D.Force The Third Chapter
Force-23
逃れるすべ
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昼間とは違い、夜はかなり冷える。 レイシェルは疲労で既に寝てしまっているが、ディクスとナチの二人は応接間の暖炉の前にいた。 「それでね、疲れ切ってるはずなんだけど術の威力があんまり落ちないのよ」 甘さ控えめのココアをすすりながらナチが言う。 「威力もかなりのものだし・・・」 「でも、攻撃系の術しか知らないんだろう?」 かなり甘いココアを口にしてディクスが訊く。 「うん、そうなの。例えば水のオーブを出現させてみせてって言ったんだけど、やっぱり発動したのは攻撃系の術。しかも限って爆発系なのよね」 「レイシェルが術を攻撃のものだって、固定観念を持ってるのは確実だな」 「そのレイシェルのお兄さん・・・えっと、シュミットさんだっけ。その人もなんかあるんでしょ?」 その話になるとディクスは難しそうな顔をする。 「それなんだよ。なんだかレイシェルの術に関して思うところがあるんだろうな。おれじゃ何の力になれないって言ってたし・・・」 「でも、絶対にレイシェルを一人前の術者にするんでしょ?」 「当たり前だ。このディクス・クロード、絶対にレイシェルを一人前の術者にしてやるさ」 言い切ると、ディクスはカップの残りのココアを飲み干し・・・そしてむせた。 「おはよう、レイシェル」 ディクスとナチよりやや遅めにレイシェルは起きてきた。まだ眠いのだろう、手の甲で目をこすりぼんやりとした表情で二人を見上げている。 「おはよう、ディクスおにいちゃん、ナチおねえちゃん」 「偉いわ、ちゃんと朝起きたら一番に服に着替えて」 先に起きていながら、まだパジャマのままのナチがレイシェルを褒める。すると何故かレイシェルは少し驚きの表情を見せた。 「ディクスおにいちゃんはナチおねえちゃんのこと怒らないの?」 今度は不思議そうな表情をしてディクスに問う。 「怒るって・・・どうして?」 「だって、あたしがパジャマのままで降りてきたら皆に怒られるの。女の子だからちゃんとしなさいって」 首をかしげるレイシェルにディクスとナチの二人は顔を見合わせた。 そしてディクスは視線をナチの頭から足の先まで一通り移す。 「パジャマ・・・だな・・・」 「そ、そうだけど・・・いつものこ・・・」 「こら、ナチッ!!お前はいつもいつも・・・」 「えっ!?はっ!?」 いきなり声を上げたディクスにナチも驚きの声を上げる。 「なんで起きたらすぐに着替えないんだ!女の子として恥ずかしくないのか!?」 「ディクスもパジャマ着たままじゃない!」 「俺は男だからいいの!早く部屋に戻って服に着替える!」 「ちょっ・・・じ、自分だけ・・・」 文句を言いかけるが、レイシェルの前ではそうはいかない。 ナチは仕方なく部屋に戻り、服に着替えることにした。 「俺の教育はいいのにあいつ言うこときかないんだよな〜」 自分もパジャマ姿のままで、ディクスは臆面もなく言う。もちろん今まで朝起きたらすぐに着替えろなどと、口うるさく言った事は一度もない。 確かにレイシェルの言った事は正しいだろう。 また、レイシェルは両親から言われていることは正しいと確信しているはずだ。家庭ごとに決まりの違いはあるが、レイシェルのそれをわざわざ壊すようなことはしたくない。 「と言うことで、俺も着替えてこようっと」 そしてディクスはいそいそと部屋に戻ったのだった。 ディクスもナチも服に着替え、そして朝食も済ませた。 それからすることといえば・・・ 「そう、そうそう!いい感じじゃないか!」 レイシェルの手の平で形を変える水の塊。ディクスの要求した球体には程遠いが、昨日からするとかなりの上達振りだ。 「ほ、ほんと・・・?」 自信なさ気だが、レイシェルは嬉しそうだ。 「なーんだ、やればできるじゃないか!」 するとレイシェルの手の平の水が少しずつ丸みを帯びる。そして・・・ 「お願い!」 レイシェルが祈る。反応するように水が完全な球体へ変化する。一瞬だけではあったが、ディクスもそれを確認した。 攻撃以外の初の術の完成だ。 ぱしゃんっ 水がはじけ、術が解ける。 