D.Force The Third Chapter
Force-4

Erios


こんこんっ
扉を叩く音にセカンダリの世話をしていたナチが気づく。
・・・スティングかな?
「はいはいはーい!ちょっと待って、鍵かかってるの!今すぐあけるからー!」
セカンダリたちの元を離れ、扉の鍵を開ける。
「スティング、今日は来ないって・・・あ・・・」
しかし予想に反してそこにいたのは――――――――
「こんにちは。この前はありがとう」
笑みを浮かべたエリオスだった。
「エリオスさん!元気になられて良かったです」
突然の訪問に驚きながらも回復したエリオスに喜ぶ。
「本当は兄上が特例を言い渡した時に礼を言うべきだったんだが・・・言いそびれてしまって。だから日を改めて礼を言いに来たんだ」
「兄・・・ですか?」
ディクスに用事があるのだろう。しかしディクスは・・・
「今寝こんでるんです・・・」
ナチが気まずそうに視線をそらして言う。
「体調を崩したのか?」
「え、ええ・・・そんな感じです。昨夜お酒を飲みすぎちゃって。それで二日酔いみたいなんです」
「そうか。でも二日酔いなら心配することはないな。数日後にスティングとの試合があるし・・・今のうちに体を休めておいたほうが良いだろう」
「多分今日の夕方まで降りてこないと思います。相当参ってるみたいですから」
苦笑しながら言う。
あの後・・・結局ディクスもダウンしてしまったのだ。イルクは相当酒が強いらしい。自分もがばがば飲みながらディクスにも勧めていたのだ。その結果、当然つぶれることとなり、イルクの付き添い、アーネスの呼びかけで数人の部下を呼んでまでディクスを運んでくれたのだ。もちろんとなりでつぶれていたフィルジアやスレイドも一緒だ。
別れ際、ナチは何度頭を下げて謝ったか分からない。
「なんだか宮殿に仕えている人らしくて。兄のことを凄くほめてたんです。それにすごくお酒好きみたいで兄もつられて。見た目に反して豪快な人でした」
「宮殿に仕えている・・・?誰だろう・・・?」
「付き添いの人もいたんですよ、名前は・・・」
言いかけたとき後ろからセフィーロが小突いた。そしてナチの服のすそを引っ張り、かまってくれとせがむ。
「こーら、セフィーロ!大事なお客様が来てるんだからだーめ!」
しかしセフィーロは離さず、ぐいぐいと引っ張っている。
「ご、ごめんなさい・・・」
「あはは、いや、いいよ。セカンダリがナチュラルのことを好いている証拠だ」
ナチたちのやり取りを見て笑う。
「エリオスさん、これから時間ありますか?」
引っ張るセフィーロを何とか押さえながら訊く。
「時間・・・?ああ、一応明日までは公務は入ってないが・・・」
「じゃあ、お茶飲んでいきませんか?せっかく来て下さったのに兄が顔を出せずに申し訳ないですし。それに・・・」
「"兄特製のクッキーがある"・・・とか?」
「残念です!今回はケーキなんですよ」
お互い笑いながら言う。
「じゃあ、頂くよ」
「是非!セフィーロたちいますけど、中に入ってください」
セフィーロを押さえ、エリオスが中に入った。入り口すぐそばの応接間にエリオスを招く。
「すみません、ちょっと待っててください。すぐに持ってきますから」
そう言うとナチは小走りに厨房のほうへ行ってしまった。
応接間に一人きりになったエリオスは飾りと化している暖炉の上の写真立てに近づく。
古い写真のようだ。
幼い少女と男が写っている。ナチとディクスだ。
ナチはだいぶ幼いようだが、ディクスは今とほとんど変わらない。髪が少し短いくらいだろうか。二人で大きな湖の前で楽しそうにしている写真。その写真たての隣のものも同じだった。
兄妹で嬉しそうに食事をしている写真。さらにその隣。美しい浜辺をバックにディクスとナチ、そしてスティングが肩を組んでいる写真があった。
―――――― 確か旅の途中でラグーンに寄ったとか・・・
