D.Force The Third Chapter
Force-3
特例という名の戦い
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「ディクス・クロード。あなたに特例を与えましょう。一週間後、あなたにはある人と戦ってもらいます。その戦いに勝てばマスターの称号を認めます」 この前のような広間ではない。応接間にディクスとナチはいた。 アルバート、スティング、フィオールのほかに回復したエリオスもいた。 「マスターの称号を・・・」 ディクスはアルバートを見て信じられないという表情をしている。マスターの称号の取得には最低二年はかかる。その間に様々な知識を自分で身につける。しかし、数ヶ月しか経っていないディクスにアルバートは取得のチャンスを与えようと言っているのだ。 「その、私の戦う相手とは?」 ディクスが問うとアルバートはゆっくりと目を閉じた。 「スティング!」 「はい!」 呼ばれたスティングは返事をして一歩前に出る。 「スティング、お前に一週間与える。その間にディクス・クロードに勝つための策を練っておけ」 その言葉にスティングはもちろんディクス、ナチ、エリオスも驚いている。フィオールも心配そうだ。 「あ、兄上・・・!」 「スティング、お前も優秀な術者を目指しているんだろう?こんな生ぬるい宮殿にいたのではいつまでたっても目指すものにはなれない。手抜きは許さない、全力で戦え」 冗談ではないようだ。威圧的な口調でスティングに言い放つ。しかしスティングは納得のいかないと言った様子だ。こぶしを硬く握り締め、唇をかんでいる。 「クロードさん。これでどうでしょう?スティングに勝てばマスターの称号を特別に付与します。悪い条件ではないと思いますが」 マスターの称号は欲しい。けれど戦う相手が仲間だとなると話は別だ。 ディクスもスティングも共にハイレベルな術者だ。その力がぶつかれば必ずどちらかが・・・いや、どちらも傷つくだろう。そしてどちらかが片方を負かさねばならない。 「兄上、ならばスティングの代わりに私がやりましょう。クロードさん相手にスティングではぼろぼろに負けるのは目に見えてます。それに、彼は一度全力で戦ってみたい相手ですし」 エリオスが一歩出てアルバートに進言する。しかし、アルバートは首を振った。 「駄目だ。スティングでなければ意味がない」 受けるか、拒否をするか・・・はっきりと返事をしなければならないようだ。 「・・・俺は・・・」 「私は受けて立ちます。これからのエンドレスを担うもの。戦い一つで怖気づいては務まりません」 決心のつかぬディクスとは対照的にスティングはそう言った。先ほどの戸惑いが嘘のようだ。真剣な眼差しをアルバートに向けている。 「・・・・・・クロードさんはいかがされますか?」 今度は自分が返事をする番だ。スティングはああ言っている。自分に遠慮しているのだろうか。 「ディクス、僕は負けるつもりはありません。数々の困難を術で切り抜けてきました。ディクスにとっても取るに足らない相手ではないと思いますが?」 しかし自分の考えとは反対の挑発的なスティングにディクスが眉をひそめる。 ・・・・・・・・。 「――――――― 僕に負けるのが怖いというなら別ですけどね・・・」 「お前・・・」 口元をゆがませたスティングにディクスの怒りがふつふつと湧き上がる。 「兄上、それからもう一つ条件があります」 スティングがアルバートに向き直る。 「なんだ?」 「万が一・・・ディクス・クロードが私に勝つようなことがあったら、彼の妹のマスター承認の権限を彼に与えて欲しいのですが?」 「権限を・・・か?」 「ええ。まさか兄上とて女性に戦わせるなどという特例は与えないでしょう。・・・私と戦って勝った暁のボーナスとしてつけ加えていただきたいのです」 そしてディクスに視線を移す。ディクスは険しい表情でスティングを見ている。 「そのボーナスは俺がお前に勝てないと見込んで・・・か・・・俺もずいぶんなめられたもんだな」 ふっと息をついてディクスがやれやれといった様子でそう口にする。 「そうか。