D.Force The Third Chapter
Force-25
結ばれる絆
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それでもやはり、ディクスは夕食に手を抜かなかった。 今日は、サーモンの野菜あんかけ。とろりとしたソースにたくさんの温野菜が絡まっている。 やや厚切りにしたサーモンは、バターと小麦粉で比較的濃い味に仕上がっているが、さっぱりとした野菜のあんがその濃い味を程よく消してくれる。 ディクスの創作料理だ。 「レイシェル、野菜、残すなよ」 歯切れ悪く言うディクス。 スティングにマッサージされた後遺症が残っているのか、体の動きがぎこちないらしい。 たまに、料理を口に運ぼうとして痛みに顔をゆがませたり、咀嚼していて動きが止まる事があるのだ。 「ディクス・・・やっぱり後でマッサージしなおしますよ・・・」 ディクスのぎこちなさは自分のせいであると分かっているスティングが申しわけなさそうに言う。 だが、ディクスは必死の形相で首を振った。 「もう、絶対に、お前には頼まない!」 ぴしゃりと言われ、スティングは残念そうな顔をした。 「大体お前が・・・!」 言いかけるが、背中に走った痛みに、ディクスは沈黙した。 「――――――スティングだってディクスのためにやったのよ。怒らない、怒らない!後でわたしがマッサージしてあげるから、タダで」 声も出せずに、ディクスは無言で何度もうなずいた。 「ディクスおにいちゃん、わたしもマッサージしてあげるねー」 楽しそうに言うレイシェル。 「・・・レイシェルは優しいんだな・・・」 「じゃあ、やっぱり僕もマッサージ・・・」 「お前は帰れ!!」 レイシェルの優しさにほだされていたディクスは、スティングに思いきりそう叫んだ。 「言いすぎだったのよ!ほんっとうに気が利かないんだから!」 文句たらたら、ナチはディクスの背中を懸命に押していた。どんなに強く押してもスティングの比ではない。 程よい気持ちよさに、ディクスは満足そうに息を付いた。 「仕方ないだろ?めちゃくちゃ痛かったんだぞ!スティングのやつ思い切り力入れやがって・・・」 "帰れ"宣言されたスティングは、その後、かなり肩を落として帰ってしまった。 ナチが何度もフォローを入れたが、その落ち込みぶりは酷かったらしく、ほとんど会話もすることなくスティングは行ってしまったのだ。 「だから、スティングはディクスのためにやったんでしょ?ディクスのわがままをスティングは聞いてくれたのよ。感謝しなさいよね!」 思い切り力を入れたつもりだが、ディクスには気持ち良い程度のようだ。 「だってあいつが・・・」 「素直に感謝なさいっての!スティングはディクスと違って純粋なんだから、帰れって言われた時、すごいショック受けてたんだよ。自分のことしか考えてないんだから」 「・・・・・・」 「明日ちゃんと謝って、お礼言いなさいよ。そうじゃないと、スティング、一生落ち込んだままよ。マッサージごときが発端で、未来のエンドレスに影響があったらディクスのせいだからね」 「わ、わかったよ・・・わかったからさ・・・」 「何よ」 「もーちょっと右下、うん、そこら辺・・・ああ、もう少し左気味で・・・」 細かい注文を付け始めたディクス。すぐそばで本を読んでいたレイシェルに、ナチは手招きした。 ――――― ここのところ、こちょこちょしてごらん? ナチはディクスの両脇を指した。レイシェルは元気よくうなずくと、腕を両脇に伸ばす。 そして――――― 「ぎゃははははははっ!!!!」 笑いの急所である両脇腹を同時にくすぐられ、ディクスは笑い声を上げて身をよじった。 「ひっ・・・はっ・・・な、ナチ!!!」 笑いに、目の端に涙をためてディクスは後方をにらんだ。 「・・・・・・ん・・・?」 