「ディクスおにいちゃん、今のできたよね?」 頬を紅潮させ、興奮気味に言う。ディクスも満面の顔でうなずいた。 「ほら言ったろ?俺の手にかかればレイシェルは絶対に術が使えるようになるって!」 昨日は全く違う方向でレイシェルに術を教えていた。 それは、褒めるという教育法だ。 今まではプレッシャーを掛ける様な事しか言ってなかった。レイシェルも言っていた。両親には術に関して怒られてばかりだと。 叩けば伸びる子供いるが、逆に褒められて伸びる子供もいるのだ。 ディクスは後者に賭け、結果はこの通り。 「昨日は全然できなったのに。すごいぞ、レイシェル」 そしてレイシェルの頭をくしゃっとなでる。 これで一件落着―――――― かのように見えた。 どぉぉんっ 舞い散る粉塵。そして隆起した大地・・・・・・ その中心には息を切らしたレイシェルがいた。 ―――――― そう簡単には上手くいかない・・・ってか・・・ 再び術を暴走させたレイシェルに、ディクスは眉をひそめる。 レイシェルには再び同じ要求をした。水の球体を生み出す術を完成させろと言ったのだ。 最初の一回で成功できなかった。二回目も駄目だった。三回目も不発。そして四回目も・・・ これが何度も続いたのだ。 そして不発の術を発動しようとして十数回目。 レイシェルは術を暴走させた。 「ご、ごめんなさい・・・」 さっきの嬉しそうな表情一体どこに行ってしまったのか・・・今のレイシェルの表情は恐怖で満ちていた。 唇を震わせ、ディクスを見上げている。 「うん、大丈夫だ。焦ったんだろ?」 するとレイシェルはうなずいた。 「水のオーブを作ろうと思ったの。一生懸命作ろうと思ったんだけど・・・できなくて・・・頑張ったんだけど・・・」 かなり脅えている。 レイシェルが術を暴走させるまでディクスは静観していた。ただじっとレイシェルの様子を伺っていたのだ。 そして、ディクスが感じ取ったレイシェルの表情の変化。 最初の一回目の術の不発から最後まで。得意げな表情から焦り、そして恐怖へ・・・その変化はかなり顕著だった。 レイシェルは自分自身にプレッシャーをかけている。 そして自身がその事に気付いていない・・・。 「そんなの当たり前だろ?誰だって最初からできるやつなんかいないさ」 レイシェルの両肩に手を置き、安心させるように言う。 するとレイシェルはまた不思議そうな目を向けた。今朝、ディクスとナチに向けたものと同じだ。 「・・・・・・どうしてディクスおにいちゃんは怒らないの・・・?」 そして繰り返される質問。 「あたし・・・ちゃんとできなかったのに・・・」 困惑したその表情。 「だからできないのは当たり前なんだよ」 「どうして・・・?できなかったら怒られるのに・・・」 「それは間違ってることなんだよ、レイシェル」 そしてディクスはレイシェルの前にかがんだ。 「いいか、よく聞くんだ。術はできなくて当たり前なんだ。術ってのは何度も練習して、そして失敗するのが当たり前なんだ」 「でも・・・」 「でも、じゃない!」 声を荒げたディクスにレイシェルはびくっと体を振るわせた。 「要求された術を全て使いこなす?そんな術者がいるんだったら是非会ってみたいさ。そんなやつこの世にはいやしない。誰だって得意不得意、失敗成功はあるんだ。俺だってもちろんある。 自分にできないことを恥じるな、焦るな。全てをちゃんと受け止めろ。そして、絶対に術を極めてやるって特訓すればいい」 レイシェルは目をぱちぱちさせながらディクスから目を離さない。 「誰に何を言われようと自分自身が頑張ればそれでいいんだ」 レイシェルが暴走させる術・・・それはレイシェルの負の感情からだった。できない術を無理やり発動しようとして失敗することから生まれる焦りや叱責への恐怖。 それらに圧迫されたレイシェルは、自分が発動することができる唯一の術――――― つまり、攻撃術に逃げたのだ。 今、ここでようやく分かった。 レイシェルは術を攻撃のものとして固定観念を持っているわけではない、イメージをしていないわけではない。 自分の中に生まれた負の感情から逃れるための術(すべ)・・・それが今までの暴走の結果だった。 しかし、その暴走は決してレイシェルにいい影響を与えなかった。 