そこまでの自信があるなら認めよう。正直彼女に対しての特例はどうしようか迷っていたところだ。それで、クロードさん。この条件でいかがでしょう?」 するとディクスはうなずいた。 「アルバートさん、素敵な特例を有難うございます。この特例をありがたく受け入れたいと思います・・・」 そしてスティングに向き直る。 「―――――― 俺の本気を見せてやるよ」 「・・・楽しみにしてます」 にらんだディクスにスティングは微笑んだのだった。 「それでは一週間後。演習場で行いましょう。それまでお互い策を練ってください」 緊張で張りつめた部屋で、ただ見ているしかなかったナチをあとに、その特例は発動することとなったのだ。 「スティング!!」 部屋から出て、それぞれが別の場所に向かおうとした時だった。館に帰ったディクスとは逆にナチはスティングの後を追った。 「何であんなこと言ったの?ディクス神経図太いけど・・・でも、傷ついた顔してたんだよ!?」 スティングの言葉に一瞬だけ表情を変えたディクスの顔をナチは見逃していなかった。仲間からあのような言葉が出るとは思っていなかったのだろう。ナチも同じだ。 「ナチ・・・」 「わたしだって・・・スティングなら断ってくれると思ってた。だけどあんな挑発的なこと言うなんて・・・確かにスティングのお兄さんは偉い人かもしれないけど、そこで断って欲しかった!―――――― 仲間だからって・・・そう断って欲しかった」 そして悲しげにうつむいた。 「―――――― すみません・・・でも、ディクスを焚きつけるにはああいう方法しか知らなくて」 「たきつける・・・?」 訝しげに言うとスティングが困惑した表情を見せながらもうなずいた。 「不謹慎だと言われそうですけど、僕、前々からディクスと本気で戦ってみたいと思ってたんです」 そしてナチに背を向けた。 「僕もディクスやナチと同じように優秀な術者を目指しています。でも、この狭い宮殿じゃレベルの高さは知れてます。ディクスやナチに会うまでは正直おごっていたところがありました・・・」 「・・・・・・」 「だからディクスという術者を見て衝撃を受けたんです。こんなに高レベルな術者もいるのだと。そのときからです、その術者と戦ってみたいと、そう思い始めたのは。ディクスの本気も見てみたい、けれど何より、自分の術者のとしての限界値も知りたかったんです」 「限界値・・・」 「さっきは万が一ディクスが勝てたら・・・みたいないい方してましたが、あれは本当は自分自身に向けるべき言葉だったって分かってるんですよ」 ―――――― そして、戦い一つで怖気づかないようにと自分を奮い立たせるための言葉であることもわかってるんです 心の中で付け加える。 そして再びナチのほうを向く。 「挑戦するのはディクスじゃない、むしろ僕のほうなんです。命知らずですけど。兄上も分かっているはずです。僕にとってディクスは高すぎる壁だと。特例って言ってましたけど、本当は僕に対しての試練なんです。ディクスやナチには思い切り迷惑かけてて本当に申し訳ないんですけど・・・」 「スティング・・・」 「ディクスもきっと分かってると思いますよ。だって付き合いは短くとも信頼はありますから!」 そう言って笑みを浮かべる。 「・・・でも、やっぱり言い方がきつかったですかね?もっと温和な言い方もあったかもしれませんが、どうしても見つからなくて。語学力不足ですね」 そして照れ笑いしたスティングにナチもつられる。 「そっか・・・そうだったんだ・・・」 ・・・・・・あの言葉はそういうことだったんだ・・・スティングがディクスを傷つけるようなこと分かっててするはずないもんね・・・思い切り勘違いしちゃった・・・ 安堵したナチをスティングが見つめる。 「ごめんね!そうだよね!スティングそんな人じゃないし。演技がうまかったからわたし完璧にだまされてたみたい。ほんと、グレースの時以来ね」 「それは言わない約束ですよ。それに演技がうまいのはディクスも同じですしね」 スティングが苦笑する。 「でも本当に良かった。わたしって馬鹿ね、なんでも鵜呑みにしちゃうから・・・・・・スティング、頑張ってね」 あんまり頑張ってもらっても困るけど・・・ 「ええ、有難うございます」 「―――――― じゃあ、わたし戻るね。