「ディクスおにいちゃん、笑ってくれた!」 いつの間にかそこにいたレイシェル。嬉しそうに声を上げた。 「今のは・・・レイシェル・・・?」 「さあ、レイシェル。もっとくすぐったら、ディクス喜ぶから、ほら!」 ナチはレイシェルを抱き上げると、突っ伏したままのディクスの背中に乗せた。 「ディクスおにいちゃん、楽しそう!」 そして、両わき腹をくすぐるレイシェル。 「いやぁぁぁぁっ!!!」 レイシェルが背中に乗っていては、振り落とすこともできず・・・ディクスは、くすぐり地獄に絶叫したのだった。 爆笑の一夜も開け、暖かな日差しの元、ディクスとレイシェルはデルタの町を歩いていた。 ディクスの手をしっかり握って歩くレイシェルはとても楽しそうだ。 「おにいちゃん、見てくれるかなぁ?」 「その前に、家にいてくれるといいんだけどな」 さっきから浮かれっぱなしのレイシェルに、苦笑しながらディクスが言う。 いよいよ、完成した術を見せにレイシェルの家に向かう時が来たのだ。シュミットに褒めてもらうのを夢見ているのだろう、朝からレイシェルはテンションが高かった。 「見えたー!」 自分の家の屋根が見えると、レイシェルは手を離して走って行ってしまった。 しかし、レイシェルとは反対に、ディクスはやや緊張した面持ちだ。 ―――――― 果たして、シュミットのやつはレイシェルを認めてくれるかどうか・・・ 前回の訪問の時、シュミットに感じられた影をディクスはずっと気にしていたのだ。 ・・・・・・レイシェルんちは何かと複雑みたいだからなぁ・・・ 「願わくば、レイシェルの両親もいますよーに!」 手を叩き、ディクスは祈るように言うと、レイシェルの後を追って自分も走り始めた。 「ディクスおにいちゃん、遅いよー」 門の前で待ちぼうけのレイシェルが口を尖らす。 「悪い悪い」 笑いながら言い、ディクスはインターホンを押す。 しばらくして、家の中から出てきたのは・・・・・・ 「レイシェル!」 「おかあさん!」 レイシェルの母親だった。 「まあ、そうでしたか。レイシェルがお世話になって・・・」 応接間に通され、紅茶を勧められながらディクスは今までのいきさつの全てを話した。 レイシェルの母親、ディアナの隣で、レイシェルが嬉しそうに寄り添っている。ディアナの顔を見上げては、嬉しそうに笑っていた。 「な、レイシェル。お母さんに術を見せるために頑張ってきたんだろ?」 ディクスが術の発動を促すと、レイシェルは元気よくうなずき、ソファから立ち上がる。そして、ディアナからよく見る場所に移動すると、手の平に意識を集中した。 ゴポッ 水が生まれる音と共に、レイシェルの手の平に水が出現した。完全な球体のそれは光を反射し、輝きながら回転している。 それを見て驚いたのがディアナだ。レイシェルと、球体を交互に見て口をパクパクしている。 「れ、レイシェル・・・・・・あなた・・・」 「ここまでできるようになったんだよ!」 相変わらず術を発動しながら、レイシェルは満面の笑みをディアナに向けた。 信じられないと言った様子のディアナ。娘がこんなにも成長したことに驚きを隠せないのだろう。わずかに濡れた目を拭うと、レイシェルの前に立った。 「本当によく頑張ったわね」 そして、抱きしめた。 「おかあさんに褒めてほしくてディクスおにいちゃんと頑張ったんだよ」 「ええ、ええ、わかっているわ。あなたは本当に優秀な子ね、レイシェル」 レイシェルの頭をなでながら、ディアナは感激に涙している。 「でもね・・・」 レイシェルはディアナから体を離した。 「おにいちゃんにもあたしの術、見て欲しいの」 「シュミットに・・・?」 無言でうなずくレイシェル。 一瞬神妙な表情を見せたディアナだが、すぐに笑顔に戻る。 「そうね、妹であるあなたのほうが優秀ですもの。シュミットにも、あなたの成長振りを見せてあげて?」 