攻撃術に逃げても、結局要求された術は完成することができなかったという劣等感は拭えず、さらに、攻撃の術に逃げることで周囲に与える影響。これによってさらにレイシェルは怒りの声を向けられた・・・。 周囲に認められなかったレイシェルは、また攻撃術に逃避する。そしてまた怒られ・・・ 全てが悪循環だったのだ。 「―――――― レイシェル、逃げるな。術は逃避の材料なんかじゃない。術は思いを力にすることができる。だけど、お前の本当の思いはこんなもんじゃないだろう?」 レイシェルの目にあふれ出す涙。 「ディクスおにいちゃん・・・あたしちゃんと術が使えるようになりたいよぉ・・・・・・ディクスおにいちゃんや、ナチおねえちゃんみたいになりたい・・・!」 ディクスの首にしがみつき、わんわん泣き出す。 「ああ、ちゃんと分かってるよ。レイシェルはただちゃんと術を扱えるようになりたかっただけなんだよな。 ―――――― ごめんな、お前をこんなにも追い詰めたのは俺たち大人だ・・・・・・」 本人が持つ力量以上のものを要求し、それに叶わなければ厳しい言葉を浴びせられる。 小さな子供が大人に反論する言葉などあっただろうか。 子供はただそれを鵜呑みにするしかない。褒められようと努力する。けれど、それが失敗に終われば、待っているのは再びの厳しい言葉。 子供にこれを耐えろと言うのがそもそも間違っているのだ。 攻撃術に逃げるという行為はレイシェルの唯一の自己防衛策。 「ごめんな・・・」 そしてレイシェルを抱きしめる。 それに応えるようにレイシェルは首を振った。 「―――――― だからさ、レイシェル」 しばらくそうしてディクスはレイシェルを向き直らせた。レイシェルの目はまだ赤い。 「見返してやろう?お前ならもっともっと伸びる。お前の家族に認められるようにさ。俺が付いてるから」 「うん・・・!」 目をこすり、レイシェルは答えた。 「おーっし!ちょっと早いが、昼飯だ!食べ終わったら早速特訓だぞ!」 あれからプレッシャーをかけても術が暴走することはなくなった。 それほどに子供は純粋なのだ。きっかけさえあれば良い方向に変わる事だって全然不思議ではない。 レイシェルの志が本当の意味で固まった今、ディクスから教えられる事、全てを吸収しようと必死だった。 もちろんそう簡単にこなせるものではない。でも、それでも良かった。 「ディクスおにいちゃん、今ちょっとできたよね?」 「本当にちょっとだけだけどな。まだまだ練習が足りなーい!こんなんじゃ日が暮れるぞ」 プレッシャーだって苦になどならない。 むしろ自分の意志を引き立てる要素。レイシェルも不思議なくらいそれを感じていた。 もっと術を使えるようになりたい、頑張りたい・・・! その強い思いが術に伝わったその時―――――― 「できたぁっ!」 いよいよ完成された水の球体。レイシェルの手の平の上でくるくると回っている。 それを見て目を丸くしたのがディクスだ。 「まさかとは思ったが・・・レイシェル、お前やろうと思えばちゃんとできるんだな・・・」 「すごいでしょ!」 「驚いた!すごいよ、レイシェル」 こんなに小さい子供が術を完成させるにはそれなりの素質が必要だ。 そしてレイシェルにはその素質が十分に備わっている。 「まずは一つ修得だな」 「うん!おにいちゃんも喜んでくれるかな?」 シュミットの事か・・・ 暗い影を落としていた彼を思い出す。 「ああ、きっと喜んでくれるさ。お前を応援してるぞ!」 そうディクスが言うと、レイシェルは満面の笑みを浮かべ、そしてさっき修得したばかりの術をさらに磨こうと、再び鍛錬に打ち込み始めた。 ――――― やっぱ、レイシェルの家の事情を考えたら・・・まだ一件落着じゃないってことか・・・? お節介なのは分かっている。けれど、今の家庭環境のままでは、レイシェルに少なからず悪影響を及ぼすであろう。当然術にも影響してくる。 「レイシェル、もう少し頑張ったらお前んちに行って、術見せてやれよ」 ディクスの言葉に振り返ったレイシェルの表情は今までになく自信満々だった。 「誰かに何を言われようとも、それを否定的に取るか、肯定的に取るかは言われた本人次第ですから・・・。