実はスティングが内緒で旅をしていた事実を知っているエリオスは特に驚くこともなくその写真立てを元の場所に置いた。そして、他の一つの写真立てを手に取った時だ。
ギィッ
扉が突然開きはっと顔を向ける。
顔をのぞかせたのはナチではなくセフィーロだった。狭い扉から顔だけを出して中の様子を伺っている。
ナチを探しているらしい。
「君のご主人様なら厨房にいるよ」
写真を手にしたままセフィーロに言う。しかし、主人の居所を教えられたセフィーロはそのまま応接間に入ってきた。
そしてエリオスの隣に身を落ち着ける。顔を寄せて手に持っている写真を覗き込んだ。
「主人だってわかるのか?」
訊くとそうだとでもいうように鳴いた。
「賢いんだな」
あごをなでてやると気持ちよさそうに目を細めた。
ガチャッ
「お待たせしましたー」
両手がふさがっているせいで扉を開けないナチは肩で開けるようにして入ってきた。
「あ、こら、セフィーロ。エリオスさんの邪魔しちゃ駄目よ」
エリオスにぴったりくっついているセフィーロをしかる。
「大丈夫、セフィーロは何もしていないよ」
写真立てを元の場所に戻し、ソファに座る。
ナチはエリオスの前にティーカップを置くと、美しい緋色の紅茶を入れた。
その隣に甘い香りを放つケーキを置く。等間隔に切られたパウンドケーキ。中にはドライフルーツがちりばめられていた。そのフルーツと、ケーキのバターの香りが一緒になって見た目の美味しさをより一層引き立てていた。
「レクサスとアクオスにもあげたからセフィーロも、はい」
少し大きめに切られたケーキを手に乗せて差し出す。セフィーロは口で器用にそのケーキをくわえると、もぐもぐと食べた。
「いただきます」
ナチも席に着いたのを確認して、エリオスはまず紅茶を口にした。
紅茶自体に濃い味はない。しかし、その香りが口の中に広がり、味わいを感じさせてくれる。これもディクスのお手製なのだろうが、こんなに薫り高い紅茶もそう口にすることは滅多にない。
ナチも紅茶を一口飲んでほうっと息をついた。
「なんか・・・のどかですよね。ずっとこんな時間が続いていたらって思います」
リラックスしたように言う。
「でも、そうも言ってられないからな・・・」
「そうですね。普段が忙しいからこんな時間が貴重で楽しいんですよね」
たしなめられたような気がして、ナチが反省したように言う。
「ところで、あの写真だが・・・」
エリオスがナチの後ろの暖炉の上を指差す。
「あ!あの写真まだ置いたまま・・・!・・・って、ごめんなさい。あの写真わたしが小さい頃の写真です。多分リスタルに来たばかりの頃の写真だと思うんですけど」
エリオスが指差したその古い写真。リスタルの大きな湖でディクスとナチが写っているものだ。
ナチが立ち上がってその写真が入っている立てを手にする。
「わたしは覚えてないんですけど、最初は泣いてばかりだったそうです。なれない環境だって、どこかで感じていたんでしょうね。今では故郷だって、決め付けちゃってますけど」
苦笑して席に戻る。そして写真をテーブルの上に置くと、ティーカップを手に口をつけた。
「本当の故郷は?」
かちゃん
ナチは持っていたカップをテーブルに置いた。
「本当の故郷は―――――― 竜神が最後に力を振るった町・・・ディスティールです」
わずかに沈黙を置き、ちょっと困惑した顔で答える。
そういえば、エデンを追ってセフィーロに乗ったナチがやってきた時。
人を生き返らせるといわれていた術、リバースの話題になったその時・・・
"―――――― ええ、わかってます。ただ・・・ただそういう術もあるんだなって。おとぎ話じゃないんだなってそう思ったんです。前はそんな術はないかって必死に探した時もあったけど、けど、もうわかってますから"
そう、悲しげに言っていたことを思い出す。
恐らく必死に探したのは竜神によって亡くした両親のためだろう。
「すまない。無神経に訊いてしまって・・・」
「いえいえ!とんでもないです!それに今幸せですし。院に入る前にエルダスに行ったんですけど、そのときにディスティールに寄ったんですよ。さすがに何もなかったですけどね!」