親子のやり取りを見ていたディクス。本来なら手を叩いて喜ぶべきなのだろう。 だが、ディアナの言葉に、ディクスは眉をひそめた。 ―――――― やっぱり・・・この母親の愛情の基準は優秀さってことか・・・? 確信はないが、これまでのいきさつも含めると、そう考えざるを得ない。 「おにいちゃんはどこ?」 「シュミットなら、部屋にいるわ。行って見せてあげなさい」 レイシェルがシュミットのところに行くのを余り感心しないのだろうか。ディアナの表情はやや怪訝なものだった。 「行ってくるね!」 レイシェルはディクスに視線を送り、一緒に来るよう促した。 「そうだな、お前が一番見せたがってたのはお前の兄貴だったもんな」 笑い、ディクスは立ち上がってシュミットがいる部屋へと向かった。 たくさんある部屋の一室の扉をレイシェルが叩く。 「おにいちゃん、レイシェルだよ!」 シュミットの返事を待たず、レイシェルは重い扉を開け、部屋をのぞいた。 一人にしては広すぎる部屋。端のほうにある、机にシュミットはいた。 「レイシェル!」 いきなりやってきた妹に驚いたのだろう。シュミットは声を上げ、立ち上がった。 「どうしてここに・・・」 「おにいちゃん、あたし、術が使えるようになったんだよ!」 シュミットに駆け寄り、レイシェルが笑顔を向けた。 しかし、そんなレイシェルにシュミットは冷徹な視線を送っただけだった。 そして扉の手前に立っているディクスを見て眉をひそめると、ため息をついて机に戻ってしまった。 「おにいちゃん・・・」 やはり冷たい態度のシュミット。術さえ見てくれない・・・と、レイシェルは悲しげな表情をシュミットの背中に向けた。 それを知ってか知らないでか、シュミットは何も言わず黙々と本を読んでいる。 「シュミットさん」 たまらずディクスが声をかける。 「レイシェルはあなたに術を見せるために今まで頑張ってきたんだ。いきなり入ってきたのは悪いが・・・少しの時間でいい。レイシェルの術を見てやってくれないか?」 ディクスの言葉にシュミットがわずかに反応する。 だが、何も返しては来なかった。 「・・・・・・」 泣く事こそしなかったが、レイシェルは残念そうだった。何度もシュミットに声をかけようとするが、シュミットの物言わぬ姿勢に怖じている。 そして、ディクスに顔を向け助け舟を求めるが、ディクスもどうしていいやら分からない。無理強いなどして怒りを買われては、それこそ状況が悪化しかねない。 肩をすくめ、部屋から出ようとレイシェルに手招きをする。 納得がいかない様子のレイシェルだったが、このままここにいても仕方がないと分かったのだろう。とぼとぼとディクスのところにやってきた。 「忙しいんだってさ。だから、暇な時にまた来ればいいさ」 「うん・・・」 元気付けられるように肩を叩かれるも、レイシェルはシュミットの背中を見ている。 そして二人が部屋を出ようとした時だった。 「あら、シュミットはいないの?」 階段を上がってきたのは、トレイに人数分の茶を用意したディアナだった。シュミットの部屋にいるディクスたちに持ってきたらしい。 タイミングを失い、ディクスとレイシェルは部屋から出れずに、新たに部屋に入ってきたディアナと共に部屋に入りなおす。 「シュミット、お茶よ」 部屋にある小さなテーブルに茶を並べながらディアナが言う。 だが、シュミットは背中を向けたまま無言だ。その様子にため息をつくディアナ。 「シュミット、あなたレイシェルの術を見たの?」 反応するようにわずかにシュミットの肩が動いた。 「レイシェルはあなたより小さいのに、もう術を完成させたのよ」 「おかあさん、もういいの。おにいちゃん忙しいから・・・」 やや怒り口調のディアナに、取り繕うようにレイシェルが言う。 「いいのよ、レイシェル。