レイシェルの場合は全てを負に感じてしまったんでしょうね」 結局自分は何も役に立たなかったと少し残念がっているスティングが言う。 「でも本当に良かったね!レイシェルが水のオーブを見せてくれた時には驚いたわ」 昼寝をしているレイシェルのそばにさっきまでいたナチも嬉しそうだ。 「ええ、まだあんなに小さいのに。ディクスもすごいですよ、短期間で百八十度がらりと変えてしまうなんて」 「いやー、俺も途中までは固定観念が術を暴走させてるんだろうと思ったんだけどさ。今までは自分の視点からしか考えてなかったけど、レイシェルの視点に合わせてみてようやく気付いたんだ。俺は基本的に褒めて才能を伸ばす主義だからなー、レイシェルの気持ちに気付くのが遅かったよ」 「褒める・・・って・・・わたし、術に関してはディクスに怒られっぱなしだった記憶が強いんだけど?」 「それは俺の愛情表現ってやつだ。ほら、可愛い子ほど旅をさせろって言うだろ?」 ナチの冷たい視線に当たり前のように答える。 「じゃあ、本当に一人で旅してもいい?」 「俺を倒したらな」 勝ち誇ったようにふふんっと笑ってナチに視線を向け・・・ 「なんだ、そのカナヅチは・・・」 口を引きつらせ、ナチが手にしているものを指差す。良く見れば隣にいるスティングもカナヅチを手にしてナチと同じように"構えて"いる。 「えー?ドメスティックバイオレンス?略してDV」 「家庭内暴力ってやつですね」 にっこり笑って答えるナチとスティング。ナチは良いとしても、何故スティングが参戦しているのかは不明である。 ディクスの頬に流れる一筋の汗。そしてそんなディクスに笑顔でカナヅチを握り締めている約二名。 「お、俺をDVしちゃったら、二度と美味しい料理が食えなくなるぞ・・・!」 必死の説得。そして流れる沈黙。 「それもそっか」 「それは惜しいですね・・・」 ディクスを殺ったら美味しい料理が食べれない・・・。 一人旅ができないのは残念だが、美味しい料理には代えられない。やや残念そうにカナヅチをテーブルに置いた。 「・・・・・・スティング、お前もそのカナヅチ、テーブルに置け!」 まだカナヅチを握っているスティングに、ディクスは緊張した声で言った。 「あはは、大丈夫ですよ。別に殴ったりしませんからー」 そして笑い、ようやくカナヅチがスティングの手から離れた。 ――――― こいつら何を考えてるのかさっぱりわからん・・・! 一人戦慄の走るディクスだった。 夕方になり、ようやくレイシェルが昼寝から覚めたようだ。夕日の差し込むホールに、眠い目をこすりながらやってきた。 「ぐっすり眠れた?」 ホールでセカンダリたちの世話をしていたナチが声をかけると、レイシェルは満足そうにうなずいた。 そして寝そべっているセフィーロに近づくと、その背中によじ登ってまたがる。 「レイシェルはセフィーロが好きなんだ?」 「セフィーロすごく優しいの!今度背中に乗せて飛んでくれるって約束したんだよ」 ――――― 約束って・・・ 「セフィーロがそう"言った"の?」 「うん!」 普段は警戒深いセフィーロだが、レイシェルには心を開いたらしい。恐らく術を通してレイシェルに呼びかけたのだろう。 「セフィーロもレイシェルのこと大好きみたいね。レイシェルが遊んでくれるからとても喜んでるのよ。あ、ほら、レクサスとアクオスも遊んで!って首伸ばしてる」 「レクサスとアクオスも大好きだよ」 擦り寄る二頭にレイシェルは嬉しそうに声を上げた。 しばらくそうして戯れていると、ホールにたまらなく美味しそうな香りがたち込めた。 「ディクスおにいちゃんが作ってくれてるの?」 「今日も美味しいもの作ってくれるわよ。厨房に行ってごらん。もしかしたら味見させてもらえるかも」 ナチに言われ、レイシェルはディクスのいる厨房に向かった。 重い扉を開くと、さらにいい香りがレイシェルを包んだ。 「うん?ああ、レイシェル、起きたのか」 突然の来客に、ディクスは手元のフライパンで炒め物をしながら言う。 「ディクスおにいちゃん、何作ってるの?」 「今日はシーフードカレー。今日は魚介類の特売日だったから、イカとか貝がたくさん入ってるぞー。カレー味見してみるか?」 レイシェルは嬉しそうにうなずく。 ディクスは隣の大きな鍋から小さな器にカレーを移す。