「そうか・・・もしかして君の兄上がフォースを探しているのはそれも関係あるのか?」
立ち入ったことだとは分かってはいたが敢えて口にする。するとナチはうなずいた。
「ええ、多分・・・。でも、探している本当の理由は――――――
「フォースを行使できる自分の力を解明するため・・・」
ナチの言葉をエリオスが代わりにつむぐ。
「そして私はその力に助けられた・・・」
「今はもう大丈夫だとは思うんですけど、兄はそのことを疎んじている部分がありました。変わり者の兄ですけど、やっぱり人と絶対的に違うところがあると不安に感じるみたいで。フォースの力を行使できる能力を持っているって知ったのも、妹のわたしでも最近なんですよ」
「そう・・・か。迂闊だった。私がしっかりしていればクロードさんに迷惑をかける事もなかったというのに」
「違います!それはわたしがいたらなかったから・・・!」
主張したナチの腕をセフィーロが優しくくわえた。
ナチがはっとしてそのほうを見る。
「セフィーロ・・・ごめん、その話はもうしない約束だったね・・・」
思わず腰を浮かせていたナチはゆっくりとソファに身を落ち着けた。
自分を責めるなとでも言うようなセフィーロにどこか寂しげに微笑む。
・・・また、あの悲しげな表情・・・
知っている表情に思わず手を止める。
ナチと話した機会は数少ない。けれどどうしてだろうか。エリオスはナチの悲しみの表情をよく知っている・・・
「・・・・・・私はナチュラルに悲しい思いをさせてばかりだ・・・」
・・・君には、笑っていて欲しいのに――――――
セフィーロをなでてやっていたナチが顔を上げる。
――――― エリオスさん・・・
「絶対にそんなことありません!だってわたしは兄に負けないくらい立ち直りが早くて無神経なんですから!」
胸を叩いて威張るように言う。
「誰だってつらいことはあります。でも、それを思い出さないようにするのはわたしは好きじゃありません。だってわたしの人生なんですから。そのつらいことを後で笑って、昔話が出来るように、今頑張ってるんです」
「本当に、前向きなんだな」
「ええ、あの兄の妹ですから!」
得意げに言った。
「ふふっ、私とは正反対だ」
「そんなことないです。・・・余計なことかもしれないですけど、わたしがエリオスさんに初めて会った時と、今のエリオスさん、なんだか違って見えますよ」
・・・えっ・・・
「なんだか・・・今のエリオスさんのほうがずっと素敵です」
恥ずかしそうに言って、写真を戻そうと立ち上がった。
「・・・有難う・・・」
君のおかげだ、ナチュラル・・・
心の中で一言付け加える。確かにエリオスは変わった。しかも、ここ数日で急激に。
自分でも何かが変わったような気はしていた。でも、それが嫌ではなかった。
そのきっかけはおそらく―――――――
ナチを視線で追う。
「ちょっとセフィーロどいてね」
かたんっ
ナチが写真を元の場所に戻す。そして何気に他の写真に目を向けたときだ。
――――――― ああああっ!!!!
ばたんっ
衝撃的な出来事に写真立ての一つを倒してしまう。
「どうかしたのか?」
「い、いえ!!あはは、なんでも・・・!」
顔を引きつらせて否定する。
こっ、これラグーンで撮った写真だっ!!
ナチを動揺させた写真。ラグーンの砂浜でスティングを加えた三人で撮った写真。堂々と、他の写真同様飾られていたのだ。
どうしよう・・・!?気づいて・・・ないわけないよね・・・?
その問題の写真について何も言わないエリオス。ナチはひやひやしていた。
ナチからすれば、エリオスが自分やディクスとスティングの関係を知っているはずがないのだ。
でも・・・スティングを探して初めて宮殿に侵入したとき、エリオスさんわたしがスティングのこと探してるの知ってる感じだったけど・・・でもでも!それは関係ないわ・・・!うわー、ディクスの馬鹿あぁぁっ!!