シュミットは怠けてばかりなのだから」 すると、シュミットはいきなり立ち上がり、部屋から出ようとした。もちろん誰にも視線をくれず、無言のままで。 「シュミット・・・いい加減になさい!どうしてあなたは素直に言う事が聞けないの?レイシェルを見習い・・・」 みな言い終える前に、ディクスがディアナをさえぎった。 「シュミットさん。ちょっと話があるんだが」 「私はあなたに話しはありませんが?」 ようやく話してくれたものの、ディクスに顔を向けず、シュミットは言った。 「く、クロードさん・・・?」 「ちょっと応接間を借りますね」 ディアナに笑いかけ、ディクスは嫌がるシュミットを引っ張るようにして応接間に向かった。 「おにいちゃん・・・大丈夫かなぁ・・・」 「本当に仕方がない子ね。あなたみたいに優秀だったらいいのに・・・」 当たり前のように言ったディアナ。そんな彼女を、レイシェルは疑問のまなざしで見上げたのだった。 無理やり応接間に入れられたシュミットは、かなり不機嫌な様子でソファに腰をかけた。 そして、外を見遣ると、そのまま無反応になってしまった。 ―――――― ったく・・・もし、これがナチだったらとび蹴りかましてるところだな シュミットの態度を見てディクスが思う。だが、こんなところで短気になっている場合ではないのだ。 お節介の名に懸けて、ディクスはこの家の問題を解決するのだ。 「なあ、シュミットさん」 「・・・・・・」 無反応。 「レイシェル、頑張ったんだぞ。ずいぶん悩んだ挙句に、やっとレイシェルは術を手に入れたんだ」 ディクスの言う事から耳をそらすように、シュミットは体勢をずらす。 「レイシェルが術を暴発させるの知ってるだろう?じゃあ、その原因は何だったか知ってるか?」 そこまで言うと、シュミットはやや反応を見せた。ディクスに一瞥をくれると、すぐに視線をそらしてしまったが。 「レイシェルが今まで術を暴発したのは、レイシェルが爆発術に逃げていたからなんだ」 「逃げていた?」 初めて訊き返したシュミットにディクスはうなずいた。 「ああ。今のあんたと同じだよ」 あごでしゃくった。 当然ながらシュミットはあからさまに怪訝そうな顔をした。 「レイシェルはプレッシャーをかけられると、自分が唯一扱える術である、爆発系の術に逃げたんだ。周囲からのプレッシャーや、自分に対する劣等感、焦り・・・・・・それらのストレスから逃れるために、レイシェルは術を暴発した」 「それがおれと何の関係が?」 口調が荒い所を見ると、かなり怒っているようだ。 「逃げてるだろ?」 「はぁ?」 「術から逃げてるだろ」 「・・・・・・」 「別にレイシェルが嫌いなわけじゃない、反抗期なわけでもない・・・。術に対する恐怖から逃げてるんだろう?だから、レイシェルが術を扱えるようになるのを恐れた。それがレイシェルを遠ざける原因・・・いずれ自分を超えるだろう存在が恐かったんだろ?」 「べつにおれは・・・」 「自分で、術への限界を決め付けてないか?」 「それは・・・・・・」 言いかけて口をつぐんだ。 「レイシェルは言ってたぞ。術が扱えるようになりたいって。両親や・・・特にあんたに褒められたいから術を修得したいって。だからレイシェルは自分の壁を打ち破って、本当の術を扱えるようにまでなれた。気付いてるだろう?術は可能性の宝庫なんだよ。それなのに、あんたは全てのチャンスを無駄にしている。せっかくの素質は備わっているのにな」 黙って聞くシュミットがいた。唇をかみ、視線を落として静かに聞いている。 「レイシェルは、あんたが目標なんだ。ずっと言ってたんだぞ、"お兄ちゃんに見せたい"ってな」 「・・・・・・あいつは・・・」 悲しげに目を伏せ、眉を寄せる。 「レイシェルは幸せなんだ・・・」 胸の内を語るようにぽつりと言う。 「両親から怒られる?結構なことじゃないか。