この制服もちゃんと洗って返すから」 ナチが着ている制服をさす。 「それは二人とも自分で持っていてください」 「えっ・・・でもこれって借りたやつだよ?それにこの服使うこと無いだろうし・・・」 この三日間のためだけに用意された服だったのだ。その三日間が過ぎればもう着ることはないだろう。 「今回みたいに頼むことがあるかもしれません。ですから大事に持っていてくださいね」 「アルヴィス国が関わらない仕事ならねー!」 笑いながらナチはそう言ったのだった。 部屋に誰かが入ってきた。深々と礼をすると男に近づく。 「御耳に入れたいことがございます」 そう告げ、彼はことの次第を話す。 全てを聞き終わり、男は満足そうにうなずいた。 「――――――― そういうこともいいだろう。その日が楽しみだな」 「不謹慎ですよ。私はあまり納得が行きませんが・・・」 「たまには刺激も良いだろう。私も最近刺激が足りぬと思っていたところだ。して、今夜だが・・・」 男が意味ありげに彼を見上げる。すると彼は慌てて首を振った。 「またですか!?この前はなんとか乗り切ったとはいえ・・・今回こそばれるなどということになったらそれこそ一大事です!それに、もうこりごりだとおっしゃったじゃないですか!」 悲痛に語るも、男は嬉しそうに笑っただけだった。 「それが刺激というものだよ。この歳になると楽しみというものがなくてな。この狭い部屋に閉じ込められる私にも少しくらい面白みを与えてくれ」 彼に反対する言葉はない。ただうなだれて、了解するしかなかった。 がやがや・・・ 夜の酒場は町一番の大賑わい。大きなテーブルがたくさん並ぶその一角で、数名の院生が酒を交わしていた。 「ほほうっ!それは棚からぼた餅じゃ!末裔から直接特例を言い渡されるとはディクス殿は意外と侮れんのー」 フィルジアが半分あけたビールのジョッキを片手に嬉しそうに言った。 「はー・・・普通に生きてるオレって一体なんなんだろう・・・?」 その隣で空になったジョッキを持っているスレイドが憂鬱そうにつぶやく。 「これでも頑張ってるんだけどなー」 ジョッキをあおろうとして、中身がないのに気づき、近くの店員に次のビールを頼む。 「でも、その三日間本当に大変だったんだぞ!自分の仕事が完全に果たせなかった分、その特例は大きすぎる賞だとは思うが・・・」 でも、相手がな・・・・・・ 戦う相手スティングのことを思う。多分簡単には決着はつかないだろう。 あいつ結構向きになるタイプだしなー、切れたら怖いし・・・ 悶々と考えながらビールをあおる。 「スティング王子じゃったの。面識はあるのか?」 「い、いや・・・面識といってもその特例を言い渡された時に一度だけ」 フィルジアの質問に嘘をつく。間違っても"旅をしていた仲間なんです"などとは言えない。 がたんっ 「おっと・・・」 スレイドが隣に新たに座った二人の客にぶつかられ声を上げる。 「おお、すまぬな」 その二人の客はスレイドに謝ると彼らの席に着いた。 「わしも直接目に入れたことはないが・・・現国王と同じ緋色の美しい瞳に銀色の髪を持っておるらしいの。過保護に扱われているせいで民衆の前に姿を現したのはスティング様が生まれた時と継承認定式の時だけじゃ」 「それだけ聞くとなんか弱そうだよなー、いかにも箱入りって感じだしよ。細いもやしってやつ!!」 酒が入っているスレイドは自分で言った言葉に大爆笑だ。フィルジアもつられて大笑いしている。ディクスは顔を引きつらせて笑った。 ―――――― 俺もあいつに会うまではそう思ってたよ・・・ 「まあ、ディクスには取るに足らない相手だろ?勝てばマスターの称号もらえるんだから頑張れよ!」 がちゃん 持っていたジョッキをディクスのジョッキの口に重ねる。 「あ、ああ・・・最善を尽くすよ」 「この国の王子と戦うとは・・・何年生きていてもないことじゃ!」 そして同じようにフィルジアともジョッキを交わす。 「その王子ってのを負かしたら王室お抱えの従者になるかもな!