音を立てないようにその写真をふせる。そして何食わぬ顔で席に戻った。
「ところで・・・」
「はいぃっ!?」
「スティングだが・・・」
き、来た・・・やっぱり来た・・・絶対あの写真のこと訊かれるって・・・
「私がさっきこの館に来た時スティングと間違えたようだが・・・あいつはここによく来るのか?」
「へっ・・・?」
「私をスティングが来たのと間違えなかったか?」
嬉しいばかりの予想に反する質問に心の中でガッツポーズをとってしまう。
「え、ええ!アクオスの様子を見によく来るんです。普段はわたしたちが世話してるんですけど、昼間はできるだけかまってあげるってアクオスに訪ねてくるんですよ」
思わず早口で答える。
「そうか・・・。じゃあ、どうして・・・」
「はい?」
いいかけてやめる。"どうしてスティングと知り合ったのか?"と訊いてしまいそうになったのだ。
ディクスとナチの旅にスティングがついてきたということまでは知っているが、どういう経緯でそうなったのかはずっと疑問に思っていたことだった。しかし、そんなことを訊けばナチが動揺するのは分かっている。
これ以上ナチを困らせまいと、エリオスは慌てて口を閉ざしたのだった。
・・・・・・それにさっきラグーンでの写真を伏せたくらいだし・・・
何も知らないふりをしつつ、ナチがその問題の写真に気づいて焦っている様子をちゃっかり見ていたのだ。
「いやっ・・・えっと・・・このお茶美味しいよ。このバウンドケーキに良く合うね」
苦し紛れにそうつないだ。
「そうですか?そういってくれると兄も喜びます。料理が美味しいって言ってもらうのが一番嬉しいみたいですから」
そしてケーキをほうばる。
・・・危なかった・・・
内心動揺しつつ、エリオスは紅茶を飲み干した。


「くそっ・・・まだぼうっとする・・・」
だるそうに頭をかきながらディクスが降りてきた。
「どう?朝よりはマシになった?」
「ああ・・・少しはな。でもまだ、頭はもやもやするしなんか胃もむかむかだし・・・なんであんなに飲んだんだ・・・」
「次回からは気をつけてよね」
ディクスは重い足を引きずりながらホールのソファに座る。
「なあ、さっきスティング来なかったか?」
「ああ、スティングじゃなくてエリオスさんよ。ディクスにお礼を言いたくてわざわざ来てくれたんだけど、ディクス寝てたから。せっかくだからパウンドケーキ食べてもらったの」
「あのパウンドケーキ!?」
ディクスが急に立ち上がる。そしてさらに痛くなった頭を抱えて座り込んでしまった。
「・・・・・・食べちゃいけなかった・・・?」
「パウンド・・・ケーキは・・・作ってから五日後以降に食べるのが、常識だろ・・・!」
頭を抱えながら言う。
「日をあけて食べたほうがパウンドケーキは美味しいんだ!」
「・・・・・・あ、そう・・・」
呆れながらディクスの向かい側に座る。
「そんなにきつい?」
―――――― きつい・・・」
つぶやくように言う。するとナチは立ち上がり、ディクスの額に手をあてた。
ぽうっ
ナチの指先が光る。ほんの数秒そうして、手を離した。
「少しはよくなったでしょ?」
「あー、お前のこの術効くなー。うん、だいぶ良くなった!」
術で痛みを緩和されたディクスは嬉しそうに伸びをした。
「お茶煎れようか?」
「ああ、頼むよ」
そういうとナチは厨房に行った。
ディクスは立ち上がると長時間寝ていた体をほぐすようにストレッチを始めた。
それから数分後―――――――
「はい、どうぞ」
「ありがと」
ナチがいれてくれたティーカップを手にする。それだけで落ち着くような気がした。
「エリオスさんと何はなしたんだ?」
「えーと、応接間の写真のこと。ディクス!スティングと三人で写ってた写真も飾ったままだったでしょ!エリオスさん何も言わなかったけど、わたしすごく冷や冷やしたんだからね!!」
ナチが怒ったように言う。しかしディクスは困惑した表情を見せた。
「でも、その写真に気づいていようといまいと・・・エリオスさん多分、俺たちとスティングが旅をしていたこと知っているはずだ」
少し声のトーンを落として言う。そんなディクスにナチは疑問のまなざしを向けている。
「ほら、ネストでスティングと別れただろ?お前は寝てたから知らないだろうけど、あのときデルタに帰らなきゃいけない理由がエリオスさんにあるような言い方してたんだよ」
あの夜のことを思い出す。
"まさか・・・エリオスか・・・?"