まだ具は入っていないが、それをレイシェルに渡した。 「どうだ?」 十分に冷まし、レイシェルが味見する。 「美味しい!辛くなくて。早くご飯食べたい!」 「後もうちょっとな!だからホールでレクサスたちの相手してやってくれないか?」 「あたしもディクスおにいちゃんのお手伝いしたい!」 「花嫁修業はまだ早いぞー、レイシェル。俺はいいから、ナチの手伝いしてやってくれ。レクサスたちも喜ぶからさ」 やや不服そうではあったが、そう言われては仕方がない。 レイシェルは再びセカンダリたちの待つホールへと戻ったのだった。 ナチと一緒に風呂にも入り、レイシェルがすることといったら、後は寝るだけなのだが・・・ 「いいのか?ナチと一緒じゃなくて」 「今日はディクスおにいちゃんと一緒がいい」 今夜もナチと一緒に寝るものだと思っていたのだが、風呂に入り終えてからレイシェルはディクスのところにやってきた。一昨日はディクスを殴ってまでナチのところに逃げてきたと言うのにだ。 「まあ、いいけど・・・。じゃあ、俺はあっちのソファで寝るから、お前はそこのベッドな。広いけど、落っこちるなよ」 そう言ってソファに向けて歩きだした。・・・が。 「どうかしたか?」 「ディクスおにいちゃんと一緒じゃなきゃやだ」 ディクスのパジャマの裾をつかむレイシェル。 「やだ・・・って・・・俺と風呂入ろうとしたとき、お前、俺殴って逃げただろ」 「ナチおねえちゃんは一緒に寝てくれたよ?」 「そりゃそうだろうけど・・・」 困惑するディクス。 「眠くなっちゃったよー、早く寝ようよー!」 ディクスの手をつかみ、引っ張る。 「わ、わかったよ・・・。言っとくけど、俺、朝早いからな。起こすかもしれないけど怒るなよ」 レイシェルが先にベッドに入る。ディクスは部屋に明かりを消すと、続いてベッドに入る。 レイシェルの邪魔にならないよう背中を向け、できるだけ端っこに体を寄せている・・・ように見えるが、端っこに体を寄せて寝るのがディクスの癖だった。 ベッドの大きさはディクスには関係ないのだ。ベッドの端に寝られるか寝られないかが大問題だったりする。 「ディクスおにいちゃん・・・ベッドから落ちちゃうよ・・・」 「んー、大丈夫だ。いつもこうやって寝てるから。お前こそベッドから落ちるなよ」 壁際のレイシェルにどうやって落ちろと言うのか、ディクスはそう言い返した。 「・・・・・・」 こっちを向かないディクスに納得の行かない顔のレイシェル。布団にもぐりこむ。 「んっ!?」 何を思ったか、ディクスの背中にぴったり寄り添うレイシェル。それに気付いたディクスは半身を起こした。 「お前は人肌が恋しいのか・・・?」 ディクスの言ってる意味が良く分からないのだろう、レイシェルは何も言わなかった。 ディクスに背中を向けているが、相変わらず寄り添っている。 「仕方ないなぁ・・・」 ため息をつくがまんざらでもないらしい。レイシェルをそのままにディクスは再びベッドに身を落ち着けた。 「レイシェル、一つだけ言って置きたいんだが・・・」 「なぁに?」 「人には得意不得意があるって言ったろ?俺にもあるし、レイシェルだってきっとある。これから術を学んでいく上で、かなり難しい術に直面することがあると思う。でも、それができないってのは全然おかしいことじゃないんだぞ」 背を向けたままディクスは言う。 レイシェルは寝返りを打ち、ディクスの背中に目を向けた。 「一つの術にこだわらないでたくさんの術に目を向けるんだ。そしてその中で得意な術を見つけて伸ばしていけばいい。少なくとも今は無理するんじゃないぞ」 まだ小さいレイシェルには難しい言葉かもしれない。けれどレイシェルは力強くうなずいた。 「じゃあ、大人になったらたくさん術を勉強したい!」 「そ。それでいい!もし、どうしても術ができなくて不安になっても暴走させるなよ」 少し体をレイシェルに傾け、そう言った。 「もう大丈夫だよ。だってディクスお兄ちゃんが教えてくれたもん」 「よしよし、レイシェルはいい子だな」 「・・・・・・ディクスおにいちゃん大好き!」 ディクスに抱きついたレイシェル。 微妙な体勢ではレイシェルの不意打ちに対抗できず・・・ ぐきっ! ディクスはベッドから落下した。 |