大出世だぜ」 「楽しみじゃの〜」 そういって二人とも勢いで残りのビール全てを一気飲みしてしまった。 そして――――― 「んがーっ!!」 「ぐぅぅ」 二人はつぶれて寝てしまったのだった。 「誰が勘定すると思ってんだよ・・・!」 テーブルに突っ伏して動かない二人にディクスが苦々しくつぶやく。 「あ、いたいた!」 背後の聞きなれた声に振り向く。すると人ごみを掻き分けているナチがいた。 「あらら、フィルジアさんとスレイドさん完全につぶれてるわねー」 ディクスがついているテーブルでダウンしている二人にナチが気づく。 「お前こんなところまで一人出来たのか?」 「うん、だって暇だったんだもん。どうせこの酒場にいることは分かってたし。ここ美味しいもんねー!」 言いながら空いている席に着く。 「んじゃ、わたし、"豚の角煮"と、"海藻の和え物"!あと、フレッシュジュースねー」 「ったく・・・」 しぶしぶディクスが新しく注文する。すると先にフレッシュジュースが運ばれてきた。 「何、スティングと戦うこと話してたの?」 ジュースを口に含みながらナチが言う。 「ああ。未来の国王と戦うことになったって言ったらえらく騒ぎ出して・・・で、結果がこれ」 ディクスがあごでしゃくった先には爆睡している二人がいた。その手にはジョッキが握られたままだ。 「そりゃあ・・・わたしたちが最初にスティングに会ったときは王子さまだってこと知らなかったし。気づけばいつもとなりにいる存在だったもんね。フィルジアさんや、スレイドさんからしたら凄く変に感じるんだろうけど」 「んー・・・やっぱりそうだよな。俺たちからすれば"大国エンドレス第一王位継承候補者、俗称スティング・S・G・エンドレスの、引きこもり根暗女装王子"だけど、普通は"白馬の王子様"だもんな。お前もそう言ってたよな」 「ディクスは"箱入りで太ってる"だったわよね?」 「細かいとこは覚えてるんだな・・・」 「お互い様でしょ」 ・・・・・・・・・・・・・。 ディクスとナチの会話に聞き耳を立てている人物がいた。付き添いのものが気にしないようにという言葉を無視して、耳をそばだてている。 「しかし、スティングのやつ・・・」 「スティングがどうかしたのかな?」 隣のテーブル。先ほどスレイドにぶつかった客だった。白髪交じりの頭に、青い瞳、そして細身・・・には見えるが意外に肉付きのいい理想的な中年と言ったところだ。 昔はもてていただろう。 「へっ・・・?」 通路越しに、ブランデーを片手にこちらを向いている。 「この国の王子の話をしてなかったかと思ってな。スティングと聞こえたのだが・・・?もしかして君たちは王宮お抱えの何かかな?」 グラスの中の氷を転がしながら親しげに話しかけてくる。 「あ・・・ああ、俺たち院生なんだ。それちょっと色々あってな」 本当のことを言うわけには行かない。ディクスはあいまいに笑ってごまかす。 「ほう!君たちは院生か!若いのに偉いな」 ナチはというと注文した料理をつまみながら二人のやり取りを眺めている。 「わしも若いころは術に専念してな〜、飛行術なるものを修得しようと必死だったのだが。結局この齢を重ねても実現できなかったというわけだ。もう一度君くらいに若い時代に戻れたら今度こそは修得するんだがなー」 悔しそうに語りながらグラスを半分開けた。 見た目はそんなに歳に見えないが話し振りは歳を感じさせる。見た目特徴のギャップに少々違和感もありだ。 「飛行術・・・か。俺も凄く修得するの苦労したよ。毎日傷だらけで」 そういってビールに口を付けようとしたディクスの腕をその男がつかんだ! 「あわわわっ!!」 勢いでビールが床にこぼれてしまった。 「君は飛行術が使えるのかっ!!なんと言う奇遇、なんと言う幸運!!君のような研究熱心な術者をエンドレスは欲しているのだ!!」 ディクスの肩をばしばしたたきながら嬉しそうに言う。 そしてあっけにとられているディクスの隣に椅子を持ってくるとディクスの肩に手を乗せて語り始めた。 「そうか、君は飛行術が使えるのか・・・このエンドレスでもそれを取得した術者は少ない。わしも一度しか見たことないのだよ。そのような貴重な人材がこんな酒場で酒を飲んでいるとは。