ほうっておかれ、将来を諦められている人間を考えてみろよ。どんなに惨めか。おれはその典型なんだよ。おれはもう、可能性を断たれた人間なんだ」 静かに言うも、その言葉の一つ一つには怒り、絶望が渦巻いていた。 レイシェルがうらやましかった。だが、それ以上に、自分の劣等さに腹を立てていたのだ。 「レイシェルが親に怒られるのを見ているのはつらかった・・・。だから、どれだけ助けに行こうと思ったか分からない。だが、親からすればおれは劣等の塊なんだよ。おれが介入する隙なんてなかった。 別に術から逃げてるわけじゃない。学校ではそれなりに優秀な成績を修めてるつもりだ。だけど、わかってるんだ・・・その術力の源は劣等感と怒りだってこと・・・」 悲しげに語ったシュミット。 やはり、シュミットもレイシェルと同じケースだった。負の感情を術にたたきつけた・・・違うのは、その感情によって発動された術を制御できたか、否かの違いだ。 親の期待から弾かれたシュミット。シュミットはシュミットの悩みを抱えていたのだ。 「おれだってどうにかしたいと思ってる。けど、無理なんだよ。どうにかしようと思えば思うほど、焦って、何も思いつかなくて・・・だから、レイシェルや親を無視したんだ。そうすれば、何も考えずに済む。楽になれるから」 両手の平で目を覆う。 泣いているのかはわからない。だが、シュミットは深く息をつき、そのまま黙ってしまった。 「レイシェルの術、見てやってくれないか?」 ディクスが静かに問う。しばらく返事をしなかったが、シュミットはわずかにうなずいた。 「有難う。すぐに連れてくるよ」 そしてディクスは一時その部屋を離れた。台所にいたレイシェルを見つけると、一緒に応接間に戻る。 「おにいちゃん・・・」 不安そうな声でシュミットを呼ぶ。 返事こそしなかったが、シュミットは少し困惑した表情をレイシェルに向けた。 「ほら、術。見せてやるんだろ?今までそのために頑張ってきたんだからさ」 背中を押すとレイシェルはうなずいた。そして、シュミットが座っているソファまで近づく。 シュミットは無表情でレイシェルを見ている。何も話さないシュミットを不安に思いつつも、レイシェルは術の発動に専念した。 水が流れるイメージ、その水が円を描いて球体になって、中にくるくると回っているイメージ・・・・・・ 何度も何度も練習した。だからすぐにできるはずだった。 なのに―――――― 「あれ・・・?」 なかなか発動できずにいるレイシェル。シュミットを前にして緊張しているのだろうか。 球体どころか、水すら出現しない。 「ちゃんと、できるのに・・・」 やや焦った様子で言う。もう一度、もう一度・・・ だが、結局レイシェルの手の平に水の球体が出現することはなかった。 悲しげな表情を見せるレイシェル。そのレイシェルを見つめているシュミット。 すると、シュミットは立ち上がり、レイシェルの前に膝を着いた。 無言でレイシェルの手をとる。 「もう一度試してみて。おれがサポートするから」 真剣な表情でうなずくレイシェル。そして、再び発動に力を込める。 やはり、術を完成できないでいるが・・・ レイシェルの手の下に手を重ねていたシュミットは、精神を集中するように手の平に力を込めた。 すると・・・・・・ シュルッ 水が出現し、球体に仕上がったのだ。 「!」 それに驚いたのがレイシェルだ。今までは全くできなかったのに・・・ ぽかんとした表情でシュミットを見ている。 「ほら、出来ただろう?」 ほんの少し笑みを浮かべ、シュミットは言った。 その様子を見ていたディクスも驚いた。 ―――――― ほぉー・・・レイシェルの術を導いたのか・・・ 先ほど、シュミットはレイシェルの手の平に自分の手を重ねていた。恐らく、その時、レイシェルの術を導き、発動を促したのだろう。 