。ディクスだもん。今頃きっと大量の買い物袋を抱えて家路を急いで・・・」 「ただいまーっ!!」 館の前にいる三人に大声で呼びかける声。 もちろんそれは大量の買い物袋を抱え、嬉しそうな表情のディクスだった。 |