スティングの焦りの声がリフレインする。ライアはそれを否定しなかった。そのときのディクスはエリオスを知らなかったが、そのエリオスという人物がスティングのことをかぎつけて旅のことを暴露しようとしているのは容易に理解できた。
「そんな・・・まさか・・・!」
「でも実際、敵対しているような感じじゃないか」
「そんなことないわ!エリオスさん良い人よ!そりゃあ・・・自分の気持ちに素直になりきれないところあると思うけど・・・でも、そんなことするような人じゃないわ」
「俺には、スティングの第一継承を狙っているようにしか見えないけどな」
「ディクス!」
ナチが非難の声を上げる。しかしディクスは訂正しようとしなかった。
「別に嫌いなわけじゃない。そのことをエリオスさん自身が望んでやっているわけじゃないこともわかってる。でも、きっかけになったのは事実だろう?」
「それは・・・・・・」
「多分、エリオスさんの取り巻きがスティングの継承権を狙ってるんだろう。その行為が直接エリオスさんが手を下しているように見える・・・と、俺は考えてるだけだ」
そして紅茶を口に入れる。
「・・・・・・スティングが言ってたことがあるの・・・。
・・・王位の継承候補争は醜い骨肉の争いだ・・・って。会話することさえままならなかった・・・って」
ナチが視線を落として言う。
「多分、エリオスさんのことだろうな・・・」
ナチもそれを否定できなかった。
「・・・・・・・・・」
生まれる沈黙。どちらもそれを破ることが出来なかった。
すると、向こうで寝ていたアクオスが突然顔を上げる。そして扉のほうに近づいた。
「・・・アクオス、どうしたの?」
ナチが声をかけるが、アクオスは扉の前に座った。そして扉を叩く音。
「スティングですけど!」
ディクスとナチが顔を見合わせた。


三人で応接間にいる。
しかし、そこにあったのは沈んだ空気だった。
――――――― 多分、従者のナーシャのせいでしょう・・・」
そして持っていたカップをテーブルに置く。
「極端ですが、僕らの環境は従者にゆだねられます。たとえば僕の従者が"この部屋から出るな"って言えば、出ることができなかったんです。今はそんなことありませんが、小さい頃はそれに従うしかありませんでしたから・・・」
昔、エリオスがナーシャに他の兄弟と話してはいけないといわれた・・・と、つぶやいていたのを思い出す。
「ナーシャはいろんな手で第一継承権をエリオスに与えようとしていました。でも、その行為がエリオスを僕たちから離す結果になったんです」
「・・・お前がネストでデルタに帰った理由も・・・そのエリオスさんのせいというわけはなくて、むしろその従者のせいなんだろ?」
スティングはうなずく。
「ちょっと感情の表現が下手ですけど、でもエリオスはいいやつなんですよ。彼の母上もとてもお優しい方ですし。それに、僕がこのデルタに無事に帰ってこれたのも実は彼のおかげなんです」
「どういうこと?」
ナチが訊く。
「兄上にこういったそうです、"第一王位継承権は我が内にある"って。ちょっとびっくりするような言い方ですけど、でも、これはエリオスなりの助け方だったんです。早くスティングを連れ戻さないと継承権が剥奪されるぞ!ってね。
もちろん、僕も、兄上や姉上も分かっています。だから、エリオスのこと大好きなんですよ」
そう笑った。
「でも・・・エリオスがその従者をやめさせれば・・・」
ディクスの言葉にスティングは首を振った。
「僕がレイルやライアを大事にしているように、ナーシャだってエリオスにとっては大事な存在なんです。従者は幼い頃から共にいてくれる存在です。言い変えれば親のようなものですから」
「そうか・・・」
「別に落ち込むような話じゃありませんよ。誰もエリオスのこと誤解してませんし。それに最近エリオスが変わってきてるんですよ。ね、ナチ」
「え、あ。うん」
スティングにいきなり話を振られ、ナチは慌ててうなずいた。
「前は僕たちといるのを避けてたんですけど、ここ最近特に避けようとしなくなったんです。エリオスが寝込んでいる時だって姉上がすごく世話を焼きたがって。エリオス恥ずかしそうだったんですよ。それが何だかすごく新鮮で」
スティングは本当に嬉しそうに言う。
「うん、わたしもそう思うの。エリオスさん最近スティングたちと一緒にいるの見かけるなって。それにエリオスさん良く笑ってくれるし・・・」
「じゃあ、このまま良い方に向かってくれると良いな」
「ええ」
笑みを浮かべ、スティングはうなずいた。
「スティング、アクオス見に来たんでしょ?」
「それもあるんですけど、ディクスに言っておこうと思って・・・」
「ん?」
口に大き過ぎるパウンドケーキを詰めているディクスがスティングに反応する。
「戦い・・・というよりは試合ですけど、僕も一生懸命頑張りますから、ディクスも頑張ってくださいね」
声が出せないディクスはうんうんうなずいた。
「二人とも大怪我しないようにねー」
人ごとのようにナチが紅茶をすすりながら言う。
「僕帰りますね。ちょっと寄ろうと思っただけですから」
そういうと、スティングは残りの紅茶とケーキを食べ、立ち上がった。
「うん、また明日ね」
のどを詰まらせてもがいているディクスを置いて、ナチはスティングの後に続いた。
そして入り口の扉を開ける。
「じゃあ、僕これで帰りますね」
「うん!気をつけてね」
うなずいてスティングは歩き出した。
「スティングー!」
ナチがスティングを呼び止める。
「試合が終わったら、あのチュウカ料理作ってあげるから楽しみにしててねーっ!!」
「ええっ、楽しみにしてますーっ!」
手を振っているナチにスティングは嬉しそうに返したのだった。



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