この国ももったいないことをするな」 そして豪快に笑った。 ―――――――― こんな酒場で飲んでて悪かったな・・・ ビールをこぼされたディクスは憮然としている。 「うむ?なーんだ、ビールをもう飲んでしまったのか!若いとはいいことだな!うはははっ!」 さっき自分が原因でこぼしたことに気づいていないらしい。ジョッキを一気飲みをしたと勘違いしたその男は近くの店員を捕まえた。 「おい君、ビールをたくさん持ってきてくれ!テーブル一杯にな!」 「えっ!?」 ディクスが声を上げる。するとその男はびっと親指を立てた。 「さあ、遠慮するな!これはわしからのプレゼントだ!若いのにけちけちするなー、貪欲さがなければ修得したい術を使えんぞー、さあ、君もどうだ?」 「えっと、わたしお酒飲めないんです・・・」 グラスを突きつけられナチが困惑する。 「ふむ、そうか・・・ならば何でも頼むが良い!見た所、まだ二十歳行ってないようだな、若者には栄養が必要だ!おーい!このメニューの料理、片っ端から持ってきてくれー!」 「えええぇぇぇっ!?」 ナチが大げさに驚いたのを見て男は嬉しそうだ。 「そうかそうか、そんなに喜んでくれて嬉しいぞ!若者は素直なのが一番いい!わしの息子みたいにはねっかえりではいかんのだ」 「へえ、息子がいるのか」 「うむ。もちろんだ!やや複雑ではあるがわしには・・・」 「慎んでください」 いつの間に背後にいたのか、男の連れがそう耳打ちした。 「お、そうだったな。すまぬ、つい・・・」 彼はうなずくとテーブルに戻って行った。男は恥ずかしそうに頭をかいた。 「ところで、名を聞いてなかったな。わしはイルクだ、よろしく頼むぞ」 名前を告げるとディクスの手をがっしりと握った。 「俺はディクス、ディクス・クロード。あっちは妹のナチュラル」 「妹か!初めはこれかと思ったのだがな。金の髪と碧眼がよく似ているわけだ」 小指を立て、一人で納得している。 銀色の長髪で赤目の誰かさんと同じようなことを言っている。 「ところでな、さっき"大国エンドレス第一王位継承候補者、俗称スティング・S・G・エンドレスの、引きこもり根暗女装王子"といっておったな。どういう意味なのだ?」 「えっ!?あ、ああ・・・ただ、なんとなく・・・見た目で・・・」 ディクスがうやむやにするように新しく来たビールをごくごく飲みながら言う。するとイルクは深々とうなずいた。 「確かに、"大国エンドレス第一王位継承候補者、俗称スティング・S・G・エンドレスの、引きこもり根暗女装王子"といわれてもしかない。長い髪に、母親によく似た女の顔立ち・・・身長を低くしてやれば女と指されても文句はいえんだろう」 スティングをよく知っているような口ぶりで言う。 「スティングを見た事あるのか?」 「当たり前だ!わしはこれでも王室にゆかりのある人間なんだぞ!」 えへんとふんぞり返るように言う。しかし、貫禄は全くなしだ。硬そうな王室ではあるが、こういう人間もいるらしい。 「それに、第一子のアルバート、第二子のフィオール、第四子のエリオス・・・皆面識があるぞ。伊達に長く王室にはおらん。わしにエンドレスの知らぬことはないわ!!」 わはははと笑う。イルクの付き添いがその様子を見て頭を抱えている。 「もう、エンドレスのことはどうでも良い!さあさあ、飲め飲め!飲まねばテーブルから零れ落ちるぞ!」 ダンッ ビールのジョッキを手にして一気に飲み干す。そしてテーブルにたたきつけた。 見た目に反した素晴らしい飲みっぷりだ。 「ほら、アーネス!お前も飲まぬか!こういうときに息抜きはしておきべきだぞー!」 テーブルのあふれんばかりのジョッキと料理をアーネスが座っているテーブルに乗せていく。 「い、いえ・・・わたくしは・・・」 「わしの言うことが聞けぬのか・・・?飲め」 ジョッキを鼻に突きつけられる。仕方なくアーネスはジョッキを手にした。 「それでこそわしの優秀な部下だ!ほらー、お前も飲め〜!」 ディクスのほうに真っ赤な顔を向け、がばがばビールを飲み始めたのだった。 そう、ディクスがつぶれて再起できなくなったそのときまで・・・。 |