相手の精神の状態を読み取り、尚且つ、発動する術を正しく導くと言う芸当はかなりの高等技術だ。 悔しいが、ディクスも持ち合わせていない。 「できたな」 シュミットが言うと、レイシェルは少し首をかしげた。 「でも、あたし一人の力じゃないよ」 心配そうに言い、シュミットを伺い見た。もしかして怒られるのではないかと不安らしい。 「いや、紛れもなくお前の術だよ、レイシェル。おれはその発動を促したに過ぎない」 「うん・・・・・・」 「よく頑張ったな、レイシェル」 レイシェルの頭を軽くなでる。叩かれるのではないかと、体を堅くしたレイシェルだったが、兄の優しい感触に緊張の糸が切れてしまった。 「おにいちゃああん!」 シュミットにしがみつき、大声で泣くレイシェル。 「ごめんな、レイシェル。今までつらく当たって・・・おれ、今までお前からも、術からも逃げてたんだ。臆病だよな」 レイシェルを軽く抱きしめる。 「でも、お前のおかげで立ち直れそうだ。おれにも、術を頑張ろうって気が湧いて来たような気がするよ」 涙や鼻水やらでぐすぐすのレイシェルだが、それから避けようともせずシュミットはレイシェルをさすった。 「有難う・・・」 「おにいちゃん・・・」 しがみついたままレイシェルは言った。 「あたしのこと、許してくれる・・・?」 「許すも何も・・・お前は悪いことしてないだろう?」 「でも、あたしがいたから、おにいちゃん怒られてた・・・」 両親の意図は分からずとも、自分のせいで兄が怒られていたのはわかっていた。ナチや、ディクスには兄は褒められていると嘘をついたが、それはレイシェルの中の兄の偶像だった。本当はそうであって欲しいと願っていた。 ところが、自分が術を完成できないから兄が怒られ、挙句の果てに、兄からも避けられて・・・ レイシェルは自分のせいだとずっとそう思っていたのだ。 「あたし、おにいちゃんと一緒にいたかったの」 兄と一緒にいたかったから、両親からどんなに怒られてもめげることなく術に励んだ。 ディクスに、術を教えて欲しいと頼み込んだ。 父親や、母親に褒められるよりもずっと望んでいたことだったのだ。 「ずっとおにいちゃんに嫌われてるんだって、そう思ってたの」 嗚咽を漏らしながらも懸命に訴える。 シュミットは黙って聞いていたが、レイシェルの背中を一つ叩くと、レイシェルを抱き上げた。 「もう大丈夫だ。おれも、レイシェルも一人じゃないから」 言い、少し離れた場所で二人の様子を見ていたディクスに目を向ける。 「有難う・・・クロードさん」 シュミットが初めて礼を言う。態度の変わったシュミットにちょっと面食らったディクスだが、笑顔でうなずいた。 シュミットは、レイシェルに胸の内を打ち明けるきっかけがなかった。自分の中の思いを自分の中に閉じ込め、そしてそれらが負担となり、今までレイシェルを避ける結果になってしまった・・・。 だが、思いを告げることで、ようやくシュミットとレイシェルにあるべき兄妹の絆が繋がったのだ。 「おにいちゃん、もういいよ」 レイシェルが言うと、シュミットはレイシェルを降ろした。 手で目をこするとディクスを見る。 「ディクスおにいちゃん、ほんとうにありがとう!」 まだ、目が赤かったが、レイシェルは満面の笑みでディクスに礼を言った。 「どういたしまして!」 ディクスも笑いかける。 ―――――― ふー、これで本当に落着かな? レイシェルとシュミットの兄妹の絆が確かめられた今、ディクスの役目は終わったのだ。 レイシェルに関するこれからの全ては、シュミットが手を焼いてくれるだろう。 そう思うと、少し寂しい気もした。 ところが――――― 「まぁ、レイシェル!そんな顔してどうしたの!?」 応接間にやってきたディアナ。 「シュミット、あなたがやったのね?」 すごい剣幕で迫る。 解決していない最後の課題。 そう、全ての発端である、彼らの両親だった。 |